応急仮設村への提言(2Puls)

応急仮設村への提言(2Puls)
−普通の暮らし、安心、笑顔のある住まいの提言―
日本リハビリテーション工学協会理事長
同 SIG すまいづくり代表
神戸芸術工科大学教授
相良二朗
兵庫県立総合リハビリテーションセンター
名誉顧問 澤村 誠志 (社)日本作業療法士協会
会長 中村 春基
東日本大震災に向けた応急仮設住宅は相当長期間にわた
り、新たな地域社会として機能することが求められる。つ
まり、仮の家屋を建設するのではなく、仮住まいする町や
村を創る姿勢が重要であり、画一化に陥らない工夫が必要
である。阪神・淡路大震災の経験から今後建設される応急
仮設住宅のあり方について提言します。作成にあたり日本
リハビリテーション工学協会 SIG 住まいづくり会員の皆様
から貴重なアドバイスをいただきました。
栗原市企画部市政情報課広報広聴係提供の「一迫長崎地区仮設住宅」の写真を加工
-1-
1.
①
バリアフリーについて
大規模災害の後に建設される応急仮設住宅は法が定めている 2 年間では終
息し得ないことは阪神・淡路のときにあきらかになった。当初から 4 年も
しくはそれ以上の生活に耐える仕様で建設するべきと考える。
②
仮設住宅は杭打ち基礎の上に床が載り、その上に設備が載る構造で建設さ
れるため、浴室出入り口に 30cm 程度の段差が生じてしまう。
③
浴室、洗面、便器が一体となった最小規模のユニットバスルームが設置さ
れることが多いが、使用頻度が高い便所の利用に 30cm の段差通過は全て
に人に大変な動作を強い、高齢者や下肢に障害のある人には越えられない
段差となる。
④
阪神・淡路のときはボランティアによって踏み台が制作配布され、長岡の
ときは踏み台が完成時に標準的に設置された。
⑤
使用頻度の高い便所を独立させて便所だけでも段差0とするか、ユニット
バスが載る床の一部(基礎)を下げ、段差を 10cm 未満とすることが望ま
しい。
⑥
浴槽横や便器の横には手すりが標準的に設置されるようになったが、出入
り口段差の部分にも縦手すりを標準的に設置することが望ましい。
⑦
ユニットバスのドア幅が狭いため、介助での通過や補助機器使用での通過
が困難である。親子ドアなど広く使用できるドアが望ましい。
⑧
仮設住宅に設置されるユニットバスはバスタブが一体成型されたものが多
いが、バスタブへの出入りが大変なため、据え置きバスタブとして全身シャ
ワー器具を選択可能とする。ただし、給湯能力が十分でないと全身シャワー
は使用できない。
⑨
浴槽への出入りが困難な場合、浴槽蓋を座れるもの ( 木製など ) にして、
浴槽上に腰を掛けてシャワー浴を可能とする。冬場は入浴前にシャワーか
ら熱い湯を出し、浴室内を十分暖めておく。ミストサウナを組み合わせる
方法もある。
⑩
現在用いられている 1116 タイプのユニットバスルームでは基本的に狭く、
高齢者等の使用には適していない。1616 や 1418 タイプが設置できるよ
⑪
う仮設住宅の最大床面積基準(現在 29.7㎡)を改めるべきである。
浴槽の出入りが困難な場合は、
連棟で建設される仮設住宅は、敷地が傾斜している場合、敷地が下がるに
浴槽の上に腰掛けてシャワー浴
つれて出入り口段差が大きくなる。阪神・淡路のときは 70cm を超える住
を可能に。
宅もあった。蹴上 16cm、踏面 30cm 程度の緩い階段で、片側には手すり
付属の風呂蓋は弱いので、桧や
が設置できるような配慮が必要。
⑫
松などの水に強い木材でしっか
玄関出入り口部分には段差のないデッキがあると車いすでのアプローチを
仮設スロープで対応することが容易になる。住民間のコミュニケーション
促進にも効果的である。
⑬
玄関出入り口部分にも縦手すりが欲しい。屋外の段差昇降のためと、屋内
での履物着脱時の立ち座りのために、それぞれ必要(もしくは設置準備と
⑭
⑮
腰掛台が浴槽内に滑り落ちない
ように、ズレ止めを裏面につけ
る。
して取り付け下地を施行)
。
天面には風呂用マットを貼ると
欧米からの輸入住宅は設備や窓の高さが高いので日本人高齢者の身長には
よい。
適合しないことがある。
浴槽が高すぎる場合は、足台を
阪神・淡路で建設されたグループホーム型仮設住宅は独居高齢者等に対し
用意する。
て有効に機能した。
⑯
りと作る。
車いす使用者が入居することがわかっている場合は、床段差が小さい住戸
-2-
3600
1800
1800
1800
2 方向避難のために
テラス窓とする。
1800
2700
6畳
2700
阪神・淡路のときに建設された
1800
8100
4.5 畳
応急仮設住宅の奥行きを 90cm
延ばし、便所と浴室を分離した
プラン。4.5 畳の部屋が行灯部屋
となり暗くなる。
玄関側に床と同レベルのデッキ
を連続して設け、住宅レベルで
の水平移動を可能にする。端部
1800
および随所に階段か謝路を設け
る。
2700
K
踏み台
玄関前には風除室を設ける。洗
濯機も風除室内に収める。
UB 1116
900
手すりは不要な人には邪魔にも
玄関
なるので、必要に応じて簡単に
設置できるよう、水周りや出入
り口周辺など、段差昇降や立ち
洗濯機
1800
風除室
座りが必要な場所には下地を用
意しておく。
住戸内通路は有効幅員 70cm 以
レベル通路
上を確保する。
8.100x9.00=29.16 ㎡ <29.7 ㎡
-3-
5400
2700
2700
1800
1800
2700
1800
1800
寝室 4.5 畳
洗濯機の室内
設置も可能に
水栓と電源の
居間 4.5 畳
900
洗濯機
1800
5400
用意
腰掛台
カーテンレール
DK
洗面器具は取り
UB
1800
1800
踏み台
流し台
外し可能
玄関
洗濯機
風除室
浴槽無しも選べ
るようにする
レベル通路
ミストサウナや
全身浴シャワー
5.4x5.4=29.16 ㎡ <29.7 ㎡
間口、奥行きともに 5.4m としたプラン。居室が 4.5 畳二つになるが、便所と浴室を分離でき、台所を広
く使える。居間、寝室ともに窓を持ち、採光が可能。
浴室出入り口前には踏み台を据付、カーテンレールを取り付けて脱衣時のプライバシーを守ることができ
る。
居室のいずれかの窓はテラス窓とし、2 方向避難を可能にする。
玄関前には床とほぼ同じレベルのデッキを連続して設け、円滑な水平移動を可能にする。端部および随所
に階段か謝路を設ける。
玄関前には風除室を設ける。洗濯機も風除室内に収める。シニアカー(ハンドル型電動車いす)などの充
電もこのデッキ上でできる(2 口屋外用コンセント)
手すりは不要な人には邪魔にもなるので、必要に応じて簡単に設置できるよう、水周りや出入り口周辺な
ど、段差昇降や立ち座りが必要な場所には下地を用意しておく。
住戸内通路は有効幅員 70cm 以上を確保する。
-4-
に入居できるよう、機械的でな
い住戸割り付けが必要。
⑰
障害によっては、便器や浴槽の
配置による勝手違いが動作に大
きく影響する場合がある。通常、
2戸が対称に配置されるので、
入居者の状況に応じた割り当て
が配慮されるとよい。
⑱
敷地内通路には砕石が敷かれる
ことが多いが、車いす、ベビー
カー、台車などの小径車輪を有
するものの移動が困難になる。
簡易舗装や、廃材による木道な
どの対応が必要。砕石歩道の歩
行音で夜間睡眠を妨げられたと
いう報告が長崎県の雲仙普賢岳
仮設住宅で報告されている。廃
材には瓦礫も使用できるが、釘
などによる被害が生じないよう
に注意が必要。
2.暑さ対策と寒さ対策につ
いて
①
直射日光による照り返しを防ぎ、
風が通る工夫をする。
②
屋根にフックやアイ・ボルトを
あらかじめ設けておき、簾や縦
簾を掛けたり、朝顔やへちまな
どつる性植物を育ててグリーン
カーテンをつくったりできるよ
うにする。
住戸玄関前をデッキでつなぎ、随所に階段とスロープを設置する。向い側の住宅ともレベル
③
で接続するとさらによい。
壁面へ蔦や山葡萄などを這わせ
ることで、直射を和らげるとと
玄関には風除室を設け、防水コンセントを設置する。
ともに、棟ごとに表情を持たせ、
3.−⑧と同様の効果を与える。
④
庇にて夏の高い位置からの日差
しを遮り、冬の低い位置からの
日差しを入れるようにする。
⑤
屋根の上や壁に打ち水を掛けて
気化熱で温度を下げることを容
易にできるように、各戸に屋外
水栓を洗濯機用以外にも設置す
る(分岐水栓でも良い)
。水不足
ミストノズル(みずまき上手)
1時間当たり 10 リットル使用
ホームセンターなど
が懸念されるため、ミスト散布
ノズルを使用するか、天水や湧
-5-
き水など飲用水以外の水を使用するようにする。
⑥
小屋裏のない陸屋根形状の仮設住宅が一般的であるが、切妻造や片流れに
すると輻射熱の室内への伝達を和らげ、小屋裏に収納スペースを確保でき
る。
⑦
ソーラーパネル付き排気扇(船舶キャビン用品)を屋根に設置し、小屋裏
の熱気を排気する。冬場はシャッターを閉じる。
⑧
寒冷地からの輸入住宅は窓が小さく風通しが良くない設計のものがあるの
で発注時に注意が必要。
⑨
使用に伴い、隙間が生じやすいので、目張りやコーキング剤などによる補
修方法を伝達する。
⑩
豪雪地帯も含まれるため、雪下ろし対策を考慮しなくてはならない。
⑪
太陽光温水装置や太陽光発電装置などの自然エネルギーの積極的利用を取
り入れる。ただし、陸屋根だと太陽高度にあわせた角度にならない。
⑫
玄関部分に風除室を設け、室内の暖気が逃げないようにする。( 長岡、宮城
ソーラーパネル付き換気扇
小型船舶のキャビン用などで、5000 円∼
[2008] にて対応済み )
⑬
ハウスメーカー製の仮設住宅に導入されるペアガラスを寒冷地の標準仕様
にする。
グリーンカーテン
3.
①
アイボルト
コミュニティとしての機能について
連棟が整然と並べられることが多いが、10軒程度がクラスターを構成し
やすい配置計画が望ましい。
②
クラスター単位で集える広場や、共同利用スペース、共同キッチンなどが
個別のもの以外にあるとよい。
③
個々の住戸⇒ 10 軒程度のクラスター⇒応急仮設住宅村といった階層構造
を誘導する。
④
住宅だけでなく、商店や理美容など被災前の職業を継続できるよう、希望
者には居住空間だけでなく店舗スペースも合わせて提供することで応急仮
-6-
ルーフ部分にアイボルトやホールを配し、園芸
用ネットや紐を容易に取り付けできるように
し、糸瓜や朝顔、胡瓜などの蔓性植物を栽培し、
緑のカーテンによる遮光を行う。
仮設店舗
階段 斜路
グループホーム
型仮設住宅
畑
広場
多目的集会所
バザール
トレーラハウス
天水
仮設店舗
階段 斜路
ゴミステーション
売車
畑
販
移動
P
N
-7-
設村の機能が充実(住民の利便性が向上)し、自立再建も早めることができる。
⑤
長い連棟であっても、住戸の間に④の店舗を挟むことで物理的にも意識的に
もクラスター化が容易になる。
⑥
交通手段の確保と敷地の有効利用のためにカーシェアリングシステムなど、
共同利用の仕組みを導入する。
⑦
独居高齢者も多数想定されるため、仮設村の一部にはグループホーム型仮設
住宅を建設し、村の中の一部として存在させ、交流や互助を容易にする。
⑧
仮設住宅は同形同色の住戸がならび、殺風景な風景となるとともに、住民や
来訪者には個々の住宅の位置が分かりにくい。アートやデザイン系の学生ボ
ランティアの力を借りてワークショップを行い、住民と一緒に住宅の壁面を
飾ったり、着彩したりすることで、アイデンティティを高め、
「私の家」とい
う気持ちを持ってもらうようにする。
⑨
復興に伴い、恒久住宅へ転居する人が増え、歯抜け状態になり、地域力の低
下や治安の低下が生じる恐れが想定される。空家の積極的な利用が求められ
る。
同じ色彩と形体の住宅がたくさんならび、殺風
4.
景な風景となるとともに、自己の住宅の所在が
量的確保
わからなくなる。
①
トレーラハウスやコンテナハウスなど多様な住宅を仮設住宅として活用する。
②
コンテナハウスの 2 段重ねなど、多層化を検討する。上層の住宅には若い世 のワークショップを行う。
代が入居し、フラットなアクセスが必要な高齢者等を下層の住宅に割り当て
る。
③
株式会社シルエット・スパイスは 20 フィート国際規格コンテナサイズの重
量鉄骨住宅を提案している。1 台分で 16㎡のワンルーム小家族 ・ 単身者用住
宅となる。2 台を連結すると 32 ∼ 37.63㎡の2DK となる。移設後増設し恒
久住宅としても活用できる。コンテナ輸送システムを利用できるため、現場
施工が殆ど無く、工場生産可能。(http://imweb.ne.jp/hinan/)
④
吉村靖考氏のエクスコンテナ・プロジェクトも同様の考え方。
-8-
美術系学生などと住民が共同でペインティング