5【レポート】深海鉱業、2014年の国際的動向

レポート
深海鉱業、2014年の国際的動向
JOGMEC 金属資源技術部
1. 2014年の深海鉱業の概要
2014年は、国連海洋法条約発効
(1994年)
から20年目
にあたり、国際海底機構
(ISA)
は、7月に、第20回総会・
理事会をジャマイカの首都キングストンで開催すると
ともに、同機構の20周年式典も開催した。これに先立
つ1月、JOGMECは、ISAとコバルトリッチクラスト
の探査に関する契約を締結し、日本として、マンガン
団塊に次ぐ2件目の公海域での探査権益となった。
ISAの第20回理事会では、新規の探査契約7件が承
認されるなど、深海鉱業に関する関心の高まりも見せ
た。またISAは、2001年以降、マンガン団塊の探査契
約
(15年間)を締結してきたが、これらの契約期間が
2016 年より順次終了を迎えようとしている。ISA は、
今後の探査活動のために、探査契約の延長、ならびに
開発規則の策定のための作業を急いでいる。
一方、2014年は、国際的にも深海鉱業に対する期待
は高く、
「第43回深海鉱業セミナー
(UMI)
」
( ポルトガ
ル・リスボン)、
「海洋技術週間会議」
(フランス・ブレ
ス ト )等 の 老 舗 的 国 際 会 議 が 開 催 さ れ た。 ま た、
OECD が主催した
「2030年に向けた深海鉱業の期待と
挑戦」
(11月、ドイツ・キール)
、マレーシア政府が主
催したMIMA 深海鉱業会議(12月、クアラルンプール)
等、将来の深海鉱業を見据えた国際会議も開催された。
表1. 2014年の深海鉱業に関する主な出来事
月
概要
1月
ISA と JOGMEC がクラスト鉱床探査契約を締結
http://www.jogmec.go.jp/news/release/news_10_000076.html
http://www.isa.org.jm/news/japan-oil-gas-and-metals-national-corporation-jogmec-and-isa-sign-explorationcontract
4月
ISA センシタイゼーションセミナー(ニューヨーク・国連本部)
http://www.isa.org.jm/news/isa-hold-sensitization-seminar-new-york
7月
ISA 第 20 回総会、理事会
http://www.isa.org.jm
ISA 創立 20 周年記念式典(ジャマイカ・キングストン)
http://www.isa.org.jm/sessions/20th-session-2014
9月
第 43 回 UMI(Underwater Mining Institute) 年次セミナー(ポルトガル・リスボン)
http://www.underwatermining.org/UMI2014/welcome.html
10 月
Sea Tech セミナー(フランス・ブレスト)
http://www.seatechweek.com/index.php/en/conference-home/deep-blue-days
ISA マンガン団塊資源量・埋蔵量評価ワークショップ(インド・ゴア)
http://www.isa.org.jm/news/resources-classification-workshop-opens-goa-india
OECD「2030 年に向けた深海鉱業の期待と挑戦ワークショップ」
(ドイツ・キール)
http://www.oecd.org/futures/oceaneconomy.htm
11 月
12 月
ISA マンガン団塊生物(メガファウナ)ワークショップ(韓国・ウルチン)
http://www.isa.org.jm/workshop/workshop-taxonomic-methods-and-standardization-macrofauna-clarionclipperton-fracture-zone
MIMA 深海鉱業会議(マレーシア・クアラルンプール)
http://www.mima.gov.my/v2/?m=posts&c=shw_details&id=497
2015.3 金属資源レポート
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(627)
深海鉱業、2014年の国際的動向
深海鉱物資源の開発のための調査活動は1970年代に
開始され、すでに40年あまりが経過している。2014
年は、1994年の国連海洋法条約の発効、国際海底機構
(ISA)の設立から20年が経過する節目となっている。
この間、深海底におけるマンガン団塊、海底熱水鉱床、
クラスト鉱床の探査活動は、先進国のみならず、民間
企業、開発途上国も参加し活発化する傾向が加速して
いる。また、2014年は、JOGMECが世界で初のクラス
ト鉱床の探査契約をISAと締結し、日本にとっても深
海資源開発の新たなフェーズに入った年となった。
本稿では、こうした深海鉱物資源の開発に向けた国
際動向を、
2014年の主な出来事を中心として報告する。
2. 国際海底機構(ISA)の動向
レポート
深海鉱業、2014年の国際的動向
2-1 ISA の歴史と現状
国際海底機構(ISA)は、国連海洋法条約に基づき、
同条約の締約国を構成国として1994年11月16日に設立
された。ISA本部事務局はジャマイカの首都キングス
トンに置かれている。ISAは、国連海洋法条約が
「人
類共同の財産」
と規定した深海底
(国連海洋法条約第11
部(深海底)に規定する深海底
(The Area)
、すべての沿
岸国の大陸棚の外側にあって、いずれの国の管轄権も
及ばない海底及びその下)の鉱物資源の管理を主たる
目的としている。ISAは、総会、理事会、理事会の下
部組織としての財政委員会及び法律・技術委員会によ
って構成され、キングストンにある事務局によって運
営されている。現在、事務局長は、設立後第2代目と
なるオダントン事務局長
(2008年~、ガーナ出身)であ
る。
ISAの総会は、海洋法条約締約国である、165か国
及びEU
(2015年1月現在)によって構成されている。理
事会は、深海底資源に含まれる主要金属の需給国、及
び総会により途上国から選出された理事国36か国によ
って構成されている。理事国は、深海底から開発され
る金属資源の消費・輸入、供給、深海鉱業への寄与、
地理的配置等に基づいて選ばれる。
理事国は原則として4年毎に改選されるが、日本は
ISAの設立以後一貫して理事国となっている。理事会
の下部組織として、法律・技術委員会
(委員25名で構
成)、財政委員会
(同15名で構成)が設置されている。
日本からは、両委員会とも委員各1名が任命されてい
る。法律・技術委員会は、理事会に対する深海底の資
源の探査契約、管理に関する勧告、探査等活動の審査
等の業務を行っており、毎年2月、7月にそれぞれ2週
間の会期でキングストンで開催される。
財政委員会は、
ISAの予算、その他財政的なことについて審査、勧告
を行っている。
2-2 ISAの総会・理事会
第20回ISA総会・理事会は7月15~25日の日程で、
キングストンにて開催された。
理事会の開催日は7月15~21日、総会の開催日は7月
23~25日であった。これに先立ち、法律・技術委員会、
及び財政委員会が7月7~18日の日程で開催された。ま
た、7月20日は、ISA創立20周年記念式が行われた。
総会では、事務局長によるISAの活動に関する年次
報告の他、ISAの運営全体に係る議事を審議する。理
事会では、法律・技術委員会、財政委員会からの勧告
に基づいて、ISA の所管業務に関する議事が審議され
るが、その主な項目は以下のとおりである。
①ISAの運営、予算等に係ること
②既存探査契約に係るコントラクター報告の審査
③新規探査契約に係る審査及び承認
④探査規則、開発規則の審議、策定
⑤開発途上国関係者のトレーニング計画に関すること
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2015.3 金属資源レポート
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⑥その他深海底における探査、開発に関すること
2-2-1 ISAの最近の活動状況
▶ 探査活動の動向
ISAは、公海域でのマンガン団塊、海底熱水鉱床、
コバルトリッチクラスト鉱床の探査契約を、それぞれ
の資源毎に策定されている探査規則に基づいて管理し
ている。ISAとして初の探査規則である「マンガン団
塊探査規則」は2000年に策定され、これに基づいて、
マンガン団塊先行投資7グループが、2001年より順次
探査契約を締結して探査活動に着手してきた。
また、その他の資源の探査規則は、海底熱水鉱床が
2010年、コバルトリッチクラスト鉱床が2013年にそれ
ぞれ策定され、それ以降、順次探査契約が締結されて
いる。2014年7月の理事会開催前の探査契約数(承認ベ
ース)は19件
(マンガン団塊13件、海底熱水鉱床4件、
コバルトリッチクラスト2件)であったが、この理事会
で、新たに7件の探査契約が承認されたので、総数は
26件(マンガン団塊16件、海底熱水鉱床6件、コバルト
リッチクラスト4件)となった。新規の探査契約の承認
は、マンガン団塊3件(英国、シンガポール、クック諸
島)、海底熱水鉱床2件(インド、ドイツ)、コバルトリ
ッチクラスト鉱床2件(ロシア、ブラジル)であった。
また、今期会合終了後の2014年8月、中国が新たな
マンガン団塊探査契約の申請を行ったため、探査契約
数(未承認を含む)は27件となっている。
【探査契約の状況】
(承認及び申請ベース、2015年1月現在)
マンガン 海底熱水 コバルト
団塊
鉱床
クラスト
合計
既存契約
13
4
2
19
今期承認
3
2
2
7
未承認
1
0
0
1
合計
17
6
4
27
▶ マンガン団塊探査契約の延長
現在ISAにおいて、最も重要な案件は、2001年以降
探査契約が始まった、先行投資7グループの15年間の
契約期間の終了が近づいていることである。当該7グ
ループは、2001年よりISAと探査契約(15年間)を締結
し探査活動に入ったため、2016年より順次契約終了と
なる。現状では、15年間の探査期間に探査を終え開発
段階にあるコントラクターがいないこと、また探査段
階の次のステージである「マンガン団塊開発規則」
がま
だ策定されていないことから、各コントラクターは、
探査規則に基づいて5年間の延長手続きを取ることが
可能である。しかし、現状では、ISAの探査契約延長
に対するクライテリアが決まっておらず、延長審査条
件の策定が喫急の課題である。また、開発段階に入る
ことが可能なコントラクターがないとはいえ、開発規
則の策定も急務の課題である。
レポート
ISAは、こうした現状に鑑み、2015年7月開催予定
の理事会において、マンガン団塊探査契約の延長の条
件、ならびに開発規則の策定について審議を行う予定
である。現状では、コントラクターの最初の探査契約
の終了が2017年3月に迫っており、規則により終了の6
か月前に延長申請を提出する必要があるので、2016年
9月には最初の延長申請が行われる可能性がある。
なお、探査規則では、コントラクターの責めによら
ない事由がある場合、並びに経済的に開発に移行でき
ない場合、5年間の探査契約の延長が規定されている。
▶ ワークショップの開催
ISAは、深海での探査活動等の情報の共有化のため
に、利害関係者に対する情報提供が求められている。
また、深海における探査、及び環境調査は未知の分野
が多いにも関わらず、コントラクターが個別に調査を
行っているのが現状であり、今後、調査手法、試料処
理・分析、データ解析等に関し、情報の共有化と標準
化を行う必要性が高まっている。このため、ISAは、
2014年に、情報の普及のためのセミナー、及びワーク
ショップ2件を開催した。
①センシタイゼーションセミナー
(Sensitization Seminar)
ISAは、4月16日、ニューヨークの国連本部で第8
回センシタイゼーションセミナーを開催し、
日本(ク
ラスト鉱床の探査)
、ロシア
(海底熱水鉱床の探査)
等の調査の概要、成果が発表された。ISAは、ISA
の活動、ならびに深海での探査、環境調査等の進捗
に関する情報を広報・普及するために、2007年より
世界各地でセンシタイゼーションセミナーを開催し
てきた。
②資源量評価に関するワークショップ
ISAは、深海資源の資源量評価に関するワークシ
ョップを、10月11~19日、インド地球科学省と共催
でインド・ゴアで開催した。マンガン団塊の資源量
を算定するために、開発対象となる資源量の評価を
適切に行う必要がある。しかし、賦存量の調査は各
コントラクターが異なる手法、調査密度で行ってお
り、コントラクター間での評価基準の標準化が必要
となっている。陸上資源開発では、JORC規程(豪州)
やNI43-101(カナダ)等が、資源量、埋蔵量評価の標
準的ガイドラインとなっており、深海資源において
も共通のガイドラインに基づいた資源量の算定が急
務の課題となっている。
③生物分類に関するワークショップ
ISAは、マクロファウナの分類に関するワークシ
ョップを、11月24~29日、韓国・ウルチンにある韓
国海洋科学技術研究所
(KIOST)の東海研究所で開催
した。
深海の環境調査において生物の分類や同定が不可
欠であるが、深海生物に関する情報量が少ないこと
もあり、コントラクターごとに調査が進められてい
る。通常深海生物は大きさによって、メガファウナ、
マクロファウナ、メイオファウナに分類される。
ISAでは、国際的なネットワークである
「国際深海エ
コシステム科学研究ネットワーク」と共同して、生
物の分類手法に関する標準化を進めている。このた
めに、ISAは、2013年6月にドイツで、マンガン団塊
が賦存する東太平洋のクラリオン-クリッパートン
ゾーンにおけるメガファウナに関するワークショッ
プを開催した。また、メイオファウナに関するワー
クショップ
(2015年開催予定)
が計画されている。
▶ 開発途上国関係者に対する研修機会の提供
海洋法条約では深海底の資源は「人類共通の財産」
と
規定されており、同条約第143条(海洋の科学的調査)
、
第144条(技術の移転)により、深海資源の開発及びそ
2015.3 金属資源レポート
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(629)
深海鉱業、2014年の国際的動向
図1. ISA管理の深海資源探査件数の推移
(2014年までの承認、ならびにそれ以降の申請ベース)
レポート
深海鉱業、2014年の国際的動向
れから派生する利益が先進国に集中することを避ける
ために、様々な形での開発途上国に対し便宜機会を提
供している。このため、海洋科学研究の推進、及び途
上国関係者の人材育成を行うために、コントラクター
は、探査活動、及びその他の機会を利用し、開発途上
国関係者に対するトレーニング機会を設けている。理
事会は、コントラクターが行う調査において、5年間に
10名の途上国研修員を受け入れることを勧告している。
こうした状況から、2013年7月の理事会で、トンガ、
中国、ドイツが行う探査活動において8人の研修員の
受入れが決まった。JOGMECは2014年1月にISAとク
ラスト鉱床に関する探査契約を締結したが、この契約
の中で、当初5年間で12名の研修員を受けいれること
が明記されている。また、2015年は、JOGMECの他、
中国がインド洋での海底熱水鉱床探査における研修員
の受け入れを表明している。
▶ ISAの運営
ISAの2015/16年度の運営予算は15,743,143US$
(対前
期比9.9%増)である。また日本の分担割合は14.589%
となる見込みである。国連において最大の分担金負担
国である米国が海洋法条約を批准していないため、米
国に次ぐ負担国である日本は、ISAの最大の分担金負
担国となっている。
海洋法条約の基本理念である
「人類共通の財産」に基
づき、ISAの運営を支援するために、信託基金
(Trust
Fund)及び寄付基金
(Endowment Fund)の二つの基金が
創設されている。どちらの基金も、海洋法条約約定国
からの寄付拠出金に基づき運用されており、開発途上
国関係者に対するISAの活動、海洋研究活動への参加
機会を支援している。
2-3 国際海底機構創立20周年式典
(7月22日)
ISAは1994年の国連海洋法条約の発効とともに、同
年11月16日に設立され、
2014年に創立20周年を迎えた。
このため、総会開催中の7月22日、創立20周年式典が
開催された。式典には、総会参加者、オブザーバーの
他、ジャマイカのミラー首相、その他ISAの歴代関係
者、国連関係者が参加して行われた。創立記念に当た
り、国連バン・キムーン事務総長は、
「大陸棚外の公海
域の深海底における
「人類共同の財産」
の概念は、国際
法の分野での革新的なものである」とする親書をISA
に送った。
来賓挨拶は以下のとおり行われた。
● ポーシア・ミラー ジャマイカ首相
国際海底機構は、深海底資源の開発の管理、統治と
いう重要な任務があり、今後も、資源開発と漁業活動
の調整、技術開発、環境保全等の分野での活躍を期待
する。国際海底機構の健全な活動は、
経済が自然環境、
天然資源に依存するカリブ海諸国等の島しょ国にとっ
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2015.3 金属資源レポート
(630)
て重要である。また今後、ISAは、海洋外交、人材育
成において国際的に活躍が期待される。
● トミー・コー シンガポール外務省無任所大使
(国連海洋法条約発効前の黎明期に国連本部におけ
る、条約発効の準備作業の中心人物)
ISAは海洋法条約で規定される、3つの国際機関の
一つとして、効率的に活動してきた。ISAは設立から
20年がたち、新たなステージに入りつつある。今後マ
ンガン団塊の開発規則の策定、ファイナンス体制の構
築が重要である。ISAは、その役割の重要性をより世
界にしら知むべきである。また外部向けのプログラム
の推進、深海資源の管理を規定する海洋法条約第XI
部(深海底)の広報・普及に努めるべきである。
● サティア・ナンダン
初代ISA事務局長(1996〜2008)
ISAは深海の平和的利用、管理を目的として、深海
資源の探査、開発のための国際機関である。今後の重
要な課題は、深海資源の開発規則制定作業で、
「人類共
同の財産」の精神により公平な方針に従って推進しな
ければならない。またベストプラクティス、科学的知
見も重要である。
● ホセ・ルイス・ジーサス 元国際海底機構準備委員会委員長(1987〜1994)
、
現国際海洋法裁判所裁判官
海洋法条約発効後、ISAの設立準備に携わった。そ
の後を引き継ぎ、ISAの組織を作り上げたナンダン前
事務局長の功績を評価。深海資源の開発について決し
て楽観できないが、ISAの成功は国連海洋法条約にと
って極めて重要である。
● ハジム・ジャラル ISA総会初代議長
(1996)
第2次大戦後の公海を管理する国際法の整備に携わ
った経験から、戦後の米国の大陸棚開発、1958年のジ
ュネーブ海洋法4条約(領海、大陸棚、公海生物資源保
存、公海に関する条約)
、1967年の国連総会でマルタ
大使の発言、1982年のジャマイカ・モンテゴベイにお
ける海洋法条約の採択等の深海底に関連する歴史的事
実を紹介するとともに、今後、米国その他の未批准国
が批准することを希望すると語った。
● ウラジミル・ゴリツィン
国際海洋法裁判所 裁判官(柳井俊二所長代理)
柳井所長代理として、創立20周年に対する祝辞と、
国際海洋法裁判所とISAの協力関係について述べた。
同裁判所は、国家間または国家とISAの間の、深海底
資源の法的管轄に対する海洋法条約の解釈に関する紛
争解決を行う。西アフリカ諸国政府関係者に対し両機
関の協力関係についての情報提供を行うために、ワー
クショップを開催する予定がある。
レポート
深海鉱業、2014年の国際的動向
写真1. ISA20周年記念式典(全景)
(2014年7月22日、キングストン)
写真2. ISA20周年記念式典
(檀上、左より、ミラー・ジャマイカ首相、オダントン・ISA事務局長、
シルバ・ネト総会議長、ISA事務局員)
2015.3 金属資源レポート
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(631)
レポート
深海鉱業、2014年の国際的動向
2-4 ISAの役割と今後の課題
ISAは設立から20年がたち、最初のマンガン団塊探
査契約の期間
(15年間)
が終わろうとしているが、マン
ガン団塊資源の開発に向けての展望が開けていない。
その最大の要因は、開発技術がまだ確立されていない
ことと、開発コストが定まらず正確な経済評価ができ
ないことであり、今後の商業生産の展望についても不
明確な点が多い。当面探査契約延長手続きが行われる
ことが最重要課題であるが、延長する5年間において、
マンガン団塊開発に向けて具体的な動きがみられるか
注視していく必要がある。
一方で、こうした状況下、ISA年次総会における、
開発途上国を中心とした各国ステートメントには、海
洋法条約の基本理念である
「人類共通の財産」
をベース
として、
「環境管理体制の強化」
、
「海洋科学研究の推進
支援」
「研修及び技術移転の強化」
、
「データベース・標
、
準化の推進」、
「ワークショップ、セミナー開催による
情報共有化」等のキーワードがより強調されているの
が現状である。海洋法条約の理念は、締約国のほとん
どを占める開発途上国への利益配分に配慮したものに
なっており、開発途上国の深海資源に対する期待も拡
大している。一方、深海資源の開発に関するロードマ
ップについては、肝心の採掘、揚鉱、選鉱・製錬に関
する技術開発が必ずしも十分ではない。あるいは詳細
な動向がみえていない。こうした現実と、開発途上国
の期待とがかい離し、方向性の定まらない状況となっ
ているが、将来に向かいISAがイニシアチブを発して
こうしたギャップを埋めていくことに期待したい。
【参考】
● 国連海洋法条約について
正式には「海洋法に関する国際連合条約」で
「海の憲
法」ともいわれる、海洋の管理に関する国際的かつ基
本的条約である。全17部320条及び9つの附属書から構
成される。1982年4月30日に、
国連第3次海洋法会議(ジ
ャマイカ・モンテゴベイで開催)で採択され、1994年
に発効した。日本は、1983年2月に署名、1996年6月に
批准し、同年7月20日
(現在の
「海の日」の祝日)に発効
した。2015年1月現在、165か国及びEUが批准してい
るが、米国は批准していない。
海洋法条約では、領海、公海、大陸棚等の海洋の管
理に関することを規定するほか、
「排他的経済水域
(EEZ)
」という新たな概念も規定している。海洋法条
約の発効と同時に、
「大陸棚限界委員会」
( ニューヨー
ク)
「国際海底機構」
、
(ジャマイカ・キングストン)、
「国
際海洋法裁判所」
(オランダ・ハーグ)
も設立された。
海洋法条約では、深海底は、同条約第11部
(深海底:
The Area)において
「国の管轄権及び区域の境界の外の
海底及びその下」と規定されており、深海底に自然状
態で賦存する鉱物資源
(マンガン団塊を含む個体、液
体、
気体状のもの)
を規定している。
深海底の資源は「人
類共通の財産:Common heritage of man kind」
とされて
76
2015.3 金属資源レポート
(632)
いる。
(外務省ウエブhttp://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaiyo/
law.html等から作成)
● 国連海洋法条約発効までの経緯
1958年 第一次国連海洋法条約(UNCLOS I、2月
24~4月27日):ジュネーブ海洋法4条約(領海、大
陸棚、漁業及び公海の資源の保存、公海に関する条
約)
1960年 第二次国連海洋法条約
(UNCLOS II、3月
17~4月26日)
1973~1982年 第 三 次 国 連 海 洋 法 条 約
(UNCLOS
III、3月17~4月26日)
1982年4月30日 採択(ジャマイカ・モンテゴベイ)
1982年12月10日 署名開放
1994年11月16日 発効、ならびに国際海洋法裁判所
(ITLOS)、大陸棚の限界に関する委員会(CLCS)及
び国際海底機構(ISA)を設立。
2015年1月現在、批准国165か国+EU
(合計166か国・
地域)。
(各種資料から作成)
3. 深海鉱業に関する国際シンポジウム
2014年はISAにおける探査契約申請が大幅に増加す
るなど、深海鉱業に対する世界的な関心の高まりがみ
られた。こうした国際的な動向とその背景について、
JOGMECも参加した主な国際シンポジウムの結果を報
告する。
3-1 第
43回海洋鉱業会議(UMI2014)
(2014年9月、リ
スボン)
● 会議の名称
第43回深海鉱業に関する国際会議(UMI2014)
The 43rd Conference of the Underwater Mining Institute
http://www.underwatermining.org/UMI2014/
● 会議の概要
2014年9月21~24日までの4日間、ポルトガルのリス
ボンにおいて開催された。本会議は、1970年以降ほぼ
毎 年、 開 催 国 と 国 際 海 洋 鉱 物 学 会
(IMMS:
International Marine Mineral Society)との共催により開
催されてきた。2007年には日本でも開催された。今回
は、 民 間 企 業
(Odyssey Marine Exploration 社、IHC
Merwede社、Technip France社、RSC Mining and Mineral
Exploration社)
、政府機関、大学関係者約150名が参加
した。
● 発表内容
会議開催期間4日間で、40件の口頭発表及び27件の
ポスターセッションが行われた。
(例年は口頭発表が30
件程度、ポスターセッションが10件程度であり、今回
発表件数が非常に多く、会期も1日長く4日間となった)
口頭発表及びポスターセッションを合わせて発表件
数は67件であったが、約半数の34件が海底熱水鉱床と
● 主な発表の内容
(1)
欧州共同体
(EU)
が支援する海洋資源プロジェクト
2013 年 以 降、EU が 支 援 す る
「MIDAS」
、「Blue
Mining」などの海洋資源プロジェクトが相次いで開
始された。英国の研究者から、その中の環境影響評
価に関するMIDASプロジェクトの紹介が行われた。
MIDASは、探査・生産技術開発を担う
「Blue Mining
プロジェクト」
と密接に関連し、2013年11月から3年
計画のプロジェクトで、32の企業・研究機関が参画
する。全体予算は1,200万€
( このうちEU補助金は9
百万€)である。対象は、Blue Miningと同様に、マ
ンガン団塊と海底熱水鉱床で、海域は大西洋、太平
洋、地中海である。
(2)韓国における採鉱技術の研究開発が進展
(採鉱機か
らライザー開発へシフト)
マンガン団塊採鉱システムの研究を進める韓国海
洋科学技術研究院
(KIOST:Korean Institute of Ocean
Science and Technology)から進捗状況について発表
があった。前回の2013年は、採鉱機の試験について
の発表であったが、今回は揚鉱システムについて発
表された。特に、揚鉱システムの途中に取り付ける
バッファー装置の重要性と水槽試験結果について発
(3)英国のマンガン団塊鉱区保有者による発表
米国ロッキードグループの英国子会社であるUK
Seabed Resources社は、2011年以降、ISAと、ハワイ
沖のマンガン団塊探査契約(2件)を相次いで締結し
探査を行っている。同社は、ロッキードグループが
1970年代に取得したデータをベースとして、環境調
査を中心に調査を行っている。環境調査は、英国、
米国の大学、博物館と協力している。今回の発表で
は、1970年代にロッキード社が行った海洋実験のビ
デオも映写された。
(4)中国の活動状況を報告
ISAのコントラクターである中国海洋鉱物資源技
術開発協会(COMRA:China Ocean Mineral Resources
R&D Association)から活動状況の報告がなされた。
COMRAの調査目的は、深海鉱業のために海洋産業
の確立をプロモート、コーディネートすることで、
これまでの約100を超える調査航海を行ってきた。
2012年の有人潜水艇を用いたマリアナ海溝の調査
(潜航深度7,062mを記録)
、クラスト鉱床の探査海
域の海山(マゼラン海山群)での調査についても報告
した。一方、海底熱水鉱床の基礎調査は、太平洋西
部、インド洋南西海嶺、大西洋中央海嶺等において
広範囲に行っている。
現在中国は、ISAとマンガン団塊
(太平洋)、海底
熱水鉱床(インド洋)、クラスト鉱床(北西太平洋)
に
おける探査契約を各1件締結しているほか、2014年8
月には新たなマンガン団塊探査契約の申請を行っ
た。
(5)
海洋鉱物資源の父
“クローナン博士”が数年ぶりに
参加
クローナン博士は、英国インペリアカレッジで、
1960年代からマンガン団塊をはじめとする海洋鉱物
資源を研究した第一人者で、
「海洋鉱物資源の父」と
も呼ばれている。近年では、海洋鉱物資源ハンドブ
ックを発刊(2000年)した。今回は、これまでのライ
フワークでもあるクック諸島のマンガン団塊の分布
状況等を発表した。特にレアアースが1,700ppmと高
い含有量を示すこともあると報告した。
(6)主催国ポルトガルの海洋資源調査について発表
2005~2009年にナショナルチームで行われた大陸
棚延伸調査について報告した。特に、2008年からは
ROV(水深6,000mまで潜航可能)を用いて試料・デ
ータ取得を行った。これに基づいて2009年、大陸棚
2015.3 金属資源レポート
77
(633)
深海鉱業、2014年の国際的動向
【UMIでの発表の構成】
・資源別 マンガン団塊18件、コバルトリッチクラス
ト9件、海底熱水鉱床16件、その他3件
・分野別 地質・探査36件、環境15件、採鉱8件、製
錬1件、その他7件
・発表者 欧州38件
(ドイツ14件、ポルトガル7件、英
国5件、ロシア5件)
、アジア16件
(韓国9件、中国4件、
日本3件)
今回の会合では、深海底鉱物資源に関する世界的に
著名な研究者(海洋鉱物資源の父と呼ばれる英国クロ
ーナン博士や、日本周辺海域で初めて海底熱水鉱床を
発見したドイツのハルバック博士)の他、民間企業
(Nautilus Minerals 社、Technip France社、IHC社等)等
からの参加があった。UMIは、元々研究者中心で開催
されてきたが、最近ではベンチャーを含む民間企業の
参加が増加している。また、今回は欧州諸国からの参
加が4割程度を占めた。
表が行われ、エコ(Eco-Friendly)
、安全
(Safety)、経
済性
(Profitability)を踏まえて開発中とのことであっ
た。バッファー装置は、鉱石を採鉱機(MineRo)か
らスムーズに揚鉱パイプに送ることを目標に開発す
るものである。
レポート
マンガン団塊に関するもので、その他クラスト鉱床や
環境関連のテーマであった。特に今回はクラスト鉱床
関連の発表が増加していた。分野別では地質・探査及
び環境に関するものが大半を占め、採鉱、選鉱・製錬
という生産技術に関するものが極端に少ないという特
徴がある。また、
今回開催地が欧州ということもあり、
ポルトガルをはじめとする欧州各国の発表が半数強を
占めたが、これに次いで中国、韓国、日本を含むアジ
アからの発表が多かった。
レポート
限界委員会に延伸申請を提出した。大陸棚延伸域及
びEEZを含め海底熱水鉱床、クラスト鉱床の存在を
確認した。ポルトガルの海域は、ヨーロッパ周辺海
域で最も有望とされるアゾレス海嶺が含まれる。
深海鉱業、2014年の国際的動向
写真3. 第43回深海鉱業会議(ポルトガル・リスボン)
写真4. 第43回深海鉱業会議・ポスターセッション
3-2 海
洋技術週間会議
(2014年10月、フランス・ブレ
スト)
● 会議の名称
海洋技術週間会議
Deep Blue Days within Sea Tech Week
● 会議の概要
フランスの北西端のブレスト市
(フランス国立海洋
78
2015.3 金属資源レポート
(634)
開発研究所(Ifremer)の研究船の基地あり)が主催して、
2014年10月14~16日に開催された。本会議は、2年に1
回の頻度で、
「Sea Tech Week( 海洋技術週間)
」として、
国際会議及び関係企業によるブース展示が行われてい
る。特に、このイベントの一環で行われる海洋科学技
術に関する会議は「Deep Blue Days」と呼ばれる。EUの
他、Ifremer、Technip社、IEEE
(国際海洋工学学会)な
● 発表内容、議論
● 所感
(1)参加者はフランスの研究者、探査機器企業関係者
が多く、外国人は英国やドイツからの参加者が散
見されるのみであった。
(2)欧州では海洋を示す「Blue」がキーワードとなって
い る。 海 洋 に 関 連 し た 用 語 で は、Blue Mining、
Blue Growth、Blue Energyなど、新しい用語が次々
に生まれている。
(3)テクニカルセッションでは、北極や南極の権益確
保が将来話題となることが示唆された。
(4)ISA副事務局長やISA開発規則の担当者を招へいす
るなど、海洋資源に携わるキーパーソンによるタ
イムリーな話題を提供した。
写真5. Sea Tech Week会議風景
(フランス・ブレスト)
2015.3 金属資源レポート
79
(635)
深海鉱業、2014年の国際的動向
3日間の会議は、
オープニングセッション
(基調講演)
に続き、以下の5つの個別テーマセッションで、約50
件の発表があった。
(1)
オープニングセッション
ISAマイケル・ロッジ
(副事務局長)による基調講演
の他、欧州における海洋開発に関し、EUによるBlue
Mining プロジェクトが紹介された。海洋、沿岸を利
用した経済成長を
「Blue Growth」
という等、最近
「Blue」
がトレンドとなっている。
(2)
海洋科学セッション
フランスの大陸棚限界委員会の報告、IFREMERに
よる海底鉱物資源の分布状況に関する報告がなされ
た。
(3)
海洋資源セッション
次世代サイスミックロボットによるハイドロフォン
搭載の小型自律的AUV(仏)
、海洋ロボットの開発状
況(海底着座型ボーリングマシン:ROVDril等)
(英国)、
海中ロボットメーカの紹介等が行われた。
(4)規則・その他セッション
フランス政府関係者により、海洋法条約、関連機関
(大陸棚限界委員会、ISA、国際海洋法裁判所)
、大陸
棚委員会の動向について紹介された。英国研究者から
ISAで の 環 境 規 則
( ガ イ ド ラ イ ン、 管 理 計 画 )や
MIDAS、SOPACガイドライン、IMMS
( 国際海洋鉱業
学会)が策定した環境マネージメントコードなどが紹
介 さ れ た。 そ の 他、 極 地 域 で の 大 陸 棚 延 伸 状 況、
Technip社の動向、深海鉱業の経済性等の講演があっ
た。
レポート
ど14団体が協力して開催された。参加者はフランス人
が大半を占め、次いで、英国、ドイツ、ブラジル、イ
タリア、日本、ノルウェー、オランダ、米国等であっ
た。前回2012年は1,000名程度が参加した。
レポート
深海鉱業、2014年の国際的動向
写真6. Sea Tech Weekブース出展風景
3-3 OECD
「2030年に向けた深海鉱業の期待と挑戦」
ワ
ークショップ
(2014年11月、ドイツ・キール)
● 会議の名称
2030年に向けた深海鉱業の期待と挑戦
Prospects and Challenges for Deep-Sea Mining to 2030
● 会議の概要
本ワークショップは、OECDのプロジェクト
「The
Future of the Ocean Economy: Exploring the prospects for
emerging ocean industries to 2030」の一環として、11月
27~28日に、ドイツ海洋研究所
(GEOMAR)の本拠地
のあるドイツ北部のキールで開催された。2030年にお
ける海洋開発産業セクターを、世界経済成長及び雇用
創出のソースと想定し、深海鉱業を含む海洋をベース
とした新興産業の開発ポテンシャルを評価することを
目的としている。本プロジェクトは、海底鉱業の他、
オフショアエネルギー
(風力、潮力、波力)
、オフショ
ア石油ガス、水産養殖等7つのセクターを対象として
おり、2013年から検討を開始し、2014年には各セクタ
ーに関するワークショップが開催された。これらの成
果は、2015年中にOECD Working Paperとしてとりま
とめられ、同年9月、韓国で総合シンポジウムが開催
される予定となっている。
本ワークショップには、ドイツ、英国、フランス、
日本等OECD加盟国から、合計31名の海洋資源関係者、
大学教授、エコノミスト等が参加し、深海鉱業を取り
巻く、経済、科学技術及び法制度に関する不確実性を
議論し、将来の深海鉱業の振興のためには何がピッキ
ングポイントになるか、以下の3テーマについて意見
交換が行われた。
80
2015.3 金属資源レポート
(636)
課題1:長期的な商業的展望及びメジャー企業やロ
シア・中国等の国営企業の役割に関する現
実的評価等、将来の海洋鉱業促進に最も重
要なファクターは何か?
課題2:海洋資源に貢献可能となる重要な科学的技
術的イノベーションは何か?
課題3:将来の海洋鉱業に向けての法的規制はどう
あるべきか?
3-4 マ
レーシア深海鉱業会議
(2014年12月、クアラル
ンプール)
● 会議の名称
MIMA深海鉱業会議
MIMA Conference – Building National Awareness and
Charting the Way Forward for Malaysia
● 会議の概要
本会議は、マレーシアの外務省及び海洋政策研究所
(MIMA)が共催の深海鉱業に関する会議で、12月1~2
日にクアラルンプールで開催された。副題として「深
海採掘―国家的認識とマレーシアの将来像」とされ、
今後マレーシア政府が深海鉱業にどのように取り組む
かの方向付けを行う会議である。このために、深海鉱
業分野で国際的に活躍する専門家を招いて、法律、経
済、環境、開発技術等の広い観点からディスカッショ
ンが行われた。ISAの探査コントラクターである、韓
国、IOM
(Interorceanmetal Joint Organization、 ロ シ ア、
ポーランド等6か国で構成)
、日本の他、ISA、太平
洋共同体
(SOPAC)等の専門家、その他深海鉱業関係
の大学、団体関係者が講演を行った。マレーシア側は、
ISAとの契約に基づいて行われる探査活動以外で、
深海鉱業の開発に関連する動きとして、欧州委員会
(EU)による支援プログラム、民間企業として深海鉱
業を行っているNautilus Minerals社の動向、ならびに
主要国の生産技術の開発動向について報告する。
4-1 欧州
欧州では、フランス、ドイツの政府機関がISAとの
探査契約に基づいて探査な活動を行っているが、欧州
委員会(EU)は、MIDAS及びBlue Mining、両プロジェ
クトにより、深海資源の開発を支援している。
4-1-1 Blue Miningプロジェクト
● 正式名称
深海鉱物資源開発のための革新的ソリューション事業
“Breakthrough Solutions for Mineral Extraction and
Processing in Extreme Environments – Blue Mining”
● 背景と目的
欧州委員会(EC)が推進する、第7次研究枠組み計画
(Seventh Framework Programme、
:FP7)の 中 で、 持 続
可能な深海資源開発技術の開発を支援するための4年
間のプログラムである。環境調和型、低コスト、極限
環境対応技術を開発することにより、欧州へのハイテ
ク原料の大規模かつ安定的な供給ポテンシャルを確立
することを目的としている。また、深海鉱業における
欧州のイニシアチブの維持、大学・研究機関での教育・
人材育成の推奨も目的とする。
深海という極限環境に適用できる技術の開発を行う
ために、欧州の19研究機関・企業が参加してコンソー
シアムを組成して実行する。対象とする分野は、深海
資源の探査、資源評価、開発技術の他、法的規制制度
までを含む広い分野とバリューチェーンにまたがる領
域である。コンソーシアムでは、IHC Mersede社
(オラ
ンダ)が先導役となり、Uniresearch社
(オランダ)がプ
ロジェクト管理を担当する。
● アプローチ
深海資源開発へのアプローチは、基本的に陸上資源
開発と同様であり、その過程は以下のとおりである。
①プロジェクト発掘 Project Discovery
②探査 Exploration
③資源量把握 Resources Definition
④スコーピングスタディ Scoping Study
⑤プレFS Pre-feasibility Study
⑥FS調査 FS Feasibility Study
⑦プロジェクト認可 Project Approval
⑧ファイナンス Financing
⑨実行(建設) Implementation
⑩操業 Operation
深海資源開発は、陸上と比べて、鉱物資源の性状と
開発環境が異なっており、全く異なる技術、操業方法
が適用される。本プログラムでは、基本的には鉱業プ
ロジェクト開発の手法をベースとし、
「技術成熟度方
式」
“Technology Readiness Level(TRL)”を 適 用 す る。
TRLは、技術開発の成熟度を評価する手法である。
これまでのところ、深海鉱業のためのFS調査が行
われた例はなく、本プロジェクトでは、海底熱水鉱床
及びマンガン団塊の開発のためのFS調査のブループ
リントを作成することを目標とする。TRLにおいては、
TRL6(試作機による実証試験)までを目標とする。
● スケジュールと予算
本プロジェクトは、EUの第7次研究開発枠組みプロ
グラムとして登録されている。補助期間は、2014年2
月1日~2018年1月31日の48か月間で、総予算15百万€
(約20億円)を予定しており、このうち、EUからの補
助金は10百万€(約14億円)である。
【参考】
<第7次研究開発枠組みプログラム(FP7)
>
FP7は、2007~2013年に、保健、食糧・農業・バイ
オテクノロジー、情報通信技術、ナノサイエンス・ナ
ノテクノロジー・材料・新生産技術、エネルギー、環
境(気候変動を含む)、運輸(航空を含む)、社会経済学・
人文科学、安全・宇宙の9分野について支援を行うプ
ログラムである。
2015.3 金属資源レポート
81
(637)
深海鉱業、2014年の国際的動向
4. 深海鉱業のトレンド
資源需要の高まりによる価格高騰と供給不安の増加
は、欧州にとってクリティカルである。長期的な資源
安定供給は重要課題であり、深海資源の重要性が増加
している。
深海資源は1970年代に関心が高まり、最近では陸上
資源の開発のリスクも高まっているとはいえ、深海資
源の開発に取り組むために必要な技術について、現状
では、実行可能なレベル(Technology Reainess Level:
TRL)に達していない。
レポート
外務省、国家安全保障会議、海軍
(水路部)
、地質科学
局、原子力研究所、国営石油企業ペトロナス、探鉱会
社(ペトロナスコントラクター)
、マレーシア科学技術
大学、マラヤ大学等約80名が参加した。
MIMAは交通省傘下で1993年に設立された。マラッ
カ海峡・南シナ海における海事、安全保障、資源、環
境、海洋関連法規・国際条約などに主眼を置く研究・
政策立案機関である。マレーシアは、近年のISAとの
探査契約の増加による深海資源探査活動の活発化の流
れを受け、将来的に深海資源開発にどのように取り組
んでいくかを模索している。本会議の主眼は海底鉱業
に関する関係各国の最新動向、メリット、マレーシア
国内の体制づくり
(所管官庁、機関、予算等)
に焦点が
置かれた。
レポート
【出典】
・Blue Miningウエブサイト
・駐日欧州機関代表部ウエブサイト
・Managing impacts of deep-sea resource exploitation - the
MIDAS project
Philip Weaver, Seascape Consultants社
(英国)
(UMI2014発表資料)
深海鉱業、2014年の国際的動向
4-1-2 MIDASプロジェクト
● 概要
欧州委員会(EC)が推進する、第7次研究枠組み計画
(Seventh Framework Programme、2007~2013:FP7)の
中で、深海の鉱物資源開発に係る環境影響の低減化技
術の開発を目的とするプログラムである。
対象資源は、
マンガン団塊、海底熱水鉱床、コバルトクラスト、深
海底レアアース泥で、補助期間は、2013年11月1日か
ら3か年である。対象海域は、地中海、大西洋、北海
の他、太平洋(C-Cゾーン)である。このためにロシア
を含む欧州11か国、32の研究機関・企業の他、社会科
学、法律関係企業、NGO等が参加する。
MIDASは、深海鉱業が及ぼす環境影響について、
生物多様性のベースライン評価及びそのためのモニタ
リングのための手法、技術の開発を行う。欧州委員会
その他の規制当局の意見も取り入れ、深海鉱業のベス
トプラクティスを構築するもので、対象研究分野は以
下のとおりである。
1. 深海資源開発による、環境影響の規模、継続時間
の特定
2. 環境調和、社会受容可能な商業活動のための操業
手法、ベストプラクティス規則の開発
3. 経済的な環境モニタリング技術の開発、環境回復
手法の確立
4. EU及び他国政府機関と協力して国内法、国際法
におけるベストプラクティスの策定
● ワークプログラム
MIDASのワークプログラムは、エコシステム研究、
環境毒性、地質、地質工学、地球化学の他、利害関係
者参画、社会経済、法制度、政策等広い分野をカバー
する。
基本的には、11分野のワークパッケージから構成さ
れる。
WP1: 地質インパクト
WP2: ダイナミック環境中のプリューム
WP3: 環境毒性
WP4: 遺伝子連携への影響
WP5: エコシステムの役割、機能への影響
WP6: エコシステム弾性及び回復性への影響
WP7: 操業管理実施
WP8: 開発手順及び標準化の推進
WP9: 社会的フレームワーク及び法制度
82
2015.3 金属資源レポート
(638)
WP10: 新モニタリング技術
WP11: プロジェクト管理
上記のワークパッケージでは、WP1~WP3において
予測されるインパクトの性状、規模の推定を行い、
WP4~WP6においてこれに基づく、物理的ファクター
がエコシステムに与える影響の評価を行う。WP1~
WP6は、プラクティス、基準、プロトコルの開発を支
援し、その結果は、WP9に反映される。WP9では、科
学的なファクターに基づいた勧告をどのように社会的
フレームワーク、制度に取り組むかを検討する。また
MIDASでは、海底熱水鉱床、レアアース泥、ガスハ
イドレートを対象に、これらに共通事項の抽出を行う。
4-2 Nautilus Minerals社
● 沿革
カナダトロント市場上場の深海資源開発企業であ
り、太平洋地域の海底熱水鉱床、マンガン団塊の開発
を目指している。特に、2011年1月、パプアニューギ
ニア政府より同国経済水域内に賦存するSolwara1鉱
床の採掘権を取得し開発を目指して活動している。
同社は、太平洋地域のPNG、トンガ、フィジー、バ
ヌアツ、ソロモン諸島、ニュージーランドの経済水域
内に約50万k㎡の鉱区を保有又は申請中である。また、
子会社のトンガ海洋鉱業会社(Tonga Offshore Mining
Limited:TOML)が、2011年9月にISAと東太平洋のCC
ゾーンのマンガン団塊探査契約
(75,000 k㎡)を締結し
た。この契約はISAの探査契約の中で初めて民間企業
と締結したものである。
同 社 の 主 要 株 主(2014 年 5 月 現 在 )は、Mawarid
MiningLLC
(28.14%、オマーンのファンド)
、Metaloinvest
Holding(Cyprus)Limited
(20.89 %、 ロ シ ア の 鉄 鋼 メ ー
カー系企業)、Anglo American
(5.99%)である。
● ビスマルクプロジェクト
(PNG)
PNGにおける海底熱水鉱床の探査開発は、ニューギ
ニア島及びニューブリテン島の北方に広がるビスマル
ク海に広がるビスマルクプロジェクトと呼ばれてい
る。ビスマルクプロジェクトは、許可済み探鉱鉱区45
件、申請中の探鉱鉱区18件、採掘鉱区1件から構成さ
れる。対象鉱区の水深は1,500~2,500mで、探査鉱区
の面積
(許可済み、申請中)は約10万km2である。この
うち開発対象となっているのは、4鉱区(Solwara1、5、
9a、9b)で面積は59.11 k㎡である
● Solwara1プロジェクト
ニューブリテン州の州都ラバウルの北方50kmに位
置する。水深1,600m程度に発達する海底熱水鉱床(活
動中)で、開発対象面積は0.112km2である。現在の資
源量は、概測資源量(1.03Mt、銅7.2%、金5g/t、銀23g/
t、亜鉛0.7%、カットオフ銅2.6%)、予測資源量(1.54Mt、
銅8.1%、金6.4g/t、銀34g/t、亜鉛0.9%)である。同鉱
【経済性】
生産能力は、1.8Mtpa
(乾量、120万t/年、以下同)で、
当初は鉱石1.2Mtpaで生産を開始する。全体の生産量
は海底での採掘能力によるが、3,450~3,710t/日
(平均
1.35Mtpa)で行われる予定である。現在の初期投資額
は3.83億US$
( 予備費17.5%を含む)とされている。操
【Solwara1プロジェクトを取り巻く状況】
同社は民間企業として、マンガン団塊及び海底熱水
鉱床の開発を推進しているが、PNGのSolwara1プロ
ジェクトが最も開発に近い位置にある。2014年11月に
は、採鉱試験に必要な浮動式作業船の傭船契約を締結
したことを発表しており、同船の2017年の配船にあわ
せて実海域でのコミッショニングを実施する可能性が
高い。同社の社長は、
「陸上の資源の開発のリスクが高
まっており、いずれ海底の資源開発の重要性が増す」
と発言している。同社は、海底熱水鉱床の開発に最も
近い存在であることは間違いないが、製造中の採掘機
の実証性について全く発表されていない等技術的に不
明な点がある。また今後採掘支援船の建造、採掘・揚
鉱パイロット試験の実施等に必要な資金の調達が充分
かどうか、本格的商業生産ができるかどうか、不明瞭
な側面が窺われる。こうした点を踏まえて今後の同社
の動向を注視する必要がある。
【参考】
・Offshore Production System Definition and Cost Study
Nautilus Minerals Inc. Document No.SL01-NSG-XSRPRT-7105-001,
Revision 3-21 June 2010
・Fact Sheet、Q2 2014、Nautilus Minerals
4-3 深海資源の生産技術開発の動向
現在深海資源の開発は、ISAにおける探査活動の他、
国際会議等におけるトピックスとしては、新規鉱床基
礎調査、環境調査等が活発であるが、これに反し、採
掘、揚鉱、選鉱・製錬等の生産技術に関する議論が少
ない。これは深海資源の探査、環境調査に取り組む開
発者は多いものの、生産技術に取り組む開発者が少な
いことを意味する。前述のNautilus Minerals社以外で、
深海資源の採鉱システムの開発を行っている国とし
て、韓国、中国、インド、IOM、日本等がある。
以下に、生産技術を推進している例として、IOM、
韓国の動向について報告する。
4-3-1 IOM(Interorceanmetal Joint Organization)の
沿革
旧社会主義国を中心としたマンガン団塊開発のため
の国際コンソーシアムとして1987年に設立された。構
成国は、ブルガリア、キューバ、チェコ、ポーランド、
ロシア、スロバキアの6か国である。1992~2001年に
かけて、海洋法条約上の先行投資者として登録され、
2001年にISAとマンガン団塊の探査契約を締結した。
2015.3 金属資源レポート
83
(639)
深海鉱業、2014年の国際的動向
【開発計画】
採 掘 シ ス テ ム は、 ま ず 補 助 カ ッ タ ー
(Auxiliary
Cutter)
で採掘を行うための整地作業を行い、バルクカ
ッター(Bulk Cutter)で海底熱水鉱床の鉱石を掘削す
る。両方のカッターとも、採掘して鉱石を揚鉱システ
ムに送ることができる。鉱石は海上の採掘支援船から
垂直に下ろされるライザーシステムを通って海底から
ポンプアップされる。採掘支援船では、スラリー中の
鉱石の脱水分離を行い、鉱石は約50km離れたラバウ
ルに設置される予定の貯鉱場に運ばれる。
同社のプロジェクトは、採掘からラバウルの貯鉱場
まで鉱石を運ぶ範囲を想定しており、鉱石の選鉱、製
錬並びにそのための輸送分野を含んでいない。2012年
4月、粗鉱のまま中国の銅製錬業者が引き取るオフテ
イク契約を締結した。
一方鉱石処理プロセスについて、基礎試験の結果は
以下のとおり報告されている。
・銅は主に黄銅鉱として含まれ浮遊選鉱により、実収
率85~90%で、銅品位25~30%の精鉱を生産するこ
とができる。
・鉱石中のヒ素は硫砒鉄鉱の中に含有されており、精
鉱中のヒ素濃度はペナルティーとなるレベルより低
い。
・金は、25%が銅精鉱中に回収され、60~70%は黄鉄
鉱精鉱中に回収される。黄鉄鉱精鉱中の金は通常の
焙焼-シアン法または加圧参加-シアン法により実収
率80~90%で回収される。
同社は現在英国において、補助カッター、バルクカ
ッター等の海底の採掘機械の組立てを完了し、残る集
鉱機の組立てが残るだけとなった。これら三つの採掘
機器の完成後、海底でのパイロット試験を実施する計
画である。
業コスト(予備費を含まない)は23.7万US$/日と算定さ
れているが、鉱石あたりでみると、ラバウルまでの運
搬費を含むと64US$/日である。
(生産量1.35Mtpaをベー
スとする)
レポート
床は銅品位が7~8%、金品位5~6g/tと高い特徴がある。
Solwara1プロジェクトは、Nautilus Minerals社が2008
年に採掘鉱区の申請をPNG政府に行い、2009年12月に
環境許可、2011年1月に採掘許可が認可された。
2012年にPNG政府は同社が義務を果たしていないと
いう理由で開発を認めない方針を固め、一時開発が危
ぶまれた。
その後両者が交渉を続けた結果、
2014年4月、
和解に達し、PNG政府が30%までのシェアを獲得でき
ることとなった。PNG政府は、2014年12月までに1.2
億US$を支払い、同プロジェクトのシェア15%を取
得した。PNG政府は12か月以内に、さらに15%のシェ
アを取得する権利を有している。
● 技術開発動向
レポート
深海鉱業、2014年の国際的動向
IOMの技術開発プロセスは以下のように進めている。
・既存採掘技術をベースとしたプレFS調査
・マンガン団塊特有の環境を考慮した概念設計
・サブシステムのモデリングと試験
・パイロット試験のための採掘システムの詳細設計
IOMでは、実海域でのパイロット試験を検討してい
るというが、まだ具体的な時期は明らかにされていな
い。
【採掘】
既存技術の検討を元に、概念設計の実施を行ってき
た。開発技術として、採掘システム、揚鉱システム、
採鉱支援船の検討の他、揚鉱の室内試験を行った。こ
れに基づいてプレFS、実証のための概念設計、要素
実験、ならびに実証のためのパイロット採掘システム
の開発を行う。マンガン団塊と海底地形、団塊のサイ
ズ、採掘工法、環境インパクト等に関する情報をもと
に開発エリアの地質、工学、環境を考慮し、採掘シス
テムを構築する。特に環境に関し、採掘による海底攪
乱、底質土の巻き上げの抑制、揚鉱等の技術は研究中
である。
【製錬技術】
鉱石処理技術として、湿式法、乾式法、酸アンモニ
アリーチング等の技術を検討し、プレFSにおける最
適な技術を検証した。
【参考】
IOMウエブサイト
4-3-2 韓国
● 韓国の深海鉱業への取組
韓国政府は、韓国海洋研究所(KORDI)
(現韓国海洋
科学技術院、KIOST)が中心となり、1983年にマンガ
ン団塊の調査を開始し、先行投資者として、2001年に
ISAと探査契約を締結した。その後、公海上での海底
熱水鉱床、クラスト鉱床と調査対象を拡大するととも
に、調査海域も、クラスト鉱床は太平洋西部及び南部
の島しょ国EEZに拡大した。海底熱水鉱床はインド洋
公海域で調査を実施した。
韓国の深海資源ヘの取組は、主に、韓国貿易産業エ
ネルギー省(MOTIE)によるマンガン団塊探査と、韓
国科学技術省(MOST)による技術開発、環境調査が並
行して実施されてきたが、1996年より新設された海洋
水産省(MONAF)の所管の下で統合され実施されてき
た。
● 海底熱水鉱床探査の調査
1998年より韓国海洋科学技術院
(KIOST)が技術開発
計画として海底熱水鉱床の調査を開始した。2002年よ
り太平洋島しょ国EEZ内
(フィジー、トンガ)での調査
を開始し、
トンガ政府
(2008年3月)
、
フィジー政府
(2011
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(640)
年11月)より探査鉱区を取得した。また、インド洋中
央海嶺での調査を2009~2012年にかけて実施し、2014
年6月、ISAと探査契約を締結した。2009年3月、国土
交通海事省(MLTM)は、トンガでの海底熱水鉱床開発
の た め に、 海 底 熱 水 鉱 床 技 術 開 発 機 構(Seafloor
Sulfides R&D Organization:SERADO)を 設 立 し た。
SERADOは、KIOSTを中心に民間企業5社(Daewoo造
船 海 洋 技 術 社、LS-Nikko Copper社、SK Networks社、
POSCO社、Samsung重工業社)が出資して設立された。
2015年に試験採掘を実施する予定である。
● 技術開発
探査活動と並行して、2003年より採掘システムの開
発にも着手した。開発計画によると、海底採鉱機の開
発 を Mine Ro-I
(2003 ~ 2010 年 )、Mine Ro-II
(2011 ~
2013年)として実施し、Mine Ro-IVが商用化フェーズ
とされている。Mine Ro-Iについて2009年と2010年に
海洋実験を行った後、2013年にMine-Ro IIの海洋試験
を行った。これと同時に、マンガン団塊の製錬技術の
開発も行っている。
● 今後の取組
韓国は、太平洋でのマンガン団塊の開発に取り組む
とともに、インド洋の海底熱水鉱床の調査活動を行い、
2014年、ISAとインド洋中央海嶺における探査契約を
締結した。さらに、現在平洋北西海域でのクラスト鉱
床の探査契約を準備している。また調査活動の強化の
ために、調査船(5,000tクラス)を建造中で2015年就航
予定であるとされている。
5. まとめ
● 2014年は一つの節目
2014年は海洋法条約の発効、ISA設立から20年が経
過し、深海鉱業にとって一つの節目となった。この20
年間に、公海域での探査活動の管理する体制が作られ、
実際の探査活動が開始された意義は大きい。近年、探
査申請件数も増加し、同時に開発途上国を中心に深海
鉱業に対する期待も引き続き高い。
● 一方で、1970年代以降、深海資源の探査活動及び
技術開発が継続的に行われているが、いまだ開発に
向けた見通しが立っていない。
● 先行投資7グループの探査契約がまもなく終了
ISAの管理下、2001年に始まった先行投資7グルー
プによるマンガン団塊の探査が、2016年以降、15年の
探査期間の満了を迎えるが、いずれのコントラクター
も開発段階に移行できる成果を上げていない。また、
ISAにおいても、探査契約の延長に関するクライテリ
アが未定である上に、探査の次の段階の開発規則の策
定作業が遅れている状態であり、制度上も開発段階に
移行できる状態にない。
● 深海鉱業に対する関心の高まり
このような状況下でも、陸上資源開発のリスク要因
の上昇もあり、深海鉱業に対する期待感は高まってい
る。2014年のISA年次総会においても、新たに7件の
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深海鉱業、2014年の国際的動向
関する技術開発に取り組んでいるのは、韓国、中国、
インド、IOM、日本等に限られる。また民間企業と
してNautilus Minerals社が採鉱機の建造を行ってい
るが、まだ実証されていない。
④先進国においても、関心の中心は「技術」というより、
環境調査手法、管理制度等の議論が先行しており、
現状のままでは適正な開発を阻害する可能性も危惧
される。
● 今後の課題
①1970年代以降、深海鉱業に対する国際的枠組みは作
られたものの、技術的実証がされておらず、深海鉱
業の評価ができていない。
②目標なく調査、研究開発を進めるより、早期に、要
素技術の技術的実証を行い、技術的可能性、深海鉱
業プロジェクトの評価を行う必要がある。
③予算の確保が難しい面もあるが、いずれかのコント
ラクター、関係者かが、技術に関する一定の評価を
行い一つの区切りを作る必要がある。
④各コントラクター単独での予算確保が難しい状況で
あれば、国際的な協力で進める体制も検討する必要
がでてくる。場合によっては、ISAが音頭をとって
国際協調体制を作り実証試験を行うことも考えられ
る。ただし、巨額な予算負担とシェア、知的所有権
の管理等の課題も大きい。
⑤世界的にみると、生産技術に関し、韓国、中国、イ
ンド、IOM、日本等が技術開発を進めている。いず
れかの国・グループが、深海鉱業技術の見極めを早
期に行うことが期待される。
(2015.2.12)
レポート
新規探査契約が承認され、探査契約件数
(承認ベース)
総数は26件となり、その後新たな申請1件があったた
め、年末時点の総数は27件となった。
● マンガン団塊探査が開発段階に移行できない理由
①これまでの調査量の蓄積から、資源量評価は一定の
成果を上げている。
②採鉱、揚鉱、製錬のいずれの分野においても技術的
な実証が行われていない。
③各コントラクターとも、巨額の技術実証のための予
算が確保できていない。
④技術が実証されていない段階で適切な経済性の評価
は時期尚早といえる。
⑤世界の鉱物資源の需給に関し、いわゆる
「スーパー
サイクルの終焉」
、中国を中心とした経済成長と資源
需要増加の鈍化等の経済要因の変化に加え、世界経
済の不安定性、将来予測の不透明性もあり、深海鉱
業に対する意思決定が益々難しくなっている。
● 深海鉱業を取り巻く最近の国際的トレンド
「人類共通の財産」
としての深海資源の位
①海洋法条約の
置づけから、締約国の大部分を占める開発途上国を中
心として深海鉱業に対する期待感は引き続き高い。
②一方で、深海鉱業の環境保全の規制及び管理に関す
る議論は活発化しており、ISAのみならず国際的な
シンポジウムにおいて、
「技術開発」より、
「環境保
全」
「開発途上国への利益配分」
、
等の付帯的議論が卓
越している。
③深海鉱業にとって、生産に関する技術的実証が重要
な課題であるにもかかわらず、それを取り巻く枠組
みについての議論しかされていない。現在、生産に
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