JIS認定工場でのスラグ品質管理 −相模原市南清掃工場の事例−

特集
環境装置②/エコスラグ
JIS認定工場でのスラグ品質管理
−相模原市南清掃工場の事例−
相模原市 環境経済局
資源循環部 南清掃工場
主査 増川 幸宏
できた。
1.はじめに
本稿では、施設の稼働状況とスラグの品質管理の取り
相模原市は首都圏南西部に位置する人口約72万人の
政令指定都市である。市内に2つの清掃工場を保有し、
年間に約20万tのごみを処理している。
組みについて報告する。
2.施設概要
南清掃工場は、2010(平成22)年3月に竣工した国
施設の外観を図1に、施設概要を表1に、施設フロー
内最大級の流動床式ガス化溶融施設で、資源循環型都市
を図2に示す。本施設で採用した流動床式ガス化溶融シ
を目指す本市の中核施設である。環境への負荷を最小限
ステムは、ごみをガス化炉で熱分解した後、溶融炉で
に抑制すると共に、サーマルリサイクルとマテリアルリ
1,200℃以上で燃焼溶融することにより、灰分をスラグ
サイクルを積極的に推進している。本施設は、溶融スラ
として回収するシステムである。溶融炉はボイラ構造と
グ(以下、スラグ)のJIS認証を取得・維持する等、約4
し、積極的な熱回収を図っている。ボイラで発生する蒸
年間にわたり、スラグの品質管理と有効利用に取り組ん
気で蒸気タービン発電機により高効率発電を行い、抽気
図1 南清掃工場の外観
産業機械 '%&)#+
&*
した低圧蒸気は、隣接する温室・温水プール等に有効利
は、市内で発生するごみの約半分(年間約11万t)を処
用している。
理し、年間約6,500tのスラグを生産している。スラ
溶融炉で生成されたスラグは、冷却水で冷却固化され、
グの生成量はごみ処理量に対して約6%である。
破砕機、磨砕機、分級装置でJIS規格を満足する粒度に
また、ガス化炉から排出される不燃物から鉄、アル
調整し、出荷される。
ミを回収し、
全量を有価物として売却している。更に、
鉄、アルミを回収した後に残る不燃物は粉砕して溶融
3.稼働状況
炉に投入し、スラグ化している。
⑵ 熱利用及び発電実績
⑴ ごみ処理及びスラグ生産実績
本施設では、溶融処理に伴う熱利用の高効率化を図
ごみ処理量とスラグ生産量を図3に示す。本施設で
表1 施設概要
施設規模
525t/日(175t/日×3炉)
炉形式
流動床式ガス化溶融炉
燃焼ガス冷却設備
廃熱ボイラ
(400℃×4.0MPa)
排ガス処理設備
バグフィルタ・排ガス洗浄装置・脱硝反応塔
発電設備
2段抽気復水タービン
(最大10,000kW)
スラグ処理
破砕・摩砕・分級処理
排ガス基準
窒素酸化物 : 30ppm
(乾きガス、酸素濃度12%換算) 硫黄酸化物 : 10ppm
一酸化炭素 : 30ppm
塩化水素 : 10ppm
ばいじん : 0.005g/m³N
ダイオキシン類 : 0.05ng-TEQ/m³N
電力
蒸気タービン発電機
サーマル
リサイクル
余熱
利用施設
二次空気用
空気予熱器 二次送風機
脱気器
タービン
排気復水器
復水タンク
ごみクレーン
投入ホッパ
*3
給じん
コンベヤ
流動ガス化炉
燃焼溶融炉
脱硝反応塔
減温塔
誘引
送風機
消石灰
煙突
バグ
フィルタ
エコノマイザ
蒸気式ガス
再加熱器
ごみクレーン操作室
押込空気用 押込
空気予熱器 送風機
ボイラ二次燃焼室
冷却水
薬剤
アンモニア
*1
ごみ
破砕機
ごみ投入
ゲート
ごみダンピング
装置
給じん装置
排ガス洗浄装置
廃材用切断機
砂貯留槽
排水処理設備
ごみの流れ
ガスの流れ
スラグ冷却装置
下水道放流
不燃物
排出装置
砂分級
装置
空気の流れ
スラグの流れ
不燃物の流れ
アルミの流れ
砂循環
エレベータ
磁選機
飛灰処理装置
砂の流れ
鉄分の流れ
灰クレーン
スラグクレーン
灰積出ホッパ
スラグ積出ホッパ
蒸気の流れ
搬出
不適物積出
ホッパ
スラグ処理設備
アルミ選別機
*2
不燃物破砕機
金属圧縮機
アルミ
搬出
*3 *2
処理灰ピット
薬品の流れ
スラグピット
搬出
資源化物
貯留ヤード
図2 施設フロー
&+
>C9JHIG>6AB68=>C:GN'%&)#+
ごみピット
他所灰クレーン
細粒灰
ホッパ
灰の流れ
水・汚水の流れ
ごみ投入ステージ
鉄
他所灰
前処理 細粒灰 不適物 他所灰
*1 装置 ピット ピット 受入ピット
へ
搬出
資源化物
貯留ヤード
搬出
エアカーテン
ごみ計量装置
特集:環境装置②/エコスラグ
っている。約87%の高いボイラ効率に加え、2炉運
証(JIS A 5032 道路用溶融スラグFM-2.5)を取得し、
転時でも発電効率は約16%、発電と熱利用を合わせ
その後も認証を維持している。スラグの品質管理は、品
た熱効率は約20%を実現している。エネルギー使用
質管理責任者の選任から工場内規定に基づく製造管理、
量の削減にも取り組んでおり、都市ガス使用量は約
検査、出荷管理に至るまで多岐にわたるが、各管理項目
3.4m³/ごみtに抑えられている。
を定期的にレビューし、継続的な改善に努めている。
余 剰 電 力 は 売 電 し て お り、 平 成 24 年 度 は 約
以下では、本施設におけるスラグの品質管理の取組事
2,200MWhを売電し、約2億2千万円の売電収入が
例を紹介する。
得られている。原料であるごみにはバイオマスが約
⑴ 原料の管理
50%含まれており、2012(平成24)年12月には、
原料の管理では、廃棄物の組成を定期的に分析する
FIT制度における再生可能エネルギー発電施設に認定
と共に、溶融不適物の混入防止に取り組んでいる。本
された。
施設では、
自走式のごみ検査装置
(図4参照)
を導入し、
事業系ごみの搬入検査を強化することで、金属塊等の
4.スラグの品質管理
溶融不適物の混入を防止している。
本施設では、竣工時からスラグの品質管理に積極的に
また、溶融の安定化を図る上では、スラグの主成分
取り組んできた。2011(平成23)年1月には、製品と
である酸化カルシウムと二酸化ケイ素の重量比、即ち
しての安全性確保と有効利用を促進するために、JIS認
スラグ塩基度(CaO/SiO₂)の変動を極力抑えること
1,000
スラグ生産量
900
ごみ処理量
12,000
8,000
600
500
6,000
400
ごみ処理量
(t)
10,000
700
4,000
300
200
2,000
※10月は全休炉
H23年度
3月
1月
2月
11月
12月
9月
10月
7月
8月
6月
5月
4月
3月
1月
2月
11月
12月
9月
10月
7月
8月
6月
5月
4月
3月
1月
2月
11月
H22年度
12月
9月
10月
7月
8月
6月
0
5月
100
4月
スラグ生産量
(t)
800
0
H24年度
図3 ごみ処理量とスラグ生産量
図4 自走式ごみ検査装置
(呼称
「ファイナルキーパー」
)
産業機械 '%&)#+
&,
が重要である。本施設では、冬季にスラグ塩基度が上
理すると共に、冷却水pHを指標にアルカリ酸化物を
昇する傾向にあるため、副資材としてSi系の塩基度調
含む粉砕物が過剰に供給されないように管理してい
整剤を供給し、スラグ塩基度の変動を抑制している。
る。
⑷ 粒度管理
⑵ 溶融管理
一般廃棄物を原料とするスラグの安全性の評価では
スラグは破砕機、磨砕機で粒度調整され、分級装置
鉛の挙動が重要である。廃棄物中の鉛が溶融処理の過
(目開き4.75mmの振動ふるい)を通過したものだけ
程でスラグに移行するのを抑制するためには、炉内を
が製品となる。歩留まりを向上させるため、ふるい上
還元雰囲気で高温に保ち、鉛の揮散を促進させること
のスラグは再び破砕機に戻され、粒度調整するシステ
が有効である。本施設では溶融炉内を還元雰囲気に保
ムとなっている。スラグはふるいで目詰まりを起こし
ち、溶融温度が常に1,200℃以上になるように管理し
やすく、破砕機に戻されるスラグ量が多くなると、破
ている。
砕機で詰まりが発生したり、繰り返しの破砕によって
図5に飛灰とスラグの鉛含有量を示す。飛灰中の鉛
細粒分が増加する。このため、ふるい網を金属製から
含有量の増加に伴い、スラグ中の鉛含有量が増加傾向
ウレタン製に換えて、ふるいの目詰まりを抑制すると
にあるのは、原料である廃棄物の影響と考えられるが、
共に、破砕機、磨砕機の運転調整により、粒度を厳密
溶融炉内で鉛の揮散を促進させることで廃棄物中の鉛
に管理している。
の多くが飛灰に移行している。
図6はスラグの粒度分布であるが、適切な粒度管理
により安定した粒度のスラグが生産できている。
⑶ 冷却固化管理
スラグ冷却水は循環利用しているが、一部は定期的
⑸ ロット管理と検査
にブローし、水の入れ替えを行っている。しかし、ブ
本施設で生産するスラグは月別でロット管理してお
ロー量が減少したり、アルカリ酸化物を含む粉砕物(不
り、ロットごとにJIS規格(JIS A 5032)の全項目に
燃物から鉄・アルミを回収した後に粉砕したもの)の
ついて品質試験を実施している。スラグの採取は土日
溶融炉への供給量が過剰になると、冷却水pHが上昇
祝日を除いて毎日実施し、これらを混合して月別ロッ
する傾向にある。
トの試料としている。これまでに実施した品質試験の
スラグ中のアルカリ酸化物の割合が高くなるとスラ
結果は、有害物質の溶出量・含有量、粒度及び物理的
グの骨格が脆弱になり鉛の溶解リスクが高まることが
性質の全項目についてJIS規格を満足している。
1)
指摘されている 。本施設では、冷却水ブロー量を管
品質管理責任者は、工場内規定に基づいて品質管理
JIS A 5032 150mg/kg以下
スラグ中の鉛含有量
(mg/kg)
80
70
60
50
40
30
2,500
3,000
3,500
4,000
4,500
5,000
飛灰中の鉛含有量
(mg/kg)
図5 飛灰とスラグの鉛含有量
&-
>C9JHIG>6AB68=>C:GN'%&)#+
5,500
6,000
特集:環境装置②/エコスラグ
100
90
通過質量百分率
(%)
80
FM-2.5の粒度範囲
70
60
50
40
30
20
FM-2.5の粒度範囲
10
0
0.01
0.1
1
10
ふるい目の開き
(mm)
図6 スラグ粒度分布
が適切に行われ、かつ品質試験結果が品質規格に適合
管理については、溶融管理やロットごとの濃度測定等、
していること確認し、ロットごとにJIS規格への適合
これまで取り組んできた品質管理の手法が有効である。
性の承認と出荷の承認を行っている。なお、出荷に当
現在、スラグの放射性セシウム濃度は、国の再生利用基
たっては、ロットごとに品質試験成績書を作成し、出
準(100Bq/kg)を十分下回っており、市の公共工事で
荷票(JISマーク表示)に添付している。
アスファルト骨材として本格的に有効利用している。
5.有効利用と今後の課題
本施設は、竣工後約4年が経過し、スラグの品質管理
や有効利用についても一定の成果が得られている。今後
本施設のスラグを10%混合した再生密粒度アスファ
も継続的な品質改善に努めると共に、スラグの有効利用
ルトを使用して試験施工を複数実施し、施工性等が良好
を促進し、資源循環型都市の実現を目指していきたい2)。
であることを確認している。
一方、原子力発電所の事故で環境中に拡散した放射性
物質が原料である廃棄物に混入し、溶融処理に伴いスラ
グにも検出されたため、本施設では一時的にスラグの出
荷を見合わせていた。スラグ生産における放射性物質の
〈参考文献〉
釜田陽介他「溶融スラグのガラス骨格組成と鉛溶出挙動との関係(実
炉スラグによる検証)
」、第20回廃棄物資源循環学会研究発表会講演論
文集、2009年、pp.379-380
増川幸宏「相模原市におけるスラグの品質管理」
、
『環境浄化技術』
、
Vol.12、No.1、2013年、pp.62-66
産業機械 '%&)#+
&.