歴史資料保全の国際化と歴史資料の 定義をめぐって考えたこと

東北大学東北アジア研究センター 上廣歴史資料学研究部門ニューズレター
第 3号
モンゴル・中国・朝鮮半島・日本を総合的に理解することを
目的とした地域研究を推進する研究所型組織です。その課
題のなかには、
「歴史認識」や
「災害と社会」などがあります。
こうした課題において、上廣部門の目的である歴史資料保
全の実践や歴史資料学の探求は重要な貢献となります。
東北アジア研究センターの同僚研究者として、そして副
センター長として上廣部門の活動をみてきて、今後重要に
なると思われる課題の一つは、歴史資料保全の国際化なの
でないかと考えています。すでに荒武賢一朗准教授らを中
心に欧米の大学で古文書学講座が開催されるなど萌芽的
歴史資料保全の国際化と歴史資料の
定義をめぐって考えたこと
取り組みが行われています。重要かと思われるのは、上廣
東北大学東北アジア研究センター副センター長 高倉
国家が公文書を保管する仕組みとは別に、研究者と地域社
部門がおこなう歴史資料保全の重要性を海外の関係研究
者・公文書館関係者らと共有する仕組みを作ることです。
浩樹
会
(さらにプラスα)が協働することで歴史資料を地域の
2012 年の設置以来、東北アジア研究センター上廣歴史
文化遺産として保存・活用していく重要性と可能性を、と
資料学研究部門
(以下、上廣部門)は多岐にわたる特徴的な
りわけ東北アジアの諸地域内の関係者、研究者を含めて協
活動を行ってきました。NPO 法人宮城歴史資料保全ネッ
議することが必要なのではないかと思います。
トワークとの連携のもとでの歴史資料保全活動、公開シン
狭義の歴史資料は古文書などに限定されますが、広義で
ポジウムや古文書講座、さらに展示などもおこなってきて
は例えば東日本大震災の関係文書や映像なども含まれま
います。またこの部門の教員は自らの専門分野の研究につ
す。この点で新しい歴史資料をどう定義し保全を考えるか
いても数多くの業績を発表しています。これらの活動がわ
も重要な課題となるでしょう。日本の歴史資料にこだわり
ずか 3 名の専任教員で運営されていることは驚きです。上
ながらも、従来の制度としての日本史を超える取り組みの
廣部門の教育研究活動・社会活動は、東北アジア研究セン
可能性がそこにはあるはずだと思います。本部門の平川新
ターの運営にとって、他にはない独自の組織として重要で
客員教授が所長を務めた東北大学災害科学国際研究所の
あり、また研究同僚という意味でも大変刺激的な研究者の
歴史資料保存研究分野の研究者らと連携しながら、これま
集団です。
まずはこの点を強調しておきたいと思います。
で以上に活発で刺激的な研究・実践を進めることを期待し
本センターは、文理連携・学際的な手法により、シベリア・
ています。
1
歴
史資料
保全活動
白石市渡辺家文書の整理と活用
2013 年 8 月から白石市教育委員会所蔵渡辺家文書の整理をおこなっています。渡
辺家は、江戸時代から呉服商や醤油・味噌の醸造などを営む白石でも有数の商家です。
部門と、東北大学大学院文学研究科の大学院生の皆さんが協力し、毎月 2 回程度の整
理作業を実施しています。この取り組みによって、全体の 3 割程度ですが現在までに
約 5500 点の文書目録ができました。
一般的には、1 点ずつの詳しい情報がある目録の完成によって研究は進められてい
きます。しかし、渡辺家文書は点数が多いので、途中でもある程度のまとまりができた
渡辺家文書 白石の名産品である和紙の取引に関する書状
段階で、調査メンバー、白石市教育委員会、そして白石市民の皆さんのあいだで情報を
共有していきたいと思っています。
そのなかで今年、白石市図書館が創立 100 周年を迎えられ、多くの記念イベントが
開催されました。私たち研究部門は、2014 年 8 月から 10 月にかけて合計 5 回実施さ
れた「初めての古文書講座」、そして 11 月 3 日の白石歴史おはなし会「商人の町白石と
江戸時代」にかかわり、地域の歴史資料を市民の皆さんに紹介することができました。
古文書講座では歴史やくずし字に関心を持っておられる受講者に基本的な読み方を
学んでいただき、おはなし会では渡辺家文書の調査メンバーから江戸時代の白石商人
の特徴についてお話しました。保全・調査、そして活用という流れで、渡辺家文書の世
界を広く皆さんに知っていただけるよう活動を続けていきたいと考えています。
(荒武賢一朗)
2014年11月3日 白石歴史おはなし会の会場(白石市図書館)
地域の宝物
¦利府町の事例から¦
利府町郷土資料館には「小野家文書」という 1000 点以上に及ぶ古文書が保管されて
います。2013 年から部門スタッフや研究者有志によって文書目録を作成し、その詳
しい内容が確認されました。小野家は江戸時代以前から塩竃神社の有力な神官で、屋
敷のある宮城郡加瀬村(現利府町)や周辺の村では領地を持っていたのです。この小野
家の古文書には、塩竃神社の儀礼や江戸時代の書籍、さらにはそれらを書き写した写
本などが数多く含まれ、地域の歴史を明らかにする手がかりが示されています。これ
まで利府町ではまとまった史料が発見されていませんでしたが、まさに地域の宝物と
呼ぶべき存在だと思います。
部門では利府町郷土資料館、公民館の皆さんと連携をしながら、
「歴史教室」
(2014
2014年10月16日 みやぎ県民大学の会場
(利府町生涯学習センター)
年 7 月〜 9 月、計 6 回)、
「みやぎ県民大学:江戸時代の宮城県を知ろう―仙台藩の歴史
と文化―」
(同 9 月〜 10 月、計 4 回)で、小野家文書の内容を中心に、町民の皆さんへ研
究成果を発信する機会を得ました。外部の先生方にも講師をお願いし、バラエティに
富んだ歴史講座を開催することができました。
また前年度に引き続き、郷土資料館ミニ企画展「利府の古文書が伝える江戸時代―
小野家文書の紹介Ⅱ―」
(2014 年 12 月〜 2015 年 2 月)で、地域の人々が歩んできた
歴史を振り返る展覧会をおこないました。講座、展示ともに、多数の方にご来場をいた
だき感謝を申し上げます。
(荒武賢一朗)
2
利府町郷土資料館ミニ企画展
ふみ
もり
史の杜
第3号
こん
一関市金家文書保全活動
2014 年 6 月 7・8 日、
9 月 5 〜 7 日、
11 月 23・24 日の 3 度にわたり、岩手県一関
市の金家で、歴史資料保全活動をおこないました。金家は古代以来の系譜を持ち、
江戸時代には磐井郡の広域行政を担う大肝入などを務めた旧家で、地域の発展に
重要な役割を果たしてきました。活動は NPO 法人宮城歴史資料保全ネットワー
ク(宮城資料ネット)が主体となり、2012 年から実施しています。
活動規模は毎回異なりますが、9 月の作業には宮城資料ネットと部門の高橋の
ほか、仙台市内や東京都内の研究者・学生、一関市の学芸員の方々など総勢 36 名
が参加し、古文書の撮影作業に従事しました。古文書には 17・18 世紀の土地台帳
や周辺の山林をめぐる争論に関わるものなど、地域の成り立ちや歩みがわかるも
金家(中央)
とその周辺
ののほか、掛け軸など美術的価値の高い作品も含まれています。貴重な古文書に
関しては、その場で即席の検討会もおこなわれました。実際に調査している史料
について参加者の間で語り合い、内容を知ることで、自らが手掛けている作業の
意義もより深く理解できたのではないかと思います。撮影コマ数は 3 日間で計約
1 万 8000 に上りました。
2015 年 6 月には、金家での保全活動の成果をわかりやすくお伝えするシンポ
ジウムを一関市で開催する予定です。皆様ぜひお越しください。
(高橋陽一)
古文書の検討会(2014年6月調査)
被災資料の修復活動
宮城資料ネットの古文書の修復作業には昨年に引き続き部門から友田が参加
しました。2014 年度は事務局が置かれる災害科学国際研究所の歴史資料保存研
究分野研究室が青葉山キャンパスに移転したことなどもあり、作業は大きな節目
を迎えましたが、被災史料のカルテ作成など新たな試みも取り入れつつ前進して
おります。今号は作業参加者の福田宏子さんの声をお届けします。
(友田昌宏)
史料保全活動と古文書との出会い
カルテ作成作業のようす
福田
宏子
知人から宮城資料ネットでボランティアしてみたら、とい
が他の文書とピタリ合った時には皆で歓声をあげてしまう
うことで何も予備知識のないまま事務局をお伺いしたのは、
ほどです。2013 年 10 月から上廣歴史資料学研究部門の友田
東日本大震災の年 2011 年 11 月末のことです。そこには被災
先生がこの作業をお手伝いしてくださることになりました。
した古文書が山積みにされていました。以来今日まで行った
友田先生の古文書に対する姿勢、情熱が私達を古文書の世界
作業は、クリーニングを始め写真撮影などさまざまです。こ
へ引き入れて下さったと思っております。昨年は友田先生の
のような史料保全作業を通じて東日本大震災が常識では考
古文書講座に参加させていただきました。時折その時代背景
えられないことだったのだと改めて痛感させられました。世
にも触れ、とても分かりやすく教えて下さいました。いまで
界にたった 1 枚しかない古文書を扱うということもあって、
は大の古文書ファンです。これからもどのような形であれ、
作業はとても神経を使い、かつその一つ一つはとても気の遠
史料保全をお手伝い出来ればと思っております。
くなる作業です。それだけに、普通なら断簡としてしまう物
3
講
演会
公開講演会
川崎のほこり~ふるさとの歴史と文化~
2014 年 7 月 5 日(土)、宮城県柴田郡川崎町の川崎町山村開発センター 3 階ホール
にて、公開講演会「川崎のほこり〜ふるさとの歴史と文化〜」を開催しました。
講演では、まず仙台市史編さん室長の菅野正道氏が「笹谷街道沿線の戦国志〜砂金
氏の動向を中心に〜」と題し、仙台と山形を結ぶ笹谷街道の要衝であった川崎と、戦国
いさご
時代にこの地域を治めた砂金氏との関係について講演しました。続いて、部門の高橋
が「江戸時代の青根温泉〜湯守佐藤仁右衛門家の古文書から〜」と題し、町内の青根温
に
え
もん
泉佐藤に仁右衛門家文書の解読の結果判明した、湯守(温泉管理人)佐藤家の交流関係
や飢饉時の同家の活動をもとに、江戸時代の温泉の成り立ちと展開について講演しま
した。佐藤家が温泉を積極的に活用して地域の活性化を図ろうとする動きは、高橋陽
前川本城見学会のようす
一著『湯けむり復興計画 江戸時代の飢饉を乗り越える』
(蕃山房、2014 年)の中で紹
介されています。お読みいただければ幸いです。
当日は時折小雨の舞う天候でしたが、約 200 名の来場者に恵まれました。また、会に
もとじろ
先立ち、学生を中心としたメンバーで砂金氏の居城であった前川本城の見学会をおこ
ないました。戦国期の城跡の壮観を実際に見学することで、講演内容の理解も深まっ
たように思います。講演会にお越し下さった皆様、準備に当たって下さった川崎町の
方々に厚く御礼申し上げます。 (高橋陽一)
講演会のようす
シンポジウム
東北の名所―松島・塩釜のあゆみ―
2014 年 9 月 20 日(土)、東北大学川内北キャンパスB 200 教室にて、シンポジウム「東北の名所―松島・塩釜のあゆみ―」
(交通史学会・
上廣部門共催)を開催しました。交通史学会が例年開催している秋のシンポジウムの企画・運営を、学会会員である部門の高橋が担当し
て実施したもので、学会との共催イベントという、部門初の事業でした。
シンポジウムの特色は、古代から現代に至る東北の名所の変遷を、1つの地域にスポットを当てて検証することにありました。対象と
したのは古くから東北有数の名所として知られた松島と塩釜で、以下の 4 つの報告により、名所の歴史的展開が何によっていかに規定さ
れるのかを検討しようと試みました。
七海雅人(東北学院大学文学部教授)
「中世の松島―雄島海底板碑群の紹介を中心に―」
高橋陽一(上廣部門助教)
「近世の松島と旅行者―名所雄島の石碑―」 徳竹剛(福島大学行政政策学類准教授)
「宮城電気鉄道(仙石線)の敷設と沿線地域」 安達宏昭(東北大学文学部教授)
「戦前・戦後の工業化構想と塩釜―港湾を中心に―」
学会のシンポジウムではありますが、会員以外にも公開し、当日は約 160 名の方々
にお越しいただきました。討論では様々な立場からご意見をいただいて、地域の皆様
の名所に関する疑問や思いを知ることができ、
有意義な時間を過ごせました。 (高橋陽一)
シンポジウムのようす
4
ふみ
もり
史の杜
第3号
公開シンポジウム
宮城発・自由民権運動再考
2014 年10 月26 日、東北大学片平キャンパスさくらホールにおいて公開シンポジ
ウム「宮城発・自由民権運動再考」を開催しました。同シンポジウムは宮城の自由民権
たくさぶろう
運動、さらには宮城出身で西多摩の五日市を拠点に活動した民権家千葉卓三郎や彼の
起草した「五日市憲法草案」について再考することを目的に企画されました。当日の参
加者は 60 〜 70 名ほど。演者・演題は以下のとおりです。
①千葉昌弘(北里大学元教授)
「宮城県の自由民権運動研究―その成果と課題―」
②新井勝紘(専修大学文学部教授)
「日本憲法史上における五日市憲法の意義」
③松崎稔(町田市立自由民権資料館学芸員)
「五日市学芸講談会と千葉卓三郎」
討論のようす
④後藤彰信(宮城県農業高等学校教諭)
「自由民権運動から初期社会主義へ―その接続の諸相―」
千葉氏は、宮城県の自由民権運動の現状と課題についてご自身の研究成果もふまえて論じました。新井氏は、昨今の改憲論議を念頭に
おきつつ「五日市憲法草案」の今日的意義を問い、明治 16(1883)年の『朝野新聞』の記事から仙台における盲人や女性による民権結社の
ごんぱち
動きを紹介しました。松崎氏は、千葉卓三郎が五日市の人々に求めた討論の在り方とは何だったのか、五日市の豪農深沢権八は千葉の意
を汲みいかに講談会を運営していこうとしたのかを明らかにしました。後藤氏は、社会主義の受容のされ方の変遷、初期社会主義者の世
代論を切り口に、宮城において自由民権運動の成果はいかに初期社会主義運動に受け継がれたのかを考察しました。
(友田昌宏)
講座:地域の歴史を学ぶ◎岩出山Ⅲ
城―その知られざる歴史―
2014年11月30日、
「講座:地域の歴史を学ぶ ◎岩出山Ⅲ 城―その知られざる歴史―」
を大崎市岩出山公民館(スコーレハウス)にて開催しました(主催:部門・岩出山古文書
を読む会、共催:大崎市岩出山公民館)。今回は昨年、一昨年と行われた岩出山での講座
を大幅に凌ぐ 270 名の方々にお越しいただき、テーマである城郭への関心の高さを
うかがわせました。演者・演題は次のとおりです。
①菅野正道(仙台市史編さん室長)
「戦国城館から近世城郭へ」
②佐藤公保(米沢市教育委員会教育管理部文化課文化財担当)
たてやま
「米沢舘山城―伊達と上杉の足跡が残る城―」
③菊地優子(元岩出山町史編さん専門員)
佐藤講演のようす
「岩出山城―城と町の変遷―」
菅野氏の講演は、中世から近世へ移行していくなかで城の役割がいかに変わっていったのかを時代の変遷とともに論じたもので、あ
とに続く菊地・佐藤講演への序章の役割を果たました。佐藤氏は、米沢舘山城が伊達氏の居城であるという説を文献から批判し、さらに
発掘調査の成果からその実態を解明し、伊達から上杉へと領主が変わるなかで城がいかに変貌を遂げていったのかを考察しました。菊
地氏は、現存する絵図を用いて、中世から近世にかけ、岩出山城が変貌を遂げ、町が整備されていった過程を明らかにしました。
(友田昌宏)
5
古
文書
講座
世界に広がる
「Kuzushiji」研究
私たちの部門では、学生や大学院生、そして社会人の皆さんと一緒に
古文書の解読について勉強しています。このような流れは日本国内だけ
でなく、海外でも大きくなりつつあるのです。古文書研究の国際化を目
指して、2013 年のドイツ・ハイデルベルク大学に続き、2014 年 6 月、
アメリカ・シカゴ大学で「Reading Kuzushiji Workshop(くずし字解読
ワークショップ)」を開催し、2015 年 3 月にはドイツ・ベルリン自由大学
で「日本―ドイツくずし字ワークショップ」をおこないました。海外在住
で日本の研究をされている皆さんのサポートをしながら、私たち自身も
レベルを高めていかなければと思います。
(荒武賢一朗)
シカゴ大学くずし字ワークショップに参加して
2015年3月 ドイツ・ベルリン自由大学のワークショップ
南カリフォルニア大学 ミッシェル・デミアン
(Michelle
Damian)
2014 年 6 月まで、くずし字に触れたことが全くありません
でき、そして新しい分野に挑戦することもできました。辞書
でした。日本中世史を研究していますが、今後自分の研究を
の引き方、字のくずし方、よく見る字の変形などの基本から
江戸時代までに広げていきたいので勉強してみたいと思い、
始まり、多様な史料の読解をすることができました。全くの
シカゴのワークショップに参加しました。参加して正解でし
初心者の私に対しても、先生が経験者と一緒に字の読み方に
た!参加者のくずし字に関する経験はそれぞれでしたが、荒
ついて議論をしてくださいました。今後また機会がありまし
武先生が各参加者の研究テーマに沿った史料を選んで下さ
たら是非参加させていただきたいと思います。
いました。そこで皆が自分の興味のある史料に触れることも
みちのくの文化を読み解く
~東北大学での古文書講座~
部門では 2014 年度も東北大学内で各種古文書講座を開講しました。学生向けの
「古文書を読む会」、上廣部門古文書講座、仙台市博物館と共催の「はじめての『くず
し字』―江戸時代の仙台を読む」です。テキストは戊辰戦争に関する錦絵や仙台藩
領の地誌、参詣往来の『塩釜詣』で、仙台を中心とする東北の文化を学びながら基本
的なくずし字の解読法の習得を目指しました。これからもバラエティに富んだ古
文書を取り上げ、楽しくスキルアップできるようにしていきたいと思います。 (高橋陽一)
古文書を読む会・感想文
上廣部門古文書講座のようす
東北大学大学院文学研究科博士前期課程 アリシャ・キャンベル
(Alesia
Campbell)
私が初めて「古文書を読む会」に参加したのは 2013 年の春
明してくださいます。授業ほどにペースは速くありません
で、その時、私は古文書を読み始めたばかりでした。私が受け
が、かわりに読んでいる字の一つ一つをしっかり確認できる
ていた授業に高橋先生が「古文書を読む会」についてのお知
ので、去年の私みたいに初めて古文書を読む人にとってとて
らせを配ってくださったことがきっかけでした。この会は名
も勉強しやすい雰囲気だと思います。そして、
「古文書を読む
前の通り、古文書を読むための会であり、毎回、配布されたテ
会」の全体の雰囲気は質問をしやすい雰囲気です。いつでも
キストを読むことが基本です。テキストを読みながら、先生
何についても質問をしたら、先生が丁寧に答えてくださるこ
がある部分のくずし字を確認してから、内容と時代背景を説
とはとても大事だと思います。
6
ふみ
もり
史の杜
第3号
「蔵の町」
で古文書を読む
~村田町古文書講座~
2014 年 8 月 7 日から 10 月 14 日まで、宮城県柴田郡
村田町の村田町中央公民館にて古文書講座を開催しま
した。村田町との共催で、講師を担当したのは部門の高
橋です。
「 昔の日本語を読みませんか?」をキャッチフ
レーズに、全 6 回にわたり仙台城下に関する地誌や、町
に残る古文書を解読し、地名や人名、頻出表現のくずし
字判読を目指しました。
村田町とは、2013 年 6 月に公開講演会「よみがえる村
田の歴史〜江戸時代からのメッセージ〜」を共同開催し
村田町古文書講座のようす
て以来、本格的に交流させていただくようになりまし
た。町内の蔵の町並みは、2014 年 9 月に県内で初めて国の重要伝統的建造物群保存地区に指定
されています。古文書講座は同年 2・3 月に続いての開講でしたが、自宅に古文書をお持ちの参
加者もおられ、皆さん熱心に取り組まれていました。歴史のある町で古文書を読む機会に恵ま
れ、
感慨深いものがありました。
これからも継続的につながりを持っていければと思います。
なお、講演会の記録は、高橋陽一・佐藤大介・小関悠一郎編『よみがえる江戸時代の村田—山田
家文書からのメッセージ』
として 2014 年 11 月に東北アジア研究センターから刊行されていま
古文書講座の案内
す。
(高橋陽一)
講座で解読した古文書が本に!
~岩出山古文書を読む会中級講座~
岩出山古文書を読む会の中級講座は 2014 年 1 月から友田が担当させてい
ただくことになりました。以来、受講生の皆さんと講読してきたのは、
「 奉宿
若御用留」という慶応 4 年(1868)の記録です。この史料は、代々岩出山伊達家
(仙台藩主の伊達家の一門)の家老を務めた吾妻家に伝わるものです。表題に
ある「奉宿若」とは仙台藩の奉行(家老)
・宿老・若年寄のことで、彼等から岩出
山伊達家の仙台屋敷への通達、および同家から仙台藩への伺がこの史料には
数多く収められており、戊辰戦争当時の仙台藩や岩出山伊達家の具体的な動
じ かた
向が克明にわかる好個の史料です。地方文書を中心に古文書を勉強されてき
た皆さんは、当初、この史料に躊躇されていたようですが、めきめきと上達し、
やがて内容がわかるようになると、その世界に引き込まれていきました。
皆さんとともに史料を読んできたその成果は、2014 年 12 月、友田昌宏・菊
地優子・高橋盛編著『岩出山伊達家の戊辰戦争―吾妻家文書「奉宿若御用留」
を読む―』
(東北アジア研究センター叢書第 53 号)として日の目を見ることに
なりました。刊行にあたっては、所蔵者である吾妻髙志氏・行雄氏(東北大学農
学部教授)に御快諾いただき、菊地優子(現会長)
・高橋盛(前会長、現顧問)両氏
をはじめ古文書の会の皆さんの御協力をたまわりました。この場を借りて厚
く御礼申し上げます。
(友田昌宏)
7
『岩出山伊達家の戊辰戦争―吾妻家文書「奉宿若御用留」
を読む』
上廣歴史資料学研究部門
4月
5月
6月
7月
8月
9月
2014年度の主な活動
10月
2日 あらぶる古文書会(於仙台市片平市民センター)
開講(前年度からの継続、隔週、通年)
7日 岩出山古文書を読む会中級講座開講(前年度から
の継続、隔週、通年)
17日∼19日
島根県石見銀山資料館古文書調査
23日 白石古文書サークル(於白石市中央公民館)
開講(前年度からの継続、月1回、通年)
24日 学生向け古文書を読む会(於東北大学川内北キャ
ンパス)開講(∼2015年1月)
11月
9日 上廣歴史資料学研究部門古文書講座(春季)
(於東北大学川内北キャンパス)開講(∼7月)
7日∼8日
一関市金家資料保全活動
16日∼20日
「Kuzushiji workshop2014 in U-Chicago」開講
(於シカゴ大学)
5日 公開講演会「川崎のほこり∼ふるさとの歴史と文化
∼」
(於川崎町山村開発センター)開催
5日・6日
共同研究第2 班「日本列島の文化交渉史―経済と
外交」会議(於東京・三井記念美術館)開催
22日 柴田町加藤家所蔵資料保全活動
26日・27日
共同研究第1 班「江戸時代から現代に通じる東北
の歴史」会議(於東北大学川北合同棟)開催
31日 高橋陽一著『湯けむり復興計画―江戸時代の飢饉
を乗り越える―(よみがえるふるさとの歴史4)
』
(発行:蕃山房、企画:NPO法人宮城歴史資料保
全ネットワーク)刊行
12月
4日 共同研究第4班「東北の自由民権運動」会議・報告
会(於東京・専修大学神田校舎)開催
7日 村田町古文書講座(於村田町中央公民館)開講
(∼10月)
23日・24日
共同研究第3 班「旅と交流にみる近世社会」報告会
(於和歌山市立博物館)開催
27日 「はじめての古文書講座
(夜の部)
」
(於白石市図書
館)開講(∼10月)
17日 上廣歴史資料学研究部門古文書講座(秋季)
(於東北大学川内北キャンパス)開講(∼12月)
26日 公開シンポジウム
「宮城発・自由民権運動再考」
(於東北大学片平キャンパスさくらホール)開催
3日 白石歴史おはなし会「
『商人の町』
白石と江戸時代」
(於白石市図書館)開催(主催:白石市図書館、後
援:東北アジア研究センター)
14日 友田昌宏・菊地優子・高橋盛編著『岩出山伊達家の
戊辰戦争―吾妻家文書「奉宿若御用留」
を読む―』
(東北アジア研究センター叢書第53 号)刊行。
15日・16日
共同研究第2 班「日本列島の文化交渉史―経済と
外交」会議(於東京・三井記念美術館)開催
23日・24日
一関市金家資料保全活動
28日 高橋陽一・佐藤大介・小関悠一郎編『よみがえる江
戸時代の村田―山田家文書からのメッセージ―』
(東北アジア研究センター報告第15 号)刊行。
30日 「講座
:地域の歴史を学ぶ ◎岩出山Ⅲ 城―その知
られざる歴史―」
( 於大崎市岩出山公民館)開催
(主催:部門・岩出山古文書を読む会、共催:大崎市
岩出山公民館)
17日 利府町郷土資料館ミニ企画展「利府の古文書が伝
える江戸時代―小野家文書の紹介Ⅱ―」開催
(∼2015年2月11日)
1月
9日 「はじめての
『くずし字』
―江戸時代の仙台を読む―」
(仙台市博物館市史編さん室と部門の共催)
開講
(全4 回、∼30日)
2月
7日 山形県立博物館平成26年度古文書講座「歴史講
演会」
(部門企画協力)開催
28日 共同研究第3班「旅と交流にみる近世社会」報告会
(於東北大学川内北キャンパス)開催
3月
5日∼7日
一関市金家資料保全活動
20日 交通史学会シンポジウム
「東北の名所―松島・塩釜
のあゆみ―」
(部門共催、於東北大学川内北キャン
パス)開催
2日∼6日
「日本―ドイツくずし字ワークショップ」
(主催:ベル
リン自由大学日本学研究所)
7 日 国際シンポジウム
「くずし字の学習と日本文化の理
解・研究」
(主催:ベルリン自由大学日本学研究所)
29日・30日
仙台市吾妻家資料保全活動
(於色麻町立色麻幼稚園)
異 動
第3号
発 行 日
2015年4月24日
編集・発行者
東北大学東北アジア研究センター上廣歴史資料学研究部門
ス タ ッ フ
客員教授:平川新 准教授:荒武賢一朗 助教:高橋陽一 友田昌宏
所 在 地
〒980-8576 宮城県仙台市青葉区川内 41番地
電話・ファックス 022-795-3196(荒武)/022-795-3140(高橋・友田)
URL
8
http://uehiro-tohoku.net/