平成 27 年度 三田祭論文 〈グリコ〉ゲームの最適戦略における均衡 平成 27 年 11 月 19 日 穂刈享研究会 安藤輝紀 柿本丈 上倉拓海 川上裕太 土田創 手塚太陽 手塚隆介 深沢智暉 三浦武 山口陽亮 慶應義塾大学経済学部 三田祭論文 1 概 要 本論文はジャンケンと階段を用いた日本の子供の遊び、いわゆる〈グリコ〉という遊戯についてゲーム理 論を用いた分析を行うものである.〈グリコ〉ゲームは一般的なジャンケンと異なり、グー・チョキ・パーの いずれで勝つかによって進む段数が違っているため、最適戦略における均衡を求めるにあたって、高度な複雑 さが伴う. それは各プレイヤーの戦略がゴールまでの残りの段数に応じて変化していくためで、それゆえに均 衡を導出する際の計算にはかなりの煩雑さが生じる. そのためか、この〈グリコ〉ゲームの最適戦略における 均衡に関する先行研究は見当たらず、本論文が果たす意義は少なくないだろう. 具体的な分析としては、10 段ある階段と 2 人のプレーヤー(A,B)を想定し、それぞれのゴールまでの残り 段数によってパターン分けをした. そのパターンは各プレイヤーの残りの段数が (1,1) (1,4) (4,4) (1,7) (4,7) (7,7) (1,10) (4,10) (7,10) (10,10) のときの計 10 パターンである. 例えば、残り 1 段のところにいるプレイ ヤーはどの手で勝ってもゴールできるが、残り 4 段にいるプレイヤーはグーで勝っても 3 段しか進めないた めゴールできないのである. ここに均衡戦略を求める難しさがある. そして均衡計算の結果、相手のプレイヤーより高い段数と低い段数、つまり有利な立場にいるか不利な立 場にいるかによって均衡戦略にある傾向が生じていることがわかった. 前者の場合チョキを多く、後者の場合 グーを多く出す戦略を取ればよく、両プレイヤーが同じ段にいる場合は、偶数段の場合はグーとチョキを同じ 確率で出す戦略を取ればよく、奇数段の場合は (1-1) を除いてパーを多く出す戦略を取ればよいという結果が 得られた. また実際に検証実験も試みたが、妥当な結果が得られた. ごく身近な遊びである〈グリコ〉ゲームだが、ゲーム理論の分析対象にすれば高度な複雑さをともなったもの であり、子供たちの遊びと迂闊に口にするのが躊躇われるほどである. 今後〈グリコ〉ゲームをプレイする際 は、ぜひとも本論文を参考にしていただきたい. 三田祭論文 2 目次 1 はじめに 3 2 分析方法・条件 2.1 分析方法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2.2 条件 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 4 5 3 均衡計算 3.1 2 人のケース . . . . . . . . . . . 3.1.1 (1,1) のケース . . . . . . 3.1.2 (1,4) のケース . . . . . . 3.1.3 (4,4) のケース . . . . . . 3.1.4 (1,7) のケース . . . . . . 3.1.5 (4,7) のケース . . . . . . 3.1.6 (7,7) のケース . . . . . . 3.1.7 (1,10) のケース . . . . . 3.1.8 (4,10) のケース . . . . . 3.1.9 (7,10) のケース . . . . . 3.1.10 (10,10) のケース . . . . . 3.2 3 人のケース . . . . . . . . . . . 3.2.1 C がグーを出したとき . 3.2.2 C がチョキを出したとき 3.2.3 C がパーを出したとき . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 6 6 8 8 9 9 10 10 11 11 12 13 13 13 14 4 結果 15 5 考察 16 6 おわりに 17 7 参考文献 18 三田祭論文 1 3 はじめに 本論文はジャンケンと階段を用いた日本の子供の遊び、いわゆる〈グリコ〉という遊戯 についてゲーム理論を用いた分析を行うものである.〈グリコ〉ゲームは、1933年2月1 6日の「大阪朝日新聞」のグリコの広告に「東京でハヤるジャンケンのよび方」として掲載 されたことが由来とされている. ルールは後の章で定義するが、ご存知の通りグーで勝った プレイヤーは「グリコ」分の 3 段、チョキは「チヨコレイト」分の 6 段、パーは「パイナツプ ル」分の 6 段、階段を駆け上がり、一番初めに最上段にたどり着いたプレイヤーが勝者とな るシンプルなものだ. ここで疑問を投げかけたい、皆さんは自分がこの〈グリコ〉ゲームをプ レイする際、どんな戦略を取るだろうか. チョキとパーで勝てば多く進めると考えチョキを 多く出す戦略を取るのか、それともその裏をかいてグーを多く出す戦略を取るのか、はたま た普段子供が何気なく取ってしまうようなランダムな戦略を取るのか、このように一見どの 戦略も妥当なように思われるが均衡戦略はちゃんと存在するのである. そして本論文ではこ の均衡戦略を導出することをその主たる旨とするのだが、一般的なジャンケンとは異なりそ の導出には複雑さが絡んでくる. また特にこのゲームに関する先行研究は見当たらなかった が、それはこのゲームの最適戦略における均衡を導出する際に生じる、計算の煩雑さゆえで あろう. このことから本論文を執筆する意義は大いにあり、またジャンケンという誰もが知っ ていて比較的興味を持ちやすいテーマにすることで、ゲーム理論に関する予備知識を持って いない読者に対してもゲーム理論について興味を持ってもらい、ゲーム理論に関する理解を 深めてもらいたいという狙いもあり、さらにはゲームの条件(このゲームでいえば勝った時 に何段進めるようにするか)によってゲームが複雑化する面白さを知ってもらいたいとも考 えている. ここでいう、ゲームの条件によってゲームが複雑化するということは非常に重要 なことで、逆に言えば一般的なジャンケンをする際に〈グリコ〉ゲームのような条件を提示 するだけで相手は最適戦略が瞬時にわからなくなり、勝負に勝ちやすくなるのである. また ゲームの条件すなわちルールを意識することも非常に大事で、「ゲーム理論と経済学」(デ ビッド・M・クレプス[2000])でもゲームのルールの重要性が論じられている. そこでクレ プス(1990)は、我々はゲームのルールがどこから生じるかのかを別段問うこともなく、そ れを当然のこととして受け入れる傾向があり、したがって、そこで君臨しているルールが結 果によって影響を及ぼされるかどうかについては深く考慮していないと述べている. このよ うにゲームの重要性をしっかり理解した上で、読者にはぜひとも我々が求めた均衡戦略を実 際に〈グリコ〉ゲームをプレイする際に利用していただきたいと考えている. 三田祭論文 2 2.1 4 分析方法・条件 分析方法 まず、この〈グリコ〉ゲームを考えるにあたり注目するのはジャンケンの勝った出し手に よって進める段数が変わるということだ. これを踏まえて直感的に考えると、勝つ場合はチョ キかパーで勝った時により得をし、負ける場合はチョキで負けることで一番損が少なくなる ことが考えられる. そこで実際にゲーム理論的に考える. まずゲーム理論ではプレイヤー全 員が合理的意思決定をするというのが前提である. つまり、なるべく自分の得を多くし、損 が少なくなるようにするには、どういう行動をとるのが最適であるのかを考える. ここで各 人は自身の利益だけを考えて行動するため、自分がゴールに着いた場合を+ 1、相手にゴー ルにたどり着かれた場合を− 1 として考える. ここで 1 人のプレイヤーがグーを出した場合、 勝つと 3 段進むことができ、負けると相手に 6 段進まれてしまう. 同様にチョキを出した場 合、勝つと 6 段進むことができ、負けると相手に 3 段進まれてしまう. そしてパーを出した 場合、勝つと 6 段進むことができ、負けると相手に 6 段進まれてしまう. これらから言える ことは 1 人のプレイヤーがチョキを出した時が一番ゴールに近づくことができ、かつ自分が ゲームに負けない戦略であることが予想できる. しかし、これはプレイヤーがどこにいるかを考えていないため、より実践的に考えるには各 プレイヤーの残りの段数ごとにそれぞれの戦略を考えていく必要がある. ここでプレイヤー を A と B とし、A と B の 2 人でゲームを行っている時を考える. 例えばプレイヤー 2 人がと もに残り 3 段以内にいる場合、何を出しても勝った方がこのゲームの勝者となる. しかし A が残り 1 段、B が残り 4 段の場合はどうだろうか. 先ほどと違い B はグーで勝ってもまだあ がることができないため、出す手がチョキやパーに偏りがちになるのではないかと予想でき る. この場合 A はもちろんその予想を考慮に入れて自分の出し手を決めるわけである. さら にお互いが 4 段ずつ残っている場合(お互いグーだとまだあがることができない)や 1 人が 7 段残している場合 (どの手で勝っても 1 回ではあがれない) など様々な場面によってとるべ き戦略が変わってくるはずである. そこで、それぞれの場面でどのような戦略をとるかにつ いて、(A の残り段数-B の残り段数) で表し、(1,1) (1,4) (4,4) (1,7) (4,7) (7,7) (1,10) (4,10) (7,10) (10,10) の 10 個のパターンを考えることで分析していく. またこのゲームはゲーム理論でいう有限回繰り返しゲームにあたり、純戦略における均衡 は存在しないが、Nash(1950) によると「任意の有限ゲーム(プレイヤーの数と、彼らの純 戦略の数が有限のゲーム)において、混合戦略の範囲で必ずナッシュ均衡存在する」(Nash [1950]) ことがわかっているので、混合戦略を求めることになる. 三田祭論文 2.2 5 条件 そして具体的に条件を定義していく. このゲームはさまざまな場所で行うことができるが、 一般的に階段で行われることが多いので今回は階段で行われることを想定して定義する. まず、〈グリコ〉ゲームのルールを定義するが、以下の 3 つの属性を持っている. ・グーはチョキに対して勝ち、グーで勝った場合「グリコ」と発声しながら 3 段進む ・チョキはパーに対して勝ち、チョキで勝った場合には「チヨコレイト」と発声しながら 6 段進む ・パーはグーに対して勝ち、パーで勝った場合には「パイナツプル」と発声しながら 6 段進 む (地方によっては言葉の表現が違い、勝った時に進める段数が異なる場合もあるが今回は上 記のように定義する.) この条件のもと、一番初めに最上段に到達したプレイヤーが勝者となり、3 人以上の場合同 時に到達したプレイヤーがいてもどちらも勝者とする. また、最上段にちょうど到達する必 要はなく、とにかく早く到達すればよい. プレイヤーは基本的に 2 人を想定し、それぞれプレイヤー A、プレイヤー B とする. また第 3 章の最後にプレイヤー 3 人の場合も想定し、それぞれプレイヤー A、B、C とした. 階段の段数は、理論上では帰納的に何段でも計算可能であるが、均衡計算の煩雑さから今回 は 10 段とした. そして前節の分析方法でも述べたが、具体的な均衡計算の場面は、(A の残り 段数-B の残り段数) で表し、(1,1) (1,4) (4,4) (1,7) (4,7) (7,7) (1,10) (4,10) (7,10) (10,10) の 10 個のパターンを考えることとする. 戦略は、ジャンケンと同じであるので、純戦略ではグー、チョキ、パーの 3 つであるが、実 際には混合戦略まで考えるので、プレイヤー A の混合戦略を p、プレイヤー B の混合戦略を q で表すこととする. 各プレイヤーの利得は、勝った時に+1、負けた時に-1 得るものとし、あいこの場合、プレ イヤー A は a、プレイヤー B は b、得るものとする. 以上の条件を踏まえて、次の第 3 章 で均衡計算を行うこととする. 三田祭論文 3 3.1 3.1.1 6 均衡計算 2 人のケース (1,1) のケース 表1:(1,1) のときの利得表 Rock Scissor −1 b Rock a 1 1 −1 b a −1 P aper −1 1 Scissor −1 P aper 1 1 1 −1 b a 表の 1 つのセルにおいて、左下の値を A の利得、右上の値を B の利得として表すことにす る. また、このゲームでは純戦略のナッシュ均衡は存在しない. そこでプレイヤー A の混合戦略を (p1 , p2 , p3 ), プレイヤー B の混合戦略を (q1 , q2 , q3 ) とする. A がグー、チョキ、パーを出すときの期待利得はそれぞれ aq1 + q2 − q3 (1) −q1 + aq2 + q3 (2) q1 − q2 + aq3 (3) である.それぞれの期待利得が等しいので、(1)、(2) より、 aq1 + q2 − q3 = −q1 + aq2 + q3 変形して (a + 1)q1 + (1 − a)q2 − 2q3 = 0 q1 + q2 + q3 = 1 より、 (a + 1)q1 + (1 − a)q2 − 2(1 − q1 − q2 ) = 0 (a + 3)q1 + (3 − a)q2 = 2 また、(1),(3) より、aq1 + q2 − q3 = q1 − q2 + aq3 同様に 2aq1 + (a + 3)q2 = a + 1 すなわち 2 q a + 3 3 − a 1 = a+1 q2 2a a + 3 q 1 = q2 a + 3 a − 3 2 −2a a + 3 a+1 (a + 3)2 − 2a(3 − a) = a2 + 3 a2 + 3 3a2 + 9 三田祭論文 7 2 q3 = 1 − q1 − q2 より、q3 = a 2+ 3 よって、 3a + 9 a2 + 3 a2 + 3 q1 2 a +3 q = 2 3a2 + 9 q3 また、期待利得は a に等しいので、aq1 + q2 − q3 = a これに q1 , q2 , q3 を代入すると a(a2 + 3) =a 3a2 + 9 2a(a2 + 3) = 0 となる.よって a= 0 1 q1 31 また、 q2 = 3 q3 1 3 次に、B がグー、チョキ、パーを出すときの期待利得はそれぞれ bp1 + p2 − p3 (4) −p1 + bp2 + p3 (5) p1 − p2 + bp3 (6) a と同様に計算すると、 1 p1 3 = 1 b = 0, p 2 3 1 p3 3 (1,4) 以降も同様の操作を行い計算する. 三田祭論文 3.1.2 8 (1,4) のケース (1, 1) のケースと区別するために、(1, 4) のケースの a, b をそれぞれ a14 , b14 のように表記し た.また、表中の a11 , b11 は (1, 1) のケースの a, b を表している.これは B がグーで勝ったと き、3段進み (1, 1) のケースになるためである.以降の表記もこれに従う. 表 2:(1,4) のときの利得表 Rock Scissor −1 b14 Rock a14 −1 1 b11 Scissor a11 a14 1 1 −1 1 (1,1) のときと同様に計算を行うと −1 b14 −1 P aper P aper 1 b14 a14 p1 0.30438 q1 0.51611 (a14 , b14 ) = (0.25806, −0.25806), p2 = 0.51611 , q2 = 0.30438 p3 0.17951 q3 0.17951 3.1.3 (4,4) のケース 表 3:(4,4) のときの利得表 Rock Scissor b44 b14 Rock a44 −1 1 a14 Scissor b14 1 (1,1) のときと同様に計算を行うと 0.44286 p1 (a44 , b44 ) = (0, 0), p2 = 0.44286 p3 0.11428 −1 b44 a44 1 −1 P aper P aper 1 1 −1 b44 a44 0.44286 q1 , q = 0.44286 2 q3 0.11428 三田祭論文 3.1.4 9 (1,7) のケース 表 4:(1,7) のときの利得表 Rock Scissor −1 b17 Rock a17 1 b14 Scissor a14 −1 a17 1 b 1 (1,1) のときと同様に計算を行うと a b17 −1 P aper a P aper b b17 a17 0.32845 q1 0.40521 p1 (a17 , b17 ) = (0.55228, −0.55228), p2 = 0.40521 , q2 = 0.32845 0.26630 q3 0.26630 p3 3.1.5 (4,7) のケース 表 5:(4,7) のときの利得表 Rock Scissor −1 b47 Rock a47 1 b14 Scissor a14 −1 a47 a 1 b 1 (1,1) のときと同様に計算を行うと a b47 −1 P aper P aper b b47 a47 p1 0.39547 q1 0.41913 (a47 , b47 ) = (0.62681, −0.62681), p2 = 0.41913 , q2 = 0.39547 p3 0.18540 q3 0.18540 三田祭論文 3.1.6 10 (7,7) のケース 表 6:(7,7) のときの利得表 Rock Scissor b77 Rock a77 b47 a47 b17 a47 Scissor b47 b77 a77 3.1.7 a17 b17 (1,1) のときと同様に計算を行うと 0.31898 p1 (a77 , b77 ) = (0, 0), p2 = 0.31898 0.36203 p3 b17 a17 b17 P aper a17 P aper a17 a77 b77 q1 0.31898 , q = 0.31898 2 q3 0.36203 (1,10) のケース 表 7:(1,10) のときの利得表 Rock Scissor −1 b110 Rock a110 1 b17 Scissor a17 −1 a110 1 (1,1) のときと同様に計算を行うと a14 b110 −1 P aper P aper b14 b14 a14 1 b110 a110 p1 0.31862 q1 0.46130 (a110 , b110 ) = (0.69690, −0.69690), p2 = 0.46130 , q2 = 0.31862 p3 0.22008 q3 0.22008 三田祭論文 3.1.8 11 (4,10) のケース 表 8:(4,10) のときの利得表 Rock Scissor −1 b410 Rock a410 1 b47 Scissor a47 −1 a410 1 (1,1) のときと同様に計算を行うと a44 b410 −1 P aper P aper b44 1 b44 a44 b410 a410 0.34644 q1 0.62471 p1 (a410 , b410 ) = (0.64324, −0.64324), p2 = 0.62471 , q2 = 0.34644 0.02885 q3 0.02885 p3 3.1.9 (7,10) のケース 表 9:(7,10) のときの利得表 Rock Scissor b710 Rock a710 b410 a410 b77 Scissor a77 b710 b110 (1,1) のときと同様に計算を行うと b47 a710 P aper a110 b110 a110 a47 b47 P aper a47 b710 a710 p1 0.32661 q1 0.49776 (a710 , b710 ) = (0.13070, −0.13070), p2 = 0.49776 , q2 = 0.32661 p3 0.17564 q3 0.17564 三田祭論文 3.1.10 12 (10,10) のケース 表 10:(10,10) のときの利得表 Rock Scissor b1010 Rock a1010 b710 a710 a710 Scissor b710 b410 b1010 a1010 a410 (1,1) のときと同様に計算を行うと 0.45382 p1 (a1010 , b1010 ) = (0, 0), p2 = 0.45382 0.09236 p3 b410 a410 b410 P aper a410 b410 P aper a410 b1010 a1010 q1 0.45382 , q = 0.45382 2 q3 0.09236 三田祭論文 3.2 13 3 人のケース A,B,C がともに (1,1,1) にいるときは、pn = qn = rn = 考える. 3.2.1 1 3 であるので、(1, 1, 4) のケースを C がグーを出したとき 表 11:(1,1,4) で C がグーを出した時の利得表 Rock Rock Rock Rock Scissor P aper −1 c −1 b Rock a −1 0 1 c 0 Scissor −1 b 0 a −1 −1 c −1 3.2.2 1 1 −1 P aper −1 b 1 1 a 1 C がチョキを出したとき 表 12:(1,1,4) で C がチョキを出した時の利得表 Scissor Scissor Scissor Rock Scissor P aper −1 −1 −1 1 Rock 1 a c 1 1 −1 b Scissor −1 a 1 c 1 b a b 1 −1 P aper c 1 −1 1 −1 −1 三田祭論文 3.2.3 14 C がパーを出したとき 表 13:(1,1,4) で C がパーを出した時の利得表 P aper P aper P aper Rock Scissor P aper 1 c −1 b Rock −1 −1 −1 b a −1 1 1 −1 −1 1 −1 1 1 P aper 1 a c Scissor 1 c 1 −1 b a 2 人のケースと同様に B、C の期待利得を求める.B がグー、チョキ、パーを出した時の期 待利得はそれぞれ r1 (p1 b + p2 − p3 ) + r2 (p1 + p2 + p3 b) + r3 (−p1 + p2 b − p3 ) (7) r1 (−p1 + p3 b) + r2 (−p1 + p2 b + p3 ) + r3 (p1 b + p2 + p3 ) (8) r1 (p1 + p2 b + p3 ) + r2 (p1 b − p2 − p3 ) + r3 (p1 − p2 + p3 b) (9) 同様に C がグー、チョキ、パーを出した時の期待利得は p1 (q1 c − q2 − q3 ) + p2 (−q1 + q3 c) + p3 (−q1 + q2 c − q3 ) (10) p1 (−q1 − q2 + q3 c) + p2 (−q1 + q2 c + q3 ) + p3 (q1 c + q2 + q3 ) (11) p1 (q1 + q2 c + q3 ) + p2 (q1 c − q2 − q3 ) + p3 (q1 − q2 + q3 c) (12) である.このようにプレイヤー 3 人のケースでも計算は可能であるが、2 人のケースで既に 計算が煩雑であり、3 人ではさらに 2 人が同時に上がるパターンなどより複雑なケースが出 てくることが容易に想像できる.したがって今回は省略するが理論的には計算可能である. 三田祭論文 4 15 結果 以上第 3 章の均衡計算の結果を見やすく以下の表にまとめた. 表 14:2 人でプレイした時ののそれぞれのケースにおける均衡計算の結果 p1 p2 p3 q1 q2 q3 (1, 1) (1, 4) (4, 4) (1, 7) (4, 7) (7, 7) (1, 10) (4, 10) (7, 10) (10, 10) 1/3 0.30438 0.44286 0.32845 0.39547 0.31898 0.31862 0.34644 0.32661 0.45382 1/3 0.51611 0.44286 0.40521 0.41913 0.31898 0.46130 0.62471 0.49776 0.45382 1/3 0.17951 0.11428 0.26630 0.18540 0.36203 0.22008 0.02885 0.17564 0.09236 1/3 0.51611 0.44286 0.40521 0.41913 0.31898 0.46130 0.62471 0.49776 0.45382 この結果に関して次の第 5 章で考察することとする. 1/3 0.30438 0.44286 0.32845 0.39547 0.31898 0.31862 0.34644 0.32661 0.45382 1/3 0.17951 0.11428 0.26630 0.18540 0.36203 0.22008 0.02885 0.17564 0.09236 三田祭論文 5 16 考察 ここまで〈グリコ〉ゲームの最適戦略における均衡を計算してきたが、その結果について 考察する. 結果をまとめると、大まかに言ってプレイヤー A の戦略は、(1-1) ではグー・チョ キ・パーを同じだけ、(1,4) ではチョキを多く、(4,4) ではグーとチョキを多く、(1,7) ではチョ キを多く、(4,7) チョキを多く、(7,7) ではパーを多く、(1,10) ではチョキを多く、(4,10) では チョキを多く、(7,10) ではチョキを多く、(10,10) ではグーとチョキを多く、それぞれ出す戦 略を取ればよく、プレイヤー B の戦略は、(1,1) ではグー・チョキ・パーを同じだけ、(1,4) ではグーを多く、(4,4) ではグーとチョキを多く、(1,7) ではグーを多く、(4,7) ではグーを多 く、(7,7) ではパーを多く、(1,10) ではグーを多く、(4,10) ではグーを多く、(7,10) ではグー を多く、(10,10) ではグーとチョキを多く、それぞれ出す戦略を取ればよいことが分かった. そもそも、プレイヤー A は常に有利な立場(A の残りの段数< B の残り段数)に置かれて おり、プレイヤー B は常に不利な立場に置かれているため、この結果を見ると、有利な立場 に置かれたときはチョキを多く出し、不利な立場に置かれたときはグーを多く出せばよいこ とがわかる. これはいかなる場合でもチョキを出せばよいという直感的な予想には反した結 果となった. この結果を考察してみると、チョキはグーより多く進め、グーはチョキ・パー より少ない段数しか進めないという条件から、有利な立場に置かれたときはチョキを多く出 すという強気な戦略を取るが、不利な立場に置かれたときはグーを出すという弱気な戦略を 取り、後手に回ってしまうと考えられる. そして A の残りの段数= B の残りの段数のときを 考えると、(1,1) では一般的なジャンケンと条件が同じであるため、グー・チョキ・パーを同 じだけ、つまりランダムに出すことになる.(4,4) と (10,10) ではお互いグーとチョキを多く出 す戦略を取ればよいことになるが、チョキに関しては条件からチョキとパーは多く進め、か つチョキはパーに負けることはないためであると考えることができ、直感的にもわかる. ま たグーに関しては、チョキを多く出すと予想しての戦略で、結果的にグーとチョキを多く出 すことになると考えられる. そして一番疑問なのが (7,7) の場面でパーを多く出す戦略を取る のが良いということになっている. これは、この場面の後に移りうる場面は (1,7) と (4,7) で、 (4,7) の方が (1,7) と比べてチョキを出す割合が多いため (4,7) に行きたいと考えるが、それ を予想して相手がグーを多く出すと考え、グーを多く出す戦略を封じるためにパーを多く出 すと考えられる. ただし、この論理には非常に脆弱な部分があるため、今後の課題としたい. また、今回は階段の段数が 10 段のときを想定したが、階段の段数が n 段のときであって も、プレイヤーが有利な立場に置かれているときはチョキを多く出す戦略を取り、不利な立 場に置かれたときはグーを多く出す戦略を取ることが帰納的に予想できる. そしてお互いの プレイヤーが同じ段数にいる時は (1,1) を除いて、階段の段数が偶数のときはグーとチョキ を多く出し、奇数のときはパーを多く出すことが帰納的に予想できる. 今回はこれらの証明 にまでは至ることができなかったが、もし証明されれば正確な混合戦略を求めることはでき ないものの、どの戦略を多く出すべきかの目安にはなるであろう. 三田祭論文 6 17 おわりに 本論文はジャンケンと階段を用いた日本の子供の遊び、いわゆる〈グリコ〉という遊戯に ついてゲーム理論を用いた分析を行うものであり、実際にこれまで〈グリコ〉ゲームの最適 戦略における均衡を求めてきた. その結果、プレイヤー A と B の残りの段数によって均衡戦 略が異なり、各プレイヤーが相手より高い段数と低い段数、つまり有利な立場にいるか不利 な立場にいるかによって均衡戦略に傾向が生じていることがわかった. 前者はチョキを多く、 後者はグーを多く出す戦略を取ればよく、両プレイヤーが同じ段にいる場合は、偶数段では グーとチョキを同じ確率で出す戦略を取ればよく、奇数段では (1,1) を除いてパーを多く出 す戦略を取ればよいということが予想された. また、我々は求めた結果をもとに実際に検証してみれば、より研究に対する理解が増すと考 え、検証実験をすることにした. ここでは簡単に紹介することにする. 我々は検証段階におい て Excel の乱数を発生させる手法を用いた. 導出した均衡戦略における「確率」をもとに 1 ∼1000 までの数字を「グー、チョキ、パー」に割り振り、発生させた乱数をこれらの「手」 と考えるのである. 均衡計算と同様に、(1,1) (1,4) (4,4) (1,7) (4,7) (7,7) (1,10) (4,10) (7,10) (10,10) のパターンで検証し、それぞれ 100 回ずつ勝敗がつくまで行った. この検証実験で得 られたデータから、理論に対して妥当な結果を得ることができた. また、この実験で用いた 乱数や実験データに対する検定は行っていないが、今後の展望としたい. 当研究会は 70 近く存在する経済学部の研究会の中で唯一のゲーム理論を扱う研究会として 今回のような理論を軸とするテーマを設定する運びとなった. また、 「三田祭論文」であると いうことで、この論文に目を通すのは非常に広い世代であるということ、ゲーム理論に関し て予備知識を持っていないであろう人にも少なくとも結論は簡単に理解できるテーマにする べきであろうといことを踏まえて、今回のような〈グリコ〉ゲームについて研究することに なったのである. 正確な均衡が計算できるか見通しがつかなかった中でも一定の成果を得ら れたことに関して、我々学生一同としても有意義な研究となった. 最後に、この場を借りて本論文に関して多大なるご指摘をしていただいた穂刈享先生に感謝 と敬意を表し、この論文の締めとしたい. 三田祭論文 7 18 参考文献 1. 「大阪朝日新聞」1933.2.16. 朝刊. 2. デビッド・M・クレプス (2000)「ゲーム理論と経済学」5 章. pp.139, 東洋経済. 3. Nash, John. (1950)“ Equilibrium Points in N-person Games ”, Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 36, 48-49.
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