通所介護&リハ2009 1・2月号

いつまでも
「さるき回ってもらう」ために
株式会社サルーク 通所介護・介護予防通所介護事業所 TRY倶楽部
代表取締役・管理者 小宮山寿美子さん
中目黒や自由が丘など,東京の中でもとりわけおしゃれなイメージが
先行する目黒区。目黒駅から程近い,桜の名所の目黒川の手前には,
古くからの商店街が続く。株式会社サルークが運営するTRY(トライ)
倶楽部は,そんな新しさと古さが融合した街の一角で,介護予防通所
介護事業を展開している。
利用者が「総合的に(Total)
」
「もう一度(Replay)
」
「若々しく(Young)
」
いられるために,マシントレーニングや口腔機能トレーニング,脳ト
レーニングや尿失禁予防など,幅広いサービスを提供している。
(取材/1グループ)
本来の意味の「介護予防」
実現に向けて
いくと,『恥ずかしい』と言いながらも喜ん
でくれます。いくつになっても,たとえ足腰
が弱くなっても,おしゃれをして外に出ると
TRY倶楽部の管理者である小宮山さんは,
いうのは,大事なことだと実感しました」
。
看護師として長く病院に勤務していた。現在
目黒区の特定高齢者の運動や,口腔トレー
は,看護師としてだけではなく,ケアマネ
ニングの教室に携わり,介護予防の効果を目
ジャー,健康運動指導士,福祉住環境コー
の当たりにした。
ディネーターとして活躍している。
「『予防』を意識したトレーニングを楽しく
そんな小宮山さんが福祉の世界に飛び込ん
できる場所。そんなデイサービスを始めたい
だきっかけは,母親の喜ぶ様子だった。
と思いました」。
「母は足腰が弱ってから,外出の機会が減
何か楽しみがあって外に出ることが,本来の
りました。それでもお化粧をして,いつもよ
意味での「介護予防」だと小宮山さんは言う。そ
り濃く口紅を塗り,レストランなどに連れて
のために,TRY倶楽部は日々「挑戦」している。
vol.6 no.5
1
でトレーニングをしているのが,とてもよく
利用者同士の一体感を生む
掛け声
「1,2,3,4」……マシントレーニングを
実施している利用者の掛け声だ。
2
伝わってきた。
利用者が安心できる
サービスを
TRY倶楽部には,4台のマシンが設置して
膝が悪い利用者や,人工関節が入っている
あり,そのすべてに利用者が乗って,全員で
利用者などは,可動域に制限がある。そうい
声を掛け合い,トレーニングを実施している。
う場合は,必ず前もって医師に相談している。
「1人にポツンと座ってもらって,
『じゃあ
また,初めてマシントレーニングを行う場合
やってください』と言っても,利用者はつま
は,
「どこか痛めるのではないか」と不安に思
らなく感じてしまいます。楽しんでやっても
う利用者がいる。もちろん,高齢者用に作ら
らうことが大切ですね」
。
れているものなので安全ではあるが,利用者
みんなで一緒に実施し,そして声を掛け合
の不安を丁寧に取り除いていくことも重要だ。
うことにより,一体感が生まれる。また,マ
TRY倶楽部では,特定高齢者や一般高齢者
シントレーニング実施時は,スタッフが必ず
へのケアにも力を注いでいる。例えば,毎週木
2人は付くようにしている。
曜日の午後は,特定高齢者を対象とした脳力
「利用者の動きはもちろんですが,声が出
アップ教室を目黒区の委託で行ったり,一般高
ているとか顔の表情はどうかなど,一人ひと
齢者のマシントレーニングを行ったりしている。
りの様子を細かく見ています」
。
「一般高齢者や特定高齢者へのサポートは,
そして,声を出すことには血圧上昇を抑え
継続的に行ってこそ,いろいろな効果が出てく
る働きもあるそうだ。
ると思います。本来は,継続的に行わなくては
「一生懸命取り組むと,つい力み過ぎてし
ならないものです。ここでは,継続的にサポー
まうことがあります。声を出すということは,
トしていける場を提供したいと思っています」
。
どこかで息をついていますので,いきんで血
高齢者が,仮に介護認定を受けても,同じ
圧が上がるということを防げますし,一石二
場所でサービスを受けることができる。逆
鳥の効果なんです」
。
に,現在,介護認定を受けている人が自立に
利用者の掛け声はとにかく元気で,生き生
なっても,同じ場所・同じスタッフの下で利
きとしている。時折,隣にいる小宮山さんの
用することができる。これは,利用者の大き
声が聞き取れないほどだった。本当に楽しん
な安心感につながる。
vol.6 no.5
数値に見えないものも大切
―通いたくなるデイサービスを目指して
れている。利用者の毎日の生活を,豊かにす
るための取り組みだ。取材当日は,小宮山さ
どのくらい身体機能が改善したかの根拠と
んが認知症の話をしていた。利用者にとって
なるのは数値である。TRY倶楽部では,3カ
これは,ちょっとしたうれしい「お土産」だ。
月に1度,効果測定を実施している。早く歩
けるようになっていたり,バランスが良くなっ
たり,嚥下する力が改善していたりと,効果
人生の大先輩
は数値として表れている。しかし,数値に表
れない効果も,とても大切である。
「利用者は人生の大先輩だ」と,小宮山さん
「例えば,3カ月前は自分で靴下が履けなかっ
は言う。スタッフが利用者から教わることも
たけど,今は履けるようになったとか,口腔の
多いそうだ。
トレーニングを行ったことで,よだれが少なく
教員だった利用者が図書館で調べものをし
なったとか。それらが数値に表れなかったとし
てきて発表したり,絵を描くことが好きな利用
ても,利用者にとってはとてもうれしいことで
者が,こつを教えたりしたことがあったそうだ。
す。
『年を取ったから,自分にはもうできない
「楽しく体を動かして,勉強にもなって。ス
んだ』とあきらめていたことができるように
タッフ主導ではなく,利用者が主体となって,
なると,ここに通うことが楽しくなります」。
生き生きと楽しい時間が過ごせる場所。そん
通うことが楽しくなれば,積極的に外に出
なすてきな空間であってほしいです」。
るようになる。また,閉じこもり防止になり,
人との交流があることで認知症予防にもつな
社名の「サルーク」は,
がる。歩くことによって生活不活発病の予防
小宮山さんの故郷,長崎
にもつながる。
地方の方言で,「ぶらぶ
「
『家族が困るから,自分はデイサービスに
ら散歩する」などの意味
来ているんだ』というのではなく,自分から,
を持つ「さるく」に由来
『こういう目的でやりたい』という意識を
するそうだ。「いつまでも元気に,自分の足
持って来ていただきたいですし,せっかく来
で楽しく歩き回ってもらいたい」という願い
ていただくのだから,自分から通いたくなる
が込められている。その願いは,長崎から遠
デイサービスでありたいです」
。
く離れた東京都心の片隅で,着実に,そして
そのために,1回のプログラムの中に,
「役
確実に実を結んでいる。
に立つお持ち帰りできる話」というものを入
(文責・井岡志人)
vol.6 no.5
3