平成 21 年度新潟薬科大学薬学部 新潟薬科大学薬学部 新潟薬科大学

平成 21 年度新潟薬科大学薬学部
年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅰ
新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅰ
論文題目
液体 SbSb-Fe 合金の電気的磁気的性質の研究
合金の電気的磁気的性質の研究
物理学研究室
物理学研究室 4 年
06P112
梅田 有紀子
(指導教員:物理学研究室
(指導教員:物理学研究室 大野 智教授)
教授)
要 旨
通常金属と遷移金属の液体合金に関する電気抵抗率や帯磁率の研究を、特に遷移金属
Mn,Fe,Co,Ni について、測定されている実験データをもとに、s-d 相互作用による影響を理
解する。液体 Fe-Ge,Co-Ge,Ni-Ge 合金などの電気抵抗率の濃度依存性が、遷移金属の
3d 電子状態と伝導電子との s-d 相互作用により、明確な極大を示すことを検討する。また、
遷移金属の 3d 電子状態をもつことによる多様性について検討する。今回の研究テーマである
Sb と、遷移金属で 3d 電子状態をもつ Fe を選んだ。液体 Sb-Fe 合金について、純粋 Fe
の電気抵抗率、帯磁率などから、性質がどのように変化していくか検討するのは興味深い。
単純液体遷移金属合金との違いについても検討した。卒業研究Ⅱではこの研究を基に、実
験データを得て、液体 Sb-Fe 合金の電気的磁気的性質を解析していく。
キーワード
1.液体遷移金属
2.電気抵抗率
3.帯磁率
4.s-d 相互作用
5.伝導電子
6.3d 電子状態
7.常磁性
8.マフィンティンポテンシャル
9.液体 Sb
10.フェルミエネルギー
11.t 行列
12.擬ポテンシャル
13.希薄金属
14.磁性状態
15.状態密度
目 次
1.はじめに
・・・・・・・・・・・・・・・
2.純金属の電気抵抗率
・・・・・・・・・・・・・・・
3.純金属の帯磁率
・・・・・・・・・・・・・・・
5
4.合金の帯磁率
・・・・・・・・・・・・・・
6
5.液体 Sb-Fe について
・・・・・・・・・・・・・・・
9
6.おわりに
・・・・・・・・・・・・・・
11
引用文献
・・・・・・・・・・・・・・・
12
1
2
論 文
1. はじめに
通常金属と遷移金属の液体遷移合金に関する電気抵抗率や帯磁率の研究は、Busch
と Günthrodt 等によって、かなり詳細に調べられてきた。
これらの液体遷移合金の研究は、特に液体 Mn,Fe,Co,Ni について集中的に調べられて
きた。測定された実験データは、s-d 相互作用のモデルで説明されている。
液体状態の通常金属と遷移金属の場合、電気抵抗率や帯磁率は遷移金属イオンの 3d
状態と伝導電子が関係する。特に液体 Fe-Ge,Co-Ge,Ni-Ge 合金などの電気抵抗率の
濃度依存性が、遷移金属の 3d 電子状態と伝導電子との s-d 相互作用により、明確な極
大を示す。s-d 相互作用とは、局在している 3d 電子状態と、自由に動ける 4s 電子である
伝導電子との相互作用を表すものである。
Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni などの遷移金属は、空の 3d 電子状態をもつため化合物として多
様性をしめす非常に興味深い物質である。軌道のエネルギーの大きさにより、4s 軌道が閉
殻しないまま 3d 軌道に電子が入っていくことで、様々な荷電状態をとり、錯体形成や常
磁性のイオンを生じる。2
これらの液体遷移金属と例えば Ge 合金の帯磁率は、液体の Ge に Fe,Co の遷移金属
が添加されるとき、大きく増加する特徴がある。
単純な液体金属である液体 Sn の電気抵抗の実験値、遷移金属に対する基準になる液
体 Cu と遷移金属 Fe,Co,Ni の合金の電気抵抗率の実験結果、s-d 相互作用の理論、液
体 Ge-Fe 合金の濃度や温度に対する帯磁率の実験結果を参考にして、単純な液体金
属から少し異なる液体 Sb の電気抵抗率や帯磁率が、遷移金属 Fe との合金によってど
のようになるかを、電気抵抗率は s-d 相互作用の理論から濃度依存性を検討し、帯磁率
は温度依存性から磁性状態を検討する。
1
2.純金属の電気抵抗率
2.純金属の電気抵抗率
液体 Mn,Fe,Co,Ni の電気抵抗率は、原子番号順に減少している。
これらの結果は、Evans 等が示唆した液体遷移金属の電気抵抗率の理論によって解釈
することができる。彼らは、イオンのマフィンティンポテンシャルの t 行列によって擬ポテンシャルを置き
換えることにより、主に物理的な議論を用いて、ザイマン公式を拡張した。
電気抵抗率
200
Mn
160
Fe
電気抵抗率(
電気抵抗率(µΩ
µΩ
µΩcm)
cm)
120
Co
Hg
Ni
80
40
Cu
0
3d5
3d6
3d7
3d8
3d10
Zn
Ga
Ge
図 1
図 1 横軸は原子番号順に 3d に入る電子の個数として、縦軸には融点での液体
Mn,Fe,Co,Ni,Cu の電気抵抗率を表した。比較として、液体通常金属の Zn,Hg,Ga,Ge
の電気抵抗率の値も示す。抵抗率の温度係数は正とする。
2
次に、Gyorffy と Szabo は、ザイマン公式から、位相のずれとイオンの位置によって、抵抗
率に関する正確な表現を引き出した。
電気抵抗率ρ は純金属の時、ザイマン公式(1)で表わされる、
ρ =
πΩ
α (K)|t(K)|2k3dK
ℏ ・・・(1)、
Ωは原子容、vF はフェルミ速度、α(K)は構造因子、t(K)は式(2)より部分波の表示によって
定義されている単一サイトのt行列である。
t(K) =
πℏ 1
()
Ω
∑(2l + 1) sinηj(E)expηl(E)Pl(cosθ) ・・・(2)、
m は電子の質量、EF はマフィンティンの 0 に相対的に測られた際のフェルミーエネルギー、この合
計は散乱に寄与する様々な部分波にわたっている。
Pl(cosθ)は l 番目のルジャンドル多項式が使われており、ηl は各イオンの位置の中心に置か
れたマフィンティンポテンシャルによっておこるイオン核による伝導電子の散乱によって記述される
部分波の位相のずれである。もし、d の位相のずれ η2 が遷移金属のフェルミエネルギーで主
要になるなら、電気抵抗率は次の近似式(3)で書かれることができる、
ρ =
π ℏ
sin2η2(EF)α(2kF)・・・(3)
Ω
Friedel sum rlue より、sin2η2(EF) を
ρ =
π ℏ
Γ
α(2kF)
Ω
Γ !("#$ )
π
∑(2l + 1)η で置き換えると式(4)となる、
・・・(4)
Γ と Eres は、3d 電子状態の中心に近似的にあり、散乱の共鳴の幅と位置である。
式(3),(4)をグラフ化した。
図 2
(a)
(b)
3
図 2(a)は、3d 電子状態時のα(K)構造因子の値を縦軸に、横軸に波数をとったものであ
る。波線部分は、液体遷移金属の二体の相関関数の寄与を示している。
ここでは、共鳴のフェルミエネルギーでの位置、幅、位相のずれについての、電気抵抗の敏感
な依存性が描かれている。液体遷移金属の電気抵抗率には、2つの主な寄与があること
がわかる。一つ目は、二体の相関関数の寄与である。
今まで行われた研究では、液体遷移金属である Fe,Co,Ni はすべて、液体 Cu との二体
の相関関数と良く一致し、二体の相関関数を同じように実験的に決定されてきた。もし、
液体遷移金属のおのおのの中で、同じ伝導電子の数と仮定すると、相関関数から
ほぼ同じような小さい寄与になるであろう。
二つ目は、影響としてポテンシャルに対する電子の共鳴散乱である。図 2(b)は、同じく
3d 電子状態で、位相のずれη2 を縦軸に、横軸に共鳴エネルギーをとったものである。図を
みると、液体 Mn,Fe,Co,Ni,Cu の電気抵抗率の減少は、3d 電子の増加によるもので
ある。これは、これらの金属中での 3d 電子状態の共鳴エネルギーと、これらフェルミエネル
ギーの間の差の増加による。E res と E F は、およそ 3d 電子状態を半分満たす Mn で
は共に近しい。3d 電子の数が増加するに従って、(E res -E F )の差は増加し、共鳴
散乱、抵抗率は減少する。
電気抵抗率の数値計算は、ポテンシャル、η 2 位相のずれ、フェルミーエネルギー E F 、そし
てフェルミー波数 k F に対して正確な値が必要である。
t 行列を計算できる液体金属中のポテンシャルに対しては、交換と相関を含んでいる
所の1電子 ポテンシャルを選ぶことが必 要である。恐らく、得 ることができる最 も良 い近
似は、矛盾のない構造計算から引き出されたマフィンティンポテンシャルである。Wood は
液体 Fe に対して、結晶マフィンティンポテンシャルを計算の中で用いた。それは 3d 7 4s 1 形
態と対応する。液体での Ni のマフィンティンポテンシャルは、実験から割り当てられた、最
近接の距 離と配 位数 をもった殻中 の原 子の中心に置かれ、重 なった Herman と
%
Skillman の電荷密度と配位数によって作られた。マフィンティンの半径は aであるよう
にとられた。マフィンティンポテンシャルの外側では、ポテンシャルはマフィンティン 0 に等しく一定
で あ る と 仮 定 さ れ た 。 考 え ら れ る も う 1 つ の 3d 8 4s 2 配 置 よ り む し ろ 、 Herman と
Skillman の 3d 9 4s 1 配置が選ばれた。
適当なマフィンティンポテンシャルと共に、位相のずれはマフィンティンの内部で数値 的にシュ
レディンガー方程式を積分することによって計算された。(1)式中の t 行列を構成する
ために、液体金属のフェルミーエネルギーでの位相のずれを計算する必要がある。
フェルミーエネルギーは Dreirach によって与えられた方法を用いて計算されてきた。
(5)式によって定義される。
E F = E b + (ℏ /2m*)k F 2 ・・・(5)
ここで、E b はマフィティン 0 から測った、伝導帯の底のエネルギーである。ザイマンは固体中
のバンドの底 E b を計算することに関して規定を準備している。
4
同じ計算は液体状態にも応用されている。
フェルミー波数 κ F は、下式の自由電子の公式によって与えられ、液体通常金属と仮定
すれば、伝導電子の値で決定される。
k F = (3 π 2 Z/ Ω) 1/3
・・・(6)
ここで、Z は液体遷移金属の価数である。
液体 Fe,Ni に対して Z = 1 の値は、遷移金属合金の抵抗率と帯磁率の合金化する
性質から引き出された結論を基礎にされている。純液体遷移金属の値 k F は、一価
の貴金属と同じ大きさであり、多価の通常金属の値 k F よりもかなり小さい値である。
Dreirach 達は液体 Fe に対して 196µΩcm、液体 Ni に対して 78µΩcm の電気抵
抗率をそのような値 k F にともなって見つけている。これらは、それぞれ 139 と
85µΩcm の実験値とほぼ妥当な一致であると考える。 1
3.純金属の帯磁率
純金属の帯磁率
温度の関数として液体
Ni,Mn,Fe,Co の逆帯磁率を図 3
に示す。高温での Fe,Co,Ni の逆
帯磁率の温度係数は正である。こ
のような温度でのその依存性は遍
歴する電子又は局在している磁気
モーメントの 2 つの常磁性モデルに由
来する様々な公式の種類により、
合わせることができる。合金の議論
はどちらのモデルが液体遷移金属と
その合金に対して適切かどうかを
示す。
図 3
5
ただ、純液体 Mn のみは融点以上での
温度の増加とともに、増加する帯磁率を
示す。融点における帯磁率の変化は
Mn,Co,Ni では小さい。図 4 には、融点
における帯磁率の値を示す。それらは
Mn から Fe で増加し、Co で極大値に達
し、Ni と Cu に減少する。1
4.合金の帯磁率
合金の帯磁率
二つの遷移金属の合金の帯磁率の測
定では、帯磁率の値は純粋な液体の時の値
図 4
の間で連続的に変化している。液体 Mn-Fe,Co-Ni 合金の帯磁率は直線的に変化する
のに対して、液体 Fe-Ni 合金は極大値を示すことが知られている。通常金属を含んだ遷
移金属合金の磁気的な性質について
は、長年関心が持たれていた。しかし固
体状態の実験的研究は、希薄合金やい
くつかの固体に制限されている。そのた
め、液体状態だけは、より濃縮された合
金への研究の可能性が用意されている。
このように帯磁率の性質の説明は希薄
(混合低濃度合金)、高濃度合金、純金
属の 3 つの分野を考えなければならな
い。
図 5 は Co 合金と Fe 合金の帯磁率の
動きを示している。Co 合金の帯磁率は、
通常金属合金の濃度の増加とともに急
速に減少している。同じ特性が Ni 合金
でも観測されている。
図 5
6
Fe 合金の帯磁率は、通常金属の濃度の増加とともに極大を示し、それから通常金属の
帯磁率の値へと減少している。同様にしての帯磁率の極大は Mn 合金に対して観測され
てきている。濃度の増加による帯磁率曲線の形は、一方の Co 合金や Ni 合金と他方の
Fe 合金や Mn 合金とで、はっきり見分けることができる。
温度の関数として Co-Ge 合金の逆帯磁率を図 6 に示す。正の温度係数は純 Co と高濃
度 Co 合金で観測されている。温度係数の符号は Ge45%で変化している。
液体高濃度 Ge 合金の逆帯磁率の温度係数は負である。組成に伴う温度係数の変化は
一定温度においては高濃
度 Co 合金では小さい。し
かし高濃度 Ge 合金では
組成に伴って著しい変化
がある。この濃度領域の中
間における温度係数の急
激な変化は Ge を含む液
体 Co の希釈による簡単な
説明はできない。理由は、
この濃度における測定され
た帯磁率の値が純液体
Ge より、まだたいへん大き
いからである。
固体状態で集中的に研
究され比較的よく理解され
た Cu-Ni 合金の結果は液
体状態でもかなり興味深い
図 6
ものである。常磁性的な個体と液体状態に関して、帯磁性の大きさに対してと逆帯磁性
の温度係数に対しての同じ動きが観測されてきている。飽和磁化が 60%の Cu よりわず
かに高い濃度の液体状態で見出されている。その Cu-Ni 合金は液体遷移金属合金の
帯磁率を理解する鍵になるだろう。
7
図 7 から、Fe や Co と Ni を含
む Ge 合金の温度係数の符号
は Ge が 69%で Fe が 315、Ge
が 45%で Co が 55%、Ge が
25%で Ni が 75%の時に変わ
っている。その濃度は 3d の電
子が増加するときに、減少する。
液体 Fe-Ge 合金とその他の Fe
合金に対して、温度の関数とし
て帯磁率の極大は高濃度通常
金属合金で観測される。
図 8
図 8 は温度の関数として Ge 中の 20%Fe 合金に対して逆帯磁率を示す。逆帯磁率は
融点の上で減少し、温度 T0 で極小値をとり、温度の増加とともに増加する。要約すると、
以上の実験の結果から、濃度の関数としての帯磁率曲線の形は、一方の高濃度 Co 合金
や高濃度 Ni 合金ともう一方の高濃度 Fe 合金の間ではっきり区別できる。帯磁率の温度
係数の符号の変
化は、通常金属の
伝導電子の数と、
遷移金属の 3d 電
子の数に依存する。
磁性‐非磁性転移
は希薄合金だけ
ではなく、濃度領
域の中間の合金
でも観測されてい
図 7
る。
8
常磁性合金の帯磁率の変化の説明に対する一般的な基礎知識は、Levin 達によって
与えられている。実験との量的な一致はこれら全ての合金中での帯磁率の濃度依存性
に対して得られる。液体遷移金属‐通常金属合金に対する計算は液体状態の状態密度
に対する妥当な仮定に依存する。そのような計算は進歩中である。量的な予測は磁力を
帯びた帯磁率の経験に基づく結果が得られるまで、希薄合金に対する量と凝縮合金に
対する量について議論されることができる。
現在までに希薄液体合金の実験データは 2 つの異なった方法で解析されてきている。
一つ目は磁性の場合、帯磁率はイオンモデルにより説明される。その磁気モーメントは
Curie-Weiss 則の傾きから推定されている。二つ目は非磁性の場合、帯磁率は局在不
純物状態の Fridel-Anderson モデルにより解析される。そのような状態はフェルミーエネルギー
での状態密度が増加し、その結果非磁気状態の高濃度通常金属の帯磁率も増加する。
温度係数の符号の変化は、明確な定義がされた状態をともなう磁性から非磁性への転移
として解釈されている。1
5.液体 SbSb-Fe 合金について
Sb は原子番号 51 の、固体状態では 3 価の半金属状態で存在し、液体状態では 5 価
で存在する物質である。今回は特に 5 価での液体状態 Sb を考える。遷移金属では、Fe
を選んだ。Fe は原子番号 26 の遷移金属のひとつで、3d 電子状態をもつため、多様性を
しめす非常に興味深い物質のひとつである.Fe は人体にとって必要な元素のひとつで
あり、主に血液で重要な働きをしている。また、Fe は他の金属との合金化により、有用な
物質としてあらゆる分野で利用されているため今回 Sb-Fe 合金について、電気抵抗率や
帯磁率の点から検討してみたい。
データより、単純な金属である Sn の電気抵抗は実験値では 48µΩcm、計算値では
36µΩcm が与えられている。一方、Sb の電気抵抗は実験値では 113.5µΩcm、計算値で
は 92.87µΩcm と、それぞれ実験値と計算値は近しいものである。1
両者を比較すると、やはり単純な金属である Sn は電気抵抗が低いのがわかる。これが、
少し複雑な金属 Fe と混ざると Sb はどのような数値になるのか。図 1 で表した液体 Fe
の電気抵抗の実験値は 139µΩcm である。また、Dreirach 達は液体 Fe に対して
電気抵抗率は(6)式から 196µΩcm を見つけている。液体 Fe の電気抵抗は液体 Sb
9
よりも大きい。合金になると液体 Fe の 3d 電子の動きはどうなるのか。液体 Ge-Fe での実
験の場合、価数 4 である Ge と価数 3 である In を比べると、Ge 合金の方が極大に達す
るのが早く、また数値も大きいというデータがある。3 これから、価数 5 である Sb は、Fe 合金
の場合には電気抵抗は Ge よりも極大に達するのが早く、極大値も高くなるのではないか
と考えられる。
帯磁率について、純粋な液体 Fe は温度の上昇に伴い帯磁率は緩やかに下がることが
図 3 からわかる。また、通常金属-Fe との合金において、通常金属の濃度の増加とともに、
極大値を示し、Fe の減少に伴い通常金属の帯磁率の値へ減少しているのが図 5 からわ
かる。したがって、通常金属とは多少異なる液体 Sb との合金でも、同じような曲線を得る
ことができるのではないかと考える。図 5 を例にするならば、Sb-Fe は Ge-Fe の曲線より
も立ち上がりが小さく、下がり方の似た曲線を描くのではないかと考えられる。
密度と分子量から、2 つの電気抵抗率について考える。(6)式を用いると以下のようにな
ℏ '
る。また EF=
m
、ℏ = 1.05459×10-27、m = 9.10956×10-28 を用いて計算した。
表 1 で、密度の変化からフェルミーエネルギーの動きが見ることができる。
表 1
密度(g/cm3)
分子量(g/mol)
Sb
6.697
121.75
Fe
7.874
55.845
体積
価数 Z
n/V(×1023)
KF(×108)
EF(ev)
18.18
5
1.65
1.698
10.98
6.815
16.90
4.6
1.64
1.692
10.91
20
6.932
15.66
4.2
1.61
1.684
10.80
30
7.050
14.47
3.8
1.58
1.672
10.65
40
7.168
13.31
3.4
1.54
1.657
10.46
50
7.286
12.19
3
1.48
1.636
10.20
60
7.403
11.10
2.6
1.41
1.609
9.87
70
7.521
10.05
2.2
1.32
1.573
9.43
80
7.639
9.036
1.8
1.20
1.525
8.86
90
7.756
8.050
1.4
1.05
1.457
8.09
100
7.874
7.092
1
8.47
1.359
7.04
Fe%
密度(g/cm3)
0
6.697
10
V(mol/cm3)
10
表 1 をグラフで表すと次のようになる。
密度
8
分子量
y = 0.011770 x + 6.697000
Fe
7.8
140
Sb
120
7.6
y= -0.659050 x + 121.750
100
7.4
80
7.2
60
7
40
6.8
20
Sb
0
6.6
0
Fe
50
0
100
50
100
グラフ 1
8.おわりに
今回検討した液体 Sb-Fe は、まずは液体金属である Fe を添加することにより、強めの
常磁性物質となるだろう。電気抵抗率からみると、s-d 相互作用から電気抵抗率は Fe の
濃度がやや多い時に極大値をとり、Sb の濃度が増えるにつれ緩やかに下がっていくこと
が考えられる。次に帯磁率から考えてみると、合金にすることによって磁性状態は下がる
と考えられる。これは図 5 で例えると、Sb-Fe は Ge-Fe の曲線よりも立ち上がりが小さく、
Sb の濃度が増えるにつれ帯磁率は減少していくと考えたからである。これらはまだ温度
や濃度により、若干のずれが生じることが考えられる。
また、合金となることで融点が低くなる、Sb 濃度が薄まることから Sb がもつ毒性が減ると
考えられる。応用として、Sb はポリエステルを精製する時の触媒として使われているが、Fe と
合金化することにより、融点が低くなり、毒性の軽減が考えられ、より安全で使いやすい触
媒になるのではないかと考えた。
卒業研究Ⅱでは、今回考えた考察が正しいことを実験から検証したいと思う。液体
Sb-Fe 合金でまだ明らかにされていない温度や濃度に伴う電気抵抗性や、帯磁率を測
定し、ポリエステルを精製する時の触媒に有用な液体 Sb-Fe 合金の濃度の割合なども検討
したい。
11
引 用 文 献
1. G.Busch and H.-J.Güuntherodt : in Solid State Physics, ed.H.Ehren
reich,F.Seitz,and D.Turn bull(Academic Press, New York, (1974)
Vol.29,p250.276-277.281-285.289-301.
2. 量子化学入門(下)、米沢 貞次郎、1964、化学同人、第 7 章
3.S.OHNO,H.OKAZAKI and S. TAMAKI: J.Phy.Soc.Jpn,36(1974)1133.
12