ソーシャルデザインシンキングとMOD―その4

ソーシャルデザインシンキングとMOD―その4
Social design thinking and MOD – 4
MOD:サービスドミナントロジック市場とサプライチェーンにかける橋
MOD : A bridge over Service dominant market and Supply chain system .
(KEYWORDS: service dominant logic, bilateral user involvement, supply chain)
○竹川亮三(シンカデザイン)
1.はじめに
ザイン・企画段階という初期ステージに於いてそれ以降の全て
家電製造業界の今日的な二つの注目すべきサブジェクトと
のステージで予想される問題を解決しておかねばならないと
その全体最適を求めるマネジメントとしてのMODの関係につい
いう立場に押し出されることとなった。 例えば、海外の生産
て改めて考えてみたい。
国に置いてその製品の金型類が起こせるのか、加工技術や表面
東日本大震災は日本を含む世界の製造業のサプライチェーン
処理技術や塗装技術はあるのか、また使用材料は手にはいるの
を寸断し部品や材料欠品により国内外の多くの製造業に影響
か、などなどである。これらの入手可否チェックから 価格や
を与えた。かつての国内垂直統合的な製造体系が崩れ国際水平
品質や安定供給や代替えの準備まで関連部門と調整しながら
分業的にグローバル市場とグローバル製造が組み合わさり部
必要とあれば他のオプションを現地の条件に合わせながら提
品の調達先や製造場所やその販売市場などの組み合わせはさ
案したりその生産国を含むサプライチェーン全体での条件を
らに複雑さを増している。その一方で先進市場は益々サービス
勘案しながらで当初のデザインを含む企画アイデアやイメー
とモノが融合しあらゆる企業活動がservice dominant logic
ジの実現へと現実的現場的に調整してまとめ上げて行くのが
(S-D logic)と呼ばれる方向に向かいモノとコトの境目がぼ
デザインの大きな仕事となった。(図1) デザインは今回の
やけてきている。この二つの大きなイベントは一見関連の薄い
震災によるサプライチェーンの混乱による問題点の解決やそ
別々の出来事であるかに見えるがその実最前線では相互に大
の構造的な再点検、そして海外生産戦略の再構築にも以上のよ
きく深くかかわり合って企業は更に高度な経営マネジメント
うな観点から更に深く参加し関与せねばならない。
的な課題を突きつけられている。このような問題の解決姿勢に
はそれぞれの部分を見ながらも全体最適を目指そうとするデ
ザインシンキング型思考が必要であり感性工学会「デザイン&
ビジネス研究部会」提唱するMOD(Management of design)の
考え方が益々必要となっている。筆者は家電製造企業で生産事
業部とデザイン会社の双方の責任者としてこれらの現場で実
情に長く深くかかわりをもった経験から今回の震災を機にこ
図1
のことを再考してみたい。
2.サプライチェーンの再構築
まずは製造業のモノつくりに関してサプライチェーンと
3.Service dominant logic 的市場への対応
一方市場はモノ単独からコトとの融合へ急速に拡大進展を
デザインの関係を見てみる。 デザインは高度工業化時代には
続けている。いわゆるモノ中心でそれ以外の経済活動をサービ
色と形の領域に専従してサプライチェーン的課題は責任外の
スと呼んでいたGoods dominant logic(G-D logic)的市場から
事として,即ち工場の資材や製造の問題として深く立ち入らな
経済活動全てはサービス活動でありモノはそのサービスを享
くて済んだが1985年のプラザ合意を境として円高による
受するための道具と見なすService dominant logic(S-D logic)
資材加工・調達、生産などの海外シフトが進むことによりこれ
市場へである。近年ではモノとサービスの融合の典型が家電通
らの要因もデザイン時の初期考慮要因として当事者の立場か
信関連ではi-Pod with i-tube や一連のスマートフォンがある
ら関わらざるを得なくなった。即ち従来は企業内または関連会
し,国内の家電以外の市場でもUNIQLO、Book Offなどのような
社や系列会社という国内垂直統合的な生産環境条件下ではデ
ビジネスモデルに見いだせる。これらの企業の活動の特徴は
ザイン組織も旧来の色形に留まるデザイン業務を進めさえし
G-D logic では企業が製品をつくり顧客は消費するという一方
ておれば他の要因は前後段の他部署が時系列的処理してくれ
通行の関係であったのがS-D logicでは企業と顧客が双方向
るという構造であったのが短期間で生産環境が多国間に跨る
で協業的、かつ継続的な関係を持ちそれを通しての使用上の価
国際的な水平分業に移行したことにより開発プロセス上でデ
値やトータルな文脈上の価値を共創する関係になってきてい
連絡先(〒194-0045
東京都町田市南成瀬 4-17-7, TEL/ FAX :042 727 2124 ,E-mail:[email protected])
る。即ち顧客像が企業が創る製品やサービスを一方的に受け取
筆者の在籍した企業で1985年ごろから商品開発プロセス
るだけではなしに企業と交流共創をするパートナー的存在に
上で行なった実例を再度挙げる。ある製品の企画を進めるに際
なりつつあるということである。このことは2010年の感性
してその最も初期の段階で開発に関わるすべての部門から(例
工学会大会で「ユーザーインボルブメント的に見た企業と顧客
えば、企画、デザイン、設計、資材、営業など)プロジェクト
の概念図」でも示した通りである。(図2) これは「デザイ
の責任者が集まりチームを組んで生活者宅を訪問して何時間
ンシンキング」で言うところのインスピレーションと呼ばれて
か歓談しながらその人の生活全体を感じさせてもらうという
いるステップが特に重要になったということを示しており、世
活動を盛んに行なった。「デザインシンキング」でいうところ
の出来事を満遍なく洞察し何かに共感しそこからインスピレ
のinspirationとideationに相当する活動である。要するに商
ーションや気づきを得るという共創への特徴的な初期段階で
品開発プロセス上での最も初期の段階でユーザー訪問という
ある。筋道を設けた方法論ではなく企業や開発参加スタッフ各
現場に入り込むことにより企画商品のイメージを明確化する
個人のもつ文化的な感受性や美意識で広く世界を見てから再
と同時にそれを設計生産するために後段で予想される問題点
度企業としての足元を見直そうというオープンで自由な自発
の洗い出しやその共有(フロントロード)と解決アイデア(フ
的概念である。この初期段階というタイミングで部分と全体の
ロントソリューション)出しなどを行う。そして場の共有によ
関係を深く洞察してユーザーや企業内での各部門間にコラボ
って生じる組織間のコラボレーションを通しての課題のフロ
レーションを起こそうとするのが新しいデザインの精神であ
ントローデイングとフロントソリューションというプラット
りMODのベースでもある。サービスとの関わりが更に進化せざ
フォームを創成するというオペレーションであり今思えばこ
るを得ない製造業にとって真剣に取り組むべきマネジメント
れこそがMODの真髄部分であったと考える。即ちモノもコトも
である。
それぞれに時代と共に変わるがこの二つをユーザー側に立っ
てひとつのものと見なしてプロダクトを創造して行こうとす
る為のマネジメントでありこれこそがMODでありデザインシン
キングの精神に共通するものである。そしてこの精神を企業カ
ルチャーにまで広げ経営イノベーションへと続けようという
概念でもある。
5.災害を機に経営マネジメントの新境地へ
1990年代(失われた20年の前半)は企業内各部門の部
分利益の最大化を目指し三大過剰(人、設備、債務)の追放を
図2
4.MOD上でのモノ造りとコト創りの融合
主たる経営課題としてきた。この行動は日本本来の強みである
組織全体と将来を考え全体最適の行動をとるという調和型の
上記2のような世界の製造現場の奥深く、またその一方で
行動様式を壊してきた。商品の開発に置いても在来ラインアッ
3のような世界の市場の奥深く起きている一見遠い極にある
プの高機能化(最適化)に専念し、事業部間を超えて全体最適
ような経営課題は実際には複雑さを増しながら相関度を益々
を目指せる人材の育成や企業のキーコンピタンスを生かした
高めており商品開発の着手時にその相関要因を出来るだけ抽
全体最適への再編成やそのための外部との連携などに遅れを
出し予想される問題点を可能な限り解決しておくことが必須
とることとなりMOD的な経営志向する韓国企業の進出を許す結
となっている。その為の組織形態として従来のデザイン部門を
果となった。そういった産業界の事情を飛越して今回の大震災
母体としてさらに発展させmanagement of design(MOD)という
はいきなり我々ひとりひとりに人生の意味の再確認を迫ると
マネジメント能力や機能をもつ組織力を創出すべきであると
いう不連続な特異点を作り出した。企業もソーシャルな存在と
するのが2004年のデザイン&ビジネス研究部会発足以来
してのあり方に再考の機会を得たと考えるなら単に失ったも
の主張である。(http:dbsn.jpを参照されたい。)そのMODの
のを元の形に戻すということではなくその存在意義や理念の
大略の関与領域は図3のようであり製造企業では中枢オペレ
あり方などを再構成して元の状態に戻すだけでなく更に生き
ーションのトータルメネジメントとなる。
がいのある社会の構築という別の次元へ向けての活性化を図
るという方向でなければならないだろう。 MOD的マネジメン
トの導入はそこへの第一歩である。
参考資料
1.Design Thinking
IDEO Tim Brown HBR 2008/6
2. Stephen L. Vargo & Robert F. Lusch Evolving to a New Dominant
Logic for Marketing Journal of marketing 2004
3, 日本感性工学会研究論文集 2007年9月
MODという概念確立と経営革新への応用
図3
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竹川亮三