リチウムのマテリアルフロー

―安定供給上の課題―
金属企画部
鉱種戦略チーム 電池等グループ
リチウムは、主に二次電池や窯業に利用されるア
ルカリ金属である。近年、その電気的特性から特に高
容量の二次電池向けの需要が高まっており、日本の基
盤・成長産業を支える重要な鉱種のひとつとなってい
る。
金属企画部鉱種戦略チーム電池等グループでは、
平成26〜27年度の調査対象鉱種をリチウムとして、
需給をはじめとするさまざまな情報を収集・整理し、
さらに、関連業界団体並びに関連企業へのヒアリング
やその製造拠点訪問を通じ、ユーザーサイドの視点も
盛り込んだマテリアルフローを作成している。
本報告では、これまでに取りまとめたリチウム 1 の
(1)用途、
(2)世界の生産・需要動向、
(3)日本への
供給、(4)日本の需要動向について概観するととも
に、マテリアルフローを通じて明らかになった安定供
給上の課題を整理することとしたい。なお、これら安
定供給上の課題への対応策については、今年度、関係
情報等さらに深掘りし検討を進めて行くこととしてい
る。
当グループの活動において、貴重な情報をご提供
いただいた各関係企業・業界団体の皆様にこの場を借
りて厚く御礼申し上げる。
1.リチウムの用途
リチウム資源は、かん水およびリチウム鉱石(スポ
ジュメンなど)の形で賦存している。かん水からは、
かん水を1年半~2年程度かけ濃縮後中和し不純物を
取り除いた後、ソーダ灰を添加することで炭酸リチウ
ムが生産されている。一方、鉱石からは、硫酸や石灰
と共に焙焼され、炭酸リチウムと水酸化リチウムが生
産されている。
リチウム中間製品の多くは、炭酸リチウムを出発
1
原料として生産され、その中でも高品位な炭酸リチウ
ムや水酸化リチウム、六フッ化リン酸リチウムはそれ
ぞれリチウムイオン電池(以下、LiB)の正極材およ
び電解液として利用される。炭酸リチウムは、このほ
かに窯業での利用も多く、耐熱ガラスや建材に用いら
れる。水酸化リチウムは、世界的にはグリス、国内で
は大容量が要求される自動車向けの LiB に多用され
る。塩化リチウムは、直接空調除湿剤や溶接フラック
スとして利用される。金属リチウムは、一次電池の負
極材や、合成ゴム触媒用のブチルリチウムの原料とな
る。
2.リチウムの世界生産・需要
リチウムは日本への輸送が比較的容易な環太平洋
の南米、豪州およびアジアに広く分布している(図
1)
。確認されている世界の埋蔵量は、全体で1300万
純分 t と見積もられ、このうちチリが世界全体の58%
(750万純分 t)を占め、中国(27%;350万純分 t)
、豪
州(8%;100万純分 t)、アルゼンチン(7%;85万純
分 t)と続く(図2)
。ボリビアにも、ウユニ塩湖等に
リチウムが賦存しているが未だ経済的な評価が行われ
ていないため、埋蔵量として計上されていない。近年
の動向としては、中国、豪州、アルゼンチン、米国、
カナダで経済性評価が行われている探鉱・開発プロ
ジェクトが多く、埋蔵量が増加する傾向にある。加え
て未だに経済評価されていない探鉱プロジェクトも複
数あり、今後も埋蔵量の拡大が見込まれ、世界的な埋
蔵量としては当面十分と考えられる。
生産についてみると、2013年に世界全体で34,000純
分 t が生産されている。内訳をみると、豪州(38%;
13,000純分 t)とチリ(33%;11,200純分 t)の割合が多
く、 中 国(14%;4,700純 分 t)、 ア ル ゼ ン チ ン(7%;
2,500純分 t)がこれに続く(図3)
。リチウムの賦存状
況は地域によって異なっており、南米については、製
リチウムの統計量については、純分 t や tLCE(炭酸リチウム換算)等様々な単位で表記されるが、本稿では数量
の違いを把握しやすくするために可能な限り単位を純分 t に換算して表記している。各リチウムマテリアル量(t)
の換算は次式を用いた。純分 t =0.188×炭酸リチウム(t)=0.165×水酸化リチウム(t)=0.163×塩化リチウム
(t)=0.080×臭化リチウム(t)=0.108×ブチルリチウム(t)。
2015.9 金属資源レポート
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リチウムのマテリアルフロー―安定供給上の課題―
はじめに
米村 和紘
レポート
リチウムのマテリアルフロー
レポート
リチウムのマテリアルフロー―安定供給上の課題―
図1:世界の代表的なリチウム供給地
図2:リチウムの埋蔵量(2013年)
図3:リチウムの世界生産量(2007年~2013年)
品化に時間がかかるものの比較的生産コストの安い
「かん水」の形で賦存するが、豪州・北米については、
短期間で製品化できるものの生産コストの比較的高い
「鉱石」として賦存する。アジア(中国)では、両方
の形で賦存する。生産会社ごとに見ると、かん水から
の 生 産 は、Sociedad Quimica y Minera de Chile
(
“SQM”;チリ)
、Rockwood(米)
、FMC Lithium
(米)3社の寡占状態で、全リチウム生産の5割近い
シェア を3社 で 占 め る。 一 方、 鉱 石 か ら の 生 産 は、
Talison Lithium(豪)の生産が非常に多く、全リチウ
ム生産の3割近くを同社で生産している。
近年の国別生産動向としては、2010年以降豪州の
生産が急激に伸びていることが大きな特徴である(図
3)
。これは中国成都天斉実業集団により買収された
Talison Lithium から大きな需要地である中国向けの
生産が伸びたことが要因の一つと考えられる。最大の
リチウム埋蔵国であるチリの状況を見ると、SQM が
最大生産地であるアタカマ塩湖周辺や他の塩湖の探
査・採掘権を保有しているため、同社が長期的かつ主
要なサプライヤーであり続けると考えられる。このほ
か、豊田通商株式会社が出資しているアルゼンチン・
オラロス塩湖での生産が2014年12月に開始された。
オ ラ ロ ス 塩 湖 で は、 現 在 の 日 本 の 需 要 量(お よ そ
3,000純分 t)をカバーするだけの生産が計画されてお
り(炭酸リチウム17,500t/年、前ページ注釈1の純分
換算によると3,290純分 t/年)
、今後はアルゼンチンの
生産量の伸びが見込まれる。生産方法について技術的
な観点からみると、LiB 向けに高純度のリチウムが求
められるため、かん水からマグネシウムやホウ素など
の不純物の除去が特に課題となっている場合がある。
(出典:Mineral Commodity Summaries)
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2015.9 金属資源レポート
(出典:Mineral Commodity Summaries)
レポート
(出典:財務省貿易統計)
世界のリチウム需要としては、概ね二次電池(正極
材・電解質)向けと窯業向け(耐熱ガラス用、陶磁器
の釉薬用)が主な用途で、それぞれ需要の3割ずつを
占める。主な需要国としては、中国、ヨーロッパ、日
本、韓国、北米が挙げられる。特に中国、韓国では、
技術力の向上と2013年頃までの円高を背景に日本製
品に対して高い競争力を持ったことからモバイル機器
に多用される民生用 LiB 向けのリチウム需要が急増し
ている。反対に、日本の民生用 LiB のシェアは、最近
の円安で持ち直しつつあるものの減少した。今後の世
界需要は、民生用に加え電気自動車の普及に伴いバッ
テリーグレードの炭酸リチウムと水酸化リチウムの需
要が増加するものと見られ、年率数%~十数%の高い
伸びが予測されている。
3.日本へのリチウム供給
日本のリチウム輸入量の推移を図4に示す。日本は
リチウム原料の全量を輸入に頼っており、炭酸リチウ
ム、水酸化リチウム、金属リチウムなどの品目で輸入
している。全輸入量は、2006年までは右肩上がりで
上昇し、以降現在まで3,000~3,500純分 t で推移して
いる。2009年、2013年に輸入量が落ち込んでいるの
は、リーマンショックの影響と、前年度調達品の在庫
調整をしたことがそれぞれ理由と考えられ、2014年
は3,444純分 t と輸入量が回復している。
輸入品目に注目すると、輸入量として最も多いも
のは、様々な中間製品の出発物質である炭酸リチウム
で、2014年 の 財 務 省 貿 易 統 計 に よ る と 全 輸 入 量 の
66%(2,276純分 t;2014年。以下同様)を占める。次
いで多い品目は、水酸化リチウムで32%(1,103純分
t)を占め、残り2%が金属リチウム(65純分 t)であ
る。最も多く利用される炭酸リチウムの主な輸入相手
国はチリだが(図5)
、今後はオラロス塩湖のあるアル
ゼンチンからの輸入量が増える可能性が高い。一方、
水酸化リチウムは米国からの輸入量が多い。鉱山生産
の少ない米国からの輸入量が多い背景としては、南米
で生産された炭酸リチウムから米国工場において電池
等に利用可能なハイグレードの水酸化リチウムが製造
されていることが考えられる。近年のリチウム供給動
向として特徴的な点は、水酸化リチウム輸入量の増加
である(図6)
。このことは、Ni 系正極材を使用する
LiB 向けの水酸化リチウムの需要が増えていることを
示している(Ni 系正極材は水酸化リチウムをリチウム
原料として使用)。合わせて中国からの水酸化リチウ
ム輸入量の増加は、日本企業が求めるハイグレードの
水酸化リチウムが同国から供給可能となったことを示
していると思われる。
日本へのリチウム供給構造としては、現在のところ
輸入相手国が限られていることに注意が必要であろう。
図5:日本の炭酸リチウム輸入相手国(2013年)
(出典:財務省貿易統計)
2015.9 金属資源レポート
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リチウムのマテリアルフロー―安定供給上の課題―
図4:日本のリチウム輸入量の推移
レポート
リチウムのマテリアルフロー―安定供給上の課題―
図6:日本の水酸化リチウム輸入相手国の推移
(出典:財務省貿易統計)
例えば、2014年は、炭酸リチウム輸入の大部分を占め
るチリで天候不順となり、供給障害が生じていた模様
である。また、リチウム原料を供給するサプライヤー
は前述のとおり寡占状態が強く、輸入元の選択肢が少
ない状況であることにも注意が必要である。一方で、
最近では、オラロス塩湖からの生産が始まるなど原料
供給地が多角化する傾向にある。加えて、水酸化リチ
ウムについても、近年米国に加えて中国からの輸入が
増加するなど、サプライヤーの選択肢が増えつつある
状況であり、LiB需要増加に対応する動きがみられる。
リ チ ウ ム に つ い て は、 炭 酸 リ チ ウ ム よ り や や遅 れ
2006年から需要が伸び、2014年には中間製品需要の3
割を占めるようになった。臭化リチウムについては、
需要量が減少する傾向が認められる。統計の整理され
ている2008年以降の用途別推移 2(図9)と比較する
と、これまで述べてきたように水酸化リチウムの増加
は、主要用途の一つである LiB 正極材の増加と調和す
る。一方で、減少傾向の中間製品については、2012
年以降の炭酸リチウム需要の減少には窯業需要の減少
が、臭化リチウム需要の減少には空調用途における若
4.日本のリチウム需要
現在の国内需要は全体で3,137純分 t 2 であるが、こ
の内、LiB 向けの用途が全体の73%(2,297純分 t)を
占め、次いで窯業(9%;282純分 t)
、空調(6%;193
純分 t)、連続鋳造(5%;160純分 t)
、グリス(3%;
99純分 t)
、リチウム一次電池(3%;72純分 t)
、合成
ゴム重合触媒(1%;35純分 t)と続く。世界需要にお
ける LiB 用途の割合は3割程度とみられており、日本
の LiB 向け需要の高さが際立つ(図7)
。
次にリチウム需要の変化について整理する。まず、
リチウムの各中間製品需要についてみると、2002年
の1,700純分 t 程度から、2010~2014年には3,000純分
t 前後と需要がほぼ倍増していることがわかる(図8)
。
特徴的な中間製品としては、炭酸リチウム、水酸化リ
チウム、臭化リチウムが挙げられる。炭酸リチウムに
ついては、2002年から2007年にかけて需要が急増し、
2012年以降やや減少する傾向となっている。水酸化
2
図7:国内の用途別リチウム需要(2014年)
(出典:工業レアメタル)
出典の工業レアメタルでは、
「その他」の用途が別の最終製品の出発原料を含み、需要合計に含めるとダブルカウ
ントになる可能性があることから全体量から除いている。本稿でも、これに従い、その他の用途を示していな
い。
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レポート
リチウムのマテリアルフロー―安定供給上の課題―
図8:国内のリチウム中間原料需要の推移
(出典:工業レアメタル)
図9:国内の用途別リチウム需要の推移
(出典:工業レアメタル)
干の減少が、それぞれ影響しているものと推測され
る。また、2013年時点で3%程度のシェアのある一次
リチウム電池用途については、その主な生産者の一つ
であるパナソニックの主要工場が海外移転したことに
より、国内生産が減少している。このほか、グリス、
連続鋳造、合成ゴム重合触媒需要量については、横ば
い~若干の減少が認められる。
最後に、国内需要で7割を占める LiB 用途について
まとめる。国内では、2010年をピークに LiB 生産個数
が減少する傾向にあるが、LiB の大容量化に伴いリチ
ウム需要量は生産個数ほどには減少していない。ス
マートフォンなどの普及で需要が高まっている民生用
の LiB 生産については、中国・韓国製品の競争力が向
上し、日本製品のシェアが減少しており、リチウム需
要の減少の大きな要因となっている。一方で、車載用
LiB の我が国のシェアは高く、電気自動車の普及動向
が今後の国内需要に大きなインパクトを与えるものと
考えられる。電気自動車については、現状、ルノー・
日産自動車グループの電気自動車が最も普及している
状況であり、より大容量の LiB を採用するテスラ自動
車(米)の大規模な増産計画、電気自動車普及を促す
中国の政策など、ポジティブな要素が多く、今後も普
及が進むとみられる。一方で全自動車に占める電気自
動車のシェアを長期的に予測することは難しい状況で
ある。電気自動車向けとしては、短期的には、現状の
まま LiB が継続して採用され、リチウム中間製品とし
ては大容量化に適した水酸化リチウムの需要が伸びる
ものと考えられるが、電池技術は日進月歩であり、長
期的にどの素材を用いた電池が採用されていくかにつ
いては、現時点では明確な見通しは立っていない。
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5.リチウムの安定供給上の課題
レポート
図10に示すリチウムのマテリアルフローをもとに、
我が国における安定供給上の課題は以下のとおり整理
される。
(1)供給
リチウムのマテリアルフロー―安定供給上の課題―
リチウム資源の埋蔵量は膨大であるうえポリティ
カルな問題の少ない先進国や開発途上国に賦存してい
ること、山元の生産能力にも余力があること、さらに
は新たな開発プロジェクトも複数発表されていること
等から、当面、原材料における供給リスクは少ないと
考えられる。
しかし、リチウム生産全般については、前述した
とおり、かん水からの生産は大手企業3社で5割近い
シェアを占める寡占状態であり、リチウム価格への買
い手の交渉力が弱い構造にある。また、電池用途向け
となる不純物の少ない良質な塩湖は限られていると言
われ、単純に鉱山開発の増加がその需要を満たすとは
限らない。
(2)出発原料
現在、世界的に民生用の大容量 LiB ならびに車載向
け LiB の需要が伸びている状況から、国内のリチウム
中間製品の需要も、大容量に対応した Ni 系正極材に
用いられる水酸化リチウムの割合が、非 Ni 系正極材
に用いられる炭酸リチウムに対して大きくなりつつあ
る。この傾向は、リチウムの輸入品目から見ても明ら
かで、炭酸リチウム輸入量は横ばいであるのに対し
て、水酸化リチウムの輸入が急増している。水酸化リ
チウムは、国内で生産すると高コストとなるため使用
量の大部分は輸入されている。特に近年、中国からの
電池グレードの水酸化リチウム輸入が伸びていること
は注目される。これは、電池グレードのリチウム原料
を製造できるサプライヤーが増えつつあることを示
し、需要増加への対応が始まっているとみることがで
きる。しかし、大量のリチウムを利用する車載向け
LiB 需要が急激に伸びた場合、水酸化リチウム供給が
一時的にタイトになる可能性がある。さらに、他の鉱
種と同様に将来的に中国依存が高くなる可能性につい
ての是非については別途検討が必要である。
(3)最終製品
中・長期的な視点でみると、リチウムは、特に車
載向け LiB の旺盛な需要が期待される二次電池市場の
核となる鉱種である。中期的には、リチウム需要のけ
ん引役になると考えられる電気自動車は、環境側面か
ら普及が進むものと思われ、航行距離を伸ばし汎用性
を高めるために今後大容量の先進 LiB が採用されてい
くと考えられる。しかし、現状では、次世代自動車の
候補として、燃料電池車等、複数の提案がなされてい
る状況であり、リチウム需要の増加率を左右する電気
図10:リチウムのマテリアルフロー
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2015.9 金属資源レポート
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リチウムのマテリアルフロー―安定供給上の課題―
ジェクトは、供給多角化の観点から非常に重要な位置
を占めている。このほか、複数のリチウム開発プロ
ジェクトにおいて生産コスト低減・リチウム回収(不
純物除去)のための技術開発支援も実施してきた。
平成27年度の調査では、将来のリチウム需要見通
し、特に、そこに大きなインパクトを与える車載向け
LiB の需要動向の見極めや効果的な対応策を検討する
ため、引き続き、国内外の次世代電池動向およびリチ
ウム需給動向を注視し、リチウム需要の変化を正しく
把握しつつ、サプライチェーンの深堀りを行っていく
予定である。
(2015.8.31)
レポート
自動車の普及のスピードや将来の全自動車に占める需
要割合を予想することは難しい。また、長期的には、
LiB では理論的に達成できない高いエネルギー密度を
もつ革新電池が登場すると考えられている(NEDO
二次電池技術開発ロードマップ 2013)
。リチウムを引
き続き利用する電池の他、リチウムに代わってナトリ
ウムを用いた電池の開発も進んでおり、どの素材が中
心になるかを判断するには時期尚早という側面もあ
る。
JOGMEC では、これまでリチウム資源の安定確保
に資するため、供給源の多角化支援としてオラロス塩
湖の探鉱・金融支援を行っている。現在の日本の需要
量をカバーするだけの生産が計画されている同プロ