訴状に対する被告の認否の対比 - 青学地球社会共生学部無効確認等訴訟

訴状に対する被告の認否の対比
20150601 作成
※訴状記載の主張及び事実に対する被告の認否を、対比して整理しました。
Ⅰ.訴訟概要
○裁判所:東京地方裁判所民事第 1 部合 2 係
○番号:平成 27 年(ワ)第 9806 号
青山学院大学地球社会共生学部設置無効確認等請求事件
○原告:小島敏郎(青山学院大学国際政治経済学部教授)
代理人弁護士
酒田芳人(弁護士法人シン法律事務所東京オフィス)
○被告:①青山学院大学地球社会共生学部設置無効確認請求について、
青山学院大学(代表者学長仙波憲一)
②損害賠償請求について
仙波憲一(青山学院大学学長)
代理人弁護士
松田政行(森・浜田松本法律事務所)
山口建章(弁護士法人
内田・鮫島法律事務所)
山崎貴啓(山崎貴啓法律事務所)
雨宮真歩(雨宮眞也法律事務所)
碓氷正志(雨宮眞也法律事務所)
石黒清一朗(石黒法律事務所)
坂生雄一(弁護士法人
AK法律事務所)
斎藤信子(小山法律事務所)
斎藤北写(日比谷ともに法律事務所)
以上 9 名
○訴状(原告)提出年月日:平成 27 年 4 月 8 日
○答弁書(被告)提出年月日:平成 27 年 5 月 22 日
Ⅱ
訴状(原告提出)に対する答弁書(被告提出)での認否
≪訴状目次≫
○原告
第1
請求の趣旨
第2
請求の原因
はじめに
1
1
当事者
2
青山学院大学における新設学部の設置に係る学則改正手続き
(1)新設学部の設置に関する基本規定と学則改正の慣習
(2)新設学部の設置に関する学則改正規定の法的性格
3
仙 波 学長 に よ る 地 球 社 会 共 生学 部 に 係 る 既 成 事 実 づく り へ の 邁 進 及 び 学 則改 正 の
強行
(1)「地球社会共生学部」に至るまでの迷走
(2)地球社会共生学部に関する審議の欠如
(3)地球社会共生学部の入学試験の実施
(4)仙波学長による地球社会共生学部の学則の改正の教授会への提案と教授会の対応
等
4
地球社会共生学部が全学的に支援されるために改善すべき点(各学部教授会が指摘
した課題)
5
地球社会共生学部の設置に係る学則改正が無効であること
(1)地球社会共生学部の設置は、2014 年 8 月の文部科学省の認可によって、適法・適
正な手続きによって正式決定しているとの「公式見解」について
(2)既成事実の積み重ねによって、審議の機会を奪ったことについて
6
損害の存在
(1)原告が被った損害
(2)被告仙波の故意又は過失
7
まとめ
第1
請求の趣旨
[請求の趣旨第 1 項]
○原告
1
原告と被告青山学院大学との間で、別紙記載の 2015 年 3 月 26 日付青山学院大学学
則の地球社会共生学部に係る規定が無効であることを確認する。
○被告
1.請求の趣旨第 1 項に対する訴えを却下する。
[請求の趣旨第2項]
○原告
2
被告仙波憲一は原告に対し、金 1,500,000 円及びこれに対する 2015 年 3 月 26 日か
ら支払い済まで年 5%の割合による金員を支払え。
○被告
2
2.同第 2 項に対する請求を棄却する
[訴訟費用]
○原告
3
訴訟費用は被告の負担とする。
○被告
3
訴訟費用は原告の負担とする
[求める判決]
○原告
との判決並びに第 2 項につき仮執行の宣言を求める。
○被告
との判決を求める
第2
請求の原因
≪はじめに≫
○原告
本訴状の構成について述べる。
第一に、原告と被告、及び両者の関係を述べる。
本件請求の一つは青山学院大学学則(以下「学則」という。)の地球社会共生学部に係る
改正部分が無効であることの確認請求である。学則の改正権限は青山学院大学の学長にあ
り、その効果は青山学院大学に帰属していることから、学則の地球社会共生学部に係る規
定が無効であることの確認を、青山学院大学との間で求める。
もう一つは、学則の改正規定である学則第 64 条に違反して原告が属する青山学院大学国
際政治経済学部教授会における学則改正審議の権利を奪い、それがため原告が被った損害
の賠償請求である。学則第 64 条に違反して学則改正を行った者は学長である仙波憲一であ
ることから、同人に対して、損害賠償を求める。
第二は、青山学院大学に新設学部を設置する際の基本法令並びに学内規則、及び青山学
院大学における新設学部設置の際の慣習を述べ、本件の評価を行うに当たり依るべき基準
を記述する。
第三は、地球社会共生学部の設置経緯に関する事実を記述する。
第四は、学部教授会において指摘された地球社会共生学部の問題点及び改善点について
記述する。
第五は、無効確認請求に関して、地球社会共生学部に係る学則改正において仙波学長が
3
採った手続きが学則第 64 条に違反し、学則の地球社会共生学部に係る規定が無効である理
由を記述する。
第六は、損害賠償請求に関して、損害の存在、因果関係及び故意過失がある理由を記述
する。
最後に、本請求が認められるべきである旨を記述する。
≪1
当事者≫
(1) 被告
○原告
ア 学則無効確認請求の被告は、教育基本法及び学校教育法に従い,建学の精
神に基づく教育を行うことを目的とする学校法人青山学院が設置する青山
学院大学である。
○被告
○原告
青山学院大学は、学校法人青山学院寄付行為第 3 条によって設置する学校の一つであ
り、独自の学則等の規則、執行部等を有し、自立した団体である。
○被告
○原告
その代表者であり、学則改正権限を有する者は、学長である仙波憲一である。
○被告
4
○原告
学則の改正権限は青山学院大学の学長にあり、その効果は青山学院大学に帰属するこ
とから、学則の地球社会共生学部に係る規定が無効であることの確認を、青山学院大
学との間で求める。(甲1
青山学院大学大学案内、甲2
学校法人青山学院寄付行
為(以下「寄附行為」という。)第 8 条(2)イ)
○被告
○原告
イ
学長は、大学の校務をつかさどり、所属する職員を統督し、院長に対して責任を負
い、その職務は次のとおりである。
(1)大学を代表する。
(2)大学における教育研究を統轄する。
(3)所属する学生等の管理に責任を負う。
(4)所属する職員を職務上及び服務上統督し、その所属長となる。(5)大学の施
設設備の保全管理に責任を負う。
(甲3
学校法人青山学院寄附行為細則(以下「寄附行為細則」という。)第 20 条 )
○被告
○原告
ウ
学長の任期は 4 年であり、次の場合は、評議員会の議決及び理事総数の 4 分の 3 以
上が出席した理事会における理事総数の 4 分の 3 以上の議決により、解任することが
できる。(甲3
(1)
寄附行為細則第 24 条によって準用される第 7 条)
法令の規定又は寄附行為に著しく違反したとき。
5
(2)
心身の故障のため職務の執行に堪えないとき。
(3)
職務上の義務に著しく違反したとき。
(4)
学長たるにふさわしくない重大な非行があったとき。
○被告
○原告
エ
学長は、法令の規定、寄附行為の規定を遵守し、及びその他職務上の義務として諸
規則を遵守する義務がある。
○被告
○原告
また、学則等の規則改正をはじめとしてその職務について説明をする責任を有するこ
とは、条理上当然である。
○被告
○原告
オ
学則第 64 条は、「この学則の改正は、学部長会、教授会及び大学協議会の議を経た
のち、常務委員会及び理事会の承認を得て、学長がこれを行う。」と定めており、学
長は学則の改正権限を有する者である。
○被告
○原告
新設学部に係る学則改正は、地球社会共生学部の設置までは、すべての学部の教授会
の了承の上、行われてきた。(甲4
2014 年度青山学院大学学則)
○被告
6
○原告
カ
損害賠償請求の被告は、仙波憲一である。
○被告
○原告
仙波憲一は、学則改正規定である学則第 64 条に違反して学則改正を行い、もって原
告に損害をもたらした。
○被告
○原告
その責めは仙波憲一個人が負うものである。
○被告
(2)原告
○原告
ア
原告は、平成 21 年 4 月から現在に至るまで、青山学院大学国際政治経済学部の教授
であり、同学部の教授会の構成員である。
○被告
○原告
イ
教授会について、学則第 13 条第 1 項は「本学の各学部に、教授会を置く。」とし、
その権限について、同条第 4 項では、「教授会は、次の事項を審議及び議決する。」と
定め、教授会は、学則改正に当たって審議及び議決を行う機関であり、かつ、青山学
7
院大学では、慣習的に意思決定機関として位置付けられている。
○被告
○原告
また、教授会の審議及び議決事項として、学則第 13 条第 4 項第 8 号は「学則及び学部
諸規則の制定改廃に関する事項」と定め、さらに、学則第 64 条は「この学則の改正
は、学部長会、教授会及び大学協議会の議を経たのち、常務委員会及び理事会の承認
を得て、学長がこれを行う。」と規定している。(甲5
1993 年 3 月 17 日「大学協議
会規則等 4 規則の整合性等検討委員会答申書」)。
○被告
○原告
ウ
原告は、学則改正に当たって、教授会の構成員として学則改正事項に関する審議及
び議決を行う権利を有している。
○被告
○原告
新設学部に係る学則改正は、地球社会共生学部の設置までは、すべての学部の教授会
の了承の上、行われてきた。
○被告
8
≪2
青山学院大学における新設学部の設置に係る学則改正手続き≫
[柱書について]
○原告
青山学院大学学長である仙波憲一(以下「仙波学長」という。)は、平成 27 年 3 月 26
日付で、地球社会共生学部の設置に関する学則改正を行ったが、青山学院大学におけ
るそれ以前の新設学部の設置における学則改正手続きは、次のとおりである。
○被告
(1)新設学部設置に関する基本規定と学則改正の慣習
○原告
ア
学校教育法(昭和 22 年 3 月 31 日法律第 26 号)第 85 条は「大学には、学部を置く
ことを常例とする。」と定め、大学設置基準(昭和 31 年 10 月 22 日文部省令第 28 号)
第 2 条は「大学は、学部、学科又は課程ごとに、人材の養成に関する目的その他の教
育研究上の目的を学則等に定めるものとする。」と定めている。
○被告
○原告
大学に設置される学部は学則に定めなければならず、この規定を受けて、青山学院大
学では、学則第 4 条で「本学各学部に次の学科を置く。」等と定めている。
○被告
9
○原告
よって、新たに学部を設置するときは、学則を改正して当該学部を加えなければな
らない。
○被告
○原告
イ
学校教育法第 93 条第 1 項では、「大学には、重要な事項を審議するため、教授
会を置かなければならない。」と規定している。
○被告
○原告
学校教育法第 93 条第 1 項の規定を受けて、青山学院大学では、学則第 13 条第 1 項
で、
「本学の各学部に、教授会を置く。」とし、同条第 4 項では、
「教授会は、次の事
項を審議及び議決する。⑻
学則及び学部諸規則の制定改廃に関する事項」と定め、
教授会は審議及び議決を行う機関であることを明記している。
○被告
10
○原告
ウ
青山学院大学の文書である 1993 年 3 月 17 日「大学協議会規則等 4 規則の整合
性等検討委員会答申書」は、
「各学部教授会は、教育及び研究に関する事項等につ
いて審議、議決するものとし、専任教授会は、教員の任免、昇任、その他の身分
に関する事項等について審議、議決するものとしているので、意思決定機関であ
ることに異論はない。」(p6)とし、「現行規則の下では、教学に関する事項につ
いては各学部教授会が決定し、全学的事項に関して各学部間の見解の一致が得ら
れない場合には、学部長会で調整し、大学協議会の意見を得て、全学部共通した
教授会決定が得られる運営がなされなければならないこととなっている」(p7)
と記述している。
○被告
○原告
これが、2015 年 4 月 1 日施行の改正学校教育法以前の学校教育法の下での青山学院
大学における教授会の位置づけである。
○被告
○原告
なお、この答申には、
「各学部教授会間で全学的事項についての議決が異なった場合
の意思決定システムが明確にされる必要がある」として、
「各学部長が学部教授会に
おける調整能力を発揮することが必要不可欠である。しかし、かかる調整の努力を
してもなお、大学全体に関する事項について、各学部教授会間の調整がつかない場
合には、大学協議会の意見を踏まえ、学長の決定に委ねるべきものと考えられる」
11
(P8)との記述があるが、この記述を受けた学則又は規則の規定は存在しない。
○被告
○原告
エ
青山学院大学では、これまで新設学部の設置に当たり、学則改正時点で存在して
いた全ての学部の教授会の了承を得て、学則改正を行っている。
○被告
○原告
このことについて、仙波学長は、2015 年 3 月 10 日の国際政治経済学部の教授会で明
言している。
○被告
(2)新設学部の設置に関する学則改正規定の法的性格
○原告
ア
学則第 64 条では、「この学則の改正は、学部長会、教授会及び大学協議会の議を経
たのち、常務委員会及び理事会の承認を得て、学長がこれを行う。」と規定している。
○被告
○原告
学則の改正権者は学長であるが、学則改正は学長が自由に行うことができるのではなく、
学則第 64 条に定められた手続きを履行することによって、はじめて可能となる。
○被告
12
○原告
イ
学則第 64 条の「教授会及び大学協議会の議を経たのち」の「のち」とは、手続
きの順序を明記したものであり、「教授会の議」を経なければ、常務委員会及び理事
会の承認手続きに進むことができないことを明記している。
○被告
○原告
ウ
学則第 64 条の「教授会の議を経た」とは、青山学院大学においては、教授会は
審議及び議決機関であり、意思決定機関として機能していることから、
「教授会の議」
の内容如何によって学則改正の内容が決定されることが前提となっている。
○被告
○原告
したがって、学則改正権者である学長が、教授会の審議及び議決如何にかかわらず特
定の内容の学則改正を行うことを決めた上で、教授会に対して審議及び議決を行った
形式を整えることだけを求める場合は、その前提を欠き、学長が教授会に対して学則
改正の審議及び議決を求めたものとは言えないことから、そのようなときに学則改正
のための常務委員会の承認手続きに移行することは、学則第 64 条に違反する。
○被告
13
○原告
エ
また、学長が適正に教授会に対して学則改正の審議及び議決を求めた場合におい
ても、教授会は審議及び議決機関であることから、「教授会の議を経た」とは教授会
における審議及び議決が行われたときであり、単に審議を求めただけのとき、及び議
決に至らないときは、明文の規定に照らして「教授会の議を経た」ということはでき
ない。
○被告
○原告
したがって、少なくとも、教授会が「議を経ないこと」と決し、または、
「審議未了」
としているときに、学則改正のための常務委員会の承認手続きに移行することは、学
則第 64 条に違反する。
○被告
○原告
オ
さらに、青山学院大学では、教授会は意思決定機関として位置付けられており、か
つ、新設学部の設置においては全ての教授会の了承を得ることが慣習化されているこ
とから、「教授会の議を経た」とは、教授会の了承を得ることを言う。
○被告
14
○原告
したがって、学則改正案について、教授会が「否決」の議決をしている場合において、
学長が学則改正を行ったときは、学則第 64 条に照らし重大な瑕疵があることとなる。
○被告
○原告
カ
学則第 64 条の手続きに違反した学則改正、または重大な瑕疵がある学則改正は、
無効を免れない。
○被告
≪3
仙波学長による地球社会共生学部に係る既成事実づくりへの邁進及び学
則改正の強行≫
(1)「地球社会共生学部」に至るまでの迷走
○原告
新設学部が地球社会共生学部となるまで、その名称と内容は二転三転した。
○被告
○原告
その結果、仙波学長によってそれぞれの学部教授会に提案され審議を求められた新設
学部の案は区々となっており、それぞれの学部によって行われた審議及び賛否の議決
の対象についても区々となっている。
○被告
○原告
15
また、仙波学長は、2015 年 4 月に新設学部の開設を急ぐあまり、青山学院大学内部の
合意形成に十分な時間を割くことなく、法学部、経営学部、国際政治経済学部、社会
情報学部の 4 教授会の意見及び反対を押し切って文部科学省への新設学部設置届出等
の申請を行った。
○被告
○原告
ア
仙波学長は、2013 年 4 月 22 日開催の学部長会で、
「 グローバル社会共創学部(仮称)」
(案)について教授会での意見聴取を依頼した。
○被告
○原告
イ
仙波学長は、2013 年 5 月 27 日開催の学部長会で、
「 グローバル社会学部(仮称)」
( 案)
を提出した。
○被告
○原告
16
ウ
仙波学長は、2013 年 10 月 13 日、新設学部カリキュラム検討学長諮問委員会の答申
を受け、「アジア国際学部」(案)の審議を教授会に依頼した。
○被告
○原告
エ
原告が所属する国際政治経済学部は、2013 年 10 月 30 日開催の教授会で、「アジ
ア国際学部」(案)を審議し、否決した。
○被告
○原告
オ
仙波学長は、2013 年 11 月 25 日開催の学部長会で、次の事項を考慮して、学長の権
限により新設学部の設置を進めることを判断した。
①2015 年 4 月に開設するには、この時期で最終決定をしなくてはならない。開設時期
を 2016 年度以降に更に延期することになれば、新設学部自体の設置が困難になる。
○被告
○原告
②「グローバル社会共創学部(仮称)」、「グローバル社会学部(仮称)」又は「アジア
国際学部(案)」のいずれかの案を審議した 9 つの学部(文学部、教育人間科学部、
経済学部、法学部、経営学部、国際政治経済学部、総合文化政策学部、理工学部及
び社会情報学部)の教授会のうち、5 学部(文学部、教育人間科学部、経済学部、
総合文化政策学部及び理工学部)が承認、4 学部(法学部、経営学部、国際政治経
17
済学部及び社会情報学部)が否決であって、賛否が拮抗する。
○被告
○原告
しかし、仙波学長は、これに、新設学部案を承認した 3 つの専門職大学院(法務研究
科(法科大学院)、会計プロフェッション研究科(会計専門職大学院)、国際マネジメ
ント研究科)の教授会を含めれば、12 の教授会のうち 8 教授会が承認、4教授会が否
決となり、2/3 の教授会が承認しているから承認している多数の教授会の意見を尊重
すべきであるとして、文部科学省への新設学部設置手続きを進めることを決定した。
(甲6
青山学院大学専門職大学院学則)
○被告
○原告
③相模原キャンパスの活性化と管理運営費の適正化は喫緊の課題であり、経営的観点
においても 2015 年度開設が必須である。2015 年度開設は、法人からの要請でもある。
○被告
18
○原告
カ
しかしながら、仙波学長が新設学部の設置を強行する理由としたこれらの事項には、
いずれも根拠がない。すなわち、
①開設時期を 2016 年度以降に更に延期することになれば、新設学部自体の設置が困
難になることの理由は示されていないこと
②2/3 の教授会が賛成すれば文部科学省への手続きを進めてよいという規則は存在せ
ず、したがって、2/3 という数字も恣意的であること
③相模原キャンパスの活性化と管理運営費の適正化が喫緊の課題であることの理由
が、学長が責任者である教学面の見地から示されていないこと
などから、学長は、青山学院大学の教学面での最高責任者であるにもかかわらず、新
設学部の 2015 年 4 月開設について、理事会が責任を有する経営面の都合を優先し、
教学面から充実した新設学部を設置するという内容面の検討を劣後したことは明確
である。
○被告
○原告
しかも、経営的見地から見ても、相模原キャンパスから青山キャンパスに移転した
文系学部の 1 年生と 2 年生の人数は 2015 年度定員ベースで 5834 人であるところ、地
球社会共生学部 190 人の 4 学年分は 760 人で 13%に過ぎず、経営的見地から学部教授
会の異論を押し切ってまで開設しなければならない理由を見出しがたい。
○被告
19
○原告
キ
仙波学長は、2013 年 11 月 26 日、4 学部の教授会の了承が得られていないことを
認識しつつ、「アジア国際学部アジア学科」(仮称)の設立準備会を設置することを決
定した。(甲7
2013 年 11 月 26 日付「新設学部の設置について」)
○被告
○原告
ク
仙波学長は、2014 年 1 月 20 日、新設学部開設準備室を設置し、学部名称を「地
球社会共生学部」と決定した。
○被告
(2)地球社会共生学部に関する審議の欠如
○原告
仙波学長は、2014 年 1 月 20 日に学部名称を「地球社会共生学部」とした後、青山学
院大学の教授会に対して、「地球社会共生学部」について審議を求めたことはない。
その後の手続きは、次のとおりである。
○被告
20
○原告
ア
仙波学長は、地球社会共生学部の設置について、2014 年 1 月 22 日に常務委員会の
承認を、2014 年 1 月 30 日に理事会の承認を得た。
○被告
○原告
イ 2014 年 1 月、仙波学長は、文部科学省に対する「地球社会共生学部」の設置届出
申請の事前相談手続きを進めた。
○被告
○原告
ウ
学部教授会の意見を無視したまま、手続きが進められることを危惧した国際政治
経済学部教授会では、仙波学長に新設学部の説明を求める意見が提出されたが、仙波
学長からは教授会に対する説明はなかった。
○被告
○原告
エ
そこで、
「アジア国際学部」の新設学部案を否決した 4 学部(経営学部、法学部、
国際政治経済学部及び社会情報学部)の学部長は、学内合意がないままに手続きが進
められていることを危惧し、寄附行為に定められた監査権限を発動するよう、2014 年
6 月 7 日、連名で鈴木豊青山学院常任監事に対して監査要望書を提出した。
○被告
21
○原告
しかしながら、鈴木豊青山学院常任監事からは、2014 年 8 月 4 日に「検討いたしてお
ります」との連絡があっただけで、訴状提出時の現在まで何等の回答もない。(甲8
2014 年 6 月 7 日付「緊急監査の実施についてのお願い」、甲9
2014 年 8 月 4 日「2014
年 6 月 7 日付け書簡について」)
○被告
○原告
オ
仙波学長は、学内からの新設学部に対する説明要求や監査請求にはなんらの対応
も行わず、その一方で、ひたすら新設学部設置の既成事実作りに邁進した。
○被告
○原告
①文部科学省への「地球社会共生学部」の設置届出申請については、文部科学省の「平
成 27 年度開設予定の大学の学部等の設置届出について」
(2014 年 6 月公表分)に掲
載された。(甲 10
「平成 27 年度開設予定の大学の学部等の設置届出について」6
月発表分)
○被告
22
○原告
②しかし、文部科学省に提出されていた「地球社会共生学部」の収容定員増加に係る
学則変更申請に対しては、6 月の新設学部設置届出と同時期には認可されず、2014
年 8 月 29 日になって、「平成27年度からの私立大学等の収容定員の増加に係る学
則変更予定一覧」(平成 24 年 8 月)に「地球社会共生学部における定員充足の根拠
として,高校生を対象とした Web アンケート調査及び本学への志願実績のある首都
圏高等学校への用紙アンケート調査結果をもとに,推定志願者数及び推定志願倍率
を挙げており,一定の学生確保の見通しがあることは認められるが,推計方法が複
数の仮定から成り立っておりやや複雑であることから,さらに精緻な分析を行うな
どして,設定した定員の確保に活用できるように努めること。」との留意事項が付
記されて、認可された。
○被告
○原告
文部科学省の WEB サイトの表題は「学則変更予定一覧」であり、今後、学内での学
則変更手続きが行われることを前提としている。(甲 11
平成27年度からの私立
大学等の収容定員の増加に係る学則変更予定一覧(平成 26 年 8 月))
○被告
23
(3)地球社会共生学部の入学試験の実施
○原告
ア
仙波学長は、地球社会共生学部について、文部科学省による新設学部設置届出受理
の後も、学部教授会に審議を求めることをせず、教員人事及び入学試験の手続きを進
めて、更に、既成事実を作ることに邁進した。
○被告
○原告
①推薦入学する学生については、次のように入学試験事務を行った。
ⅰ)外国人留学生:出願期間 2014 年 10 月6日(月)〜10 月9日(木)、合格発表
日 2014 年 11 月 13 日(木)
ⅱ)全国高等学校キリスト者:出願期間 2014 年 11 月1日(土)~11 月5日(水)、
合格発表日 2014 年 11 月 27 日(木)
ⅲ)自己推薦:出願期間 2014 年 10 月 20 日(月)〜10 月 23 日(木)、合格発表日
2014 年 11 月 13 日(木)
ⅳ)海外就学経験者:出願期間 2014 年 10 月 6 日(月)〜10 月 9 日(木)、合格発
表日 2014 年 11 月 13 日(木)
○被告
○原告
24
②大学入試センター試験を利用する学生については、次のように入学試験事務を行っ
た。
出願期間 2015 年 1 月 4 日(日)~1 月 17 日(土) 、合格発表日 2015 年 2 月 14 日(土)
○被告
○原告
③一般入学試験を利用する学生については、次のように入学試験事務を行った。
ⅰ)全学部日程:出願期間 2015 年 1 月 4 日(日)~1 月 23 日(金)、合格発表日 2015
年 2 月 14 日(土)
ⅱ)地球社会共生学部(B)
:出願期間 2015 年 1 月 4 日(日)~1 月 27 日(火)、合格
発表日 2015 年 2 月 17 日(火)
ⅲ)地球社会共生学部(A):出願期間 2015 年 1 月 4 日(日)~2 月 6 日(金)、合格
発表日 2015 年 2 月 27 日(金)
○被告
○原告
イ
学内合意が得られないまま、受験生を巻き込む事態となることを避けるため、原
告は、仙波学長ら青山学院大学の責任者に対して、意見を述べてきた。
○被告
○原告
①2014 年 4 月 30 日には、仙波学長及び安藤孝四郎学校法人青山学院理事長あてに、
青学の新学部「地球社会共生学部」の手続きと内容の問題点について、総括的に意
見を述べた。
(甲 12
2014 年 4 月 30 日付「青学の新学部「地球社会共生学部」の手
続きと内容の問題点」)
○被告
25
○原告
②2015 年 1 月 6 日には、一般入試も行われる事態となり、多くの受験生を巻き込むこ
ととなるため、仙波学長ら宛てに「新設学部(地球社会共生学部)の設置の学則改
正について」を配達証明郵便で送付した。
(甲 13
2015 年 1 月 6 日付「新設学部(地
球社会共生学部)の設置の学則改正について」)
○被告
○原告
③2015 年 1 月 27 日には、仙波学長らから何らの返答もないため、原告代理人酒田芳
人弁護士から、配達証明付内容証明郵便により、仙波学長ら宛てに「通知書」を送
付した。(甲 14
2015 年 1 月 27 日付「通知書」)
○被告
○原告
④2015 年 2 月 10 日には、仙波学長らから何らの返答もないため、適切な対応が講じ
られない場合には訴訟の準備をしている旨等について、仙波学長に対してのみ、原
告代理人酒田芳人弁護士から、配達証明付内容証明郵便により「通知書」を送付し
た。(甲 15
2015 年 2 月 10 日付「通知書」)
○被告
○原告
⑤④の通知書送付と入れ違いに、仙波学長から 2015 年 2 月 12 日付の「ご連絡」が、
原告代理人酒田芳人弁護士のところに到着した。
○被告
26
○原告
その内容な次のようなものであった。
ⅰ)教授会には誠実に説明を行うこと
ⅱ)ただし、2015 年 4 月 1 日からの新設学部スタートまでには常務委員会及び理事
会の承認を得て学則改正を行うこと
ⅲ)新設学部の設置やこれに伴う学則の改正は、純粋に教学に関する大学自治の問
題であって、司法判断に馴染まないこと
ⅳ)原告の考えを世間に知らしめる手段としてメディア等を利用するなどによって、
新設学部のイメージを損なう等の結果に至った場合は、今後、入学希望者の減少
を招き、受験料収入等の経営的な損失が生じるおそれがあること、及び希望を持
って新設学部に入学してくる学生の気持ちを大きく傷つけることになること(甲
16
2015 年 2 月 12 日付「ご連絡」)
○被告
○原告
ウ
2015 年 2 月 12 日付の仙波学長からの「ご連絡」における「原告の考え」とは、
複数の学部の教授会が新設学部に対して疑義を持ち、意見を述べるなど、新設学部
の設置が青山学院大学の全学の総意となっていないという事実を基本とするもので
ある。
○被告
27
○原告
仙波学長は、これらの情報を受験生や入学する学生が知ることによって、入学希望者
の減少を招き、新設学部に入学してくる学生の気持ちを大きく傷つけることになると
認識し、これらの事実を隠蔽することが学生のためと主張しているが、その実は、仙
波学長の責任を免れるための事実の隠ぺいの主張でしかない。
○被告
28
○原告
そこで、2015 年 2 月 20 日付で、原告から仙波学長に対して、
「ご連絡」に記載された
事項の趣旨を明確にするように求める質問を行った。
○被告
○原告
しかし、これへの返答は、今日に至るまでないままである。(甲 17
2015 年 2 月 20
日付「ご連絡」に対するご質問)
○被告
(4)仙波学長による地球社会共生学部の学則の改正の教授会への提案と教授会の
対応等
○原告
29
ア
仙波学長は、推薦入学の入試事務が進んだ 2014 年 11 月 10 日、学部長各位及び教授
会構成員各位に宛てて、「学則改正事前審議について」と題する文書を発出した。(甲
18
2014 年 11 月 10 日「学則改正事前審議について」)
○被告
○原告
イ
この文書においては、次のことが書かれている。
①今回の措置は、新設学部設置を否決した学部の学部長から学則改正の審議時間を確
保するために、早期審議開始への依頼を受けての措置である。
○被告
○原告
②2015 年度新設学部設置は、理事会承認事項であり、青山学院として文部科学省に申
請をして承認されている事項であるので、現時点で設置の有無を審議するものでは
ない。今回の審議目的は、次年度の学則変更に新設学部関連の事項を反映させるた
めのものである。
○被告
○原告
③最終的に全教授会承認が得られなかった場合でも、新設学部設置は理事会承認済み
決定事項であるので、学長として学則改正手続きを進めることとしたい。
○被告
○原告
ウ
地球社会共生学部に係る学則改正について、原告が所属する国際政治経済学部の教
授会の対応は次のとおりであった。
○被告
30
○原告
①2014 年 11 月 12 日の教授会において、仙波学長が出席して説明を行う予定であった
が、当日はアの「学則改正事前審議について」と題する文書が提示されただけで仙
波学長の出席は無かった。
○被告
○原告
また、仙波学長は教授会に対して新設学部に係る学則改正の審議の提案をしていない
こと、教授会の結果にかかわらず学則改正手続きを進めるとの意思が表明されたこと
から、学則改正案は事前審議しないこととなった。
○被告
○原告
②2015 年 1 月 21 日の教授会において、ⅰ)地球社会共生学部関係の改正部分、ⅱ)
改正学校教育法関係の改正部分、ⅲ)その他の変更点の改正部分が一体となった学則
改正案が示された。
31
○被告
○原告
これが、教授会に対する初めての地球社会共生学部に係る学則改正案の審議提案であ
った。
○被告
○原告
この提案については、一括して審議することはできないこと、改正学校教育法関係の
改正部分については「学長方針」が提示されてから審議を行うことなど、それぞれの
部分に関する事情が異なるため、それぞれの部分に分離して教授会に対して提案する
よう求めた。
(甲 19
2015 年 1 月 19 日付「青山学院大学学則の一部改正案について」
庶務部庶務課)
○被告
○原告
③2015 年 2 月 23 日の教授会において提案された学則改正案は、形式的には一括の学
則改正案のままであるが、3 つの事項のそれぞれについて分離した提案として審議
することを容認するとの提案者の意思を確認したうえで、上記②のⅱ)とⅲ)の学
則改正部分についてのみ審議を行い、これらを了承した。
○被告
○原告
しかし、地球社会共生学部関係の学則改正部分については、2015 年 3 月 2 日の学部
長会で仙波学長から何らかの提案がある可能性があるとの国際政治経済学部の学部
32
長の発言を受けて、それを踏まえて 3 月 10 日に議論することとした。
○被告
○原告
④2015 年 3 月 10 日の教授会において、仙波学長から、次の提案を付して、経済学部、
法学部、経営学部、国際政治経済学部への審議依頼があった(甲 20
2015 年 3 月 7
日付「地球社会共生学部に関する学則改正審議依頼について」)。
提案1.新設学部開設に伴う手続きの過程を検証する第三者委員会を設置します。
なお、委員は弁護士、学識経験者等に依頼します。
提案2.大学のガバナンスの在り方に関して、学内の教職員からなるガバナンス検
討委員会を設置して、全学で議論します。委員に関しては、既に学部長会に
て報告済みです。
提案3.新設学部にアドバイザリー・ボードを立ち上げ、運営状況、カリキュラム、
人事政策の改善点に関して総合的な見地から意見を頂きます。なお、委員は
大学人をはじめ広く産業界の有識者で構成します。
○被告
○原告
仙波学長からこの提案についての説明を受け、質疑応答を行った。
○被告
○原告
その上で、学則改正について審議するかどうかについて、議論を行い、採決の結果、
審議に入ることとなった。
○被告
○原告
そこで、学則の審議を行うこととなったが、審議を打ち切って直ちに採決をすべき
33
であるとの意見、賛否の審議を尽くすべきであるとの意見などの議事進行に関する
意見が出たところ、教授会が始まってから既に長時間が経過しており、今年度中に
再度教授会を開催して審議する時間的余裕もないことから審議未了とするとの動議
が発せられ、この動議に対する反対者は 1 名であったので、審議未了とすることと
なった。
○被告
○原告
⑤2015 年度の最後の教授会である 3 月 10 日までに開催された各学部教授会
の新設学部に係る学則改正案への対応は次のとおりである。
ⅰ)経営学部は「議を経ないこと」を決議。
○被告
○原告
ⅱ)法学部は、「否決」。
○被告
○原告
ⅲ)国際政治経済学部は「審議未了」。
○被告
○原告
ⅳ)社会情報学部は、「条件付き了承」。その条件は、「1、非承認学部が存在するこ
とを踏まえた学則改定の具体的手続きを示すこと。2、途中示された以下内容(寮
にかかわること、英語科目の外部委託に係ること、半期留学のシステム・費用(学
34
費からの転用との説明)に係ること、外国大学との協定に関わること、海外専従
教員のための規則・運用に関わること、助手規則・規定に関わること、相模原キ
ャンパスにおける施設・整備利用にかかわること。)が最終的にどう取り扱われる
かについて明らかにし、必要かつ適正な手続きを踏むこと。3、他学部から示され
た指摘事項について、その対応を全学的に開示するとともに、地球社会共生学部
が全学的に支援されるための環境づくりを継続して進めること。」であった。
○被告
○原告
ⅴ)経済学部は「意見を付して了承」。その意見は、
「1、検証委員会では、学長の責
任も含めて検証すること。2、検証委員会設置にあたっては、人選において学長は
かかわらないこと。3、検証委員会はすみやかに設置すること。」であった。
○被告
○原告
ⅵ)文学部は「意見を付して了承」。その意見は、「承認だが、執行部と教授会との
間の意思疎通・情報伝達については極めて不十分であったと思われるので、これ
に対する執行部の見解と今後の対応を含めて説明すべき」であった。
○被告
○原告
ⅶ)理工学部、教育人間学部、総合文化政策学部は「承認」。
35
○被告
○原告
エ
2015 年 3 月 10 日の教授会を受けて、同年 3 月 14 日に開催された大学協議会及び
臨時学部長会では率直な議論が行われたが、同年 3 月 18 日に開催された常務委員会
及び同年 3 月 26 日に開催された理事会では、新設学部に係る学則改正案が承認され
た。
○被告
○原告
オ
2015 年 3 月 26 日に開催された理事会では、
「地球社会共生学部の設置は、本学内の
審議を経たのち、2014 年1月の学校法人青山学院理事会の承認を得た上で文部科学省
に届出および認可申請手続きを行い、2014 年8月に認可されたことで、適法・適正な
手続きにより正式決定している。」との「公式見解」が示された。
○被告
○原告
この「公式見解」によれば、新設学部の学内手続きは 2014 年 1 月で終了し、2014
年 8 月の文部科学省の認可が行われたことにより、全ての手続きが 2014 年 8 月に既
に適法・適正に完了していることになる。
○被告
36
○原告
なお、「適法」とは文部科学省の認可を得ていること、「適正」とは審議していない
2 学部は審議して否決したとみなして学則に則った改正が行われていたとの趣旨であ
るとのことであるようだが、これらの学部教授会での学則改正の審議は 2015 年 3 月
10 日であり、2014 年 8 月までに手続きは完了していたという「公式見解」と事実と
の間には時間的な齟齬がある。
○被告
○原告
カ
仙波学長は、2015 年 3 月 26 日、常務委員会及び理事会の承認を受けて、地球社会
共生学部に係る学則改正を行った。(甲 21
○被告
37
2015 年度青山学院大学学則)
≪4.地球社会共生学部が全学的に支援されるために改善すべき点(各学部教
授会が指摘した課題)≫
○原告
ア
国際政治経済学部では、新設学部について次のような意見が提出された。地球社会
共生学部が開設されるに当たり、これらの点が考慮され、改善されていれば、全学部
の了承が得られる可能性があり、青山学院大学の全学部から支援される学部となる可
能性が残っていたが、仙波学長は、これらの改善を行うことをせず、地球社会共生学
部を開設した後にアドバイザリー・ボードを設置して検討するとの提案で、問題の先
送りを図った。
○被告
○原告
①既存の学部との重複が多すぎること(例:新設学部の英語名称は「School of Global
Studies and Collaboration」であるが、Global Studies は国際関係論を中核とす
る領域であり、国際政治経済学部と重複)。
○被告
○原告
②学部内容として学部としての統一性がなく、新設学部で何のために何を教えるのか
が不明確である。よって学問分野として何をする学部であるか、明確ではないこと。
38
○被告
○原告
③①及び②の点を改善するため、学部の構成及びカリキュラムの改善が必要であるに
もかかわらず、改善意見が取り入れられない理由として、新設学部の人事が先に決
まっていた、すなわち「最初に人事ありき」によってカリキュラム等の柔軟性が損
なわれていたこと。特に、
ⅰ)留学先を多様化するべきであるにもかかわらず、留学先がタイの大学に集中し
ていること。タイであることの意義に乏しいこと。1 学年 190 人の全員が 2 年後
期又は 3 年前期に留学することが義務となっているが、地球社会共生なのに、な
ぜタイの大学(チュラロンコン大学、タマサート大学、カセサート大学、チェン
マイ大学)なのか、明確な理由が示されていないこと。さらに、特別な手当てを
出さなければタイからの留学生をも確保できない事態となっていること。
ii) 現在本学にいる教員の定年を延長して新設学部の教員に採用するなど本来して
はいけない教員配置がなされていること。そういうことが起きたのは、新設学部
の人事が、公募もされず、学長周辺の関係者だけで独善的になされたからである
こと。
iii) 上記教員配置を行なった結果、新設学部がグローバル・スタディの学部だとい
うのに、海外の大学から博士号を取得した者が一人もおらず、また学会等で評価
を受けている者もほとんどいない非常に弱い教員体制になっていること。
○被告
○原告
④文系学部は青山キャンパスに移転する方針を打ち出したにもかかわらず、相模原キ
39
ャンパスに何ゆえ再び文系学部を設置するかの理由が説明されないままになってい
ること、すなわち、相模原キャンパスの施設が「空き家」となっているため、学部
を新設するに当たって、学内合意よりも経営的見地を優先して、学部設置費用が相
対的に少なくて済む文系学部としたと想定されること。
○被告
○原告
イ
社会情報学部の「条件」を再掲する。
①非承認学部が存在することを踏まえた学則改定の具体的手続きを示すこと。
②途中示された以下内容が最終的にどう取り扱われるかについて明らかにし、必要か
つ適正な手続きを踏むこと。
ⅰ)寮にかかわること。
ⅱ)英語科目の外部委託に係ること。
ⅲ)半期留学のシステム・費用(学費からの転用との説明)に係ること。
ⅳ)外国大学との協定に関わること。
ⅴ)海外専従教員のための規則・運用に関わること。
ⅵ)助手規則・規定に関わること。
ⅶ)相模原キャンパスにおける施設・整備利用にかかわること。
③他学部から示された指摘事項について、その対応を全学的に開示するとともに、地
球社会共生学部が全学的に支援されるための環境づくりを継続して進めること。
○被告
○原告
ウ
文学部の「意見」を再掲する。
承認だが、執行部と教授会との間の意思疎通・情報伝達については極めて不十分で
あったと思われるので、これに対する執行部の見解と今後の対応を含めて説明すべき。
○被告
40
○原告
エ
経済学部の「意見」を再掲する。
①検証委員会では、学長の責任も含めて検証すること。
②検証委員会設置にあたっては、人選において学長はかかわらないこと。
③検証委員会はすみやかに設置すること。
○被告
≪5
地球社会共生学部の設置に係る学則改正が無効であること≫
○原告
3 及び 4 において述べてきた事実を、2において述べた青山学院大学に新設学部を設
置する際の基本法令並びに規則及び慣習に照らして評価し、今回の仙波学長による地
球社会共生学部設置に係る学則改正が無効であることについて、以下、述べる。
○被告
(1)地球社会共生学部の設置は、2014 年 8 月の文部科学省の認可によって、適
法・適正な手続きによって正式決定しているとの「公式見解」について
○原告
ア
地球社会共生学部の設置は、学内では 2014 年 1 月に終了し、文部科学省の定員
増加に関する認可を得たことにより 2014 年 8 月までに、適法・適正な手続きですべ
て終了しているという「公式見解」は、①いつ、②誰によって、③どのような根拠に
基づいて、④どのような手続きで決定されたものであるか明確でなく、何らの根拠も
ないものである。
○被告
41
○原告
イ
このような「公式見解」は、教授会の了承が得られないという状況に直面して、
学則改正手続きを逃れるために創作した、規則等に何らの根拠も持たないものである。
その証左として次のことをあげることができる。
○被告
○原告
①2014 年 11 月 10 日の「学則改正事前審議について」の第 2 項「2)2015 年度新設学
部設置は、理事会承認事項であり、青山学院として文部科学省に申請をして承認さ
れている事項であるので、現時点で設置の有無を審議するものではない。今回の審
議目的は、次年度の学則変更に新設学部関連の事項を反映させるためのものであ
る。」において、初めてその一端が教授会の構成員に対して示されたものであるが、
その時点では「公式見解」は教授会に示されていないこと、
○被告
○原告
②2014 年 6 月 7 日付で行われた 4 学部(経営学部、法学部、国際政治経済学部及び社
会情報学部)の学部長の連名による鈴木豊青山学院常任監事に対する監査要望書に
対して、鈴木豊常任幹事は、更に 2 か月後の 8 月 4 日付で「新学部設立に関しまし
ても、当然のことながら重要性の高い監査対象と考えており、従前より検討いたし
ております」と回答しており、その時点では、監査を行っているはずの常任監事も、
既に学内手続きは終了しているという「公式見解」の内容を知らなかったことがう
かがわれること、
○被告
42
○原告
③新設学部については、学則改正の時に教授会での審議の機会があるとされていたこ
となどの事実から、新設学部の学則改正について教授会の了承が得られない状況に
直面して、「公式見解」によって教授会の了承を得なくとも地球社会共生学部を開
設する脱法的方策として創作したものとうかがわれること。
○被告
○原告
なお、このような「後出しじゃんけん」的な意思決定ルールの創作は、2013 年 11 月
25 日開催の学部長会での、3 分の 2 の教授会が賛成しているとの数字合わせの際にも
行われている。もちろん、3 分の 2 にも何らの根拠はないし、そのことは仙波学長も
認めている。
○被告
○原告
ウ
しかしながら、青山学院大学に設置される学部は、学則に規定されなければなら
ない。このため、学部を新設するには、学則を改正する必要がある。
○被告
○原告
エ
新設学部に対する教授会の審議権は、学則上は学則改正規定の第 64 条によって
担保されているのであって、文部科学省の申請に当たっての審議は教授会としては重
要事項の審議ではあるとしても、それによって学則第 64 条の学則改正における審議
権が奪われるものではない。
43
○被告
○原告
したがって、学則改正が学則第 64 条に則って行われなければ、新設学部に係る学則
改正部分は無効である。
○被告
○原告
オ
国際政治経済学部教授会に対して、地球社会共生学部の設置に係る学則改正案の
審議の提案がなされたのは、2015 年 1 月 21 日の教授会が初めてである。それまでは、
「グローバル社会共創学部(仮称)」(案)、「グローバル社会学部(仮称)」(案)、「ア
ジア国際学部」(案)について教授会で議論したことがあったとしても、「地球社会共
生学部」について議論したことはなく、地球社会共生学部の情報は、大学の広報によ
って知るしかなかった。
○被告
○原告
また、
「公式見解」は、教授会構成員にとって「寝耳に水」の不意打ち的見解であり、
かつ、学則改正に当たって新設学部の審議を行うという教授会の審議権を奪うもの
であり、そのこと自体が学則第 64 条違反である。
○被告
44
○原告
カ
学則の改正規定第 64 条は、
「この学則の改正は、学部長会、教授会及び大学協議
会の議を経たのち、常務委員会及び理事会の承認を得て、学長がこれを行う。」と定
めている。「教授会の議」を経たかどうかについては、当該教授会の意思を確認しつ
つ、法的に判断されるべきものである。多数決によって常務委員会や理事会が「教授
会の議を経た」ものと決するという性格のものではない。
○被告
○原告
キ
学則第 64 条の「教授会の議を経たのち」については、
①「教授会の議」の後、常務委員会及び理事会の承認手続きに進むことができること
を明記したものであり、経営学部の教授会は「教授会の議」を経ていないことを明
らかにしており、にもかかわらず、常務委員会及び理事会へと進んだ承認手続きは、
学則第 64 条違反であり、学則の地球共生学部に係る規定は無効である。
○被告
45
○原告
②「教授会の議」とは、教授会が審議及び議決機関であり、教授会に学則改正を提
案しただけ、あるいは審議が行われただけでは足りず、議決を行わなければならな
いことは明白であり、国際政治経済学部の教授会は議決をしていないにもかかわら
ず、議決がないまま学則改正が行われた学則の地球共生学部に係る規定は、学則第
64 条違反であり、無効である。
○被告
○原告
③教授会は、意思決定機関であることから、議決は学則改正についての了承である
ことを意味することは明らかである。法学部の教授会は地球社会共生学部に係る学
則変更案を否決しており、常務委員会及び理事会の承認手続きに進み、常務委員会
及び理事会が教授会の否決決議を無視して承認することには重大な瑕疵があること
となり、やはり、学則第 64 条違反であり、学則の地球共生学部に係る規定は無効で
ある。
○被告
(2)既成事実の積み重ねによって、審議の機会を奪ったことについて
○原告
ア
仙波学長は、
「アジア国際学部」等の新設学部を否決した 4 学部の学部長の連名
による 2014 年 6 月 7 日付の鈴木豊青山学院常任監事に対する監査要望書の監査対象
である。
○被告
○原告
仙波学長は、2015 年 3 月 10 日の国際政治経済学部教授会において、
「鈴木豊青山学
院常任監事から、監査要望書が出ていることは聞いていたが、そのことについて常
46
任監事から聴取を受けたこともない」旨を述べている。
○被告
○原告
仙波学長は、監査要望書の存在を知りながら、鈴木豊青山学院常任監事の監査業務
懈怠に乗じて、文部科学省への新設学部設置届出申請、定員増加に関する学則改正の
認可申請、教員人事、推薦入学試験、大学入試センター試験、一般入学試験の実施な
ど既成事実を積み重ねることに邁進したと言わざるをえない。
○被告
○原告
イ
仙波学長は、教授会における地球社会共生学部に関する審議の機会を設けず、新
設学部を設置しない場合には学校法人青山学院に対して多大な損害を生じかねない
事態を自ら招来させたうえで、満を持して、2015 年 1 月 21 日に初めて、教授会に対
して地球社会共生学部に係る学則改正を求めたものである。
○被告
○原告
ウ
しかも、2014 年 11 月 10 日の文書で明確にされているように、仙波学長は教授会
47
に地球社会共生学部に係る学則改正の審議を求める意図がなく、また、上記に述べた
ような既成事実の積み重ねに邁進したことから、そのことは客観的に明確であると言
わざるを得ない。
○被告
○原告
エ
2015 年 3 月 10 日に仙波学長が教授会に対して行った「提案1新設学部開設に伴
う手続きの過程を検証する第三者委員会を設置します。なお、委員は弁護士、学識経
験者等に依頼します。」は、仙波学長の手続きに問題があったこと、あるいは問題が
あるおそれを認識していたことを示すものである。
○被告
○原告
第三者機関とはいえ、被告自らが設置することは、
「まな板の鯉が包丁人を委嘱する」
もので不適切である。
○被告
○原告
新設学部の設置手続きに関する自律的な検証作業は、学校法人青山学院の常任監事の仕
事として、常任監事の下に設置されるべきものである。
48
○被告
原告
オ
また、「提案3新設学部にアドバイザリー・ボードを立ち上げ、運営状況、カリ
キュラム、人事政策の改善点に関して総合的な見地から意見を頂きます。なお、委員
は大学人をはじめ広く産業界の有識者で構成します。」についても、仙波学長自らが
新設学部の設置当初から、不十分な学部であることを認めているものであり、不十分
な学部を学生に提供した仙波学長の責任は免れない。
被告
原告
カ
以上述べたように、仙波学長は、教授会からの異論や監査要望書が出ていることを
承知しながら、各学部教授会に「地球社会共生学部」の審議を提案せず、既成事実が
積み重なったところで、教授会の審議如何にかかわらず学則を改正するとの「結論あ
りき」の形だけの学則改正の審議提案を行った。
被告
49
○原告
これは、学則改正に係る適正な審議の提案ではなく、したがって教授会に審議する義
務も生じないが、教授会の審議権を奪うものであって、そのような手続きに従って改
正された学則の地球共生学部に係る規定は学則第 64 条違反であり、無効である。
○被告
○原告
また、経営学部教授会は議を経ないことを決議し、国際政治経済学部教授会は審議未
了である。
○被告
○原告
このような状況の下で、常務委員会及び理事会の承認手続きに進んだ学則の地球共生
学部に係る規定は、学則第 64 条に違反し、無効である。
○被告
○原告
また、法学部教授会は否決しており、青山学院大学の新設学部に関する慣習から、学
則改正を否決している学部があるにもかかわらず学則改正を行ったことは重大な瑕
疵があり、これまた学則第 64 条に違反し、学則改正は無効である。
○被告
≪6
損害の存在≫
50
(1)原告が被った損害
○原告
ア
原告は、青山学院大学国際政治経済学部の教授であり、同学部の教授会の構成員
である。
○被告
○原告
イ
教授会は、学校教育法第 93 条第 1 項の規定の下で、学則第 13 条によって位置付
けられ、学則第 64 条の規定により、学則改正について審議及び議決する権限が定め
られている。
○被告
○原告
ウ
被告仙波は、学則第 64 条に違反して地球共生学部に係る学則の改正を行い、原告
の国際政治経済学部の教授会の構成員としての権限を侵害し、原告に精神的な損害を
生じせしめたものである。
○被告
○原告
その損害額は、150 万円を下らない。
○被告
(2)被告の故意又は過失
○原告
ア
被告仙波は、学長として、法令又は寄附行為の定めを遵守する義務があることの
他、職務上の義務を果たさなければならない。
51
○被告
○原告
職務上の義務には、学則第 64 条を含む学則その他の規則の遵守義務が含まれる。
○被告
○原告
例えば、被告である学長は、学生が不正行為を行った場合に、学則その他の規則に従
って懲戒処分を行う責任者であり、学生の懲戒処分は学則その他の規則を遵守して行
わなければならない。
○被告
○原告
そのような学長に対して自ら定めた学則その他の規則の遵守が求められないとすれ
ば、大学は、権限を有する者がルールを破っても何らのチェックも働かない治外法権
の無法地帯の場となり、権限を有する者にとっては何をしても許される天国となって
しまう。それはあり得ない。
○被告
○原告
イ
被告仙波は、学則第 64 条に違反して地球社会共生学部に係る学則の改正を行った。
○被告
○原告
よって、職務上の義務の違反があり、少なくとも過失が認められるが、本件において
は、以上の経緯から、被告仙波は、当初から学則第 64 条を遵守する意思はなく、学
52
則第 64 条に違反して学則改正を行った故意が認められると言わざるを得ない。
○被告
≪7
まとめ≫
○原告
以上の次第であるので、請求の趣旨記載のとおり、原告と被告青山学院大学との間で、
別紙記載の 2015 年 3 月 26 日付青山学院大学学則の地球社会共生学部に係る規定が無
効であることを確認し、被告仙波に対して、原告に対し金 1,500,000 円の慰謝料の支
払い、及びこれに対する 2015 年 3 月 26 日から支払い済まで民法所定の年 5%の割合
による遅延損害金を支払うことを求める。
○被告
≪その他≫
○被告
53