第 75 回応用物理学会秋季学術 講演会に参加して

特集
学生の研究活動報告−国内学会大会・国際会議参加記 21
第 75 回応用物理学会秋季学術
講演会に参加して
濱
孝
3.実験内容・結果
シリコーン(PDMS)ゴム中では分子が大きな拡
政
Takamasa HAMAZAKI
電子情報学科
4年
散係数で流動するため,図 1(a)に示すように,
劣化した色素を新鮮な色素に置き換える新陳代謝機
能が生じる.レーザ発振や変色などの機能を示す光
路上の色素分子が 2 次元拡散する速さを調べるた
1.はじめに
め,図 1(b)に示す PDMS のサンプル(直径 44
私は,2014 年 9 月 17∼20 日に北海道大学で開催
mm,厚さ 3 mm)を作製した.拡散を促進させる
された「第 75 回応用物理学会秋季学術講演会」に
ため,シリコーンオイルを硬化させる前に 60 vol%
参加し,18 日に「シリコーン中に分散した色素分
のトルエンを加えてシリコーンゴムを膨潤状態にし
子の拡散速度評価」というテーマで発表を行った.
た.分子移動を追跡するトレーサとして,安定した
変色状態(構造異性体)をもつジアリールエテンを
2.研究背景
シリコーン中に分散させ(濃度 10−4mol/l),中心部
有機色素は,発光,吸収,変色など優れた機能を
にビーム径 1.5 mm の紫レーザ(波長 405 nm)を照
示すため,様々な光制御デバイスに利用されてい
射して赤色に部分着色させた.レーザ照射部にビー
る.しかし,有機色素は劣化しやすく,素子寿命が
ム径 1.0 mm の白色光を通して測定すると,図 2 に
短くなるという問題がある.色素レーザなどでは色
示すように,もともと透明なサンプルが可視域に吸
素分子を溶媒に溶かしてポンプで循環させること
で,機能の低下を防いでいる.また,フォトクロミ
ック色素は分子構造の変化を必要とするため,自由
空間が小さい固体中よりも液体中の方が反応効率や
応答速度が高い.しかし,液体は流動性があるため
不安定で,取り扱いも難しく固体よりもデバイス化
が困難である.シリコーンは他のポリマーに比べて
分子の拡散係数や透過係数が高く,固体でありなが
ら分子の流動性をもつことが報告されている.これ
図 1 (a)新陳代謝機能の模式図.(b)PDMS
ゴムに色素を浸透させたサンプルの構造とレー
ザ照射点と測定点.
までの研究で,色素溶液をシリコーンの表面に接触
させておくと,溶媒とともに内部へ浸透していく現
象が見られた.この現象を利用して,フォトクロミ
ック色素をシリコーン中に分散させた試料で,劣化
した色素を新鮮な色素と置き換える新陳代謝機能が
生じることも確認されている.本研究では,着色に
よって分子移動を追跡できるフォトクロミック色素
を用いて,シリコーン中での拡散速度を評価するこ
とに取り組んだ.
図 2 サンプルの中心(x=0)での紫照射前と
後の透過スペクトル変化.
― S-109 ―
図 3 紫レーザを照射して 0, 1, 3, 15 時間後の
x=2 mm 位置での透過スペクトル変化.
収帯を持つようになる.そこに緑レーザを照射する
と,もとのスペクトルに戻る(フォトクロミック反
応).着色した分子が拡散するため,着色領域はし
だいに広がり,中心から x=2 mm の位置では,図
図 4 トルエン混合比が(a)1 vol%と(b)60
vol%試料中の光学濃度分布.数値は照射開
始からの時間を表し,線はシミュレーション
結果を示す.
3 のように吸収帯の増大が観測された.
4.シミュレーション結果
測定位置 x を変えていった透過スペクトル(図 3
参照)を光学濃度に変換して分布の評価を行ったも
ーンが膨潤し,拡散速度が速くなることが分かっ
のを図 4 に示す.トルエンを(a)1 vol%だけ混合
た.このことを利用すると,有機色素デバイスの長
したサンプルに比べ,(b)60 vol%のサンプルでは
寿命化を効率的に行うことができ,固体での光学デ
色素が速く拡散し,15 時間で半径 10 mm 以上に広
バイス作製に有用であると考えられる.また,今回
" !"t #!D " c (c
がっている.フィックの法則 C
2
は光学濃度)にもとづいて,2 次元拡散を有限要素
法でシミュレーションした結果,拡散係数 D を
(a)0.1×10−3,(b)1.5×10−3mm2 /s としたとき,測
の測定法を用いると他の溶媒,溶質を利用した拡散
測定も可能と考えられる.
6.おわりに
定値に適合することが分かった.トルエンの混合比
今回はポスター発表を行ったが,参加者の方々か
を 60 vol%にすることによりシリコーンが膨張し
ら多くの質問や意見をいただき,ディスカッション
て,1 vol%のものと比べて拡散速度が 6.5 倍も速く
をしている中で非常に良い経験ができた.
今回の発表を行うにあたって,懇切なご指導をい
なったことが分かる.
ただいた斉藤光徳教授をはじめ,斉藤研究室の皆様
5.まとめ
に,この場を借りて厚く御礼申し上げます.
トルエンの混合比を高くすることにより,シリコ
― S-110 ―