1.低水管理における流域管理 の重要性に関する研究

平成27年9月4日
第23回リバーフロント研究所研究発表会
1.低水管理における流域管理
の重要性に関する研究
-河川流量を流域水循環の視点から考える-
水循環・まちづくりグループ
研究員 五十嵐 武
所属、氏名は、MSPゴシック32Pt
P-01
公益財団法人 リバーフロント研究所
本日の研究発表で対象とするフィールドと目的
九州 有明海へ流れ込む
本明川流域
五家原岳
多良岳(火山)
河口(
河口(北部排水門)
北部排水門)
旧河口
夕張川
潮
諫早湾
有明海
受
諫早市
C.A.=249km2(旧:87km2)
幹川流路延長28km(旧:21km)
年平均気温:16~17℃(諫早市)
年間降水量:2,200mm(諫早市)
諫早平野
防
堤
調整池
雲仙市
橘湾
普賢岳(火山)
本明川の『河川流量に対して地下水が果たしている役
割』について水循環機構の分析を通して明らかとする。
公益財団法人 リバーフロント研究所
P-02
1
第23回リバーフロント研究所研究発表会
平成27年9月4日
1. 水循環機構の分析手順
■水循環解析モデルの構築
■水循環解析
■水循環機構の分析
1.流域全体の水循環構造の解明
雨はどこへ? 川・地下・蒸発? どれくらい?
2.本明川の河川流量に対する地下水の役割の解明
本明川の流量はどこから、どれくらい?
河川流量に地下水はどのように影響しているの?
公益財団法人 リバーフロント研究所
P-03
2. 水循環解析モデルの構築
■用いた水循環モデル『
■用いた水循環モデル『統合型水循環シミュレータ』
統合型水循環シミュレータ』
を的確に表現できる
1)地表付近の不飽和特性
1)地表付近の不飽和特性を的確に表現できる
に捉えられる
2)表流水
と地下水を連成して一体的
2)表流水と
地下水を連成して一体的に捉えられる
できる
3)3次元で物理的にモデル化
3)3次元で物理的にモデル化できる
公益財団法人 リバーフロント研究所
P-04
2
平成27年9月4日
第23回リバーフロント研究所研究発表会
2. 水循環解析モデルの構築
■地
地質
質平
平面
面図
図
■
多良岳(火山)
諫早湾
調整池
諫早平野
雲仙岳
(火山)
P-05
公益財団法人 リバーフロント研究所
2. 水循環解析モデルの構築
■水理地質断面図(A-A’断面)
■水理地質断面図(A-A’断面)
多良岳
雲仙岳
地下水盆(第1
地下水盆(第1帯水層)
火山岩類
調整池/
調整池/諫早平野
地下水盆(第2
地下水盆(第2帯水層)
公益財団法人 リバーフロント研究所
P-06
3
平成27年9月4日
第23回リバーフロント研究所研究発表会
2. 水循環解析モデルの構築
X
■3D鳥瞰図
■3D鳥瞰図
多良岳
諫早湾
Y’
Y’
Y
■代表断面図
■代表断面図
X’
X-X’
多良岳
多良岳
火山岩類
水理基盤
※地中の流体移動がモデル境界
と干渉しないよう標高マイナ
ス600mまでをモデル化
Y-Y’
諫早湾
水理基盤
P-07
公益財団法人 リバーフロント研究所
3. 水循環解析
■解析条件
条件項目
計算方法
気象
非定常解析
降水量
蒸発散量
水利用
(H24)
解析条件
渇水年:1994年(H6)
平水年:1995年(H7)
表流水取水
・堰
・頭首工
・ダム
地下水取水
・農業用水
・水道用水
・工業用水
<<補足>>蒸発散量算定手法:ハーモン法
公益財団法人 リバーフロント研究所
P-08
4
平成27年9月4日
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3. 水循環解析
地点⾬量(本野観測所)
0
流量(m3/s)
地盤⾼(解析モデル)
H7
400
0
80
60
40
20
0
600
計算値(検証)
観測流量(裏⼭観測所)
1994/1 1994/3 1994/5 1994/7 1994/9 1994/11 1995/1 1995/3 1995/5 1995/7 1995/9 1995/11
計算値(⽔利⽤有)
観測⽔位
0
1995/11
1995/9
1995/7
1995/5
1995/3
1995/1
低水管理』に対する研究
に対する研究
『低水管理
目的から概ね良好な再現
目的から概ね良好な再現
性が得られたと判断
※地下水位の上図:小野2号監視局
地下水位の下図:小野3号監視局
1995/11
1995/9
1995/7
1995/5
1995/3
1995/1
1994/11
1994/9
1994/7
H7
1994/5
H6
1994/1
-10
1994/3
0
1994/11
400
1994/9
300
-10
10
1994/7
200
-5
1994/5
100
0
1994/3
5
1994/1
⽔位(TP.m)
⽔位(TP.m)
10
-5
200
1
降⽔量(mm)
累加流量
地下水位
地下水位
H6
10
(百万m3)
●平常時の状況
⇒平水年:平成7年
●渇水時のような
極端な状況
⇒渇水年:平成6年
5
観測流量(裏⼭)
河川流量
河川流量
下記にてモデルの再現
性を確認。
地点⾬量(本野観測所)
計算値(検証)
100
降⽔量(mm)
■モデル検証結果
P-09
公益財団法人 リバーフロント研究所
4. 水循環機構の分析:流域全体の水循環構造の解明
(1) 水の流動のしくみ
流線軌跡図
流線軌跡図 [平水時/かんがい期]
[平水時/かんがい期]
※基盤面上部付近
多良岳
旧河口
受
潮
裏山流量
観測所
防
堤
調整池
①山頂付近で浸透した地下
水が山間の沢筋で湧出し
諫早湾 各河川を形成
②山頂付近に浸透した地下
水が調整池の地下を涵養
諫早平野
本明川
普賢岳
公益財団法人 リバーフロント研究所
P-10
5
平成27年9月4日
第23回リバーフロント研究所研究発表会
4. 水循環機構の分析:流域全体の水循環構造の解明
(2) 表流水と地下水の供給源
理由:火山地形と地質に起因
①山頂付近の火山岩類は相対的に透
水性が高い
②中腹以下を覆う多良岳火山麓扇状
地堆積物は透水性が低い
涵養域図[平水年]
涵養域図[平水年]
多良岳
特に、涵養機能が高い範囲。
旧河口
諫早湾
潮
受
防
堤
調整池
諫早平野
裏山流量
観測所
特に、涵養機能
が高い範囲。
本明川
P-11
公益財団法人 リバーフロント研究所
4. 水循環機構の分析:流域全体の水循環構造の解明
(3) 流域全体の水収支
年間5億m3程度の降雨(平年)に対して
①蒸発散量:3割
②直接流出:2割
③地下浸透:5割
[平水年]
[平水年]
地表水蒸発散量 降水量
123.3
512.5
導水量
河川取水によ
る流出量
0.0
地表水
貯留変化量
0.0
地表水流出量
地表水流入量
-8.7
土壌水蒸発散量
31.3
0.0
地下水取水量
17.7
373.2
地下水かん養量
地下水かん養量
228.2
地下水湧出量
17.7
地下水取水量
270.6
270.6
228.2
地下水湧出量
地下水流出量
41.2
地下水流入量
地下水
貯留変化量
23.8
⇒ 地下水を豊富に蓄えている状況が窺える。
公益財団法人 リバーフロント研究所
71.6
(百万m3/年)
P-12
6
平成27年9月4日
第23回リバーフロント研究所研究発表会
4. 水循環機構の分析:河川流量に対する地下水の役割の解明
(4) 裏山流量観測所に着目した水の流動のしくみ
流線軌跡図
流線軌跡図 [平水時/かんがい期]
[平水時/かんがい期]
※基盤面上部付近
多良岳
裏山上流域外から地下水
裏山上流域外から地下水
の流入が認められる範囲
の流入が認められる範囲
旧河口
裏山流量
観測所
1)裏山流域に対して分水嶺を跨いで
1)裏山流域に対して分水嶺を跨いで
地下水が流れ込む。
2)流線の軌跡から多良岳山頂付近を
流線の軌跡から多良岳山頂付近を
2)
起源とした地下水は
、沢筋へ到達
起源とした地下水は、
沢筋へ到達
後、川となって流下
する。
。
後、川となって流下する
地下水が地表の分水嶺を越えて裏
山上流域に供給され『河川流量維
持という役割』を果たしている。
P-13
公益財団法人 リバーフロント研究所
4. 水循環機構の分析:河川流量に対する地下水の役割の解明
(5) 裏山地点上流域
に着目した流域水収支
2
C.A.=35.8km
[平水年]
[平水年]
地表水蒸発散量 降水量
17.3
75.1
導水量
河川取水によ
る流出量
0.0
0.0
地表水
貯留変化量
①蒸発散量/
地表水流出量
①蒸発散量/降水量
-2.1
0.0
42.8
平水年:30
%
平水年:30%
地下水かん養量
35.4
渇水年:50
%
渇水年:50%
4.7
52.4
地下水湧出量
地下水取水量
②地表水流出量/
②地表水流出量/降水量
平水年:60
%
平水年:60%
渇水年:90
%
渇水年:90%
③流域外からの地下水流入量
地表水蒸発散量 降水量
平水年≒
平水年≒渇水年
13.4
37.9
導水量
④地下水湧出量
河川取水によ
る流出量
0.0
平水年<
平水年<渇水年
地表水
地表水流入量
0.0
貯留変化量
地表水流出量
土壌水蒸発散量
7.1
地表水流入量
-3.2
地下水取水量
4.7
地下水かん養量
52.4
35.4
地下水湧出量
地下水流出量
地下水流入量
地下水
貯留変化量
8.7
11.8
8.3
[渇水年]
[渇水年]
土壌水蒸発散量
5.1
0.0
地下水取水量
4.8
33.2
地下水かん養量
地下水かん養量
本明川の河川流量は、平年
に地下水を貯留し、渇水時に
供給する『自然の流況調整機
能』により維持されている。
公益財団法人 リバーフロント研究所
35.8
地下水湧出量
4.8
地下水取水量
30.3
30.3
35.8
地下水湧出量
地下水流出量
9.2
地下水流入量
地下水
貯留変化量
11.9
-12.7
P-14
3
(百万m /年)
7
第23回リバーフロント研究所研究発表会
平成27年9月4日
5. 本研究のまとめ
■水循環機構の分析
1. 流域に降った雨は、何処へどのように流れていくの?
2. 本明川の流量はどこから来て、地下水は、どう影響しているの?
■分析結果
1-1 山頂付近で地中に浸透した地下水が、山間の沢筋で湧出して河
川を形成するとともに、調整池の地下と連続し涵養している。
1-2 山頂から中腹一帯が地下水涵養機能が高く、今後も機能保全に
配慮することが重要である。
2-1 本明川の河川流量は、地表の分水嶺を超えた地下水供給と、平
常時地下に蓄えた地下水を渇水時に供給する自然の流況調整機能に
より維持されている。
■まとめ
川の水は地下を通して広域に繋がっており、3次元的な空間の広が
りの中での水循環と水利用の係わりを捉えたうえで、低水管理の今後
を考えることが重要である。
公益財団法人 リバーフロント研究所
P-15
8