過疎地域における民間による廃校活用の用途多様性が地域に与える影響

平成 26 年度 社会工学類都市計画主専攻 卒業論文最終発表
2015.1.28
過疎地域における民間による廃校活用の用途多様性が地域に与える影響
ー栃木県那珂川町を対象としてー
理工学群社会工学類都市計画主専攻 4 年 201111230 小川恭平
指導教員 山本幸子
1. 序論
1.1
研究の背景・目的
数であり、民間参入の方法を検討したものは見当たらな
いという点で、本研究には新規性があると考えられる。
現在、全国的に少子化等で廃校が発生する中、図 1 に
示すとおり、建物が残存する廃校の内、約 7 割が活用さ
れ、廃校活用が進んでいる。その 6 割が行政による活用
だが、近年は民間や地域住民による活用も進められてい
る。民間が活用するメリットとして、自治体の財政運営
負担を軽減できること、多様な用途が可能になること等
があげられる。一方で、過疎地域の廃校活用に目を向け
ると、都市部ほど民間や地域住民による活用は進んでい
ない。その理由として、高齢化により担い手が不足して
いること、そのため民間による活用を促そうとするが、
地元企業は規模が小さい場合が多く廃校活用での事業拡
大は困難であること、また都市部の企業が全国数多くあ
る廃校の中から自分たちの地域の廃校を選ぶ可能性は低
いことがあげられる。地域を衰退から活性化に向かわせ
るためにも過疎地域ほど廃校活用の効果が期待されるた
め、これらの課題を解決し、民間に参入してもらうため
の方法を検討すること、民間活用の効果を検証すること
が課題だと考える。
その中で、栃木県那珂川町では活用されている 6 つの
廃校すべてが民間による開設・運営となっている。栃木
県内で廃校率が最も高く、過疎化の進行する地域だが、
民間参入による廃校活用の先進地として位置づけられる
と考え、那珂川町を対象とする。
以上より、本研究では那珂川町を対象に、民間による
参入プロセスを整理するとともに、民間活用による地域
への効果と地域住民の評価を明らかにすることを目的と
し、それらを基に民間参入を促す方法を考察する。
1.3 研究の構成
本研究は図 2 に示すとおり、全 7 章で構成され、3 章
で廃校プロセスの整理、4 章 5 章で運営主体へのヒアリ
ングをもとに活用方法とそれが地域内外に与える影響を
分析する。6 章では住民アンケートをもとに廃校活用の
評価を明らかにし、7 章で結論としてまとめる。
図 2 研究の構成
2.調査概要
関東地方で廃校率が最も高い栃木県を対象とし、その
中で最も廃校率※1 の高い 3 自治体(那珂川町、那須烏山
市、塩谷町)に対してヒアリング調査を行った。さらに
民間による活用が多い那珂川町の 6 つの民間運営主体に
対してヒアリング調査を行った。また、廃校活用に関す
る住民の意識を調査するためアンケート調査を行った。
※1 廃校率=廃校数/(廃校数+現学校数)
高校を除く
3.廃校活用プロセスの実態
3.1 廃校活用プロセスと活用数
図 1 廃校の活用割合と主体形態
1.2 既往研究
廃校に関する研究は、地域再生計画を活用した廃校校
舎の転用手続に関する研究(津野田ら 2008)等の統廃合
プロセスの整理を行っている研究、地域活性化をもたら
す廃校活用に関する研究(伊藤ら 2006)等の活用後の評
価に関する研究、過疎地における廃校施設の空間保持特
性とその評価に関する研究(中道ら 2006)等の改修内容
と空間構成に関する研究といった3つに分類でき、それ
ぞれ数多くの研究が蓄積されているが、過疎地域におけ
る民間活用の効果と課題に関して明らかにしたものは少
那珂川町では、行政内において民間や住民との窓口・
所有管理・活用方法の検討の 3 つの役割を一つの課で担
っている。(図 3)また、廃校数 24 校のうち、9 校が活用
され、学校としての活用を除き民間が 6 例を活用してい
る。(図 4)
図 3 那珂川町の廃校活用プロセス
4.3 コスト捻出方法・契約内容・参入メリット
図 4 活用数と用途
4. 民間主体による廃校活用事例の実態
4.1 廃校活用事例の概要
本研究で調査を実施した廃校活用 6 事例を図 5 に示す。
企業の運営主体は、グループホーム・小規模多機能ホー
ム等の介護福祉を行っている「えにし苑」、製材の工場と
して活用している「那珂川工場」、特産品開発のための「温
泉トラフグ養殖場」、NPO が運営主体の事例は、ハンディ
キャップを持った人の造形作品を展示している「もうひ
とつの美術館」
、都市と農村の体験交流・環境学習を行っ
ている「森の学校」、精神障害者の生活支援の場となって
いる「ノンフェール・くらねえ」である。
コスト捻出方法と契約内容、参入メリット、その共通
点を表 2 に示す。費用面での共通点として、企業の場合、
改修費設備費が高額で、賃借料は比較的高く設定されて
いるものの、費用は自社から負担でき、改修費設備費が
高額となっていることが挙げられる。一方で NPO の場合
は、改修設備投資はほとんど行っておらず、無償貸与や
安価な賃借料、また維持管理費は助成金や寄付金で負担
していることが挙げられる。参入メリットからは、企業
の共通点として、地域住民から親近感を得やすいこと、
初期投資の削減に繋がることが挙げられる。また、NPO は
共通点として、木造校舎の建築的魅力が挙げられる。
表 2 活用事例の参入メリットと費用
4.4 開設後の取組と住民の施設利用可否
図 5 廃校活用事例の配置と主な内容
4.2 運営主体の概要と参入プロセス
開設後の取組と住民の施設利用可否を表 3 に示す。開
設後の取組は主事業に加え、青字に特徴的な取組を示し
ている。福祉施設のみが用途外で施設を住民に開放して
いる。
表 3 開設後の取組と住民の施設利用可否
運営主体の概要、参入の経緯、参入プロセスを表 1 に
示す。運営主体となっている企業の場合は県内に本社が
あり、自治体の誘致もしくは公募をきっかけに参入して
いる。NPO は、2つが地元で活動したい団体と銀座に事
務局を置く団体で、活動拠点を探しており、自治体に直
接要望する形となっている。
表 1 運営主体の概要と参入プロセス
5.民間主体による廃校活用の地域への影響分析
1)製材工場
図 6 に製材工場の地域への影響と効果を示す。縦軸に
取組の施設内外の違い、敷地の地域利用、雇用、横軸に
取組、影響を与える相手、効果を示す。影響を与える相
手は町内を青、町外を緑、町内外を黄色で示す。製材工
場では、全国で行われている木の駅プロジェクトを実施
しており、住民が持ち込む間伐材を地域通貨と交換でき
るという仕組みで、町内の商店の利用を促している。ま
た、排熱を利用したマンゴー栽培、工場の見学や視察の
対応、積極的な地元雇用を行っている。それらの影響と
効果は、木の駅プロジェクトでの年間 1000 トンの廃材・
間伐材の集荷が森林整備に繋がることや提携店舗の売上
増加、特産品による町の広報効果が考えられる。製材工
場は町内を中心に影響を与えていることが分かる。
いることが分かる。
図 8 各事例の町内への影響
6.地域住民による民間主体の廃校活用の評価
図 6 製材工場の地域への影響
2)美術館
図 7 に美術館の地域への影響と効果を示す。美術館は
商店や町内各所に作品を展示するアートフォレスタとい
う展示会を企画し、施設外での取り組みを行っている。
また、普段は展示や WS、校庭の開放や地元雇用も行って
いる。特徴として、全国規模で影響を与えており、アー
トフォレスタによる経済効果や展示品を全国各所や外国
団体から取寄せていることによる広報効果が考えられる。
図 7 美術館の地域への影響と効果
図 8 に住民への影響、地域内外の団体・環境への影響
を分けて示し、6事例をまとめる。このように影響を与
える相手は用途ごとに異なり、福祉系は住民への影響が
強く、工場や美術館、養殖場は影響の範囲が広く、経済
効果や広報効果をもたらすと考えられる。数字は各影響
を与えている事例数を示す。全体で見ると、多様な用途
によりその影響は地域住民から外国団体にまでわたって
地域住民の廃校活用に対する意識を把握する目的でア
ンケート調査をし、633 通配布し 150 通の回答を得た(表
4)。回答者は高齢で、家族内に卒業生がいる方が多いこ
とも影響し、
「学校が残されて良かった」と感じるが 7 割
となった(図 9,10,11)。
活用方法に対してふさわしいかどうかの問いに対して
は、施設を利用したことがある人の方が、評価が高いこ
と、廃校活用前後の地域活力の変化の問いに対しては福
祉と地域産業である製材工場の用途について、活力向上
が認知されていることが明らかとなった(図 12,13)。
表 4 廃校活用に関するアンケート調査の概要
図 9 回答者の年齢
図 10 卒業生の有無
図 11 建物が残されたことに対する心境
図 12 利用の有無と活用方法の評価
図 14 民間参入を促す方法とその効果(考察)
参考文献
図 13 各事例の住民による地域活力への評価
7.結論
7.1 得られた知見
活用までのプロセスに関して、那珂川町では、窓口、
所有管理、検討の役割を一つの課が担当していること、
運営主体の規模に応じて賃借料を設定していること、自
治体が産業や地域の活性化を目指している企業を積極的
に誘致していることがわかった。民間活用事例の取組と
影響に関しては、養殖場や美術館の全国的に町の PR 効
果を見込める取組や福祉施設や製材工場の地元地域に直
接的な効果が見込める取組など、多様な用途により、そ
の影響は町内外に及んでいることが分かった。アンケー
ト結果からは、回答者は高齢で、家族内に卒業生がいる
方が多く、学校への思い入れが強いこと、住民が施設を
利用できることが活用方法の評価に影響していること、
住民は各事例が与える影響の大きさを必ずしも認知して
いるわけではないことがわかった。
7.2 考察
那珂川町では、行政が地域産業やニーズのある企業を
積極的に誘致したことや3つの役割を一つの課が担って
いることで NPO などの受け入れが柔軟に行えたことが考
えられ、これらによって民間参入が成功していると考え
られる。また、民間が参入し用途が多様になることで影
響は多岐に渡り、地域への活性化の効果が見込めると考
えられる。過疎地域では、住民の学校への思い入れも強
いため、地域との連携も重要であり、施設の一部を住民
に開放することで、その内容や影響を認知していない住
民の理解を得られ、地域との連携を円滑にし、それらが
活用の継続性に繋がると考えられる。(図 14)
1)文部科学省 余裕教室・廃校施設の有効利用(公立学校廃校
発生数、廃校の実態及び有効利用、未活用廃校施設(利用計画
無)の実態)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/yoyuu.htm
(2014.11.17 最終閲覧)
2)文部科学省 : 「廃校施設の実態及び有効活用状況等調査研
究委員会報告書」及び「廃校リニューアル 50 選」, 2003.4
3)文部科学省 : 公立学校施設整備補助金等に係る財産処分手
続の概要, 2008.6
4)財団法人都市農山漁村交流活性化機構 : 平成 20 年度廃校
活用アンケート調査結果報告書, 2009.3
5)荒木将之, 小川遼, 大澤昭彦, 大野隆造 : 廃校施設の活用
に対する周辺住民の評価に関する研究, 日本建築学会学術講演
梗概集(東海), pp.520-521, 2012.9
6)吉元佑太, 鈴木健二 : 廃校から高齢者施設への転用に建築
基準法が及ぼす影響, 日本建築学術講演梗概集(東北), pp.583584, 2009.8
7)波出石誠, 福代和宏 : 中国地方における廃校のビジネス活
用に関する事例研究, 日本建築学会技術報告集, 第 18 巻, 第 40
号, pp.1061-1065, 2012.10
8)能勢温 : 京都市における廃校小学校跡地利用計画策定プロ
セスに関する研究, 日本建築学会計画系論文集, 第 73 巻, 第
626 号 pp.913-918, 2008.4
9)齋藤直子 : 公立小中学校の統廃合プロセスと廃校舎利活用
に関する研究-茨城県過去 30 年間前廃校事例の実態把握と農
山村地域への影響-, 日本建築学会計画系論文集, 第 73 巻, 第
627 号, pp.1001-1006, 2008.5
10)波出石誠, 福代和宏 : 中国地方における廃校ビジネス活用
に関する事例研究, 日本建築学会技術報告集, 第 18 巻, 第 40
号, pp.1061-1065, 2012.10
11)日刊木材新聞 : pp.3-4 2014.10.8
12)総務省 : 地方財政状況調査関係資料平成 25 年度主要財
政指標一覧全市町村の主要財政指標(2015.1.16 最終閲覧)
13)那珂川町 HP : http://www.town.tochigi-nakagawa.lg.jp/
(2014.12.20 最終閲覧)
14)那須烏山市 HP :
http://www.city.nasukarasuyama.lg.jp/1.html (2015.1.22 最終閲
覧)
15)塩谷町 HP :
http://www.town.shioya.tochigi.jp/forms/top/top.aspx
(2015.1.22 最終閲覧)
16)株式会社夢創造 HP :
http://www.ganso-onsentorahugu.com/ (2015.1.19 最終閲覧)
17 ) 森 の 学 校 HP : http://www.morinogakkou.jp/index.html
(2015.1.19 最終閲覧)
18)もうひと つの美術館 HP : http://www.mobmuseum.org/
(2015.1.20 最終閲覧)