金融業務と法(石本哲敏)

金融業務と法(石本哲敏)
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2、3年前期
選択必修
2単位
15回
科目内容・目標
銀行、証券、保険といった金融業務は、現代社会においてとても重要な意義を有している。そして、これらに
関する論点は、民商法においても重要な位置を占めており、法科大学院生としてきちんと理解しなければならな
いものが多い。
ところが、担保、保証等金融業務に関する法的問題は生活実感が薄いこととあいまって、苦手意識を持ってい
る法科大学院生が少なくない。
そこで、金融取引のうち、主として銀行取引の分野における民商法上の問題点を取り上げ、これらの問題をで
きるだけ取引の実体に即した具体的な紛争事例として問題の所在を明らかにし、その分析を通じて、一見自分
達の生活とは関係が薄そうな金融取引法が、実はきわめて身近なものであることを実感するのを目標とする。
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授業の基本方針
受講生との間において双方向の授業を成立させるため、授業前の準備、実際の授業、授業後の整理の各段
階を連続させ、金融取引上の問題を解決する能力を涵養することにする。そして、一見複雑難解に見える金融
取引上の論点も、実際は基礎的な民商法の議論の積み重ねによって、そのほとんどが解決可能であることを理
解する。
(1) 事前学習の段階においては、毎回配布される予習問題について簡潔な答案構成を作成し、授業の際に提
出することが要求される。答案構成作成にあたって、資料を調査等する必要はない。自分の頭で考えて問題
点を抽出するようにしてもらいたい。手書きで提出されたものについては希望があれば添削をする。
(2) 実際の授業は、プロブレム・メソッド方式により、問題点を検討し、双方向的・多方向的に討論、対話させるこ
とを主眼に置き、具体的な紛争ケースの解決にあたっての法的な分析能力や解決能力を養成するようにする。
そして、授業の終わりに、レジュメと資料を配布し、問題の理解に必要な理論や判例、実務の状況等を中心に
まとめをする。
(3) 事後学習においては、授業での議論、配布されたレジュメや資料を利用して、自分なりにまとめをしてもら
いたい。その際に疑問が生じた場合には、次回の授業時または SyllabusNet を利用して講師に質問をし、さら
に議論を進めて授業内容の理解を深め、発展させる。
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成績評価
期末における試験の結果を 7 割、授業への取組みの姿勢(出席状況、レポート提出状況及び授業における発
言)を 3 割として評価する。
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教材
教科書は特に指定しない。授業の際、レジュメと判例等の資料を配付する。
入門書として、有斐閣アルマ「民事執行・保全法」を指定する。民事執行法と民事保全法の教科書を持ってい
ない受講者は、購入をお勧めする。
参考書としては、塩崎勤編の銀行関係訴訟法(青林書院)、塩崎勤編の金融信用供与取引訴訟法(青林書院)、
金融商事判例1211号(金融・商事判例50 講―裁判例の分析とその展開)、金融法務事情1581号・金融判例100、
別冊ジュリスト民法判例百選Ⅰ、Ⅱ、倒産判例百選(有斐閣)、および法曹会編・最高裁判例解説(民事編)があ
るがいずれも購入する必要はない。
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授業計画
15 回の授業計画は、以下のとおりである。なお、今後の金融情勢や立法、重要判決の言渡等、金融法務に重
大な影響を及ぼすニュースがあった場合、内容を変更してそちらを取り上げることもある。授業で取り上げる判例
は示しているが、その他の判例についてはレジュメ等において指示する。
第 1 回 金融取引法の考え方
この授業で取り扱う金融取引についての概要と、金融取引紛争の処理にあたっての考え方を説明する。
第 2 回 債権譲渡と対抗要件
説例を用いて債権譲渡についての異議なき承諾の問題について検討する。
最判平成 9.11.11(民法判例百選 30 号事件)
第 3 回 保全と執行
多数の小問に民事保全法または民事執行法の条文を引用しながら回答することにより、金融取引実務上重要
な民事保全法と民事執行法の基礎的な理解と条文操作を身につける。(有斐閣アルマ「民事執行・保全法」)
第 4、5 回 銀行の説明義務・担保不動産競売手続
設例を用い、資金を融資した銀行の説明義務についての分析・検討を通じて、問題解決の指針を明らかにし、
紛争処理の適正解決指針をも解明させる(金融・商事判例 50 講 50 頁・64 頁・66 頁)。あわせて、担保不動産競
売手続の概要と、債務者の不服申立手続についても検討する。
最判平成 15.11.7(金融商事判例 1189 号 4 頁) 接道要件
東京高判平成 14.4.23(金融・商事判例 1142 号 7 頁) 変額保険
第 6 回 金融業務と刑事法
設例を用い、振り込め詐欺の準備行為である預金通帳取得や ATM における盗み撮りといった銀行業務に関
連する不正行為と刑法の関係について概観し、次々と現れる新しい犯罪類型に対し、金融機関としていかなる
対応が可能かをあわせて検討する(NBL871 号 8 頁)。
最決平成 19.7.2(平成 19 年ジュリスト重要判例解説刑法 6 事件)
最決平成 19.7.17(平成 19 年ジュリスト重要判例解説刑法 9 事件)
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第 7 回 保証否認
説例を用いて保証契約の成否・効力の有無をめぐる実務的な問題点を分析・検討して、紛争処理の適正解決
指針を解明させるとともに、保証契約が要式行為化された改正民法との関係や保証契約締結に関する金融実務
の取扱準則を検討する(金融・商事判例 50 講 34 頁)。
最判昭和 45.12.15(民集 24 巻 13 号 2081 頁、金融判例 100・122 頁)
第 8 回 弁護士法 23 条の 2 の照会請求、調査嘱託と金融機関
弁護実務において重要な証拠収集手段である弁護士会照会と調査嘱託について、開示を要求される金融機
関の立場からそれらの問題点を検討する。そして、適正な裁判の要請と、プライバシー権、銀行の守秘義務、個
人情報保護法といった論点を、いかなる枠組みで解決するかを考察する。
最判昭和 54.4.14(民集 35 巻 3 号 620 頁)
大阪高判平成 19.1.30(金融法務事情 1799 号 56 頁)
第 9 回 集合債権譲渡担保
債権回収や倒産処理の実務にあたってしばしば深刻な問題となる、集合債権譲渡担保、債権譲渡特例法に
おける対抗要件についての問題点の概要と判例の動向を検討し、それらの問題点を踏まえた金融実務を検討
するとともに、供託や債権譲渡登記についての具体的なイメージを持たせる(金融・商事判例 50 講 42 頁、88
頁)。
最判平成 11.1.29(民集 53 巻 1 号 151 頁、金融・商事判例 1102 号 12 頁)
最判平成 16.7.16(民集 58 巻 5 号 1744 頁、金融・商事判例 1203 号 12 頁)
第 10 回 抵当権に基づく物上代位
説例を用い、近年、相次いで最高裁判決が出され、債権回収の一般的手法となった半面不動産賃借人にも
大きな影響を与えている抵当権に基づく物上代位についての判例の動向およびその問題点を踏まえた金融実
務・弁護士実務を検討する(金融・商事判例 50 講 100 頁)。
最判平成元.10.27(民集 43 巻 9 号 1070 頁、金融・商事判例 838 号 3 頁)
最判平成 13.3.13(民集 55 巻 2 号 363 頁、金融・商事判例 1116 号 3 頁)
第 11 回 手形交換と不渡制度
説例を用いて手形交換所を経由して行われる手形交換制度・不渡制度の仕組みに関する基礎理論を概観し、
手形交換制度、取引停止処分、異議申立をめぐる法的問題を検討するとともに、現実の手形小切手取引について
のイメージを持たせる。
最判昭和 57.6.17(金融法務事情 1002 号 49 頁)
第 12 回 抵当権と執行妨害
説例を用いて、近年最高裁判例が多く出されている抵当権の実効性確保に関する問題点について理解を深
めるとともに、民事執行法の条文操作に慣れる。
最判平成 11.11.24(民法判例百選 84 号事件)
最判平成 17.3.10
第 13 回 相続と金融機関
説例を用いて、預金者に相続が発生して複数の相続人が存在する場合の問題点を、遺産分割手続の流れと、
当事者の感情的対立が先鋭化する遺産分割手続に巻き込まれた銀行の立場とから検討する。また、関連して遺
産分割手続に関与する弁護士の懲戒リスクにも言及する。
最判平成 21.1.22(金融法務事情 1864 号 27 頁)
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第 14 回 信託契約
信託法についての数少ない最高裁判決である下記判決の意義を、説例を用いて考えるとともに、信託法が現
実に適用される場面を具体的に検討する。あわせて、新信託法の規定について検討する。
最判平成 14.1.17(最高裁判例解説民事編平成 14 年度(上)18 頁)
第 15 回 濫用的会社分割
最近の金融法実務で大きな問題となっている濫用的会社分割について、説例を用いて考えるとともに、会社
分割についての会社法上の規定を確認する。
東京地判平成 22.5.27(金融法務事情 1902 号 144 頁)
東京高判平成 22.10.27(金融法務事情 1910 号 77 頁)
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