調 査 報 告 - 日本産業機械工業会

調 査 報 告
シカゴ
北米プラスチック機械産業の動向について(2)
前回に続き、フロリダ州オーランドで開催された北米最大のプラスチック関連産業展
NPE(The International Plastics Showcase)2015 で得られた知見を中心に北米プラ
スチック機械産業の動向について報告する。
1.NPE2018 に向けて
NPE2015 Daily News
NPE2015 はこれまでの歴史の中で最大の展示会となった。110 万平方フィートを超え
る展示スペースを 2,029 社・団体以上の出展者が使用し、来場者数も 65,810 人となり
前回 2012 年比+19%と大幅に増加した。来場者数に占める企業関係者数も 23,396 人で前
回比+22%と当該見本市のビジネス志向の高まりを示している。また、今回は国際色豊か
な展示会となった。出展社の 44%、来場者の 26%が米国外に国籍を持つ個人・法人等で
あった。出展者数の最も多い国は、中国で、台湾、カナダ、イタリア、ドイツ、インド、
トルコ、フランス、スイス、韓国と続いており、東アジアや西欧州からの参加が目立つ。
次回の NPE は、2018 年 5 月 7 日~11 日の 4 日間にわたり、再びオーランドで開催され
る予定である。
(出所:Plastics Industry Inc)
図1.NPE2015 国別出展者
2.シカゴとオーランドの比較
NPE2015 Daily News
NPE の主催者である SPI(Society of the Plastics Industry:米国プラスチック工
業協会)は、少なくとも 2024 年までの間、NPE をオーランドで開催することをコミッ
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調査報告 シカゴ
トしている。長い歴史を有する NPE は、2012 年に初めて開催地をオーランドに移すま
で、米国製造業の中心地のひとつであるシカゴで開催されていた。翌年(2013 年)に、
SPI は NPE 開催地をシカゴにもたらす可能性を議論するためにシカゴ市職員や労働組合
代表と会談したが、数ヶ月間の交渉は合意に至らなかった。SPI は、シカゴ・マコーミ
ックプレイスを利用コストがオーランド・オレンジカウンティコンベンションセンター
に比べ 20~25%高いと推定した。高額な出品料に加え、労働組合側に立った厳格な展示
場利用規則やレイバーチャージ(※筆者注:業者が指定となる場合が多く、料金高騰の
一因)は長年にわたって多くの出品者からの苦情につながっている。一方で、オーラン
ドで開催した NPE2012 に関して出品者から同様の苦情は無かった。
また、興味深いことに、NPE で展示される多数の大型機械・装置を動作させるために
必要な電力の安定供給が可能なキャパシティを有するコンベンションセンターは、米国
ではこの両展示会場のみである。オレンジカウンティコンベンションセンターは、オー
ランドに NPE2012 を誘致するために、400 万ドルを投じて電力システムを増強しており、
現地ユーティリティもインフラのアップグレードを行った。その結果、消費電力という
点においても、NPE2012 はオーランドで開催された展示会の中で最大のものであった。
さらに、NPE のゼネコン(会場内の移送や施工を一括に担う指定業者)である Freeman
(米大手展示会サービス会社)は、シカゴで労働組合に関する出品者からの苦情を受け
たにも関わらず、オーランドでは十分に熟練した経験豊富な地元作業員が揃っていない
と主張し、2012 年開催時は労働者をシカゴからオーランドに移動させており、この状
況は NPE2015 でも継続されている。NPE2015 は、ホテルや交通機関、レストラン、エン
ターテイメント等、様々な大きな経済効果をオーランドにもたらすことが期待されてお
り、その規模は約 1.51 億ドルと見込まれている。
3.プラスチック装置出荷統計(SPI)
米国プラスチック装置の出荷額は 2009 年から 2014 年にかけて毎年増加している。主
要装置(射出成形機、押出成形機、ブロー成形機)の 2014 年出荷額は対前年比で 7.6%
増加した。
SPI は会員の出荷データが米国統計局の設備投資動向に強い影響を及ぼすと考えてい
る。全体で見ると産業機械の設備投資は、2014 年に対前年比で 13%増加し、新規受注
台数も 30%増加した。
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調査報告 シカゴ
(出所:S
SPI)
図2 米国プラ スチック装
装置の出荷額
額推移
また、さらな
なるプラスチ
チック装置産
産業の推進を
を通じ、201
15 年の米国
国経済は成長
長し続
けることが期待
待されている
る。調査対象
象である SPI
I 会員企業の
の 90%以上
上が、2015 年の事
年
業環境
境は 2014 年よりも良い
年
いか又は同等
等であると予測してい
いる。エンド
ドユーザー需
需要は
さらに加速し、特に自動車
特
と医療が最 も強力に市
市場を牽引す
する役目とな
なると予想さ
されて
いる。
。2015 年の
の北米市場は
は世界最大の
のプラスチック機械で
であるべきだ
だと考える層
層も多
い。
4.世界経済の見通し
ズビスコ・タベナスキー
ー氏
HIS 社
社副社長(経
経済及びカン
ントリーリス
スク担当)
米国のメーカーや消費者
者は、少なく
くとも 2016 年の終わり頃まで、安
安価な石油の
の恩恵
を受け続けると見込まれる
る。石油価格 は 2015 年の
の後半から 2016
2
年の前
前半にかけて
てバレ
ル当たり約 40 ドルと底を打
打つまで減少
少が継続す
するだろう。その後、ゆ
ゆっくりと価
価格は
上昇し 2016 年末
末には 70 ドルまで回復
ド
復することが
が予想される
る。2015 年 1 月から始
始まっ
た未曾
曾有の石油
油価格の下落
落により、米 国の消費者
者は約 1,330 億ドルのガ
ガソリンコス
ストを
節約することができ、他分野
野に支出が移
移ることで
で米国経済全
全体に大きな
な利益をもた
たらし
ている。同期間
間中に約 3.4 兆ドルの富
富が産油国か
からオイル消
消費国に移動
動している。
。
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調査報告 シカゴ
120
(ドル/バレル)
110
100
90
80
59.26ドル
2015/5
70
60
47.60ドル
2015/1
50
40
2011/01 2011/07 2012/01 2012/07 2013/01 2013/07 2014/01 2014/07 2015/01
(出所:WTI)
図3.WTI 原油価格推移(月次)
現在の強い米ドルは、米国の経済成長を停滞させることに繋がる可能性があるが、そ
れにもかかわらず、米国経済は 2015 年に+3%、2016 年に+2.7%成長すると予想されて
いる。また、FRB(米国連邦準備制度)は、おそらく 2015 年 9 月頃にわずかに金利を引
き上げると予想されている。
米国では消費者の動向が、今後数年間の米国の経済成長の規模を決定する大きな要因
となっており、消費意欲の向上が賃金上昇や雇用増加に繋がっている。最近の統計では、
米雇用は月に 25~27 万人の規模で増加を続けている。長期的な経済の安定性に関して
は、最終的には既得権益の改革を通じた様々な物事を正常に対処することが出来るか否
かという意味で、政治家に依存している。
ユーロ圏と日本は、潜在的な経済成長において失われた十年に直面した「停滞した兄
弟」である。政府は、短期的な経済的課題とともに長期的な構造問題等の両方に対処し
なければならず、国は財政赤字削減戦略と景気刺激支出の両プログラムの間で揺れ動く
だろう。また、日本は、高齢化や人口減少の影響により、今後、年率約 1.5%といった
低い経済成長が長期的に続くと予想されている。
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新興国市場は、最終的には世界の支配的な経済力となり、中国は最終的には世界最大
の経済大国になるとの見方が優勢であるが、それにはまだ長い時間を有するだろう。一
方で、痛みを伴う構造改革の多くは、それらの新興国によって引き起こされ、またそれ
らの国・地域自身も改革が必要となる。
商品相場の急騰による恩恵を受けた新興国であったが、そのブームは終わった。大半
は 1990 年代後半から中国の需要の伸びに牽引されていたが、今やその成長は大幅に鈍
化している。決定的には、このコモディティブームがグローバル化と国際貿易推進を拡
大したが、2008 年の大不況以来、グローバル化は鈍化している。また、この状態が世
界経済にとって新たな正常となっている。これは、構造改革が遅れていた新興国におい
て、市場の脆弱性が高まる可能性がある。
中国は彼らの経済史の中で最も困難な政策的な舵取りを迫られる期間に入っている。
不動産バブルは特に住宅(ハウジング)で起きており、建物の過剰供給が、空室率の高
いビルティングや開発会社の破産を招いている。セメントや電気、建設機械の需要は減
少しており、特に建機の需要はいくつかの市場において年率 2~3 割のペースで減少し
ている。一方で、過剰な鉄鋼生産能力は、引き続き巨大な規模である。中国の経済成長
率は今後 7%を越えることは無く、
2015 年の成長率は約 6.5%に達する可能性があるも、
最終的には 5%の範囲で安定すると見込まれている。
それとは対照的に、インドはリバウンドの動きを示しており、今後長年にわたって最
も急速に成長する大規模な新興市場となることが期待されている。2015 年の成長率は、
すでに中国のそれよりも大きくなる可能性がある。ロシアとブラジルを見ると、今後 2
年間に不況に苦しむだろうと見られている。これらの国々は、コモディティブームの崩
壊によって市場が傷ついている。
5.エネルギー(NGL 及びオレフィン)とプラスチック産業
トニー・ポッター氏
ケミカルインサイト社副社長(アジア太平洋担当)
石油価格の変化はナフサからポリエチレンの製造コストにセント単位で敏感に反映
されている。イランとイラクは現在の価格下落分を相殺するために彼らが可能な限り多
くの石油を生産している。世界は石油輸出国機構(OPEC)に価格調整機能を依存するこ
とが少なくなっており、この動きは原油価格が低位安定することを示す。OPEC は人為
的に低コストの生産能力を調整することにより、原油価格を維持してきたが、今世界が
目の当たりにしている価格動向が実際の石油需給や真の石油市場価格を示している。
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主な天然ガス生産国は、過去数年の間、百万 BTU 当たり 10~15 ドル程度の価格優位
性を享受してきたが、現在そのアドバンテージは約 5 ドルまで減少した。この価格変化
の動きは米国のエチレン生産方法に影響を与えており、2000 年頃までは米国産エチレ
ンの原料の約 7 割は原油由来のナフサであったが、現在は約 75%が天然ガス由来のエ
タンである。ただし、天然ガスの生産調整が行われた場合、コスト優位性は再び多少増
加する可能性がある。
昨年、世界エチレン市場は約 1.37 億トンであり、その約 6 割がポリエチレンの生産
に用いられている。グローバルで見ると、エチレン生産の原料としてはナフサが約半分
を占めている。このように、すべての石油化学商品や熱可塑性樹脂の生産量や価格は、
今後数十年にわたり石油価格に接続されたままである。
今後 5 年間で、新たに約 3,200 万トンのエチレンの生産能力が増強される。その約 2
割がナフサベースで、残りがエタンベースとなる。中国は、内陸部の豊富な石炭を原料
に化学プラントを構築する興味深い例外である。主なプレイヤーは、過剰な石炭生産能
力を収益化したい鉱山会社である。世界のエチレン需要は年間 600 万トン増で推移して
おり、生産能力の増強は市場の需給バランスを踏まえて行う必要がある。2000 年から
2010 年の間、米国の化学業界の生産能力は現状維持若しくは減少したが、2020 年まで
の間にリバウンドする見込みである。中国の増産だけでは旺盛な世界需要には対応でき
ず、米国からの輸出により需要の伸びに対応することが可能である。
6.プラスチック産業の国際市場について
マイケル・テイラー氏
SPI 社シニアディレクター(国際情勢及び貿易担当)
プラスチック製造業は米国の製造業で第三番目の規模である。トップは石油系産業、次
に自動車製造業、4 番目に基礎化学品と続く。ユーザーは多種多様な業界であり、特に自動
車関係向けに供給することが多い。
プラスチックの米国内の消費動向を見ると、世界的な景気後退期に大幅に落ち込むもの
の 2009 年から 2013 年にかけて着実に回復を示しており、2013 年には史上最高となる 2,670
億ドルに到達した。また、プラスチック製品の輸出動向を見ると、2014 年には対前年比 3.4%
増の約 620 億ドルとなった。2013 年の貿易収支も 126 億円の黒字となっている。プラスチ
ック産業の成長要因は川下産業の力強い需要であり、自動車や建設、住宅、医療機器、包
装といった産業で高い水準で安定した需要が継続している。
また、材料に注目すると、エンジニアリングポリマー(プラスチック)ではポリアミド
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調査報告 シカゴ
(PA)やポリカーボネート(PC)が市場をリードしており、この領域の 25%が消費者向け
家電製品等による需要である。成長分野では、エマルジョンポリマー(アクリル、スチレ
ン、ラテックス)市場は、2013 年から 2018 年の年間複合成長率が 5.6%と著しい伸びを示
しており、同様にポリマーフォーム(ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン等)
市場も 2013 年から 2018 年にかけて年間複合成長率 7.7%と高い成長を示している。
7.展示会で注目を集めていた企業ブースについて
TECHMER PM 社(本社テネシー州クリントン)は、着色剤や添加剤の開発に強みを
有する機能性化学品メーカーである。同社製品は床材や自動車内装、オムツ、ガーデン
用ホース等幅広い分野に使われており、グローバル展開する競合他社に比べ事業規模は小
さいもののニッチな分野に特化している。
NPE2015 では、伝説的なレーシングカーとして名高い「シェルビー・コブラ」を 3D プ
リントで再現した。開発はオークリッジ国立研究所(ORNL)との共同プロジェクトで進め
ており、同社が開発した特殊配合の ABS カーボン材を用いて Cincinnati 社製の BAAM プ
リンタでボディやシャシーを印刷する仕組みである。NPE2015 の同社ブースは人だかりと
なっていた。同様に初のお披露目であったデトロイトオートショー(同年 1 月開催)でも
大きな反響があったとのことである。
同社のビジネスモデルとしては、車体メーカーが設計時に使用するクレイモデルの代替
利用を想定している。ボディは 6 つに分割することが可能で、各コンポーネントは 24 時間
で印刷ができる。組立加工や表面処理を施し、車は 6 週間程度で完成する。同社によれば
「採算面でも十分ペイできる範囲」とのことである。
(出所:TECHMER PM 社)
図4.シェルビー・コブラのボディを 3D プリンタで印刷
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