平成 24 年 7 月九州北部豪雨災害調査

河川整備基金助成事業
「平成24年7月九州北部豪雨災害調査」
助 成 番 号 : 24-1251-001
( 公 益 社 団 法 人 ) 土 木 学 会 平 成 24年 九 州 北 部 豪 雨 災 害 調 査 団
/九州大学大学院工学研究院
団長
小松利光
平成24年度
様式6・2
1.調査・研究
助成番号
24-1251-001
[:概要版報告書]
所属・助成事業者氏名
助成事業名
平成 24 年 7 月九州北部豪雨災害調査
(公益社団法人)土木学会平成 24
年九州北部豪雨災害調査団・小松
利光
〔目 的〕
平成 24 年 7 月に九州北部を 2 度にわたり襲った豪雨災害は甚大な被害を熊本・大分・福岡・佐賀県域
を中心にもたらした.そこで,土木学会として調査団を組織し,広大な範囲で発生した各河川災害の基礎
調査とその発生機構の解明、ならびに今回の災害から得られた教訓を抽出することを試みた。
助 成 事 業 の 要 旨
〔内 容〕
申請者を団長として,その下に総括幹事(1 名)と各河川ごとの担当幹事(7 名)を配置,総勢約 30 名
の体制で調査団を組織した.主に,九州地区の大学研究者と民間企業で構成している.本助成事業による
調査地点は、熊本県:白川の氾濫、福岡県:矢部川、大分県:筑後川支川花月(かげつ)川、山国川、大野
川支川玉来(たまらい)川、などである。
〔結 果〕
本豪雨災害の特徴を以下に記す.
(1)圧倒的な降雨が短時間に集中した豪雨であり,洪水流量・水位の立ち上がりは極めて早かった.全
ての被災一級河川水系で既往最大もしくは観測史上 2~3 位の規模の出水が発生した.花月川では花月地
点の整備計画流量が 1,100 m3/s,計画高水流量が 1,200 m3/s,基本高水流量が 1,400 m3/s であるが,推
定された氾濫流量を含まない発生ピーク流量は 7 月 3 日が 1,300 m3/s,7 月 14 日が 1,400 m3/s となって
いた.その他,矢部川(船小屋),筑後川水系隈上川(西隈上),菊池川水系合志川(佐野),六角川水系牛津川(妙
見橋),大野川水系玉来川(拝田原)で計画高水位を超えていた.雨の降り方が変わってきており、従来の河
川計画論を根底から覆すような大災害であった.
(2)10 日間に 2 度の既往最大規模流量が発生した(山国川・花月川). 山国川と筑後川水系花月川では,
7 月 3 日に既往最大の出水が発生し大きな被害が出たが,その応急復旧作業や被災住宅などの後片付けが
終了した直後である 7 月 14 日に同規模の 2 度目の洪水が発生した.特に,花月川は 7 月 3 日に 2 カ所で
堤防の決壊が発生した.応急復旧が完了したのがそれぞれ 7 月 11 日 8:30 と 7 月 13 日 12:00 であり,直
後の7月14日7:30には既往最大水位に達したことを考えるとまさに綱渡りの状態であったことが分かる.
7 月 14 日に矢部川本川 7k300 右岸において約 50m 幅で堤防が決壊した.決壊メカニズムについての検証
を行った結果,計画高水位を長時間にわたり超えたことにより,基礎地盤内の砂層に水が浸透し,最終的
にパイピングが発生し決壊に至ったという結論が得られた.花月川については,7 月 3 日に国直轄区間の
5k800 左岸と 6k200 右岸の 2 カ所において決壊が発生した.現状では,水衝部に強い流れが当たり堤防
前面基礎部分に洗堀が生じ決壊に至ったと考えられている.矢部川支川の沖端川(福岡県管理)では,現状
では越水の発生により決壊したとみられている.
(3)山腹崩壊や河岸の侵食に伴い発生した多量の流木が,主に橋梁に集積することにより流下能力を低
下させ,氾濫を助長した箇所が多数の河川で見られた.玉来川の阿蔵新橋・玉来新橋,また花月川の夕田
橋,山国川の耶馬溪橋,矢部川上流の多くの橋等のように,水位の上昇に伴い橋桁ならびに橋脚に流木が
集積して洪水を堰上げし,その結果越水・氾濫して甚大な被害を堤内側にもたらした事例が数多く見られ
る.また固定堰や取水ダムなどの多くの河川横断構造物も洪水の流下阻害を引き起こしていた.
(4)阿蘇地域では圧倒的な降雨量のため崩壊土砂が土石流化した.また矢部川上流域では,大量の流木
が流出し,流木・土砂・水よりなる混相流の様相を呈し,破壊力を増して流下した.このような新しい現
象が見られ始めている.ただ今回の災害全般を通じて表層崩壊が主で深層崩壊はあまり見られなかった.
雨の降り方が短時間の集中豪雨型であったためと思われる.これらの崩壊により供給された土砂は河道に
残り、堆積して河床の上昇を引き起こしたため河床掘削が必要となっている(矢部川上流部等)
.
調査対象水系・河川
データベースに登録
するキーワード
筑後川水系,矢部川水系,山国川水系,大野川水系,白川水系
部門
調査部門
大分類
防災・地域連携
中分類
治水
小分類
国内水害調査
※データベースに登録するキーワードは、本冊子 P.41 の表から代表的なものを一つ記入して下さい。
-1-
様式6・3
1.調査・研究
助成番号
24-1251-001
助成事業名
平成 24 年 7 月九州北部豪雨災害調査
[:自己評価シート]
所属・助成事業者氏名
(公益社団法人)土木学会平成 24
年九州北部豪雨災害調査団・小松
利光
助 成 事 業 実 施 成 果 の 自 己 評 価
〔計画の妥当性〕
平成 24 年 7 月に九州北部を襲った集中豪雨は各地に大きな被害をもたらし,我が国の防災基盤はまだ
まだ脆弱であることを如実に示した.今回の災害に限らず,近年の災害で被災した住民が異口同音に口に
することは,
「こんな雨は初めてだった」
,
「水位の上昇が急でアッと言う間だった」であり,これまでの常
識や経験が全く役に立たないような大きな災害に近年見舞われるようになってきている.九州の広域にわ
たった大規模な災害であった.本事業では,熊本県:白川の氾濫、福岡県:矢部川、大分県:筑後川支川
花月(かげつ)川、山国川、大野川支川玉来(たまらい)川を対象として調査を実施したが,総勢約 30 名の体
制で調査団を組織したことで当初計画していた調査を遂行できた.従って, 本事業の計画は適切な体制及
び規模であったと考えられる.
〔当初目標の達成度〕
本事業の当初の目的である,後の既往最大規模の河川災害への対応についての提言を示すことで,調査
報告のみではなく,今後何をすべきか知恵を出して今回の災害を教訓としていける成果を上げることが出
来た.しかしながら,水位計が被災しデータが得られていなかったため,その後の検証が困難となった河
川もあった(玉来川)
.今後は独自に水位計を設置するなどして継続的に調査を実施していくとともに,河
川管理者に水位や映像のデータは,原因究明の際は航空機のフライトレコーダー,ボイスレコーダーに匹
敵するほど貴重なデータとなることを理解してもらい,担当部局の緊張感をもった対応をお願いしていく.
〔事業の効果〕
本字業によって得られた成果ならびに今回の水・土砂災害から我々が学ぶべき教訓をまとめて,報告書
を作成し,平成 25 年 3 月開催の土木学会西部支部研究発表会ならびに土木学会水工学講演会等で配布し
た.また,平成 25 年 5 月 10 日に土木工学会と地盤工学会の合同調査報告会を九州地区で開催し,一般市
民や行政関係者向けに知見を還元することになっている.今後,WEB 上で報告書の公開などを行うこと
で,アーカイブ化を実施していく.
〔河川管理者等との連携状況〕
調査を行うにあたり,国土交通省九州地方整備局と各河川事務所,各地方自治体,九州電力株式会社,
などの機関には資料提供,現地調査のサポートなど多くの面で協力頂いた.本事業により得られた成果は
今後の効果的な防災事業に視すると考えられる.今回の災害により得られた教訓を共有し,関係部署と連
携しながら,今後の防災対策に係わっていきたい.
-1-
1.はじめに
平 成 24年 (2012年 )7月 3日 、 な ら び に 11日 ~ 14日 に 九 州 北 部 を 2度 に わ た り 襲 っ た 梅 雨
前線性の豪雨は、特に後者において気象庁より国内で初めて「これまで経験したこと
のないような大雨」と表現され、甚大な河川災害を熊本・大分・福岡・佐賀県域を中
心 に 九 州 北 部 に も た ら し た 。被 災 し た 主 な 河 川 (水 系 )は 、矢 部 川 水 系 、筑 後 川 水 系 、山
国 川 水 系 、遠 賀 川 水 系 、白 川 水 系 、菊 池 川 水 系 、大 野 川 水 系 、六 角 川 水 系 の 一 級 河 川 8
水 系 の 本 川 ・ 支 川 で あ り 、 そ の 他 に も 例 え ば 福 岡 県 の 祓 (は ら い )川 な ど の 2級 河 川 に お
け る 被 災 も 見 ら れ る 。こ れ ら 河 川 の 流 域 で は 多 数 の 地 点 で 既 往 最 大 降 水 量 が 観 測 さ れ 、
そ れ に 伴 う 既 往 最 大 水 位 (流 量 )が 各 河 川 で 観 測 さ れ た 。 特 に 、 7月 14日 に 矢 部 川 本 川 で
は 越 流 し な か っ た に も か か わ ら ず 5時 間 以 上 氾 濫 危 険 水 位 以 上 の 状 態 が 続 い た た め 、パ
イピングにより堤防が決壊するという重大な事象が発生した。その他、矢部川の派川
で あ る 沖 端 川 (福 岡 県 管 理 )に お い て 2カ 所 、 筑 後 川 支 川 の 花 月 川 (国 直 轄 区 間 )に お い て
も 2カ 所 (7月 3日 )で 堤 防 の 決 壊 が 発 生 し た 。さ ら に 、山 国 川 と 筑 後 川 支 川 花 月 川 で は 、7
月 3日 豪 雨 で 氾 濫 し 、 そ の 応 急 復 旧 が 終 了 し た 直 後 の 7月 14日 に 再 度 続 け て 被 災 す る と
い う 地 域 住 民 に と っ て も 大 変 苦 し い 事 態 と な っ た 。ま た 、熊 本 県 の 阿 蘇 地 方 を 筆 頭 に 、
土砂災害も多数発生し物的・経済的損失に加えて、人的被害も多数出た。
そ こ で 、災 害 直 後 の 7月 17日 に 公 益 社 団 法 人 土 木 学 会 で は 水 工 学 委 員 会 を 中 心 に 災 害
調査団を組織することを決め、広大な範囲で発生した各河川災害の基礎調査とその発
生機構の解明、ならびに今回の災害から得られた教訓を抽出することを試みることに
し た 。重 点 的 な 調 査 地 点 は 、熊 本 県:白 川 の 氾 濫 、福 岡 県:遠 賀 川 、矢 部 川 、大 分 県 :
筑 後 川 支 川 花 月 (か げ つ )川 、 山 国 川 、大 野 川 支 川 玉 来 (た ま ら い )川 、佐 賀 県 : 六 角 川 支
川 牛 津 (う し づ )川 な ど で あ る 。ま た 、海 域 へ 流 出 し た 流 木 の 検 証 、人 的 被 害 の 要 因 分 析 、
九州電力管内の水力発電所の被災状況、復旧へ向けた取り組み、などについても併せ
て 調 査 を 行 っ た 。 な お 、 気 象 庁 に よ り 7月 11日 ~ 14日 に 発 生 し た 豪 雨 は 「 平 成 24年 7月
九 州 北 部 豪 雨 」 と 命 名 さ れ た が 、 本 調 査 団 で は 7月 3日 豪 雨 も 含 ん で 調 査 を 行 っ た 。 本
助成事業では、熊本県:白川の氾濫、福岡県:矢部川、大分県:筑後川支川花月川、
山国川、大野川支川玉来川の調査結果を報告する。
2.白川水系の豪雨災害
2.1
はじめに
気 象 庁 が 平 成 24年 7月 12日 6時 41分 に 熊 本 県 と 大 分 県 を 中 心 に 「 こ れ ま で に 経 験 し た
ことのないような大雨。この地域の方は厳重に警戒を」と発表した梅雨末期に見られ
る典型的豪雨は、未曾有の被害をもたらした。
白 川 水 系 の 降 雨 量 は 、阿 蘇 地 域 の 北 側 に 当 た る 阿 蘇 谷 の 観 測 地 点 の 坊 中 で 12日 午 前 6時
に 最 大 降 雨 強 度 124mm/hr、午 前 3時 ~ 6時 ま で の 3時 間 雨 量 315mm、累 加 雨 量 517mmを 示
し た 。 阿 蘇 地 域 の 南 側 に 当 た る 南 郷 谷 の 観 測 地 点 の 新 町 で は 、 午 前 4時 お よ び 午 前 7時
に 最 大 降 雨 強 度 60 mm/hr、 累 加 雨 量 253mmで あ っ た 。 本 豪 雨 は 既 往 の 白 川 水 害 に 較 べ
て短期集中型の降雨であることに特色がある。
国 土 交 通 省 九 州 地 方 整 備 局 に よ れ ば 坊 中 お よ び 平 真 城 に お け る 1時 間 雨 量 お よ び 3時
間雨量は観測史上第一位であった。このため、白川水系では各地で越流氾濫が生起す
ると共に、阿蘇地域の山間部では土砂崩れや土石流が発生し、熊本県に未曾有の被害
を も た ら し た 。熊 本 県 危 機 管 理 防 災 課 の ま と め( 8月 15日 付 61報 )に よ れ ば 人 的 被 害 は 、
阿 蘇 地 域 に お い て 死 者 23人 、行 方 不 明 者 2人 で あ り 、住 家 被 害 は 全 壊 209棟( 阿 蘇 市 (103
棟 )、南 阿 蘇 村 (9棟 )、熊 本 市 (85棟 ))、半 壊 1262棟( 阿 蘇 市 (1120棟 )、熊 本 市 (135棟 ))、
床 上 浸 水 523棟 、 床 下 浸 水 1579棟 で あ っ た 。 ま た 、 熊 本 県 の 被 害 総 額 は 8月 14日 付 け で
621億 円 、そ の う ち 農 林 水 産 業 関 係 374億 円 、公 共 土 木 施 設 175億 円 、商 工 観 光 施 設 等 48
億円に達した。
白 川 は 熊 本 県 の 中 央 部 に 位 置 し 、 図 2.1に 示 す 様 に そ の 源 を 熊 本 県 阿 蘇 郡 高 森 町 の 根
子 岳 ( 標 高 1、 433m ) に 発 し 、 阿 蘇 カ ル デ ラ の 南 側 の 南 郷 谷 を 流 下 し 、 同 じ く 阿 蘇 カ
ルデラの北側の阿蘇谷を流れる黒川と立野において合流した後、熊本平野を貫流して
有 明 海 に 注 ぐ 、幹 川 流 路 延 長 74km、流 域 面 積 480km2 の 一 級 河 川 で あ る 。そ の 流 域 は 、
熊本市、阿蘇市をはじめとする2市3町2村からなり、流域の土地利用は、山地等が
64.5%、 水 田 や 畑 地 等 の 農 地 が 28.0%、 宅 地 等 の 市 街 地 が 7.5%と な っ て い る 。 白 川 の 流
域 内 人 口 は 約 13.4 万 人 で あ り 、下 流 の 氾 濫 域 に は 九 州 第 3の 都 市 で あ り 平 成 24 年 4月 に
政令指定都市となった熊本市が存在する。本研究では白川水系における流量ハイドロ
グラフおよび阿蘇地域における降雨継続時間と水文統計量との関係について検討した。
30
大観峰
累加雨量(mm)
600
10分間雨量(mm)
517mm
500
25
湯ノ谷
坊中
阿蘇土木
一の宮
九木野
中松
新町
色見
黒川
黒川側
20
阿蘇五岳
白川側
15
253mm
白川
白川
300
坊中(累加雨量)
新町(累加雨量)
10
高千穂
20(km)
1
0
400
200
100
5
0
0
4
8
12
16
20
24
0
平成24年7月12日時刻(hr)
阿蘇地域における雨量時系列
図 2.1
白川の流域地形
図 2.2
流量(m /s)
水位(m)
2500
計測限界
黒川
中松
妙見橋
立野
陣内
子飼橋
代継橋
8
6
阿蘇地域の雨量ハイエトグ
3
熊本市竜田一丁目,
四丁目に避難指示
氾濫危険水位
5.0m(代継橋)
最大流量
3
(10:40,2311m3/s)
(7:58,2267m /s)
2000 計測限界
黒川第一発電所
白川(妙見橋)
白川(立野)
白川(陣内)
白川(世継橋)
(6:43,2010m3/s)
1500
4.35m(黒川)
4
最大流量
1000
(9:30,1126 m3/s)
計測限界
2
(7:27,840m3/s)
0
3:30
0
4
7:10
7:20
10:10
8:30
10:30
9:20
6:35
8
12
500
16
20
24
平成24年7月12日時刻(hr)
0
0
白川水系の水位時系列
図 2.3
白川水系の水位ハイドログラ
4
8
12
16
20
24
平成24年7月12日時刻(hr)
白川水系の流量時系列
図 2.4
白川水系の流量ハイドログラフ
流 域 地 形 は 、北 側 に 大 観 峰 (標 高 936m)、南 側 に 高 千 穂 野 (標 高 1、101m)を 主 峰 と す る
外 輪 山 が 分 水 嶺 と し て 阿 蘇 カ ル デ ラ を 囲 い 、 中 央 火 口 丘 に は 最 高 峰 の 高 岳 (1、 592.3m)
を 始 め と す る 中 岳 (1、506m)、根 子 岳 (1、408m)、烏 帽 子 岳 (1、337m)、杵 島 岳 (1、270m)
の阿蘇五岳そびえ立つという特徴を有している。白川上流部及び支川黒川は、ともに
火口丘を取り巻くように流れ、外輪山の唯一の切目である立野火口瀬において合流し
て西流する。白川中流部は、かつて形成した扇状地を段丘状の河谷となって蛇行しな
がら流下し、熊本市街地部を貫流する。白川下流部は、阿蘇火山噴出物の堆積により
天井川の河道形態を取り、殆ど流域を持たない。
2.2
雨量および流量時系列
図 2.2は 、7月 11日 に お け る 阿 蘇 地 域 の 10分 間 降 水 量 お よ び 累 積 降 水 量 の 時 系 列 を 示 す 。
阿蘇谷を流下する白川の支川である黒川側の降雨は、南郷谷の白川側に較べて累加雨
量 は 約 2倍 の 大 き さ で あ る こ と 、 阿 蘇 谷 で は 1時 ~ 8時 の 間 で 弱 い が 2山 に 近 い 波 形 と な
っ て い る こ と 、一 方 の 南 郷 谷 で は 2時 ~ 9時 の 間 で 明 瞭 な 2山 の 波 形 で あ る こ と 等 が 認 め
ら れ る 。図 2.3は 、白 川 水 系 の 水 位 時 系 列 を 示 す 。黒 川 の ピ ー ク 水 位 は 、7時 10分 で あ る
の に 対 し て 白 川 側 の 中 松 で は 7時 20分 で あ り 、水 位 に 関 し て は ピ ー ク 水 位 の 発 生 時 刻 が
近 い こ と が 分 か る 。 白 川 の 基 準 点 で あ る 代 継 橋 に お け る ピ ー ク 水 位 の 発 生 時 刻 は 10時
30分 で あ る こ と か ら 、黒 川 か ら 約 3時 間 20分 の 遅 れ で あ り 、既 往 の 遅 れ 時 間 に 近 い こ と
が 認 め ら れ た 。 な お 、 大 き な 被 害 が 発 生 し た 熊 本 市 北 区 龍 田 1丁 目 お よ び 4丁 目 に 対 す
る 避 難 指 示 が 発 令 さ れ た 時 刻 は 9時 20分 で あ る の に 対 し て 、代 継 橋 に お け る 氾 濫 危 険 水
位 を 超 え た の は 6時 35分 で あ る こ と か ら 避 難 指 示 は 大 幅 に 遅 れ た 。
さ ら に 、 黒 川 の 水 位 は 危 険 水 位 4.35mを 3時 30分 ~ 16時 の 間 で 超 え て お り 、 極 め て 長 時
間 に 亘 っ て 浸 水 し て い る こ と が 分 か る 。浸 水 面 積 お よ び 浸 水 量 に つ い て は 平 成 2年 の 浸
水と同程度である。
一 方 、 南 郷 谷 を 流 下 す る 白 川 の 中 松 で は 、 水 位 に つ い て は 1山 に 近 い 波 形 で 、 黒 川
に 較 べ て シ ャ ー プ な 形 状 で あ り 、 比 較 的 短 時 間 の 浸 水 で あ っ た 。 図 2.4は 、 阿 蘇 地 域 に
おける黒川末端の黒川第一発電所、白川末端に近い妙見橋および白川と黒川の合流点
下流の立野、陣内および基準点である代継橋において得られた流量時系列である。阿
蘇 地 域 に お い て は 黒 川 で の 最 大 流 量 が 1、126m3/s、白 川 の 妙 見 橋 地 点 で 840m3/s、代 継
橋 地 点 で 2、 311m3/sで あ り 河 道 の 疎 通 能 を 大 幅 に 超 え た 。
2.3
雨量の統計特性
図 2.5は 、 阿 蘇 地 域 の AMeDAS地 点 で あ る 阿 蘇 乙 姫 に お け る 年 最 大 日 雨 量 、 年 最 大 1
時 間 雨 量 お よ び 年 最 大 6時 間 雨 量 の 再 現 期 間 を 示 す 。統 計 解 析 で は 、財 団 法 人 国 土 技 術
研究センターで公開されている水文統計ユーティリティーを用いた。統計に用いたデ
ー タ は 、気 象 庁 ホ ー ム ペ ー ジ で 公 開 さ れ た 1978年 ~ 2011年 の 毎 正 時 の 時 間 雨 量 で あ る 。
比 較 的 適 合 度 の 高 い 指 数 分 布 (Exp)、 ガ ン ベ ル 分 布 (Gumbel)、 平 方 根 指 数 型 最 大 値 分 布
(SqrEt)、 一 般 化 極 値 分 布 (Eev)、 対 数 ピ ア ソ ン III型 分 布 (LogP3)、 3母 数 対 数 正 規 正 規 分
布 ( 岩 井 法 : Iwai) 、 3母 数 対 数 正 規 分 布 ( 石 原 ・ 高 瀬 法 : IshiTaka) 、 3母 数 対 数 正
規 分 布 ク ォ ン タ イ ル 法( Ln3Q)お よ び 3母 数 対 数 正 規 分 布 ス レ イ ド II法 (Ln3PM)の 9種 類
水 系:白川水系
河川名:黒川
地点名:阿蘇乙姫
水 系:白川水系
河川名:黒川
地点名:阿蘇乙姫
F(x)
水 系:白川水系
河川名:黒川
地点名:阿蘇乙姫
T(year)
T(year)
x(mm)
(a) 年最大日雨量
図 2.5
T(year)
F(x)
F(x)
x(mm)
x(mm)
(b) 年最大 1 時間雨量
(c) 年最大 6 時間雨量
黒川(阿蘇乙姫)における雨量確率年
の確率分布および母数推定を行った。確率分布の適合度評価基準である標準最小二乗
基 準 SLSC( Standard Least-Square Criterion)に よ れ ば 、SLSC<0.04( 相 関 係 数 COR>0.98)
の 条 件 を 満 足 す る 各 年 最 大 時 間 雨 量 の 確 率 分 布 は 、 一 般 極 値 分 布 で あ っ た 。 図 2.5か ら
阿 蘇 乙 姫 に お け る 平 成 24年 度 7月 12日 の 降 雨 の 再 現 期 間 は 、 最 大 日 雨 量 で 70年 、 最 大 1
時 間 雨 量 で 70年 、 最 大 6時 間 雨 量 130年 で
あることが分かる。
雨量 阿蘇乙姫
雨量 高森
関係を示す。再現期間は、一般極値分布
500
を基に評価した。なお、図中には阿蘇谷
(阿蘇乙姫)および南郷谷(高森)の累
加 雨 量 を 示 す 。 平 成 24年 7月 12の 降 水 量
は 阿 蘇 乙 姫 で 降 雨 継 続 時 間 が 約 6時 間 、
高 森 で は 6~ 8時 間 に お い て 再 現 期 間 が
ピークを示すことが分かる。また、黒川
120
100
400
80
300
60
200
40
100
0
20
0
5
側の阿蘇谷に降雨が集中し、南郷谷の白
川 側 で は 再 現 期 間 が 最 大 で 25年 で あ る 。
2.4
図 2.6
10
15
降雨継続時間 T(hr)
20
白川水系におけるこれまでの主要な
豪 雨 災 害 を 表 2.1に 示 す 。白 川 水 系 の 基 準
点である代継橋における流域平均雨量
は 、昭 和 28年 (1958年 )6月 26日 水 害 が 最 大
値 を 示 し 、平 成 24年 (2012年 )7月 12日 水 害
は 3番 目 で あ る 。 ま た 、 黒 川 末 端 に 位 置
する九州電力黒川第一発電所における
流 域 平 均 6時 間 雨 量 は 433.2mmを 示 し 、流
72.2mm/hrで あ っ た 。
25
0
降雨継続時間における再現期間およ
び最大雨量
白川水系の河川災害
域 面 積 188.6km2 に 対 し て 平 均 降 雨 強 度
140
確率年 阿蘇乙姫
確率年 高森
図 2.7
阿蘇・黒川の浸水被害
再現期間 (Year)
600
最大T時間雨量(mm)
図 2.6は 、降 雨 継 続 時 間 と 再 現 期 間 と の
表 2.1
洪水発生年月日
流域平均
2日間雨量
(代継橋上流)
(mm)
1953.6.25-28
1957.7.25-26
1963.8.16-18
1965.6.30-7.3
1980.8.29-31
1990.7.1-3
1997.7.6-7
2012.7.12
552.9
257.3
359.9
316.3
416.4
379.0
318.7
393.6
死者・行方
不明者数
(人)
白川水系の代表的河川災害
家屋(戸数)
浸水面積
流域平均6時間雨量
(黒川第一発電所)
全壊
半壊
床上
床下
(ha)
(mm)
422
83
0
0
1
14(流木災害)
0
25(土砂災害)
2585 6517 11440 19705 4352
348
8627
7308
860
1837
4
340
651
18
3540
3245
125
146
1614
2200
[2226]
261.9
0
0
68
664
176
1726
627
2354.1
433.2
[1197] [283] [2059.8]
[ 下]
川り
の15.8kmお
浸水
図 2.7は 、 黒 川 に お け る 浸 水 範 囲 を 示 す 。 黒 川 の 堤 防 決 壊 は 黒 川
流:端黒よ
よ び 20.6km上 流 位 置 の 左 岸 側 2地 点 で 発 生 し 、 そ の 堤 防 決 壊 延 長 は そ れ ぞ れ 30mお よ び
40mで あ り 、川 幅 は 約 40m程 度 で あ っ た 。ま た 、洪 水 痕 跡 か ら 黒 川 の 越 流 延 長 は 、右 岸
で L=19.25km、 左 岸 で L=15.7kmに 達 し 、 越 流 延 長 は 両 岸 で L=34.5kmに 達 し 、 堤 防 長 さ
55.85kmの 約 62% か ら 越 流 し た 。な お 、洪 水 痕 跡 か ら 特 に 大 き な 越 流 深 は 、左 岸 側 で は
下 流 端 か ら 3.6-4.0km地 点 で 1.4m、5.5-6.8km地 点 で 1-1.2mで あ っ た 。ま た 、浸 水 面 積 は 2、
059.8haに 及 び 平 成 2年 7月 2日 水 害 の 2、226ha1)と 同 レ ベ ル の 大 き さ で あ っ た 。黒 川 か ら
の氾濫は阿蘇地域に対して甚大な被害をもたらしたが、一方で黒川の氾濫によって白
川と黒川の合流点より下流ではピーク流量の低減、ピーク流量発生時刻の遅延により
熊 本 市 は 大 き な 人 的 被 害 を 免 れ た 。図 2.8は 、熊 本 市 で 特 に 被 害 の 大 き い 龍 田 1丁 目 お よ
び 龍 田 陳 内 4丁 目 に お け る 水 害 時 の 状 況 を 示 す 。 こ の 地 点 に お け る 河 道 の 疎 通 能 約
1500m3/sに 対 し て 、約 2300 m3/sの 濁 流 が 通 過 し 、特 に 龍 田 陳 内 4丁 目 で は 逃 げ 遅 れ た 住
民 は 、 県 警 、 自 衛 隊 、 消 防 団 に よ り ヘ リ コ プ タ ー で 32名 、 ゴ ム ボ ー ト に よ り 50名 が 救
出された。
(c)熊 本 市 北 区 龍 田 陳 内 4丁 目 被 災 状 況( 県
管理区間)
(d)熊 本 市 北 区 龍 田 1 丁 目 左 岸 か ら の 被 災
状況(県管理区間)
(b)熊 本 市 北 区 龍 田 陳 内 4丁 目 ヘ リ コ プ タ ー
による救出
(a)白 川 16k900地 点 (小 磧 橋 )付 近 の 被 災 状 況
(国直轄管理区間)
図 2.8
7月 12日 の 白 川 氾 濫 状 況
(国 土 交 通 省 提 供 )
図 2.9は 、 龍 田 陳 内 4丁 目 に お
け る 浸 水 深 を 示 す 。こ の 地 域 の
土 地 利 用 は 元 々 、水 田 や 畑 地 で
あ っ た が 1971年 5月 に 市 街 化 調
整区域から市街化区域への変
更 が あ り 、1973年 以 降 に リ バ ー
サ イ ド・ニ ュ ー タ ウ ン 計 画 が 持
ち 上 が り 、急 激 な 都 市 化 が 進 め
ら れ 現 在 に 至 っ て い る 。住 居 の
大 半 は 0.5m-1.0mの 範 囲 で 盛 土
熊 本 市 北 区 龍 田 陳 内 4丁 目 の 浸
水深コンター
さ れ た が 、濁 流 は 特 殊 堤 1.7mの
図 2.9
熊 本 市 北 区 龍 田 陳 内 4丁 目 の 浸 水 状 況
高 さ を 約 1.5m 乗 り 越 え 堤 内 地
は 川 の 一 部 と 化 し た 。さ ら に 、白 川 か ら 運 ば れ た 泥 土 が 龍 田 陳 内 4丁 目 を 埋 め 尽 く す と
と も に 、 水 衝 部 に 位 置 す る 2戸 の 住 居 が 流 木 に よ っ て 大 破 し た 。
2.5
防災管理体制と災害情報の伝達
今回の災害において、熊本市内の白川流域すべてに避難指示が発令されたのは平成
24年 7月 12日 の 午 前 9時 20分 で あ る 。 一 方 、 こ の 時 点 で は 、 龍 田 方 面 を 中 心 に 市 内 の 白
川上流域の河川近接地域では、甚大な浸水被害が既に発生しており、一部地域ではヘ
リコプターによる救出が必要な事態にまで至っていた。幸いにしていずれの地区にお
いても適切な避難誘導や救助活動等により、一人の犠牲者も出なかったものの、市の
避 難 発 令 の 遅 れ が 指 摘 さ れ て い る 。熊 本 市 で は 本 件 に 関 し て 、7月 26日 に 検 証 部 会 を 設
置し、災害当日、市の避難発令の判断がどのような状況下でどういう情報に基づき行
われていたか、関係機関や現場からの情報がどう処理されていたか、現場での避難誘
導や救助活動がどう行われていたかなどを中心に事実関係を整理し、問題点の有無に
関 す る 検 証 を 行 っ た 。 こ こ で は 8月 23日 に 提 出 さ れ た 検 証 部 会 報 告 書 の 要 約 を 行 う 。
2.5.1
災害当日の水防本部の体制
熊本市には危機管理事象に対応する部局として、総務局内に「危機管理防災総室」が
設 置 さ れ て お り 、通 常 時 は 危 機 管 理 監 1名 、危 機 管 理 防 災 総 室 長 1 名 の 元 に 、13名 の 職
員が配置されている。これらの通常態勢に加え、災害時には、熊本市地域防災計画に
おいて、それぞれの災害態様に応じた職員の参集体制が予め用意されている。大雨時
には気象庁から発表される注意報や警報に基づき、
注 意 報 発 令 態 勢 ( 3名 ) ; 警 報 待 機 態 勢 ( 45名 ) ; 警 報 発 令 態 勢 ( 98名 ) ;
待 機 配 備 態 勢 ( 182名 ) ; 1 号 配 備 態 勢 ( 241名 )
と い う 態 勢 強 化 の 流 れ と な る が 、 今 回 は 午 前 0時 30分 に ③ の 警 報 発 令 態 勢 、 午 前 4時 20
分 に ④ の 待 機 配 備 態 勢 、 7時 15分 に 最 高 ラ ン ク で あ る ⑤ の 1号 配 備 態 勢 が 取 ら れ た 。 ま
た 、 平 成 24年 4月 の 政 令 指 定 都 市 移 行 に 伴 い 、 新 設 さ れ た 5つ の 区 役 所 に つ い て は 、 こ
の 態 勢 の 下 で「 区 水 防 部 」が そ れ ぞ れ 設 置 さ れ る こ と と な っ て お り 、1号 配 備 態 勢 に お
い て は 区 ご と に 責 任 者 ・ 副 責 任 者 3名 の も と 、 10名 か ら 19名 の 職 員 が 参 集 し て い た 。
2.5.2 検 証 結 果 か ら 得 ら れ た 問 題 点 と 具 体 的 課 題
検 証 結 果 か ら 得 ら れ た 6つ の 問 題 点 と 8つ の 具 体 的 課 題 は 以 下 の と お り で あ る 。
① :情 報 収 集 の 問 題 点
市として必要な判断や対応を行うためには、できる限り正確な情報をどれだけ迅速
に収集できるかが大きな鍵となる。また、災害は、同時多発的に発生することや視界
の 効 か な い 夜 間 に 発 生 す る こ と も 少 な く な い 。今 回 の 検 証 で は 、こ の 情 報 収 集 に 関 し 、
以 下 の 2つ の 課 題 が 浮 か び 上 が っ た 。
課題1
水位情報を入手できない区間がある
課題2
水防本部で消防局や県との双方向の情報収集ができていない
②:情報共有の問題点
災害時には市役所本庁にある水防本部や災害対策本部だけで災害対策を実施するわ
けではない。災害による被害を最小化するために、災害対応を行う市役所のそれぞれ
の部署が必要な情報を共有することが非常に重要である。この情報共有について、以
下の課題が浮かび上がった。
課題3
消防局・消防団の現場情報が水防本部と共有されていない
③:情報伝達の問題点
検証の過程で、避難発令などの情報を如何にマスコミや市民に伝達するかについて
も議論が行われた。
課題4
マスコミ、市民への情報提供をもっと円滑化すべき
④:情報トリアージの問題点
災害時に収集される情報は正確なもの、そうでないもの、重要なものなど様々であ
る 。災 害 の 規 模 が 大 き く な れ ば な る ほ ど 、情 報 量 は 相 対 的 に 増 え る が 、情 報 を 処 理 し 、
判断できる量には限界がある。災害時の医療活動で使用される手法として、トリアー
ジがある。災害時の情報分析においても同様に、情報処理の優先度を選別する作業が
必要であるが、今回の災害時においては、以下の課題が指摘された。
課題5
重要な情報が避難発令を判断する職員に認識されていない
⑤:意思決定の問題点
必 要 な 情 報 が 収 集 ・共 有 さ れ 、 そ の 重 要 度 に 関 す る 選 別 が 適 切 に 行 わ れ た と し て も 、
意思決定を行うべき者のある種の「思い込み」によっては、重要な情報がそうでない
情報として扱われることで、誤った判断に導くこともある。災害がいつどんな体制の
もとに発生しても、適切な意思決定が可能となる仕組みづくりが必要である。今回の
検 証 で は 、 こ の 意 思 決 定 に 関 し 、 以 下 の 2つ の 課 題 が 浮 か び 上 が っ た 。
課題6
現場指揮・情報収集する場所と分析・判断する場所が同じ
課題7
現場で避難呼びかけ・誘導は行っているが、現場判断による避難発令には至
っていない
⑥:防災担当職員のスキルの問題点
水防本部等は、常設する組織ではなく、災害発生時に、危機管理防災総室を中心とし
て、当番制度により組織されるものであるため、従事する職員のスキルが一定レベル
以上確保されない場合や、地理・地形や危険箇所に関する知識が十分ではない場合が
ある。
課題8
当番体制や人事異動にかかわらず、同質同等の防災体制を確保する必要があ
る
2.5.3 市 が 講 ず る べ き 対 策 に 関 す る 勧 告
検 証 部 会 で は 、 1)市 が 単 独 で 対 応 可 能 な も の 、 2) 国 や 県 な ど の 関 係 機 関 と の 連 携 で
対 応 す べ き も の 、 3) 市 民 ・ マ ス コ ミ 等 と の 連 携 で 対 応 す べ き も の に 分 け て 、 勧 告 を 行
った。
1) 市 単 独 で の 対 応 が 可 能 な も の
a. 水 防 本 部 と 消 防 局 等 の 現 場 対 応 機 関 と の 情 報 共 有 体 制 の 強 化
b. 情 報 の ト リ ア ー ジ に 必 要 な 体 制 の 整 備
c. 冷 静 に 情 報 を 分 析 し 、 重 要 な 決 定 を 行 う こ と が で き る 環 境 の 確 保
d. 避 難 発 令 等 の 基 準 や 手 順 の 再 検 討 及 び 明 確 化
e. 適 切 な 情 報 処 理 や 判 断 を 行 う た め の 訓 練 の 実 施
2) 関 係 機 関 と の 連 携 で 対 応 す べ き も の
f. ホ ッ ト ラ イ ン の 整 備
g. 水 位 計 の 設 置 な ど 河 川 観 測 体 制 の 強 化
h. 災 害 時 に お け る 市 民 へ の 情 報 提 供 体 制 の 強 化
3) 市 民 ・ マ ス コ ミ 等 と の 連 携 で 対 応 す べ き も の
i.「 自 ら の 身 は 自 ら で 守 る 」 自 主 防 災 意 識 の 涵 養
減災の基本となる自助・共助・公助を有機的につなぐためには、産・学・公・市民等
の様々な主体が関わる必要がある。また、社会制度はいろいろな時点で個別に作られ
るのが常であり、そうした様々な社会制度は災害対応や危機対応という場面で複雑に
重なり合い、時に矛盾することも考えられる。それらをつないで整合的な社会制度と
す る こ と も 大 切 で あ る 。熊 本 市 に お か れ て は 、今 回 の 検 証・勧 告 に 限 ら ず 、こ れ ら「 自
助・共助・公助」の三位一体となった“つなぐしくみ作り”と機能発揮により、危機
的事象における被害を最小限にする体制づくりを着実に推進していくことを強く求め
たい。
2.6
土地の利用形態と河川災害
図 2.10は 、昭 和 48年 (1973年 )1月 31日 お よ び 平 成 12年 (2000年 )に お け る 航 空 写 真 を 示 す 。
昭 和 48年 の 航 空 写 真 は 米 軍 に よ る 昭 和 23年 2月 18日 の そ れ と 大 き な 違 い は 無 く 、水 田 ま
た は 畑 地 で あ り 、 顕 著 な 差 は 無 か っ た 。 一 方 、 平 成 20年 の 航 空 写 真 で は 土 地 利 用 が 一
変 し て お り 、 龍 田 1丁 目 お よ び 龍 田 陳 内 4丁 目 で は そ の 大 半 は 住 宅 地 に な っ て い る こ と
が分かる。
図 2.11は 航 空 写 真 か ら 読 み 取 ら れ た 住 宅 戸 数 の 経 年 変 化 を 示 す 。 昭 和 23年 に 龍 田 1丁
目 で は 16戸 、龍 田 陳 内 4丁 目 で 10戸 で あ っ た 家 屋 数 は 1970年 代 を 境 に 急 上 昇 し 、2000年
代 に は 龍 田 1丁 目 で は 347戸 、龍 田 陳 内 4丁 目 で 170戸 に ま で 達 し て い る 。こ の 間 に 、1980
年 8月 29日 お よ び 1990年 7月 1日 に 大 き な 水 害 を 受 け て い る が 住 宅 戸 数 に は 影 響 し て い
(b) 撮 影 : 2000 年
(a) 撮 影 : 1973.1.31
図 2.10
熊 本 市 北 区 龍 田 1丁 目 お よ び 龍 田 陳 内 4丁 目 の 航 空
ないことが認められる。
2.7
400
まとめ
気象庁が「これまでに経験したことのない
と発表した梅雨末期に見られる典型的豪雨は、
短時間集中型の豪雨で白川水系に未曾有の被
害をもたらした。本調査研究で得られた成果
は以下の通りである。
300
住宅戸数
ような大雨。この地域の方は厳重に警戒を」
200
姫 に お け る 平 成 24 年 度 7 月 12 日 の 降 雨 の 再 現
市街化区域
100
0
1) 降 水 量 の 再 現 期 間 は 、 SLSC<0.04で 適 合 性
の高い一般極値分布を基に評価した。阿蘇乙
龍田1丁目
龍田陣内4丁目
図 2.11
1950
1960
1970 1980 1990
年代 (year)
2000
2010
熊 本 市 北 区 龍 田 1丁 目 お よ び
龍 田 神 内 4丁 目
期 間 は 、 最 大 日 雨 量 で 60年 、 最 大 1時 間 雨 量 で 50年 、 最 大 6時 間 雨 量 で 130年 で あ っ た 。
降 雨 継 続 時 間 と 再 現 期 間 と の 関 係 か ら 降 水 量 は 阿 蘇 乙 姫 で 降 雨 継 続 時 間 が 約 6時 間 、高
森 で は 6~ 8時 間 に お い て 再 現 期 間 が ピ ー ク を 示 す こ と が 認 め ら れ た 。 ま た 、 黒 川 側 の
阿 蘇 谷 に 降 雨 が 集 中 し 、 南 郷 谷 の 白 川 側 で は 再 現 期 間 が 最 大 で 25年 程 度 で あ っ た 。
2) 黒 川 は 阿 蘇 地 域 に 対 し て 甚 大 な 被 害 を も た ら し た が 、一 方 で 黒 川 の 氾 濫 に よ っ て 白
川と黒川の合流点より下流ではピーク流量の低減、ピーク流量発生時刻の遅延により
熊 本 市 は 大 き な 人 的 被 害 を 免 れ た 。洪 水 痕 跡 か ら 黒 川 堤 防 長 さ 55.85kmの 約 62% か ら 越
流 し 、 2カ 所 で 堤 防 が 越 流 決 壊 し た 。
3) 熊 本 市 で 特 に 被 害 の 大 き い 龍 田 1丁 目 お よ び 龍 田 陳 内 4丁 目 に お け る 河 道 の 疎 通 能
が 約 1500m3/sに 対 し て 、約 2300 m3/sの 濁 流 が 通 過 し 、特 に 龍 田 陳 内 4丁 目 で は 逃 げ 遅 れ
た 住 民 は 、 県 警 、 自 衛 隊 、 消 防 団 に よ り ヘ リ コ プ タ ー で 32名 、 ゴ ム ボ ー ト に よ り 50名
が救出された。外水氾濫によって川と化した堤内地に対するハザードマップでは、浸
水深に加えて氾濫流速の情報が必要である。
4) 土 地 の 利 用 形 態 と 河 川 災 害 と の 関 係 か ら 、河 川 災 害 は 都 市 開 発 を 抑 制 す る 効 果 は 無
いことが認められた。危険地帯においては何らかの土地利用規制、建築規制が必要で
ある。
5)熊 本 市 内 の 白 川 流 域 す べ て に 避 難 指 示 が 発 令 さ れ た の は 平 成 24年 7月 12日 の 午 前 9時
20分 で あ る 。 一 方 、 こ の 時 点 で は 、 龍 田 方 面 を 中 心 に 市 内 の 白 川 上 流 域 の 河 川 近 接 地
域では、既に甚大な浸水被害が発生しており、一部地域ではヘリコプターによる救出
が必要な事態にまで至っていた。幸いにしていずれの地区においても適切な避難誘導
や救助活動等により、一人の犠牲者も出なかったものの、市の避難発令の遅れが指摘
さ れ て い る 。熊 本 市 で は 本 件 に 関 し て 、7月 26日 に 検 証 部 会 を 設 置 し 、災 害 当 日 、市 の
避難発令の判断がどのような状況下でどういう情報に基づき行われていたか、関係機
関や現場からの情報がどう処理されていたか、現場での避難誘導や救助活動がどう行
われていたかなどを中心に事実関係を整理し、問題点の有無に関する検証を行った。
3.玉来川の水災害
平 成 24年 7月 12日 未 明 よ り 未 曾 有 雨 の 豪 雨 に 見 舞 わ れ た 大 分 県 竹 田 市 で は 市 内 を 流
れ る 玉 来 川 が 氾 濫 し 、 床 上 浸 水 182棟 、 床 下 浸 水 79棟 、 死 者 2名 を 出 す 大 き な 水 害 に 見
舞 わ れ た 。玉 来 川 で は 昭 和 57年 、平 成 2年 の 大 水 害 を 受 け て ネ ッ ク と な っ た 竹 田 市 内 の
蛇行部をショートカットする河川改修工事が完了していた。それにもかかわらず、竹
田 市 拝 田 原 地 区 で は 平 成 2年 と 同 様 に 再 び 浸 水 被 害 を 受 け た 。特 に 、同 地 区 で は 水 位 が
堤 防 天 端 か ら 約 2.5mも 上 昇 し て い た こ と が 現 地 調 査 に よ り 確 認 さ れ た 。 こ の 様 な 水 位
の上昇は異常であり、超過洪水であった
というだけでは説明が出来ない。本報告
では玉来川流域で起きた水害の被害状況
について、これまでに実施された現地調
査および被災住民へのアンケート調査の
結果を報告するとともに、下流部の拝田
原地区周辺における水位上昇の原因につ
いて、河川の流下能力に影響を及ぼす堰
や橋梁などの河川横断構造物に着目して
検討を行った。
3.2
図 3.1
玉来川流域図
玉来川流域の概要
玉来川は一級河川大野川水系の支川の一つで、熊本県阿蘇郡南小国町瀬の本高原を
水 源 と し て 阿 蘇 外 輪 山 の 東 側 山 腹 を 流 れ て 大 分 県 竹 田 市 に 入 り 、途 中 吐 合 川 、滝 水 川 、
矢 倉 川 な ど を 合 わ せ て 鬼 ヶ 城 地 先 で 大 野 川 に 合 流 す る 流 域 面 積 175.5km2 、 流 路 延 長
34kmの 一 級 河 川 で あ る ( 図 3.1) 。 大 野 川 合 流 後 、 約 0.5km下 流 地 点 に は 発 電 用 取 水 堰
である九州電力の魚住ダム(竹田調整池堰)が建設されている。
竹 田 市 は 近 年 で は 、 昭 和 57年 7月 お よ び 平 成 2年 7月 と 立 て 続 け に 2回 も の 大 き な 水 害 に
見 舞 わ れ 、特 に 平 成 2年 7月 の 豪 雨 で は 戦 後 最 大 と 言 わ れ る 出 水 被 害 を 受 け た 。こ の 2つ
の水害を契機に竹田市街地上流に稲葉ダムと玉来ダムを建設する「竹田水害緊急治水
ダ ム 建 設 事 業 」 が 採 択 さ れ 、 平 成 2年 7月 の 既 往 最 大 流 量 と 同 程 度 の 出 水 に 対 し 、 玉 来
川 で は 河 川 改 修 と ダ ム 建 設 を 組 み 合 わ せ て 基 本 高 水 流 量 1、 650m3/sに 対 し て 玉 来 ダ ム
に よ り 流 量 300m3/sを カ ッ ト し 、計 画 流 量 1、370m3/sと す る 治 水 対 策 を 行 う こ と と な っ
500
総降水量
80
400
60
300
40
200
20
100
0
0
0:00 12:00 0:00 12:00 0:00 12:00
6/30
7/2
7/1
図 3.2
600
1時間降水量
100
500
総降水量
80
400
60
300
40
200
20
100
0
0
0:00 12:00 0:00 12:00 0:00 12:00
7/11
7/12
7/12
7/3
7/13
波 野 観 測 所 に お け る 時 間 雨 量 と 積 算 雨 量 ( 左 : 平 成 2年 , 右 : 平 成 24年 )
た。このうち河川改修事
表 8.1
業 は 平 成 9年 に 完 了 し て
各雨量
いるが、玉来ダムについ
観測所
ては未だ着工にすら到っ
ていない。一方、大野川
水系のもう一つの支川で
田
尻
ある稲葉川では上流に建
設された稲葉ダムが平成
22 年 6 月 に 完 成 し 運 用 を
開始している。
3.3
1時間降水量(mm)
100
120
総降水量(mm)
1時間降水量(mm)
1時間降水量
波
野
玉 来 川 流 域 に お け る 平 成 2年 と 平 成 24年 の 各 雨 量
時間最大雨量
雨量
日時
(mm
)
3時 間 最 大 雨 量
雨量
日時
(mm
)
2日 雨 量
雨量
日時
(mm
)
H2
2日 9:00
~ 10:00
58
2日 9:00
~ 12:00
157
1日
~ 2日
505
H2
4
12日 1:00
~ 2:00
93
12日 1:00
~ 4:00
176
12日
~ 13日
375
H2
2日 9:00
~ 10:00
73
2日 9:00
~ 12:00
193
1日
~ 2日
416
H2
4
12日 5:00
~ 6:00
98
12日 3:00
~ 6:00
236
12日
~ 13日
397
平 成 24年 九 州 北 部 豪 雨 に よ る 玉 来 川 流 域
表 8.2
豪雨災害による竹田市の被害状
況
の被災状況
3.3.1 降 雨 状 況
大 分 県 で は 平 成 24 年 7 月 12 日 未 明 か ら 県 西 部
を 中 心 に 激 し い 雨 と な り 、 13日 は 昼 前 か ら 昼
過ぎにかけて西部、北部、中部を中心に激し
い雨となった。竹田市では竹田観測所(稲葉
川 流 域 ) に お い て 7月 12日 5:20か ら の 3時 間 降
水 量 が 135.0mmを 記 録 し 、 観 測 史 上 1位 を 更 新
水害の発生年
平 成 2年
平 成 24年
死者数
負傷者数
全壊
住宅
半壊・一部損壊
床上浸水
被害
床下浸水
被害総額
4名
36名
39件
82件
265件
162件
258億 円
2名
3名
11件
257件
182件
79件
57億 円
人的
被害
*被 害 状 況 に つ い て 、 平 成 2年 の デ ー タ は 田
代 ら (1991)の 調 査 ,平 成 24年 の デ ー タ は 大 分
合 同 新 聞 8月 1日 の 記 事 を 参 考 に し た .
( 平 成 2年 7月 2日 に 129mmを 記 録 )し た 。玉 来
川 流 域 で は 、 波 野 観 測 所 に お い て 7 月 12 日 6:00 に 98mm/h 、 6:00 ま で の 3 時 間 降 水 量 は
236mmを 観 測 、 降 り 始 め か ら 2日 間 の 総 降 水 量 は 397mmに 達 し た ( 図 3.2) 。 平 成 2年 7
月 の 豪 雨 (図 3.2左 )と 比 較 す る と 、2日 間 降 水 量 は 平 成 2年( 417.9mm)を 若 干 下 回 っ て い
た も の の 、3時 間 降 水 量 は 236mmと 平 成 2年 の 192.5mmを 上 回 っ て お り 、今 回 の 豪 雨 は 激
し い 雨 が 短 時 間 に 集 中 し て い た こ と が わ か る ( 表 3.1) 。 特 に 今 回 の 雨 は 早 朝 に 集 中 し
て お り 、 12日 2:00ご ろ か ら 時 間 降 水 量 50mm以 上 の 雨 が 5時 間 継 続 し 、 12日 8:00ま で の 8
時 間 で 392mmを 記 録 し た 。
3.3.2 被 災 概 要
総降水量(mm)
600
120
a)旧 河 道 シ ョ ー ト カ ッ ト 部 の 堤 防 に お け る
水位痕跡
写 真 8.1
b)拝 田 原 地 区 (図 8.3③ 付 近 )の 浸 水 状 況
( 時 計 は 浸 水 し た 時 刻 の 6:55AMで 止 ま っ
ている)
拝田原地区の浸水状況
今回の豪雨による大分県竹田市の人的
253.183
被害および住宅の被害状況をまとめて表
高森竹田線
+1.15
253.825
254.32
254.75 254.456
255.59
3.2に 示 す 。 玉 来 川 が 市 内 を 流 れ る 竹 田 市
254.825
255.829
で は 氾 濫 に よ り 死 者 2名 、住 宅 の 全 壊 11棟 、
+1.8
254.573
255.636
255.411
半 壊 ・ 一 部 損 壊 257棟 の 被 害 が も た ら さ れ
252.158
+2.75
255.463
た 。玉 来 川 流 域 で は 護 岸 の 崩 壊 、橋 梁 の 流
+2.05
256.349
253.853
+2.62
256.068
253.432
文化会館
出( 稲 荷 橋 )、蛇 行 部 お よ び 支 川 で あ る 矢
253.557
253.827
257.198
倉 川 、滝 水 川 の 合 流 部 に お い て 越 水 に よ る
氾 濫 が 発 生 し た 。ま た 、支 川 で あ る 滝 水 川
流域において多数の斜面崩壊が起こり多
253.702
253.748
255.914
+2.38
255.603
+2.4
+1.0
256.999
254.312
256.913
252.099
257.906
259.5
258.614
254.558
256.168
257.127 257.005
256.111
256.925 256.805
257.892 257.309 257.304
254.675
+2.1
258.066
257.594
257.364 257.637
量 の 流 木 が 発 生 し た 。こ の 流 木 は 下 流 域 で
254.042
254.277
254.559
257.064
258.169
258.602
橋梁に集積し被害を拡大した。
256.739
256.661
259.538
3.3.3 拝 田 原 地 区 の 被 害 状 況
玉来川の河川改修事業として蛇行部分を
ショートカットする工事が完了した竹田
市 街 地 に お い て も 平 成 2年 と 同 様 に 大 き な
浸 水 被 害 が 起 こ っ た 。特 に 旧 河 道 部 付 近 の
拝 田 原 地 区 、阿 蔵 地 区 に お い て は 急 激 な 水
位の上昇が発生し、水位は堤防高より約
2.5mも 上 昇 し て 越 水 し た ( 写 真 3.1) 。 現
地において調査した地盤高および痕跡水
位 を 図 3.4に 示 す 。 堤 防 を 越 水 し た 氾 濫 水
図 3.3
地盤高および痕跡水位の調査結
果(上,図中の数字は標高を意味
する)および高森竹田線(上図赤
点線)における痕跡水位(下)
に よ る 浸 水 深 は 最 大 で 約 3mに も 達 し て お り 、 旧 河 道 、 県 道 ( 高 森 竹 田 線 ) お よ び JR豊
肥 線 の 軌 道 に 流 れ 込 み 、周 辺 の 家 屋 を 襲 っ た 。今 回 の 水 害 に よ る 死 者( 表 3.2)の う ち 1
名 は 避 難 中 に 流 さ れ て 亡 く な っ て い る 。 水 位 の 上 昇 は 急 で あ り 、 あ っ と い う 間 に 2m以
上まで上昇した(被災者より)。
3.4 旧 河 道 部 付 近 に お け る 水 位 上 昇 の 原 因
について
3.4.1 水 位 上 昇 を 引 き 起 こ し た 要 因
魚住ダムの流域における流出解析結果、
大野川本川の痕跡水位を基に一次元不等
流計算を行った結果ならびに魚住ダムか
ら の 推 定 最 大 放 流 量 か ら 、玉 来 川 か ら 大 野
川 へ の 最 大 流 入 量 は 約 2、120m3/sと 推 定 さ
写 真 3.2
魚住ダム
れ た 。 こ れ は 玉 来 川 の 基 本 高 水 流 量 1、
650m3/s( 常 盤 橋:0.8km地 点 )を 大 き く 上
回 っ て お り 、今 回 の 洪 水 は 超 過 洪 水 で あ っ
た と 推 察 さ れ る 。し か し な が ら 、た と え 超
過洪水であったとしても、堤防天端から
2.5m も の 水 位 上 昇 が 起 こ る と は 考 え に く
い 。こ こ で は 、現 地 調 査 の 結 果 か ら 以 下 の
2点に着目して異常な水位上昇の要因を
検討する。
a) 魚 住 ダ ム ( 竹 田 調 整 池 堰 ) の 影 響
写 真 3.3
阿蔵新橋に集積した流木
魚住ダムによるせき上げの影響が上流
まで及び水位を上昇させたのではない
か?
魚 住 ダ ム (写 真 3.2)は 洪 水 吐 ゲ ー ト 8門 を
有 し た 発 電 用 取 水 堰 で あ り 、 高 さ 4.15mの
堰の上部に洪水吐ゲートが設置されてい
る 。 豪 雨 当 日 5:30頃 に は ゲ ー ト は 全 て 全 開
の状態で放流されていた(九州電力資料
(2013) )。 堰 に 設 置 さ れ て い る 水 位 計 が 同
6:30頃 に 流 木 等 に よ り 被 災 し て デ ー タ が 欠
写 真 3.4
玉来新橋の橋脚に集積した流木
測 し て い る た め 、そ の 後 の 正 確 な 水 位 は 不
明であるが、堰に残っている水位痕跡から最大放流時には水面がゲート下端よりも上
に 達 し て お り (写 真 3.2)、 魚 住 ダ ム が 流 れ を 阻 害 し て せ き 上 げ が 生 じ 、 そ の 影 響 が 上 流
まで及んで水位の上昇を引き起こした可能性が考えられる。
b) 橋 梁 な ら び に 流 木 の 影 響
シ ョ ー ト カ ッ ト 区 間 下 流 部 に 掛 か っ て い る 阿 蔵 新 橋( 市 道 )お よ び 玉 来 新 橋( 県 道 )
とそこに集積した流木が流れを阻害して水位を上昇させたのではないか?
いずれの橋梁も河道内に1本の橋脚を有しており、流木が集積しやすくなっている。
加えて玉来新橋はちょうど湾曲した河道の水衝部に位置しており、橋台が河道内にせ
り出していて洪水をさらに流れにくくさせている。また、阿蔵新橋ならびに玉来新橋
の 橋 脚 ・ 橋 桁 に は 大 量 の 流 木 が 集 積 し て お り( 写 真 3.3、3.4)、橋 脚 ・ 橋 桁 に 捕 捉 さ れ
た流木により相当程度流れが阻害されていたと推察される。この結果、上流へのせき
上げが生じて水位を上昇させた可能性が考えられる。
3.4.2 一 次 元 不 等 流 解 析 に よ る 検 討
a) 解 析 方 法
上述した水位上昇の原因について、魚住ダムの影響を一次元不等流解析により検討
し た 。 解 析 に は MIKE11を 用 い た 。 計 算 領 域 は 魚 住 ダ ム 地 点 か ら 玉 来 川 約 1.0km地 点 ま
で の 1.6kmの 区 間 と し た 。 河 川 断 面 デ ー タ は 約 100m毎 の 測 量 結 果 ( 九 州 電 力 よ り 提 供 )
を 使 用 し た 。 境 界 条 件 は 上 流 端 か ら 河 川 流 量 2、 120m3/sを 流 入 さ せ 、 下 流 端 で は ダ ム
の有無による水位上昇の違いを検討するために、魚住ダムがある場合はダム地点の平
均 痕 跡 水 位 ( T.P.253.48m) 、 ダ ム が な い と 仮 定 し た 計 算 で は ダ ム 直 下 の 滝 の 地 点 で 限
界 水 深 を 与 え た 場 合 の ダ ム 地 点 水 位 を 与 え た 。 粗 度 係 数 は 全 て の 断 面 で 0.030と し た 。
なお、実際には玉来川が大野川に合流して魚住ダムに至るが、本計算では合流地点で
大 野 川 の 推 定 流 量 ( 880m3/s) を 流 入 さ せ た 。
b) 解 析 結 果
計 算 結 果 を 痕 跡 水 位 と 合 わ せ て 図 3.5に 示 す 。 大 野 川 と の 合 流 点 よ り 上 流 側 で は ダ ム
の有無による水位の差はほとんど無く、玉来川ショートカット部分における水位上昇
は ダ ム が な い と 仮 定 し た 時 の 水 位 か ら 約 20cm程 度 で あ っ た 。 こ こ で 、 ダ ム が 有 る 場 合
の フ ル ー ド 数 Frの 値 は 、 大 野 川 と の 合 流 点 の 下 流 側 で わ ず か に 1.0を 越 え て い る 。 水 理
学 的 に は こ の 断 面 よ り 上 流 側 に は 下 流 の 影 響 が 及 ば な い こ と を 意 味 す る が 、MIKE11で
は射流は常流として取り扱われるため、計算結果には下流の影響が反映してダムの有
無 に よ り 水 位 に 若 干 の 差 が 生 じ て い る 。し か し な が ら 今 回 の 計 算 は 空 間 分 解 能 が 荒 く 、
ま た Fr の 値 も 完 全 な 射 流 と い う よ り
もむしろ限界状態の流れであること
cal.(ダム有り:MIKE11)
cal.(ダム有り:新河道)
痕跡水位 左岸 (TPm)
最深河床高
を 考 慮 す る と 、こ の 結 果 は ほ ぼ 妥 当 と
考 え ら れ る 。 図 3.5に は 参 考 と し て 計
cal.(ダム無し:MIKE11)
cal.(ダム無し:新河道)
痕跡水位 右岸 (TPm)
260
算 ソ フ ト「 新 河 道 」を 使 用 し た 結 果 (九
256
が 1.0と な る 断 面 よ り 上 流 側 で は ダ ム
の 影 響 は 出 て こ な い 。と こ ろ で 、痕 跡
標高(T.P.m)
州 電 力 よ り 提 供 )も 載 せ て い る が 、Fr
252
248
阿蔵新橋
水 位 の 分 布 を 見 る と 、ち ょ う ど 玉 来 新
244
橋 付 近 を 境 に 勾 配 が 変 化 し て い る 。こ
大野川合流点
240
れは橋梁が架かる地点の流水断面の
0.0
0.2
0.4
影 響 を 示 唆 す る も の と 考 え ら れ る 。し
1.4
1.6
1.8
0.6
0.8
1.0
1.2
ダムからの距離(km)
1.4
1.6
1.8
Fr
1.5
1.0
の 結 果 か ら 、ダ ム に よ る シ ョ ー ト カ ッ
0.5
ト 部 の 水 位 上 昇 は 0 ~ 20cm 程 度 で あ
0.0
0.0
0.2
0.4
り 、魚 住 ダ ム は 玉 来 川 シ ョ ー ト カ ッ ト
部での水位上昇にはほとんど影響し
0.6
0.8
1.0
1.2
ダムからの距離(km)
2.0
か し な が ら 、計 算 に お い て は 、こ の 傾
向 も 水 位 高 も 再 現 出 来 て い な い 。以 上
玉来新橋
図 3.5
一次元不等流計算結果
ていないと考えられる。
Δh
3.4.3 河 積 減 少 に よ る せ き 上 げ 水 位 の 推 定
v1
積の減少がせき上げ水位に及ぼす影響につい
図 3.6
7
積 し て い た 阿 蔵 新 橋 に 着 目 し た 。図 3.6に 示 す
6
よ う に 阿 蔵 新 橋 が 架 か る 地 点 の 断 面 1と そ れ
5
Δh (m)
て検討した。ここでは特に、多量の流木が集
を 立 て 、断 面 開 口 度 を rと し て 流 木 に よ り 減 少
解析断面の概略図
Q=2310m3/s
Q1=0.9Q
Q2=0.8Q
Q3=0.7Q
4
3
し た 流 水 断 面 rA1に 河 川 流 量 Qを 流 す た め に 、
2
断 面 2に お い て 生 じ る 水 位 上 昇 を h( = せ き 上
1
げ に よ る 水 位 差 ) と す る と 、 hは 以 下 の (3.1)
0
0.70
0.75
0.80
式により求められる。
∆
1
2
1
2
A2
Q=2,120m 3 /s
次に、橋梁部における流木の集積による河
よ り 上 流 側 の 断 面 2に お い て ベ ル ヌ ー イ の 式
v2
A1 =279.95m 2
0.85
0.90
0.95
1.00
断面開口度
図 3.7
∆ ∙
3.1
こ こ で 、 A1: 阿 蔵 新 橋 が 架 か る 断 面 の 河 道 断
面 積 、a:橋 脚 の 断 面 積 、B:水 面 幅 、g:重 力
加 速 度 で あ る 。 (3.1)式 に お い て Qに 玉 来 川 の
推 定 最 大 流 量 2、 120m3/s、 A1に 現 地 調 査 に よ
り 測 定 さ れ た 河 道 断 面 積 279.95m2を 代 入 し 、
断 面 開 口 度 rに 対 す る 水 位 上 昇
断 面 開 口 度 と hの 関 係
hを 収 束 計 算
により求めた。その結果、流水断面積が一割
減 少 す る だ け で 約 3m の 水 位 上 昇 が 生 じ る こ
と が 分 か っ た( 図 3.7)。豪 雨 当 日 、上 流 域 で
発生した多量の流木は阿蔵新橋および玉来新
0
2
4
6
8
10
0
10
20
30
40
50
10
20
30
40
50
0
2
4
6
橋に集積していたことが分かっている(写真
3.3、 3.4) 。 図 3.8中 の ハ ッ チ 部 分 が 阿 蔵 新 橋
における流水面積一割の減少分になるが、写
真から判断すると、流木の集積により減少し
8
10
0
図 3.8
た断面は一割以上であったと推察される。以
阿蔵新橋の断面が一割減少
し た 時 の イ メ ー ジ( 上 図:桁 下 ,
下図:橋脚)
上 よ り 、 下 流 部 の 拝 田 原 地 区 周 辺 に お い て 発 生 し た 2.5m以 上 も の 水 位 上 昇 は 、 阿 蔵 新
橋および玉来新橋に集積した流木による流水断面積の減少が引き起こしたせき上げに
起因したものであったと考えられる。
3.5 超 過 洪 水 下 に お け る 河 川 横 断 構 造 物 と 流 木 の 危 険 性
今回の豪雨により玉来川下流部において発生した洪水氾濫の拡大要因は、湾曲部に
架けられた橋梁とそこに集積した流木により流水断面積が減少したことであると考え
ら れ る 。 流 木 が 集 積 し た 阿 蔵 新 橋 と 玉 来 新 橋 は ① 湾 曲 部 に 架 か っ て お り (図 3.9)、 水 衝
部に橋台がせり出していた、また②スパン長が短いのに橋脚を有していたことから、
流木が集積しやすく、そのため流れが相当阻害
さ れ た こ と が 容 易 に 推 察 さ れ る 。こ の こ と か ら 、
洪水への影響に対する配慮が不十分であったと
いえる。気候異変により災害外力が今後も上昇
することが予想される中、治水安全度を高めて
いくためには、超過洪水まで考慮してある程度
お金を掛けてでも橋脚を設置しない、流木の集
積にも配慮した桁下高を設定する、など橋梁の
設 計 指 針 を 再 検 討 す る 必 要 が あ る と 考 え ら れ る 。 図 3.8
湾曲部に架かる玉来新橋と
阿蔵新橋
一方、魚住ダムの上流側近傍では、最大痕跡水
位 が T.P. 253.56mと ダ ム が な い と 想 定 し た 時 の 水 位 よ り も 4~ 5m上 昇 し て い た 。 今 回 、
魚住ダムは水害の直接要因とはならなかったものの、ゲート下のマウンドが本来の地
盤 よ り 4.15m高 く 、そ の 上 流 側 に は マ ウ ン ド の 高 さ ま で 土 砂 が 堆 積 し て い た 。こ れ は ダ
ムの存在がダム上流側の水位のせき上げと河床の上昇を引き起こしていることを示し
ており、今後検討が必要と思われる。
河 川 横 断 構 造 物 と 流 木 に よ る 水 害 は 過 去 に も 発 生 し て い る が( 例 え ば 藤 森 ら (2008))、
今 回 の 豪 雨 災 害 だ け を み て も 玉 来 川 に 加 え て 山 国 川 、星 野 川 (矢 部 川 支 川 )、花 月 川 、矢
部 川 な ど 各 所 に お い て 橋 梁 (石 橋 )も し く は 橋 梁 へ の 流 木 の 集 積 が 水 位 を 上 昇 さ せ て 越
水氾濫を引き起こしており、洪水、とりわけ超過洪水に対する河川横断構造物の危険
性が増している。超過洪水に対する橋梁・取水ダム・頭首工などの河川横断構造物の
チェック・改善・撤去などの対策が急務である。また、気候変動下にある今日、超過
洪水となるような豪雨の下ではどこであっても斜面崩壊が発生して土砂だけではなく
多量の流木も生み出される。土砂だけでなく流木の影響も併せて考慮した河川計画・
管理が今後不可欠である。
3.6
竹田市玉来地区における被災住民の意識調査
3.6.1 竹 田 市 玉 来 地 区 の 特 徴 と 水 害 の 歴 史
竹田市玉来地区と拝田原地区の東部には、阿蘇外輪山東側の産山村および阿蘇市波
野村を流域とする玉来川が注いでいる。蛇行した玉来川は、玉来地区と拝田原地区の
東 部 に お い て 、隣 接 す る 流 域 を 有
する稲葉川とともに谷底平野を
竹田市の男性人口(千人)
3
2
1
形 成 し て い る た め 、古 く か ら 多 く
70
70
3
(
)
浸 水 家 屋 356棟 の 被 害 を 出 す 水 害
が 発 生 し て い る 。平 成 2年 7月 に は 、
生 じ た 。 平 成 2年 の 水 害 を 教 訓 に
80
60
年
50 代 50
40 歳 40
30 代 30
間 で は 、 昭 和 57年 7月 に 死 者 7名 、
死 者 4名 、浸 水 家 屋 548棟 の 被 害 が
80
竹田市の女性人口(千人)
1
2
60
の 水 害 が 発 生 し て き た 。過 去 50年
水 害 に よ っ て 表 3.2 に 示 す よ う に
0
0
15
10
5
0
アンケート回答人数(男性) (人)
図 3.10
20
20
10
10
0
5
10
15
アンケート回答人数(女性) (人)
アンケート回答者の男女別年齢の分布
(実線は竹田市全体の人口分布)
玉来川および稲葉川のショートカット工事を実施し、稲葉川上流部には稲葉ダムが竣
工 し た 。こ の よ う な 対 策 を 実 施 し た も の の 、平 成 24年 に は 過 去 と 同 様 の 地 域 で 死 者 2名 、
浸 水 家 屋 529棟 の 被 害 が 生 じ る 水 害 が 発 生 し た 。現 在 、玉 来 川 の 治 水 能 力 を 向 上 さ せ る
ために上流部に流水型ダムである玉来ダムの建設が計画されている。
3.6.2 被 災 時 の 状 況
7月 11日 深 夜 か ら 降 り 続 い た 大 雨 に よ っ て 、気 象 庁 で は 7月 12日 6時 41分 に『 こ れ ま で
経 験 し た こ と の な い よ う な 大 雨 に な っ て い る 』と 発 表 し た 。7時 頃 に は 拝 田 原 地 区 の 男
性 が 流 さ れ た 。 男 性 は 300~ 400メ ー ト ル 下 流 に お い て 遺 体 で 見 つ か っ た 。 付 近 の 住 民
の 証 言 に よ る と 、 玉 来 川 が あ ふ れ た の は 6時 30分 か ら 7時 20分 の 間 で あ っ た 。 竹 田 市 萩
町でも男性が田んぼを見に行き行方不明となった。被災地の住民は浸水を免れた運動
公 園 な ど に 避 難 し た 。11時 20分 に 竹 田 市 は 中 心 部 の 6598世 帯 1万 4599人 に 避 難 指 示 を 発
令 し た 。 竹 田 市 で は 7月 19日 ま で 断 続 的 に 退 避 勧 告 が 発 令 さ れ る こ と に な っ た 。
3.6.3 ア ン ケ ー ト 調 査
a) 調 査 の 目 的 気 象 庁 で は 重 大 な 災 害 が 差 し 迫 っ て い る 場 合 に 一 層 の 警 戒 を 呼 び か け
る た め 、 平 成 24年 6月 21日 付 記 者 発 表 資 料 『 平 成 24 年 度 出 水 期 に お け る 気 象 情 報 改 善
について』において気象情報を短文で伝えることを発表した。今回の水害では、短文
情報として初めて『これまでに経験したことのないような大雨』という短文情報が気
象庁と福岡管区気象台から発表された。竹田市において繰り返し発生する水害に対し
て、住民の意識と行政の対応を検証し、今後も発生が予測される水害への対応のため
の基礎的な資料とするために、被災地区においてアンケート調査を実施した。アンケ
ー ト の 質 問 項 目 は 田 代 ら (1991)の 過 去 の 調 査 を 参 考 に 24個 の 質 問 を 設 定 し た 。
b) 調 査 方 法 調 査 は 竹 田 市 拝 田 原 自 治 会 、 阿 蔵 自 治 会 、 山 手 自 治 会 に お い て 被 災 し た
住民を対象とした。アンケート用紙は個別訪問によって配布した後に再度戸別訪問し
て 109名 分( 男 性 48名 、女 性 61名 )を 回 収 し た 。ア ン ケ ー ト の 回 答 者 の 男 女 お よ び 年 齢
構 成 を 図 3.10に 示 す 。図 3.10の 実 線 は 竹 田 市 全 体 の 人 口 分 布 で あ る 。男 性 お よ び 女 性 の
回答者の年齢分布は、概ね竹田市全体の年齢別人口の構成とほぼ一致している。
c) 調 査 結 果 ア ン ケ ー ト 調 査 の 主 な 項 目 に お け る 回 答 結 果 を 図 3.11に 示 す 。 図 3.11 (a)
か ら 調 査 対 象 地 域 の 家 屋 の ほ と ん ど が 被 害 を 受 け て い る こ と が わ か る 図 -3.11 (b)、 (c)
は 大 雨 洪 水 警 報 に 関 す る 調 査 の 結 果 で あ る 。 大 雨 洪 水 警 報 は 住 民 の 42%が 聞 い て い る 。
図 3.11 (b)か ら 多 く の 住 民 は 竹 田 市 か ら の 広 報 に よ り 大 雨 洪 水 警 報 の 発 表 を 聞 い て い る 。
一方で、外の雨音が大きく広報車からの警報はほとんど聞き取れなかったという意見
も 聞 か れ た 。 図 3.11 (c)に は 大 雨 洪 水 警 報 を 聞 い た 住 民 の 対 応 が 示 さ れ て い る が 、 何 と
か し な け れ ば と 思 っ た 住 民 は 35%で あ り 、警 報 に そ れ ほ ど 注 意 を 払 っ て い な か っ た こ と
が わ か る 。 図 3.11(d)に は 大 雨 の と き に 住 民 が 知 り た か っ た 情 報 を 示 し て い る 。 こ の 図
から住民の多くは気象情報と災害危険予測を知りたがっており、今後の動向に注意を
払 っ て い た こ と が わ か る 図 -3.11 (e)、(f)に は 住 民 が 避 難 を し た 理 由 お よ び し な か っ た 理
由 を 示 し て い る 。 避 難 し た 住 民 は 53%、 避 難 し な か っ た 住 民 は 41%で 、 無 回 答 が 6%で
あ っ た 図 -3.11 (e)か ら 避 難 を 決 め た 住 民 の 多 く は 『 豪 雨 状 況 が 危 険 な と こ ろ ま で 来 た 』
土砂、地滑り
による家屋の
全壊・半壊・部
分壊
1%
無回答
1%
その他
21%
被害なし
8%
床下浸水
7%
洪水による家
屋の全壊
5%
洪水による
家屋の半壊
19% 洪水による家
床上浸水
34%
消防団員か
らの伝達
2%
町内会や自 その他
治会からの
10%
伝達
8%
近所の人か
らの伝達、
口コミ
10%
屋の部分壊
4%
その他
17%
テレビ
25%
市町村か
らの広報
(広報車
や同報無
線など)
43%
何とかし
なければ
と思った
35%
普通の警
報と思
い、気に
かけな
かった
23%
ラジオ
2%
無回答
無回答
2%
ガス、水
4%
道、電気
その他
6%
3%
交通事情
11%
気象情報
19%
災害危険
の予測情
報
家族等の
29%
応急措置の 安否や家
内容や指 の状態
示、連絡
6%
被害状況
14%
特に何もし
なかった
23%
8%
(b)大 雨 洪 水 警 報 を 聞 い た 媒 体(c)大 雨 洪 水 警 報 を 聞 い た(d)大 雨 の と き に 最 も 知 り た
(a)家 屋 の 被 害 状 況 に つ い て
か っ た 情 報 (複 数 回 答 )
後の対応方法
が危険なと
ころまでき
たため
32%
避難の必要性の判
断つかなかった
5%
その他
21%
子供、老人がいて
避難しにくかった
2%
近所の知人
等との相談
19%
家族が帰るのを
待っていた
3%
家族間の 各組織の避難
相談 のよびかけ、
伝達
15%
5%
(e) 避 難 し た 場 合 , 避 難 を
決 め た 理 由 (複 数 回 答 )
避難を必要とする
ほどではないと思っ
た
7%
避難先がはっきりし
なかったため
2%
テレビ、ラジ
防災機関の
オの情報
その他 避難命令
1%
9%
8%
消防団員の
避難指示や
誘導
豪雨状況
11%
指示が得られず、
逃げ方がわからな
かった
1%
二階に逃げれば
災害をしのげると
思ったため
21%
避難をするほうが
かえって危険だと
思ったため
情報が伝わらな
かったため 避難は必要だった
15%
11%
が機会を逃したた
め
12%
0回(はずれ
るのは許さ
れない)
2%
無回答
19%
1回は、はず
れてもやむ
をえない
9%
2回は、はず
れてもやむ
をえない
17%
5回は、はず
れてもやむ
をえない
31%
4回は、はず
れてもやむ
をえない
6%
3回は、はず
れてもやむ
をえない
16%
(f) 避 難 し な か っ た 場 合 , 避 難 を し な か っ た 理 由
(g) 避 難 命 令 5 回 の う ち ,
(複 数 回 答 )
求める的中回数
図 3.11
アンケート調査結果
という理由で避難をしていることから、自主的な判断で避難を決断しており、その判
断の元になっているのは周囲の人々との相談であることもわかる。水位が最大となっ
た時間帯にも携帯電話は通じていたため、遠く離れた家族や知人からの電話で浸水に
気 づ い て 避 難 を 始 め た と い う 意 見 も あ っ た 図 3.11 (d)か ら 2階 建 て 住 宅 に 住 む 住 民 の 多
く は 自 宅 の 2階 に 逃 れ た こ と が わ か る 。図 3.11 (g)で は 被 災 住 民 が 許 容 で き る 避 難 命 令 の
回 数 を 示 し て い る 。31%の 住 民 は『 5回 中 5回 は 、は ず れ て も や む を え な い 』と 回 答 し て
おり、被災後は少しの可能性でも避難命令を出してほしいと希望していることがわか
る。
d) ア ン ケ ー ト 調 査 の 結 果
アンケート調査で水害に被災した住民の意識を明らかに
し た 。竹 田 市 の 高 齢 化 率 は 83.0% で 全 国 の 市 町 村 の 中 で も 3位 (内 閣 編 (2008))と な っ て お
り、このように高齢者が増加した地方都市に適合した避難方法を検討する必要がある
といえる。
3.7 お わ り に
玉来川下流部において発生した洪水氾濫の原因と特徴として、「これまでに経験の
ないような大雨」が短期間に降ったこと、それにより多数発生した斜面崩壊が大量の
流木を生み出したこと、その流木が橋梁に集積して流水面積を減少させたことが挙げ
られる。近年、地球温暖化によると思われる災害外力の増大下では、現存する取水ダ
ム、橋梁、頭首工などの河川横断構造物が、洪水に対して水位を上昇させるだけでな
く流木の集積と相俟って、極めて危険な状態にあることが、近年の洪水災害から明ら
かになってきた。超過洪水に対する河川横断構造物のチェック・改善・撤去などの対
策が急務であると共に新設の橋梁や堰等については計画高水を流せるというだけでは
不十分で、超過洪水に対してもこれらの横断構造物がネックとならないような配慮が
必要である。また、気候変動下にある今日、超過洪水となるような豪雨の下では、ど
こであっても斜面崩壊が発生して土砂だけではなく多量の流木も生み出される。土砂
だけでなく流木の影響も併せて考慮した河川計画・管理が不可欠である。
参考文献:
1)
九 州 電 力 資 料 、 2013
2)
藤 森 祥 文 、越 智 有 生 、速 山 祥 子 、白 石 央 、渡 辺 政 広 、急 勾 配 中 小 河 川 に お け る 流 木
に 起 因 す る 洪 水 氾 濫 軽 減 対 策 、 水 工 学 論 文 集 、 第 52 巻 、 pp.679-684、 2008.
3)
田 代 敬 大 、 平 野 宗 夫( 編 )、 1990 年 7 月 九 州 北 部 豪 雨 に よ る 災 害 の 調 査 研 究
研
究 成 果 報 告 書 、 pp212-234、 1991
4)
内 閣 府 編 、 平 成 20 年 版 高 齢 社 会 白 書 、 p8、 2008
4.山国川水系の災害
4.1 は じ め に
2012年 7月 3日 お よ び 13~ 14日 に か け て 、本 州 付 近 に 停 滞 し
た 梅 雨 前 線 に 暖 か く 湿 っ た 空 気 が 流 れ 込 み 、九 州 北 部 で 豪
雨 と な っ た 。こ の 豪 雨 に よ り 、九 州 北 部 の 5水 系 7河 川 が 氾
濫 し 、福 岡 、大 分 、熊 本 県 で 総 被 害 額 が 1700億 円( 日 本 経
済 新 聞 社 (2012)) に な る な ど 、甚 大 な 被 害 が 生 じ た 。山 国
川 流 域 で は 、7月 3日 と 13~14日 の 2度 の 豪 雨 に よ り 、浸 水 被
害や護岸崩落等の河川管理施設の被災が生じた。
本 章 で は 、 (1)
今回の豪雨による山国川流域の浸水被害
と 河 川 管 理 施 設 の 被 災 状 況 の 把 握 、(2) 出 水 時 の 情 報 伝 達
の 状 況 や 平 成 5年 水 害 時 の 降 雨 パ タ ー ン と の 比 較 、 (3) 現
地調査に基づく浸水や護岸等の河川管理施設の被災プロ
図 4.1 山 国 川 流 域 の 概 要
セ ス の 推 定 、(4) 出 水 に よ る 河 口 域 、中 津 干 潟 で の 土 砂 堆
積 状 況 の 把 握 を 行 う と と も に 、 (5)学 生 ボ ラ ン テ ィ ア に よ
る復興支援活動について報告する。
4.2 山 国 川 流 域 の 豪 雨 災 害 の 概 要
4.2.1 山 国 川 と 流 域 の 概 要 ( 国 土 交 通 省 九 州 地 方 整 備 局
(2008))
高水位等
観測所
下唐原
上曾木
8.845
9.253
計画高水位
6.600
氾濫危険水位
6.000
避難判断水位
5.000
3.800
氾濫注意水位
4.400
2.800
水防団待機水位
上曾木7/3最高水位9.38m
柿坂
9.629
4.800
4.400
3.800
2.800
m
図 4.2 山 国 川 計 画 高 水 流 量 図 と
山 国 川 流 域 は 福 岡 県 と 大 分 県 の 県 境 に 位 置 し て お り 、そ の
高水位等
流 域 面 積 は 540km2、土 地 利 用 は 山 地 が 約 91%、農 地 が 約 7%、
市 街 地 が 約 2%を 占 め て い る 。山 国 川 は 、幹 川 流 路 延 長 56kmの 一 級 河 川 で あ り 、河 床 勾
配 は 上 中 流 で 1/200以 上 、下 流 部 で 1/500~ 1/1、000程 度 の 急 流 河 川 で あ る 。図 4.1に 山 国
図 4.3 流 域 平 均 降 雨 ハ イ エ ト グ ラ フ
(上 : 7月 3日 , 下 : 7月 13~ 14日 )
図 4.4 3時 間 雨 量 の 空 間 分 布
(左 : 7月 3日 , 右 : 7月 13~ 14日 )
川 流 域 の 航 空 写 真 、雨 量・水
位 観 測 所 を 、 図 4.2 に 山 国 川
2012/7/03
7時
8時
1993/9/03
18 時
19 時
9時
10 時
20 時
21 時
の計画高水流量と計画高水
位 を 示 す 。上 曾 木 、跡 田 川 の
直 下 流 の 計 画 高 水 流 量 は 3、
850m3/sで あ る 。
山国川流域の降水量は梅雨
期と台風期に集中している。
過去に大きな被害をもたら
した出水の多くは台風期に
発 生 し て お り (平 成 5年 9月 の
図 4.5 2012年 7月 水 害 降 雨 分 布 と 1993年 9月 水 害 降 雨 分 布 の 比
較
水 害 等 )、 今 回 の 災 害 の よ う に 梅 雨 期
に 発 生 し た 出 水 ( 昭 和 28 年 6 月 の 水 害
等 )は 少 な い 。
降雨エリア
20mm以上
30mm以上
930903 120703 120713 120714
○
△
□
◇
●
▲
■
◆
気象および降雨の概要
a) 7月 3日 豪 雨 と 7月 13~ 14日 豪 雨 の 概
要
7月 3日 の 豪 雨 で は 山 国 川 流 域 の 9つ
120703
120714
60
40
33.70
北緯
20
33.60
4.2.2
930903
120713
r (mm/h)
0
1.0 33.50
1
2
3
4
5
6
7
8
9
Ai/Ao
0.5 33.40
0.0 33.30
130.9
131.0
131.1
東経
131.2
131.3
19930903 17 18 19 20 21 22 23 24
1
2
3
4
5
6
7 時刻
8
20120703 6 7 8 9 10 11 20120713 9 10 11 12 13
20120714 1 2 3 4 5 6 7 8
図 4.7流 域 平 均 雨 量 と
の 雨 量 観 測 所 (下 郷 、 耶 馬 溪 ダ ム 、 東 図 4.6 時 間 降 雨 20mm
以 上 と 30mm以 上 の
時 間 降 雨 30mm
谷、馬場、岩屋、家籠、鳥屋、古後、
降雨中心の時間的変化
以上の地域割合
吉 野 )で 観 測 史 上 最 大 の 3時 間 雨 量 を
記 録 し 、下 郷 雨 量 観 測 所 で は 1時 間 雨 量 も 観 測 史 上 最 大 73mmを 記 録
し た 。 図 4.3は 、 7月 3日 お よ び 7月 13~14日 豪 雨 時 の 流 域 平 均 の 降 雨
ハ イ エ ト グ ラ フ を 示 し た も の で あ る 。 こ れ よ り 、 (1) 7月 3日 の 豪 雨
で は 一 山 波 形 で 200mm程 度 の 累 加 雨 量 が あ る こ と 、 (2) 7月 13~14日
豪 雨 で は 二 山 波 形 で 各 波 形 の 累 加 雨 量 は 100mmと 200mm程 度 で あ
る こ と 、な ど が わ か る 。各 豪 雨 の 雨 量 の 確 率 規 模 は 、そ れ ぞ れ 7月 3
日 豪 雨 は 1/17、 7月 13~ 14日 は 1/62で あ っ た 。 図 4.4は 、 7月 3日 お よ
び 13~14日 豪 雨 の 3時 間 雨 量 の 空 間 分 布 を 示 し た も の で あ る 。こ れ よ
り 、(1) 7月 3日 の 豪 雨 で は 流 域 の 南 東 側 に 、(2) 7月 13~14日 豪 雨 で は 写 真 4.1 山 国 町 で の
橋梁越水
18
17
18
下唐原観測所
T.P.=7.365m
計画高水位(m)
氾濫危険水位(m)
避難判断水位(m)
氾濫注意水位(m)
水防団待機水位(m)
実測値
16
流域の南西側に降雨が集中してい
13
12
図 4.5は 、 平 成 24年 (2012)7 月 の 時
9
8
58
上曽木観測所
T.P.=47.000m
計画高水位(m)
氾濫注意水位(m)
水防団待機水位(m)
実測値
57
56
55
54
54
水位 H(m)
55
53
52
53
52
51
51
50
50
49
間雨量の等雨量線図を平成5年
116
(1993)9 月 の 水 害 降 雨 パ タ ー ン と 比
タ に は 、流 域 内 の 国 土 交 通 省 山 国 川
河 川 事 務 所 所 管 の 14 観 測 所 の デ ー
49
柿坂観測所
T.P.=106.260m
108
107
0:00
2012/7/3
0:00
2012/7/4
時刻
のデータを使用した。
平 成 5年 9月 洪 水 に よ り 、耶 馬
100
屋形川
痕跡水位(左岸)
跡田川
津民川
津民大橋
痕跡水位(右岸)
最深河床高
110
早瀬橋
中川原橋
耶馬溪橋
洞門橋
青の禅海峡
友枝川
中津川分派
(⑦曽木)
穴田橋
右岸越水
馬渓橋
羅漢寺橋
七仙橋 右岸越水
80
中津留橋
新岩屋橋
旧岩屋橋
犬走り橋
羅漢寺大橋
⑭柿坂
両岸越水
(⑫平田・戸原 下流)
左岸越水 (⑩多志田)
右岸越水
(⑨多志田
(蕨野)) (⑪中川原)
口ノ林堰
柿坂水位観測
平田堰
右岸越水
70
(⑥樋田)
(⑧曽木(青))
三原橋
60
恒久橋
50
荒瀬井堰
山国大橋
多志田堰
(③牛ノ首)
鉄道橋
30
観測不可
上曽木堰
右岸越水
新山国大橋
山国橋
40
山移川
津民橋
第二山国川橋
小川内橋
小友田大橋
城井橋
新太平橋
左岸越水
90
0:00
2012/7/15
0:00
2012/7/14
図 4.8 水 位 ハ イ ド ロ グ ラ フ の 一 例
(左 : 7月 3日 , 右 : 7月 13~ 14日 )
左岸堤防高
右岸堤防高
標高T.P(m)
107
0:00
2012/7/13
0:00
2012/7/5
時刻
120
時 、13日 、14日 と 大 き な 被 害
水位 H(m)
109
計画堤防高
計画高水位
や っ と 終 え 、心 機 一 転 と い う
111
110
108
130
7月 3日 の 被 害 か ら の 回 復 を
欠測
112
109
140
い ほ ど の 被 害 を 受 け た 。特 に 、
113
110
玖珠、湯布院、院内、中津)
成 24年 7月 に は こ れ ま で に な
114
111
160
け た 。平 成 19年 に 続 い て 、平
115
欠測
112
測 所 (行 橋 、 英 彦 山 、 日 田 、
渓・青 地 区 は 大 き な 被 害 を 受
116
113
タ と 、 流 域 を 囲 む 気 象 庁 所 管 の 7観
150
48
117
計画高水位(m)
氾濫危険水位(m)
避難判断水位(m)
氾濫注意水位(m)
水防団待機水位(m)
実測値
114
水位 H(m)
較 し て 示 し た も の で あ る 。降 雨 デ ー
115
計画高水位(m)
氾濫危険水位(m)
避難判断水位(m)
氾濫注意水位(m)
水防団待機水位(m)
実測値
10
8
58
48
117
柿坂観測所
T.P.=106.260m
12
11
56
水位 H(m)
た点が特徴である。
計画高水位(m)
氾濫注意水位(m)
水防団待機水位(m)
実測値
13
9
57
上曽木観測所
T.P.=47.000m
14
10
い は あ る が 、短 時 間 集 中 豪 雨 で あ っ
計画高水位(m)
氾濫危険水位(m)
避難判断水位(m)
氾濫注意水位(m)
水防団待機水位(m)
実測値
15
14
11
今 次 豪 雨 は 、波 形 や 空 間 分 布 に は 違
下唐原観測所
T.P.=7.365m
16
水位 H(m)
る こ と 、な ど が わ か る 。こ の よ う に 、
水位 H(m)
15
17
上曽木水位観測所
ピーク水位:9.38m.零点補正:9.38m+TP47.000m=TP56.380m
市場橋
20
新原井水位観測所
観測不可
蕨尾堰
10
大井手堰
下唐原水位観測所
0
下宮永堰
平成大堰
ピーク水位:7.46m.零点補正:7.46m+TP7.365m=TP14.825m
-10
-1
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
距離表(km)
図 4.9 7月 3日 出 水 の 痕 跡 水 位
を再度受けた。地
域の人の「心が折
れる」という言葉
が、立て続けの被
害の大きさを如実
に表している。
図 4.6は 、 等 雨 量 線
図より、時間降雨
量 20mm 以 上 と
30mm 以 上 の 地 域
を抽出し、それぞ
図 4.10 浸 水 被 害 と 河 川 管 理 施 設 の 被 災 状 況 の 概 要
れの降雨中心位置
の 時 間 的 変 化 を 示 し た も の で あ る 。こ の 図 か ら 、平 成 5年 9月 降 雨 で は 30mm以 上 の 強 雨
域 が 中 流 部 を 移 動 し 、平 成 24年 7月 降 雨 は 、上 流 域 か ら 中 流 域 を 覆 う よ う に 強 雨 域 が 広
がり、強雨域中心位置が上流の山国町から耶馬渓町へと本川に沿うように移動してお
り 、 平 成 5年 と 明 ら か に 異 な る こ と が 認 め ら れ る 。 30mm以 上 の 広 範 囲 な 強 雨 域 も 大 き
な要因であるが、源流域からの流出と
10 水位(m)
8 下唐原
6 ともに流れを追いかけるような強雨域
柿坂
氾濫危険水位
避難判断水位
氾濫注意水位
水防団待機水位
4 の移動によって、流出量が短時間に集
2 域 平 均 雨 量 の 時 間 的 変 化 と 流 域 面 積 Ao
に 対 す る 降 雨 30mm 以 上 の 地 域 の 割 合
K
H1
1 10
水位(m)
8
3 5 4
9 11 13 7月3日 時刻
15 17 19 21 23 下唐原
柿坂
氾濫危険水位
避難判断水位
氾濫注意水位
水防団待機水位
H2
H1
2
月 降 雨 は 、 平 成 5年 9月 降 雨 に 比 べ て 、
7 7月13日
6
Ai/Aoを 示 し た も の で あ る 。 平 成 24年 7
Y
柿坂 (27K)
上曽木(16.7K)
下唐原(5.8K)
上曾木
0
11:50
流域平均雨量も強雨域の占める割合も
大きくなっていることがわかる。写真
Y
上曾木
0 中 し た も の と 考 え ら れ る 。 図 4.7は 、 流
柿坂 (27K)
上曽木(16.7K)
下唐原(5.8K)
7月3日
10
水位(m)
8
4.1は 、 山 国 川 上 流 域 で こ れ ま で に 見 ら
6
れなかった山国町の大勢橋を越水して
2
12:10
12:30
12:50
13:10
13:30
13:50
14:10 14:30 14:50
7月13日 時刻
15:10
15:30
15:50
16:10
16:30
16:50
7月14日
柿坂
H2
4
下唐原
K
H1 Y
氾濫危険水位
避難判断水位
氾濫注意水位
水防団待機水位
柿坂 (27K)
上曽木(16.7K)
下唐原(5.8K)
上曾木
0
い る 様 子 を 示 し て い る 。 流 域 境 界 GIS
デ ー タ は 、「 コ ン サ ベ ー シ ョ ン GISコ ン
ソ ー シ ア ム ジ ャ パ ン ( http://cgisj.jp) 」
5:00
5:20
5:40
6:00
6:20
6:40
7:00
7:20
7月14日
7:40
8:00
8:20
8:40
9:00
9:20
9:40
10:00
時刻
図 -4.11水 位 の 時 間 的 変 化 (7月 13日 ~ 14日 )と
避難勧告の発令時刻
の デ ー タ を 使 用 し た 。 ま た 、 写 真 4.1 の 越 水 画 像 は 、 youtube 、
http://www.youtube.com/watch?v=Ti_i5TKd4LYよ り 引 用 し た 。
4.2.3 出 水 状 況 と 被 害 の 概 要 と 情 報 伝 達
7月 3日 の 出 水 で は 国 土 交 通 省 管 理 の 金 谷 、新 原 井 、上 曽 木 、柿 坂 、下 郷 の 5箇 所 の 水
位 観 測 所 で 、7月 13~14日 の 出 水 で は 柿 坂 、下 郷 の 2箇 所 の 水 位 観 測 所 で 既 往 最 高 水 位 を
更 新 し た 。 図 4.8は 、 7月 3日 、 7月 13~ 14日 出 水 時 の 下 唐 原 、 上 曽 木 、 柿 坂 水 位 観 測 所
で の 水 位 ハ イ ド ロ グ ラ フ を 示 し た も の で あ る 。こ れ よ り 、(1) 水 位 が 上 昇 し 始 め て か ら
ピ ー ク 水 位 と な る ま で の 時 間 は 、 7月 3日 出 水 で は 4~5時 間 程 度 、 7月 13~14日 出 水 で は
一 山 目 は 3時 間 程 度 、二 山 目 は 5~6時 間 程 度 で あ る こ と 、(2) 水 位 上 昇 速 度 は 、7月 3日 出
水 で は 1~2m/h程 度 、7月 13~14日 出 水 の 一 山 目 で は 1.3~2m/h程 度 、二 山 目 で は 0.9~1.0m/h
程 度 で あ る こ と 、 な ど が わ か る 。 図 4.9は 、 7月 3日 出 水 の 痕 跡 水 位 の 縦 断 変 化 を 示 し た
ものである。これより、下唐原水位観測所よりも上流の区間、特に荒瀬井堰よりも上
流の多くの区間で、計画高水位を上回ったことがわかる。このように、本出水は、水
位上昇が急激であり、荒瀬井堰よりも上流の多くの区間で、計画高水位を上回った点
に特徴がある。
b) 被 害 状 況
図 4.10は 、両 出 水 で の 被 害 状 況 の 概 要 を 示 し た も の で あ る 。7月 14日 時 点 の 調 査 で は 、7
月 3の 出 水 で 浸 水 面 積 58.1ha、浸 水 家 屋 数 194戸 (床 上 浸 水 : 132戸 、 床 下 浸 水 : 62戸 )、 7
月 13、14日 の 出 水 で 浸 水 面 積 41.0(ha)、浸 水 家 屋 数 187戸 (床 上 浸 水:124戸 、床 下 浸 水 :
63戸 )の 浸 水 被 害 が 生 じ 、ま た 河 川 管 理 施 設 で は 主 に 護 岸 崩 落 な ど の 被 害 が 7月 3日 の 出
水 で 17ヶ 所 、 7月 13~14日 の 出 水 で 4ヶ 所 生 じ た 。
c) 出 水 状 況 と 情 報 伝 達
柿 坂 (耶 馬 渓 中 学 校 駐 車 場 敷 地 内 )27K、 上 曾 木 (青 の 洞 門 沈 み 橋 下 流 地 点 )16.75K、 下
唐 原 (恒 久 橋 下 流 約 100m)5.8K地 点 の 観 測 水 位 等 を 図 4.11に 示 す 。図 4.11中 の 柿 坂 の デ ー
タは観測器の損傷のため欠測
となっている。下向きの矢印
は水位のピーク時刻を、実線
の横線は、柿坂、上曾木、下
唐原の氾濫危険水位、避難判
断水位、氾濫注意水位、水防
団待機水位と共に、各観測地
点の計画高水位等を示してい
図 4.12
蕨尾堰周辺の被災状況の概要
る 。図 中 の 上 向 き の 矢 印 の 内 、
7月 3日 の H1は 本 耶 馬 渓 ・ 青 地
区 (上 曾 木 )、Yは 耶 馬 渓 地 区 (柿
坂 )の 避 難 勧 告 を 、 Kは 上 毛 町
(下 唐 原 )の 避 難 指 示 発 令 時 刻
を 示 し て い る 。 7 月 13 日 の H1
は 本 耶 馬 渓 ・青 地 区 、H2は 多 志
田 ・冠 石 野 ・樋 田 地 区 、Yは 耶 馬
渓 町 全 域 で 、 14日 の H1は 青 地
区 、多 志 田 ・樋 田 地 区 、H2は 本
耶 馬 渓 ・上 曾 木 地 区 、 Kは 上 毛
図 4.13 青 の 洞 門 お よ び 耶 馬 渓 橋 周 辺 の 被 災 状 況 の 概 要
町 下 唐 原 を 示 し て い る 。 13日 の H1と Yで は 、 水 位 が ピ ー ク に 近 い 時 刻 の 発 令 と な っ て
い る 。7月 3日 の 洪 水 は 既 往 最 大 洪 水 と な り 、護 岸 等 甚 大 な 被 害 を 受 け た 。耶 馬 渓 で 1名
行 方 不 明 、上 毛 町 で 車 6台 の 流 出 被 害 と な っ た 。避 難 勧 告 等 の 情 報 伝 達 は 、防 災 行 政 無
線の屋外拡声子局と共に戸別受信機により行われている。このため、避難勧告等の連
絡は全戸に伝わっていると思われるが、経験したことのない短時間での集中的な豪雨
に対して、避難等の情報をどの時点で発令するか、あらためて検討することも必要と
思われる。
4.3
浸水と河川管理施設の被災プロセスの推定
本 節 で は 現 地 調 査 に 基 づ き 、浸 水 と 河 川 管 理 施 設 の 被 災 プ ロ セ ス に つ い て 推 察 し た 。
調 査 は 、図 4.10に 示 す 距 離 標 10.0km~27.0kmの 区 間 で 行 い 、こ こ で は ① 10.0km~ 12.0km、
② 14.0km~17.0km、③ 20.0km~22.0km、④ 24.0km~27.0kmの 4つ の 区 間 に 分 け て 検 討 し た 。
なお、ここでは紙面の都合から、区間①、②、④での検討結果の一部を報告する。な
お 、図 4.12~ 図 4.14の 青 の 矢 印 は 、現 地 調 査 か ら 推 定 さ れ る 出 水 時 の 河 道 内 の 洪 水 流 の
流れ方向を、赤の矢印は氾濫流の流れ方向を示している。
4.3.1 ① 10.0km~ 12.0km区 間 (蕨 尾 堰 周 辺 )
蕨尾堰周辺では、高水敷の侵食、護岸崩落、堤防の侵食、坂路崩壊などが生じた。図
4.12は 、被 災 状 況 の 概 要 を 示 し た も の で あ り 、そ の 被 災 プ ロ セ ス は 次 の よ う で あ っ た と
考 え ら れ る 。 ① 図 4.9の 痕 跡 水 位 か ら 明 ら か な よ う に 、 こ の 区 間 の 水 位 は 計 画 高 水 位 を
上 回 っ た 。 ② Cか ら E点 で 坂 路 を 含 め 高 水 敷 が 侵 食 さ れ た こ と を 踏 ま え る と 、 堤 防 沿 い
の流速もかなり速かった。
③ そ の た め 、 図 4.12中 の B
か ら C点 の 堤 防 で 、計 画 高
水位以上の護岸が施され
ていない堤防で侵食が生
じた。④さらに、高水敷
の 侵 食 に よ り 、C点 周 辺 で
大規模な護岸崩落が生じ
図 4.14 山 国 川 第 2橋 梁 周 辺 の 被 災 状 況 の 概 要
た。
4.3.2 ② 14.0km~ 17.0km区 間 (耶 馬 渓 橋 周 辺 、 青 の 洞 門 周 辺 )
耶馬渓橋周辺、青の洞門周辺では浸水および橋の欄干の流出等の被害が生じた。図
4.13は 、被 災 状 況 の 概 要 を 示 し た も の で あ り 、耶 馬 渓 橋 周 辺 で の 浸 水 お よ び 橋 の 欄 干 の
流出プロセスは次のようであったと考えられる。①耶馬渓橋周辺では多数の流木が残
されたことから、耶馬渓橋の欄干には流木が多数トラップされた。②そのために流れ
がせき止められたことに加え、橋上流の荒瀬井堰の影響により堰上が生じ、水位上昇
が 生 じ た 。③ 橋 の 欄 干 に 作 用 す る 流 体 力 が 増 大 し 、欄 干 が 流 出 し た 。④ さ ら に 、F点 は
周 辺 の 土 地 に 比 べ 相 対 的 に 標 高 が 低 い た め 、 そ の 周 辺 で は 30戸 (床 上 浸 水 : 11戸 、 床 下
浸 水 : 19戸 )が 浸 水 し た 。 ま た 青 の 洞 門 周 辺 で の 浸 水 プ ロ セ ス は 次 の よ う で あ っ た と 考
え ら れ る 。 ① 痕 跡 か ら 、 Cか ら D点 の 堤 防 の 天 端 近 傍 ま で 水 位 が 上 昇 し た 。 ② B点 で は
建物が河道に張り出しており、この区間の堤防高が低いために氾濫が生じ、その周辺
で は 43戸 (床 上 浸 水 : 36戸 、 床 下 浸 水 7戸 )が 浸 水 し た 。
4.3.3 ④ 24.0km~ 27.0km区 間 (山 国 川 第 2橋 梁 周 辺 )
山 国 川 第 2橋 梁 周 辺 で は 浸 水 被 害 、橋 脚 の 崩 壊 や 橋 桁 の 流 出 、護 岸 や 河 岸 の 侵 食 な ど の
被 害 が 生 じ た 。図 4.14は 、被 災 状 況 の 概 要 を 示 し た も の で あ り 、橋 脚 の 崩 壊 と 橋 桁 の 流
出 プ ロ セ ス は 次 の よ う で あ っ た と 考 え ら れ る 。① 増 水 に 伴 い 、図 中 の 青 矢 印 の よ う に 、
洪 水 の 主 流 方 向 は 堤 防 線 形 に 沿 っ た 方 向 と な っ た 。② 主 流 方 向 が 変 化 し 左 岸 側 (B点 側 )
に 流 れ が 集 中 す る こ と で 、 A~B点 に か か る 山 国 川 第 2橋 梁 に 作 用 す る 流 体 力 が 増 大 し
た。これに加え、流木による衝突力の影響もあった。③そのため、橋脚の崩壊、橋桁
の 流 出 が 生 じ 、流 出 し た 橋 桁 は C点 ま で 流 下 し た 。④ 橋 脚 の 崩 壊 は 口 ノ 林 堰 下 流 に 集 中
していることから、この堰が何らかの影響を与えた可能性もある。
以上が、現地調査より得られた被災プロセスであり、水衝部で大きな被害が生じて
おり、急流河川での洪水による被害のすさまじさを物語っている。
4.6
おわりに
本章では、山国川流域の浸水被害と河川管理施設の被災状況の把握、出水時の情報
伝 達 の 状 況 や 平 成 5年 水 害 時 の 降 雨 パ タ ー ン と の 比 較 、現 地 調 査 に 基 づ く 浸 水 や 護 岸 等
の河川管理施設の被災プロセスの推定、出水による河口域、中津干潟での土砂堆積状
況の把握を行うとともに、学生ボランティアによる復興支援活動について報告した。
本 研 究 か ら 、 (1) 7月 3日 、13~14日 の 豪 雨 の 特 徴 は 、短 時 間 集 中 豪 雨 で あ る こ と 、30mm
以上の強雨域の広がりは大きく、強雨域は源流域から本川に沿って、流れを追いかけ
る よ う に 移 動 し た こ と 、(2) 今 回 の 出 水 の 特 徴 は 、上 述 し た 強 雨 域 の 移 動 に よ り 流 出 が
短時間に集中し水位上昇が急激であったこと、荒瀬井堰よりも上流では、痕跡水位が
多 く の 区 間 で 計 画 高 水 位 を 上 回 っ た こ と 、 (3) 7月 3日 の 出 水 で 浸 水 面 積 58.1ha、 浸 水 家
屋 数 194戸 、7月 13~14日 の 出 水 で 浸 水 面 積 41.0ha、浸 水 家 屋 数 187戸 の 浸 水 被 害 が 、河 川
管 理 施 設 で は 主 に 護 岸 崩 落 な ど の 被 害 が 7月 3日 の 出 水 で 17ヶ 所 、7月 13~14日 の 出 水 で 4
ヶ 所 生 じ た こ と 、(4) 経 験 し た こ と の な い 短 時 間 で の 集 中 的 な 豪 雨 に 対 し て 、避 難 等 の
情 報 を ど の 時 点 で 指 示 す る か 、 あ ら た め て 検 討 す る こ と が 必 要 な こ と 、 (5) 10.0km~
12.0km区 間 (蕨 尾 堰 周 辺 )で の 高 水 敷 の 侵 食 、護 岸 崩 落 、堤 防 の 侵 食 、坂 路 崩 壊 プ ロ セ ス 、
14.0km~ 17.0km区 間 (耶 馬 渓 橋 周 辺 、青 の 洞 門 周 辺 )で の 浸 水 お よ び 橋 の 欄 干 の 流 出 プ ロ
セ ス 、 24.0km~ 27.0km区 間 (山 国 川 第 2橋 梁 周 辺 )で の 浸 水 、 橋 脚 の 崩 壊 や 橋 桁 の 流 出 、
護 岸 や 河 岸 の 侵 食 プ ロ セ ス 、 (6) 出 水 の 干 潟 へ の 影 響 と し て 、 特 に 河 口 の 施 設 ( 航 路 、
導 流 堤 )に よ り 洪 水 流 が 制 御 さ れ 、干 潟 面 へ の 堆 積 パ タ ー ン も 異 な る こ と 、(7) 大 学 生
にとって被災した地域において人々の生の声を聞けることは、彼らの今後の学習の動
機 付 け の た め に 貴 重 な 体 験 と な っ た こ と 、(8) 建 設 業 者 と ボ ラ ン テ ィ ア が 一 緒 に 作 業 を
していたが、建設業者と一般の人では作業の速度が全く違うので、一緒に作業をさせ
る の は 望 ま し く な い こ と 、(9) ボ ラ ン テ ィ ア に 参 加 す る こ と は 大 切 な こ と で あ る が 、そ
の経験を学習に活かせるように講義との連携をはからなければならないこと、などが
確認された。
参考文献
1)国 土 交 通 省 九 州 地 方 整 備 局 : 山 国 川 水 系 河 川 整 備 計 画【 原 案 】- 国 管 理 区 間 -、2008。
2)大 分 合 同 新 聞:被 災 地 ボ ラ ン テ ィ ア
大 学 が 後 押 し 、大 分 合 同 新 聞 07月 28日 付 記 事 、
2012
3)中 津 市 社 会 福 祉 協 議 会 Webペ ー ジ : http://www.nakatsu-s.or.jp/saigai/borasuuji.html、
2012。
4)日 本 経 済 新 聞 社 : 日 本 経 済 新 聞 電 子 版 ( 8月 15日 ) 、 2012。
5.矢部川の水災害
5.1
はじめに
矢 部 川 は 流 域 面 積 647km2、延 長 61kmの 福 岡 県 南 部 を 流 れ 有 明 海 に 注 ぐ 一 級 河 川 で あ
る 。 平 成 24年 (2012年 )7月 14日 に 襲 っ た 梅 雨 前 線 性 の 豪 雨 に よ り 、 矢 部 川 で も 甚 大 な 河
川災害が発生した。特に、本川と派川の沖端川においては堤防の決壊が発生し、浸水
面 積 は 約 2、579ha、浸 水 戸 数 約 1、870戸( う ち 、床 上 浸 水 704戸 、床 下 浸 水:1、166戸 。
平 成 24年 8月 2日 速 報 値 。た だ し 、内 水 被 害 も 含 む )と な る な ど 重 大 な 被 害 が 発 生 し た 。
当 日 の 降 雨 状 況 と し て は 、 黒 木 雨 量 観 測 所 に お い て 、 1時 間 雨 量 : 94mm、 3時 間 雨 量 :
183mm、6時 間 雨 量:303mm、9時 間 雨 量:365mm、と 全 て が 観 測 史 上 最 大 を 記 録 し た 。
そ れ に 伴 い 、 14日 9:00に 船 小 屋 水 位 観 測 所 地 点 で 、 観 測 史 上 最 高 と な る 9.76mの 水 位 を
観測し、これまでの既往最高であった平
成 2年 7月 2日 の 7.74mを 大 き く 更 新 し た 。
ま た 、計 画 高 水 位 と 同 等 の 水 位 が 4時 間 程
度 継 続 し 、本 川 7k300地 点 右 岸 が 砂 質 層 の
パイピングにより決壊を引き起こした
( 国 土 交 通 省 九 州 地 方 整 備 局 、 2012) 。
ま た 、 沖 端 川 12k200地 点 右 岸 と 13k400 地
図 5.1
点左岸において、越水による堤防決壊が
矢部川流域と調査地点
生じた。本節では、上流域の支川におけ
る流木の堆積状況と、本川と沖端川の堤
防に発生した水みちについての調査結果
を報告する。
5.2 流 木 の 氾 濫 ・ 捕 捉 に 関 す る 調 査
矢 部 川 流 域 上 流 の 支 川 星 野 川 、横 山 川 、
笠原川などに沿って多数の斜面崩壊が発
写 真 5.1
生した。現地調査において直接目視でき
個別に氾濫・堆積した流木
るもの、航空写真で判別できるものなど
数多くあるが、一方で樹林に隠れて目視
できない小規模な崩壊も少なくない。県
の資料によれば、八女市全体で、崖崩れ
158件 、 土 石 流 14件 、 地 滑 り 9件 が 発 生 し
た と も 言 わ れ て い る 1)。そ の 結 果 、大 量 の
崩壊土砂が樹木とともに河川に流れ込み、
写 真 5.2
洪水流が、流木・土砂・水混相流の様相
障害物(電柱)により捕捉され
集積した流木群
を呈して流下した。規模の大きくなった洪水流は、途中、側岸の土砂や樹木をも巻き
込みながら、さらに規模を増大させた。そのため星野川などに架かる多くの橋で橋脚
な ど の 障 害 物 に 流 木 が せ き 止 め ら れ て 群( Woody Debris Jam)を 形 成 し 、洪 水 流 の 流 下
の阻害要因となり氾濫を助長させた。
著者らは災害直後、矢部川、星野川の予備調査を行ったが、星野川沿いの山内、小野
地 区 で は 田 畑 や 河 川 敷 に 氾 濫・堆 積 し た 大 量 の 流 木 お よ び 流 木 群 が 観 察 さ れ た 。ま た 、
矢 部 川 中 流 の み や ま 市 瀬 高 町 に あ る 中 ノ 島 公 園 (船 小 屋 )の 水 害 防 備 林 で は 、 500本 を 越
え る ク ス ノ キ が 大 量 の 流 木 を 捕 捉 し て い た ( 図 5.1) 。 洪 水 流 下 の 阻 害 要 因 と な り う る
流木や流木群について、堆積あるいは捕捉の特性を調べることは今後の対策立案にお
い て 重 要 な こ と で あ る 。予 備 調 査 後 、著 者 ら は 、7、8、9月 お よ び 12月 に 延 べ 13回 に わ
たって現地調査を行った。本節では、それらの結果を報告する。
5.2.1 星 野 川 に お け る 流 木 の 氾 濫 に 関 す る 調 査
氾 濫 し た 流 木 に は 、 個 別 に バ ラ バ ラ で 散 乱 し た 状 態 で 堆 積 し た 流 木 ( 写 真 5.1) と 、
群 と し て 集 積 ・ 堆 積 し た 流 木 ( 写 真 5.2) と が 観 察 さ れ た 。 流 木 群 は 、 建 物 、 電 柱 、 地
形的な変化など氾濫流にとって障害となるよ
う な 物 体 に よ っ て 捕 捉 さ れ て い る 。解 析 に 際 し
て は 、個 別 に 散 乱 し た 状 態 で 堆 積 し た 流 木 と 集
積・堆積した流木群とに分けて解析した。
a) 山 内 地 区 に お い て 氾 濫 し た 流 木 の 特 性
山 内 地 区 で は 、山 内 橋 か ら 板 付 橋 の 区 間 の 右 岸
側 の 田 畑 に 流 木 が 大 量 に 氾 濫 し た( 図 5.2)。ま
ず、個別に散乱・堆積した流木について、その
図 5.2 星 野 川 に 架 か る 山 内 橋 か ら
板付橋の区間における調査対象地点
長 さ の 統 計 的 な 特 性 を 調 べ た 。そ の 結 果 を 図 5.3
に示す。
氾 濫 し た 流 木 に は 、L=2m~4mの 範 囲 の 流 木 が 最
も多かったことが分かる。流木の平均の長さ
L=3.7m、 変 動 係 数 L= で あ っ た 。 次 に 、
集積・堆積した流木群について、その捕捉され
た 量 と 障 害 物 の 遮 蔽 面 積 と の 関 係 を 調 べ た( 図
5.4)。両 者 は 、バ ラ ツ キ は あ る が 、ほ ぼ 線 形 的
な関係にあることが分かる。
b) 小 野 地 区 に お い て 氾 濫 し た 流 木 の 特 性
図 5.3 個 別 に 氾 濫・堆 積 し た 単 独 流
木の長さに関する頻度分布
小 野 地 区 で は 、蛇 淵 橋 か ら 長 瀬 橋 の 区 間 の 河 川
敷 に 流 木 が 大 量 に 氾 濫・堆 積 し た( 図 5.5)。図
中 D地 区 で は 右 岸 側 に 、E地 区 で は 左 岸 側 の 河 川
敷に氾濫した。その大部分は、個別に散乱・堆
積 し た 流 木 で あ っ た( 写 真 5.3)。現 地 に お い て 、
直 接 、そ れ ぞ れ の 流 木 の 長 さ と 直 径 を 測 定 し た 。
ま ず 、図 5.6に そ の 結 果 を 示 す 。相 関 係 数 は 0.305
であり、あまり相関はない。したがって、長さ
と 直 径 は 互 い に 独 立 で あ る と し て 、統 計 的 な 特
性を調べた。
図 5.7は 、堆 積 し た 流 木 の 長 さ に 関 す る 頻 度 分
図 5.4 障 害 物 に 捕 捉 さ れ た 流 木 群
の体積
布 で あ る 。 流 木 は 最 小 が L=2.1m、 最 長 が L = 21.2mで あ り 、 そ の ほ と ん ど が 長 さ L=2m
~ 8mの 範 囲 に 入 る こ と が 分 か る 。 平 均 L=7.10m、 変 動 係 数 L= 0.590で あ っ た 。
図 5.8は 流 木 の 直 径 に 関 す る 頻 度 分 布 を 示 し た も の で あ る 。 最 小 径 が D=0.07m、 最 大 径
D=0.43m で あ っ た 。 そ の ほ と ん ど が 直 径 D=0.1m ~
0.3mの 範 囲 に 入 る 。 平 均 D=0.196m、 変 動 係 数 D=
表 5.1 氾 濫 ・ 堆 積 し た 流 木 ス ケ
ールの統計量
0.386で あ っ た 。
小野
山内
船小屋
L(m)
7.1
3.7
4.93
L
0.59
0.557
0.853
各地区で測定された流木スケールの平
均 と 変 動 係 数 を ま と め る と 表 5.1と な る 。
5.2.2
D(m)
0.196
0.13
D
0.386
1.03
矢部川における水害防備林の流木
捕捉に関する調査
矢部川中流にはみやま市瀬高町の中ノ
島 公 園 (船 小 屋 )に 水 害 防 備 林 が 存 在 す る 。
中 ノ 島 公 園 の 平 均 標 高 は 約 12mで あ り 、 水
位 が 12mを 越 え た 時 間 が 水 害 防 備 林 の 浸 水
時 間 と 考 え ら れ る 。そ の 結 果 、浸 水 時 間 は
図 5.5 星 野 川 に 架 か る 小 野 地 区 蛇 淵 橋
から長瀬橋の区間における調査対象地
点
約 13 時 間 で あ
っ た 2) 。 こ の
時間内に水害
防備林のクス
ノキ林が大量
の流木を捕捉
し た (写 真 5.4、
5.5)。こ の 水 害
防備林による
流木の捕捉状
写 真 5.3 小 野 地 区 の 河 川 敷 に 氾
濫・堆積した流木
況を調査した。
図 5.6
小野地区において氾
濫・堆積した流木の長さと直径
との関係
流木群を立木
単独で捕捉し
ているものと、
近接する立木
が複数で捕捉
しているもの
とがあった。
解析に際して
は、複数の立
木で捕捉した
図 5.7 小 野 地 区 に お い て 氾
濫・堆積した流木の長さに関す
る頻度分布
図 5.8
小野地区において氾
濫・堆積した流木の直径に関す
る頻度分布
ものと、単独の立木で捕捉したものとは区別した。
a) 調 査 の 方 法
中 ノ 島 公 園 (船 小 屋 )の 水 害 防 備 林 に 捕 捉 さ れ た 流 木 群 に つ い て 高 さ と 幅 (上 流 側 か ら
垂 直 に 見 た 幅 )お よ び 、 そ の 流 木 群 の 中 で 最 大 の 流 木 の 長 さ と 流 木 の 直 径 を 測 定 し た 。
竹以外の捕捉物で長さが最大のものを、最大流木と定義した。さらに、流木を捕捉し
た 立 木 お よ び 構 造 物 (街 灯 な ど )に つ い て 高 さ と 直 径 を 測 っ た 。直 接 測 定 が 困 難 な ケ ー ス
に つ い て は 、ポ ー ル を 立 て て 上 流 側 と 両 側 面 の 3方 向 か ら 写 真 撮 影 し た 。流 木 群 の 高 さ
と幅および最大流木の直径については平均的な箇所を測り、捕捉した立木の直径につ
い て は 地 面 か ら 1.5mの 所 を 測 っ た 。
b) 調 査 の 結 果
捕捉された流木
群から抽出された
最大流木の長さと
直径の頻度分布を
図 5.9、 5.10に 示 す 。
長 さ は 4m<L<6m 、
写 真 5.4 捕 捉 さ れ た 流 木 群
直 径 は D<0.1m の (上 流 側 か ら 撮 影 )
写 真 5.4 捕 捉 さ れ た 流 木 群
(上 流 側 か ら 見 て 右 側 面 か ら 撮 影 )
流木が多いことが
分かる。それらの
平均と変動係数は
そ れ ぞ れ L=4.93m 、
L = 0.853 、
D=0.13m 、 D =
1.03 と な っ た 。 図
5.11 は 、 捕 捉 さ れ
た流木群内の最大
流木の直径と長さ
図 5.9捕 捉 最 大 流 木 の 長 さ に
関する頻度分布
図 5.10 捕 捉 最 大 流 木 の 直 径
に関する頻度分布
の関係を示してい
る。全体として直
径の大きな流木は
長さも長い傾向に
あるが、複数樹木
で捕捉された流木
の方が単独樹木で
捕捉された流木よ
りもスケールが大
きいことがわかる。
図 5.11 捕 捉 最 大 流 木 の 長 さ
と直径の関係
図 5.12 遮 蔽 面 積 と 捕 捉 体 積
の関係
次 に 、図 5.12は 、流 木 捕 捉 量( 体 積 )と 流 れ に 対 す る 立 木 の 遮 蔽 面 積 と の 関 係 を 調 べ た
ものである。ここに、上流の星野川流域の山内・小野地区において氾濫し形成された
流木群についてもプロットしている。複数の立木の遮蔽面積は、立木間の空隙の部分
も 含 め た 遮 蔽 面 積 を 採 用 し た 場 合 と 実 質 部 分 の 遮 蔽 面 積 の み を 採 用 し た 場 合 の 2ケ ー
スについて調べた。
遮 蔽 面 積 が 大 き い ほ ど 流 木 捕 捉 量( 体 積 )が 大 き い こ と が 分 か る 。流 木 捕 捉 量( 体 積 )
VDと 遮 蔽 面 積 Aと は 、VD∝ A4/3の 関 係 を 示 し て い る 。ま た 、複 数 の 立 木 で 捕 捉 し た 流
木捕捉量と遮蔽面積の関係を見ると、立木の実質部分よりは、立木間の空隙も含めた
遮蔽面積を採用した場合の方がより相関性があることが分かる。
5.2.3 結 論
今回の矢部川の水害おいては、上流域で多数の斜面崩壊が発生し、崩壊土砂と樹木が
河 川 に 大 量 に 流 れ 込 ん だ 結 果 、流 木・土 砂・水 混 相 流 の 様 相 を 呈 し た 洪 水 流 が 流 下 し 、
各 所 で 、土 砂 と 流 木 に よ る 河 道 上 昇 あ る い は 河 道 の 一 部 閉 塞 が 生 じ 、氾 濫 が 発 生 し た 。
氾濫した洪水流は大量の流木を堆積させた。また河川公園ではクスノキ林が流木を捕
捉した。堆積あるいは捕捉された流木や流木群について、その特性を調べた。流木の
平 均 長 さ は 上 流 の 小 野 地 区 で 7m、 下 流 の 山 内 、 船 小 屋 で は 4~ 5mで あ っ た 。 流 木 の 平
均 直 径 は 0.1~ 0.2mで あ っ た こ と が 分 か っ た 。 ま た 、 複 数 の 立 木 で 捕 捉 さ れ た 流 木 の 方
が 、単 独 の 立 木 で 捕
捉された流木より
もスケールが大き
いことがわかった。
こ の た め 、ク ス ノ キ
林が密集する船小
屋の水害防備林は
流木捕捉において
有効だと考えられ
る 。ま た 、流 れ に 対
する立木の遮蔽面
写 真 5.6 堤 防 で 確 認 さ れ た
孔 ( 2012 年 7 月 16 日 撮 影 , 矢
部 川 決 壊 地 点 上 流 200m 右 岸
側 : 裏 の り 面 , 直 径 5-10cm)
a)調 査 位 置
積と流木捕捉量の
間 に VD ∝ A4/3 の 関
係が見られた。
5.3
矢 部 川・沖 端 川
における堤防調査
b)
5.3.1 背 景 と 目 的
矢部川調査位置
図 5.13
c) 沖 端 川 調 査 位 置
調査位置図
( 2012 年 7 月 16 日 撮
影 、矢 部 川 決 壊 地 点
上 流 200m右 岸 側:裏
の り 面 、直 径 5-10cm)
九州北部豪雨に
よる矢部川におけ
写 真 5.7
調査位置風景(左:矢部川表のり面,中央:矢部川
裏のり面,右:沖端川裏のり面)
る堤防決壊の特徴
として、計画高水位を超過していたものの、越流は生じていなかったこと、水衝部で
はない内岸側において生じた点が挙げられる。これに対して、矢部川堤防調査委員会
に お い て 堤 防 決 壊 メ カ ニ ズ ム が 検 討 さ れ 、 堤 防 基 盤 地 層 の 砂 層 ( As層 ) を 通 じ た パ イ
ピング現象が破壊の要因であったと結論されている。破堤箇所周囲やその他の地点を
探 査 す る と 、堤 防 の 法 尻 部 や 表・裏 の り 面 に お い て 、後 述 す る よ う に 、1~ 2m2に 1個 の
小 孔 が 確 認 さ れ た ( 写 真 5.6) 。 こ の よ う な 小 孔 が そ も そ も 堤 防 表 面 上 に ど の 程 度 存 在
し 、そ の 穴 の サ イ ズ( 直 径 や 深 さ )が ど の 程 度 な の か 等 に 関 し て は 当 該 地 域 に 限 ら ず 、
明らかにされた事例は少ない。本調査は、矢部川及び沖端川を一つの対象とし、堤防
に 形 成 さ れ た 孔 の 空 間 分 布 や そ の サ イ ズ を 明 ら か に す る た め に 、現 地 調 査 を 実 施 し た 。
5.3.2
調査・分析の概要
観 測 場 所 は 、 図 5.13に 示 す よ う に 、 矢 部 川 右 岸 破 堤 地 点 よ り 約 200m( 福 岡 県 柳 川 市
大和町六合地先)の表裏両堤防のり面と沖端川左岸破堤地点の対岸に位置する右岸側
の 堤 防 裏 の り 面 ( 福 岡 県 筑 後 市 下 妻 地 先 ) 、 と い う 2箇 所 を 選 定 し た 。 現 地 の 様 子 は 、
写 真 5.7に 示 す と お り で あ る 。
堤 防 に 形 成 さ れ た 孔 の 調 査 に 際 し て は 、堤 防 と 平 行 方 向 に 10m区 間 を 設 け 、堤 防 の り 尻
から天端まで対象に、観測者が目視にて堤防表面上の小孔を探査した。見つけられた
小 孔 の 位 置 を 計 測 す る と 共 に ( 巻 尺 及 び RTK-GPS( Trimble R6、 米 国 Trimble社 製 ) を
使用)、孔の直径(短径・長径)及び深さをハンドメジャー及び針金を用いて計測し
た 。調 査 日 時 は 平 成 24年 12月 6日 お よ び 7日 で あ る 。ま た 、沖 端 川 の 堤 防 表 の り 面 で は 、
堤 体 材 料 を 採 取 し 、 実 験 室 に て ふ る い 及 び レ ー ザ ー 回 折 式 粒 径 分 析 器 ( SALD-3100、
島津製作所(株)製)を用いて粒径分布を測定するとともに、締固め曲線を求めて締
固 め 度 Dcの 測 定 を 行 っ た 。
5.3.3 調 査 結 果
a)横 断 面 測 量 結 果
矢 部 川 の 調 査 サ イ ト に お け る 堤 防 の 横 断 面 測 量 結 果 を 図 5.14に 示 す 。調 査 サ イ ト に お
いては、表のり面より裏のり面の方が平均的な勾配が緩く、裏のり尻には水路が存在
し て い た 。 堤 防 の り 面 の 具 体 的 勾 配 に つ い て は 、 表 の り 面 で 2割 5分 程 度 、 裏 の り 面 で
は 、 2割 か ら 4割 5分 と な っ て い る 。 沖 端 川 の 調 査 サ イ ト に お け る 断 面 測 量 結 果 を 図 5.15
に示す。本調査サイトでは、表のり面のみに小段が設けられている。のり面勾配とし
て は 、 表 の り 面 と 裏 の り 面 で 2割 5分 程 度 と 大 き な 差 は な い 。 ま た 、 天 端 高 は 矢 部 川 の
調査区における高さと
ほぼ同じである。
b)堤 防 表 面 に お け る 小 孔
の空間マップ
図 5.16は 本 調 査 に よ り 探
索された堤防表面上に
おける小孔位置におけ
図 5.14 矢 部 川 調 査 断 ・ 断
面測量結果
図 5.15 沖 端 川 調 査 断 ・ 断
面測量結果
る孔平均径と深さを示
し て い る 。こ こ で の 平 均
径とは、短径・長径の平
均値とする。また、図中
横軸は基準点からの堤
防 平 衡 方 向 距 離 、縦 軸 は
標 高 と し て い る 。こ れ よ
り、矢部川表のり面、裏
の り 面 、沖 端 川 の り 面 に
図 5.17
小孔の存在密度の鉛直分布
お い て 、 そ れ ぞ れ 、 114個 、 51個 、 68個 の 孔 が
あ り 、 平 均 存 在 密 度 は そ れ ぞ れ 、 0.72個 /m2、
0.22個 /m2、0.62個 /m2で あ る 。小 孔 の 分 布 に 着
目 す る と 、矢 部 川 表 の り 面 で は 天 端 近 傍 に 小 孔
が 集 中 し て い る が 、裏 の り 面 で は む し ろ の り 尻
近 傍 に 比 較 的 多 く の 小 孔 が 見 ら れ 、沖 端 川 裏 の
り 面 で は 、天 端 付 近 よ り 法 尻 付 近 に 多 い 。こ の
様 子 は 、こ れ ら の デ ー タ を 堤 防 平 行 方 向 に 平 均
し 、標 高 毎 に ま と め た 結 果 か ら も 見 ら れ る( 図
図 5.18 沖 端 川 及 び 矢 部 川 河 川 堤
防における材料粒径分布
5.17)。ま た 、小 孔 の 平 均 径 や 深 さ に つ い て は 、
顕 著 に 偏 在 し て い る 様 子 は 確 認 で き な い が 、矢
部川表のり面での小孔サイズが他と比べてや
や 大 き い 。こ こ で 、小 孔 の 総 面 積( 各 小 孔 の 面
積 の 平 均 径 よ り 求 め 、そ の 総 和 )を 求 め 、そ れ
を 対 象 サ イ ト の 面 積 で 除 し た も の を 、小 孔 占 有
率 と す る と 、矢 部 川 の 表・裏 の り 面 の 小 孔 占 有
率 は そ れ ぞ れ 1.00%、 0.21%と な る 。 ま た 、 沖
図 5.19 沖 端 川 堤 防 表 面 ( 5cm) の
サンプルの締固め曲線
端 川 に お け る 小 孔 占 有 率 は 0.67%
であり、矢部川の表のり面と裏の
り面との間の値を取る。
c)堤 体 材 料 の 諸 元
沖端川表のり面において採取され
た 土 砂 の 粒 径 分 布( 粒 径 加 積 曲 線 )
を 図 5.18に 示 す 。こ の 結 果 を 見 る と 、
沖端川の堤防土砂は粘土やシルト
などの細粒分を比較的多く含有し
ていることが分かる。
図 5.20
め 度 Dc
沖 端 川 堤 防 表 面 ( 5cm) サ ン プ ル の 締 固
次に、沖端川表のり面で採取した堤防土サンプルを用いて、含水比に対する乾燥密
度 を 求 め た 結 果 を 図 5.19に 示 す 。 こ れ よ り 、 サ ン プ ル の 最 大 乾 燥 密 度 は 1.47g/cm3で あ
り 、 堤 防 土 コ ア サ ン プ ル よ り 得 ら れ た 乾 燥 密 度 か ら 締 固 め 度 Dc( サ ン プ ル 土 砂 の 最 大
乾 燥 密 度 に 対 す る サ ン プ ル 乾 燥 密 度 の 比 )を 求 め た も の が 図 5.20で あ る 。こ れ よ り 、全
地 点 に お い て 堤 防 の 締 固 め 度 の 管 理 基 準 と な っ て い る 85%を 下 回 っ て い る 。特 に 、堤 防
斜 面 に あ た る 天 端 か ら 5.3m地 点 は 締 固 め 度 が 50%程 度 と 低 い 。
5.4
おわりに
矢部川水系について、上流支川における流木被害の状況分析と、堤防決壊箇所にお
ける水みちの形成について調査を行った。その結果、以下のことが明らかになった。
(1)矢 部 川 上 流 域 で 多 数 の 斜 面 崩 壊 が 発 生 し 、 崩 壊 土 砂 と 樹 木 が 河 川 に 大 量 に 流 れ 込 ん
だ結果、各所で土砂と流木による河道上昇あるいは河道の一部閉塞が生じ、氾濫が発
生した。
(2)流 木 の 平 均 長 さ は 、上 流 の 小 野 地 区 で 7m、下 流 の 山 内 、船 小 屋 で は 4~ 5mで あ っ た 。
平 均 直 径 は 0.1~ 0.2m で あ っ た 。
(3)ク ス ノ キ 林 が 密 集 す る 船 小 屋 の 水 害 防 備 林 は 流 木 捕 捉 に お い て 有 効 で あ る 。 ま た 、
流 れ に 対 す る 立 木 の 遮 蔽 面 積 と 流 木 捕 捉 量 の 間 に VD∝ A4/3の 関 係 が 見 ら れ た 。
(4)矢 部 川 の 表 ・ 裏 の り 面 の 小 孔 占 有 率 は そ れ ぞ れ 1.00%、 0.21%で あ っ た 。 ま た 、 沖 端
川 に お け る 小 孔 占 有 率 は 0.67%で あ り 、矢 部 川 の 表 の り 面 と 裏 の り 面 と の 間 の 値 を 取 っ
た。
(5)沖 端 川 の 堤 防 材 料 は シ ル ト ・ 粘 土 等 細 粒 分 の 含 有 率 が や や 少 な く 、 細 砂 の 構 成 比 が
高い傾向がある。
(6)全 地 点 に お い て 堤 防 の 締 固 め 度 の 管 理 基 準 と な っ て い る 85%を 下 回 っ て い る 。特 に 、
堤 防 斜 面 に あ た る 天 端 か ら 5.3m地 点 は 締 固 め 度 が 50%程 度 と 低 い 。
謝辞:本調査に際して、福岡県より航空写真の提供を受けた。九州大学大学院工学府
の 池 松 伸 也 、 M. I. Rusyda、 橋 村 京 介 、 大 仲 修 、 東 京 理 科 大 学 大 学 院 理 工 学 研 究 科 の 倉
上由貴、堀田琢哉、同大理工学部の矢田孝次朗、山崎達也の各氏に多大な助力を受け
た。ここに記して謝意を表します。
参考文献:
1) 福 岡 県 : 7月 13日 か ら の 大 雨 に 関 す る 情 報 ( 第 32報 ) 、 2012年 8月 3日 。
2) 国 土 交 通 省 :川 の 防 災 情 報 (http://www.river.go.jp/)
3) 第 3回 矢 部 川 堤 防 調 査 委 員 会 ( 資 料 2、 被 災 メ カ ニ ズ ム に つ い て )
国土交通省九
州 地 方 整 備 局 筑 後 川 河 川 事 務 所 、 2012年 10月
6.筑後川水系の水災害
6.1 花 月 川 の 水 災 害
6.1.1 は じ め に
今 回 の 平 成 24年 (2012年 )7月 3日 、な ら び に 11日 ~ 14日 に 九 州 北 部 を 襲 っ た 梅 雨 前 線 性
の豪雨により、筑後川の大分県内の流域で甚大な河川災害が発生した。筑後川本川に
お い て は 重 大 な 被 害 が 発 生 し な か っ た も の の 、支 川 で は 花 月 川 の 堤 防 2カ 所 の 決 壊 を 含
む多数の被害が発生した。本節では、筑後川水系大分県域で最も被害の大きかった花
月川を中心に行った調査結果について報告する。
6.1.2 花 月 川 の 降 雨 ・ 出 水 の 状 況 に つ い て
筑後川の支川である花月川は大分県日
田 市 内 を 流 れ 、 流 域 面 積 136.1km2 、 延 長
16.6km[ 日 田 市 (2005)] を 持 ち 、 本 川 と の
合 流 地 点 か ら 上 流 8.7km地 点 ま で が 国 直 轄
区間、それより上流が大分県管理区間であ
図 6.1 花 月 川 ( 国 直 轄 区 間 )
表 6.1 降 雨 の 確 率 年( ア メ ダ ス 日 田 地 点 )
る ( 図 6.1) 。 ま た 、 主 な 支 川 と し て 5.2km
地点で合流する有田川(大分県管理、延長
13.7km) と 県 管 理 区 間 で あ る 8.8km地 点 で
合 流 す る 小 野 川( 大 分 県 管 理 、延 長 10.3km)
がある。流域内に国土交通省の花月水位観
測 所 、花 月 雨 量 観 測 所 、横 畑 雨 量 観 測 所( 有
田川上流域)、ならびに流域近傍にアメダス日田観測所がある。過去の重大な水害と
し て 、著 名 な 昭 和 28年 6月 の 洪 水 (花 月 : 期 間 雨 量 666.1mm)、昭 和 54年 6月 水 害 、昭 和 60
年 6月 水 害 、 な ら び に 平 成 13年 7月 水 害 な ど の 梅 雨 前 線 性 豪 雨 に よ る も の が あ る 。 そ の
他に、風倒木の大規模発生に伴い花月川で流下能力不足となった橋梁の改築や流木の
監 視 体 制 が 整 備 さ れ た 平 成 3年 9月 の 台 風 17号 、 19号 に よ る 災 害 も あ る 。 平 成 15年 10月
に 策 定 さ れ た 整 備 基 本 方 針 で は 、 花 月 川 花 月 地 点 に お い て 基 本 高 水 流 量 を 1、
400m3/s(1/150確 率 )、 計 画 高 水 流 量 を 1、 200m3/sと 決 め ら れ 、 平 成 18年 7月 策 定 の 整 備
計 画 で は 1、 100m3/sが 整 備 目 標 と 設 定 さ れ て い る 。
今 回 の 豪 雨 で は 、7月 3日 に 花 月 雨 量 観 測 所 で 1時 間 雨 量 81mm、3時 間 雨 量 172mmの 既 往
最 大 降 雨 を 記 録 し た 。ま た 、14日 に は 同 地 点 で 1時 間 63mm、3時 間 124mmを そ れ ぞ れ 記
録 し て い る 。 表 6.1に ア メ ダ ス 日 田 地 点 に お け る 両 日 の 降 雨 に つ い て 、 土 木 研 究 所 が 開
発 し た 確 率 降 雨 解 析 プ ロ グ ラ ム[ 土 木 研 究 所 (2002)]を 用 い て 得 ら れ た 確 率 年 に つ い て
示 す 。各 時 間 降 雨 は デ ジ タ ル 台 風( http://agora.ex.nii.ac.jp/digital-typhoon/)の デ ー タ ベ
ー ス か ら 最 大 雨 量 を 得 て い る 。こ れ よ り 、3日 が 短 時 間 豪 雨 で あ り 、14日 が 日 単 位 の 豪
雨であったという特徴がみられる。
花 月 水 位 観 測 所 で は 、 3日 9:30に 既 往 最 大 水 位 4.16mを 記 録 し 、 さ ら に 14日 7:30に は
4.37mと 記 録 を 更 新 し た 。 こ れ ま で の 既 往 最 高 水 位 は 昭 和 47年 7月 5日 2:00に 記 録 さ れ た
3.68mで あ っ た が 、今 回 は 計 画 高 水 位 4.48mと ほ ぼ 同 じ 水 位 ま で 上 昇 し 、河 道 内 全 域( 13
箇 所 ) で 越 水 が 生 じ た 。 次 節 で 詳 述 す る よ う に 、 3 日 に は 5.8km左 岸 ( 堤 防 決 壊 延 長
L=160m)と 6.2km右
岸 ( 同 200m ) で 堤
防 が 決 壊 し た 。こ れ
らの氾濫により、3
日 は 121.3ha が 浸 水
し た 。破 堤 部 の 応 急
復 旧 は 24 時 間 体 制
で 行 わ れ 、 5.8km地
点 は 11 日 8:30 に 、
図 6.2 7 月 14 日 出 水 の 再 現 計 算 結 果 と 降 雨 パ タ ー ン の 影 響 評 価
(花月地点)
6.2km地 点 は 13日 12:00に 完 了 し 、 14日 出 水 の 直 前 に よ う や く 終 了 し た 。 14日 に は 再 び
越 水 に よ り 79haが 浸 水 し た が 、 決 壊 は 生 じ な か っ た た め 3日 と 比 べ る と 被 害 家 屋 数 も
721戸 か ら 282戸 と 半 分 以 下 に な っ た 。筑 後 川 河 川 事 務 所 の 解 析 に よ る と 、3日 の 氾 濫 流
量 を 含 ま な い 花 月 地 点 流 量 は 1、 300m3/sで あ り 、 14日 は 1、 400m3/sで あ っ た と 見 積 も
られており、氾濫前は基本高水流量を超えていたと推測される。
今 回 の 2度 の 出 水 に つ い て 、分 布 型 流 出 モ デ ル を 用 い て 再 現 計 算 を 行 っ た 。使 用 し た
モ デ ル は 朴 ら (2009)に よ り 開 発 さ れ た 有 明 海 全 流 域 を 対 象 と し た 分 布 型 モ デ ル で あ り 、
花 月 川 流 域 の 河 道 の 再 現 性 を 向 上 さ せ た モ デ ル で あ る 。グ リ ッ ド サ イ ズ は 1km×1kmで
あ り 、 降 雨 に は レ ー ダ ー ア メ ダ ス 解 析 雨 量 を 与 え た 。 14日 出 水 の 再 現 結 果 を 図 6.2に 示
す 。図 中 ピ ン ク の 実 線 が 再 現 計 算 結 果 で あ り 、青 色 実 線 の 花 月 実 測 流 量 に 氾 濫 量 40m3/s
を 加 え た ピ ー ク 流 量 が 再 現 さ れ た 。 こ の モ デ ル を 用 い て 、 14日 降 雨 に つ い て 、 (1)13日
の 初 期 降 雨 が な い 場 合 、 (2)加 え て 14日 未 明 の 一 山 目 の 降 雨 も 無 く し た 場 合 に つ い て 計
算 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、 既 往 最 大 ピ ー ク 流 量 は 14日 未 明 の 一 山 目 の 先 行 降 雨 が 効 い て
いたことが分かった。
8k
6k
7k
4k
5k
堤防決壊
右 岸 6.2km
(坂 本 橋 上 流 )
図 6.3 花 月 川 浸 水 箇 所 平 面 図 4~ 8km 付 近 ( 筑 後 川 河 川 事 務 所 提 供 )
髪永井堰
図 6.4 花 月 川 6km 付 近 被 災 前 平 面 図 ( 筑 後 川 河 川 事 務 所 提 供 ; H21 年 度 測 量 平 面 図 )
6.1.3 花 月 川 と 対 象 箇 所 の 被 害 概 要 ( 堤 防 決 壊 右 岸 6.0~ 6.2km付 近 )
花 月 川 で は 7月 3日 の 出 水 に お い て 、堤 防 決 壊 2箇 所 、越 水 13箇 所 が 発 生 し 、堤 内 地 へ
の 氾 濫 拡 大 に よ り 日 田 市 街 地 の 家 屋 等 資 産 に 甚 大 な 被 害 を 与 え た 。応 急 復 旧 後 の 7月 14
日は観測史上最高水位を更新する出水であったが、新たな決壊に至る事はなかったも
のの越水被害等により、再び市街地に甚大な氾濫被害を及ぼした。ここでは、花月川
右 岸 6.2km付 近( 坂 本 橋 上 流 : 住 吉 地 区 )の 堤 防 決 壊 箇 所( 図 6.3、4、写 真 6.1)を 対 象
に現地調査結果や応急復旧した堤防の再度被災状況等から被災機構の分析及び原因に
ついて考察を行うものとした。
写 真 6.1 決 壊 状 況( 筑 後 川 河 川 事 務 所 )
写 真 6.2 決 壊 区 間 6.1k 付 近 よ り 上 流
写 真 6.3 決 壊 箇 所 5.8k 左 岸 の 対 岸 の
土砂堆積
写 真 6.4 護 岸 崩 壊 箇 所 5.6k 右 岸 の 対
岸の土砂堆積
横 断 図 6.0k
横 断 図 6.2k
①根 固 め・基 礎 部 の洗 掘
②根 固 工 ・基 礎 の流 出
③護 岸 の不 安 定 化
④護 岸 の崩 壊 ・流 出
⑤さらなる侵 食 の繰 返 し
図 6.5 決 壊 部 横 断 図 :( H21 定 期 測 量 )
より推定
図 6.6 下 流 端 横 断 図 :( H21 定 期 測 量 )
a) 護 岸 損 壊 ~ 決 壊 の 状 況 と 断 面 構 造
7月 3日 の 水 位 観 測 記 録 に よ れ ば 2時 間 で 4.5mも の 水 位 上 昇 を 記 録 、午 後 、堤 防 決 壊 時
点 で の 水 位 は 低 下 状 況 に あ り 、 わ ず か 2~ 3時 間 程 度 の 極 め て 短 時 間 で 決 壊 に 至 り 堤 内
地への氾濫を生じた。
堤防決壊箇所では洪水中に規模の大きな砂州が形成され、洪水流が堤防側に偏流を
起こして河床洗掘や側方侵食による被災が発生したと考えられる。なお、今回被災を
受けた未改修の堤防は、県管理時に造られた古い堤防である。毎年、出水期前に実施
している堤防点検で特に異常は確認されていなかったようだが、堤体の崩壊面に玉石
や砂レキ主体の状況が観察され、粘着力の少ない土質構造であり侵食速度は早く、短
時 間 で 護 岸 崩 壊 と 侵 食 が 連 鎖 的 に 拡 大 し た と 考 え ら れ る ( 写 真 6.2-4、 図 6.5) 。
b) 規 模 の 大 き い 二 度 目 の 出 水 に よ る 河 道 の 再 度 の 被 災 状 況 を 踏 ま え た 考 察
応 急 復 旧 の 完 了 後 、 7月 14日 の 出 水 で は 既 往 最 高 水 位 を 観 測 ( 4.37m) し た も の の 、 越
水 に は 至 ら ず 当 該 区 間 で は 天 端 付 近 に 達 す る 水 位 に も 耐 え た と 推 察 さ れ る 。7月 15日 の
根 固 工 が流 出
張 ブロックが
一 部 流 出 ・崩 壊
写 真 6.5 河 道 状 況 ( H18 年 撮 影 ・ 筑 後 川 河 川
事務所)
写 真 6.6* 応 急 復 旧 箇 所 の 被 災 状 況
(拡大)
拡 大 (写 真 -6参 照 )
6.0k
6.2k
写 真 6.7* 坂 本 橋 付 近
写 真 6.8* 応 急 復 旧 区 間 の 出 水 時 状 況
[*:平 成 24 年 7 月 15 日 12 時 頃 撮 影( 筑 後 川 河 川 事 務 所 提 供 )]
撮 影 写 真 に よ り 応 急 復 旧 区 間 ( 200m) の 特 に 下 流 区 間 に お い て 、 根 固 め ブ ロ ッ ク 及 び
復旧した張ブロック護岸の一部流出を生じた。河道湾曲部の下流端よりさらに下流の
直 線 区 間 に お い て 崩 壊 が 顕 著 に 生 じ て い る ( 写 真 6.5-8) 。
過 去 の 平 面 地 形 図 及 び 横 断 図( H21年 度 定 期 縦 横 断 測 量 )に よ れ ば 、6.0~ 6.1km区 間
の 右 岸 側 は 土 砂 が 堆 積 、 澪 筋 は 河 道 中 央 付 近 に あ り 複 断 面 に 近 い ( 図 6.6) 。 し か し 、
今 回 の 出 水 で は 湾 曲 区 間 下 流 端 か ら 直 線 部 に 及 ぶ 箇 所( 6.0~ 6.1km)で 右 岸 側 の 土 砂 は
侵食され著しい洗掘を生じており、応急復旧後においても当該区間の右岸基礎部は再
び強い侵食作用を受けたと考えられる。
湾曲区間の下流区間において、強制渦による横断方向の二次流により外岸側に強い深
掘れが生じ、短時間での洗掘により護岸は足下から安定性を失い、連鎖的に崩壊が伝
搬・拡大したと考えられる。
参考文献:
1) 日 田 市 (2005): 日 田 の 水 資 源 , 210p.
2) ( 独 ) 土 木 研 究 所 (2002): 確 率 降 雨 解 析 プ ロ グ ラ ム 利 用 の 手 引 き , Version1.0, 8p.
3) 九 州 地 方 整 備 局 (2012): 梅 雨 前 線 に 伴 う 平 成 24年 7月 3日 出 水 に つ い て (速 報 版 第 4報 )
[筑後川,山国川水系等]
4) 九 州 地 方 整 備 局 (2012): 平 成 24年 7月 3日 か ら の 梅 雨 前 線 豪 雨 に よ る 被 害 と 九 州 地 方
整備局の対応
5) 九 州 地 方 整 備 局 (2012): 梅 雨 前 線 に 伴 う 平 成 24年 7月 13・ 14日 出 水 に つ い て (速 報 版
第 3報 )( 矢 部 川 水 系 , 筑 後 川 水 系 , 山 国 川 水 系 , 遠 賀 川 水 系 , 六 角 川 水 系 )
6) 朴 童 津 , 田 辺 智 子 , 齋 田 倫 範 , 大 八 木 豊 , 李 智 遠 , 矢 野 真 一 郎 (2009): 有 明 海 の 全
流 域 に お け る 環 境 変 化 が 流 出 量 に 与 え る 影 響 の 評 価 ,水 工 学 論 文 集 ,53,pp.481-486.
7) 日 田 市 (1991): 日 田 市 史 , 914p.
7.おわりに
平 成 24年 7月 に 九 州 北 部 を 襲 っ た 集 中 豪 雨 は 各 地 に 大 き な 被 害 を も た ら し ,我 が 国 の
防災基盤はまだまだ脆弱であることを如実に示した.今回の災害に限らず,近年の災
害で被災した住民が異口同音に口にすることは,「こんな雨は初めてだった」,「水
位の上昇が急でアッと言う間だった」であり,これまでの常識や経験が全く役に立た
ないような大きな災害に近年見舞われるようになってきている.本豪雨災害の特徴を
以下に記す.
( 1)圧 倒 的 な 降 雨 が 短 時 間 に 集 中 し た 豪 雨 で あ り ,洪 水 流 量・水 位 の 立 ち 上 が り は 極
めて早かった.『浸水は束の間の出来事だった.二時間くらいで水は引いた』(玉来
川の洪水氾濫でご主人を亡くされた婦人の談).全ての被災一級河川水系で既往最大
も し く は 観 測 史 上 2~ 3位 の 規 模 の 出 水 が 発 生 し た . 花 月 川 で は 花 月 地 点 の 整 備 計 画 流
量 が 1,100 m3/s,計 画 高 水 流 量 が 1,200 m3/s,基 本 高 水 流 量 が 1,400 m3/sで あ る が ,推 定
さ れ た 氾 濫 流 量 を 含 ま な い 発 生 ピ ー ク 流 量 は 7月 3日 が 1,300 m3/s,7月 14日 が 1,400 m3/s
と な っ て い た .そ の 他 , 矢 部 川 (船 小 屋 ),筑 後 川 水 系 隈 上 川 (西 隈 上 ), 菊 池 川 水 系 合 志
川 (佐 野 ), 六 角 川 水 系 牛 津 川 (妙 見 橋 ), 大 野 川 水 系 玉 来 川 (拝 田 原 )で 計 画 高 水 位 を 超 え
ていた.雨の降り方が変わってきており、従来の河川計画論を根底から覆すような大
災害であった。
( 2) 10日 間 に 2度 の 既 往 最 大 規 模 流 量 が 発 生 し た (山 国 川 ・ 花 月 川 ).
山 国 川 と 筑 後 川 水 系 花 月 川 で は , 7月 3日 に 既 往 最 大 の 出 水 が 発 生 し 大 き な 被 害 が 出 た
が ,そ の 応 急 復 旧 作 業 や 被 災 住 宅 な ど の 後 片 付 け が 終 了 し た 直 後 で あ る 7月 14日 に 同 規
模 の 2度 目 の 洪 水 が 発 生 し た . 特 に , 花 月 川 は 7月 3日 に 2カ 所 で 堤 防 の 決 壊 が 発 生 し て
い る . 応 急 復 旧 が 完 了 し た の が そ れ ぞ れ 7月 11日 8:30と 7月 13日 12:00で あ り , 直 後 の 7
月 14日 7:30に は 既 往 最 大 水 位 に 達 し た こ と を 考 え る と ま さ に 綱 渡 り の 状 態 で あ っ た こ
とが分かる.
( 3) 多 数 の 堤 防 決 壊 が 発 生 し た (矢 部 川 ・ 沖 端 川 ・ 花 月 川 ) .
7月 14日 に 矢 部 川 本 川 7k300右 岸 に お い て 約 50m幅 で 堤 防 が 決 壊 し た .本 川 の 堤 防 決 壊 で
あり,また越水が起こっていないにも拘らず湾曲部の内岸側が破堤したこともあり,
国 は 8月 に 矢 部 川 堤 防 調 査 委 員 会( 委 員 長:秋 山 壽 一 郎 九 州 工 業 大 学 教 授 )を 立 ち 上 げ ,
決壊メカニズムについての検証を行った.その結果,計画高水位を長時間にわたり超
えたことにより,基礎地盤内の砂層に水が浸透し,最終的にパイピングが発生し決壊
に 至 っ た と い う 結 論 が 得 ら れ て い る . 九 州 の 国 直 轄 河 川 で は 22年 ぶ り の 堤 防 の 決 壊 で
あ っ た .花 月 川 に つ い て は ,7月 3日 に 国 直 轄 区 間 の 5k800左 岸 と 6k200右 岸 の 2カ 所 に お
いて決壊が発生した.現状では,水衝部に強い流れが当たり堤防前面基礎部分に洗堀
が 生 じ 決 壊 に 至 っ た と 考 え ら れ て い る .矢 部 川 支 川 の 沖 端 川 (福 岡 県 管 理 )で は ,現 状 で
は越水の発生により決壊したとみられている.
( 4)山 腹 崩 壊 や 河 岸 の 侵 食 に 伴 い 発 生 し た 多 量 の 流 木 が ,主 に 橋 梁 に 集 積 す る こ と に
より流下能力を低下させ,氾濫を助長した箇所が多数の河川で見られた.『玉来川に
架かる阿蔵新橋では,まず水位が上昇して橋桁に水がかかり始め(計画高水以上の流
量による),同時に左岸側に越水を始めた.その後流木が橋桁に引っかかり始め,一
挙に水位が上昇した』(玉来川沿川の住民談).また玉来川の沿川の稲荷神社の近く
の稲荷橋が流出したが,『橋の流出後水位が急に下がった.流木の集積による堰上げ
が あ っ た 』(地 元 住 民 談 ). こ れ ら の 例 や 阿 蔵 新 橋 ・ 玉 来 新 橋 ,ま た 花 月 川 の 夕 田 橋 ,山
国川の耶馬溪橋,矢部川上流の多くの橋等のように,水位の上昇に伴い橋桁ならびに
橋脚に流木が集積して洪水を堰上げし,その結果越水・氾濫して甚大な被害を堤内側
にもたらした事例が数多く見られる.また固定堰や取水ダムなどの多くの河川横断構
造物も洪水の流下阻害を引き起こしていた.
( 5)阿 蘇 地 域 で は 圧 倒 的 な 降 雨 量 の た め 崩 壊 土 砂 が 土 石 流 化 し た .ま た 矢 部 川 上 流 域
では,大量の流木が流出し,流木・土砂・水よりなる混相流の様相を呈し,破壊力を
増して流下した.このような新しい現象が見られ始めている.ただ今回の災害全般を
通じて表層崩壊が主で深層崩壊はあまり見られなかった.雨の降り方が短時間の集中
豪雨型であったためと思われる.これらの崩壊により供給された土砂は河道に残り、
堆積して河床の上昇を引き起こしたため河床掘削が必要となっている(矢部川上流部
等).
( 6)本 豪 雨 災 害 で は 多 く の 橋 梁 が 超 過 洪 水 と 流 木 に よ り 被 災 し た .中 に は 橋 台 が 大 幅
に 沈 下 す る な ど (阿 蘇 地 方 ), 新 し い 現 象 も 発 生 し て い る .