JR九州管内の構造物の耐震安全性に関する研究

JR 九州管内の構造物の耐震安全性に関する研究
清野純史*
1.
研究の目的
本報告では、JR 九州管内で将来発生するであろう地震の内、特に文部科学省・地震調査研究推進
本部が公表する「活断層の長期評価」の 109 の内陸活断層の中から、解析対象地点に最も影響を及
ぼす地震と考えられる警固断層を取り上げ、その活断層の影響を受けると予想される関連施設が位
置する地点の工学的基盤面における地震動を算定した。
2.
研究の方法
想定する地震断層に経験的グリーン関数法を適用して強震動を予測しようとする際、実際には適
当な小地震の観測記録が事前に得られていることは稀である。そこで、ω-2 則に基づくスペクトル
形状を満たす小地震波形を、数値計算によって作成する試み(統計的小地震波形の合成)がおこな
われる場合もある。本研究では、この統計的グリーン関数法によって工学的基盤面における波形を
合成した。
各種震源断層パラメータは、防災科学技術研究所の
J-SHIS 地震ハザードスーション 1)の 2011 年度版を使用
した。警固断層の位置 2)を図-1 に、使用した断層モデ
ルを図-2 に示す。また、深部地盤モデルは防災科学技
術研究所の J-SHIS 地震ハザードスーション 1)のモデ
ルを使用した。
震源断層から地震基盤面までの Q 値は、福島による
Q=130f0。77 を使用した。解析対象地点は、北緯 33 度
35 分 21。5 秒、東経 130 度 23 分 24。2 秒の工学的基
盤上(当該地点の場合は Vs=600m/sec)である。
図-1
図-2
警固断層の断層位置図 2)
警固断層の断層モデル 1)(星マークは破壊開始点)
ω-2 則を満たす震源波形の加速度フーリエ・スペクトル SA(f)は、
S A ( f )  R  FS  PRTITN 
 M0
f2
3
 Vs 1  ( f ) 2
f
c
1

1   f

 f max 
n
と表すことができる 3)。ここで、M0 は地震モーメント、ρ,Vs は地震が発生する媒質の密度、S波
速度である。Rθφは地震波の放射特性(断層すべり方向との離角に依存する地震動の強さ)を表す
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*京都大学大学院地球環境学堂・教授
係数である。FS は地表面の影響を考慮する係数で、地表面の解放波であれば 2.0 である。PRTITN
は、水平方向の2成分にエネルギーを分配する係数で、一般には 0.71 が用いられる。また、fmax と
呼ばれるある周波数より高周波数で観測スペクトルの振幅が更に小さくなることが知られており、
ここでは経験的に震源スペクトルにその効果を導入している。これより、小断層で生じる時刻歴波
形を作成し、断層破壊に従ってそれらを重ね合せることにより大地震の時刻歴波形を作成した。
ケース 1a における 3 成分加速度波形データとそのフーリエスペクトルを図-3 に示す。
図-3
3.
ケース 1a における加速度波形と応答スペクトル
得られた成果
本研究では、JR 九州管内で将来発生するであろう地震の内、特に文部科学省・地震調査研究推進
本部が公表する「活断層の長期評価」の 109 の内陸活断層の中から、解析対象地点に最も影響を及
ぼす地震と考えられる警固断層を取り上げ、関連施設が位置する地点の工学的基盤面における地震
動を算定した。
(1) 海溝型地震に対しては、当該地点で推定される震度は 4 ないし 5 弱程度と予想されるため、現
行の耐震基準に則って設計される構造物であればその影響は小さい。
(2) 指向性パルスは、その影響があるのであれば統計的グリーン関数法で作成された波形に自ずと
含まれてくる。したがって、照査結果が安全であれば、結果的に指向性パルスに対しても安全であ
るものと判断できる。また、特に断層のごく近傍ではステップ上の断層変位が生じることもあり、
地表に現れた断層線を跨ぐようなライフライン系の構造物では顕著な被害が生じる可能性もある。
しかし、このような線状構造物でなければ、あるいは長大構造物であっても断層を跨ぐ形で建設さ
れていなければ、例え変位がステップ状に大きな値をとっても、加速度自体(すなわち構造物に影
響を与える慣性力)は小さいため、単体構造物に与える影響は小さいものと判断できる。
4.
謝
辞
本研究は,(株)碧波技術研究所より委託を受けて執り行われたものです。このような研究の機会
を与えてくださいました故・駒口友章様に心より御礼申し上げます.また解析の補助を行なってい
ただいた京都大学工学研究科・古川愛子准教授に深甚なる感謝の意を表する次第であります。
参 考 文 献
1) (独)防災科学技術研究所:J-SHIS 地震ハザードステーションホームページ,
http://www.j-shis.bosai.go.jp/
2) 文部科学省:地震調査研究推進本部ホームページ,http://www.jishin.go.jp/
3) Boore, D. M.: Stochastic Simulation of High-frequency Ground Motions Based on Seismological
Models of the Radiation Spectra, Bull. Seism. Soc. Am., 73, pp. 1865-1894, 1983.