ハイスピードフローサイトメーター MoFloを用いた 細菌増殖とPHB産生の

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MoFlo No.4
ハイスピードフローサイトメーター MoFloを用いた
細菌増殖とPHB産生の測定
はじめに
フェノール培地で生育した際の Cupriavidus necator の適応過程に応じた動態を調べました。細菌個々は構造的・
機能的に異なりますが、その形態はほぼ均一な状態です。この細菌は、βプロテオバクテリア群に属し、多数の毒性物質
を分解する能力を有することから、しばしば、モデル生物として使用されています。1
オーバーフロー代謝は、基質の供給バランスが悪い場合や栄養源の一時的な変化が起きた場合などに誘発されます。
これらはいずれも生き残り戦略の一環であると考えられています。その一例が、ポリβヒドロキシ酪酸(PHB)の合成です。2
染色体量(4’,6-ジアミノ-2’フェニルインドール、DAPIにより測定)やPHB(Nile redにより測定)のような細菌内構造パラ
メータの変動を解析しました。
材料と方法
バッチ実験用の 0.5 L 振盪フラスコを用いて、炭素源およびエネルギー源としての0.02% フェノールを含む最少培地によ
り、C. necator JMP 134を30℃、pH7.0で好気的に培養しました。細菌は、3,200×gで6分間遠心し、10%のNaN3で
固定して、4℃で保存しました。フローサイトメトリー測定には、固定した細菌を再び遠心し、塩化ナトリウム-リン酸バッファ
(0.4 M Na2HPO4/NaH2PO4、150 mM NaCl、pH7.2)で洗浄し、再懸濁して濃度を3×108 cells/mLとしました。3
Meistrichら4の方法に従って、DNAを4’,6-ジアミノ-2’フェニルインドール(DAPI)にて染色しました。DAPIは、AT特異的
かつ化学量論的であるので、個々の細菌の染色体の倍数性に関する量的情報が得られます。
細胞のPHB含有量を解析するため、Nile redで以下のように染色しました:40 µLのNile redストック液(アセトンで
1 mg/mLに調製)を、3×108 cells/mLのDAPI染色細胞に添加し、8分間インキュベートしました。
2本の水冷アルゴンイオンレーザ(Innova 90CとInnova 70C)を搭載したMoFloを使用して、フローサイトメトリー測定を行
いました。Nile redは、波長488 nm(500 mW)により励起し、DAPIは、マルチラインのUV(333~365 nm、110 mW)に
より励起しました。前方散乱光シグナル(FSC;細胞サイズに関連)は、488 nmの散乱光をNDフィルタ(光学濃度 2.3)を
使用して測定しました。側方散乱光シグナル(SSC;細胞粒度に関連)は、ビームスプリッターにより反射し、555 nmのロン
グパスダイクロイックミラーで反射後、D 488/10を用いて測定しました。Nile RedとDAPI蛍光には、それぞれ580/30と
450/65バンドパスフィルタを用いました。すべてのシグナルは、リニアスケールで取得しました。スレッシュホールドはSSCシグナ
ルとしました。MoFloの調整には、蛍光ビーズ(Polybead Microspheres: 0.483 µm diameter;flow check BB/Green
compensation kit, Blue Alignment Grade)を用い、CV値を約2%に調整しました。Summitソフトウエアにてデータを
取得・解析しました。
結果
C. necator の各バッチにおける生育細胞について、PHB含有量、FSC/SSCの挙動および増殖活性などが明らかとなりま
した。インキュベート後に細胞のサイズが大きくなり、真核生物様細胞周期行動が観察されました(図1: 2hours)。PHB
産生はまだ開始されていませんでした。弱い蛍光強度が観察されているのは、細胞の脂質膜が非特異的に染色されるた
めです。培養フラスコ内の栄養素や酸素濃度の低下に伴い、増殖が停止し、余剰の炭素は、PHBとして細胞内顆粒に
貯蔵されました(図1: 12hours)。炭素源とエネルギー源が使い尽くされると、細胞内貯蔵が細胞分裂と細胞維持に
消費されました(図1: 16~19hours)。
図1 0.02%フェノールを添加し、バッチ培養したC. necator JMP134細胞のDNA含有量(vs FSC;上段)とPHB含有量(vs SSC;下段)。
サンプリング時間を示してあります。挿入図は染色体量を示します。
結論
C. necatorの細胞周期分布形状から、バッチ条件下でフェノール含有培地で培養したとき、真核細胞様の細胞周期を
示すことがわかりました。この種は通常、他の基質では、非共役DNA合成の誘発が可能なため、これらのパターンは、フェ
ノールが良好ながらも次善の生育基質であることを示しています。また、この株は、生育条件が悪化すると、PHBも使用
可能です。このとき、PHBは代謝回転過程と細胞のホメオスタシスの維持に使用されます。
参考文献
1. Clément P, Matus V, Cárdenas L, González B. Degradation of trichlorophenols by Alcaligenes eutrophus JMP134.
FEMS Microbiol. Lett. 1995; 127: 51-55.
2. Srienc F, Arnold B, and Bailey JE. Characterization of intracellular accumulation of poly-ß-hydroxybutyrate (PHB) in
individual cells of Alcaligenes eutrophus H16 by flow cytometry. Biotechnol. Bioeng. 1984; 26: 982-987.
3. Müller S, Bley Th, Babel W. Adaptive responses of Ralstonia eutropha to master feast and famine conditions analysed
by flow cytometry. J. Biotechnol. 1999; 75: 81-97.
4. Meistrich ML, Göhde W, White RA, Schuhmann J. Resolution of X and Y spermatids by pulse cytophotometry, Nature
1978; 274: 821-823.
5. Maskow T, Müller S, Lösche A, Kemp R. Appropriateness of different heat measurement principles and flow cytometry
used to control the continuous synthesis of polyhydroxyalcanoates. Biotechnol. Bioeng. 2006; 93 (3): 541-552.