判例の手引き2015年度版 - 判例研究会 OUTSIDE

〜判例をよむとき・レジュメを作る際のお供に…〜
龍谷大学 一般同好会
判例研究会‐OUTSIDE‐
2015 年 8 月 5 日
文責:幹事長中嶋・副幹事長金原
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判例研究マニュアル 2015 年度版
皆さん、判例研究会‐OUTSIDE‐に入部して頂き誠に有り難うございます(^^)!!
我々判例研究会は毎年夏休み終盤に1回生による「判例発表」をおこなっています!これが「夏サポ」で
す!これをすることによって、真の判例研究会の一員になると思ってください!!また、判例発表というの
は一人でするのは難しく、そして下調べなしでは到底できるものじゃありません!この判例発表を通じて、
どんな方法で・どんな手順で・どんなサイトで判例の判決文を入手し、その判例の評釈(該当判例を解説した
もの)にあたるか、法律の文献を読む練習、法律の文献を探す練習、周りの班員と協力して勉強するというこ
と、自分で調べたことを伝える難しさ、それらを習得し、経験していただきたいと思います!
それでは、まず実際の判例研究の仕方を知る前に、
「判例」とは何か?「判例研究」をやることの意義とは
何か?ということについて知っていただきたいと思います。
目次
1.はじめに(3 頁)
2.
「判例」とは?(3 頁)
3.
「判例研究」とは?(4 頁)
4.
「判例研究会‐OUTSIDE‐」とは?(4 頁)
5.判例発表する側のルール(5 頁)
6.判例発表をきく側のルール(5 頁)
7.最高裁判所民事判例集の基本用語(6 頁)
8.これから法律を学んでいく上での重要事項(6 頁)
9.判例研究・判例研究発表の仕方(8 頁)
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1.はじめに
私たちは、経済学部ではなく、文学部でもない、
「法学部」ですよね。しかし、1 回生の授業を受けていて
感じたかもしれませんが、学部の授業では、どこか「法律を学んでいる」という実感が湧かないな〜と思い
ませんか?そう感じた方は、法律を遠いものだと感じているのではないでしょうか。それは仕方がないこと
です。なんせ、遠くで教えられている気分になりますから。もっとも、私たちにとって法律は遠いものでし
ょうか?この国のルール(法律)が実際、どのように私たちの生活に影響をもたらし、どんな権利を与え、どん
な義務を負わせるのか。これらを遠いものとは決して呼べません。むしろ、法律を学ばずして、この国で生
きていくこと自体、怖いことです。
でも、法律の条文を見て学んでいるだけでは、何も感じ取れないですし、難しい。では、どうするか。
「実
際にあった紛争を知っていけばいい!」つまり、
「こんなことされました。お金取りかえしてください!」
「あ
なたと相手の紛争は、この条文のパターンにぴったり合うものではないけど、最高裁がこの条文のこの言葉
をこう解釈して、あなたのような人を勝たせているから、もしかしたら勝てるかもよ!」なんて感じで実際
にあったものを、サークルの人たちと勉強しあって、法律をリアルに感じる。このように法律を「感じなが
ら」勉強することは、その後の勉強によい影響を与えてくれるものと思います。また、このサークルで実施
する判例発表は、1 回生のみなさんにとっては先取りになるかもしれません。しかし、後のゼミや授業など
でとても重要な力をつけられると思います!!ぜひ 2 回生の先輩と切磋琢磨していい発表をしていって欲し
いです!!
それでは、私たちの法律の勉強に影響を与えてくれる「判例」とは一体何なのでしょうか?以下で見てい
きましょう!
2.「判例」とは?
「判例」とは、早い話が最高裁判所の判断です。そしてどこの裁判所の判断かというと、それは最高裁判
所と大審院(最高裁の前身)の判断です。ちなみに、高等裁判所や地方裁判所の判断を含めると「裁判例」
といいます。
では、何故、地裁、高裁の判断は判例とはならないのでしょうか。日本の裁判システムはご存じのとおり
三審制を採用しています。ということは、一審で「原告の勝ち!」っていう判決がでても控訴審で「いや、
被告の勝ちやわ」という感じにひっくり返される可能性があります。そして上告審で「やっぱり原告の勝ち」
という感じでまたまたひっくり返されるかもしれません。なので、ひっくりかえされる可能性がある以上そ
れを基準にすることはできないのです。つまり、先例としての価値があるのは安定性(ひっくり返らないと
いうこと)
、予測可能性(同じ様な事件があったら同じような判決がでること)を有した最高裁の判断だけな
のです。これは数あるうちの説明の一つです。なみに、一般的な裁判において、一審(地裁)の判決に不服
があって、次の裁判を申し立てることを「控訴」
(高裁)といい、控訴審でさらに不服を申し立てることを「上
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告」
(最高裁)といいます。このように、原の裁判所の判断に納得がいかないときにさらに上級の裁判所に申
し立てることを「上訴」といいます。
それから、最高裁は「法律審」とも呼ばれます。裁判の中で、当事者から事件の内容を詳しく聞いて事実
の認定をするのではなく、その事件について正しく法律が適用されたか?正しく原審(控訴審)が法律の解
釈をしたか?ということを審理する裁判所なのです。
3.「判例研究」とは?
判例について、少しは理解していただけたでしょうか。では次ぎにその判例を「研究」するということは
どういうことか説明します、
「研究」であって、
「勉強」ではありません。司法試験や司法書士試験、学部試験での一門一答において、
正解するためには「最高裁判所は違憲といった」という結論さえおさえておけば、なんとか正解します。し
かし、膨大な量の結論を覚えるという作業は退屈であり、苦痛ではないでしょうか?しかも、ただ覚えてい
るだけでは、その判決を理解しているとは言えないし、何の意味もありません。それに、理解していれば覚
えるのも楽になります。
そこで、我々は図書館にある、最高裁判所民事判例集(最高裁判所が発行している民事事件の判例集)と
いう原典にあたって実際の判決文を読みます。どういった事実に基づき、訴えがなされたのか、それに対し
て被告はなんと反論したのか。その当事者の主張を聞いて裁判所はどういう法律理論で結論へ導いたのか、
そしてその判決がでた当時の社会の状態はどうであったのか。裁判官はなぜその判断を下したのか。そうい
う広い視野をもって判例を読み、さらに部員同士で議論していくことが「研究」なのです。教科書や「判例
百選」
「判例講義」を読んで、圧縮された事実、判決要旨を読んで暗記することは勉強であっても研究とは到
底呼べるものではありません。
4.「判例研究会‐OUTSIDE‐」とは?
今まで難しいことを書きましたが、やっぱり勉強ができるだけでは社会で生きてはいけません。社会生き
ていくためにはやはり「人」と「人」とのコミュニケーションが必要です。就職するにしても、進学するに
しても、結婚するにしても、コミュニケーションほど重要なものはありません。
世の中にはいろいろな考えを持っている人が本当にたくさんいます。勉強せなあかんなと思いながらつい
つい遊んでしまう人、本当は好きなのに、嫌いだと言ってしまう人、とにかく目立ちたい人、朝起きれない
人、バイトに命を賭けている人、トマトが好きな人嫌いな人……
例をあげだしたらキリがありませんが、何年か先、皆さんは学生という守られた空間から社会という弱肉
強食の世界に放り出されるわけですが、その時に、嫌な上司やいじわるな同僚、生意気な後輩から自分を守
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り、闘うことができるのは自分自身だけです。
その時の武器はコミュニケーションや経験です。人と会話する、人の考えていることを理解する。これは難
しいことです。けれども、なんども経験すればやってできないことはないのです。
判例研究会にはたくさんの人がいます。今では皆さんのおかげで100名を越す大所帯となりました。み
んなそれぞれに個性があり、いろいろな考え方をもっています。出来る限り多くの人と会話して、いろんな
考えを吸収していってください。そして願わくば、ここで一生の付き合いのある友人、先輩、後輩をみつけ
て下さい。
5.判例発表する側のルール
(ア) 発表者は事前にしっかりと民集を読み込んでおきましょう。事実関係で質問されても答えられるよう
に。何を聞かれても答えられるように。民集に載っていないことは「のっていないからわかりません」でオ
ーケーですが、時代背景や関係性など調べられる範囲は調べましょう。
(イ) 例えば、「代理」の分野を発表する場合、発表者が表見代理、無権代理といった民法の基本的なこと
が理解できていなければ話になりません。事前にどのような制度か、何故このような制度が必要なのか(制
度趣旨)を事前に勉強しておくこと。
6.判例発表をきく側のルール
(ア) やる気を持ってのぞむ。出席して、他人の意見を聞くことだけでも勉強になるので、「私はどうせ発
言できないし、言っても意味ないや〜」と思って出席しなかったら、いつまでも法的思考力なんてつきやし
ません。まずは出席してXさんYさん、どちらがかわいそうか考える、そこからです。
(イ)
時間のある人、というか本来やるべきことですが、事前に評釈(判例タイムズ、法律時報、判例リ
マークス、判例百選、ジュリスト etc…)や判例を読み込んで、考えてきてからのぞむ。せめて事実の概要だ
けでも理解して参加する。いろんな本を読む方がそれだけいっそう法的思考力を身につけることの近道にな
ることは言うまでもありません。ちなみに、事前学習をやりやすくするために、判例研究会のHPの掲示板
に事前勉強や、事実の概要を発表前日までにアップしています。また、次週の判例もなるべく早めにメーリ
ングで知らせるようにしていますので、それらを利用するのがオススメです。
参考文献
石田 穣「判例研究の方法」法学協会雑誌 90(9), 25-58, 1973-09
鈴木 竹雄「判例研究の意義」法学協会雑誌 83(9・10), 104-112, 1966-11
川島武宜「判例研究の方法」法学協会雑誌 83(9・10), 113-128, 1966-11
CiNii(NII 論文情報ナビゲータ[サイニィ])などで検索してみましょう。
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7.最高裁判所民事判例集の基本用語
民集を読んでいれば、いろいろ未知な単語が出てきます。そしてそれが時に一般に使われている意味とは
異なります。(例えば、「善意」
「悪意」
)このように、わからない単語はチェックして、後で法律用語事典で
調べるようにしましょう。最初は苦労しますが、一回覚えてしまえば、なんてことはありません。また辞書
を読んでもわかりにくい場合は先輩などに質問するのも効果的です。民集が難しい理由の一つはわかりにく
い法律用語が並んでいるからです。
8.これから法律を学んでいく上での重要事項
(ア) 条文をこまめにひく
日本の法律は書かれている条文が一番重要です。勉強の出発点も条文をひくことから始まります。民法 90
条、709 条なんて、しょっちゅうでてくるので、どのページのどの辺にでてくるのかさえ覚えてしまうくら
いです。ここで、話はそれますが、よく法律を勉強するというと、「六法全書全部覚えるなんて無理やわ〜」
とか、
「弁護士って法律全部覚えてるんやろ?凄いな〜」とか勝手に想像する人がいますが、これは間違いで
す。法律は全部覚えなくていいです。というか、覚えてもあまり意味がありません。もちろん、何条に何が
書いてあるということを、覚えている事ほどすばらしいことはないですが、法律は度々改正されるので、す
べての法律を暗記することは不可能です。よって、弁護士が法律を覚えているのは、よく使う法律であり、
それは、何度も条文を引いて、何度も使っているからであって、無理に暗記したものではありません。
条文を繰り返し引くことで、民法なら、1条〜170 条くらいまでは総則、170 条〜400 条くらいまでが物
権、債権は……というふうに全体を把握できるようになります。他の法律もそうです。全体を意識するには、
目次を見て、だいたいの地図を描く、条文を引くことでその地図に絵を描く、そして教科書を使って地図の
絵に色を塗る、この作業が法律の勉強なのです。条文を引いて、正しく読むこと、是非この部分は黄色のマ
ーカーで線をひっぱってください!!
(イ) 要件・効果
条文を引いてみて下さい。例えば、民法 709 条を開いて下さい。すると、
「不法行為による損害賠償」とい
う括弧書きの見だしがあって、
「故意又は過失によって他人の…」という条文がありますよね?交通事故や自
分の旦那が浮気したときに、加害者やその浮気相手の女に慰謝料としてお金を請求するときに使う根拠条文
です。ここでその条文が使われるためにはどういった必要条件があるのか、それが「要件」です。そしてそ
の要件が満たされればお金を請求できる、それが「効果」です。条文を読むときにはこの「要件・効果」を
疎かにしてはいけません。なぜなら要件を満たしていなければ、効果が発生しようがありませんし、要件が
満たされても、どのような効果(結果)が発生するのかわからなければ、意味がありません。これから皆さ
んは授業で「要件」というものを習うはずです。そして試験では、
「どういった請求ができるか?」と聞かれ
るはずです。そう聞かれたらどうしましょう?
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まず、問題をよく読み、使えそうな条文を探しましょう。その条文が見つかれば、要件を条文から探し出
しましょう。そしたらその要件に問題をあてはめてみましょう。あてはまったら次はどのような効果が発生
するのか条文をよく読みましょう。そして自分の結論を書く…。実はこの考え方(書き方)こそが法的思考
力の基本です。問題を分析して、条文を発見、要件にあてはめていく。
(ア)で言った、
「条文をこまめに引
く」ことがいかに重要かわかっていただけたでしょうか。それでは、実際に考え方を練習してみましょう。
(ウ) 法的三段論法(答案の書き方)
問題…判例研究会は次の幹事長を決める方法で揉めていた。判例研究会規則には、
「次期の幹事長はサークル
員の合意で決めることとする」とだけしか書かれていない。考えを述べなさい。
※
法律と全く関係ないやんっ!と思うかもしれないですが、今は説明なので、勘弁してください。弁解す
るわけではありませんが、これから説明する「法的三段論法」というのは、いかに相手をうまく説得できる
かという技術ですので、法律の問題であれ、何であれ、自分の考えを相手に納得させるには重要なことです。
三段論法は三つの段階があります。
「問題提起」→「規範定立」→「あてはめ・結論」です。実際にこの順
番で上の問題を考えていきましょう。
〔問題提起:何が問題なのかを示す。〕
1,本件において、サークルの幹事長を決めるに当たって、
「サークル員の合意が必要」とあるが、合意する
にあたってどのように選出されるべきか書かれていない。
よって、その選出方法が問題である。
↓
〔規範定立:自分の考えがいかに優れているかを示しましょう。〕
2,この点、代表の選出方法は推薦できめると考えることもできる。確かに推薦制なら候補者がいないとい
うことは避けることができる。しかしながら、推薦制は本当はやりたくないのに推薦されて断れなかったで
あるとか、あいつ推薦したれというノリで推薦されたりと、候補者の意思に基づくものではないので、妥当
ではない。
よって、代表の選出方法は立候補者にすべきである。
なぜなら、立候補制は候補者の意思に基づくものであり、本当に選ばれたい物が立候補するので、意欲も
あるはずである。
↓
〔あてはめ:問題と規範をあてはめる。〕
3,
従って、本件においてサークルの幹事長の選出方法は立候補制にすべきである。
以上
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※ ポイント
接続詞に注意して文を構成すると、分かりやすく、簡潔な三段論法ができあがる。
9.判例研究・判例研究発表の仕方
・判例研究の事前準備について
判例研究の前に、発表班は選んだ判例を研究し、考察、議論をした上で、レジュメ作りなどの事前準備を
します。大まかな手順は以下の通りです。
①
判例の決定…次回から自由に選んでください。ただし、選ぶ際には必ず「なぜその判例を選んだか」が
重要ですので、それが説明できる判例選びをしてください。
② 判例の分析・考察・議論…選んだ判例について、分析は議論を行い、読み込み、理解を深めましょう
(※)。
③ レジュメ作成…②での検討から、判例研究発表のためのレジュメを作成します。ここでは、発表を聞
く人がわかるようなレジュメ作りを心がけてください(構成、図の利用など)
。
④ 発表準備…司会進行役を決め、各人、選んだ判例の理解を深め、どこを聞かれても説明できるように
しましょう。また、当日の流れを事前に構想しておいてください。
(※)分析や考察の過程では、民集や TKC データで判例の原文を読み込むことも重要ですが、評釈や学術
書をしっかり読み込み、理解を深めることが大事です。注意してほしいのは、一つの判例に注釈は多数あり
ますので、決して判例百選(ジュリスト別冊)だけ読むということがないように。論者によって見解が異な
るので、各評釈を読み、時には注釈民法や CiNii で関係論文を検索し、読み込みましょう。
Ex:売買契約が絡む事例では、まず売買契約とは何なのか(ここでは契約とは何なのかも)、売買契約の成
立要件は?成立時期は(学説ごとに異なる)?効果は?それが未達成だった場合は(債務不履行、瑕疵担保
責任)?では、どのような条文、解釈の根拠があるか?などの検討は、各学術書や論文、評釈を読まないと
わかりません。
・判例研究発表の流れ
判例研究発表は、事前勉強と判例研究の二つに分かれます。
①事前勉強会
その判例を研究するのに必要な法律知識を理解するための事前準備です。
条文についてはその制度趣旨、
要件効果など、上記でも述べたように、「注釈民法」や「基本コンメンタール」
、各論文などの資料をつかっ
て調べるように。また、解釈などやその背景も調べておく。
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②判例研究
Ⅰ.事実の概要
議論をするにあたっては、まず事実がわからないことには話になりません。誰と誰が結婚していたのか、
AB 間の売買はうまくいったのか、それについて C は知っていたか、などといった事実によって当事者がい
えること、裁判所の判断が大きく違ってきます。ですから、この部分が判例研究の出発点です。ここでは、
ほとんどの事案が複雑な事実です。これは、人間同士が争っているのですから、当然側には色々な背景、他
の人物のかかわり、恨みや各人の活動など、多様な要素があって紛争が起こるからです。なので、複雑な事
実を正確に把握することは判例研究にとって必要なのです。
また、事実といっても当事者同士で主張が一致しなかったりします。そこで、ここにいう「事実」とは、
裁判所が認定した「当事者間に争いのない事実」や、証拠があるなど「疑うことのない事実」をいいます。
判例を読む上で、この点は慎重に見分けましょう。
また、事実が発表時にわかりやすくみんなの頭の中に入ってくるよう、時系列と図を付け加えることも忘
れないでください。
Ⅱ.当事者の主張及び抗弁 1
民集や TKC データにある判例の原文には原告がどんな主張をして訴えたか、また、それに対して被告は
どのように反論しているのかがはっきりと載っています(各審ごとに載っている場合が多いです)。それらの
主張対立を明確にして理解することによって論点が浮き彫りになります。
Ⅲ.裁判所の認定事実
上記での述べたとおり、当然、裁判の中では、原告と被告の「事実」の主張が食い違っているところがあ
ります。そして、証拠などから裁判所が判断した事実のことを「認定事実」といいます。真実であっても、
証拠がなく、その証明に失敗すればそれは事実ではなく推測です。推測では裁判所も判断できませんし、当
事者も納得しません。だから、裁判所は結論を出すために、食い違いがあったら、両者に証人を呼ばすとか
証拠を出すなどをさせて、どちらか一方の主張を採用するのです。
Ⅳ.第一審(主に地裁、簡裁)
←事実審
「主文」、
「事実」、
「理由」の三つからなります。
「主文」は判決の結論を示しています。
「事実」を読むときには十分に注意してください。ここに挙げられている事実は、当事者が主張している
ものも含まれ、事実として本当に存在しているかわからない、裁判所が認定していないものもあります。
「理由」は「主文」を出す際の理由です。裁判所の判断をみる上では、理由がとても大事です。それが判
例(裁判例)の研究すべき対象だからです。なので、理由をみるときは、よく読み込んで、その事案での論
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点において、裁判所がどのような解釈をしたかがわかるようにしましょう!そして、それをレジュメにする
ときには、裁判所が言った大事な部分は、
「」でそのまま書き抜きましょう!「」以外は自分の言葉でもかま
いませんが、重要な部分である「」の中は裁判所の判断からそのまま書き抜いてレジュメを作成してくださ
い(控訴審、上告審も同様です)。
Ⅴ.控訴審(主に高裁)
←事実審
一審と同じように「主文」、「事実」、
「理由」からなります。
Ⅵ. 上告理由
上告審は法律問題に関する審理を行い、上告審の裁判所は原則として原判決で認定された事実に拘束され
ます。上告審の裁判所が最高裁判所である場合には、原判決に、①憲法解釈の誤りがあることと,②法律に
定められた重大な訴訟手続の違反事由があることが上告の理由となります。最高裁判所は、原判決に判例に
反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含む事件については、当事者の上告受理の
申立てにより、上告審として事件を受理することができます。最高裁判所は上記①②の場合には原判決を破
棄しなければならず、さらに、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があるときは原判決を破棄する
ことができます。つまり、原審の法令の解釈や適用の誤りを是正するのが上告審なのです。上告理由をしっ
かりと読み込むことで、当事者が何を争わんとしているのかということがよくわかるのです。
Ⅶ.上告審(最高裁判所)
←法律審*
当事者のうちで、控訴審で判決に、
「あの法律の使い方は間違っている!民法 177 条の第三者とはこう解
釈すべきだ!」など、納得がいかなかった者が上告をし、それに答えるための法律審です。ですので、上告
審は「主文」、
「理由」だけです。「事実」に関しては検討しません!←超重要!!
また、上告理由で「3つ主張しているのに最高裁が1つしか検討してないのでは??」という疑問を持つ
でしょう。それもそのはず、最高裁は重要でないと判断した上告理由は排除されてしまうからです。しかも、
理由の排除については不服申し立てできません!!
Ⅷ.各審比較
判例研究で必要なことに、その判例が形成された過程の考察があります。これは、一審と控訴審と上告審
を比較し、各論点ごとに検討することで、条文解釈等の裁判所の判断の違いなどが明確になり、より理解が
深めるために必要なのです。それをする際は、論点ごとに区切った表などを作るとわかりやすくなります。
①どこが違って、②どう違って、③なぜ違うのかを意識しながら各審級の比較をしましょう!!
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Ⅸ.先行判例
また、判例が形成された過程を考察するには、その事案の一審、控訴審、上告審を比較することと同じく
らい重要なのが、過去にあったような、またそれに似たような事案において(例えば、同じ 177 条の第三者
について争った事案について)
、その先行判例(裁判例)を考察して比較することです。その判例と今回の判
例がどう違うかなど、しっかり把握しましょう!!これは、少し上級テクニックかもしれませんが、これを
するとなぜ今回裁判所がそのような判断をしたかがよくわかるようになります。大学のゼミなどでは、先行
判例を考察・比較することは判例研究として必須事項になっています。
Ⅹ.論点
原告の請求と、被告の抗弁がぶつかり合っている点、それこそが論点です。一つの裁判に、一つとは限り
ません。本件において、類推適用が認められるかどうか、その条文はどう解釈したらよいか、など様々です。
Ⅺ.学説
学説とは、判例で問題になっている点や条文解釈においての学者の意見(考え方)です。法定責任説、債
務不履行責任説など名前がついていることもあります。最高裁の意見に批判的な説であれば、判例と結論は
まったく逆になるだろうし、どの考え方をとるかで結論は一緒でも理由付けが違うなど様々です。各説が何
を重要視しているか、例えば個人の保護を重要視するのか、取引安全や当該制度を保護するのか、社会的背
景は何なのか、そこまで読み取って考察することに、学説を勉強することの意義があります。
Ⅻ.議論
いわゆるディベートです。今までの考察の上で、自分の考えを口にすることの難しさを経験してください。
最初は、
「X がかわいそうやから」で十分です。その当たり前の根拠づけに六法をめくればそこに答えがあり
ます(六法を読んでもわからなかったり、主張しにくい場合は、参考書や学術書を読んだりすれば、そこに
も自分の意見を正当化させるヒントがあります)
。なければ、いくらかわいそうでも X は負けてしまうでし
ょう。とにかく、わからないなりに考えて発言することが重要です。恥ずかしいっていうのは慣れです。喋
っていたらいつの間にかなくなります。将来、企業に就職したり、弁護士になったりしたら、人前で自分の
意見をしっかり言えないと話になりません。
議論の際は、発表班の司会進行役等の助けを借りながら、論点や学説、事実の概要などをもとに、自由で
積極的な発言をして、判例研究の理解を深めていってください。
議論で、XY でぶつかるところが争点です。まず、X からどんな主張をし、Y はその主張に対してどんな反
論をすればいいか。X なら自分のやりたいことを実現するには(=法律効果を発生させるには)、X の主張す
る法律効果を防ぐためにはどう反論すべきか。
また、討論を発表中どのように挟むかは自由ですので、どこに挟んだらよりよい判例発表ができるか等、
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各人で努力していってください。
以上が判例研究の流れです。この作業を繰り返すことに、複雑な事案を読んで整理をする能力、問題点を
見抜く能力、話す能力が確実につきます。さらに判例の内容や条文の解釈、学説を身につけることでいろい
ろな考え方を学べるでしょう。
学部のテストはもちろん、司法試験においても、いかに論理的に説得力のある答えが書けるかが問われま
す。就職においても、企業がもとめているのもコミュニケーション能力です。面接において自己の考えを説
得的に説明できる人は評価も高いでしょう。
最初のうちはわからないことばかりだと思います。しかしながら、判例研究会は無駄なことは一切しませ
ん。飲み会において、いろんな人としゃべって考えや視野を広くし、合宿においては仲間との絆を深める。
新入生にビラを配る作業では、いかに自分たちのサークルを売り込めるか、渉外部などの大学以外の人との
交流、勉強会においては伝えることの難しさを経験し、サークルを運営するためのお金の管理、教室を押さ
えたり、部員の個人情報を管理することの責任の重さ、班員を集めたり、相談の時間調整をすることなど、
すべてにおいてが勉強なのであり、そのような考え方をすることは充実した大学生活、そして、自分の夢を
叶えるためにも大切なことです。
なので、判例を通じて研究・勉強をすることは、無駄なことをやっているつもりは一切なく、またそのよ
うに思う必要もありません。その時はめんどくさい、おもしろくない、と思うかもしれませんが、そのこと
は将来必ず役に立ちます。わからないことは先輩にどんどん聞いてください。我々もまた、皆さんと同様、
なにもわからない状態でやってきましたが、先輩たちに支えられてここまできました。我々がサポートしま
すので、少しずつ頑張っていきましょう!!
以上
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参考:判例の検索方法(学内利用の場合)
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評釈等参照
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民集がなければ、全文で判旨を参照。
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