平成 24 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅰ 美白剤の OTC 市場動向

平成 24 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅰ
論文題目
美白剤の OTC 市場動向と美白成分の開発に関する研究
The development and a market trend of whitening agents
物理薬剤学研究室
09P056
4年
曽我 碧
(指導教員:飯村菜穂子)
要旨
古来より人々の白い肌へのあこがれは現代においても継続しているようである。そ
のニーズに応えるため、製薬・化粧品メーカーは競って美白剤の開発に乗り出し、優
れた美白剤の誕生も見られている。開発された成分は現在、たとえばドラッグストア
等で簡単に入手することも可能となり若年層から年配層までその年齢に関係なく化
粧水や乳液、美容液といった様々な剤形の美白剤をセルフで購入し、そのことも手伝
って OTC をはじめとする美白剤市場は成長市場となっている。メラニン色素の産生
が増加した状態、あるいは消化が低下した状態いずれかの原因でシミは表面化してく
るが、美白剤はこのメカニズムに働きかけてメラニン生成の抑制、排出の促進を行っ
ている。しかしその作用する点や働きは同一ではなく種類によって異なる。そのため
すべての美白成分がすべてのシミに効果的に働くわけではない。中には皮膚科で処方
されてシミ治療に用いるハイドロキノンのように効果が強く、その使用に注意を要す
る薬物もある。このように美白剤開発がすすみ、セルフケアも身近になったがその有
効性は適切な知識と使用法をもって初めて得られるものである。従って、ドラッグス
トアや薬局で正しい知識を持ってアドバイスできる薬剤師が OTC 薬の使用には大変
重要な存在である。
本論では、美白剤開発の歴史と一般市場の動向を解明し、正しい美白剤選択の重要
性と薬剤師との関わりについてまとめた。
1
キーワード
1.美白剤
2.OTC
3.シミ
4.表皮の構造
5.色素沈着
6.プラセンタエキス
7.アスコルビン酸誘導体
8.アルブチン
9.コウジ酸
10.エラグ酸
11.ルシノール
12.ハイドロキノン
13.トラネキサム酸
14.肝斑
15.雀卵斑
16.日光性黒子
17.炎症後色素沈着
2
目次
要旨・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
1. はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
2. 美白としみ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
3. 主な美白成分・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
4. 美白剤の一般市場への普及・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
5. 現代の美白に対する意識・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
6. おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
3
1.はじめに
「色の白いは七難隠す」と言われるが古来、白い肌は禊(みそぎ)によって生まれ
ると考えられ、それは汚れ、けがれを取り去った清浄無垢、健康な素肌への憧れだっ
た。平安朝の貴族文化の時代になると日の当たらない宮殿での生活で青白くなった肌
にさらにおしろいをぬった白い肌が上流階級のイメージとなり、しだいに白は高貴を
象徴する色になってきた。この時代の白い肌は、もはや素肌ではなく、白粉を塗った
白い肌だった。その後も白粉による化粧は続き第二次大戦後の欧米化で昭和二十七年
ころからファンデーションが売り出され一般化した。しかしこれらは白い肌を目指す
点では近年と変わらないが上塗りによる白肌であり、素肌の白さを求める美白ブーム
とは異なる。美白を謳う化粧品では古くは平尾賛平商店の「レートフード」が大正 4
年に発売され一世を風靡したが有効成分も秘密であり今のような美白市場の契機と
はならなかった 1。
このように美白用スキンケア化粧品は各メーカーともに開発・導入されていたがそ
のブームに火をつけたのは平成 2 年に開発されたアルブチンとコウジ酸である。画期
的なこの 2 剤を始めとして美白化粧品市場は成長市場となった 2。有効な効果の望め
る美白剤の開発により美白への意識が高まっている昨今、そのアプローチは多様であ
る。美白剤、美白化粧品の大量使用、皮膚科の受診はあまり不思議な現象でもなくな
り、シミ予防のための日焼け止めの塗布や日焼け後ケアのためのサンケア製剤の使用
3 も一般化している。美白に関する製品において、簡易的に入手可能なものは医薬部
外品、化粧品であるが、実はそれぞれ異なる美白成分が配合されている。従ってシミ
に対する作用も本来なら異なっているはずなのである 4。
一般に入手できる美白関連製品に対して「肌を美しく白くしてくれるもの」と思っ
ている人が多いがこの言葉を化粧品や医薬部外品に使用することを厚生労働省は認
4
可していない。メーカーがいうところの美白剤は「メラニンの生成を抑え、日焼けに
よるシミ・ソバカスを防ぐ」という効果・効能を謳うことのできる「医薬部外品の有
効成分として認可された剤」なのである。さらに 2001 年に薬事法が改正され美白剤
の効能は「日焼けによるシミ・ソバカスを防ぐ」から「メラニンの生成を抑え、日焼
けによるシミ・ソバカスを防ぐ」となった。したがって 2001 年以降に認可された美
白剤は人工的な紫外線照射のもとに生じた、もしくは生じる色素斑に対する抑制・軽
減効果が証明されなければ承認されていない。つまり現在ある美白剤は確かに紫外線
照射による色素沈着を早く軽減するものではあるが、シミ・ソバカスの治療薬として
認められたものではないのである 5。しかし規制緩和の影響もあって一時、コウジ酸
とハイドロキノンのように副作用が強いにも関わらず市場に出回った成分もあった。
コウジ酸は医薬部外品の有効成分として 1988 年に承認され、薬用化粧品に使用され
たが、発がん性および遺伝毒性との関係が疑われ明らかになるまで万が一のリスクを
少なくするために 2003 年新たな製造・輸入を見合わせる措置がとられたが、2005
年に再び、適正に使用される場合のみ安全性が認められ薬用化粧品に使用されるよう
になった 6。ハイドロキノンは刺激性と副作用である白斑黒皮症の発生のためその使
用を認可されていなかったが、日本において約 60 年の歴史のある成分で主に皮膚科
専門医の間で普及した有効性が高い薬剤であったことから 2001 年の薬事法改正に伴
い化粧品への配合について規制の緩和がなされた 5。
時代の流れとともに市場に出回る美白成分も多様性を増し、また自己責任での美白
剤の使用の手軽さは、便利な反面、リスクも高いと思われる。本論では美白成分の開
発にともなう美白市場の動向について詳しく調査するとともに、現代における市販美
白成分を扱うにおける課題点について考察することを目的に調査研究をすすめた。
5
2.美白としみ
しみは教科書的に肝斑の俗称とされてきたが、近年、「しみは美容すなわち若く美
しくみえること、また健康すなわち元気に見えることが最重要の治療目的となる良性
後天性色素沈着・増加症である」とする考え方が示され、光線性色素斑、脂漏性角化
症、肝斑、雀卵斑、後天性真皮メラノサイトーシス、炎症後の色素沈着など種々の疾
患がしみと呼ばれるようになった 7。このようなしみは、メラノサイトが後天的に外
的・内的な影響を受けてメラニン産生が増加した状態、あるいはメラニン消化が低下
した状態と捉えることができる 8。
2.1 皮膚の構造と色素沈着のメカニズム
2.1.1.皮膚の構造
身体は外から表皮、真皮、皮下組織の 3 層で覆われていて外の 2 層をなす表皮と真
皮を合わせて皮膚という 9。表皮は深部から順に基底層、有棘層、顆粒層、角質層に
分けられる(図 1)。細胞成分の大部分はケラチノサイトと呼ばれ、最終的に角質層を
構成する角質細胞を作り出す細胞である。それ以外にメラニン色素を合成するメラノ
サイトが基底層に存在する。
6
メラノサイトはメラニンを合成し、樹枝状に伸ばした突起を通して、周囲のケラチノ
サイトにメラニンを供給している細胞である。メラニンの合成はメラノサイト内にで
きるメラノソームと呼ばれる単位膜に囲まれた小顆粒中で合成される 10。
2.1.2 色素沈着のメカニズム
ヒトの皮膚色を決定するメラニンは表皮基底層にあるメラニン細胞で合成される。
メラニン細胞のメラノソームでチロシンからチロシナーゼによる酸化および自動酸
化や重合によって形成される(図 2)。この反応は紫外線によって促進される 11。また
この生成経路はメラニンの生成前、生成中、生成後に大別される。すなわちメラニン
生成前では紫外線の照射を受けるとケラチノサイトは ET-1 などメラノサイト活性化
因子を産生し、メラノサイトに刺激を与え、メラノサイトがメラニンの生成を開始す
る(Stage1)。α-MSH のようにケラチノサイトだけでなく、メラノサイト自らが産生
しているメラノサイト活性化因子もある。メラニン生成中はメラノサイト内にある顆
粒であるメラノソーム内でチロシナーゼ酵素反応が起き、チロシンが酸化してドーパ
を経て、メラニンになり成熟していく(Stage2)。メラニン生成後は成熟したメラニン
7
がメラノソームごとメラノサイトの樹上突起からケラチノサイトに移送される
(Stage3)。取り込まれたメラノソームは消化され中のメラニンがケラチノサイト内に
拡散し、メラニンが視認されるようになる 12。肌の機能が正常に働いていれば、表皮
細胞に受け渡された過剰のメラニンも約 1 カ月後には垢とともに排除される。また色
素細胞の働きも元に戻り、メラニンを多量に生成しなくなる。しかしこの働きがスム
ーズに機能しなくなり色素細胞が局所で活性化したままメラニンが過剰に生成され、
肌に残った状態がシミ・そばかすとなる 13。
2.2.主なシミの種類
2.2.1.肝斑
30 歳前後から始まる対側性びまん性の境界明瞭な褐色
調地図上色素斑で、眼窩下部から頬骨にかけて好発する。
病理学的には、表皮基底層のメラノサイトのメラニン産
生が亢進しているが、数の増加はない。原因として、紫
外線照射があげられるが女性ホルモンの関与も考えられ
る 8。肝斑の治療としてはトラネキサム酸(図 3)ビタミ
ン C、E の内服、外用療法では保険適用がある医療外用
薬はない。そのため医薬部外品として市販されているコウジ酸、ビタミン C リン酸
マグネシウム塩、アルブチン、ルシノール、ハイドロキノンが効果的とされている。
その他ケミカルピーリングやビタミン C などをイオントフォレーシスによって効果
的に経皮吸収させて治療する方法がある 14。
8
2.2.2.雀卵斑 14
いわゆるソバカスで、両頬から鼻背にかけての日光暴露部に出現する径 5mm まで
の淡褐色の点状色素斑である。3 歳頃から始まり思春期に最も著明になる。発症頻度
は人種差があり、白人に多く、その中でも赤毛を持つ者に多い。病理学的にはメラノ
サイトの数は不変であるが、メラニン産生がやはり亢進している。治療としてはレー
ザー治療、肝斑にならってビタミン剤やトラネキサム酸の内服が試みられることがあ
る。各種美白剤も外用されるが美白剤、内服薬の効果は不定である。
2.2.3.日光性黒子(老人性色素斑)
実際の外来でシミとして来院する患者の中で最も多い色素斑である。主に 50 歳以
降にみられる。日光暴露部に生じる境界鮮明な円形から類円形の淡褐色から黒褐色斑
で点状のものから貨幣状のものまで大きさはさまざまである。長期の反復性の日光暴
露が原因と考えられている。病変部ではケラチノサイトの ET-1 分泌亢進と、メラノ
サイトの ET-1 のレセプターである ETBR の発現増加が認められる。病理組織でケラ
チノサイトの表皮突起の不規則延長や角質層内のメラニン残存を認めることから、加
齢に伴うケラチノサイトのターンオーバーの低下や、ケラチノサイト内のメラニン貯
留、メラニン消化不良なども原因のひとつと推測される 16。治療としては凍結療法、
レーザー療法、ケミカルピーリングなどがある。またハイドロキノン、コウジ酸、ビ
タミン C などメラニン生成を抑制する物質はほかの治療法と組み合わせて積極的に
使われている 14。
2.2.4.炎症後色素沈着によるシミ 14
東洋人は欧米人に比べて炎症後色素沈着をきたしやすい人種である。炎症後色素沈
9
着は 2~6 カ月で軽快することが多いとされているがときに長期に渡り遷延する。炎
症が軽度で真皮上層に限局している場合には、表皮メラノサイトのメラニン産生が亢
進し淡褐色ないし褐色の色素沈着を生じるのみであるが、強い炎症がおきた場合には、
表皮細胞の崩壊を伴い、表皮ケラチノサイトが含有するメラニンが真皮に滴落して色
素沈着を呈する。発生機序についてはいまだ不明の点が多いがメラノソームの受け渡
しが促進され色素沈着を増強すると考えられる 7。ナイロンタオルによる摩擦など原
因があるものは原因を取り除くことが治療に必要である。また日焼けによる炎症は各
種美白剤によるケアや治療の適応となることは少ないが皮膚剥削術などが試みられ
る。
3.主な美白成分
3.1.主な美白成分の構造
図 4 に現在主に使用されている美白成分の構造を示した。
10
3.2.主な美白成分の作用機序
本節では現在市販品として簡易に手に入れることができる成分、プラセンタエキス、
アスコルビン酸誘導体、アルブチン、コウジ酸、エラグ酸、ルシノールについて詳し
く説明する。
①
プラセンタエキス
胎盤抽出液の総称で、美白剤として使われているのは牛由来の胎盤抽出液で、成分
はアミノ酸等を含む多様な混合物である。美白作用のベースはその細胞毒性を示さな
いレベルでの B-16 メラノーマ細胞に対するメラニン生成抑制作用でこの作用はチロ
シナーゼの直接阻害なしで起きる。その他にも保水性と角質溶解作用、創傷治癒促進
作用、血流促進作用、抗炎症作用なども知られており、これらの作用が相まって皮膚
の物質代謝が亢進され、色素顆粒などの異物の体外排出などが促進され、穏やかな美
白効果が与えられると考えられている 4。また肝斑患者への有効性は 55.6%であった
9。また表
3 では O/W エマルジョンの形状で花王ソフィーナ薬用ホワイトニングクリ
ア EX、コーセーホワイトニングセラム FX、ポンズダブルホワイト薬用美白デッセ
ンスセットに配合されている。
アスコルビン酸誘導体 15
②
表皮内でアスコルビン酸になった後にチロシナーゼの活性を抑制する作用、生成さ
れたメラニン中間体を還元する働き、紫外線により皮膚で生成する酸素ラジカルを消
去する機能を発揮すると考えられる。また表 3 では含浸シートで資生堂 UV ホワイト
マスクメデッカメンテ EX 中に、O/W エマルジョンでコーセーホワイトニングセラ
ム FX、鐘紡フレッシェルホワイト CE スポッツエッセンスに配合され、パウダーの
11
形状でコーセーコスメデコルテホワイトサイエンスフレッシュコンセントレイトに
含まれている。
アルブチン(ハイドロキノン-β-D-グルコピラノシド)13
③
ハイドロキノンの配糖体であり、ハイドロキノンの欠点ある皮膚刺激と不安定な性
質を配糖体にすることにより解決した。アルブチンはチロシナーゼおよび TRP-1 の
活性を阻害することによりメラニン生成抑制作用を示す。紫外線照射による色素沈着
に対し、配合製剤が対照に対し優位に沈着を抑制する。肝斑患者への臨床効果は有効
率 67.9%であった。また表 3 では半透明ゲルの形状で資生堂ホワイテスクリックエ
フェクターに配合されている。
④
コウジ酸
γ-ピロン化合物であり、主として Aspergillus 属や Penicillium 属などの糸状菌の
発酵液中に産生される。チロシナーゼに対する非競合阻害によりメラニン生成抑制作
用を示す 15。チロシナーゼの補欠分子である銅とのキレート作用によることが示され
ている 10。また肝斑患者への臨床効果はやや有効以上 92%、有効以上 78.3%となっ
ている 4。また表 3 では O/W エマルジョンの形状でコーセーホワイトニングセラム
FX に配合されている。
エラグ酸 10
⑤
ポリフェノール構造を有している化合物である。コウジ酸と同様、その阻害機序は
チロシナーゼの補欠分子である銅とのキレート作用によることが示されている。紫外
線による色素沈着に対するエラグ酸の効果についての臨床評価結果も報告されてい
12
る。また表 3 では透明ローションであるポーラルミエラホワイティシモホワイトショ
ットに配合されている。
ルシノール(4-n-ブチルレゾルシノール))4
⑥
レゾルシン誘導体の一種である。チロシナーゼを拮抗的に阻害し、TRP-1 の活性
阻害作用も併せつ。また細胞内のチロシナーゼ酵素蛋白質の量を減少させる作用も示
す。肝斑に対し、「やや有効以上」の改善が 8 割以上を示す。また表 3 では O/W エ
マルジョンの形状でライオン植物物語薬用ホワイトニングに配合されている。
3.2.3.市 販 で は 手 に 入 ら ず 、 医 師 処 方 が 必 要 な 成 分
この節では、現在簡易的には入手できない成分について詳しく述べる。
.ハイドロキノン 5
①
メラニン合成経路におけるチロシナーゼの活性を阻害し、ドーパからドーパキノン
への変換を抑制してメラニン合成を抑制する。種々の漂白剤がある中でハイドロキノ
ンは最も漂白作用が強い反面、発赤などの皮膚の刺激症状を起こすが、5%以下の濃
度であればその刺激症状も抑えることができるとされ軟膏剤として処方されている。
表 3 では、現在市販されている美白成分、表 4 では皮膚科専門医より処方される成
分についてまとめた。
13
表 3
市販される美白成分
美白成分
プラセンタエキス
形状
O/W エ マ ル ジ ョ ン
ビタミン C 誘導体
含浸シート
O/W エ マ ル ジ ョ ン
パウダー
アルブチン
半透明ゲル
コウジ酸
O/W エ マ ル ジ ョ ン
ルシノール
透明ローション
エラグ酸
O/W エ マ ル ジ ョ ン
美白成分
ハイドロキノン
4
含有される商品名
花王ソフィーナ薬用ホワイトニン
グ ク リ ア EX、
コーセーホワイトニングセラム
FX、
ポンズダブルホワイト薬用美白デ
ッセンスセット
資 生 堂 UV ホ ワ イ ト マ ス ク メ デ ッ
カ メ ン テ EX
コーセーホワイトニングセラム
FX、
鐘 紡 フ レ ッ シ ェ ル ホ ワ イ ト CE ス
ポッツエッセンス
コーセーコスメデコルテホワイト
サイエンスフレッシュコンセント
レイト
資生堂ホワイテスクリックエフェ
クター
コーセーホワイトニングセラム
FX
ポーラ ルミエラホワイティシモ
ホワイトショット
ライオン植物物語薬用ホワイトニ
ング
表 4
皮膚科で処方される美白成分
形状
軟膏
含有される商品名
HQ 軟 膏
4.美 白 剤 の 一 般 市 場 へ の 普 及
2
平成 2 年に開発されたアルブチンは美白市場を築き上げる契機となりア
ルブチンが配合された資生堂のホワイテスエッセンスは平成9年までに
1500 万 本 を 売 り 上 げ た 。 同 年 コ ウ ジ 酸 が 配 合 さ れ て い る コ ー セ ー の ホ ワ イ
トニングクリームが発売され美白戦争と呼ばれる現在の企業競争が本格化
した。後発メーカーの花王は平成7年ソフィーナブランドからソフィーナ
14
薬用ホワイトニングを発売した。このソフィーナ薬用ホワイトニングは低
価格でそれまでの資生堂のホワイテスエッセンス、コーセーのホワイトニ
ングクリームに比べ約半額のコストで一気に美白化粧品の低価格化が進ん
だ。その後資生堂はアルブチンの増量でバージョンアップをはかったりコ
ー セ ー は 平 成 8 年 に ホ ワ イ ト ニ ン グ セ ラ ム FX を 低 価 格 で 売 り 出 し た り ラ
イオンがエラグ酸を開発し植物物語薬用ホワイトニングを発売したりと各
企業が競い合い高品質化、低価格化が進んだ。これまで述べた内容は主に
美容液タイプの化粧品であったが、化粧水タイプではコーセーの雪肌精が
昭 和 60 年 末 か ら 今 も 販 売 さ れ 続 け る ロ ン グ セ ラ ー と な っ て い る 。ま た 平 成
9年に資生堂はオードブランを売り出している。このような一般の化粧品
メーカーだけでなく訪問販売メーカー、通信販売メーカー、舶来化粧品ブ
ランドなど様々なところで美白化粧品は需要の伸びる商品として各メーカ
ーが力を入れている分野となった。
5.現 代 の 美 白 に 対 す る 意 識
16
美 白 機 能 評 価 専 門 委 員 会 が 2005 年 11 月 ~ 2006 年 1 月 に か け て 日 本 人 女
性 277 人 を 対 象 に 実 施 し た ア ン ケ ー ト に よ り 図 4~ 6 の よ う な 結 果 と な り 回
答は全ての年代においてほぼ均等に得られた。
15
図4 気になるしみ、そばかすの年齢別有無
あり
15~19歳
なし
41%
20~29歳
59%
66%
30~39歳
34%
91%
40~49歳
9%
97%
50~歳
3%
94%
全体
6%
81%
19%
図 4 で は 30 代 以 上 の 大 多 数 が シ ミ 、 そ ば か す を 気 に し て い る 。 ま た 15~
19 歳 で も 5 人 に 1 人 、 20~ 29 歳 で は 5 人 に 4 人 に 気 に な る シ ミ 、 そ ば か
す が あ り 若 年 層 で も 美 白 に 対 す る 意 識 は 低 く な い こ と が わ か る 。ま た 、図 5
は 気 に な る シ ミ 、そ ば か す の 部 位 に つ い て の 回 答 を ま と め た も の で あ る が 、
こ こ で は 顔 面 に か な り 回 答 が 集 中 し 、 68% を 占 め た 。
図5
気になるしみ、そばかすがある場所
(複数回答可)
その他
18%
背中
6%
頬
35%
手の甲
8%
鼻
10%
目尻
23%
図 6 では美白化粧品への意識調査を行った結果であり、使用品目につい
て回答が得られた。
16
図6
使用したことがある美白化粧品はどの製品ですか
(複数回答可)
化粧水
美容液
乳液
50歳~
32
33
40~49歳
31
33
30~39歳
38
20~29歳
36
15~19歳
19
クリーム
パック
22
29
19
19
44
22
9 1
52
24
34
その他
11
19
9 2
12 2
7 6 31
図 6 の 結 果 か ら 、 化 粧 水 、 美 容 液 の 使 用 率 が 高 い こ と が わ か る 。 ま た 20
代以上での美白化粧品の使用者に年齢層による大きな差はみられず、継続
してケアが行われていることがうかがえる。さらに化粧水、美容液を使用
し て い る 人 が 圧 倒 的 に 多 く 、特 に 20 歳 以 降 で 美 容 液 を 使 用 す る 人 が 増 加 し
て い る こ と が わ か っ た 。 使 用 す る 時 期 に つ い て は 65% が 「 通 年 」 と 答 え 、
続 い て「 夏 に か け て 」が 16% 、「 気 に な る と き 」が 17% で 美 白 ケ ア が 日 常
生活に浸透していることがわかる。
6.おわりに
若年から年配までその年齢に関係なく美白に対する意識は高く、特に 20 代以上の
年代でセルフケア率が圧倒的に多い。そのケアも美 白 機 能 評 価 専 門 委 員 会 の お こ
な っ た ア ン ケ ー ト 結 果 で は 通年行う人が 6 割以上、夏場に集中的に行っているだ
けでも約 2 割おり、現代において美白のセルフケアは当然のように浸透している。美
白剤は色素沈着のメカニズムでチロシナーゼに作用するものが多かった。しかしその
17
作用は単一でなく、活性を阻害するものや分解を促進するものまたそれらの作用と併
せて別の機序からアプローチするものなど様々である。このような作用機序の違いか
ら単に「美白剤」といえども色素沈着への有効性の見極めが複雑化していると考えら
れる。しかしセルフケアを行う消費者たちで自分のシミの種類を把握し、どのような
ケアが有効か理解している消費者は多くないだろう。さらに厚生労働省が推奨する濃
度を上回る有効成分を含む美白化粧品も販売されている現状をみれば、安全で適切な
症状の緩和に導くことは難しいのではなかろうか。従ってドラッグストアや薬局で正
しい知識を持ってアドバイスできる「薬剤師」がこれらのことに深く関わり、医薬品、
医薬部外品、化粧品の目的に沿った服薬指導を行うことが大切と思われる。
謝辞
本研究を進めるにあたり、ご指導を頂いた物理薬剤学研究室飯村菜穂子
准教授に感謝致します。また、多くのご助言を頂きました物理薬剤学研究
室の諸先輩方に感謝します。
引用文献
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16 日 本 香 粧 品 学 会 美 白 機 能 評 価 専 門 委 員 会
日 本 人 女 性 の し み 、そ ば か す 、
および美白化粧品使用等の実施に関するアンケート調査
誌 ,Vol.30,No.4,306-310,2006
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日本香粧品学会