皮膚灌流圧における標準化指標の作成 1. 背景 皮膚灌流圧(以下 SPP)

皮膚灌流圧における標準化指標の作成
1. 背景
皮膚灌流圧(以下 SPP)の測定は、重症虚血肢の血流評価などに利用されてい
ます。ABI に比べ血管石灰化の影響を受けにくいため、糖尿病患者や維持透
析患者の血流評価に有用とされています。当院では平成 21 年 11 月より測定
を開始しました。
2. SPP 測定の実際
当院では透析中に、ベッドサイドにて SPP を測定しています。
3. SPP に対する測定時の影響
ある症例における、SPP と収縮期血圧・脈拍・透析の経過の関係をグラフ
に示します。同一症例においても、SPP は収縮期血圧・脈拍・透析の経過
の影響を受け、その数値は変動しています。
4. 維持透析患者 55 例における質的変数を含む重回帰分析の解
また SPP は、max-IMT という動脈硬化因子の影響も受けており、収縮期血
圧・脈拍・透析の経過・max-IMT の 4 つの因子からなる関数として表現で
きました。
5. SPP の数学モデル
各因子や、因子を構成する要素間に交互作用がないと仮定した場合、SPP
を表現する関数を SPP の数学モデルとしました。
6. 目的
SPP は測定因子や動脈硬化因子の影響を受けます。透析の経過は測定の時
間を一定にすることでコントロールすることができますが、収縮期血圧・脈
拍は正確にコントロールすることはできません。したがって、同一症例を多
数回測定することにより、収縮期血圧 120mmHg、脈拍 60/min に標準化す
ることを試みました。そしてその標準化 SPP が動脈硬化強度と相関するか
を検討し、動脈硬化の指標となり得るか検討しました。
7. 対象と方法
対象は、当院にて SPP を測定した維持透析患者 36 名です。
8. 方法
SPP:
PAD3000(väsamed 社製)を使用し、1 肢につき 30 回足底部にて測定。
非シャント側上腕の血圧・脈拍も同時に測定。
max-IMT:
prosoundα10(ALOKA 社製)を使用し、血液透析後に測定。
ABI/baPWV:
form ABI/baPWV(オムロンコーリン社製)を使用し、血液透析前に測
定。
9. 標準化 SPP の算出方法
30 回分の測定データを、SPP を目的変数、収縮期血圧・脈拍を説明変数と
した重回帰分析を行い、切片・係数を求め、次に収縮期血圧 120mmHg、脈
拍 60/min とし、得られた値を標準化 SPP としました。
10. 非侵襲的動脈硬化検査の条件
標準化 SPP は、非侵襲的動脈硬化検査の条件を満たしています。動脈硬化
強度との相関が得られれば、標準化 SPP は実用的な検査となると考えられ
ます。
11. 標準化 SPP と臨床的動脈硬化因子
臨床的な動脈硬化の状態を示す因子である年齢・性別・透析歴・動脈硬化性
疾患(高血圧・糖尿病・脂質異常症)
・喫煙・心血管系合併症と、標準化 SPP
の関係について検討を行いました。
12. 表 2:標準化 SPP を目的変数、臨床的動脈硬化因子を説明変数とする 2 変
量の関係
年齢・性別・透析歴では標準化 SPP との明らかな相関関係は認められませ
んでしたが、糖尿病患者や心血管系合併症を有する患者においては、標準化
SPP は有意に低値となりました。
13. 考察 1
よって標準化 SPP は、より動脈硬化が強度のものを描出できると考えられ
ます。
14. 標準化 SPP と他の動脈硬化検査
次に、max-IMT、baPWV 、ABI との単回帰分析を行いました。
15. 標準化 SPP 値と max-IMT の相関
標準化 SPP は、max-IMT と負の相関を示しました。
16. 標準化 SPP 値と baPWV の相関
baPWV とは相関が得られませんでした。
17. 標準化 SPP 値と ABI の相関
ABI とは正の相関が得られました。
18. 考察 2
今回の検討において、標準化 SPP は max-IMT・ABI と相関が得られたこと
から、標準化 SPP は動脈硬化の状態を表現し、動脈硬化の検査として有用
であると考えられます。
19. 各動脈硬化検査の特徴
各動脈硬化検査の特徴を示します。SPP の「測定時の影響を受ける」とい
う短所は、標準化を行うことにより解決することが出来ました。
20. まとめ
標準化 SPP を作成するにあたり、測定回数が増え煩雑になるのは否めませ
んが、標準化 SPP は測定時の影響を受けない指標であり、SPP と max-IMT
の双方の利点を持った指標となると考えられます。
21. 結語
標準化 SPP は、測定時の影響を受けない有用な下肢血流の指標でした。