ソフトウェアライセンスの一括調達の効果 PDF

第19回学術情報処理研究集会
発表論文集 pp.10 - 14
ソフトウェアライセンスの一括調達の効果
小山 琢也†,辻井 高浩†
Takuya Koyama†, Takahiro Tsujii†
[email protected], [email protected]
†奈良先端科学技術大学院大学 総合情報基盤センター
†Nara Institute of Science and Technology Information Initiative Center
概要
奈良先端科学技術大学院大学(以下、本学)では、各組織で独自に必要なソフトウェアを調達していたが、
2014 年 1 月よりコスト削減を目的として全学共通で使用する Microsoft 社の OS,Office と AntiVirus 製品を全
学内構成員が利用できるように調達した。同時にライセンス違反の抑止、利用履歴の把握のために調達した
ソフトウェアを利用者へ提供するソフトウェア配布システムを導入し、運用を行っている。
現在は、一括
調達することによって効率化がはかれる他のソフトウェアについての調査・検討を行い、次回の調達に反映
させる予定である。本稿では、全学共通で使用するソフトウェアの一括調達の効果と今後の展開について報
告する。
キーワード
ライセンス、コスト削減、ライセンス違反
1. はじめに
昨今の厳しい予算状況の中では、限られた予算をいか
に有効に利用していくかが情報システム運用においても
重要な課題の一つとなっている。
また、ソフトウェアの利用においては、ライセンス利
用規約を順守することが以前にもまして求められるよう
になっている。
これらのことを踏まえて、奈良先端科学技術大学院大
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学(以下、本学)でも、ソフトウェアの効率的な調達と
その提供方法について調査・検討を行い、調達を進めて
きた。
本稿では、本学で実施してきたソフトウェアの一括調
達についてとその効果・今後の展開について報告する。
2. これまでのソフトウェア調達方法
本学では、本学構成員の利用する教育・研究用のコン
ピュターシステムを「全学情報環境システム」として調
達を行っている。この全学情報環境システムでは、4 年
を一周期とし、毎年約 1/4 の機器の更新を行っている。
このような機器更新の方法は、常に最新の機器を利用
できるというメリットがあるものの、一回の調達におけ
る機器更新の台数が 1/4 になることから、ソフトウェア
の調達においてはコストメリットが得られにくいのでは
ないか、ということが懸念された。
そこで、まずは全学情報環境システムで導入している
ソフトウェアから検討を開始した。
図 3.1 一括調達へ切り替えた場合のコストシミュレーション
そこで、以下の手順での段階的な移行を行い、調達に
おいて無駄が生じないようにしながらサイトライセンス
の一括調達へ移行することとした。


2.1. ソフトウェアの導入状況調査
全学情報環境システムで導入しているソフトウェアに
ついて調査したところ、ほとんどのコンピュータで
Microsoft 社の製品(OS,Office)とAntiVirus 製品が導入され
ていた。
そこで、まずはこの 2 種類のソフトウェアのより効率
的な調達方法について調査した。
調査の結果、全学情報環境システムで調達しているコ
ストより、本学の全構成員が利用できるライセンス(サ
イトライセンス)として調達するほうがコストダウンに
なることが分かった。これら 2 種類のソフトウェアは、
研究活動やネットワーク接続において必要不可欠なもの
であり、研究室で管理されている PC でも利用できるよ
うになることは、利用者の利便性の上でも大いに効果的
であると考えられた。
機器更新に合わせて、一括調達への移行対象ソフ
トウェアを全学情報環境システムから切り離し、
別途調達とする。調達するライセンス方式は、必
要台数分を 1 年の期限付きで調達する方式(サブ
スクリプション方式)とする。
上記の切り離し作業を毎年の機器更新ごとに繰
り返し、調達に無駄が生じなくなったところでサ
イトライセンスでの一括調達に切り替える。
このような手順を踏むため、
当初は 2015 年 1 月からサイ
トライセンスでの提供を開始する予定であった。
その後、
Microsoft 社のライセンス見直しがあり、1 年前倒しして
もサイトライセンスに移行しても無駄が生じなくなるこ
とが判明した。そこで、予定を早め、2014 年 1 月からサ
イトライセンスの提供を開始した。
3. 一括調達への切り替え
図 3.2 実際の移行時のコスト推移
3.1. 切り替え手順
しかしながら、本学では全体を 4 分割して毎年調達を
行っているため、一括調達に切り替えた場合、一時的に
コストが増大することになる。
3.2. ライセンス配布システムの導入
本学全構成員が利用できるサイトライセンスを使用者
に提供するにあたっては、以下の点について考慮してお
く必要があった。
1.
2.
3.
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ライセンスの提供方法
利用者へ提供するにあたっては、
「窓口でのイン
ストールメディア貸し出し」
「窓口への申請書、
ライセンス条項への同意書などの提出」などが不
要で、24 時間 365 日利用できるようにしたい。
ライセンス違反の防止策
利用対象外の PC へのインストールを抑止したい。
ライセンス利用状況の把握の方法
どのくらい利用されているのか、だれがインスト
ールを行ったのかなどの利用状況を把握したい。
これらを実現するため、ライセンス配布のためのシ
ステムを導入することとした。
本学で導入したライセンス配布システムは以下のよ
うな仕様になっている。




利用には認証が必要
本学認証システムと連携した認証
インストール時の一時パスワードによる認証
ユーザの各種操作を記録
 システムへのログイン
 ライセンス条項順守の同意
 インストールのための一時パスワードの
取得
 インストーラプログラムのダウンロード
 一時パスワードの使用
インストール回数の上限設定が可能
IP アドレスによるアクセス許可の設定が可能
このシステムを利用することによって、利用者は 24
時間 365 日ソフトウェアのインストールを行うことが
可能である。対象外の PC へのインストール(ライセン
ス違反)対策としては、インストール数の上限設定と IP
アドレスによるアクセス制限とである程度は抑止でき
るものと考えている。また、合わせてライセンス条件
を順守するように、
定期的に周知するようにしている。
4. ライセンス一括調達の効果
4.1. ライセンス配布システムの利用状況
2014年1月から運用を開始したライセンス配布システ
ムの利用状況は以下のようになっている。
図 4.1 一括調達ソフトウェアのインストール数累計
ただし、本学で導入した配布システムでは、インスト
ールしたことは記録可能であるが、それが新規インスト
ールか再インストールかまではわからないため、実際に
は再インストールした回数についてもカウントされてい
る。インストール数の累計で、年度末から年度初めにイ
ンストール数が増えているのは、この再インストールが
カウントされているのも要因の一つと考えられる。
また、全学情報環境システムで使用しているもの(849
台)については、ひな形となる PC を作成、クローニン
グしているため、この配布システムのインストール数に
は含まれていない。
これらの点を考慮しても、学内で多数のユーザが利用
しているといえる。
4.2. 一括調達の効果
全学情報環境システムで調達していたソフトウェアに
ついては、現時点では移行している途中である(図 3.2
で示したように、
移行が完了するのは 2016 年の調達から
になる)
。
それでも、
現在のインストール数から考えると、
十分なコスト削減効果が出ていることがわかる。
これは、
今回一括調達したのが、学内構成員であれば誰でも利用
することができるライセンス(サイトライセンス)であ
るのが大きな要因である。
図 3.3 ライセンス配布システム利用の流れ
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5. 追加ソフトウェアの検討
Micrisoft 社製品 AntiVirus 製品以外にも、一括調達を行
うことによって効率的に導入できるソフトウェアがない
か、各研究科、部局の代表者から構成される次期ソフト
ウェア調達検討委員会(以下、検討委員会)にて、引き
続き検討を行うことにした。
一括調達の検討の対象としたものは、以下の条件にあ
てはまるソフトウェアとした。
 多くの利用者が見込まれる
 コスト削減が見込まれそうなもの
 利用者の利便性向上が図れそうなもの
図 5.2 ソフトウェアの研究室での購入数
これらのアンケート結果をふまえて各ソフトウェアが
一括調達への切り替えが可能かどうか検討した。
5.2. 検討結果
5.2.1. Adobe 社製品
5.1. 利用状況のアンケート調査
先にあげた条件をもとに、検討委員会でいくつかのソ
フトウェアをピックアップし、各研究室に対してソフト
ウェア利用状況のアンケートを実施した。
今回アンケートを実施したソフトウェアは以下の通り
であった。
・Adobe Acrobat
・Adobe Photoshop Elements
・MatLab
・Mathematica
・Endnote
・ATOK
・iWorks
アンケート調査では、利用状況(利用している台数、研
究室での購入数のほか利用頻度)についての調査を行っ
た。
アンケートの集計結果は以下のようになった。
Adobe 社の製品(Acrobat、Photoshop Elements)は、利用
状況のアンケートでも使用している・購入していると回
答のあった研究室が多かったが、本学の利用状況に見合
うライセンスメニューがなく、一括調達によるコストダ
ウン・利便性の向上がはかれないことがわかった。
。
5.2.2. MatLab
MatLab については、利用している研究室は多くないが、
全学情報環境システムで一定数の調達を行っていること、
利用している研究室では積極的に利用を図っていること
などから、一括調達でコストダウンが図れるのではない
かと考えられた。
さらに詳しく調査したところ、大学全体(全学情報環
境システムで調達しているコスト+研究室で購入してい
るコスト)で見た場合コストダウンになることが判明し
た。
ただし、一括調達するには、利用者に一部負担をお願
いする必要があり、現在利用者負担をどのよう行うか、
検討中である。
5.2.3. Mathematica
Mathematica については、導入数・利用研究室ともに少
ないが、全学情報環境システムで一定数の導入を行って
いること、
同時実行数でのライセンスが用意されており、
これを利用することでコストダウンが図れることが判明
した。
これらをふまえて、今年度からソフトウェア一括調達
に含めて調達を行う予定である。
図 5.1 ソフトウェアの利用状況
5.2.4. EndNote,ATOK,iWORK
調査した他のソフトウェアは、研究室全体での利用と
いうよりは、個人での利用がほとんどであった。このた
め、一括調達の検討対象からは外すこととした。
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5.3. 配布システムの改修
一括調達の対象とするソフトウェアを追加するにあ
たっては、利用者へ提供している配布システムから利
用できるようにしたいと考えている。追加ソフトウェ
アに合わせたソフトウェア配布システムの改修が必要
になる。調達にあたっては、この改修作業も含めて今
後検討してく必要がある。
6. まとめ
これまで分割して調達していたソフトウェアを、一括
到達にすることによって、コストダウンや利便性の向上
が図れることがわかった。また、効果を最大限に利用す
るためには、大学構成員であれば全員が利用できるサイ
トライセンスに切り替えるのが一番効率的であることも
分かった。
今後は、複数年での契約や利用者に費用の一部を負担
してもらうことも考慮した調達方法について検討・実施
していきたいと考えている。
また、一括調達したソフトウェアは、現在運用中のは
ライセンス配布システムで提供することを考えている。
今後ソフトウェアが追加される場合は、このライセンス
配布システムの改修も併せて実施していきたいと考えて
いる。
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