第1部 行政法総論 第1部 行政法総論 第1章 行政 第1章 行政 第1 行政法学の目的 ・・・・・・・・・・・・・・・ 3 第2 行政法の全体構造 ・・・・・・・・・・・・・ 3 第3 行政の意義 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 第4 行政の分類 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 第1 行政法学の目的 行政法典は存在しない 無数の行政に関する法律が存在→この通則を考察するもの Example:営業許可・停止,課税処分 権利義務を決定する処分として共通の性質→行政行為として 考察 いずれも権限がある者による取消しがあるまで効力が否定で きない点で共通 第2 行政法の全体構造 1 行政組織法 一般法理の他,国家行政組織法,地方自治法,国家公務員法,内閣法 等 2 行政作用法 主に一般法理を学ぶ 3 行政救済法 行政不服審査法,行政事件訴訟法,国家賠償法等を中心に学ぶ 第1 行政法学の目的 3 第3 行政の意義 Question:行政の定義 A説 控除説(消極説) 行政:国家作用の中から立法作用・司法作用を除くもの→積極定 義を放棄 (理由) ①歴史的沿革に適合的,多様な行政活動をもれなく包摂でき る ②行政の多様化→積極的定義は困難である一方,定義付けの 必要性が乏しい B説 積極説 行政:法の下に,法の規制を受けながら, 現実的具体的に国家目的の積極的実現を目指して行われる, 全体として統一性を持ち継続的な形成的国家活動 (理由)行政概念の積極的定義ができない→独立の学問として の行政法学が存在し得ない (批判) ①上記の理由づけ→根拠がない ②積極説による定義→行政の特徴なり傾向を大づかみに描い たものに過ぎない ③個別の行政法上の観念と定義との連動が見られない 4 第1部 行政法総論 第1章 行政 第4 行政の分類 1 規制行政 国民の権利利益を制限・剥奪する行政活動 Example: 租税賦課・徴収,建築規制 2 給付行政 国民に一定の権利利益を与える行政活動,積極国家において重要 Example: 補助金・生活保護費の支給 公共施設の提供 道路・公園の設置・管理 ↓ ただし 両者の相対化:ある国民にとって受益的であっても他方国民に侵害的 である場合 Example: 建築確認→近隣の居住者に迷惑な場合 3 調達行政:税務行政,公用収用→規制行政・給付行政の分類で は把握できない分野 人事行政 4 調整行政:私人間の紛争→司法的解決方式に先立ち行政機関が 私人間の利害調整を担当 5 私経済的行政:全く私企業と同じ立場にて行われる→民法が直 接適用される分野 Example: 公立病院の診療契約 6 権力行政・非権力行政:規制行政・給付行政に対応するもの Check: 規制行政が非権力的に 行われる場合 Ex: 行政指導 給付行政が権力的に行 われることもある Ex: 生活保護決定 第4 行政の分類 5 第2章 法律による行政の原理 第1 法律による行政 ・・・・・・・・・・・・・・・ 6 第2 法律による行政の原理の内容 ・・・ 6 第1 法律による行政 1 意義 ⑴ 行政活動→法律の定めるところにより法律に従って行わなければな らない ⑵ 近代立憲主義国家において確立 2 趣旨 ⑴ 公権力の濫用を防ぎ,国民の権利・自由を守る(自由主義的要請) ⑵ 法律による統制→行政を民主的コントロールの下におく 3 法律の法規(専権的)創造性:法規を創造する力は法律が独占 していること ⑴ 法律による行政の原理の根拠 ⑵ 法規:国民の権利義務に関する一般的規律のこと ⑶ 法規命令の制定→法律の授権が必要ということになる 第2 法律による行政の原理の内容 1 法律の優位:行政活動→法律の定めに違反して行われてはなら ないとの原則 cf.法律の定めよりも厳しい行政指導→法律の優位に反しない 6 第1部 行政法総論 第2章 法律による行政の原理 2 法律の留保:行政活動→法律の根拠を要するとの原則 Question:法律の留保が妥当する範囲 問題の所在▶法律の根拠が必要な行政活動の範囲をどのように考え るべきか? A説 侵害留保説:国民の自由と権利を権力的に制限ないし侵害 するような行政活動 行政活動→独自の判断に基づき行政目的を追求できる自律的作 用である (理由)人権保障→自説の範囲で実現できる,基準が明確にな る (批判) ①民主的責任行政の確立に対する配慮が不足している ②侵害行政と授益行政は必ずしも二分できない B説 全部留保説:すべての行政活動 (理由)自由保障のみならず,民主的責任行政の実現にも配慮 すべきである (批判) ①複雑化した現代の行政需要に臨機応変に対応できないおそ れ →包括的な授権立法を許す結果となるおそれ ②行政主体にも民主的正当性が認められる C説 権力留保説:権力的な行為形式によって行われる行政活動 受益的な行政活動も含む (理由)人権保障のため権力行使の根拠は法律に求めるべき しかし,行政活動の自由領域も承認 (批判)行政計画,行政指導は非権力的性格を持つ→法律の根 拠が不要となるおそれ Advance:法律の優位の原則と慣習法 行政法の分野→慣習法の成立は困難 慣習法の成立→法律の留保の原則との抵触がない範囲で Advance: 特別権力関係理論→憲法参照 Check: 法律に違反した行政実 務が相当期間継続して行 われた場合 →法的に拘束性を持っ た慣行としては認め られない( 判 例 ) 第2 法律による行政の原理の内容 7 第3章 公法と私法 Question:公法・私法二元論の当否 A説 二元論(従来の通説) 議論の実益→行政法学の対象は公法に限る 行政法を「行政の組織及び作用並びにその統制に関する国内公 法」と定義 (理由) ①行政法学の体系的地位の確立 ②法原理の違い(公法関係:命令強制の関係又は公共の福祉と 密接に結びついた関係) ③行政事件訴訟法の適用を受ける範囲を明らかにできる B説 一元論(公法・私法の区別を否定する立場) 行政法上の法律関係を規律する法原理→実定法に照らし個別具 体的に定まる 特別な法的規律→実定法が個別的に規定した限りで存在するに 過ぎない (理由) ①非権力的行政活動(現代は役割が増大)→行政法学の対象に すべき ②行政事件訴訟法等の存在を根拠に公法・私法二元論の有用性 を論じる→論理が逆 Advance:三分類説 a 分類方法 ⒜ 公法関係 ⅰ 支配関係:国・公共団体が法律上優越的な意思の発動 主体として私人に対する関係 Example: 租税の賦課・徴収 ⅱ 管理関係:国・公共団体が公の事業又は財産の管理主 体として私人に対する関係 Example: 公物の管理など ⒝ 私法関係:国・公共団体が私人間の法律関係と同様に私 人に対する関係 b 3分類 ⒜ 支配関係 ⅰ (信義則など法の一般原則を除き)私法の適用がない ⅱ 本来の性質において私法的規律領域になじまない,特 殊の公法的規律・原理が妥当 ⒝ 管理関係→行政目的に照らし必要な限度で,公法的規律・ 原理が妥当 ⒞ 私法関係→もっぱら私法法規のみ適用 8 第1部 行政法総論 第3章 公法と私法 判例 権力関係への民法 177 条の適用(発展) Ⅰ 農地買収処分と民法 177 条 事例▶不在地主Aから X が土地購入,未登記→未登記のまま農地買 収処分 判旨▶民法 177 条→農地買収処分には適用がない ①農地買収処分は国家の権力的手段による強制買上げ→売買と 本質を異にする ② 177 条は私経済上の取引の安全を保障するためのもの→民法 177 条の適用なし Ⅱ 租税滞納処分と民法 177 条 事例▶ X がAから土地購入,未登記→税務署長が土地の差押え・登 記具備・公売 判旨▶ 177 条の適用がある 国の地位→差押債権者の地位に類するもの,租税債権はたまた ま公法上のもの 判例 議員報酬債権の譲渡性(発展) 事例▶議員報酬債権の譲渡,確定日付がある通知具備→その後,当 該債権を差押え 問題の所在▶公法上の権利→譲渡・差押え・相続の対象にならない のではないか? cf.生活保護受給権 判旨▶議員報酬債権の譲渡は有効 法律上特定の者に専属する性質のものとされていない 9 判例 国に対する損害賠償請求と時効(発展) 事例▶国の安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求訴訟 問題の所在▶会計法 30 条(消滅時効期間を5年とするもの)の適 用の有無 判旨▶会計法 30 条の適用はない ①会計法 30 条の趣旨は行政上の便宜を考慮したもの →適用があるのは便宜を考慮する必要がある金銭債権 cf.租税 ②安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求 →多発するものではなく,便宜を考慮する必要がない 私人間相互間における損害賠償の関係とその目的性質を異 にするものではない 事例▶公図上水路→古くから水田に作り替えられ,売渡しを受け 10 年間耕作 →取得時効の完成を根拠とした所有権確認の訴え 問題の所在▶公物→明示の公用廃止の意思表示がない限り,時効取 得の対象にならないのでは? 判旨▶黙示的な公用廃止によって取得時効も成立することがある ①長年公の目的に供用されることなく放置,公共用財産として の機能・形態の喪失 ②他人の占有により,公の目的が害されることがない →公共用財産として維持すべき理由がなくなった場合 判例 信頼関係法理の適用(発展) 事例▶公営住宅の敷地上に,借主が許可なく建物を増築 →公営住宅法所定の明渡事由に当たる,使用許可の取消し,明 渡請求 問題の所在▶信頼関係破壊の理論の適用はあるか 判旨▶信頼関係破壊の理論の適用あり ただし,上記事例では理論の適用否定 公営住宅の使用関係→特別の定めがない限り,一般法である民 法・借地借家法が適用 10 第1部 行政法総論 第4章 行政法の法源 第4章 行政法の法源 第1 成文法源 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11 第2 不文法源 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11 第1 成文法源 憲法,条約,法律,命令(政令,内閣府令,省令,規則),条例 第2 不文法源 1 慣習法 長年の慣習が一般国民の法的確信を得て,法的規範として承認された もの Example:行政先例法(法令の公布は官報をもってする等) 行政庁における長年に渡る取扱い→法的確信を得るに至った もの 2 判例法 判例が明らかにした法規範,最高裁判所の判決によって形成される ⑴ 抽象的な行政法規を具体化し,その内容を明らかにする ⑵ 慣習法の存在とその内容を明確にする 第1 成文法源 11 3 法の一般原則:一般社会の正義心において,かくあるべきと認 められる条理又は筋合 ⑴ 信義則,権利濫用,緊急避難 ⑵ 法解釈の基本原理,法に欠陥がある場合の補充原理 →裁判は条理に従ったものである必要 ⑶ 時代の推移と社会の変遷に伴い推移・変遷する 判例 租税関係と信義則 事案▶青色申告の承認を受けないまました青色申告→数度受理した 後に白色申告としての更正処分がなされる 判旨▶ ①租税法規に適合する課税処分→信義則の適用は慎重であるべ き,特別事情が必要 ②特別事情:納税者間の平等・公平という要請を犠牲にしても なお納税者の信頼を保護しなければ正義に反すると言えるよ うなもの ③適用要件 税務官庁が信頼の対象となる公的見解を表示したこと 納税者が帰責性なく公的見解を信頼し,帰責性なく信頼に基 づいて行動したこと 表示に反する課税処分が行われ,納税者が経済的不利益を受 けることになったこと 判例 行政権の濫用 事案▶個室付浴場を営むため土地を購入し,県の指導を受けながら 建築確認を得る →住民の反対運動を受け,営業予定地の近くの土地を児童遊園 とする認可 結果,個室付浴場の営業が不可能になる→認可は行政権の濫 用,国家賠償請求 判旨▶本件認可→行政権の著しい濫用によるものとして違法 判例 緊急の措置 事案▶A町にある川に無権限でヨットの係留施設を設置→A町がこ れを撤去 撤去に法律の根拠がない→撤去のために支出した費用の返還を 求めた住民訴訟が提起 判旨▶緊急の事態に対処するためにとられたやむを得ない措置 →民法 720 条の法意に照らして容認すべき 12
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