森林技術 - 日本森林技術協会デジタル図書館

ISSN 1349-452X
昭和26年9月4日 第三種郵便物認可 平成20年8月10日発行(毎月1回10日発行)
通巻797号
森林技術
《論壇》環境と森林の変化を追う/高橋正通
《特別寄稿》ニュージーランド林業の今 /矢野俊夫
《特別寄稿》
「松野
礀とクララ夫人」補遺
―松野墓地修復を機に―/小林富士雄
●第54回森林技術賞紹介
●CPD-017-土木-002-200808 最近の緑化工技術
●
「森林情報士2級資格養成機関登録制度」
による森林情報士登録者名簿
日本森林技術協会
8
2008
No.
797
親子で読む
森林
答
03-3261-5393
〒102-0085 東京都千代田区六番町7
森林
普及部
森 林技術
■論壇
■解説
8.2008 No.797 目次
❷ 環境と森林の変化を追う………………………………………………………… 高 橋 正 通
❽ 間伐放置材はどれくらいの速さで分解するか?……………………………… 酒 井 佳 美
■特別寄稿
ニュージーランド林業の今……………………………………………………… 矢 野 俊 夫
「松野
■第
とクララ夫人」補遺 ―松野墓地修復を機に―…………………… 小 林 富士雄
54 回森林技術賞の紹介
流域生態系に配慮した森林管理技術の開発………………………………… 長坂 有・長坂晶子
多雪地帯におけるスギ人工林の混交林への誘導に関する研究とその普及… 長谷川 幹 夫
山地災害地区における三次元地理情報の時系列変化を用いた
評価・予測システムの開発……………………………………………………… 馬 場 宰
■会員の広場
これからの森林を考える………………………………………………………… 今 永 正 明
■連載
リレー連載 レッドリストの生き物たち
52.マメナシ……………………………………………………………… 加 藤 珠 理
森林系技術者コーナー:CPD-017-土木-002-200808
17.最近の緑化工技術…………………………………………………… 谷 口 伸 二
山村の食文化
36.サンショウ…………………………………………………………… 杉 浦 孝 蔵
■コラム
■ご案内 緑のキーワード:
新しい林業経営者/岩井吉彌
本の紹介:
森林文化の社会学/北村昌美
21 世紀を森林の時代に/田中 潔
こだま:センス・オブ・ワンダー
統計に見る日本の林業:
木材価格の動向
「林業生産専門技術者」養成プログラム ―受講者募集のご案内―
「森林情報士 2 級資格養成機関登録制度」による森林情報士登録者名簿
新刊図書紹介
森林・林業関係行事/日本森林学会支部大会/林業技士
協会からのお知らせ……………………… 林業技士(森林評価士)登録更新/
森林情報士/投稿募集/雑記 〈表紙写真〉 大雪湖と石狩岳 北海道大雪湖岸にて 編集部(当時)撮影(保存ポジから)
本会ホームページ【URL】http://www.jafta.or.jp
論 壇
環境と森林の変化を追う
(独)森林総合研究所 立地環境研究領域 領域長
〒305-8687 茨城県つくば市松の里1
Tel 029-873-3211 Fax 029-874-3720
E-mail:[email protected]
1980 年北海道大学卒。林業試験場土じょう部,熱帯農業
研究センター,森林総研北海道支所,森林総研養分環境研究
室長などを経て現職。博士(農学)。
現在,酸性雨センター伊自良湖ワーキンググループ委員,
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)排出係数編集委員,
土壌肥料学会編集委員,森林立地学会代表幹事などを務める。
今春,ノーベル平和賞を受賞した IPCC 事務局から,受賞
への貢献を認定する賞状が届けられたお一人。
たか はし まさ みち
高橋正通
●酸性雨モニタリングを振り返る
地球環境の急な変化が心配されています。世界各地で発生する異常気象は,地
球の温暖化が原因と疑われています。国内でも温暖化が進むと,ブナ林の分布面
積が小さくなるとか,南方からの病害虫が拡大するとか,さまざまな可能性が指
とな
摘されています。一方,このような予想に対して短絡的と意義を唱える学者もい
ます。実際,われわれが住む生態系には多くの生物が住み,相互にかかわりをも
って生きていますので,温暖化のような環境変化の影響を予測するのは難しいも
のです。
私は森林総合研究所で土壌を研究しています。温暖化や酸性雨の影響により土
壌がどのように変化するのかを調べています。環境変化が生態系に及ぼす影響に
ついて,最近話題に上ることの少なくなった酸性雨から見てみましょう。
1980 ~ 90 年代の最大の環境問題といえば酸性雨でした。欧米各地で観測さ
れた原因不明の森林衰退は,工業化により 19 世紀以来排出された汚染が累積し,
森林の衰退や湖沼の酸性化をもたらしたことが原因とされました。工業国である
わが国の森林も同様の心配があったため,林野庁や環境庁(当時)による調査や
試験が計画され,全国規模で 10 ~ 20 年にわたる長期モニタリングが実施され
ました。これらの調査結果によると,日本には欧米なみの酸性雨が降っているも
2
森林技術 No.797 2008.8
のの,森林や湖沼などの生態系への影響は顕在化していない,という結論が得ら
れています。結局,心配には及ばずということで,酸性雨のモニタリング予算は
削減され,多くのモニタリングが中止となりました。
私は林野庁と環境省の酸性雨調査の検討委員として終盤の取りまとめをお手伝
いしました。この中で,他の委員の諸先生とともに過去にさかのぼって観測デー
タを発掘したり,解析し直したりした結果,新たな発見がありました。そのいく
つかを紹介するとともに,改めて,複雑な生態系を扱うにはモニタリングとその
結果を見る眼の重要性,さらに,モニタリングに取り組む科学者の責務を考える
ようになりました。
●森林の変化
酸性雨影響のモニタリングにより,欧米のような森林衰退はほとんど見られな
いことが確認されました。亜高山帯の立ち枯れを酸性雨と見るかどうかは議論が
ありますし,最近は,大気汚染の影響で発生するオゾンが森林を衰退させるとも
いわれています。しかしいずれにしろ,日本では大規模な森林衰退は確認されて
いません。林野庁や環境省の全国調査で,ある程度決着がつきました。
林野庁の調査は,人工林を中心に全国 1,000 地点で 5 年ごとに毎木調査と樹冠
の衰退度などを調べる大規模なものでした。2000 年以降は予算の削減で調査規
模は縮小されてしまいましたが,15 年間に 5 年周期で 3 度行われた調査は,日
本の人工林の変化を示しています。データを詳しく見ると,酸性雨による森林衰
かいま
退だけでなく,最近の森林の様子が垣間見えてきます。
まず,森林の衰退の結果について示します。衰退の原因が酸性雨であると特定
するのは難しいですが,衰退原因のわからないものを酸性雨の疑いとしています。
原因不明の衰退は少なく,たいていは原因が特定できました(図①)。10 年間の
衰退原因の変化は,気象害と過密の変化が顕著です。日本は数年ごとに大きな台
風や雪害が発生します。人工林の健全な育成にとって気象害のリスクは,けっこ
う高いことがわかります。また,気象害は根返りや幹折れなど激害となりやすい
のも特徴です。地球温暖化による異常気象の増加が予想されていますので,気象
害の増加は今後かなり心配されます。
もう一つの衰退原因は過密によるもので,衰退度 1 ~ 2 の軽度なものです。衰
退の程度は図②のように葉や枝の様子を目で見て 5 段階に区分する方式です。間
伐遅れによる枯れ上がりや周辺木からの被圧によって,樹冠の着葉が貧弱になる
ため軽度な衰退と判定されています。5 年ごとの調査のたびに気象害と過密の割
合は増え続け,健全木はどんどん減っています。調査は 90 年代前半に 6 ~ 7 齢
級の各地の典型的な人工林を中心に選んでいますので,日本の人工林がいかに間
伐されず放置されていたかを示すデータといえます。すなわち,酸性雨による森
林衰退は観測されませんでしたが,林業活動の低下による衰退が進んでいたので
す。日本の林業の現状を反映したモニタリング結果でした。林野庁は地球温暖化
の防止など公益的機能の発揮のため,間伐推進を計画していますから,間伐遅れ
の状況が今後,改善されていくことを期待しています。
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3
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ஜో
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ஜో
▲図① 全国のスギとヒノキ林における樹冠の状況と衰退木の衰退原因の変化
(5 年ごとに樹冠の衰退割合を調査した。過密と気象害による衰退が増加している。)
4
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0
1
2
3
4
衰退進行
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
窒素/硫黄
'90 '91 '92 '93 '94 '95 '96 '97 '98 '99
年
▲
雨の窒素と硫黄の濃
濃度比
▲図② 樹冠の形状模式図と衰退度
図③ 梅雨期に全国で採取し
た雨の窒素と硫黄濃度の比
(窒素に比べ硫黄分が減少し,
その比が上昇した。)
●雨と土壌の変化
酸性雨のモニタリングですから,もちろん雨や雪の成分が調べられ,土壌の酸
性化や渓流水の水質も調査されました。その結果,雨の成分は工場や自動車,農
業や畜産など人間のさまざまな活動の影響を敏感に反映するバロメータであるこ
とがわかりました。林野庁の調査から,1990 年代は梅雨期の雨の硫酸成分が減
少傾向にあり,環境改善が進んでいました(図③)。ただし,この時期の日本の
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5
経済はバブル崩壊後の低成長期でしたので,それを反映したものかもしれません。
また排ガスなど大気に揮散する汚染物質は,風や雲に乗って遠くへ運ばれますの
で,国内の対策だけでは解決できない場合があります。これまでも中国の環境汚
染が日本に越境する可能性が心配されていましたが,最近の急激な経済発展はこ
の心配が現実味を帯びてきました。
一方,私の専門とする土壌の変化はわかりにくいものでした。微妙な変化はあ
かんしょう
りましたが,土壌は場所による成分の違いが大きく,また緩 衝 作用があるので,
かん まん
10 年間の変化は非常に緩慢なものでした。短期のモニタリングの限界を示して
います。
い
じ
ら
●伊自良湖の酸性化
環境省の調査結果は林野庁の結果とほぼ同様で,全国的には森林の衰退や土壌,
湖沼の酸性化はほとんど観察されませんでした。ただし,継続的な変化の認めら
れる観測地点が 1 カ所ありました。岐阜県の伊自良湖(写真)です。県南部にある,
森林に囲まれた小さなダム湖で,その表層水と湖畔の森林土壌の酸性化が 1994
年ごろから急速に進んでいました。この辺りは中京工業地帯の汚染が集まる地域
で,雨や大気から入る汚染物質は日本有数に高い地点です。そのため,伊自良湖
の酸性化は酸性雨の影響が現れたのではないかと疑われています。
これは環境省にとって重大な発見です。日本には酸性雨の心配がないという
結論と矛盾し,かつ,10 年以上前から酸性化が進んでいたのですから。しかし,
北海道大学の中原 治先生が指摘するまで,多くの関係者が誰も気づきませんで
した。全国のたくさんのモニタリング結果から変化を見つけるのは,実はそんな
に簡単な作業ではありません。さらにその変化の意味を解釈するのは,もっと難
しいのです。現在も,伊自良湖の酸性化は本当に酸性雨が原因か,同じように汚
染物質が降る関東でなぜ酸性化しないのかなど,専門家の検討が続いています。
●モデルによる予測とモニタリング
生態系の変化には多くの生物がかかわり,いろいろな化学反応が介在するので,
変化の原因を特定するのは容易ではありません。さらに将来の変化を予測すると
なればなおさらです。そこで生態系のような複雑な事象の予測は,コンピュータ
による数値モデルが利用されます。スーパーコンピュータを使って,地球のすべ
ての事象を計算しようとする地球シミュレータの開発も進んでいます。
数値モデルは現在私たちが知っている現象やルールを組み込みます。ルールが
わからなければ実験します。例えば,pH の違う土壌で樹木を育て,成長と土壌
pH の関係式を作ります。それらを総動員してモデルを作り,コンピュータで計
算した将来予測は,現在の知識の最高到達地点といえるでしょう。それでも予想
がどのくらい正しいかは,プログラムを作った本人にもよくわかりません。私た
ちの知っている自然のルールはごく一部にすぎませんので…。ここに,モニタリ
ングの必要性の一つがあります。モデルが正しいかどうかは実際の観測結果と比
較して判断します。むしろ,モデルをモニタリング結果に合わせているのが実態
6
森林技術 No.797 2008.8
▲
写真 伊自良湖の周辺
(このダム湖とその周辺で酸
性化傾向が続いている。)
です。コンピュータモデルの脚光の影には,地道なモニタリングの数値が隠され
ています。良いモニタリングが良いモデルを作るといえます。
モデルは過去や類似の出来事を基礎としています。でも自然界は,人間の予想
を裏切るものです。実際,酸性雨が降れば土壌の pH は下がると欧米の観測結果
から予想しましたが,予想は裏切られました。日本の土壌や生態系は欧米とはル
ールが違うのでしょう。むしろモニタリングで,変化しないと確認したことが重
要な発見です。わが国の生態系のルールは日本人がきちんと解明すべきで,その
日本のルールを組み込んだモデルが必要なのです。
●生態系の診断と予防
人間は自然環境を破壊しながらも,自然に依存して生きています。われわれの
住む地球環境を守るためには,今の環境がどのような状態か常に把握し記録して
おく必要があります。これはモニタリングの最も基本的な目的です。健康診断や
人間ドックと同じです。酸性雨のモニタリングからは,日本の森林はまだ病気で
ないという診断結果がでましたが,将来病気にならないという保証はないのです。
さらに目指すべきモニタリングの役割があります。健康診断と同様,環境破壊
を「未然に」防ぐことです。モニタリング結果から環境が汚染された事実を認定
するのは,患者の死亡を確認するようなものです。このままの生活を続けている
と危ない,今のうちに酒をやめろ,と言わなければいけません。また,糖尿病の
疑いで検査しても,小さなガンも,あれば見つけなければなりません。モニタリ
まんぜん
ング数値を漫然と眺めていても気づかないものです。正しい判断ができる眼を養
う必要があります。医者の役割と同じように,環境変化の兆候を見逃さず,環境
劣化を未然に防ぐよう警告する,それがモニタリングを行っている科学者の責務
だと思います。
〔完〕
森林技術 No.797 2008.8
7
間伐放置材は
どれくらいの速さで分解するか?
酒井佳美
(独)森林総合研究所 立地環境研究領域 土壌資源研究室
〒305-8687 茨城県つくば市松の里1
Tel 029-829-8227 Fax 029-874-3720
E-mail:[email protected]
●切り捨て間伐
枯死木
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林野庁では平成 19 年から平成 24 年までの 6 年
間に計 330 万 ha の間伐を予定しています(林野
地上部バイオマス
庁,2007)
。通常の施業では,幹の大部分が搬出
されるため,残材などの枯死木は土場や作業現場
周辺にしかありません。しかし,近年の国内の
林業不況や材価の低迷によって間伐材が搬出さ
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リター
地下部バイオマス
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れずに放置される,切り捨て間伐が多くなってい
ます。例えば,保育作業を委託された森林組合が
実施している除間伐作業の内,切り捨て間伐は約
7 割を占めています(林野庁 森林組合統計 平成
15 ~ 17 年度 http://www.tdb.maff.go.jp/toukei/
▲図① 5 つの炭素プールの定義
の観点からも重要視されています。
●枯死木の分解と炭素循環
。各地で切り捨て間伐が
a02smenu?TouID=U001)
枯死木の分解は,主に分解者と呼ばれる土壌動
実施されると,人工林に多量の間伐放置材が蓄積
物(シロアリ・キクイムシなど)や微生物(木材
されることになります。では,切り捨てられた間伐
腐朽菌など)の活動によって進行します。この過
木はどのくらいの速さで分解するのでしょうか?
程では,分解者の生物活動(呼吸)によって温室
●森林生態系の中の枯死木
効果ガスである CO2 が放出されます。そのため,
枯死木は国際連合の気候変動枠組み条約および京
森林にある間伐放置材などの枯死木は粗大木質
都議定書でも報告義務のある 5 つの炭素プールに
有機物とも呼ばれ,多くの研究では落葉や枝リタ
含まれています(図①)。
ー(落枝)を除いた倒木,根株や立枯木を指しま
本稿では,2005 年に実施した林野庁・森林吸
す。枯死木の現存量は,冷涼な針葉樹天然林に多
収源計測・活用体制整備強化事業調査における調
いことが知られています。枯死木は,葉や枝と比
査結果(森林総合研究所,2006)をもとに,切り
較して分解の速さが非常にゆっくりとしているた
捨て間伐によって生じる間伐放置材と根株の分解
め,森林生態系の物質循環の中では有機物(炭素)
速度,および蓄積材積について話を進めます。
や養分の貯蔵庫といわれています。また,枯死木
は生物にとって欠くことのできない「住み家」と
なる場合も多く,森林生態系における生物多様性
8
森林技術 No.797 2008.8
●間伐放置材の分解速度
わが国の主要な造林樹種であるスギ,ヒノキ,
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注:間伐放置材のト
ドマツ 15 ~ 40cm
はデータなし
80
㑆બ᡼⟎᧚
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5-15cm
15-40cm
60
50
40
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ޓ‬ᐕ
200
150
▲
図② 間伐放置材
と根株の半減期
20
期が長いというのは,分解が
遅いことを意味します。
図②には,半減期を樹種別,
間伐放置材と根株,直径クラ
ス別に分けて示しました。ス
ギとヒノキの半減期は間伐
放 置 材 が 14 ~ 17 年, 根 株
ࡅࡁࠠ
て比較します。つまり,半減
ࠬࠡ
るまでに要する年数)を用い
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て材の重量が初期の半分にな
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度を“半減期”
(分解によっ
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しました。ここでは,分解速
ࡅࡁࠠ
分解速度を 15 道府県で調査
0
▼表① 間伐放置材と根株の調査を実施した道府県一覧
カラマツ,アカエゾマツ,ト
ドマツの間伐放置材と根株の
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0
道府県名
調査樹種
試験地数
北海道
北海道
北海道
岩手
秋田
茨城
埼玉
千葉
新潟
富山
長野
三重
京都
広島
山口
長崎
大分
カラマツ
アカエゾマツ
トドマツ
カラマツ
スギ
スギ
ヒノキ
スギ
ヒノキ
スギ
カラマツ
ヒノキ
ヒノキ
ヒノキ
スギ
ヒノキ
スギ
8
8
8
8
10
15
8
24
15
8
15
8
8
8
8
19
8
年平均気温
調査項目
バイオマス 分解速度
(℃)
○
○
5.5
○
○
3.7
○
○
7.9
○
○
8.2
○
○
8.7
○
11.5
○
○
9.9
○
13.6
○
11.8
○
○
12.2
○
6.7
○
○
12.3
○
○
12.1
○
○
11.2
○
○
13.6
○
14.0
○(1)
○
○
13.8
年降水量
(mm)
1247
1295
1549
1460
2097
1435
1264
1825
2321
2467
1362
2524
1547
1697
1881
2480
2008
(1)バイオマス調査は 4 試験地で実施
は 16 ~ 24 年でした。アカエゾマツ,トドマツと
スギとヒノキについて,間伐放置材と根株の分
カラマツでは,間伐放置材が 14 ~ 53 年,根株は
解速度を比較すると,間伐放置材よりも根株のほ
13 ~ 183 年でした。落葉の半減期はスギ,ヒノキ,
うが分解は遅くなりました。同じく,スギとヒノ
カラマツが 2 ~ 6 年である(大園・武田,2006)
キについて,直径クラス間で比較すると,直径の
ことと比較すると,枯死木の分解速度の遅さを理
大きい 15 ~ 40cm のほうが分解は遅くなりまし
解していただけるでしょう。
た。材には分解抵抗性があります。例えば,心材
樹種別の結果は,冷涼な気候下に植栽されるア
部分や,材の構造が複雑になっている根や枝の元
カエゾマツやトドマツ,カラマツの分解が遅いこ
の「節」の部分は分解に時間がかかります。根株
とを示しています。これらの樹種を調査した道府
と直径クラスの大きな材の分解が遅いのは,この
県の年平均気温は,3.7 ~ 8.2℃,スギとヒノキの
ような材の分解抵抗性が原因と考えられます。た
調査地は 6.7 ~ 14.0℃でした(表①)
。分解速度
だし,間伐放置材と根株での半減期の差は 2 ~ 8
をコントロールする要因として,気温の影響は最
年程度と大きくありません。また,直径クラスの
も大きいといえます。
違いも,それほど顕著ではありません。間伐対象
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9
▲
図③ 年平均気温と半減期の関係(海
外の調査報告における針葉樹
の半減期との比較)
海外の報告例
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日本の実測値
(林野庁・森林吸収源計測・活
用体制整備強化事業調査)
参考 文 献 : G r a h a m e t a l ( 1 9 8 2 );
Erickson et al(1985)
;Means et al(1985)
;
Harmon et al(1986)
;Nasset(1999)
;
Yatskov et al(2003)
;Guo et al(2006)
ᐕᐔဋ᳇᷷㧔ºC㧕
80
木の直径は小径な材が多く,分解抵抗
㑆બ᡼⟎᧚
性が分解速度に影響を与えるほど材組
日本の間伐放置材の分解速度は,ほ
かの国と比較して速いのでしょうか?
調査した分解速度を海外の報告例と比
較するために,さまざまな気候地域に
生育する針葉樹について,年平均気温
᧚Ⓧ
OJC
ます。
ᩮᩣ
60
織が十分に発達していないと考えられ
40
20
と半減期との関係を図③に示しました。
の枯死木の分解はかなり速い傾向にあ
るといえます。
ࡅࡁࠠ
は,海外の結果と比較して短く,日本
ࠬࠡ
ヒノキ,トドマツとカラマツの半減期
ࠞ࡜ࡑ࠷
育するアカエゾマツを除いて,スギ,
࠻࠼ࡑ࠷
0
ࠕࠞࠛ࠱ࡑ࠷
年平均気温の低い地域(3.7℃)で生
▲図④ 林分に現存する,間伐放置材と根株の平均材積
●間伐放置材の材積
間伐放置材と根株の単位面積あたりの材積を樹
ここで根株の材積とは,地上に出ている部分を指
し,地下部は含まれていません。
種別,直径クラス別に比較しました。調査林分
間伐放置材の平均材積は,スギが 46m3/ha と
内に設置した 10m × 10m の調査区にあるすべて
最も大きく,次いでヒノキの 39m3/ha,トドマ
の間伐放置材と根株を,4 段階(5 ~ 10cm,10
ツの 24m3/ha,アカエゾマツの 17m3/ha,そ
~ 15cm,15 ~ 20cm,20 ~ 40cm) の 直 径 ク
してカラマツが 13m3/ha という順でした(図
ラスに分け,直径クラス別に材積を積算しました。
④)。根株の場合は,スギが 6m3/ha と最も大き
10
森林技術 No.797 2008.8
100
㑆બ᡼⟎᧚
%
ᩮᩣ
80
20-40cm
15-20cm
60
40
%
80
60
10-15cm
20
15-20cm
10-15cm
5-10cm
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0
100
20-40cm
40
20
5-10cm
0
▲図⑤ 間伐放置材と根株の直径クラス別の材積分布
注:5 ~ 10cm,10 ~ 15cm,15 ~ 20cm,20 ~ 40cm の 4 クラス
く,次いでヒノキの 4m3/ha,トドマツとアカ
3
北米,北欧,ロシアなどで実施されたものが多く,
エゾマツは,それぞれ 2m /ha,そしてカラマ
分解が非常に遅いために,森林生態系において枯
ツが 1m3/ha という順でした(図④)
。
死木由来の炭素貯留量の多いことが示されてきま
直径クラスごとに放置材を比較すると,カラマ
した。そのような地域に比べて温暖多雨な日本で
ツを除いて,10 ~ 15cm クラスが最も多く,全
は,分解が速く,枯死木由来の炭素貯留量は欧米
材積の約 30 ~ 50%を占めていました(図⑤)
。5
ほど大きくなりません。間伐放置材を炭素プール
~ 10cm の材積は 20 ~ 40%を占めており,直
としてみると,切り捨て間伐の拡大によって,蓄
径 15cm に満たない材が全体の 60 ~ 80%を占め
積が一時的に増える可能性はありますが,その多
ています。つまり,小径木を中心に伐採されてい
くが速く分解してしまうと考えられ,蓄積の増減
る間伐の実態を反映していました。根株の場合は,
の変動が大きいプールであるといえます。
間伐放置材とは異なり直径 15cm 以上の占める
また,間伐放置材や林地残材は未利用資源とし
割合が高く,太い根株が残存しています。
てバイオマスエネルギーへの利用が期待されてい
切り捨て間伐により,特にスギ林とヒノキ林の
ます。利用技術が開発され,間伐放置材や林地残
林床には多くの間伐材が放置されているようです。
材が搬出されることになると,森林生態系の炭
しかし,その間伐材の多くは直径 15cm 以下の
素循環だけでなく,養分循環も大きく変わります。
小径材であり,日本では材の分解が速いので,次
人工林における森林の管理・利用は,枯死木の
の間伐あるいは主伐時までにかなり分解してしま
動態に密接にかかわっています。
うでしょう。一方,分解の遅いアカエゾマツ,ト
≪謝辞≫
本調査は 15 道府県と林野庁の協力のもと行われたもの
であり,ここに謝意を示す。
ドマツとカラマツの場合は,スギ林,ヒノキ林と
同じ林齢で間伐されたとしても材積が少なく,間
伐放置材としての蓄積量は小さいといえます。
●森林生態系の物質循環における間伐放置材
国内で広く植栽されているスギとヒノキの間伐
放置材の分解速度は,諸外国に比べて比較的速い
ことがわかりました。これまでの枯死木の研究は,
≪引 用 文 献≫
林野庁(2007)森林・林業白書 平成 19 年度版,270pp.,
日本林業協会,東京.
森林総合研究所(2006)平成 17 年度森林吸収源計測・活
用体制整備強化事業調査報告書(1)森林吸収源デー
タ収集・森林吸収量算定手法の開発,164pp.
大園享司・武田博清(2006)3.1 森林生態系における分解
系の働き(地球環境と生態系,武田博清・占部城太郎
編,282pp.,共立出版,東京).96-119.
(さかい よしみ)
森林技術 No.797 2008.8
11
特 別
寄 稿
ニュージーランド林業の今
矢野俊夫
農林中央金庫 農林水産金融部 主監(技術士:森林部門−林業)
〒100-8120 東京都千代田区大手町1-8-3 JAビル内
Tel 03-3243-7224 Fax 03-3271-5397
E-mail:[email protected]
●はじめに
ニュージーランドは,わが国の約 3/4 に当たる 2,753 万 ha の国土に,人口はわずか
415 万人で,広大な草地には人口の 10 倍近い 3,910 万頭(かつては,7,000 ~ 8,000 万頭)
の羊が放牧され,英国の田園風景に似ているといわれているが,私には,北海道の道東(一
回り大きくしたような)を思い出させる自然豊かな国に思われた。
土地利用は,
国土の 44%が牧草地及び耕作地(ほとんどが牧草地)で,林地は 30%である。
この国では,天然林は原則禁伐で,林業の対象地の人工林は 1,811 千 ha(人工林率 22.5%)
である。したがって,主たる産業は農業(牧畜),観光に加えて,林業・林産業である。
同国では 1987 年に国有林の経営が公社化され,その後,人工林の立木・経営権が民間
企業に売却されるなど,大いに注目されていたことをご存知の読者も多いことと思う。筆
者は昨年 11 月に,素材生産現場を中心にニュージーランド林業の実状を見る機会を得た
ので,統計に見る林業の現状を含め,概要をまとめてみた。各種データは,聞取りに加え,
NEW ZEALAND FOREST INDUSTRY FACTS & FIGURES 2006/2007 による。なお,聞取り調
そ
ご
査が主体であるので,数字に多少の齟齬があるかもしれないが,この点はお許しをいただ
きたい。
視察した現地は,北島のロトルア市(2 箇所),南島のネルソン市(1 箇所)の素材生産
現場で,これらの地域にはそれぞれ人工林の 30%,10%が集中している林業地帯である。
地形的には,北島が平坦地,緩傾斜地(0 ~ 25 度),南島が急傾斜地(20 ~ 35 度)と典
型的な 3 タイプの現場における生産システムを見ることができた。
●ニュージーランド林業成立の背景
-国有林の民営化が大きく貢献-
同国の企業的林業の成立の背景としては,国有林の民営化が大きく貢献しているといえ
る。1987 年に森林局を廃止し,林業公社化した後,1990 年から国有人工林の立木・経営
権を民間(林産企業)に売却を開始し,1997 年にその売却をほぼ終了している。当時の
12
森林技術 No.797 2008.8
人工林全体の 51%がかつて国有林であった。
最近までは,その多くを 2 大林産企業が所有していた。その後,森林ファンドへの売却
が進み,2005 年には大面積所有者の上位 2 位と 4 位が森林ファンドで,人工林全体の 15
%を所有していたが,2007 年には,上位 3 者は森林ファンドで,35%(638 千 ha)を所
すうせい
有するに至っている。これは世界的な趨勢で,アメリカにおいても林産企業から森林ファ
ンドへの売却が進み,2007 年現在,森林を大面積に保有している林産企業は,ウエアー・
ハウザー(Weyer haeuser)くらいである。
国有林の立木・経営権を買受けたニュージーランドの林産企業は,森林管理に加え,製
材工場,パルプ工場,合板工場等を作り,複合経営を行ったので,全体としては高い利益
を上げていたが,森林経営部門のみを見ると利益がはっきりしなかったが,最近では森林
ファンド等に森林管理が移り,森林としての利益がはっきりしてきたといわれている。
●ニュージーランド林業の特徴
-人工林による高収益の合理的・企業的林業-
森林・林業の特徴としては,①人工林による高収益の企業的林業,②包括的な環境法制
で天然林の厳格な保護,つまり,森林管理の考え方は,人工林と天然林とで明確に区分し,
それぞれ生産と保護を徹底して追及しているところに大きな特徴がある。
人工林の面積は先述のとおり 1,811 千 ha で,蓄積は 400 百万 m3,ha 当たり蓄積は
221m3 である。平均林齢は 13.9 年生で若い林分が多いといえないわけでもないが,Ⅰ齢
級からⅤ齢級までそれぞれ 25 万 ha 程度以上(Ⅵ齢級は伐期に達する齢級であり,12 万
ha 程度)が成立しており,保続的に伐採できる齢級配置となっている。
樹種別には,
ラジアータパインがほとんど(89%)を占め,次いでダグラスファー(6%)
である。そのほかでは,ユウカリが見受けられる(2%)が,モヤシ状の過密林分として
放置されているのが目についた。
ニュージーランドでは,ラジアータパインは 27 年生伐期で,平均胸高直径(以下,D
で 表 す。
)45cm, 平 均 樹 高( 以 下,H で 表 す。)35m, 平 均 材 積( 以 下,v で 表 す。)
2.41m3/ 本,ha 当たり材積(以下,V で表す。)650 ~ 800m3,年平均成長量 28m3/ha
を目標としている。この 60 年間で,成長力は 30%アップしたといわれている。
皆伐面積は 39 千 ha,素材生産量は 18,299 千 m3(間伐 719 千 m3 を含む。)で,皆伐
箇所の ha 当たりの素材生産量は 450m3(立木材積では,歩止まり 80%とすると 560m3)
である。加重平均した伐採林齢は,27.9 年生で,伐採可能量 2,900 万 m3 からすると,ま
だ余力を残している。
植林は,新規植林 10.6 千 ha,再植林 39.6 千 ha,伐採跡地が 42.7 千 ha で,皆伐面
積にほぼ等しい面積が再植林されている。人工林面積の推移は,1991 年 120 万 ha,1998
年 150 万 ha,2004 年 182 万 ha,2005 年 181 万 ha で,長期的には,ラジアータパイン
の造林のほうが農業=牧畜よりも比較的優位にあったことから増加している。もっとも,
最近では新規植林が大幅に減少していること,農業が好調で,農地・牧草地への再転用が
進んでいることから,人工林面積は,横ばい,ないしはやや減少傾向を示している。
企業的育成林業が成功した 2 大要因は,①育種によるラジアータパインの改良,②低コ
スト育林システムの開発といわれている。
森林技術 No.797 2008.8
13
▼①
▼③
≪ニュージーランドの林業写真集≫
写真① ラジアータパインの植栽状況(1,000 本 /ha)
写真② 選木枝打ちされたラジアータパイン
写真③ 飛行機から見た伐採跡地
写真④ タワーヤーダとグラップル付スキッダによる集材
写真⑤ ハーベスタによる造材
写真⑥ 全幹材を運ぶトラック(70 トン車)
写真⑦ 造材土場に運ばれた全幹材
▲②
1. 育種によるラジアータパインの改良
北島のタラウエア火山が 1886 年に大噴火し,大量の火山灰が大地を覆った。その広大
な土地を利用するため,世界各国の有用樹種の中から植林用樹種を探した結果,米国カリ
フォルニア州原産のラジアータパイン(モントレーパインとも呼ばれていた。)が最良の
成長を示したことからこれを採用することとし,その後,育種により当初の 40 年生伐期
から今日のような 27 年生で収穫できるラジアータパインへと改良してきたという。
このほかにも,早材部の密度を高くする材質育種を行い,年輪幅が広くても強度が高く,
構造用材として利用できるようになったとのことであり,この第 2 世代といわれるラジア
ータパインは 2000 年ごろから生産されている。また,ネルソン地区では,造材作業の生
産性の向上,リターンを最大とすることを目指して育種(に加えて,密度管理によるもの
と思われるが。
)により,1 本当たりの立木材積が 1.0 ~ 1.2m3 のものが主体となる林分
づくりを目指している。
2. 低コスト育林システムの開発
具体的な数値等は後述することとするが,ニュージーランドにおける育林システムは,
短伐期(27 ~ 28 年生)
,単純な施業体系,除草剤のヘリ撒布等に見られるように,徹底
14
森林技術 No.797 2008.8
▼④
▼⑥
▲⑦
▲⑤
した低コスト育林により,規模のメリットによる低コスト素材生産とも相まって,内部収
益率で 8 ~ 9%という高収益を確保してきた。しかし最近では,4 ~ 5%と低下傾向のよ
うである。
以下,高収益な林業を支えている育林システム,生産システムについて,見聞した範囲
で述べてみたい。
●育林システム
-シンプルで,リターンの最大化に向けた合理的な低コスト育林システム-
育林システムは,地域,土壌条件等によって若干の差異はあるものの,表①のとおり,
きわめてシンプルなものである。一般的な生産目標としては,最終本数を 230 ~ 350 本 /
ha とし,立木材積 v = 2.4m3/ 本(D = 45cm,H = 35m)を目指しているが,南島の
ネルソン山林では,前述した理由により,最終本数を 400 ~ 600 本 /ha とし,育種により,
立木材積 v = 1.0 ~ 1.2m3(推定:D = 30cm,H = 35m)程度を目標にしている。
植付本数は,導入当初 3,000 本 /ha であったが,育種により苗木の信頼が高まるにつ
れ減らし,現在では 700 ~ 1,000 本 /ha まで減少させている。
森林技術 No.797 2008.8
15
▼表① 育林システム(ラジアータパイン)
山林名
植付本数
除 草 枝打ち 間 伐 最終本数
伐 期 ロトルア山林A
ロトルア山林B
800~1,000本/ha
除草剤2回(ヘリ,人力)
2回(5年生,7年生)
3回(切捨て2,利用1)
350本/ha
27~28年生
ネルソン山林
700~800本/ha
除草剤2回(ヘリ,人力)
2回(5年生,7年生)
2回(5年生,7年生,切捨て)
230本/ha
27年生
700~1,000本/ha
除草剤2回(ヘリ,人力)
しない
1回(切捨て)
400~600本/ha
27~28年生
▼表② 森林管理面積・体制の規模
山林名
管理面積
クルー
生産量
ロトルア山林A
16.5万ha
スティムクルー 5(10~11名)
通常クルー 5(12~14名)
130万m3
ロトルア山林B
3万ha
スティムクルー 5
通常クルー 3
80万m3
ネルソン山林
3万ha
スティムクルー 0
通常クルー 9(8~10名)
52万m3
▼表③ 伐採面積と林分内容
山林名
ロトルア山林A
林地傾斜 平坦地(畑状)
ロトルア山林B
緩斜地(0~25度)
59ha(平均30~40ha,
面 積
20~35ha
連続数百haも)
樹 種
ダグラスファー
ラジアータパイン
林 齢
38年生(通常45年生) 26年生
胸高直径 44cm
(45cm)
樹 高
25m
(35m)
材 積
2.45m3/本
1.7m3/本
蓄 積
562m3/ha
400~450m3/ha
ネルソン山林
急斜地(20~35度)
大面積一斉皆伐
(連続数百haも)
ラジアータパイン
27~28年生
(30cm)
(35m)
1.0m3/本
500m3/ha
注:胸高直径,樹高の( )書は,
推定である。
除草は,植付前には,全面積に非選択性の除草剤をヘリコプターで空中散布し,天然更
新したラジアータパインの稚樹を含め,すべての植生を枯らし,植付後は,人力によるス
プレーで,造林木には影響を及ぼさない選択性の除草剤を散布している。もともと雑草が
著しく繁茂する所ではなく,苗木が雑草に負けて枯れたりすることがないにもかかわらず
散布する大きな理由として,造林木の成長促進を挙げており,合理的な思考には頭が下が
る思いである。なお,大きな河川では,両岸から 20m 程度はバッファとして散布は行わ
れてはいない。したがって,植付も行われず,天然更新に委ねている。
枝打ちを行う場合は間伐と同時に行い,5 年生で 3m まで,7 年生で 5m まで枝打ちし,
輪生の枝と枝との間が 1m 程度あるので,5.4m 材をターゲットにしている。
南島では,生産コストが割高であることから育林コストを下げるため枝打ちは行って
いないが,その場合の育林経費(ha 当たり)は,苗木代が 200 $(25¢ / 本 ×800 本 /
ha)
,植付が 400 ~ 480 $(50 ~ 60¢ / 本 ×800 本 /ha),除草がヘリ散布 135 $,人
力散布 300 $,間伐が 500 $,その他が 30 $(地拵えほか)で,合計約 1,600 $(1,565
~ 1,645 $)である。1 $を 85 円として換算すると約 136 千円 /ha で,わが国の育林費
の 1/10 以下である。
なお,北島での枝打ちは,1 回当たり 500 $/ha 程度である。
16
森林技術 No.797 2008.8
▼表④ 生産システム
山林名
伐 倒
造 材
ロトルア山林A
ハーベスタ
〃
フォワーダ
集 材
(+小型フォワーダ)
積 込
グラップル
生産材
丸太
生産コスト ?
労働時間
1日2シフト(10H労働2Hメンテ)
3人セット 290m3/日
生産功程
70~80m3/人・日
ロトルア山林B
ハーベスタ&チェーンソー
(枝払い:ハーベスタ)
グラップル2台
&グラップル式スキッダ
グラップル
全幹材
10$/m3(架線:20$/m3)
4~17時(交替勤務なし)
7人セット 750m3/日
100m3/人・日
ネルソン山林
チェーンソー
ハーベスタ
タワーヤーダ
&グラップル式スキッダ
グラップル
丸太
26~27$/m3
?(交代勤務なし)
8~9人セット 250m3/日
30m3/人・日
●生産システム
-大面積皆伐による高効率・低コスト作業システム-
生産現場は 3 箇所で見せてもらったが,管理面積は 3 ~ 16 万 ha,クルーは 8 ~ 10 ク
ルー,生産量は年間 50 ~ 130 万 m3 と規模がきわめて大きく,スケールメリットを活か
した合理的な森林管理が行われている(表②)。日本の林業事業体の規模は,平均すると
4 ~ 5 千 m3/ 社程度であるので,ニュージーランドの生産規模は 100 倍以上ということ
になる。
表③は,実際に視察した生産現場の地況,林況の概要である。地形的には平坦地,緩傾
斜地,急傾斜地の 3 タイプに分類できる。
伐採面積の規制はないとのことであり,平均的には,1 箇所当たりの伐採面積は 20 ~
40ha 程度であるが,連続皆伐で数百 ha もの伐採跡地が見られ,昭和 40 年代半ばまで
の日本の現場を見ているようなイメージである。3 箇所のうち,ロトルア山林 A のダグ
ラスファー林分は,事情があって少々早めの伐採(通常 45 年生のところ 38 年生)という
ことであったが,
残りの 2 箇所のラジアータパインの林分は,ほぼ予定どおりの伐期齢(26
~ 28 年生)で,生産目標としている 1 本当たりの材積での伐採である。
生産システムについては,平坦地は伐倒・造材がハーベスタ,集材がフォワーダ,緩傾
斜地は伐倒・枝払いがハーベスタ(伐倒は一部チェーンソー),集材がグラップル&グラ
ップル付スキッダ,急傾斜地は伐倒がチェーンソー,集材がタワーヤーダ&グラップル式
スキッダ,造材がハーベスタで,林地の地形・傾斜に対応した生産システムの考え方は日
本と類似したものである(表④)
。ただ,機械の規格は,例えばハーベスタはベースマシ
ンが自重 33 トン,バケット容量 1.40m3,全幅 3.2m であるなど,とにかくデカイという
のが強烈な印象である。
タワーヤーダはスパン約 800m,5 回張替えの 1 線で,150 度ぐらいの範囲を集材して
いる。索張り方式は,現地でノースベント式と呼んでいたので,上げ荷向きのフォーリン
グブロック方式である。
これらの現地における特徴としては,南島の現場では丸太に造材後,トラック運搬を行
っているが,北島では,そのほぼ半数はを全幹のまま,製材工場を思わせる造材専門の工
場や土場までスティムトラック(60 ~ 70 トン車)で運ぶ。前者の工場では,ベルトコン
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ベアで流しながらコンピュータ制御でスキャンして注文に応える最適な長さに造材するよ
う指示し,数枚の丸鋸を自動制御し,自動的に採材している。後者では,採材の寸法制度
を上げるためと称して,平坦な土場でチェーンソーによる造材を行っている。
また,北島のロトルア山林 A の現場は,1 日 2 シフトで 10 時間労働(拘束時間),ロ
トルア山林 B の現場は,1 シフトで 13 時間労働(拘束時間),南島の現場は 1 シフトで
あるが,残念ながら労働時間は聞き漏らした。
これらの現場の生産性は,70 ~ 80m3/ 人・日(丸太生産),100m3/ 人・日(全幹材生
産)
,30m3/ 人・日(丸太生産)と日本に比べるときわめて高能率で,生産コストも車両
系で 10 $/m3,架線系で 20 $/m3,急傾斜地でも 26 ~ 27 $/m3(1 $を 85 円として換
算すると 850 ~ 1,700 円 /m3,高くても 2,300 円/ m3)ときわめて低コストである。
生産費のうち,機械経費の占める割合が 60 ~ 75%,人件費の占める割合が 25 ~ 40%
である。トラック運搬経費も,現場から土場まで 14km で 3 $/ トン,30km 程度でも 4
~ 5 $/ トンと,かなり安くなっている。
●おわりに
-彼らは,いかに努力し,目指すものを作り上げてきたかを学ぶべき-
ニュージーランドの林業の大きな特徴は,ラジアータパインによるシンプルな育林シス
テム,大型機械による高効率・低コスト作業システムで,育林費は日本の 1/10,丸太の
生産性は日本の 10 倍,生産コストは 1/5 といったところである。これらは,従来からの
延長線ではなく,外国産樹種であるラジアータパインを育種によって成長量,材質面で改
良し,新たに創り上げてきたものである。
また,ニュージーランドのネルソン地区では,価値の最大化に向けた取組みの中で,立
木サイズはリターン,生産性の面から 1.0 ~ 1.2m3/ 本がベストであるとのデータから,
育種により(密度管理との併用と考えられる。)伐期時点に 1.0 ~ 1.2m3/ 本の立木が最多
になるような遺伝子的改良を重ねてきている。
リターンの最大化については十分把握できなかったが,丸太の生産性については,30
トンのベースマシンのハーベスタ(車幅 3.2m)でさえ,立木材積が 1m3/ 本のケースで
は 500m3/ 台・日の処理が可能であるが,2m3/ 本超では,300m3/ 日・台に,能率が大
幅に低下することを挙げている。
日本のスギ 100 年生では,直径がラジアータパインよりさらに大きくなり,現在,国内
で使用しているハーベスタ等では処理できないので人力作業にならざるをえず,より以上
の能率低下が懸念される。対応策として,例えば,優勢木間伐,密度管理により,長伐期
化しても,伐期時の平均径級が 30cm 程度の立木を生産目標とするなど,育林体系の再
構築も検討すべきではないだろうか。
ニュージーランド林業を,即,日本に適用することはできないが,その合理的な考え方
(経営の主眼=価値の最大化)は大いに学ぶべきであろう。
最後に,現地で案内・説明をいただいた皆様に感謝するとともに,ニュージーランド
においては,林業は 10 年ほど前までは若い労働力が集まる人気職種であったが,今では,
残念ながら若い労働力の確保,その教育に苦慮していることを記しておわりとする。
(やの としお)
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森林技術 No.797 2008.8
「松野
はざま
とクララ夫人」補遺
特 別
寄 稿
-松野墓地修復を機に-
小林富士雄
(財)林業科学技術振興所 理事長
〒102-0072 東京都千代田区飯田橋4-7-11 カクタス飯田橋ビル8階
Tel 03-3264-3005 Fax 03-3222-0797
●はじめに
4 年前,編集部のお勧めにより「松野
とクララ夫人-曾孫ニコラウス氏の来日を機
2)
に-」と題して本誌に寄稿した 。この拙文では,日本近代林学の先駆者松野
と日本
幼稚園教育の創始者クララ夫人の経歴を記述するとともに,併せて松野墓地の荒廃ぶりを
紹介した。その文末は「松樹を含む墓地全体の修復についてはいずれ稿をあらためて有志
に呼びかけたい」と結んだ。この時はこれが短期間に実現するとは思っていなかったが,
その修復事業が 4 年後の今日実現できたのは,まさに同学の人々の熱意によるものであり
感謝に堪えない。ここに修復経過・修復記念式と,松野
とその一族についてその後の
知見を加え,補遺としてとりまとめた。
●墓地修復に至るまで
青山墓地「墓籍簿」によると,松野墓地の書類は二つに分かれ,第一墓地の面積は 4.44
坪で,最初の埋葬者はプツィア Putzier とあり,使用許可は松野
となっている。プツ
ィアは松野家に寄留していたドイツ人である。彼の墓碑には,第一高等学校教師,1852
年 8 月ドイツ・ポメルン生まれ,1901 年 5 月東京で死去,同郷人これを建つ,とある。
ふみ
第二墓地(2.22 坪)の最初の埋葬者は松野の娘 Frieda Fumi Ohly フリーダ・文・オーリー
で,使用許可はその夫 R. オーリーになっている。
はその 15 年後に亡くなるが,書類
上の埋葬地は第一墓地となっている。ところが,現状の配置は,第一墓地に松野とフリー
ダ,第二墓地にプツィアが埋葬されている。これはいずれかの時点で書類上のミスがあっ
たためであろう。
松野死去の翌年,東京大学千葉演習林に建立された松野記念碑に関連して,田中波慈女 3)
は「先生の眠られた青山墓地は今や黄塵と騒音に悩まされてあるいはまた都市計画のため
改葬されるという噂さえもあって云々」と述べ,またその後記として,最近(当時)の日
林協の調査によると無縁の取り扱いになっているという趣旨のことを書いているように,
森林技術 No.797 2008.8
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第二次大戦後,松野墓地は使用者不明のまま危うく無縁墓地扱いになる危機があったよう
である。これを知った林業技術者有志による募金をもとに,昭和 38 年 3 月から日本林業
技術協会が墓地の使用者となり使用料を払ってきたものである。日林協はその前年,創立
たた
40 周年記念事業として,林業技術者先人 17 人の功を称えた記念碑「職場の礎石」の建立
や「林業先人伝」出版などの事業を行っているので,その際に松野墓地の危機の話題が出
たものと想像される。その後昭和 60 年以降,林業科学技術振興所が墓地管理を引き受け
て今日に至っている。
松野墓地の荒廃ぶりは,かねてより森林総研 OB の間で話題になっていた。近年とく
に松野墓碑の傾斜が進み,しだいに墓地修復が急がれる事態となり,このため昨年秋から
修復募金活動が着手された。募金対象は企業・団体のような組織はやめて,個人(のみ)
・
有志(に限る)
・少額(上限を設定)という 3 原則をもとに行うことにした。松野が東大
林学科の前身である山林学校の創設者であり林業試験場の初代場長であることから,東大
林学科と森林総研の現職・OB から 80 名余の発起人を依頼し,松井光瑶氏を発起人代表,
大貫仁人氏を基金事務局長として募金活動が着手された。募金は順調に進行し,この基金
をもとに,本年 2 月林業科学技術振興所(林振)に修復事業が委託されたものである。
委託された林振は,現場に詳しい石材店と契約し基金事務局と協議を繰り返した。設計
については,松野墓碑の記念碑的意義や周辺墓地との調和などを重点的に考慮した。実行
上最大の問題になったのは,敷地全体に根系を伸ばしこれがため墓石が大きく傾く原因と
なっている赤松の大木である。
最終的には一部の根系を切除することに決し,このため亭々
そび
せんてい
と聳えた枝を大胆に剪定せざるを得なかったのは心痛む思いであった。松野
の墓石の
裏面に刻まれたという村田重治の碑文は風雨にさらされほとんど読めない。また松野墓地
は外人墓地の一角にあるため,墓地めぐりの人々にもわかるよう,松野
の事績を刻ん
だ墓碑を新設することにした。
●修復記念式典
墓地修復の動きがあることをドイツ在住のご子孫であるハインツさん家族に連絡した
ところ感謝の意が伝えられてきた。墓地修復とともに墓碑建立の作業が進んだので,完
成披露式の日程を連絡したところ,松野の曾孫に当たるニコラウスさん Mr. Nikolaus von
(写真①)
とアネッテさん Ms. Annette von Heinz のお二人が来日されることになった。
Heinz
修復なった松野墓地の披露とともに,新たに建立した墓碑の除幕を兼ねた式典が平成
20 年 4 月 8 日に行われた。当日はあいにくの荒天のため式典はテント内で行われた。松
あいさつ
井発起人代表の開会挨拶のあと,来日二氏による墓碑除幕,森林総研鈴木理事長,東京大
学森林科学専攻永田教授,親族代表ニコラウス氏の謝辞と続き,参加者全員が墓前に献花
し大貫事務局長の挨拶で式典を終了した。
以上の墓地修復と式典の詳細は別に「先達の偉業を偲んで-松野
墓地修復と墓碑建
立の記録-」
(林業科学技術振興所)という小冊子として編纂した。
●松野 礀とその郷里にかかわる消息
松野姓は生家大野姓と義兄長松 幹の姓の一字ずつをとった創姓である。藩主の許可な
く国を出るのは違法であるため変名したものである。 の出自については,大野徳右衛門
20
森林技術 No.797 2008.8
の七子四男といい,また大野太作の三子次男
ともいい,明瞭でない点がある 1)。一旦養子
に出されたりしたが,姉章子が嫁した矢原村
(現在の山口市矢原)の義兄長松 幹を敬愛し
同家に寄留し,東京の生活では最も親密な間
柄であった。長松 幹は文筆に明るく帰藩後
長州藩の右筆を務め,長州軍にも参加し従軍
記を残している(のち太政官歴史課長・修史
局長などを経て貴族院議員,男爵)。幹の次
あつすけ
男長松篤
▲写真① 式典の翌日,再度墓参されたニコラウス氏
はドイツで植物学を修めたのち保
険業界の雄となった異色の人物である 6)。
の生家である大野家は現在の山口県美
祢市美東町大田の郷士であるが,ご子孫は郷里を離れ東京に住み,筆者が本年訪れた生家
ぼうおく
は無人の茅屋となっていた。大田は往時の萩往還からは外れており,今は一般的な農村風
景に囲まれているが,幕末動乱時には交通の要衝として重要な役割を担った。
の生家
は幕末の長州藩回天の分岐点になる元治元年(1864)の「大田・絵堂の戦い」の現場に近
い。生家から数百 m の場所にある大田金麗社は高杉晋作の奇兵隊の本陣となった神社で,
境内には戦役で没した十七士の記念碑や「明治維新発祥の地」という掲示板が見える。
時に 17 歳の
は高杉,山縣,伊藤などの姿に接し心躍ったに違いない。ちなみに
は
2 年後の第二次長州征伐時には,義兄とともに幕府軍と戦ったらしい。変名で義兄ととも
はどんな心境であったろうか。彼はその後 22 歳で東京に
に脱藩し京都に上ったときの
つか
出てドイツ語を学び,1 年後には北白川宮の随行でドイツ留学という機会を掴むことにな
る。
き
松野のドイツ留学中の消息は,松野の門下生たちの訊き語り記録が主で,そのほかの客
観的な記録は乏しい。わずかに留学先のエーベルスワルデ高等森林学校の校長であるダン
ケルマンの伝記に在校中の
の写真が載っている。手に猟銃,肩に革嚢という姿は当時
ほうふつ
の森林官を彷彿とさせる。ダンケルマンとは帰国後も樹種などについて文通があり,その
記録の一部は「山林」誌に掲載されている。
帰国後松野が属した内務省地理寮木石課(のち山林課)の最初の仕事は,官林調査仮条
例の作成と官林の現地調査である。松野は緒方道平とともにこれに従事したが,現地調査
の現場では,職員が藩政時代からの山役人ばかりのため調査に難渋し,その末に林業技術
者養成を松野自身の役割と思い定めるに至ったものである。
山林学校,東京農林学校時代については根岸ほか 5)の詳細な調査報告があるが,山林
局時代の記録は門下生による記述のほか乏しい。農科大学教授を退いたあと東京・長野の
大林区署長を務め,山林学協会や大日本山林会設立に関与し,最後は初代の林業試験場長
となった。日本の近代林学創始者である松野の記録が比較的少ないのは,「山林」誌「故
松野
氏未亡人の美挙」の記事にあるように,大日本山林会に寄贈された膨大な蔵書資
かいじん
料などが関東大震災のため灰燼に帰したのがその一因である。
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●クララを通じての係累
クララ・ジッテルマン Clara Zietelmann が
来日し松野
との結婚に至るまでの苦労に
ついては報告したとおりである。ここに掲載
した東京都公文書館にある松野の婚姻願(写
真②)提出以降,許可を得るまでにほぼ半年
かかっている。クララがその後果たした幼稚
園教育ほかの目覚ましい活動については,前
報以降多くの資料が得られたがここでは割愛
する。
ふみ
松野夫妻の一粒種であるフリーダ・文 は
ドイツ人貿易商リカルド・オーリー Richard
Ohly と結婚し明治 34 年に台湾で病死する。
フリーダについては多く知られていないが,
東京都千代田区六番町にあったドイツ福音派
協会の学校に通っていたという。20 歳で結
はっ こう
婚し二児を産み 24 歳で亡くなった薄 倖 の人
である。
その 5 年後に 61 歳で死去した松野
の
墓石はフリーダの隣に建てられた。クララは
それから 15 年間,千代田区二番町の家で二
人の孫と,クララ来日の数年後に来日した姉
▲写真② 松野
による婚姻願
マリーとともに暮らした。クララが幼稚園教
育の先駆者として活躍した時代は終わり,女所帯の静かな暮らしの中で孫の教育に時を過
ごしたことであろう。
時代は 20 世紀に入って帝国列強間の対立が顕著になり,日本はアジアでのドイツの領
ねら
有権を狙 ってドイツと争うようになった。このためクララは,第一次世界大戦(1914 ~
1918)が始まる前年に姉と二人の孫を連れて郷里ベルリンに帰った。帰国時 13 歳だっ
た次男ワルドマー Waldemar は 24 歳で死亡したが,15 歳で帰国した長姉ヘルサ・フミ
Hertha Fumi は結婚し 50 歳で死去した。
少女時代のヘルサは「とびぬけて美しくかわいらしい」と表現されている。ドイツ・イ
エナで Abitur(大学入学資格)に合格している。初婚は短期間に終わり,上級軍人であっ
たヘルンスト・シュッツ Ernst von Schüz と結婚したが,夫が起こした事故のため 3 人の
うしな
娘を含め一挙に喪った。そのあと結婚した銀行家ヨアヒム・ハインツ Joachim von Heinz
との間に生まれた 2 人の男児のうち,次男が今回来日されたニコラウス氏である。ハイ
ンツ家は 17 世紀からの貴族であり,ヨアヒムははアレキサンダー・フォン・フンボルト
Alexander von Humbolt(博物学者,探検家,地理学者)の血族であるという。日本生ま
れの少女がドイツに里帰りして波瀾万丈の人生を送ったことが想像される。
以上は来日の二人から直接得た知見である。なお Annette さんから,4 年前の本誌に掲
22
森林技術 No.797 2008.8
▲
写真③ 松野夫妻と娘
(Nikolaus von Heinz 氏提供)
▲
写真④ 本誌 2004 年 7 月号
掲載の誤(?)写真
載した とクララが並ぶ写真の女性はクララではないという指摘を受けた。この写真は
中村理平「洋楽導入者の軌跡」4)に松野クララと夫の松野
(南雲元女氏蔵)として掲
載されており,これを参照に,原版を収集保存された故南雲元女氏の夫人から入手し掲載
したものである。Annette さんの指摘が正しいと,この写真の
についても疑念が生ずる。
参考のため,お二人からいただいた松野夫妻と娘の写真(写真③)を掲載する。ここに不
明を恥じ,既載の写真(写真④)については今後の調査に委ねたい。
≪文献≫
1)池田善文:大田大野家と松野 ,温古知新 13 号,1986. 4
とクララ夫人−曾孫ニコラウス氏の来日を機に−,林業技術 2004 年 7 月号
2)小林富士雄:松野
(No.748),32-35
3)田中波慈女:松野 先生,林業先人伝,日本林業技術協会 1962
4)中村理平:洋楽導入者の軌跡−日本近代洋楽史序説−,刀水書房 1993
5)根岸賢一郎・丹下 賢・鈴木 誠・山本博一:千葉演習林資料(6)−松野先生記念碑と林学教育事始め
の人々−,演習林 46,2007
6)増田芳雄:忘れられた植物学者 長松篤 の華麗な転身,中公新書,中央公論社 1987
(こばやし ふじお)
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第 54 回森林技術賞
北海道推薦
森林技術賞受賞者の発
表につきましては,本誌
5 月号をご参照ください。
長坂 有 (北海道立林業試験場 森林環境部 流域保全科長)
長坂晶子 (北海道立林業試験場 企画指導部 企画課 研究主任)
流域生態系に配慮した森林管理技術の開発
河畔林の生態・構造のみならずその機能的側面に着目し,河川及び流域全体の生態系に
果たす役割について,わが国におけるこの分野の研究を先導してきた。さらに,その研究
成果を活用し,河畔林再生や河川生物の生息環境再生に関する実証的な試験にも取り組む
など,森林・河川の保全・再生に大きく貢献してきた。特に,河川生物にとって河畔植生
も重要な生息環境要素であるという研究成果をもとに,植栽と河道工事をセットで行うこ
とを提唱し,道内外の先駆事例となる実証試験を行った。
流域全体の土地利用が河畔生態系に及ぼす影響についても研究を行い,農村地帯におけ
る河畔林帯保全の重要性に言及している。こうした流域的視点での研究は,森-川-海の
つながりに関する研究に発展し,森林から供給される有機物の河川・沿岸河口域への供給
過程,供給量について,また,サケなど遡河性魚類の産卵後死体(ホッチャレ)から河川
生態系・河畔林への養分還元について安定同位体分析を用い検証するなど,先駆的な研究
を行っている。
受賞者に聞く
●受賞対象業績に取り組もうとされた契機は?
長坂 有(以下,
「有」と略記)
:北海道の残された自然環境を,本州のように開発され
尽くす前にきちんと調査し,保全のための道筋を立てたい,という思いからです。北海道
でも流域環境は悪化しており,再生の必要性が高まっています。調査研究を通して,正し
い流域生態系の認識を普及したいと思いました。
長坂晶子(以下,
「晶」と略記)
:有さんと同じ思いからです。大学 4 年の卒業論文が,
流域生態系保全に関する研究を始めたきっかけでした。大きなテーマなので「手に負えな
い」と思い,修士論文では方向転換しようとしたのですが……,指導教官に「このまま続
けてみたら」と励まされました。就職後は,異動を繰り返しながらも上司や同僚,運(プ
ロジェクト)にも恵まれて,気づいたら,何らかの形でずっとこのテーマに取り組むこと
ができていたのです。
●同様の研究を進めておられる研究者が北海道に多い訳は?
晶:フィールドが身近にあること(?)でしょうか。北大の砂防学研究室が,土砂だけ
ではなく,伝統的に樹木と地表変動の相互関係について研究してきたことも大きいかもし
れません。
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森林技術 No.797 2008.8
▲① ヤチダモ冠水試験
▲
④山地渓流の有機物量調査
③ 積丹川における河畔林再生試験
▲
▲② サクラマスの越冬環境調査
●研究あるいは普及の過程で,最も悩まれた事柄とその解決の道筋は?
有:悩み,というよりは農・林・水,建設といった横のつながりが,流域という視点の
研究に結びついた,ということでしょうか。
晶:研究上の悩みはあまり覚えていません。ですがその反面,
「普及には時間がかかる」
ことを実感しています。幸い,北海道でも関心の高いテーマですから,全道各地の漁業関
係者,河畔林再生に取り組んでいる自治体,NPO さんたちとのつながりが増えてきました。
●後進(特に学生)諸氏へのワンポイントアドバイスは?
有:たくさんフィールドに出て,自然現象を見る目を養ってください。
晶:問題意識を持ち続けること,良い仲間をつくること…。
●今後の抱負は?
有:引き続き,北海道に残された豊かな流域環境の保全・再生に関する研究と普及に頑
張ろうと思います。
晶:研究では新しいことにどんどん挑戦したい…。普及は,とてもやりがいのある仕事
ま
です。道内に 1 粒ずつ種を播くような気持ちで,一つひとつの出会いを大事にしていきた
いと思っています。
(ながさか ゆう,ながさか あきこ)
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▼①
第 54 回森林技術賞 富山県推薦
長谷川幹夫 (富山県農林水産総合技術センター 森林研究所 副主幹研究員)
多雪地帯におけるスギ人工林の混交林への誘導に関する研究とその普及
富山県のスギ林は全国でも有数の多雪地帯に位置しており,これまで数多くの雪害(雪
圧害,冠雪害,雪食崩壊)によって不成績造林地となった場所が多く存在する。これらの
スギ林を今後どのように管理し,また,水土保全機能などの公益的機能を重視した森林へ
誘導あるいは再生させていくための技術の確立が求められている。
このような観点から,受賞者は一連の調査研究を行い,造林地に侵入した広葉樹を活か
し,多様な樹種からなる森林へ誘導するための初期段階の技術を解明し,水土保全機能な
どの公益的機能の高い森林に再生する道を開いた。
広葉樹に関する施業技術の蓄積は少ないと言わざるを得ないが,受賞者は,その地域本
来の植生を考慮して樹種を選定するとともに,その林分に侵入した樹種も活かしながら多
様な樹種からなる森林へ誘導していこうとする技術を確立したものであり,多雪地帯の森
林造成に貢献している。
受賞者に聞く
●受賞対象業績に取り組もうとされた契機は?
1980 年代前半,私は広葉樹林の施業技術を担当していました。当時,標高 1,000m を
超える富山市長棟(国有林)のスギ新植地に入って驚きました。ウダイカンバ,ホオノキ,
キハダなど「有用樹」といわれている広葉樹の稚樹が足の踏み場もないほど生えていまし
た。天然更新はなかなか不安定な技術です。これは天然更新の成功事例として貴重である
と思い,まずはそれらの稚樹にラベルをつけ,その消長を追いかけることから始まりまし
た。そして,どのような特性をもった樹種が発生しやすいか,なぜ人工林では広葉樹が更
新しやすいのか,植栽スギ-侵入広葉樹からなる混交林の構造は? というように,仕事
が進んでいったわけです。
●豪雪他地域の見聞や成果など,特に参考とされたものは?
富山県は豪雪地帯林業技術開発協議会(豪雪協)に参加しています。豪雪協では,毎年
参加各県の持ち回りで研究発表などの情報交換会と現地検討会が開催されています。それ
に参加できたことで,ずいぶん見聞を広めることができました。
豪雪協は,これまで雪害回避技術の確立を目指して調査研究を進めてきました。その成
果をまとめたものが 1984 年に出版された「雪に強い森林の育て方」です。その後,拡大
造林の奥地化に伴い,雪害回避技術をもってしても成林できない林分ができてきました。
そこで雪国の拡大造林を整理し,過ちを繰り返さないこと,できてしまった不成績造林地
をどう扱っていくかをまとめて,2000 年に「雪国の森林づくり」を出版しました。この
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森林技術 No.797 2008.8
▼②
▼③
▼④
写真① ウダイカンバの発生したスギ幼齢林(富山市長棟)
写真② 約 30 年生の植栽スギ-侵入広葉樹混交林(富山市長棟)
写真③ 約 70 年生の植栽スギ-侵入広葉樹混交林(富山市長棟)
写真④ 長棟における更新試験地(人工林と無処理区とを比較することで,
人工林で広葉樹の更新密度がより高いことが実証できた。富山市長棟)
とき私も執筆を分担させていただいたことは大変有益でした。
豪雪協に限りませんが,同様な研究をされている方々との議論で大きな刺激を受け,彼
らの論文を参考にさせていただくことができました。また,先に述べたように,長棟国有
林が研究の始まりです。県内外の国有林,民有林を問わず,広く森林を見学できたことは
幸いでした。機会と場所を与えてくださった関係各位に深く感謝しています。
●研究あるいは普及の過程で,最も悩まれた事柄とその解決の道筋は?
人工林施業に起因する混交林の更新初期から老齢林まで,一貫した情報を提供すること
を目指しました。私はどちらかというと更新稚樹を追跡するような,調査区の数は少ない
のですが,それをじっくり観察するタイプです。そうすると,どうしても他の林分のこと
が気にかかりました。また,調査期間もできるだけ長くとることを心がけましたが,その
期間はせいぜい 10 年ぐらいです。悩みといえば,広さと長さに限りがある点です。前者
については,幼齢林では県内でいくつか事例を積み上げることができましたが,老齢林に
ついては未解決のままです。後者については,幸い長棟国有林には様々なステージの林分
がありましたので,それをつなぎ合わせる形で同一地域の幼齢林から高齢林までまとめる
ことができました。
●後進(特に学生)諸氏へのワンポイントアドバイスは?
私の研究は,ウダイカンバが中心でした。当時偶然にも,本種が埋土種子になること,
萌芽力がないこと,という新しい知見が,元東大の渡邊定元先生や森林総研の大住克博氏
から発表されました。私はその発表をヒントにさせていただき,地拵え-植栽-下刈りの
行われる造林地という環境の中で,その消長を実証的に解き明かすことができました。ウ
ダイカンバのような有用樹は,これまでたくさんの研究がなされており,報告はたくさん
ありますが,まだまだわからないことばかりだと思います。
調査・研究には鍵となる論文,言葉,ヒントが必ずありますので,それらに巡り合うチ
ャンスを少しでも高めるよう,研究会や学会に参加するなど積極的に行動し,アンテナを
高くしておくといいでしょう。
●今後の抱負は?
今,里山二次林やスギ人工林の伐採跡地などでの更新・管理技術について担当していま
す。これまで山地帯(ブナ帯)のウダイカンバやブナなどが対象でしたので,丘陵帯のコ
ナラやオニグルミ,さらにはアカメガシワなどを調査できるのは,今さらながら新鮮です。
微力ながら,里山林の管理技術の開発やこれらの樹種特性の解明に力を尽くしていきたい
と思っています。
(はせがわ みきお)
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第 54 回森林技術賞努力賞
長崎県推薦
① 断面図によるガリ侵食の経年変化
馬場 宰
▲
(長崎県島原振興局林務課
森林土木班 専門幹)
ほか 5 名
山口真利
村山誠治
馬場 宰
近重朋晃
近藤雄二
寺崎太地
山地災害地区における三次元地理情報の時系列変化を用いた
評価・予測システムの開発
雲仙・普賢岳の防災対策を進める中で,産学官で蓄積した航空写真,レーザ計測デー
タ,地形測量データ等を空間情報システムを用いて時系列に整理(22 モデル)することで,
対策工事の計画や効果の検証,災害発生の予測などに活用できる技術を開発した。
受賞者に聞く
●受賞対象業績に取り組もうとされた契機は?
平成 2 年に雲仙・普賢岳が噴火し,今日までに噴火災害の治山対策が行われてきました。
併行して雲仙・普賢岳の調査も毎年実施されており,膨大な資料と貴重なデータが今も蓄
積されつつあります。これら両者の資料を整理・統合して,今後の雲仙・普賢岳治山対策
に資することを目指しました。
●紙地図と時系列空中写真を用いた従前の方法と比較して,
飛躍的に改善された事柄は?
平成 2 年の噴火以来,数多くの航空写真が撮影されていますが,航空写真はその当時の
被災状況,治山対策の整備状況を平面的に把握する手段にすぎませんでした。
今回開発した「空間情報システム」は三次元のコンピュータグラフィックシステムで,
立体画像の航空写真といえます。時系列ごとに変換した画像からは,溶岩ドームの成長し
ていく状況や,土石流の原因となる渓流の侵食状況などを立体的に観察することができま
す。また,この立体画像から地形の縦横断図を作成し,渓流内の不安定土砂量を推定し,
今後の流出土砂量を瞬時に計算することも可能になりました。
●研究あるいは普及の過程で,最も悩まれた事柄とその解決の道筋は?
<データの収集・整理>
「空間情報システム」に使用した地形データ,航空写真は,本県が保有するものだけで
なく国,大学,そして多くの航空測量関係業者が保有しているものも幅広く調査しました。
既存データの採用に当たっては関係機関との調整が必要であり,さらに,資料は膨大とな
り,また,分析に供することができる精度を有するものかどうかの判断が必要で,困難を
極めました。
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森林技術 No.797 2008.8
▼② 現在の侵食谷の状況(①と同じ箇所)
▼④ 噴火前と噴火後の変化
▲③ 平成 17 年と 18 年の地形モデル比較による侵食堆積状況
▲⑤ 噴火前後断面作成
<システムの構築>
立体モデルをストレスなく高速動作させ,プロフェッショナル GIS と同程度の複数モ
デル間の空間演算を高速に行う空間解析機能や,各種のシミュレーション解析ソフトに供
するため特定部分のデータを切り出すツール群を開発しました。斜面変動解析は従来であ
れば複雑な手順を経なければなりませんでしたが,これを自動化し,素人でも直感的に扱
うことができるように工夫しています。
●後進(特に学生)諸氏へのワンポイントアドバイスは?
このシステムは「雲仙・普賢岳空間情報システム」と命名され,島原市内の「雲仙岳災
害記念館」に 2 台展示されています。主に行政機関の保有していたデータが,さまざまな
分野の研究者の目に触れることによって,より多彩なアプローチが図られ,防災対策の提
言が得られていくのではないでしょうか。
一方,GIS により一連の火山活動を分析することで新たな科学的仮説を生み,その根
拠を空間分析により定量的に証明できれば,災害発生のメカニズムの解明へつながると期
待されます。特に,時系列地形モデルの材料はそろっており,理論地形学へ一石を投じる
こととなるでしょう。
●今後の抱負は?
雲仙・普賢岳の溶岩ドームは,大きな地震が発生すると依然として崩落の危険性がある
といわれています。このような中で,溶岩ドームの落石の到達範囲や火砕流堆積地の樹林
化による落石被害の軽減について,三次元シミュレーションを実施し,今後の下流域住民
の安全確保や対策工事の判断資料となるよう研究を続けます。
(ばば おさむ)
森林技術 No.797 2008.8
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会員の広場
これからの森林を考える
今永正明
鹿児島大学・静岡大学名誉教授
●はじめに
が目標となろう。一つの理由として日本では戦後早い
時期から植樹に励み,保育も入念に行ってきたからで
国民も政治家も,わが国が森林国家であるという認
ある。近隣の韓国,中国も植樹は行ってきたが時期は
識が薄いようである。しかし,環境がこれほど叫ばれ
日本より遅く,保育も必ずしも十分ではないと思われ
る昨今この認識こそ大切なのである。国土が砂漠や草
る。成長の早い日本では欧州並みの 100 ~ 200 年は長
原であったり,牧場や農地である場合に比べ,森林で
過ぎるとしても,50 ~ 100 年程度の伐期は必要かも
覆われている有難さを今こそ感じるべきなのである。
しれない。いずれにせよそれは樹種や気候,土壌など
大国であるロシアやアメリカ等が地球の温暖化や環
多くの要因が絡むものであるから,今後各地の林業試
境問題に細心の注意を払わなければならないのであっ
験場等の精力的な検討が必要となる。
て,世界地図を見ても分かるようにわが国は如何にも
小国なのである。戦後経済が良かったため大国意識で
から
●道州制を決める日本の生態気候区分
来たが,頼りの経済もいまや見る影もなく,赤字大国
吉良の世界の生態気候区分によれば日本は亜寒帯針
であるわが国が海外援助や環境にお金をどう使いどう
葉樹林帯,冷温帯落葉広葉樹林帯,暖温帯広葉樹林帯,
使うべきではないのか熟考を要する。少なくとも後者
熱帯および亜熱帯林帯の四区分に属している。この区
については,森林国家であることだけで十分世界の環
分帯と雪国か非雪国かを組み合わせると,今後の道州
境に寄与しているのである。
制を考える貴重なヒントとなる。
●森林であればよいのか
では森林であればよいのかといえば,最低の必要条
件であるが十分ではない。それではこれからどのよう
森林について言えば,今後,地方分権を言うなら南
北に長いわが国の生態気候の特徴を考慮すべきであっ
て,森林植生が重視されなければならないのである。
ひるがえ
翻 って,そうした地方政府が成立したなら,その地
に森林を取り扱っていけばよいのであろうか。
方に適した樹種等による森林・林業の強力な推進が望
ここで人工林について考えてみよう。日本の森林の
まれる。
四割を占める人工林はスギ,ヒノキでほぼ占められて
いる。その是非は今問わないが,この膨大は人工林の
●森林を見る心
処理が今後の最大の課題であることは間違いない。そ
日本人は森林をどう見ているのであろうか。私たち
こで初めに各林分の評価を行わねばならない。
森林環境研究会では,日本,欧州,南米において 20
そのためには,収穫表によって地位「中」以上の林
年に亘って「森林観の国際比較調査」を行ってきた。
分を選び出す必要がある。それ以下の林分は今後混交
その結果,他国民に比べ森林への関心の薄いことが
林化,広葉樹化の候補となる。もっとも,地位「中」
分かった。具体的には,アンケートで「森の中の散歩
がいいのかどうかは,各地で材の利用目的等から十分
を好むか」と聞いたところ,ドイツでは 95%以上の
検討する必要があるが,一般論として高品質材の生産
人が「好む」と答えているのに対し,日本では 80%
30
森林技術 No.797 2008.8
を超えない。また
「好みの旅行先」を聞いたところ「森」
高年の山歩きはますます盛んになると思われる。その
を選ぶ割合はドイツが圧倒的であるが,日本はその他
際是非,孫を連れ出すことをお勧めしたい。もちろん
の諸国にも及ばない。さらに自然や森林に関して神秘
子供でもよいのであるが,孫に森の爽やかさを味合わ
感を持つかといった質問についても,肯定的回答は他
せることは,長いスパンで考えるとより有効であろう。
国ほどではない。
もしおじいさん,おばあさんが木や鳥の名前を教える
こうした結果の生じた理由は日本が山岳国であり,
ことが出来ればこの上ないのである。彼ら自身も孫に
山は眺望の対象であっても歩く場所でなかったことに
教えるためにそうした自然教育を受けることで若返る
よるのであろう。しかし,幸い日本でも中高年の山歩
に違いない。
きが盛んになる傾向にある。こうした動きをとらえる
必要があろう。
さわ
●おわりに
定年後三年が経過した。その間いくつかの書き物を
●孫を連れての山歩き
発表したが,ここにはそのエッセンスを書いた。大学
私はすでに林業における三位一体論を説いた(林業
在任中,多くの文章を掲載いただいた本誌に厚く感謝
技術 737,2003.8)。それは,今後半世紀,林業家,国民,
する。
国家の同時的努力が必要であるというものであった。
ここで国民の努力について触れてみよう。2004 年
≪参 考 文 献≫
の静岡県の森林公園での調査から,この公園を訪れた
今永正明,諸国民の森林観,静大演報,28,2004
北村昌美,森林と日本人,小学館,1995
上山春平編「照葉樹林文化」,中公新書,中央公論社,
1969
人はさらに山歩きをしたくなったと言っている。そこ
でこのような公園が人々を森林に導くことが分かった
が,さらにここで新提案を行っておきたい。今後,中
高度林業生産システムを実現する
「林業生産専門技術者」養成プログラム
◆事業の趣旨 本プログラムは,増産とコスト削減が求められる素材生産現場における高
受講者
募 集 の
ご案内
度な「林業生産専門技術者」を養成するものである。大学のもつ知的資源と近年行ってきた研
究会,受託事業,再チャレンジ支援プログラムの実践の中で培った経験を生かして,環境に
配慮しながら高性能林業機械を駆使して木材生産を行うことができる人材養成のための教育プログラムを確立する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
◆教育目標
◆受講対象(予定 10 名)
1. 森林所有者等(施業プランナー,森番人,森
林組合など)からの間伐生産事業の依頼に対
して,素材生産事業者として間伐生産費の見
積もりができるようになる
2. 対象森林の状況に応じて,①路網条件(地質,
路網密度,幅員),②作業システムの選択,③
安全・環境への配慮によるコスト計算ができ
るようになる
3. 原木市場および直送需要等の状況を把握・分
・素材生産事業を実施している事業体(森林組合,
認定事業体等)の生産管理者(生産の指示を出
す人たち)およびその候補者の方
・素材生産請負作業実施者の中から生産管理者と
してステップアップしようとする人
受講料:無料(宿泊に伴う実費を除く)
申込期限:平成 20 年 9 月 5 日(金)
析し,間伐における最適な選木と採材ができ
◆受講期間
るようになる
平成 20 年 9 月∼ 12 月(計 14 日間:120 時間)
問い合わせ先 鹿児島大学農学部
森林管理学講座
TEL:099-285-3548
(奥山)
,099-285-8574
(寺岡)
URL http : //agri2000.agri.kagoshima-u.ac.jp/~env/FEM/manabi/manabinaoshi_top.html
森林技術 No.797 2008.8
31
リレー
リレー
リレー連載 レッドリストの生き物たち
52 マメナシ
か とう しゅ り
加藤 珠理
岐阜大学 応用生物科学部 森林生態学研究室 〒501-1193 岐阜市柳戸1-1
Tel & Fax 058-293-2856 E-mail:[email protected]
どんな植物か?
来であれば,遺伝的多様性の維持に寄与する性質であ
る。
マメナシ(Pyrus calleryana Decne)は,東海
地方の丘陵地帯の湿地や川沿い,ため池の周辺など
ところが,現存個体の多くが孤立木として存在する
に自生する落葉性の小高木で,サクラの花が咲く頃に,
は,単木での充分な種子繁殖は期待できないものと思
純白の美しい花をたくさん咲かせる(写真①)。秋に
われ,孤立木は子孫を残せないことが予想される。一
は梨によく似た黄褐色の小さな果実(直径 1cm 程度)
部の孤立木において,自然状態で結実しているケース
をつけることから,マメナシ(豆梨)の名が付いてい
もあったが,近隣に栽培ナシ等が植裁されていて,遺
る(写真②)。別名,イヌナシともいう。その分布は
伝子流動が起こっている可能性が考えられる。マメナ
愛知県,三重県にほぼ限定されるが,国外では朝鮮半
シと栽培ナシ,またはヤマナシなどの他のナシ野生種
のが現状である。強い自家不和合性を示すマメナシで
島や中国大陸にも分布していることから,氷河期の遺
との交雑種であるアイナシが各地において見つかって
存種であるという説もあり,「生きた化石」と呼ばれ
いるので,この可能性は充分あり得るだろう。自家不
るなど,植物地理学的にも注目されてきた。東海地方
和合性という他殖を促進する性質のため,栽培ナシ等
の湿地には,この地方に固有,あるいは分布の中心が
との交雑が頻繁に起これば,種そのものの固有性が損
ある植物が,マメナシを含めて 15 種ほど知られてお
なわれる恐れもある。単為結果や自家不和合性の強さ
り,東海丘陵要素と呼ばれている(植田,2002)。
に個体差がある可能性も考えられるが,いずれの場合
マメナシは都市周辺の丘陵地に自生しているため,
においても,稔性の高い種子は生産されにくいだろう。
住宅地や工業用地への転用,道路建設などの開発圧力
では,ある程度の個体数を維持している自生地であ
が大きく,自生個体が激減しており,現在,絶滅危惧
れば,問題はないのだろうか?自家不和合性は特定
IA 類(CR)に指定されている(環境省,2000)。現
の 遺 伝 子(self-incompatibility の 頭 文 字 の S を 取 っ
ひんぱん
ねんせい
存するマメナシの個体数は,400 個体程度と推定され
て S 遺伝子という)によって制御され,S 遺伝子の型
ており,各自生地は地方自治体によって,天然記念物
が一致すると他家受粉であっても不和合となる。つま
や公園として保護管理されるだけでなく,市民団体に
り,S 遺伝子の多様性が高ければ,不和合となる確率
よる熱心な活動によっても保護されている。
種子繁殖に影響を与える要因
は低いが,個体数が少なく S 遺伝子の多様性も低下
した集団では,充分な種子生産が行われなくなること
が予想される。マメナシの S 遺伝子の多様性につい
マメナシを含むバラ科植物の多くは,自家受粉では
て,DNA 分析により 8 個体以上が生育している個体
結実しない自家不和合性(self-incompatibility)を示
群 10 箇所を対象として調べた結果,全体では 13 種類
すことが知られている。実際に,マメナシの枝に袋を
の S 対立遺伝子を確認できたが,個々の個体群では 4
掛けて,自家不和合性の強さを調べたところ,成熟
~ 10 種類であった(加藤ら,2008)。
した果実はほとんど得られなかった(加藤ら,2006)。
伊豆諸島を主な分布域とするオオシマザクラでは,
自家不和合性は自殖を回避する仕組みであるから,本
島という隔離された環境であるにもかかわらず,個々
32
森林技術 No.797 2008.8
▲写真① マメナシの花(撮影者:西岡理絵)
▲写真② マメナシの果実(撮影者:今井 淳)
の集団において 26 ~ 62 種類の S 対立遺伝子が確認
に近い個体群でも遺伝的には異なるという結果も示さ
されている(加藤,2008)。この結果と比較すると,
れている(今井ら,2008)
。つまり,遠方からの移植
マメナシの S 遺伝子の多様性は,明らかに高くない
だけでなく,近隣からの移植であっても,遺伝子攪乱
ことがわかる。S 遺伝子の多様性の低下は,直接的に
を引き起こす可能性があるということだ。
繁殖へ影響するものと思われ,今後,個体数の減少に
マメナシの保全管理を行う上で,移植や増殖などの
拍車をかける可能性が高いと考えられる。また,マメ
管理方法を検討していくことは今後の重要な課題であ
ナシのような自家不和合性植物では長期間,他殖を繰
り,善意の保全活動を無駄にしないためには,遺伝子
り返してきた結果,近交弱勢の原因となる有害突然変
攪乱のリスクやその弊害を予測・防止するためのガイ
異が蓄積していることも予想される。一度,多様性が
ドラインの作成が急務である。
失われた場合,そのマイナス面の効果が表面化してく
ることも考えられるだろう。
保全に関する今後の課題
マメナシ自生地における個体および,個体群の孤立・
分断化は,種子の生産性の低下や遺伝的多様性の劣化
を引き起こす可能性があり,絶滅リスクを高める要因
となることが考えられる。しかしながら,ほとんどの
自生地が道路や宅地によって寸断されており,自生地
間の種子や花粉を介した遺伝子流動はもはや自然状態
では期待できないというのが現状だろう。マメナシを
守るためには,残された自生木を枯らさないことはも
ちろん大切であるが,それだけでは長期的な保全管理
は望めない。個体数の増加や遺伝的多様性を高めるよ
うな取り組みを行っていく必要があり,現状では次世
代に貢献することがない孤立木についても,積極的に
活用していくことが大切である。
一方で,マメナシの保全管理の現状として,都市開
み しょう なえ
≪引 用 文 献≫
今井 淳,加藤珠理,向井 譲.絶滅危惧種マメナシにおけ
る遺伝構造の解明(2008)第 119 回日本森林学会大
会学術講演集:24
植田邦彦(2002)東海丘陵要素の起源と進化.「里山の
生態学」その成り立ちと保全のあり方(広木詔三編).
名古屋大学出版会.p.42-57
加藤珠理,岩本祐佳,松岡美帆,向井 譲(2006)絶滅危
惧種マメナシにおける種子の生産性と自家不和合性.
第 53 回日本生態学会大会,講演要旨集:295
加藤珠理(2008)オオシマザクラにおける自家不和合性遺
伝子座の多様性解析.林木の育種(社団法人林木育種
協会)226 号:16-20
加藤珠理,今井 淳,西岡理絵,向井 譲(2008)絶滅危惧
種マメナシにおける自家不和合性遺伝子の多様性が種
子生産に及ぼす影響.第 55 回日本生態学会大会,自
由集会
環境庁自然保護局野生生物課編(2000)改訂・日本の絶滅
発に伴う移植や実 生 苗の植栽による地域固有性の損
のおそれのある野生生物−レッドデータブック− 8 植
失といった問題がある。DNA 分析の結果では,マメ
物Ⅰ(維管束植物).財団法人自然環境研究センター.
ナシは地域ごとに異なっており,愛知県,三重県の間
東京.
で特に大きく分化していることが示されたが,地理的
森林技術 No.797 2008.8
33
森林系技術者コーナー
● CPD-017- 土木 -002-200808
最近の緑化工技術
谷口伸二
日本植生株式会社 大阪設計室 設計部長 技術士(森林土木)
〒564-0053 大阪府吹田市江の木町20-12 Tel 06-6388-8283 Fax 06-6388-8449
このようにわが国の緑化工技術は,時代の問題
緑化工技術の変遷
に対応しながら順調に発展してきた。
わが国の緑化工の始まりは,
1656 年(明暦 2 年)
最近の緑化工
くまざわばんざん
に岡山藩の番頭であった熊沢蕃山が「山林は国の
はげやま
ま
本なり」との考え方で禿山に松の種子を播かせた
1)
近年,自然環境に対する社会的な関心の高まり
という記録が残っている 。また「緑化工」の用
と共に,緑化工技術に対しても「景観との調和」
「生
語は,倉田益二郎先生が 1951 年(昭和 26 年)12
態系の保全」「CO2 の削減」など要求内容が多様
月発刊「林業技術」誌で初めて使われ,治山のた
化・高度化し,さらなる環境への対応が求められ
めの造林を理想的に行うためには,緑化工を主眼
ている。
2)
とすべきであると述べられている 。
特に,のり面緑化工に対しては様々な要請が出
「緑化」と「緑化工」の違いは,一般に都市緑
され,その代表的な施工事例を写真①に紹介する。
化など平坦地で土壌改良を施し良好な条件下で
この施工写真は,兵庫県三木市に造成されている
植栽するのが「緑化」
,表土のない急勾配の斜面
防災公園である。ここでは,建築物に壁面緑化を
やのり面において厳しい立地条件や気象条件の下
施工し,ここから 200m 以内の箇所の森林表土
で植生を確実に導入する技術が「緑化工」である。
を利用した自然回復緑化工や景観を重視した修景
植生盤工など裸地斜面の侵食防止を早期に図りな
緑化工が実施されている。
がら,確実にそして簡便に植生を導入する技術開
豆のさやを伏せたような建物「ビーンズドー
せきあく
発が治山現場で行われた。つまり,緑化工は瘠悪
りん ち
はぐく
ム」の壁面には,ヒートアイランド現象を緩和さ
林地での治山林業分野で生まれ育まれた技術であ
せ,空調設備を省くことを目的に植生基材吹付工
ると言える。
で緑化された。園内の道路周辺にはアカマツを主
高度成長期を迎えると高速道路,鉄道,宅地開
とする既存林があり,この里山を保全するために
発など大規模造成工事による長大のり面の出現に
林縁部のり面に森林表土を利用した「マザーソイ
じっぱんこう
伴い,種子吹付工や航空実播工などの機械化施工
ル工」が施工され,のり尻部は短草のノシバ(キ
による外来草本主体の急速緑化工へと発展した。
ョーリョッカー工)による張芝工が施工された。
その後,景観・修景対策として岩盤緑化工(植生
このように緑化工は,私たちを取り巻く環境の
基材吹付工)や植生マット・シート工などが普及
変化に対応して,今後もますます高度化し多様化
し,使用する植物も外来種のハギ類を多用した木
することが予測される。
本導入工が行われた。
34
森林技術 No.797 2008.8
植生基材吹付工
(t=6cm)
下部のり面:ネット付ノシバ
上部のり面:表土利用工
▲写真① 多様化した緑化工の施工事例
の地域の生物多様を損なわないように留意して適
緑化工における外来種問題
正な利用を図ること,導入種の選定においては可
平成 14 年 3 月に策定された「新・生物多様性
かくらん
能な限り侵略性の少ない植物を使用することが望
国家戦略」において外来種による生態系の撹乱の
ましいとされている。具体的には,次のとおりで
問題は,日本の生物多様性の三つの危機の一つと
ある。
して位置づけられた。そして,平成 17 年 6 月か
ら施行された「特定外来生物による生態系等に係
わる被害防止に関する法律」
(通称「外来生物法」
)
①イネ科植物(牧草種)
−ウイーピングラブグラスは,多くの生態的影
をはじめとして,地域の生物多様性の保全に配慮
響が指摘されていることから使用を控えるこ
した緑化工の計画設計が要請されている。
と。
外来生物法による緑化用植物の取扱いについて
は,現在も環境省・農水省・林野庁・国交省の 4
省庁合同の「連絡調整会議」が設置され検討され
ている。平成 18 年の中間報告「緑化植物の望ま
しい取り扱い方向」3)で,外来緑化植物の使用に
ついては有用性も認められ,在来緑化物の供給体
−イネ科植物の選定に際しては,短草品種,繁
殖力の小さい品種を使用すること。
は しゅりょう
−播種量・使用品種の種数を抑えるなど工夫す
ること。
−人体への影響が懸念される例として花粉症の
アレルゲンとして報告されている品種もある。
制が整ってないなどから当面は十分に留意して適
(チモシー・トールフェスク・ペレニアルラ
正な利用を図っていくものとするとの考え方が示
イグラス・イタリアンライグラス・ケンタッ
されている。また,緑化用植物として「要注意外
キーブルーグラス・オーチャードグラス ・ メ
来生物リスト」に掲載された種など主だった外来
緑化植物(外国産在来種を含む)は,緑化地周辺
ドウフェスク)
②ニセアカシア・イタチハギ
森林技術 No.797 2008.8
35
−生態系等への影響が報告されているため生物
多様性保全上重要な地域では,新たな使用は
避けることが望ましい。
−崩壊地においては有用な植物であると共に,
養蜂業ではアカシア蜂蜜の蜜源として利用さ
れているため使用禁止はできない。
−リンゴ栽培地ではリンゴ炭そ病の寄宿源とな
▲写真② 樹太郎マット工法(施工後約 1 年目)
っているためリンゴ栽培地での使用は避ける
こと。
【施工例- 2 森林表土利用工法】
③外国産在来緑化植物
森林表土利用工は,機械吸引した森林表土に含
−緑化目的を達成しえる範囲内において,生物
まれる埋土種子(表土シードバンク)を植生基材
多様性保全上重要な地域では,可能な限り使
の中に混入して吹付ける工法である。
写真③は「マ
用は避けること。
ザーソイル工法」の事例である。
−周辺状況に応じて,国内産・地域性系統の緑
【施工例 -3 自然侵入促進工法】
化植物材料などを用いることが望ましい。
自然侵入促進工法は,人的に種子を使用しない
以上のように,地域の自然生態系に悪影響を及
で既存林から飛来する種子による植生を期待する
ぼすことが懸念されるため,外来緑化植物に依存
緑化工法である。
しない緑化工法が望まれている。最も望ましいの
写真④は,林道のり面緑化で従来の外来草本種
は地域性種苗を利用することである。地域性種苗
子を使った植生マットと,種子を使わない植生誘
(国産種子や地域採取種子)が入手困難な場合に
導マット工を,同一のり面に比較施工した事例で
は,表土利用や待ち受け型の自然侵入を促進する
ある。
4)
工法が,新たな植生工として期待されている 。
植生誘導マット工の「飛来ステーション工法」
次に,外来緑化用植物を用いない緑化工法の施
は,施工初期の侵食防止を生分解性マットの被覆
工例を紹介する。
保護により図り,さらに飛来種子を補足しやすい
* * *
立体型マット構造を特長としている。初期の侵食
【施工例- 1 木本導入植生マット工】
防止を図りながら地域自生種による多様性のある
地域産採取種子を利用できる植生基材吹付工や
植生復元が順調に進行している状況が観察された。
木本導入植生マット工があり,種子が準備できれ
また,一部の乾燥した箇所においては,施工後 2
ば汎用的に利用できる。写真②は「樹太郎マット
年目にアカマツ,ヒメコウゾ,クマイチゴ等の木
工法」の事例である。
本類が数多く侵入し,今後の降雨により植被率の
ᣉᎿਛ
施行中
▲写真③ マザーソイル工法
36
森林技術 No.797 2008.8
㧟ࡩ᦬
ᓟ
3 ヶ月後
㧟ᐕᓟ
3 年後
施工完了状況
ᣉᎿቢੌ⁁ᴫ
施工後約
2 年目
ᣉᎿᓟ⚂2ᐕ⋡
始
NO
従来条件の工法
選定フロー参考
生物多様性保全
に配慮する
必要があるか
YES
YES
地域産種子
の調達は可能か
ᬀ↢⺃ዉ䊙䉾䊃Ꮏ
地域産種子配合による工法
NO
ᓥ᧪Ꮏᴺ
NO
表土採取が
可能か
▲写真④ 飛来ステーション工法
植生被覆まで
長期間を要することが
許容できるか
YES
母樹林に近接
しているか
Y
YES
NO
YES
向上は十分に期待できる。
* * *
NO
表土利用工
自然侵入促進工
外来生物法に対応した植生工の選定について,
図①に示す工法選定フローチャートが提案される。
地域の自然生態系保全に配慮することが必要な
緑化計画地の場合,地域の種を極力利用すること
表土利用植生基材
吹付工法
表土利用植生袋
工法
種子なし植生基材
吹付工法
種子なし植生 マット工法
▲図① 外来生物法に対応した植生工法選定フロー
が最も望ましいが,入手困難なことが多い。植生
被覆までに長期間を要することが許容され,かつ,
⑦獣害を受けないこと(食害,踏み荒らし)
周辺から飛来種子が期待できる母樹林が存在する
を加えて対策を講ずる必要があると考える。
場合は,待ち受け型の自然侵入工法が選定できる。
具体的な被害対策には,緑化地を排除柵で囲う,
一方,短期間に植生被覆が要請される場合や飛来
忌避剤の使用,最近ではネット類を地山から浮か
種子が期待できない立地では,表土利用工法が選
せて張り付ける手法などが試行されている。
定される。
これからの緑化工技術
なお,このような植生工法は遅速緑化なので,
のり面や斜面が自立安定し表面侵食を受けにくい
次に緑化工の計画設計に関する新しい動きを紹
立地条件が前提となることに留意すべきである。
介する。構造物工と同様に,緑化工も仕様規定か
緑化工の獣害対策
ら性能照査による計画・設計・施工の導入が模索
されている。性能照査は従来の仕様規定に基づい
これまで植生導入を確実に図る基本的条件は,
た計画設計ではなく,要求性能を満足する結果が
下記に示す六つの条件が挙げられていた。
得られれば,工法や材料を問わないとする考え方
①表土が動かないこと(種子の定着)
である。
②適当な水分があること(発芽生育)
緑化工は構造物を造るのと違って,施工完了し
③土中に適当な空気があること(根の侵入)
た時点で全ての要求性能が満足されることにはな
④養分があること(生育)
らない。施工後,植物の成長や植生遷移の進行に
⑤適当な温度継続があること(生育期間)
伴い徐々に要求性能が発揮されていく大きな特徴
⑥土中に有害物を含まないこと
があり,時間的経過に応じた変化を考慮して要求
しかし,最近は山腹緑化工やのり面緑化施工地
性能を設定する必要がある。また,自然条件に左
においても鹿や猪などによる食害や植生基盤の踏
右されやすく,定量的評価が難しいなどの特性を
み荒らしによる被害が続出し,深刻な問題となっ
持っている。
ている。つまり,もう一つ それゆえ,仕様規定型から性能規定型へ一気に
森林技術 No.797 2008.8
37
移行することは困難であると見られている。平成
求水準の検証内容を記述することにより,品質保証
18 年 11 月に全国特定法面保護協会より「のり面
体制を高めることが必要となってくるであろう。
緑化工の手引き」5)が発刊され,初めて緑化工の
以上,緑化工技術に関する最近の動向について
性能規定に関する内容が記述され,その中でのり
の一部を紹介させていただいた。
面緑化工に要求される要求性能として下記のよう
な項目が示された。
今後の緑化工は要求性能を明示し,その性能を検
《参 考 文 献》
1)緑化工ガイドブック 倉田益次郎 昭和 47 年 11 月 紅大貿易(株)
2)緑化工のあゆみ 創立 30 周年記念出版 平成 7 年 11
月 日本緑化工協会
3)グリーン・エージ 2006 年 10 月号「外来生物による
被害の防止等に配慮した緑化植物取扱方針検討調査」
の概要について 環境省,農林水産省,林野庁,国土
交通省 (財)日本緑化センター
4)緑化工技術− 28 集− 2007 年 細木大輔:p64-81 日本緑化工協会
5)のり面緑化工の手引き 2006 年 11 月 (社)全国特定
法面保護協会
証できる試験値や施工地の追跡調査データを備え
(たにぐち しんじ)
①安全性能
②地域自然環境保全に関わる性能
③美観・景観に関わる性能
④永続性に関わる性能
⑤環境負荷に関わる性能
照査方法は,過去の施工実績地の追跡調査結果
や試験地の研究結果のデータなどを照査に替える
「適合みなし規定」の手法などが提示されている。
ることが必要である。そして,これらを満足する要
「森林情報士 2 級資格養成機関登録制度」による
森林情報士登録者名簿
森林情報士養成事業は,航空写真(デジタル利用も含む)や衛星リモートセンシングか
らの情報の解析技術,GIS 技術等を用いて森林計画,治山・林道事業,さらには地球温暖
化問題の解析などの事業分野に的確に対応できる専門技術者を養成することを目的に,本
会が平成 16 年度に創設したもので,林業技士と並ぶ資格認定制度ですが,平成 17 年度か
ら新たに森林情報士養成研修 2 級と同等の大学課程科目の単位を取得した学生についても,
森林情報士 2 級を授与する制度「森林情報士 2 級資格養成機関登録制度」を創設しました。
この制度により登録されている登録者は下記のとおりです。
●平成 19 年 4 月 1 日付け登録者
森林 GIS2 級 嵯峨山 正治(高知大学)
森林リモートセンシング 2 級
松田 洋(東京農工大学)
小崎 尚美(東京農工大学)
高橋奈央子(東京農工大学)
松井はるな(東京農工大学)
鈴木 晶子(東京農工大学)
酒井 良(東京農工大学)
●平成 20 年 4 月 1 日付け登録者
森林 GIS2 級 吉澤 竜耶(群馬県立農林大学校)
村松 優子(高知大学)
田栗 裕崇(高知大学)
平田 亜也(高知大学)
中村 理志(高知大学)
吉澤 和弥(群馬県立農林大学校)
川野 浩一(高知大学)
小山 和也(群馬県立農林大学校)
森林リモートセンシング 2 級
高橋 夢子(東京農工大学)
村瀬 美美(東京農工大学)
西原 史子(琉球大学)
38
森林技術 No.797 2008.8
以上
●コラム●
近年,スギが合板や集成材に加工され,間伐材
ま放っておいても大径木生産が可能な林を ha 当
や B 級材の用途が広がったことは歓迎すべきこ
たり 150 万円で買入れている。いずれも売手はこ
とである。それでも,主伐材をも含めたスギ丸太
の価格では完全に生産原価割れである。
価格が 1 万円から 1 万数千円というレベルでは,
一方買手は,成林だと 1ha 当たり 300 万円と
間伐は進んでも,皆伐→再造林を前提とした林業
いわれる生産原価を大きく切り下げた上で,林業
経営は成り立たない。したがって九州や四国など
経営をそこからスタートさせており,買入れ資金
で増加している皆伐跡地の放棄は,決して不自然
はいずれも林業外収入が充てられている。買手が
あ
なことではなく,資本の
収益の最大化を目的とし
論理としては当然のこと
た投資者として行動する
である。
のであれば,将来,大面
ところで最近,私はと
ても熱心な林業経営者
積皆伐→跡地放棄となる
新しい林業経営者
懸念も十分にある。
しかしながら両氏とも,
A・B 両氏に相次いでお
いわ
会いした。両氏ともに,
岩井吉彌
林業に関する実践的知識
もともといくらかの森林
京都大学大学院農学研究科 教授
はきわめて深く,森林を
い
よし
や
愛し,育てることに喜び
を所有していたが,近年
を感じており,さらにあ
は立木付き林地の買入れ
に積極的で,すでに数百 ha の所有規模になって
ととりにも教え込んでいるので,その心配は無用
いる。
であろう。
買入れ価格を聞いてみると,A 氏が現在購入
今後の林業経営者にはこうした要素がとても重
を検討している森林は,離島ではあるが,スギ林
要であると思う。このような人達が新しい林業経
250ha で 1,000 万円であるという。林齢構成は不
営者として出てくれば,日本林業の救世主といえ
明だが,それにしても ha 当たり 4 万円とは安い。
るが,しかし問題は,上のような条件や要素を備
他方 B 氏は,強度の間伐をくり返した 50 ~ 60
えた人達が日本全国にどれくらいいるかである。
年生のスギ林で,かつ作業道密度が高く,そのま
□東南アジアの森に何が起こっているか 熱帯雨林とモンスーン林からの報告 編者:秋道智
彌・市川昌広 発行所:人文書院 (Tel 075-603-1344)
発行:2008.3 B6 判 282p [林野庁図書館・本会普及部受入]
◆ 新 刊 図 書 紹 介 ◆
本体価格:2,500 円
□巨樹巡行 神の木 民の木 著者:沖 ななも・土田ヒロミ 発行所:日本放送出版協会 (Tel 0570-000-321) 発行:2008.3 B6 判 351p 本体価格:1,800 円
○続・「読む」植物図鑑 著者:川尻秀樹 発行所:全国林業改良普及協会 (Tel 03-35838461) 発行:2008.3 四六判 504p 本体価格:2,200 円
□北海道・緑の環境史 著者:俵 浩三 発行所:北海道大学出版会 (Tel 011-747-2308)
発行:2008.4 A5 判 405p 本体価格:3,500 円
○森と暮らす No.1 山林の資産管理術 編者・発行所:全国林業改良普及協会 (Tel 033583-8461) 発行:2008.6 A5 判 187p 本体価格:1,800 円
○森と暮らす No.2 ノウハウ図解 山仕事の道具 編者・発行所:全国林業改良普及協会 (Tel 03-3583-8461) 発行:2008.6 A5 判 289p 本体価格:1,800 円
○図解 木と木材がわかる本 著者:岩本恵三 監修:小澤普照 発行所:日本実業出版社 (Tel 03-3814-5161) 発行:2008.7 A5 判 170p 本体価格:1,600 円
注:□印=林野庁図書館受入図書 ○印=本会普及部受入図書
森林技術 No.797 2008.8
39
ざるに上げて汁を絞り、ごみや小
ショウを山盛りに入れ、大さじ二
る ま で 炒 り ま す( 写 真 ③ )
。これ
保存し、もう一つはからからにな
ン シ ョ ウ の 葉 か ら 汁 が 出 る の で、 て、一つは柔らかく作り冷凍して
杯の塩を加えて軽く炒ります。サ
をビンに入れて冷蔵庫に保存して
いようにゆっくり炒ります。そし
弱、酒を大さじ二杯入れて焦げな
リメンジャコ山椒の佃煮も美味な
の実を加えて弱火で煮詰めた、チ
また、チリメンジャコを醤油と
みりんで味つけして、サンショウ
いですが、辛味があり美味です。
り ま し た( 写 真 ④ )
。少し実が堅
で煮汁がなくなるまで煮詰めて作
ます(鈴木棠三・日本俗信辞典)。
は財産を売るに通ずるからと言い
しょう」と言って嫌います。これ
る、貧乏や不幸になると言います。
ショウを植えると病人や死人が出
が枯れる、人が死ぬ、また、サン
3 熟した実
山 椒 」、 売 ら ん し ょ う、 売 り 払 う
秋になると、紅く熟した実の殻 の意味。川の近くのは「川山椒」、
が 割 れ て 黒 色 の 種 子 が 現 れ ま す。 買わんしょうで、景気がよく財産
すず き とうぞう
特に屋敷に植えるのを「うらざん
枝を取り、さらに塩を大さじ一杯
います。
北方植物)。
が増えるという(朝日新聞社編・
やお茶漬けにふりかけると塩味と
サンショウのピリッとした辛味で
し、フライパンで炒めるとパチパ
これを摘んで水洗いして天日に干
されます。利用価値があるための
若い実
若い実を洗って熱湯にさっと通 チと皮が割れて種子が採れます。
して辛味を和らげ冷まし、塩漬け、 これを保存して、必要な時にす
り鉢で砕いて薬味に使います。ウ
妬みからなのか、歌いながら摘む
ナギを食べるときの薬味もサンシ
と刺で怪我することの戒めか、凶
2
ョウの実を粉末にしたものです。
事の由来について、古老から聞き
まで煮詰めます。
ら、砂糖を入れて煮汁が無くなる
人とのかかわり
も活かされています。
この他にも、サンショウの若葉
や実は、川魚の煮物や菓子の中に
が
いまし
しばら
さわ
初夏は青い実二~三個を口に入れ
筆者は山に入ると、春はサンシ
ョ ウ の 新 芽・ 若 葉 を 一 ~ 二 枚 を、
おわりに
たいものです。
け
サンショウは、枝や幹が堅いか
4 4 こ ぎ はし つえ
らすり粉木、箸、杖などにも利用
佃煮
*
みりん漬けや佃煮を作ります。
佃煮は、みりん、醤油などを煮
立て、サンショウの実を入れて中
つ
食事がすすむ逸品です。
からからに仕上げたサンショウ
は新茶のような色で、温かいご飯
ま た、 屋 敷 の 裏 に あ る の は「 裏
▲写真② 若芽の天ぷら
▲写真④ 青い実の佃煮
火で煮ます。煮汁が少なくなった
筆者はピリッとした辛味が好き
な の で、 サ ン シ ョ ウ の 若 い 実 約
四十五gを洗い、熱湯で軽く茹で、
ます。ピリッとして辛いが暫く爽
さら
やかな気分になります。これから
サンショウの利用は古く、縄文
時代あるいはそれ以前からと言わ
に上げて水切りします。鍋に醤油、 れています。
それにしても、サンショウとの 是非食べたいのは、サンショウの
かかわりには凶事が多く、例えば、 皮料理とサンショウ餅です。
約三〇分水に晒して冷まし、ざる
㏄と削りかつおを少々入れて煮立
歌いながらサンショウを摘むと木
みりんと砂糖をそれぞれ約一〇〇
て、サンショウの実を入れて弱火
森林技術 No.797 2008.8
40
一品です。
▲
写真③ 若葉の塩炒り
▲写真① サンショウの若葉
山村
の
食文化
はじめに
今月のお品書き 三十六の膳
の地方で呼ばれています。
切りし刻みます。鍋に刻んだ若葉
が、ひたひたにかぶる位の水を入
れ、酒と醤油を加えて水分が三分
1 若芽・若葉
若芽や若葉の料理は、いろいろ
あります。刺身、煮物や和え物な
です。
べ方がサンショウの上手な食べ方
サンショウには特有な香りと辛
味があります。これを活かした食
気を絞り取り、適当な大きさに刻
間浸して灰汁を抜き、しっかり水
長野県伊那市の島根カズミさん
ゆ
は、若芽を茹でて冷水に二~三時
る作り方もあります。
んだ若葉を油で炒めてから煮詰め
くなるまで煮詰めます。また、刻
糖を少々入れ、ゆっくり汁気がな
サンショウの食べ方
どの飾りやお吸い物に浮かべます
の二くらいになるまで煮詰め、砂
(写真①)
。さらに煮物、茶碗蒸し
み、醤油と酒を二対一の割合でサ
サンショウ
やちらし寿司の薬味、天ぷら(写
ンショウの量の半分くらいまで入
すぎうらたかぞう
真②)
、 佃 煮、 さ ん し ょ う 味 噌 に
れて弱火で炊きます。サンショウ
杉浦孝蔵
緑
早春に芽吹き、四~五月にあは
か
黄色の小花が開き、秋には紅い実
も用います。
をつけ、外皮が破れると黒くて堅
木の芽味噌(サンショウ味噌)
叩くと、香りを一層感じます。
詰めると良いようです。煮詰め終
一度に炊きあげずに、ほかの料
理を作るついでに弱火にかけて煮
意して作ります。
あ く
い種子が現れます。
とげ
煮物や汁物の飾りにするときは、 から水分が出てきますが、時々鍋
サンショウの若葉を両手でパンと ごと返して焦げ付かないように注
東京農業大学名誉教授
わが国の人々は、正月に祝い酒
として、不老長寿と一年の邪気を
払うことを祈願して、サンショウ
サンショウの若葉を洗って、さ
っと湯に通し、すり鉢ですり潰し
ます。砂糖を早く入れるとサンシ
わったら、好みの量の砂糖を混ぜ
の小枝には鋭い刺が
サンショウ
つい
あります。対に付くのがサンショ
月の三ヵ日は戴いています。また、 ウで、交互に付くのはイヌザンシ
入りの屠蘇を飲みます。筆者も正
ョ ウ で す。 木 村 陽 二 郎( 図 説 花
ます。これに白味噌、みりん、だ
と そ
サンショウは、わが国では春の若
と 樹 の 大 辞 典・ 柏 書 房 ) に よ る
し汁などを加えてすり伸ばし、こ
いただ
芽、若葉から秋の果実まで香辛料
し、山の辛い実の意、そして新芽
と、
「椒」は果実の辛いものを表
むしくだ
の特効薬として用いられてきまし
の時に青よせを加えます。
群馬県桐生市の安蔵和子さんは、
直径五〇㎝の鍋に採りたてのサン
塩炒り
がら煮詰めるとのことです。
ョウがガリガリになると言います。
と若葉を木の芽、花を花ザンショ
木の芽味噌は、たけのこ、豆腐、 また、砂糖を入れると水分が出る
コンニャクなどの田楽を賞味する ので、焦がさないように注意しな
た果実を粉末にして粉ザンショウ
ウ、青い実を実ザンショウ、熟し
として食べると同時に腹の虫下し
た。
サンショウの生態と名称
のに重宝します。
と呼ぶと言います。
サンショウ(山椒)は、わが国
の里山から山地の林内に生育する サンショウの方言は二十種ほど 佃煮
雌 雄 異 株 の 落 葉 低 木 で す。 ま た、 あ り ま す が、 キ ノ メ、 サ ン シ ョ、 若葉をよく洗い、さっと湯に通
人々は屋敷内にも植えています。 ハジカミ、ホンサンショーは複数 してザルに上げ、冷水をかけて水
41
森林技術 No.797 2008.8
本の紹介
●コラム●
西川静一 著
森林文化の社会学
発行所:佛教大学
発売元:(株)ミネルヴァ書房
〒 607-8494 京都市山科区日ノ岡堤谷町 1
TEL 075-581-5191 FAX 075-581-8379
2008 年 3 月発行 A5 版 292p
定価:7,350 円(本体 7,000 円+税)
ISBN978-4-623-05064-2 C3036
森林が,単に生産のために利用
されるよりはるかに重要な意味を
もって人間の生活にかかわってき
たことは,いまや誰もが認める事
実といってよい。森林と人間の関
係はきわめて多様で奥深いもので
ある。
しかし,つい先年まで,人間と
森林の関係を表すのに「文化」と
いう言葉が用いられることはほと
んどなかった。とはいえ,これま
で人間が森林から受けてきた恩恵
を忘れていたわけでは決してない。
それらの恩恵に触れた記述はこれ
までにも数多くあるが,ただそれ
らが「森林文化」という視線のも
とに体系的に述べられることがな
かったのである。
本書は,社会学分野において「森
林文化」を体系化した本邦最初の
労作といってよい。森林文化に関
心を持つ人々ばかりでなく,森林
の恩恵に浴するすべての人々にと
って,まさに待望の書というべき
であろう。本書の持つ意義に,あ
らためて深い敬意を払わずにおれ
ない。
本書は 6 つの章から成っている。
森林をめぐる伝統的信仰をはじめ,
規範の伝統,技術の伝統が,今日
の森林文化とどうつながっている
かが最初に解き明かされる。森林
文化の名によって,人々がまず連
想するのはおそらくこれらの伝統
文化であろう。
次に,森林文化そのものが真っ
正面から論じられている。これま
で必ずしも定義が明らかでなかっ
た森林文化について総括した功績
は大きい。森林帯を文化の背景と
した照葉樹林文化論やナラ林文化
論などとの関連も,ここで明らか
にされる。
本書における論議の中心は,森
林文化を社会学的に捉え直すとい
う意図を明らかにした「社会学的
本の紹介
養老孟司・立松和平・山田壽夫・天野礼子 著
も
り
21 世紀を森林の時代に
発行所:北海道新聞社
〒 060-8771 北海道中央区大通西 3 丁目 6
TEL 011-210-5744 FAX 011-232-1630
2008 年 5 月発行 B6 版 235p
定価:1,680 円(本体 1,600 円+税)
ISBN978-4-89453-453-7
日本は国土の 67%が森林とい
う“森林王国”である。しかし,
ひ へい
弊 してしまった。
林業は完全に疲
なりわい
生業としての林業を再生させるこ
とができなければ,国土を守れな
い。そのために,今,何が必要か
を,著者 4 人が熱く語っている。
山田壽夫は,林野庁の課長時代
に,林業再生のための「新流通・
加工システム」と「新生産システ
ム」を提案し,その後,九州と北
海道の現場において,この課題に
42
森林技術 No.797 2008.8
取り組んできた。今までの日本の
林業は,産業としての強さ,とい
うものを持てていなかった。この
ふっ しょく
ことを払 拭 するためには,「低コ
スト・大ロット体制の構築」と「顔
の見える木材での家づくり」が欠
かせないという。
天野礼子は,山田氏との対談を
通して,「新流通・加工システム」
と「新生産システム」は,作業道
を開設し,機械を導入してコスト
を下げ,大量の木材を山元から出
して加工するシステムであり,ま
た,互いに顔の見えるところに山
と木の価値を見いだし,自らの住
宅に,国産材を使っていく方法で
もあることを解説している。
立松和平は,鉱毒跡地への植林
や,日本の文化財である木造建築
こ じ
を守っていくために「古 事 の森」
の造成を実践してきた。そこから,
農業や林業という一次産業が,自
然環境を守ってきたことを学び,
私たちの生活に必要不可欠な木を
提供してくれる森林と,食料を供
給してくれる農地,このどちらも
こうせい
守り育てて,後世に引き継いで行
かなければならないと述べている。
養老猛司は,エネルギー問題・
環境問題・食糧問題に直面し,今
後,日本列島という小さな国土を
どうするか,どう使っていくのか
が大きなテーマであると述べ,で
きるだけ効率的に,かつ,持続的
●コラム●
こだま
洞爺湖サミットがらみだろうか,地球温暖化
の話題を毎日のように目にするこの頃である。
IPCC や「不都合な真実」のゴア氏がノーベル
平和賞を受賞したのはたいへん結構だが,アメ
リカが CO2 削減へ動き出した途端,バイオエ
(山形大学名誉教授/
北村昌美)
センス・オブ・ワンダー
森林文化論」であろう。この論旨
は,明治以降の森林文化に関する
記述のなかでさらに深められ,最
終章で「森林文化の展望」として
まとめられている。
森林文化の包括する領域は,想
像もつかぬほど広くかつ深い。お
そらく従来の林学の全体系の見直
しが,早晩必要となるであろう。そ
れが森林の復権につながっていく
ことも,また期待できるのである。
タノールの生産による食料高騰が途上国を直撃
しているという。日本のスギ人工林が炭素吸収
ふくいん
源として脚光を浴びているのは福音だが,どう
も温暖化防止一辺倒の最近の風潮にはついてい
けない。
地球温暖化も森林問題も,そのほかの環境問
題も,結局は先進国の人間の暮らしぶりが根本
から問われているのだと思う。高層マンション
で土を見ることもなく,原発の電気で夜中もク
ーラーをつけて寝ている人々が,エコグッズを
買い,ハイブリッドカーに乗ったところで,
「地
球にやさしい」生活とは言えまい。
ご存知の方も多いと思うが,「Silent Spring
(沈黙の春)」で有名なレイチェル・カーソンの
没後に出版された「The Sense of Wonder」と
めい
いう本がある。晩年のカーソンが,姪の子供で
あるロジャー少年を海辺や森へと連れ出し,と
つづ
もに探検した思い出を綴ったものだ。日本では
上遠恵子訳「センス ・ オブ ・ ワンダー」
(新潮社)
として,森本二太郎氏の写真を添えて出版され
ている。上遠氏がレイチェルとロジャーが過ご
した米国メイン州の別荘を訪ねるドキュメンタ
リー映画をご覧になった方もあるかもしれない。
知識や理論で環境問題を考えるより,子供の
に森林を活用していくシステムを
築いていかないと,エネルギー資
源の乏しい日本は,いつまでも外
国に振り回されるだけだと断じる。
地球温暖化が主要テーマとなっ
た洞爺湖サミットが開催された北
の大地が発信する本書。まさに時
節を得たものであり,後世の人々
に“バカ”といわれないためにも,
森林・林業のあり方を考える上で,
ぜひ一読をお薦めしたい。
(日本森林技術協会 顧問/
田中 潔)
ころから土や生き物に触れ,大いなる自然の不
思議を感じる心(Sense of wonder)を育てる
ことのほうがいかに大切か,というのがカーソ
のこ
ンが遺した最後のメッセージだった。
地球温暖化問題に端を発したガソリンや食料
品の高騰が,食料を投機対象にしている世界,
ゲームや携帯が子供たちの暮らしの中心に居座
くつがえ
っている日本社会を,根底から覆すような大き
な価値観の転換へとつながってくれたらと,家
庭菜園に子供と通いながら夢想している。
(草刈)
( この欄は編集委員が担当しています )
森林技術 No.797 2008.8
43
コラム ● ● ●
●●
統計に見る
日本の林業
●●
●
木材価格の動向
●丸太価格の推移
近年の丸太価格をみると,輸入
量の多い外材である北洋エゾマツ
や北洋カラマツの価格が上昇傾向
にあるのに対し,国産材のスギや
ヒノキの価格は下落傾向で推移し
てきた。
平成 19 年をみると,スギ中丸太
価格は,前年平均より 300 円高い
13,000 円と若干の上昇がみられた
ものの,ヒノキ中丸太価格は,前
年平均より 900 円下落し 25,400 円と
なった。一方,北洋エゾマツの価格
は前年平均より 4,300 円,北洋カラ
マツの価格も前年平均より 4,800 円
高い価格となった(図①)
。この価
格は,スギ中丸太と比較して 8,000
~ 9,000 円程度高い水準にある。
管柱(国産)の価格は,4 月に前
年平均より 16,300 円高い 72,000 円
まで上昇した後,6 月以降急激に
下落した。また,合板の価格も集
成材同様に下落がみられた(図②)
。
このような集成材や合板価格の
下落は,原油価格の上昇やユーロ
●製品価格の推移
ひっぱく
平成 19 年のスギ正角(乾燥材) 高等による製品供給の逼迫等を見
の価格は,前年より 4,400 円高い 込んだ買入れが進み在庫量が過剰
60,800 円となった。一方,構造用 になっていた中,住宅着工戸数が
材としてスギ正角(乾燥材)と競 減少し,実需が伸びなかったこと
合関係にあるホワイトウッド集成 によるものと考えられる。
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▲
㪉㪌㪃㪇㪇㪇
図① 丸太価格の推移
資料:農林水産省「木材価格」
㪈㪈
注:スギ中丸太(径 14 ~ 22cm,長さ 3.65 ~ 4.0m),ヒノキ中丸太(径 14 ~ 22cm,長さ 3.65 ~ 4.0m)
北洋カラマツ丸太(径 20cm 上,長さ 4.0m 上),北洋エゾマツ丸太(径 20 ~ 28cm,長さ 3.8m 上)
のそれぞれ 1m3 当たりの価格。
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㪋
㪍
㪏
㪈㪇
㪈㪉
▲図② 製品価格の推移 資料:農林水産省「木材価格」,日刊木材新聞
44
森林技術 No.797 2008.8
森林・林業関係行事
8月
行事名
開催日・期間
会場
JAPAN DIY
8/28 ~
HOMECENTER
30
SHOW 2008
幕張メッセ
国際展示場
(千葉市)
主催団体
連絡先
行事内容等
DIY(DO IT YOURSELF) の 普 及 啓 発
(社)日本ド
活動を促進するために消費者に広く呼びか
東京都千代田区鍛冶町
ゥ・ イ ッ ト・
け,素材・道具の展示を行うほか,親子工
1-8-5
ユアセルフ協
作大会,DIY 新商品ヒット商品コンクール,
Tel 03-3256-4475
会
国産材の PR を目的としたクラフトセミナ
ーなどを行う。
9月
行事名
開催日・期間
会場
主催団体
連絡先
行事内容等
2008 全日本山岳
9/2 ~ 7
写真展
東京芸術劇場
(東京都)
東京都墨田区両国 2-2- 全日本山岳写真協会会員の作品と,全国の
全日本山岳写
14
小・中・高生及び一般の山岳写真愛好家の
真協会
Tel 03-3634-8030
作品を一堂に展示する。
全 建 総 連 第 24
9/17 ~
回全国青年技能
19
競技大会
岩手県営体育館
製図,刻み,加工の基本と規矩術を加えた
東京都新宿区高田馬場
全国建設労働
競技課題に取り組むことで,若年後継者の
2-7-15
組合総連合
育成と技術・技能の向上を図ることを目的
Tel 03-3200-6221
として実施する。
◆ 日本森林学会支部大会のご案内 ◆
●北海道支部大会(第 57 回)
●中部支部大会
期日:平成 20 年 11 月 10 日(月)
期日:平成 20 年 10 月 11 日(土)~ 12 日(日)
会場:札幌コンベンションセンター
(予定)
(札幌市白石区東札幌 6 条 1 丁目 1-1)
会場:(詳細未定)
●東北森林科学会大会(第 13 回)
●九州支部大会(平成 20 年度)
期日:平成 20 年 8 月 25 日(月)~ 26 日(火)
期日:平成 20 年 11 月 21 日(金)~ 22 日(土)
会場:福島県(詳細未定)
会場:大分県(詳細未定)
●関東支部大会(第 60 回)
期日:平成 20 年 10 月 24 日(金)
会場:かながわ労働プラザ(横浜市中区寿町 1-4)
「林業技士」受講募集の締切り迫る!!
今年度(平成 20 年度)の「林業技士及び森林評価士」養成研修の受講者募集及び登録資格認定
審査申請の受付締切りが迫っています。
締切りは,8
月 15 日
(金)です(当日消印有効)。
受講及び登録資格認定審査をお受けになろうとされている皆様は,期日を遅れないようお申し込
みください。昨年度よりも締切りが早くなっています。くれぐれもお間違いのないよう,ご注意く
ださい。
詳細は,本誌 6 月号または本会ホームページ〔検索:日本森林技術協会〕をご参照ください。
(社)日本森林技術協会 林業技士事務局 担当:佐藤政彦
〒102-0085 東京都千代田区六番町 7 Tel 03-3261-6692 Fax 03-3261-5393
森林技術 No.797 2008.8
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林業技士(森林評価士)登録更新のお知らせ
●平成 19 年 3 月 31 日以前に認定登録した林業技
しての技術の維持向上に努めていただくことを
士(森林評価士)の方は次の区分により,「林
目的としています。
業技士登録更新」を定められた更新年度に手続
●今年度の更新受付期間は 6 月 1 日~ 8 月 31 日
をしていただくこととなっております(裏表紙
の 3 ヶ月間です。下表 A グループで更新未済
も参照のこと)
。
の方の受付期間も同様ですのでご注意ください。
●これは,資格取得後も森林・林業にかかわる技
●登録時と住所等連絡先が変更されている方は,
けんさん
術や知識の研鑽を行い林業技士,森林評価士と
林業技士事務局までお知らせください。
登録年度と更新年度の関係表
グループ
第1回更新年度
第2回更新年度
A
昭和 53 年度~ 60 年度
登 録 年 度
平成 19 年度
平成 24 年度
B
昭和 61 年度~平成 7 年度
平成 20 年度
平成 25 年度
C
平成 8 年度~ 12 年度
平成 21 年度
平成 26 年度
D
平成 13 年度~ 18 年度
平成 22 年度
平成 27 年度
締切り
迫る
お問い合わせ先:〒 102-0085 東京都千代田区六番町 7
(社)日本森林技術協会 林業技士事務局 担当:佐藤政彦
Tel 03-3261-6692 Fax 03-3261-5393
森林情報士
投稿募集
森林情報士研修始まる
●森林系技術者養成研
▼開講の挨拶を述べる葊居理事長
修のうち,森林情報士
会員の皆様からのご投稿を随時
募集しています。
「森林航測 2 級」部門
400 字× 4 枚(1,600 字)程度,
が,今年度最初の研修
400 字× 8 枚(3,200 字)程度,
として 7 月 28 日~8 月
400 字× 12 枚(4,800 字)程度に
1 日に開講した。講師
おまとめいただき,プリントアウ
は本会の吉村職員が主
トした用紙とデータを入れた CD
に務め,森林総研の中
を本会までお送りください。
北氏には特別講義をご
〒102-0085 千代田区六番町 7
担当いただいた。今月
日本森林技術協会『森林技術』
中旬には「森林 GIS2
編集担当:吉田 功・志賀恵美
級」部門が開講する。
雑 記
累代飼育のカブト虫が成虫となっ
て次々と姿を現した。蛹室となる下
地固めに不安があったが,全ての個
体の命を無事つなぎ安堵した。もっ
とも,異父兄弟姉妹で繁殖させるわ
けにもいかず,毎夜激しく行動する
彼らの姿はあまりに不憫…。彼らの
郷里へ放ちに行った。翌日,寂しく
なったテラスで山椒の葉を黙々と食
すアゲハの幼虫を発見。愛すべき虫
たちの季節・夏に乾杯!(木ッコロ)
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森林技術 No.797 2008.8
(Tel 03-3261-5414)
森 林 技 術 第 797 号 平成 20 年 8 月 10 日 発行
編集発行人 葊 居 忠 量 印刷所 株式会社 太平社
発行所 社団法人 日本森林技術協会 ○ http://www.jafta.or.jp
〒 102-0085 TEL 03 (3261) 5 2 8 1(代)
東京都千代田区六番町 7 FAX 03 (3261) 5 3 9 3(代)
三菱東京 UFJ 銀行 麹町中央支店 普通預金 0067442 振替 00130-8-60448 番
SHINRIN
GIJUTSU
JAPAN FOREST
published
by
TECHNOLOGY
TOKYO
ASSOCIATION
JAPAN
〔普通会費 3,500 円・学生会費 2,500 円・法人会費 6,000 円〕
日本森林技術協会編
東京書籍発行
思議
森林の 100不
101のヒント シリーズ
●森林の 1 00不思議( 1 988)
:知っていますか?森と木の科学を。ミクロの世界から地球的
規模の話まで,おもしろくてためになる森林の秘密100。当たり前のこと,正しいと思っ
ていたことの意外な事実とは…。定価1,030円(本体981円)
:知っていますか?地球の生態系を形づくる森と水の働きを。
●森と水のサイエンス( 1 989)
地球の水の循環過程を追い,私たちの暮らしを支える貴重な水を貯留し浄化する森林のメカ
ニズムとは…。定価1,050円(本体1,000円)
:知っていますか?私たちの生活を豊かにする驚くべき土の働きを。
●土の 1 00不思議( 1 990)
私たちの生活に密着した働きとは?土を豊かにしている生き物とは?植物とのかかわりや土
の中で起こっていることとは…。定価1,050円(本体1,000円)
:知っていますか?自然界での虫の役割を。ほかの動物や気
●森の虫の 1 00不思議( 1 99 1 )
候風土などをも含めた複雑なシステムの下で,栄枯盛衰を繰り返す森の虫たちの姿とは…。
森の虫の小百科。定価1,223円(本体1,165円)
:知っていますか?もの言わぬはずの木や草が,ひそかに
●続・森林の 1 00不思議( 1 992)
ささやき合っている事実を。カビや細菌が果たす重要な役割とは?木材をはじめとする森林
の産物の意外な事実とは…。定価1,223円(本体1,165円)
:知っていますか?世界の森林が熱帯林を中心に減少し続け
●熱帯林の 1 00不思議( 1 993)
ている事実を。種の多様性とは?巨大な炭素の蓄積とは?構造や相互関係の複雑さなどの中
から読み取る熱帯林の秘密100。定価1,223円(本体1,165円)
:知っていますか?森に住む動物たちのさまざまな暮らし
●森の動物の 1 00不思議( 1 994)
ぶりを。森の恵みを受け,森の世代交代を手伝いながら生きている森の動物たちのオモシロ
生態や行動の意味とは…。定価1,223円(本体1,165円)
:知っていますか?自然に優しく暮らしに役立つ身近にある木材
●木の 1 00不思議( 1 995)
の豊かな世界を。森の中で自然環境を保ってきた木は木材となって役に立ち,やがて土にか
えり,そして何度も生まれかわる木(材)の姿とは…。定価1,223円(本体1,165円)
:知っていますか?ナンジャモンジャの木の正体を。奇想天
●森の木の 1 00不思議( 1 996)
外という名の木もある文字どおり不思議に満ちた樹木のあれこれ。そのしたたかな暮らしぶ
りとは…。定価1,223円(本体1,165円)
:知っていますか?世界最大の生物はきのこの仲間というこ
●きのこの 1 00不思議( 1 997)
とを。健康によい成分をたくさん含むきのこ。命を奪うほどの猛毒を秘めているきのこ。森
の妖精と呼ぶにふさわしいきのことはいったい…。定価1,260円(本体1,200円)
:知っていますか?木の身長・胸囲の測り方を。森にはいろ
●森を調べる50の方法( 1 998)
いろな顔があります。森をもっとよく知り,もっと楽しむための,わかりやすい森の調べ方
教室。定価1,365円(本体1,300円)
:知っていますか?大いなる出会いの不思議を。大気と大
●森林の環境 1 00不思議( 1 999)
地の接触面に森林は育ち,人間はそこから数え切れないほどの恩恵を受けてきました。四者
の出会いが織りなす世界とは…。定価1,365円(本体1,300円)
:日本人の心の故郷,里山。自然のなごり漂う生活の場,
●里山を考える 1 0 1 のヒント(2000)
里山が人々をひきつけ,見直されているのはなぜか…。里山を訪ね,里山に親しみ,里山を
考えるためのヒント集。定価1,470円(本体1,400円)
:知らないうちに地球に貢献。捨てる部分
●ウッディライフを楽しむ 1 0 1 のヒント(200 1 )
がない「木」
,変幻自在の「木」
,気候風土と一体の「木」
。木のある暮らしを楽しむための
絶好のヒント集。定価1,470円(本体1,400円)
:山歩きの楽しみ方は各人各様。もっと知りたい,自分な
●森に学ぶ 1 0 1 のヒント(2002)
りの発見をしたい。こうした楽しみに応えてくれるものを森林は持っているはずです。見え
るもの,聞こえるものを増やすためのヒントが満載。定価1,470円(本体1,400円)
:野生動物(哺乳類・両生類・は虫類)の暮らしぶり,
●森の野生動物に学ぶ 1 0 1 のヒント(2003)
生態系を乱す外来種の問題など,森の動物たちの世界に注目。動物たちに学び親しむための
新たなヒント集。定価1,470円(本体1,400円)
:私たちにとってとても近い存在なのに,あまり
●森の野鳥を楽しむ 1 0 1 のヒント(2004)
注意して見られない野鳥たち。でもそこには息を呑むような彼らの世界があるのです。本書
をヒントに鳥と遊んでみませんか。定価1,470円(本体1,400円)
:森林にかかわる人々が,
その仕事や研究成果の一部
●森の花を楽しむ 1 0 1 のヒント(2005)
をわかりやすく説明するとともに,
花との出会いの中で得られたさまざまなエピソードや花
への想いなども紹介。森の花を楽しむための絶好のヒント集。定価1,575円
(本体1,500円)
お求めは,お近くの書店または
直接東京書籍(鈎03-5390-7531)までどうぞ。
植栽後の獣害にお悩みの皆様へ!
齢木ネッ
幼齢
ょ か
トウモロコシからのプラスチック繊維を
使用しているため下記の効果が見込
めます。
1.1,000本でおよそ130kgの二酸
化炭素削減効果(石化製品で
ないため)
2.撤去の際の効率向上による
作業費の低減、期間の減少
(いずれ生分解するため)
静岡県での2003年施工地(本年3月撮影)、樹種ヒノキ
お問い合わせ
〒541-0042 大阪市中央区今橋2-2-17今川ビル
TEL06-6229-1600 FAX06-6229-1766
http://www.tokokosen.co.jp e-mail:[email protected]
*一部の部材は生分解性ではありません。
で
日 本 森 林
は
認証会議(SGEC)
技 術 協 会 『緑の循環』
の審査機関として認定され,
〈森林認証〉
〈分別・表示〉の審査業務を行っています。
『緑の循環』認証会議
Sustainable Green Ecosystem Council
日本森林技術協会は,
SGECの定める運営規程に基づき,
公正で中立
かつ透明性の高い審査を行うため,次の「認証業務体制」を整え,
全国
各地のSGEC認証をご検討されている皆様のご要望にお応えします。
【日本森林技術協会の認証業務体制】
1.学識経験者で構成する森林認証審査運営委員会による基本的事項の審議
2.森林認証審査判定委員会による個別の森林および分別・表示の認証の判定
3.有資格者の研修による審査員の養成と審査員の全国ネットワークの形成
4.森林認証審査室を設置し,地方事務所と連携をとりつつ全国展開を推進
日本森林技術協会システムによる認証審査等
事前診断
・基準・指標からみた当該森林の長所・短所を把握し,認証取得のために事前に整備すべき
事項を明らかにします。
・希望により実施します。
・円滑な認証取得の観点から,事前診断の実施をお勧めします。
認証審査
申請から認証に至る手順は次のようになっています。
<申請>→<契約>→<現地審査>→<報告書作成>→<森林認証審査判定委員会による認
証の判定>→<SGECへ報告>→<SGEC認証>→<認証書授与>
書類の確認,申請森林の管理状況の把握,利害関係者との面談等により審査を行います。
・現地審査
現地審査終了後,概ね 40 日以内に認証の可否を判定するよう努めます。
・結果の判定
認証の有効期間
管理審査
5年間です。更新審査を受けることにより認証の継続が行えます。
毎年1回の管理審査を受ける必要があります。
(内容は,1年間の事業の実施状況の把握と認証取得時に付された指摘事項の措置状況の確
認などです。
)
認証の種類
「森林認証」と「分別・表示」の2つがあります。
持続可能な森林経営を行っている森林を認証します。
1 .森林認証
・認証のタイプ 多様な所有・管理形態に柔軟に対応するため,次の認証タイプに区分して実施します。
①単独認証(一人の所有者,自己の所有する森林を対象)
②共同認証(区域共同タイプ:一定の区域の森林を対象)
(属人共同タイプ:複数の所有者,自己の所有する森林を対象)
③森林管理者認証(複数の所有者から管理委託を受けた者,委託を受けた森林)
・審査内容
SGECの定める指標(36 指標)ごとに,指標の事項を満たしているかを評価します。
満たしていない場合は,「懸念」
「弱点」「欠陥」の指摘事項を付すことがあります。
2 .分別・表示
・審査内容
認証林産物に非認証林産物が混入しない加工・流通システムを実践する事業体を認証します。
SGECの定める分別・表示システム運営規程に基づき,入荷から出荷にいたる各工程にお
ける認証林産物の,①保管・加工場所等の管理方法が適切か,②帳簿等によって適切に把握
されているか,を確認することです。
[諸審査費用の見積り] 「事前診断」
「認証審査」に要する費用をお見積りいたします。①森林の所在地(都道府県市町村名),
②対象となる森林面積,③まとまりの程度(およその団地数)を,森林認証審査室までお知らせ
ください。
[申 請 書 の 入 手 方 法 ] 「森林認証事前診断申請書」
「森林認証審査申請書」,SGEC認証林産物を取り扱う「認定事業体
登録申請書」などの申請書は,当協会ホームページからダウンロードしていただくか,または森
林認証審査室にお申し出ください。
◆ SGEC の審査に関するお問合せ先:
社団法人 日本森林技術協会 森林認証審査室
〒 102- 0085 東京都千代田区六番町 7 Tel 03 -3261-5516 Fax 03 -3261-5393
● 当協会ホームページでもご案内しています。
[http://www.jafta.or.jp]
平成 二 十 年 八 月 十 日 発 行
(毎月一回十日発行 )
昭和二十六年九 月 四 日 第三種郵便物認可
森 林 技 術
第七九七号
定 価 五三〇円
ニュース
登録更新の受付期間は昨年度と異なり、本年は6月1日∼8月31日です。
〒102-0085 東京都千代田区六番町7
(本体価格五〇五円(
) 会員の購読料は会費に含まれています)送料六八円
(複数部門を同時に更新する場合も手数料は同額の3, 000円です。
)