[第4回]おなかの薬

こどもの薬【第 4 回】
おなかの薬
(整腸剤・止痢剤・便秘薬)
小児科の外来受診患児のうち、下痢や便秘、腹痛といった消化器症状(おなかの症
状)で受診する割合は比較的多いものです。その中でも晩に関係した訴えが特に多い
です。ただ、弁というものは排便回数、便の性状(形、硬さ、色など)とも個人差が
多く、どこからが異常という判断をすることは意外と難しいことです。いつもの弁よ
りもやわらかいあるいは硬い、いつもより便の回数が多いあるいは少ないなど、いつ
もと比べて何か違う場合、おなかが張る、痛いなどの苦痛がある場合などが薬を必要
とする場合でしょう。
下痢は便中の水分量が増え、排便回数が増加した状態です。小児科の診療で下痢や
嘔吐を認める状態の多くは、急性の感染性腸炎です。食事療法や経口補液(水分摂取)
が治療の主たるものですが、補助的に薬を使用することもあります。下痢は本来、有
害物質を体の外に排除する生理的な防衛反応です。下痢を無理やり止めることが必ず
しも良いことではありません。以前と比べ、止痢剤と呼ばれる薬は使われなくなって
おり、整腸剤だけで経過をみることが多くなっています。抗菌薬(抗生物質)も重症
の場合や特別な菌による場合のみに使用され、あまり使用されなくなっています。
整腸剤
整腸剤は、糖を分解して乳酸や酪酸というものを産生する菌を薬にしたものです。
これらの菌は腸管内を酸性にし、下痢の原因菌などの発育を抑制し、さらに腸管内腐
敗産物の産生も抑制します。直接の止痢作用はありませんが、腸内環境を整え、腸内
細菌叢を安定させる効果があり、下痢持続日数を短縮させたり下痢の回数を減らした
りする効果が認められています。腸内細菌叢を安定化するため、下痢だけではなく便
秘に対しての効果が期待できます。プロバイオティクス(口から摂取され、腸内フロ
ーラ(細菌叢)のバランスを改善することにより有益な作用をもたらす微生物のこと。
病原性のない腸内の善玉菌とされる乳酸菌やビフィズス菌など)という概念から、以
前より大量に使用することが増えてきています。当院でも、通常より多量に処方する
ことが多いです。
一部の薬剤(エンテロノン R、ビオスリー、エントモールなど)には、牛乳アレル
ギーのある患児に投与したときにアナフィラキシー様症状(呼吸障害、血圧低下など
の重症のアレルギー症状)の出現が報告されているため、禁忌(使用してはいけない)
とされています。当院で処方するミヤ BM やラックビーなどは牛乳アレルギーによる
症状が出にくいとされている薬です。
止痢剤
最近では、下痢は有害物質や下痢の原因病原体を体外に排出する生体防御反応であ
ることが一般の人にも理解されてきて、下痢を止める必要はないという考えになって
きています。当院でもほとんど処方することがない薬です。
① 腸管運動抑制薬
塩酸ロペミラド(商品名:ロペミン)
腸管の運動を抑え、水分、ナトリウム、カリウムの吸収を促し止痢作用を発揮しま
す。腹部膨満、便秘を起こすこともあります。6 か月未満は禁忌、2 歳未満の原則禁
忌です。小児にはできるだけ使いたくない薬のひとつです。
② 吸着薬
天然ケイ酸アルミニウム(商品名:アドソルビン)
吸水性が強く水に触れるとゼリー状になって元の体積の数倍から数十倍に膨らみ
ます。胃腸管内で、過剰な水分、異常有害物質、粘液などを吸着除去して結果的に止
痢効果を示します。嘔吐、腹部膨満などを起こすことがあります。食後に服薬すると
栄養素も吸着してしまい吸収を阻害してしまいます。そのため、食前・食間投与が望
ましい薬です。
③ 収斂剤
タンニン酸アルブミン(商品名:タンナルビン)
小腸のアルカリ性消化液で分解されタンニン酸になり、腸粘膜蛋白と結合して粘膜
表面を覆うことで分泌と刺激を抑え粘膜の炎症と腸管蠕動を抑制します。腸管蠕動を
抑制する薬なので、当院では極力使わないようにしています。牛乳アレルギーのある
場合は禁忌です。便秘、食欲不振などの副作用があります。
便秘薬
便秘薬というのは一般にいう下剤のことです。下剤とは腸内容の排泄を促進する薬
のことです。一時的な便秘に対しては浣腸(グリセリン浣腸)が使用される機会が多
いです。慢性の便秘においては、排便回数の減少や腹痛や腹部膨満感、排便痛、硬便
に伴う肛門裂傷の際に下剤の使用を考慮します。ただ、下剤の中には、腸管の運動を
促進するものもあり、硬便が詰まっている影響もあり強い腹痛を誘発するものがある
ので注意を要します。乳幼児の慢性の便秘には、からだが未熟で筋力がなく、腹圧が
かかりにくいために便が出にくいという状態のこともあります。この様な時は定期的
に浣腸をすることも有効な手段です。よく“くせになりませんか?”というお母さん
がいますが、そのようなことはありませんので安心してください。乳児に対して下剤
を使用するときは、安全性が高く、長期投与が可能なマルツエキスから始めるとよい
でしょう。
① 機械的下剤
ア) 酸化マグネシウム(商品名:マグラックス、マグミット)
浸透圧を上昇させ、消化管内に水分を保持して食物残差を膨潤・軟化することで緩
下作用を示します。腸管からの吸収が少なく、習慣性や腸管刺激性がないので長期間
の使用に適します。
イ) ラクツロース(商品名:モニラック)
消化管吸収されず大腸に達し、細菌の分解を受けて腸内に乳酸、酢酸を生成して腸
内を酸性とし、大腸を刺激することにより蠕動を促進します。また、浸透圧作用で緩
下作用を発揮します。下痢、悪心・嘔吐、腹痛、食欲不振などの副作用があります。
ウ) マルツエキス(商品名:マルツエキス)
発酵しやすい麦芽糖を服用することで、発酵産物が腸蠕動を亢進させ、また腸内の
浸透圧を高めて腸壁から水分を生じさせ軟調な糞便の排出を促します。当院でも乳児
の便秘にはお勧めしています。病院からの処方でなくても薬局で普通に買うこともで
きます。
② 刺激性下剤
ピコスルファートナトリウム(商品名:ラキソベロン)
大腸内細菌由来の酵素により加水分解されて活性型となり、腸管蠕動更新作用と水
分吸収阻害作用により、瀉下作用を示す刺激性の下剤です。無味無臭で内服しやすく、
液状剤型で調節しやすい薬です。悪心・嘔吐、腹痛、腹部膨満感などの副作用があり
ます。刺激性下剤なので、使用時に腹部不快感を伴うこともあります。
行徳総合病院 小児科 佐藤俊彦