総 総力特集 あなたの事業所でも導入してみませんか? 機能向上に根拠のあるオリジナルレクリエーション 豊富なプログラムからセレクトする! 利用者の笑顔と元気を引き出すレクリエーション 社会福祉法人江寿会 アゼリーアネックス通所介護 生活相談員/介護副主任 加藤 翼 2010年4月1日に社会福祉法人江寿会アゼリー江戸川通所介護に準職員として入職。2012年に東京国際福祉専門学校を 卒業,介護福祉士の資格を取得し,4月1日付けで正社員として勤務。2013年10月28日にアゼリーアネックス通所介護へ異 動,生活相談員として現在に至る。認知症予防をコンセプトとしたレクリエーション,アクティビティの実践に力を入れて活動し ている。日々の業務の中で素直・プラス発想・勉強好きを体現し,利用者だけでなくスタッフからも絶大なる信頼を得ている。 デイサービスの特徴 脳チャレ 当施設はスペインの城をイメージした造りとなっ 戦後生まれのいわゆる団塊の世代(1947〈昭和 ており,2007年3月にオープンしました(写真1) 。 22〉年~1949〈昭和24〉年生まれ)が65歳以上 デイサービスの1日の定員は50人で,午前中は入 となる2015年には,65歳以上人口が3,277万人, 浴と個別機能訓練や集団でのリハビリテーション 高齢化率26.0%,75歳以上人口が1,574万人,後 体操を中心に,午後は500種類を超える豊富なレ 期高齢化率12.5%となる見通しです1)。高齢化率 クリエーションを実施しています。500種類のレ が上昇することで,認知症高齢者の数も増加しま クリエーションを「運動系レク」 「手工芸系レク」 す。認知症高齢者の日常生活自立度Ⅱ(日常生活 「料理・喫茶系レク」 「頭脳系レク」などさまざま に支障を来すような症状,行動や意思疎通の困難 な系統にカテゴライズし,基本的には利用者に選 さが多少見られても,誰かが注意していれば自立 択してもらうようになっています。 できる)以上の人の数は,2010年には280万人 レクリエーションの効果として期待しているこ に上り,2015年には345万人,2025年には470 とは,楽しいだけでなく,脳と身体,心のリハビリ 万人になると言われています2)。 テーションになり,利用者の生活意欲向上につな 高齢になると,活動量が少なくなり,外出する がっていくことです。当施設では,脳のリハビリ 機会が減り,他者との交流が減ってしまうことで テーションを「脳チャレ」と名付け,認知症予防プ 閉じこもりがちになる,役割がなくなり,自信が ログラムに力を入れ施設全体で取り組んでいます。 持てなくなってうつ傾向になるなど,認知症にな るリスクが増えると考えられます。利用者から は, 「認知症にはなりたくない」 「忘れっぽくなっ てしまった。もしかして認知症かしら」といった 不安の声が多く聞かれます。 そういったことから,認知症にならないように 施設全体で認知症予防に取り組んでいこうと考え, 始めたのが「脳チャレ」です。脳チャレには,身体 写真1 スペインの城を イメージした造りの 当施設 18 通所介護&リハ 2014 vol.12_no.5 を動かして脳を刺激する体操や運動などのリハビリ テーション系から,歌や手工芸,料理などのレクリ エーション,アクティビティ系があり,認知症予防に 効果があると言われているものを実践しています。 写真2【運動系レク】玉入れ チーム戦では利用 者間で一体感が高 まります。 本稿では,その中から代表例を紹介します。 写真3【手工芸系レク】きんちゃく作り 手先を細かく動かします。 ▪レクリエーションの系列 ■運動系レク 運動系レクでは,ボーリング,ダンス,輪投げ, 紙テープを使用した綱引き,風船バレー,セラバ ンド体操など,身体を動かすレクリエーションを 実施しています。普段自分から動かない人が,運 動レクをすることで,車いすから立ち上がってボー ルを投げようとするなどの積極的な姿勢が見られ 完成したきんちゃくを持ってにっこり。 たり,チーム戦では利用者間で一体感が高まり, ら集中して取り組んでいます。お茶会などでは, 自然に会話が生まれたりしています(写真2) 。 落ち着いた雰囲気の中で利用者同士の会話が生ま 競争意識や目標を持つことで,積極性や意欲が芽 れ,子どものころの話や故郷の話などもされてお 生えると共に,達成感を味わうことができ,生き り,回想法の効果が期待できます。 がいにつながっています。 ■頭脳系レク ■手工芸系レク 頭脳系レクでは,言葉遊び,計算問題早解き, 手工芸系レクでは,動物のマスコットやお菓子 間違い探し,麻雀,塗り絵などを実施しています のキーホルダーなど,針と糸を使うものから,厚 (写真5) 。麻雀に参加する人の中には,職員が付 紙と千代紙で作るようじ入れ,折り紙,季節の風 き添わなければ,牌を正しく積んだり,捨てたり 物詩をモチーフとしたちぎり絵など,はさみや紙 することが難しい人もいましたが,回数を重ね, を使うものまで幅広く実施しています(写真3) 。 自分で考えることを繰り返すことによって,職員 こういったレクリエーションは,制作工程を考え が声を掛けなくてもできることが増えてきました。 ながら手先を動かすため,作業療法としての効果 このように頭脳系レクでは,自分で考えることに が得られ,楽しいだけでなく,脳へ刺激を与える よって脳の活性化につながっています。 ことができます。 ▪料理レクの紹介 ■料理・喫茶系レク ■「クッキングデイ~思ひ出料理教室~」とは 料理・喫茶系レクでは,料理教室やコーヒータ 利用者が講師となり,出身地の郷土料理を作り イム,お茶会などを開催しています(写真4) 。 ます。例えば,愛媛県出身の85歳の女性利用者が 料理教室では,女性を中心に,普段自宅で料理を 講師をした際には,愛媛県の郷土料理「いもたき鍋」 していない人が昔やっていたことを思い出しなが を作りました。江戸川区の皆さんにとっては初め 通所介護&リハ 2014 vol.12_no.5 19 写真4【料理・喫茶系レク】コーヒータイム おいしいコーヒーの 入れ方をプロから教 わります。 コーヒーショップに協力を依頼することもあります。 写真5【頭脳系レク】麻雀(左)と県庁所在地クイズ 牌を積みながら会話も弾みます。 皆さん頭をフル回転 させています。 写真6 講師を務める利用者 先の運動にもなる(写真7) 。 ③料理は多種類の工程や作業から構成されている ため,身体状況,能力に応じた役割分担が可能 で,全員が参加することができる。参加するこ とによって,役割が生まれ, 「できる」という 自信の回復につながる(写真8) 。 ④普段食事量の少ない人が,自分で料理をし,楽 しみながら食事をすることで,食事量の増加が ホワイトボードとマイクを 使って説明します。 て見る料理です。とても盛り上がった企画でした。 見られる(写真9) 。 ⑤利用者同士の会話が弾み,思い出話などをする ことで回想法の効果が期待できる(写真10) 。 ■目的と期待される効果 これらの効果により,生きがいづくり,役割づ レクリエーションの目的と期待される効果は, くり,認知症やうつ病の予防,利用者同士の交流 次のとおりです。 の発展を促しています。 ①利用者が講師となり役割を持つことで,その利 ■他でよくある類似レクとの違い 用者に生きがいが生まれる(写真6)。 ②料理をするということは,手順を考えながら進 20 当施設では,レクリエーションを始める前にレ クリエーションの目的と効果を話し,ただ料理す める必要があるため,脳の活性化につながり, るということだけでなく,認知症予防になるとい また包丁やすり鉢などの道具を使用するため手 うことを利用者自身に意識してもらっています。 通所介護&リハ 2014 vol.12_no.5 写真7 手先を使った細かい作業 写真8 身体状況,能力に応じた役割分担 脳の活性化につながります。 役割を持つことで,「できる」という 自信の回復につながります。 写真10 自分たちで作ったものを皆で囲む時間 写真9 笑顔いっぱいで ずんだ団子を食べる利用者 自 分 で 作 り, 皆で食べる団 子の味はひと 味違います。 思い出話などは回想法の 効果があります。 写真11 ずんだ団子とみたらし団子 これは「思ひ出料理教室」だけでなく,すべての レクリエーションにおいて実施前に目的と効果を 伝え,意識してもらっており,より効果のある活 動になるよう考え実践しています。 また,各地域の名物や郷土料理をメニューにし, その地域出身の利用者に講師になってもらってい ます。講師になった利用者には,生まれ故郷の話 ずんだあん(下)と みたらしのたれ(上) を好きに付けて食べ ます。 をしたり,郷土料理の作り方を説明したりするな ずんだもちを, もちではなく, 食べやすい団子で作っ どの役割を持ってもらいます。 たもの)とみたらし団子を紹介します(写真11) 。 さらに,音楽をかけ,料理や食事の雰囲気を演 必要な材料:白玉粉,木綿豆腐,枝豆,砂糖,水, 出し,利用者の気持ちを向けていく工夫も行って います。 しょうゆ,みりん,片栗粉 必要な用具:ガスコンロ,大鍋,小鍋,ボウル, ■必要な材料・用具 すりこぎ,穴あきお玉,れんげ,ビニール袋, 例として,ずんだ団子(東北地方の郷土料理の 調理用手袋 通所介護&リハ 2014 vol.12_no.5 21 写真12 作業を分担しながら皆で調理 それぞれが料理に参加しているという 意識が持てるよう,身体状況に合わせ て適切に作業を分担します。 ろみをつける。 〈団子の調理〉 ①ボールに白玉粉,豆腐を入れて,調理用手袋を はめてよくこねる。 ②団子をこね終わったら,テーブルの人数分に分 け,小さく丸める。 ③大鍋に水を入れ,火にかける。 ④水が沸騰したら,団子を入れ,浮かんできて少 ■レクの進め方・注意点 ・各テーブルに材料と用具を配置し,職員が1人 ずつ見守り役としてつく。火などを扱うため, 各テーブルに必ず1人は職員を配置し,注意して 見守る。 ししたら取り出す。 ・皿に団子,ずんだあん,みたらしのたれを盛り 付ける。 ・すべてのテーブルが完成したら,皆で食べる。 この際,職員は味の感想や利用者の出身地の郷 ・司会の合図で音楽を流す。 『キユーピー3分クッ 土料理などを聞き,話題を提供することで,利 キング』のテーマ曲などを使い,今から料理が 用者同士の交流を促したり,生まれ故郷のこと 始まるという意識を高める。 を思い出してもらったりする。 ・司会があいさつをし, 「思ひ出料理教室」の目 ・食べ終わったら,皆で後片付けをする。 的や効果,注意点を説明する。この際,長くな ■導入のポイント ると理解しづらくなるため,分かりやすい言葉 ①1グループ5~6人程度に分かれる を使い,できるだけ簡潔に伝える。 1テーブルの利用者を6人までとし,必ず職員 ・郷土料理の地域出身の利用者を前に呼ぶ。その を1人見守り役と手伝いとして配置します。7人 利用者にその地域の話をしてもらい,郷土料理 以上になると,何もしない利用者が出てしまった の作り方を説明してもらう。この際,作り方が り,見守りが行き届かなくなってしまったりする 分からない利用者もいるため,あらかじめ作り 危険があります。 方が書いてある用紙を渡しておき,それを見て ②グループ内が同じレベル(介護度や身体機能レ もらうようにする。作り方を知っている利用者 に関しては,用紙を使用しなくてもよい。 〈ずんだあんの調理〉 ベル)の人に偏らないよう配慮する 大規模のデイサービスでも,多くの利用者が参 加し,楽しんでもらうためには,グループ分けを ①枝豆をゆで,ゆでた枝豆の皮をむく。 適切に行うことが必要になってきます。片麻痺の ②むいた枝豆をビニール袋に入れ,すりこぎでつ ある人が集まりすぎてしまったり,認知症のある ぶす。 ③枝豆がつぶれたら,小鍋に入れ,水,砂糖を加 えて煮詰める。 〈みたらしのたれの調理〉 ①水,しょうゆ,みりん,砂糖を小鍋に入れ,火 にかける。 ②沸騰したら火を止め,水溶き片栗粉を入れてと 22 通所介護&リハ 2014 vol.12_no.5 人が集まりすぎてしまったりすることがないよう, バランスよく配置します。 ただその場にいるだけでは,レクリエーション による効果はほとんど得られないため,なるべく 多くの人に参加してもらえるよう,利用者の配置を 検討し,職員の声掛けを多くすることが大切です。 ③「季節感」を演出する ―――――まとめ――――― 旬の野菜を使用することで季節感を楽しむこと 「クッキングデイ~思ひ出料理教室~」は,「最 ができ,施設内で菜園などをやっていれば,その 近料理することはなくなったわ。もう作れないよ」 野菜を使用することで会話のきっかけにもなるた といった,自信をなくして自分ではできないと思 め,食材選びも重要なポイントになります。 い込んでしまっている利用者の声を聴き,料理を ④最後に「次の献立」の希望を聞く レクリエーションにできないかと思ったことが 次回に期待を持たせ,参加率を向上させるため, きっかけで始まりました。 料理を食べ終わった後に利用者に次回作りたい郷 初めは,職員が主体になって料理の説明をし, 土料理についてアンケートを取ります。このアン できないところや危ないところは職員がやってし ケートを参考に,なるべく全員が参加できそうな まい,利用者が受け身になっていました。そのた レベルの料理を選びます(難しすぎないもの) 。 め,利用者は達成感を得られず,ただ料理をして ■実施上のポイント いるだけのレクリエーションになってしまってい ①利用者の身体機能を考慮する ました。このままでは利用者の「できない」とい 片麻痺のある人でも料理に参加できるように, う思いは変えられないため,どうすれば利用者主 作業分担をしっかりと行います。例えば,枝豆を 体で役割を持ち取り組んでもらえるのか,どうす すりこぎでつぶす時に,枝豆の入った袋を押さえ れば利用者に生きがいを持って活動してもらえる るのは麻痺がない人に行ってもらい,麻痺のある のかを考えました。 人にはすりこぎでたたく作業をしてもらいます。団 そして,本稿で紹介したように,利用者主体で 子をこねる時などは,片手でも行えるように,ボウ 実践することによって,利用者からは「家では料 ルの下に滑り止めを敷くなどの配慮をしています。 理はしないのだけど,料理は得意なのよ」「私が このように,麻痺やしびれがあるなどの身体状 作ったの。食べてみて」 「こうやって混ぜるんだ 況にかかわらず,全員が同じように料理に参加し よ」など意欲的な声が聞かれるようになり,普段 ているという意識を持てるような工夫をします はおとなしい人が自発的に取り組むなどの変化が (写真12)。 見られました。 ②認知症を考慮する このように,利用者に役割を持ってもらうこと 認知症のある人に関しては,一つひとつの動作を で生きがいにつながり,生きがいがあるから意欲 安心して,かつ自分で行えるよう,職員は作業ごと 的になるといったプラスの循環が生まれるよう, に短い言葉で分かりやすく伝えます。認知症のある 介護職として利用者主体のサービスやレクリエー 人の中には,手順が分からないだけで,道具の使 ションを考えていくことが大切だと言えるのでは い方は分かるという人が多くいます。その場合は, ないでしょうか。 手順だけを分かりやすく伝え,調理はやってもら い,職員があまり手伝わないようにして,自分で料 理をしているという達成感を味わってもらいます。 理解が難しい利用者では,食材や用具に触れて もらったり,においをかいでもらったりして感覚 を刺激し,料理していることを少しでも意識でき るように配慮します。 引用・参考文献 1)厚生労働省:2015年の高齢者介護~高齢者の尊厳を支え るケアの確立に向けて,わが国の高齢者介護における2015 年の位置付け http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/kentou/15kourei/3a. html(2014年12月閲覧) 2)厚生労働省: 「認知症高齢者の日常生活自立度」Ⅱ以上の 高齢者数について http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002iau1att/2r9852000002iavi.pdf(2014年12月閲覧) 通所介護&リハ 2014 vol.12_no.5 23
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