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『生活経済学研究』(第 43 巻)掲載論文の募集
学会誌『生活経済学研究』(第 43 巻)に掲載する論文を次の要領で募集します。
1 応募資格 生活経済学会会員であれば、会員種別を問わずどなたでも応募できます(2014 年度総会での承認によ
り、「準会員」の応募が可能となりました)。
なお、共同執筆論文の場合には、執筆者全員が応募資格を満たしているものとします。
2 投稿原稿 (1) 原稿の内容は、未公刊(邦文又は英文)のものに限ります。
(2) 原稿は横書きとし、原稿の長さは、邦文の場合は 16,000 字(図表を含む。題目、要旨、キーワードは
除く)、英文の場合は 6,400 語(邦文と同様)とします。
図表は 1 点につき 500 字に換算してください。
(3) 前掲(2)の字数制限を超過する場合、発刊の際、その超過分等に要した印刷経費は執筆者負担と
します。ただし、超過する場合でも、邦文は 20,000 字(図表を含む)、英文は 8,000 語(邦文と同様)を
上限とします。
(4) 邦文、英文のいずれの場合も 200 語程度の英文要旨(事前にネイティブチェックを受けること)
をつけ、文末に英文要旨に対応した和文要旨(500 字程度)をつけてください。
(5) 5 つ以内のキーワード(英語と日本語)をつけてください。
(6) 邦文原稿の場合は日本語の題目、英語の題目、日本語表記の氏名(脚注へ英語表記)、所属(日本語
と英語。脚注へ)、英文要旨(Abstract)、キーワード(英語と日本語)、本文、和文要旨の順に記載してく
ださい。 英文原稿の場合は英語の題目、日本語の題目、氏名 ( 英語表記、脚注へ )、所属(英語表記。脚注へ)、
英文要旨(Abstract)、キーワード(英語と日本語)本文、和文要旨の順に記載してください。
(7) 原稿を電子記録媒体(CD-R 等)に保存し、同封してください。その他の媒体を希望する場合は事
務局までお問い合わせください。
なお、次の様式で作成してください(詳細は生活経済学会ホームページ※の「書式見本」を参照)。
邦文 ・用紙は A4 判、横書き・文字は MS 明朝体・Times New Roman、10.5 ポイント
・書式は1行 44 文字× 40 行・余白は上部 25 ㎜・下部 30 ㎜・左端 24 ㎜・右端 23mm
英文 ・用紙、フォント、余白は和文と同様。
・A 4版用紙に 1 行 17 語を目安に 40 行(1 頁 700 語程度)で設定してください。
(8) 送付された原稿及び電子記録媒体は、返却しません。
(9) 『生活経済学研究』投稿申込書」に必要事項を記入の上、投稿原稿に添付してください。
※ 生活経済学会ホームページ(URL:http://www.jsheweb.org/)のメニュー「学会誌」に、「掲載論文
の募集」、「書式見本」及び「投稿申込書」を掲載しています。
3 論文・研究ノートの審査・再提出
原稿は、レフェリー(査読員)の査読報告にもとづき、編集委員会が審査し、掲載の可否を決定します。
なお、編集委員会の判断により、研究ノートとして掲載する場合があります(研究ノートの場合は
10,000 字程度に圧縮していただくことがあります)。
4 著者校正 (1) 著者校正は、原則として 2 回までとします。
(2) 印刷上の誤り以外の字句修正、あるいは原稿になかった字句の挿入は、原則として認めません。
(3) 校正の際は、指定の期日までに、編集委員会(事務局)あて必ず返送してください。
5 応募締切 2015 年 9 月 30 日(水)(必着)
6 投稿料・掲載料 原稿の投稿には、投稿料として 5,000 円、また、論文(研究ノートを含む)掲載の場合には、掲載料として
別途 5,000 円を要します。原稿送付時、又は掲載通知受領後、「ゆうちょ銀行の振替口座 00180-9-16600
(生活経済学会)」に納入してください(通信欄に投稿料又は掲載料と明記してください)。
7 送付部数
印刷した原稿 13 部(査読用に著者名・所属・謝辞等を削除したもの 3 部、著者名等を記載した完全版
10 部)とデータを保存した電子記録媒体(CD-R 等)1 枚
8 原稿送付先 生活経済学会 事務局
〒 101-0061 東京都千代田区三崎町 3 丁目 7-4
TEL:03-5275-1817 FAX:03-5275-1805
9 発行時期 2016 年 3 月 (予定)
編集事情等により、次巻に掲載することがあります。あらかじめご了承ください。
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目 次
[ 論文 ]
北九州市における地方銀行の店舗展開……………………………………………………森 祐司
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日本における銀行貸出チャンネルの実証分析
―銀行・企業規模からみた銀行貸出チャンネルの有効性―……………………………卓 涓涓
15
大学生の内定獲得とインターンシップ経験のシグナリング効果……………………平野 大昌
31
[ 研究ノート ]
「人生設計ゲーム」を用いた金融経済教育………………………………大藪 千穂・奥田 真之
45
学級規模と学力―47 都道府県のパネルデータ分析―… ………………山本 信一・井上 麻央
55
高齢化の進行と地方自治体の経常的経費………………………………………………中川 暁敬
65
若年正社員の先の見通しと就業継続意欲―若年者のキャリア意識に着目して―…菅原 佑香
77
[特別寄稿]
生活経済学会初代会長 大石泰彦先生ご逝去を悼む…………………………………藤野 次雄
89
大石泰彦先生を偲ぶ―大石泰彦先生の生活経済学……………………………………朝日 讓治
91
[ 書評 ]
実積 寿也著『ネットワーク中立性の経済学 通信品質をめぐる分析』勁草書房 2013 年
…………………………………………………………………………………………………宍倉 学
95
春日 教測・宍倉 学・鳥居 昭夫共著『ネットワーク・メディアの経済学』
慶応義塾大学出版会 2014 年… ……………………………………………………………江良 亮
99
矢口 義教著『震災と企業の社会性・CSR ―東日本大震災における企業活動と CSR―』
創成社 2014 年… …………………………………………………………………………相澤 朋子
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【生活経済学会の活動状況】
2014 年度生活経済学会部会開催状況… ……………………………………………………………
107
【書籍紹介】………………………………………………………………………………………………
113
【生活経済学会第 31 回(2015 年度)研究大会のご案内】……………………………………………
114
【学会賞の募集等のお知らせ】
『生活経済学研究』(第 43 巻)掲載論文の募集……………………………………………… (表紙裏)
2015 年度生活経済学会賞等の推薦募集要項… ……………………………………………………
115
会員編著等の書籍紹介の募集及び書評掲載についてのご案内…………………………………
118
【会則】……………………………………………………………………………………………………
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CONTENTS
Articles
Bank Branching Strategies in Kitakyushu City
…………………………………………………………………… Yuji Mori1
The Empirical Analysis on the Lending Channel in Japan:
The Effects of Bank and Corporation Size
…………………………………………………………… Juanjuan Zhuo15
Getting a Job Offer and the Signaling Effect of Internship Experience of Undergraduate Students
…………………………………………………………… Daisuke Hirano31
Short Articles
Practice of Financial Education Using “Life Planning Game”
……………………………………… Chiho Oyabu and Masayuki Okuda45
Class Size and Scholastic Aptitude: Panel Data Analysis of 47 Prefectures
……………………………………… Shinichi Yamamoto and Mao Inoue55
A Relationship Between the Current Expenditure of Local Governments and Aging Progresses
………………………………………………………… Akinori Nakagawa65
Young Full-Time Employees’ Future Prospects of Work and their Willingness to
Work at the Same Company
…………………………………………………………… Yuka Sugawara77
Special Contribution………………………………………………………………………… 89
Book Reviews………………………………………………………………………………… 95
Activities of the Society
Regional Meetings in 2014……………………………………………………………………… 107
Book(s) by Members………………………………………………………………………… 113
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Information on 31th Annual Meeting JSHE, 2015… …………………………………… 114
Calls, etc
Call for Articles in the Journal of Personal Finance and Economics,Vol.43……………(back cover)
Instructions for Nominating Candidates for JSHE Awards… ………………………………… 115
Information about“New Books by Members”… ……………………………………………… 118
Rules…………………………………………………………………………………………… 120
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〔論 文〕
北九州市における地方銀行の店舗展開*
Bank Branching Strategies in Kitakyushu City
森 祐司**
Abstract
This paper analyzes the branching strategies of regional banks in Kitakyushu City. Kitakyushu City,
located at the northern tip of Kyushu, has the highest ratio of residents aged 65 years and over within the
general population among all of the ordinance-designated cities in Japan, and faces a declining population.
More precisely, the paper analyzes The Kitakyushu Bank, Ltd., The Bank of Fukuoka, Ltd., and The NishiNippon City Bank, which have many branches, comparably, within Kitakyushu City. Specifically, the paper
evaluates each branch by analyzing its business density, population density, and competitors in the sales area
of the branch. The empirical analysis shows that for each bank, there is a possibility to still improve the
profitability in strategic deployments and advantageous location of functional branch.
key words:Kitakyushu City(北九州市)
、regional bank(地方銀行)、bank branching(店舗展開)、
regional finance(地域金融)、principal component analysis(主成分分析)
1.はじめに
金融ビッグバン以降の自由化の進展は地方銀行に自由な経営戦略策定と自由競争を促し、銀行と
しての経営力が帰趨を左右する時代へと導いてきた。殊に、企業の海外進出や高齢化で地域経済の
疲弊化が進む中で、優良な地方の貸出先が縮小する一方、メガバンク等上位行が地方銀行等下位行
の主な顧客層である中堅・中小企業への貸出や地方富裕層への資産運用サービス業務で進出するよ
うになり、銀行間の競争は激しさを増してきている。このように競争が激しくなると、銀行として
の経営戦略の重みが増すと考えられる。地方銀行は地元となる都道府県に本部機能を果たす本店を
設置し、それを核として店舗網を構築したネットワーク型ビジネスである。近年は、インターネッ
ト・バンキング等の空間的・時間的制約が小さいチャネルも重要になってきている。しかし、地方
銀行としては地域の顧客への金融サービスの提供が生命線であり、また地域貢献への期待もあるた
めに、顧客との直接的接点である(リアルな)店舗の重要性は些かも低下してはいないであろう。
また、地方銀行の収益業務の柱である貸出業務においても、リレーションシップ・バンキングと
いった地域密着型の貸出手法が求められ、地方銀行の店舗は地域や地方企業の情報収集・分析のた
めの重要な拠点にもなっている。地方銀行は営利企業でもあるため、支店や従業員といった経営資
* 本論は平成 25 年度北九州市学術・研究振興事業調査研究助成事業の助成による成果の一部である。また本
論作成にあたり日本金融学会九州部会、生活経済学会九州部会の参加者および本稿のレフェリーから有益なコ
メントを頂戴した。ここに謝辞を述べたい。
** Yuji Mori, 九州共立大学経済学部准教授、Assistant Professor of Kyushu Kyoritsu University, Faculty of Economics, 1-8, Jiyugaoka,Yahatanishi-ku, Kitakyushu-shi, Fukuoka, 807-8585 Japan, Email: [email protected]
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源を効率的に配置・運用し、収益向上を求められる一方で、地域経済への貢献・配慮を欠かすこと
はできず、簡単に店舗を統廃合するわけにはいかないという事情も抱えている。そのような中で店
舗立地をいかに戦略的に考えるかは、重要な経営課題となっている。
本論の目的は、地方銀行の店舗展開について、北九州市で営業展開する 3 つの地方銀行(福岡銀
行、西日本シティ銀行、北九州銀行)に着目し、その店舗立地の特徴を評価し、地方銀行の経営戦
略を考える一つの材料を提供することにある。北九州市を分析対象とする理由はその金融経済環境
の特殊事情にある。国土交通省[2008]は、①政令指定都市の産業構造を就業者数で見た場合、高
度成長期に第二次産業の比率が高かった都市においても、第三次産業の比率が上昇していること、
②現在は政令指定都市の中でも北九州市は製造業の比率は川崎市に次いで高いという特徴を指摘し
ている 1。一方、北九州市は政令指定都市の中で最も高齢化が進み、人口減少も著しい。これらのこ
とから、北九州経済は低成長で、高齢化が進んだ日本経済の象徴のように考えることもできる。こ
のため立地する金融機関の収益環境も厳しい状況にあると考えられる。しかし、そのような厳しい
北九州経済の下で、金融機関競争で全国的にも画期的な出来事が起きた。新規参入が珍しい地方銀
行業界の中で、北九州市を本店所在地とする「北九州銀行」が新銀行として誕生したのである 2。北
九州銀行の誕生により、従来から福岡県・北九州市を営業地盤とする福岡銀行と西日本シティ銀行
は、北九州地域での経営戦略を考え直さざるを得なくなったと筆者は見ている。人口流出・減少す
る北九州市エリアから、まだ人口が流入・増加する福岡市エリアに経営資源をゆっくりと移そうと
していた矢先の出来事だったからである。また、一部で「北九州金利」3 と呼ばれるほど貸出金利
は顕著に低下し、北九州市の金融機関の競争は貸出にも影響している。このように北九州市での金
融機関競争を地方銀行業界は全国的にも注目するようになった。
本論では、このような北九州市における 3 つの地方銀行の店舗立地を分析することから、ケース
スタディあるいは経営学的アプローチをとる。先行研究にあるように個々の店舗データをサンプル
とした計量分析を行うことも考えられるが、①北九州市のみという特定の狭い地域を対象とするこ
と、②市内で展開する主要な地方銀行は 3 行が主であること、③後に見るように地域銀行の店舗展
開・店舗戦略について考える場合、よりきめ細かな地域データに立脚した分析が重要だと考えたこ
とから、この方法を採用している。本論の構成は以下の通りである。
第 2 節では先行研究を整理し、第 3 節では北九州市における金融市場の特性と金融機関の店舗立
地の現状等を確認する。 第 4 節では 3 行の店舗立地を店舗ごとの営業地盤と他金融機関との競争
状態から考察し、計量的な評価を行う。第 5 節ではまとめと課題について論じる。
1 北九州市の産業構造については、森[2014]の分析がある。
2 筆者は 2013 年 8 月に北九州銀行を訪問し、ヒアリング調査を実施した。北九州銀行誕生の要因は以下のこと
があったという。①山口銀行は本店を下関市に置く関係上、関門海峡を挟んで北九州市には古くから支店を出
していたが、「山口銀行」の屋号を掲げての営業展開であるため、北九州市の顧客からは「隣県の銀行」でよ
そ者のイメージがあったために親近感に限界があったこと、②山口銀行は山口県内ではトップの地方銀行であ
るが、県内経済規模が小さいことから、県内でのさらなる拡大が難しいこと、③少子高齢化が進んだとはいえ、
政令指定都市で人口 90 万人強の北九州市は経済規模が大きく、開拓の余地がまだあったこと、④北九州市に本
店を置く銀行はなく、地元からの要望もあったこと、⑤分離したとしてもグループ会社傘下であり、グループ
全体で収益拡大が図れれば成功であるし、また北九州市の地元銀行として確固とした地位を築ける可能性があ
るほか、福岡県の銀行として福岡県全域も視野にいれた展開も目ざせるから、である。これらを背景に、北九
州銀行は、山口フィナンシャルグループの子会社として、既存の山口銀行の九州内の支店を引き継いで発足した。
3 辰巳[2013]を参照。
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2.先行研究
金融機関の店舗展開を分析した先行研究には、対象地域を全国とし、個別金融機関の属性データ
のほか、都道府県別の地域経済環境データを利用して店舗立地の特性を分析したものがある。代表
的な例として、堀内・佐々木[1982]、高林[1997]、家森・近藤[2001]があげられよう。他方、
分析対象を特定地域に限定して、個別金融機関の属性データや市区町村別の地域経済データから金
融機関の店舗配置や金融機関の地域における特性を分析したものも存在する。その例として、堀
江・川向[1999、2001]、由里[2000、2001]、家森[2003]、近藤[2001]、播磨谷[2006]、近藤・
播磨谷[2009]、伊藤[2004]などがあげられる。堀江・川向[1999]は、大阪府と兵庫県の信金・
信組を対象に、店舗周辺の経済的指標と競合店舗数について分析し、金融機関の収益力との関係を
分析している。家森[2003]は愛知県を対象とし、市町村レベルの店舗展開を郵便局と民間金融機
関の店舗設置関数を推定している。同様の研究方法を東京都等、別の都道府県に適用して分析した
ものに伊藤[2004]ほか一連の研究がある。また、播磨谷[2006]、近藤・播磨谷[2009]は、県
ベースではなく、都市を対象にした店舗立地に関する分析例である。播磨谷[2006]は札幌市を対
象に信用金庫の店舗展開と信金別の預貸率の関係について検証し、札幌市内に店舗展開を行う信用
金庫ほど預貸率が高い傾向にあると示唆する。近藤・播磨谷[2009]は、名古屋市内で店舗展開が
積極的な信用金庫の属性を、個別信用金庫の属性と本拠地での市場環境の特性データから分析して
いる。その結果、融資に積極的であったり、本店所在地で高齢化が進行し、資金需要が弱いと見ら
れる信用金庫ほど、資金需要の旺盛な名古屋市に進出し、積極的に店舗展開していることを確認し
ている。
先行研究では業態別の店舗立地関数の推定や、店舗属性を個別金融機関でまとめて分析するもの
が多い。本研究は分析対象を特定地域に限定して分析するが、先行研究とは少々異なるアプローチ
をとる。すなわち、分析方法として、中嶋[2010]を参考に個々の店舗の属性を算出して店舗立地
を考察する。中嶋[2010]は店舗立地を「地盤力」や「競合度」を示す変数を用いて回帰分析を行
い、「市場魅力度」として店舗を評価するアイデアを示している(ただし、具体的に特定の地域や
特定の銀行についての店舗展開を分析しているわけではない)。本研究では中嶋[2010]のアイデ
アを参考に個々の店舗の周辺環境データと競合金融機関の店舗データから各店舗の立地属性を特定
して評価し、個々の支店評価から各銀行ベースに総合する。また、対象地域もこれまで先行研究で
あまり取り上げられてこなかった北九州市であり、分析対象も、福岡銀行・西日本シティ銀行・北
九州銀行の 3 地方銀行のみを対象とする。このため、分析手法もケーススタダィ(経営学的アプ
ローチ)を用いる。このように店舗展開について、先行研究には見られない手法・分析対象を選択
するため、独自の貢献がここにあるのではないかと考えている。
3.北九州市の金融市場の特性
人口減少社会にある日本において、北九州市の人口構造はそのような日本の縮図のように見え
る。北九州市の人口は 1980 年に 106.5 万人でピークに達した後に減少し始め、2000 年代に 100 万
人を割り込み、2014 年 2 月時点で 96.7 万人になった。高齢化は政令指定都市の中で最も進み、
2010 年には 25.1%である。他方、同じ福岡県内でも福岡市の人口は 1955 年以降、増加を続けてい
る。直近で 146.4 万人であり、近い将来 150 万人突破が確実視されている。高齢化も進行している
が、高齢化率は 17.6%と北九州市を大きく下回る。このように、2 市で大きな差があるのは、北九
州市で産業構造の転換が遅れたこと(現在でも第 2 次産業の比率が高い)、バブル崩壊後の地方経
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済の停滞で、九州内での中核都市である福岡市に人口が流出していったことが大きい(森[2014])。
ただし、北九州市を区別にみると、7 区のうち八幡西区あるいは小倉南区で 2000 年代以降に人口
はやや増加あるいは横ばいで推移し、北九州市内でも状況がやや異なることは注意を要する。
次に、北九州市の金融市場の特徴を見ていく。同市における預金総額は 2010 年度で約 4.4 兆円、
貸出総額は約 3.0 兆円で、預貸率は 67.8%である 4。預貸率は 2005 年以降 70% を下回り、全国的な
傾向は北九州市でも反映されている。次に、金融機関の競争環境について確認しよう。2013 年の
福岡県における預金残高シェアについては、大手銀行で 10.9%、福岡銀行 25.4%、西日本シティ銀
行 19.0%、北九州銀行 2.2%、ゆうちょ銀行(郵便局)19.8%などとなっている 5。このように見る
と、福岡県では福岡銀行と西日本シティ銀行が双璧であるように見えるが、2004 年 10 月に西日本
図表1 北九州市における金融機関の店舗立地
福岡銀行
小倉北区
7
西日本シティ
北九州銀行
銀行
9
3
福岡ひびき
信用金庫
4
郵便局
その他の銀行・信用金庫等
合計
32
みずほ1、三菱東京UFJ1、三井住友1、りそな1、三菱UFJ信託1、
みずほ信託1、三井住友信託1、福岡中央1、広島1、もみじ1、西京
2、伊予1、筑邦1、佐賀1、十八1、親和1、大分1、豊和1、肥後1、南日
本1、商工中金1、朝銀西信組1、九州幸銀信組1、九州労金1
80
小倉南区
5
4
3
3
22
北九州農協6
43
戸畑区
1
1
1
3
14
福岡中央1、大分1、北九州農協1
23
門司区
2
2
2
4
25
福岡中央1、大分1、北九州農協1
38
若松区
4
3
2
6
16
福岡中央1、北九州農協2
34
八幡東区
2
3
1
6
16
みずほ1、九州労金1、北九州農協1
31
八幡西区
5
6
3
10
30
福岡中央1、筑邦1、佐賀1、西京1、遠賀2、北九州農協7
67
合計
26
28
15
36
155
56
316
(注)店舗数には出張所及び代理店は含まれていない。各銀行の各区別店舗数はすべて各々のホームページから
算出した。西京銀行戸畑支店は小倉支店内に設置されている。
店舗立地を示した地図は福岡銀行、西日本シティ銀行、北九州銀行の支店のみ表示した。
(出所)各社のホームページ等(2014年2月時点. 郵便局は2014年8月時点)。
4 北九州銀行協会による集計。数値には行橋市や苅田町が含まれる。
5 『金融マップ 2014』金融ジャーナル社より。
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銀行と福岡シティ銀行が合併して誕生する以前は、福岡銀行が 2 位以下を引き離す圧倒的に大きな
シェアを持っていた。このため、西日本シティ銀行が発足してからは、福岡銀行を西日本シティ銀
行が追い上げているというのが、県内の競争のイメージであろう。そういった中で 2011 年に誕生
したのが北九州銀行であった。北九州銀行はまだ預金シェアとしては非常に小さいシェアしかない
が、北九州市の公金の出入金を取り扱う「指定金融機関」に選定されるなど、様々な場面で競争は
激しくなってきている 6。
次に、北九州市区別の金融機関の店舗展開について図表 1 で確認しよう。北九州市内で最大の店
舗数を持つのは郵便局を除けば福岡ひびき信用金庫である。本稿で対象とする西日本シティ銀行は
28、福岡銀行は 26 店舗、新規に誕生した北九州銀行は 15 店舗となっている。これら 3 行の店舗の
区別の分布は人口密度や昼間人口の大きい小倉北区、住宅地の多い八幡西区・小倉南区で多いこと
がわかる。表中の「その他の銀行・信用金庫等」は、北九州市に県内外から進出した金融機関の店
舗立地の状況を示している。その最大の特徴は小倉北区に、さらに詳しく言えば、小倉北区の中で
もその中心市街地である小倉駅南側一帯に集中していることであろう。これら集中立地する金融機
関はメガバンクを含め、必ずしも預金収集で大きなシェアの獲得するとの方針で進出したのではな
く、①中堅・中小企業を取引先として想定し、周辺部を含め北九州市地域をカバーする営業拠点、
②貸出における情報収集・モニタリングのための拠点、③自行の営業地域の取引先のための北九州
市地域での地域情報獲得のための拠点(たとえばビジネスマッチングなど)を目的に進出したので
はないかと筆者は考えている。このため、企業が集積し、情報収集上の利便性からこの一帯に立地
したと考えている。
4.店舗立地戦略の分析
4.1 分析手法の概要
地域金融機関の店舗立地の重要性はこれまでも指摘されてきた。地域の預金を吸収し、地域に資
金を貸し付けるための拠点としての店舗は地域金融の要となっている。また事実上地域を限定して
営業展開を行っている地域金融機関にとっては、その「営業地盤」が各金融機関の収益率に影響す
ることも不可避であり、その点を指摘する先行研究も多い(堀江・川向[2002]等)
。ここでいう
「営業地盤」は、他の金融機関との「競争状況」や地域の「経済的豊かさ」であると定義して分析
が行われている(家森[2003]、家森・近藤[2001]、堀江・川向[2002]等)。本分析でもその考
え方を踏襲し、経済的豊かさと競合関係で営業地盤を考えていくことにする。
金融機関の店舗立地について、市区町村別に考察する場合がある。その場合、市区町村内の店舗
データをまとめて分析するために、各店舗がエリア内において一様に配置されていることを暗黙の
うちに前提することになる。しかし、図表 1 の店舗配置地図から直観的にも推察されるように、銀
行の店舗立地は地理的に万遍なく分布しているわけではない。また、上述したように店舗立地の集
中なども観察されるため、その前提には疑問も残る。殊に本研究では北九州市における 3 行の地方
銀行の店舗を対象とするだけに、より個別性に配慮した分析が必要となる一方、一部の先行研究に
あるような市区単位でのデータでは代理変数として大づかみすぎるとも考えられる 7。このため、本
稿では、市区町村からさらに下位の町丁目界単位のデータを利用して、各店舗の営業地盤を推計す
6 北九州市は従来福岡銀行とみずほ銀行を指定金融機関としていたが、
2015 年度から北九州銀行と西日本シティ
銀行を加え、4 行による輪番制とすることを決めている。
7 堀江・川向[2001]も同様の指摘を行い、関西地区をメッシュデータで分析している。
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る。北九州市には 7 つの区があるが、その下に 1913 の町丁目がある。その各町丁目で利用できる
データとして、平成 24 年経済センサスから、事業所数・法人事業所数・個人事業所数を、平成 22
年国勢調査・小地域集計からは、人口、65 歳以上・未満人口、世帯数がある。これらを利用して
地域の「経済的豊かさ」を推計する。また、「競合関係」については、図表 1 で示した農協・信用
組合・労金を除く各金融機関の店舗に対して、3 行の各店舗からの最短距離となる店舗を競合先だ
と特定した。郵便局については、郵便事業など地方銀行にはない業務を行う一方、貸出業務がない
など、競合対象として取扱いが難しい面があるが、店舗立地と金融サービスへのアクセス可能性と
して金融機関店舗を考えれば、送金・決済や資産運用サービス提供業務等を行っていることは事実
であるため、競合対象に含めることにした 8。また、各店舗の職員数は平均的な人員規模として店舗
の重要性を示すものとして「競合関係」を示す変数として採用した。このようにして得られた各店
舗の営業地盤と競合関係の各データから主成分分析を行い、各店舗のポジションを主成分得点から
考察し、特徴を把握する。そして各銀行の店舗立地について総合評価を行う。尚、中嶋[2010]に
おいては分析手法として回帰分析を行うアイデアを示しているが、本稿で主成分分析を採用したの
は、多変量から各店舗を総合的に評価できることのほか、一般公開されている町長目界単位のデー
タは事業所数や人口等のデータしか存在しないため、変数間の相関が高いと見られ、回帰分析を行
うと多重共線性の問題が深刻であると判断したこと、また回帰分析はそもそも目的変数を説明変数
で説明する「関係性の式」を作る分析手法であるが、本稿のような分析では目的変数がないことか
ら、目的変数がない場合の分析手法である主成分分析の適用が妥当だと判断したためである。
4.2 営業地盤算出の手順
本研究では店舗の営業地盤の推計方法が重要であるため、ここではその推計手順について説明す
る。第一に、各店舗の営業地域の特定については、①各支店の営業地域を店舗が所在する同一区内
と仮定した。金融機関の一般的な営業スタイルは店周の一定エリアの顧客に対して集中的に行うと
いうもので、遠く離れた区の支店の営業職員がわざわざ越境してまで営業することは少ないと考え
たからである 9。勿論、区という行政区画が地域的経済活動の範域と一致することは少なく、店舗の
営業エリアが区をまたがるケースもあるのではといった疑問もあるが、どの程度までを営業範囲、
すなわち当該店舗に対する金融サービス需要のポテンシャルの地理的範囲と考えるかについては、
どのような推計でも一定の仮定が必要となる。このため、本研究ではひとつの仮定として区内とす
ることにした 10。②区内の中で各店舗の住所と各区の町丁目との距離を測定する。ただし、1 丁目、
2 丁目等細かくある場合は、1 丁目 1-1 を代表地点とみなした。この結果、1913 地点から 737 地点
に集約して取り扱っている。③このように各支店と地点間の距離を計測し、同一銀行の中で区内で
最短距離の支店をその町丁目の担当と見なして担当営業地域を特定した。④このとき、各支店の担
当営業地域の面積も同時に算出する(これは後述するように、密度ベースで分析するためである)。
8 尚、郵便局を含めない場合の分析については 2014 年 3 月の日本金融学会九州部会で発表している。分析結果
は本稿と大きく相違することはなかった。
9 北九州市は 489.60 平方㎞の面積を持ち、東西 33.8km、南北 33.4km にわたる広がりを持っている。
10 たとえば、由里[2000]でも利用する総務省統計局の大都市圏の定義の中で、
「北九州・福岡大都市圏」が
定義されているが、中核都市である北九州市の周辺市町村として山口県下関市が含まれている。このように、
経済圏を特定して考えるにあたって市はおろか県外まで考慮せざるをえない場合もあり、その特定化にはどの
ようなものでも仮定が必要となる。結果として、その仮定の妥当性をどのように考えるかという判断の問題と
なろう。
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生活経済学研究 Vol.41(2015.3)
⑤担当営業地域の事業所数や人口等のデータを以て、各店舗の「地域の経済的豊かさ」を示す変数
として考えて算出した。
第二に、各店舗の営業地域の競合度については、図表 1 で示した北九州市内に展開する農協・信
用組合・労金を除く各金融機関の店舗の住所と 3 行の各店舗の住所からの距離が最短の店舗を当該
店舗の競合店舗だと見なした(自行の僚店は競合先とはしないと仮定する)。このようにして得ら
れた競合店舗数と競合店舗の職員数(郵便局を除く)を競合度の指標とした。ただし、ここでまた
一つ仮定を置いている。それは福岡銀行・西日本シティ銀行の「北九州営業部」、北九州銀行の
「本店営業部」の取扱いである。これらは、他の店舗とは異なる機能・特徴を持っている。たとえ
ば、①各金融機関での北九州地域の統括本部機能を持ち、北九州市内の各店舗への指令や支援、支
店間の調整役等の役割を果たし支店間連携の要となっていること、②北九州市内の大口または重要
顧客への対応を近隣支店ではなく営業部で担うケースがあること、③専門業務(事業承継、M&A、
相続等の業務等)・渉外担当(土日営業の住宅ローンセンターの設置等)の拠点としての機能もあ
り、北九州市内の各店舗で対応が難しい業務は北九州営業部を拠点とする担当者が対応する場合が
多いこと、④ 3 行とも「北九州(本店)営業部」は、スタッフ(職員数)も他店と比べて明らかに
多いことである。ただし、支店としての機能もあり、所属する営業担当が他の支店と同様に支店周
辺の営業も担当している。また、3 行とも北九州(本店)営業部は、北九州市の中心地である小倉
駅前に立地している。他県・他地域から北九州に進出する銀行もこの「営業部」周辺に立地する場
合も多く、機能面・立地面の両方から、他県等から進出してきた金融機関店舗と競合していると言
えよう。このため、ここではそれらの競合店は 3 行の北九州(本店)営業部だと仮定することにし
た。ただし、店舗展開では僚店と同様に、店周の営業地域エリアを持つと見なして分析する。
4.3 店舗展開の比較
以上の手順で算出した各店舗の経済的豊かさと競合関係について、各指標に関して店舗別の分布
についてここで考察しておこう。図表 2 は、潜在的な可能性を持つ先を含めて、各支店の営業地盤
の分布と分散について検定したものである。これを見ると、福岡銀行及び西日本シティ銀行の両行
の店舗については、世帯数および事業所数において、両行に分散に差がないといった仮説は棄却で
きなかった。しかし、福岡銀行と北九州銀行、西日本シティ銀行と北九州銀行の間では分布に差が
見られ、検定においても分布水準が異なるという結果が事業所総数等で得ている(図表 2 の表で *
がついているのは分布水準が異なると検定されたもの)。また、密度ベースで見ると、事業所数で
は福岡銀行と西日本シティ銀行の間でも分布が異所数が異なるのは、その立地の相違に起因すると
考えられよう。また北九州銀行は支店数が少なく、1 店舗当たりの営業面積が広くなることから、
密度ベースでは事業所数も世帯数も他 2 行よりも少なくなっているのではないかと考えられる。
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図表2 各支店の営業地盤の分布と分散についての検定
【 各支店営業地域の各指標の分散に関するF検定】
原指数ベース
福岡銀行-西日本シティ銀行
福岡銀行-北九州銀行
西日本シティ銀行-北九州銀行
事業所総数
1.471
3.030
**
4.456
***
個人事業所数
法人事業所数
1.638
1.308
1.958
3.207
**
人口数
65歳以上人口数
世帯数
1.313
1.151
1.643
4.057
***
1.595
1.577
1.474
5.305
***
2.094
1.815
2.422
*
【 各支店営業地域の各指標の分散に関するF検定】
密度ベース
事業所総数
個人事業所数
福岡銀行-西日本シティ銀行
4.108
***
4.912
福岡銀行-北九州銀行
2.215
*
2.021
西日本シティ銀行-北九州銀行
9.099
***
9.925
***
***
法人事業所数
人口数
65歳以上人口数
世帯数
3.490
***
1.295
1.270
1.344
2.436
*
1.196
1.327
1.435
8.504
***
1.549
1.685
1.929
(注)顧客数には未取引先を含む。***は1%、**は5%、*は10%有意水準を示す。
4.4 主成分分析
各店舗の特性を把握するため、銀行別に主成分分析を適用する。このとき、各エリアで使用する
変数は、法人事業所数密度、事業所数密度、個人事業所数密度、人口密度、世帯数密度、若年者比
率、高齢者数密度、若年者数密度、競合金融機関数、競合金融機関職員数である 11。これはエリア
面積の違いが主成分分析の結果に及ぼす影響を避けるため、密度ベースデータを主に使用してい
る。
分析結果を示す図表 3(上)で固有値を見ると、いずれも第 3 主成分までで 1 以上であり、また
累積寄与度はいずれも第 3 主成分までで 90% 以上である。このため、第 3 主成分まで採用するが、
第 3 主成分の固有値の低さから参考程度とする。図表 3(下)で第 1 主成分を見ると、いずれも正
の負荷量を示す一方、法人事業密度から若年者密度までの変数で競合金融機関数・競合金融機関職
員数よりも大となっている。このことから経済的豊かさを示す「地盤力」を表す主成分と解釈でき
る。第 2 主成分は、いずれも競合金融機関数と競合金融機関職員数の主成分が正の負荷量で、絶対
値も大きいことから、「競合度」と解釈できる。
このようにして得られた主成分負荷量から各店舗の主成分得点を求め、横軸に第 1 主成分(地盤
力)、縦軸に第 2 主成分(競合度)をとって示した結果が図表 4 となる。ただし、この図は北九州
(本店)営業部のみを図から省略している。3 行とも北九州(本店)営業部は図の第 1 象限の上方
に位置し、各行ともその他の店舗群から属性が大きく外れるからである。これは、北九州(本店)
営業部に北九州市に進出する他県他地域からの競合店舗だと見なしたためであり、言わば当然の結
果であろう。このため、分析は北九州(本店)営業部以外の店舗を中心に行う。図の解釈 12 として、
11 本稿では、各店舗の職員数は、競合金融機関職員数としてのみ使用している。本稿では、各店舗の「営業地
盤」を他の金融機関との「競争状況」や地域の「経済的豊かさ」と定義し、言わばその店舗の周辺環境を示す
ものと考えている。このため当該店舗そのものの属性である各店舗の職員数は、営業地盤あるいは周辺環境を
示すとは考えにくいと判断したために変数として採用していない。しかし、この点について、本稿のレフェリー
からは地盤力を示すものだとする考えも示され、異論も存在する。本稿ではこの点につきさらに議論する紙幅
がないため、筆者はこのようなレフェリーの意見を分析の発展に資する今後の課題として検討を重ねていこう
と考えている。
12 4 つの象限の解釈についてのアイデアおよび各象限の命名は中嶋[2010]を参考にした。
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図表3 主成分分析(上)および主成分負荷量の結果(下)
福岡銀行
固有値
第1主成分
第2主成分
第3主成分
第4主成分
第5主成分
第6主成分
第7主成分
第8主成分
5.900
2.042
1.289
0.646
0.090
0.015
0.013
0.006
差異
3.858
0.753
0.643
0.556
0.075
0.002
0.007
0.006
寄与度
0.590
0.204
0.129
0.065
0.009
0.002
0.001
0.001
西日本シティ銀行
累積
固有値
累積
寄与度
5.900
7.942
9.231
9.876
9.966
9.981
9.994
10.000
0.590
0.794
0.923
0.988
0.997
0.998
0.999
1
固有値
差異
5.414
2.593
1.249
0.616
0.089
0.024
0.012
0.003
寄与度
2.822
1.344
0.632
0.528
0.064
0.012
0.009
0.003
福岡銀行
第1主成分
競合金融機関数
競合金融機関職員数
法人事業所数密度
事業所数密度
個人事業所数密度
人口密度
世帯数密度
若年者比率
高齢者密度
若年者数密度
0.130
0.174
0.313
0.347
0.387
0.381
0.390
0.021
0.379
0.379
第2主成分
0.635
0.511
-0.181
-0.128
-0.026
-0.043
-0.060
-0.523
0.044
-0.068
0.541
0.259
0.125
0.062
0.009
0.002
0.001
0.000
北九州銀行
累積
固有値
累積
寄与度
5.414
8.007
9.256
9.872
9.961
9.985
9.997
10.000
0.541
0.801
0.926
0.987
0.996
0.999
1.000
1
固有値
6.598
2.338
0.847
0.173
0.025
0.011
0.006
0.002
差異
4.260
1.491
0.674
0.148
0.014
0.005
0.004
0.002
西日本シティ銀行
第3主成分
0.061
0.298
0.500
0.425
0.268
-0.324
-0.258
0.145
-0.330
-0.320
第1主成分
0.023
0.212
0.348
0.359
0.369
0.369
0.395
0.146
0.344
0.371
第2主成分
0.477
0.477
0.274
0.280
0.286
-0.294
-0.214
-0.078
-0.296
-0.289
寄与度
0.660
0.234
0.085
0.017
0.003
0.001
0.001
0.000
累積
固有値
累積
寄与度
6.598
8.936
9.783
9.956
9.981
9.992
9.998
10.000
0.660
0.894
0.978
0.996
0.998
0.999
1.000
1
北九州銀行
第3主成分
0.470
0.152
-0.248
-0.194
-0.112
0.154
0.140
-0.704
0.307
0.107
第1主成分
第2主成分
0.155
0.213
0.360
0.371
0.381
0.353
0.361
0.121
0.357
0.350
0.565
0.520
0.210
0.174
0.110
-0.262
-0.230
-0.291
-0.203
-0.277
第3主成分
-0.060
0.258
0.107
0.055
-0.027
-0.123
-0.124
0.906
-0.235
-0.091
地盤力を示す第 1 主成分の高低と競合度を示す第 2 主成分を組み合わせて、4 つの象限に分けるこ
とができる。第 4 象限は地盤力が高く、競合度は低いことから、「魅力エリア」ということができ
よう。ただし、「魅力エリア」といっても各店舗の採算性を示すものではないことは十分な注意が
必要である。中嶋[2010]も「市場魅力度」として各店舗を評価するが、本稿も同様にあくまでも
採用した指標から「経済的豊かさ」と「競合度」に総合し、各店舗の営業地盤を判断しているだけ
である。このため各店舗の採算性を示すものではない。採算がとれないような店舗であっても魅力
的であったり、「不利なエリア」だと判断したとしても、採算が合う店舗の可能性もあることは十
分注意すべきである。本稿では各店舗の採算性についての検証は目的ではないが、今後、採算性を
含めた営業地盤を考察することでより店舗展開の理解を深めることができよう。そのためには、他
市で展開する銀行の店舗立地・営業地盤と比較したり、本稿で取り上げた 3 行の北九州市内におけ
る店舗展開を属性変化と合わせて時系列でも分析し、各行全体の収益動向と照らし合わせて採算性
を考察するなど、さらなる工夫も必要である 13。これらは今後の課題としたい。
図表 4 で見ると、「魅力エリア」においては、3 行いずれも、三萩野支店に代表されるように小
倉北区の中心部やその周縁部に位置し、住宅も事業所も集中する地帯の店舗が多いことが分かる。
第 2 象限は地盤力が低く、競合度も高いことから「不利なエリア」だと言えよう。いずれの銀行も
門司・若松区の店舗は概ねこのエリアに立地する結果となった。第 1 象限は地盤力は高いものの競
合度も高いことから、「準魅力エリア」だと言えよう。このエリアでは八幡、黒崎など各区のキー
駅に近い立地の店舗が多い。第 3 象限は地盤力も低いが、競合度も低いために、「要判断エリア」
だということができる。このエリアでは、福岡銀行・北九州銀行では八幡西区や小倉南区の住宅地
に立地する店舗が多く、西日本シティ銀行では八幡西区での店舗が多い。このエリアでは人口が減
少する北九州市の中においても、まだ人口が伸びる新興住宅地域に近い店舗が比較的多い。たとえ
ば、福岡銀行も北九州銀行もいずれもひびきの支店があるが、「ひびきの」は北九州学術研究都市
13 この点についてレフェリーより指摘を受けたが、本稿では十分な議論の拡張ができなかった。この点は残さ
れた課題として取り組んでいきたい。
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生活経済学研究 Vol.41(2015.3)
図表4 主成分得点による店舗の評価
福岡銀行
2.5
西日本シティ銀行
2.5
門司
2.0
小倉
若松
八幡
戸畑
1.5
1.5
門司駅前
門司
若松
曽根
1.0
第
2 0.5
主
成
分 0.0
七条
二島
黒崎
折尾
小嶺
曽根
競
合 -0.5
度
-1.0
三ヶ森
徳力
小倉東
第 0.5
2
主
成
分 -0.5
競
合
度
-1.5
南小倉
相生
城野
吉田
高須
徳力
湯川
高須
黒崎
荒生田
室町
相生
八幡駅前
折尾
八幡
三ヶ森
宇佐町
守恒中央
南小倉
日明
北九州市庁内
三萩野
ひびきの
-2.0
門司駅前
小嶺
本城
守恒
-1.5
二島
戸畑
-2.5
城野
小倉
北九州卸市場
-2.5
-4.0
-2.0
0.0
2.0
4.0
6.0
-3.5
8.0
-4.0
第1主成分(地盤力)
三萩野
小倉金田
-3.0
-2.0
-1.0
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
6.0
第1主成分(地盤力)
北九州銀行
1.0
八幡中央
若松
門司
0.5
店舗評価のイメージ
八幡南
高
大里
0.0
戸畑
八幡
準魅力エリア
不利なエリア
守恒
第
-0.5
2
主
成
分 -1.0
小倉東
ひびきの
三萩野
沼
要判断エリア
競
合
-1.5
度
魅力エリア
折尾
-2.0
低
-2.5
低
到津
地盤力
高
-3.0
-4.0
-3.0
-2.0
-1.0
0.0
1.0
第1主成分(地盤力)
2.0
3.0
4.0
5.0
6.0
(注)北九州(本店)営業部を図から省略している.
の中心地区で新興住宅地も近く、さらなる人口増加が見込まれている。北九州銀行も福岡銀行も最
近出店しており、将来性を見通しての判断だったと見られる。尚、北九州市は大まかに言えば、同
市の最大駅である小倉駅前の中心市街地から離れるに従い、住宅地、田園地帯が広がるようにな
る。このため、小倉南区の徳力支店や八幡西区の小嶺支店など、駅前の市街地から遠く離れた場所
に立地する店舗は、営業エリアが広く、農村部も担当地域に含み、営業地盤がよくないと判断され
ている店舗もある。これは、本分析の店舗の営業地盤の特定化の方法が、各地区と最短の支店をそ
の担当営業地域だとしていることから、店舗が市街地から離れて端に位置する店舗は、遠く離れる
ほどまばらに分布する傾向があり、担当営業地域が農村部等を中心に広くなってしまうことに起因
する問題であるため留意が必要である。
4 つのエリアに分類された各店舗の各指標について、各象限(エリア)での平均値を算出し、そ
の平均値を 1 に基準化して、象限別に示した結果が図表 5 である。3 行いずれも魅力エリアでの事
業所数密度・人口密度は平均以上、競合度は平均以下であるが、福岡銀行の場合、1 から外への広
がりは他行ほど大きくはなく、魅力エリアの店舗の他の支店群との格差は他 2 行に比べて小さいと
言えよう。また、魅力エリア・準魅力エリアの特徴は、福岡銀行と北九州銀行で類似する。いずれ
も魅力エリアでは事業数密度や人口密度は他のエリアよりも圧倒的に高く有利であり、準魅力エリ
アでは両行ともに競合度が高く、人口密度・事業所密度は魅力エリアに次いで平均以上になってい
る。他方、西日本シティ銀行は、2 行とは異なる特性を示している。準魅力エリアで事業所数密度
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が突出して高い一方、人口密度等は平均より若干上回る程度であり、魅力エリアを下回るなど、事
業所向け支店の性質を色濃く反映している。魅力エリアでは人口密度等が圧倒的に高い住宅密集地
が多く、事業所もある程度集中した営業地盤を持つ店舗群だということが言えよう。
図表5 各行の支店分布の評価
西日本シティ銀行
福岡銀行
法人事業所数/密度
3
競合金融機関職員数
法人事業所数/密度
4.5
事業所数/密度
2.5
競合金融機関職員数
2
事業所数/密度
2.5
1.5
競合金融機関店舗数
3.5
1
1.5
競合金融機関店舗数
個人事業所数/密度
0.5
0.5
0
-0.5
高齢人口密度(65歳以
上人口密度)
若年者比率
高齢人口密度(65歳以上
人口密度)
若年者比率
若年者密度
人口密度
若年者密度
個人事業所数/密度
人口密度
世帯密度
世帯密度
北九州銀行
法人事業所数/密度
3
競合金融機関職員数
2.5
事業所数/密度
2
1.5
1
競合金融機関店舗数
個人事業所数/密度
0.5
0
高齢人口密度(65歳以
上人口密度)
若年者比率
若年者密度
人口密度
世帯密度
象限1:準魅力エリア
象限3:要判断エリア
象限2:不利なエリア
象限4:魅力エリア
図表6 3行の支店平均値の比較評価
法人事業所数/密度
1.5
競合金融機関職員
数
事業所数/密度
1
競合金融機関店舗
数
0.5
個人事業所数/密度
0
高齢人口密度(65歳
以上人口密度)
若年者比率
若年者密度
人口密度
世帯密度
福岡銀行
西日本シティ銀行
北九州銀行
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最後に、3 行の支店の各指標の平均値を、さらに 3 行全体での平均値を算出しそれを 1 に基準化
して、各行の各指標を比較する(図表 6)。福岡銀行は 3 行の中で、いずれの指標でも 1 に近く平
均的な位置となっている。北九州市を地元とする従来からの地銀であるため、店舗網はある程度確
立している。北九州市庁舎内や卸売市場内に設置された支店など、行政等との関係も配慮したよう
ないわゆる政策上の出店と見られる店舗もあるが、既に北九州市内の要所での支店立地はある程度
確立したようにも見受けられる。しかし、小倉東やひびきの支店など、地盤が現在今ひとつでも将
来性を見据えた出店も実施するなど戦略性も窺える。今後は人口減少や高齢化に合わせ、店舗の統
廃合も課題となるかもしれない。西日本シティ銀行は、人口や事業所分布に対し、支店間の配置が
うまく機能したためか、平均的に高密度となるような店舗展開となっている。競合金融機関も比較
的少なく、効果的な立地になっている。西日本シティ銀行はインストアブランチなどのような機能
型店舗の拡充なども行い、店舗の質的な戦略でも積極的な展開が見られる。福岡銀行と同様にある
程度の店舗数があるため、統廃合・移転を含めた今後の展開が注目されよう。北九州銀行は 2 行に
比べて店舗数が少ないため、相対的に営業エリアも広くなり、その結果、事業所や人口密度は小さ
い。1 店舗あたりの競合金融機関数も多くなるため、2 行と比較すると、不利なような結果に見え
る。しかし、既存店舗が少ない分、従来的な発想にとらわれない出店戦略も可能であろう。小倉北
区・南区での店舗が少ないため、この 2 区での効果的な出店と顧客獲得が北九州市での今後の成長
のカギとなるかもしれない。ただし、北九州銀行は今後も店舗を増やしていくようであるが、必ず
しも北九州市に限らず、福岡県全般を中心に店舗展開をしていくようである。また北九州銀行はコ
ンビニエンスストアの ATM を積極的に活用していく方針も出しているため、チャネル戦略全般の
中で店舗をどのように位置づけるか、注目されるところでもある。尚、北九州銀行は 2010 年 10 月
に山口銀行から九州地区の営業譲渡を受けて発足したが、このとき、預貸率が発足当初 100%を超
えていた。その後、2014 年 3 月末まで北九州銀行の預貸率は低下することになる。北九州銀行の
貸出金、預金ともに残高は伸びているが、貸出金が預金の増加以上に増加しなかったことが要因で
あろう。経済状況は低成長で貸出需要が低迷している状況が続いていることから、貸出は伸びては
いるが預金の伸びほどではなかったと見られる。預金の伸びが貸出の伸び以上に高かったのは、新
店舗の設置やコンビニ ATM との提携強化 14 により、個人顧客の利便性が向上した結果、預金獲得
に結びつき、預金残高も順調に拡大していったことが関係している可能性が指摘される。
5.分析結果と課題
北九州市に営業地盤を持つ代表的な 3 行について、店舗配置を基準とした町丁目界データから分
析した結果、各支店の地盤力が異なることが明確となった。福岡銀行と西日本シティ銀行は店舗数
がほぼ同じであるが、出店地域等の違いにより、各支店の地盤力に相違があることがわかった。北
九州銀行は規模が 2 行よりも小さい反面、過去のしがらみも少なく、今後の出店を立地や機能面な
ど戦略的に考えれば、経済基盤が沈んでいる北九州市でもまだ成長する可能性があることも窺われ
た。尚、3 行はいずれも営利企業であるため、収益性を求めるのは当然であるが、その一方で、地
域との共生も重要な経営目標であることから、不採算だからといってすぐに退却するわけにはいか
ないという事情もある。地方銀行はどのように地域貢献と収益性のバランスをとるのか、単純な営
利企業にはない難しい経営判断も求められているのである。
14「セブン銀行」および「E-net」マークのあるコンビニエンスストアの ATM 利用手数料の無料サービスを打
ち出している。
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本稿では残された課題も多い。町丁目界単位では、中嶋[2010]の示唆するような貸出金残高や
金融資産残高のデータは入手困難であった。所得、税収、地価等の一般公開されたデータも町丁目
界単位では入手は困難である。これら追加的な指標の活用でさらに分析を深めることができよう。
各店舗の職員数データについては競合先としての考慮はしたが、当該支店の属性そのものを示すも
のとして考慮しなかった。この点についても今後の検討課題である。また、本稿では「魅力エリ
ア」や「不利なエリア」などで営業地盤の属性を表現したが、それは銀行の店舗別採算性を示して
はいない。この店舗別採算性については、収益性や費用等の店舗別データが利用できればさらに深
い考察も可能である。また、北九州市以外で展開する銀行の店舗立地・営業地盤との比較や、時系
列で 3 行の店舗の属性変化や営業地盤変化を分析し、店舗別採算性を収益動向と合わせて考察する
ことなども検討課題である。営業地盤については信用金庫や別の都市圏との比較するなど、分析の
拡張も可能である。さらに、マーケティング戦略から 3 行を比較し、それらを総合して考察するな
ど、多角的な分析も金融機関の経営行動の理解のために必要であろう。これらも今後の課題とした
い。
【参考文献】
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中嶋淳一郎[2010]「最適な店舗網の構築」『リージョナルバンキング』、2010年9月号、25-30頁。
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舗展開に関する検証―」『生活経済学研究』第22・23巻、137-149頁。
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家森信善・近藤万峰[2001]「公的金融機関と民間金融機関の立地行動」『生活経済学研究』第16
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九州大学、197-226頁。
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家森信善[2003]「地域金融における公的金融機関と民間金融機関の店舗配置」林敏彦・松浦克己・
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米澤康博編『日本の金融問題』、日本評論社、2003年。
由里宗之[2000]「地域経済学的指標を用いた地域預金金融機関の立地条件の計測の試み(前編) ~中京大都市圏の預金金融機関を事例として~」『中京商学論叢』第47巻第 1 号、25-79頁。
由里宗之[2001]「地域経済学的指標を用いた地域預金金融機関の立地条件の計測の試み(後編) ~中京大都市圏の預金金融機関を事例として~」『中京商学論叢』第47巻第 2 号、39-96頁。
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〔論 文〕
日本における銀行貸出チャンネルの実証分析
-銀行・企業規模別からみた銀行貸出チャンネルの有効性-*
The Empirical Analysis on the Lending Channel in Japan:
The Effects of Bank and Corporation Size
卓 涓涓**
Abstract
Since the 1990s, structural change has occurred in the Japanese financial system, and is considered to have
an impact upon the lending channel in the monetary policy transmission mechanism. Based on the theory of
the lending channel, this paper analyzes the lending channel after 1991. Using panel data, it is shown that the
lending channel does exist. However, the portfolio-rebalancing effects stemming from quantitative easing
policy have not been found on the lending channel. The findings are thought to have implications for the
estimation of the portfolio-rebalancing effects stemming from quantitative easing policy adopted by the Bank
of Japan recent years.
key words:the lending channel(銀行貸出チャンネル)、panel data(パネルデータ)、quantitative
easing policy(量的緩和政策)
、portfolio-rebalancing effect(ポートフォリオ・リバラン
ス効果)
1.はじめに
1990 年代以降、日本の金融システムにおいては、構造変化が生じたと考えられる。1980 年代後
半以降の預金金利の自由化や資本市場の整備により、大企業を中心とした「企業の銀行離れ」が進
む中、銀行は、土地担保価値の上昇を背景に中小企業への貸出を増加させた。しかしながら、バブ
ルの崩壊による地価の急落とともに、これらの貸出の多くが不良債権化した。さらに、1997 年秋
に発生した金融危機により、多くの金融機関が破綻したため、金融市場の不安感が高まり、この結
果、銀行の「貸し渋り」や「貸し剥し」が社会問題となった。また、1996 年 11 月に、橋本総理の
主導の下で始まった「日本版金融ビッグバン」により、日本の金融システムの自由化は、さらに進
展し、間接金融から直接金融へという構造変化をもたらした。
このような構造変化は、金融政策の効果波及経路にも影響を与えると考えられる。金融政策の効
果波及経路とは、政策金利の変化が、短期金融市場金利さらには中長期的な金利を変化させ、これ
* 本稿は、2014 年 6 月 22 日生活経済学会第 30 回研究大会における報告論文を加筆修正したものである。研究
大会においては松本直樹教授(追手門学院大学)、村本孜教授(成城大学)より有益なコメントを賜った。また
匿名の 2 名の本誌レフェリーの先生方からも数多くの貴重なコメントを頂戴した。ここに記して感謝申し上げ
る。なお、本稿の有り得べき一切の誤りは筆者に帰するものである。
** Zhuo Juanjuan、東京経済大学大学院経済学研究科、Graduate School of Economics,Tokyo Keizai University
1-7-34, Minami-cho, Kokubunji-shi, Tokyo 185-8502,E-mail:[email protected]
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が、資産価格、為替相場、銀行貸出金利等の金融市場条件の変化をもたらすことを通じ、消費、投
資、純輸出等の総需要や輸入財価格を変化させる結果、最終的に一般物価水準を変化させる経路を
意味する 1。
Mishkin(1995)、Kuttner and Mosser(2002)は、金融政策の効果波及経路を「金利チャンネル」、
「資産価格チャンネル」、「信用チャンネル」、「為替相場チャンネル」の四つに分類している。
金利チャンネルとは、伝統的なケインズ・モデルで説明されるように、金融政策が、実質金利の
変化を通じ、消費や投資に影響を与えるチャンネルである。資産価格チャンネルとは、金融政策
が、資産価格の変化を通じ、消費や投資に影響を与えるチャンネルである。信用チャンネルは、さ
らに、「銀行貸出チャンネル」と「バランス・シート・チャンネル」に分類される。銀行貸出チャ
ンネルとは、銀行の貸出資金調達能力が限られており、銀行貸出量が預金量や総資産額などに直接
制約されている場合、金融政策が、銀行預金および銀行準備の変化を通じ、銀行貸出量に影響を与
えることにより、企業の生産 ・ 投資行動に影響を及ぼすチャンネルである。一方、バランス・シー
ト・チャンネルとは、例えば、金融引締政策により金利が上昇したとき、キャッシュ・フローの減
少、および、証券価格の低下を通じ、企業のバランス・シートを悪化させ、モラル・ハザードや逆
選択の可能性を増大させ、エージェンシー・コストが上昇する結果、銀行貸出量が減少し、投資が
減少するチャンネルを意味する。最後に、為替相場チャンネルとは、金融政策が、為替相場の変化
を通じ、純輸出に影響を与えるチャンネル、また、為替相場の変化が、輸入財価格に変化を通じ、
インフレ率に影響を与えるチャンネルを意味する。
この四つのチャンネルのうち、上記の 1990 年代以降の構造変化は、とりわけ、銀行貸出チャン
ネルに影響を与えたと考えられる。まず、深刻化した不良債権問題により、「貸し渋り」が発生す
るなど銀行による金融仲介機能が十分に機能しなかったことからわかるように、銀行のリスク許容
度の変化が、銀行貸出チャンネルを通じた金融政策の効果に対し影響を与えたと考えられる。ま
た、日本版金融ビッグバンは、企業の資金調達行動、および、投資家の資産運用行動における間接
金融から直接金融へという流れの中、企業の銀行からの借入依存度の低下は、銀行貸出チャンネル
を通じた金融政策の効果を小さくしたと予想される。
このような中、日本銀行は、2001 年 3 月から 2006 年 3 月までの間、長期国債の買入れを増額し、
量的緩和政策を行なった。この量的緩和政策が実体経済に効果を与える経路の一つとして、ポート
フォリオ・リバランス効果が想定されている。これは、日本銀行が、市中銀行の長期国債を買い入
れ、無リスクの日銀当座預金の供給を増やすことで、市中銀行がよりリスク資産を保有することを
可能とし、この結果、銀行貸出が増大するという効果である。
したがって、1990 年代以降の構造変化の中、銀行貸出チャンネルが存在していたかどうかを分
析することは、例えば、2013 年 4 月に実施された「異次元的金融緩和政策」の効果を評価する上
でも、重要な意義を持つと思われる。さらに、Kashyap and Stein(1994)が指摘するように、銀行
貸出チャンネルは、その貸出資金調達能力が限られている中小の銀行に強く作用し、また、エー
ジェンシー・コストの高い中小企業向けの貸出に強く機能するとされる。したがって、銀行別、お
よび、企業規模別に、銀行貸出チャンネルの存在を分析することも意義があると思われる。
本稿は、既存研究に対し、以下の二つの点において貢献を行なう。まず、第一に、1990 年代以
降の銀行貸出チャンネルの有効性を企業規模別に実証分析する。また、標本期間を 1991 年から
1 金融政策の効果波及経路については白川(2008)を併せて参照のこと。
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1995 年の超低金利前、1996 年から 2000 年の超低金利期間および 2001 年から 2006 年の量的緩和期
間に分割し、推計を行なう。さらに、金融政策手段を表す変数として、コール・レートと中央銀行
当座預金残高を同時に用い、分析を行なう。分析の結果、90 年代以降の金融緩和期において銀行
貸出チャンネルが存在していたことが示された。但し、中小企業向けの貸出に関しては、1996 年
から 2000 年の超低金利期間においては、金融政策が、国債比率、コール・ローン比率および自己
資本比率を通じ、影響を与えていたことに対し、1996 年以前の金融緩和期と 2001 年以降の量的緩
和期間においては、金融政策の効果が見られなかった。
第二に、2001 年以降の量的緩和期間における銀行貸出チャンネルの有効性を銀行別に実証分析す
る。また、流動性資産に関しては、日本銀行の大規模な資産買い入れにより、日銀当座預金増額の
国債を通じる効果がそのコール・ローンを通じる効果と異なることが生じた可能性が考えられるた
め、流動性資産は、コール・ローンと国債に分割し検討を行なう。分析の結果、量的緩和政策にお
いて、想定されているポートフォリオ・リバランス効果が表れていなかった可能性が示された。ま
た、量的緩和期間、国際基準行を通じる銀行貸出チャンネルが機能していなかったことが示され、
国内基準行を通じる銀行貸出チャンネルの働きが比較的強かった可能性が示された。
本稿の構成は、以下の通りである。第 2 節では、銀行貸出チャンネルに関する先行研究をサーベ
イする。第 3 節では、実証分析で用いるデータを説明する。第 4 節では、推定式を記述する。第 5
節では、実証分析を行なう。第 6 節は、結論である。
2.先行研究
これまで、金融政策効果の波及経路における銀行貸出チャンネルに関し、多くの先行研究が行な
われてきた。
まず、理論分析については、Bernanke and Blinder(1988)は、伝統的な IS-LM モデルに銀行貸出
チャンネルを導入したモデルを提示している。伝統的な IS-LM モデルでは、貨幣と債券の二つの
資産が存在しており、債券と貸出は完全代替であることが想定されている。これに対し、Bernanke
and Blinder(1988)では、債券と貸出が不完全代替であることを想定し、貨幣、債券、貸出の三つ
の資産が存在する状況下で、債券の金利、貸出の金利、所得水準が決定されるモデル(CC-LM モ
デル)を提示した。また、Bernanke and Blinder(1988)は、比較静学に基づき、政策手段である銀
行準備が、所得、貨幣量、信用量、金利に与える効果を分析した。
Bernanke and Blinder(1988)のモデルに基づき、Kashyap and Stein(1994)は、銀行貸出チャン
ネルが機能するための必要条件として、(1)企業にとって、各資金調達手段(銀行貸出と債券)は
不完全代替であり、負債構造の変化によって投資行動が影響を受ける、(2)銀行にとって、貸出と
債券は不完全代替であり、中央銀行は、預金準備率の調整を通して、銀行貸出に影響を与えられ
る、
(3)価格が硬直的である、という三つの条件を提示した 2。必要条件(3)については、価格が
伸縮的である場合には、貨幣は実物経済に対し影響を与えないため、金融政策は中立的となる。し
たがって、金融政策が総需要に影響を与えるためには、前提となる条件であり、銀行貸出チャンネ
ルというよりも金融政策そのものの有効性を問うものである。Bernanke and Gertler(1995)に従い、
2 必要条件(2)に関し、白川(2008)は、日本を含め金融市場の発達した主要国では準備預金制度は金融政策
の手段としては使われていないが、銀行部門は準備預金の機会費用であるオーバーナイト金利を見ながら、積
みのパターンを決定し、中央銀行はオーバーナイト金利の誘導目標の設定を通して、銀行の積みパターンに影
響を与えるため、中央銀行が準備預金への影響力を完全に失うとは考えにくいとしている。
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必要条件(1)は「バランス・シート概念」(balance sheet view)、必要条件(1)、(2)は「(銀行)
貸出概念」(lending view)と呼ばれることが多い。
次に、実証分析については、Romer and Romer(1990)は、マクロデータを使い、金融引締後の
銀行貸出の変化を分析し、銀行貸出と他の資産による資金調達との間に不完全な代替関係が存在す
ることを示し、さらに、銀行の資金調達手段が多様化されると、金融政策の銀行貸出への影響力が
弱まることを指摘した。
同様に、Bernanke and Blinder(1992)は、マクロデータを用い、金融引締政策後、ラグを有する
ものの銀行貸出が減少し、生産量が変化することを示した。
また、Miron, Romer and Weil(1994)は、Bernanke and Blinder(1988)モデルに基づき、マネー・
サプライショックが、貨幣と貸出を通じ、総需要に影響を与えるモデルを提示し、これに基づき、
金融システムにおける構造変化が銀行貸出チャンネルに与えた影響を実証分析した。その結果、貸
出や預金準備からなる銀行の資産比率の上昇は、銀行貸出チャンネルの重要性を増大させること、
また、銀行依存度の高い小企業の銀行借入による資金調達の比率の上昇は、銀行貸出チャンネルの
重要性を増大させることを示した。
以上の実証分析は、マクロデータを用いた分析であるが、銀行貸出の変化が、貸出需要に起因す
るものであるか、または、貸出供給に起因するものであるかという識別問題が生じる。すなわち、
金融政策ショックによる金利の変動は、銀行の貸出活動に影響を与えると同時に、金利チャンネル
を通じて、企業の投資行動にも影響を与える。したがって、マクロデータから事後的に確認される
銀行貸出の変化が、銀行の貸出供給能力の変化によるものであるか、企業の投資行動に伴う銀行借
入の変化によるものであるかを識別できないのである。
これに関し、Kashyap, Stein and Wilcox(1993)では、銀行貸出が、銀行貸出とコマーシャル・
ペーパーの合計に占める比率(銀行貸出 /(銀行貸出+コマーシャル・ペーパー))として定義さ
れる「mix」という指標を用いて分析した。コマーシャル・ペーパーは、銀行貸出の代替的な資金
調達手段であるため、その変化には、銀行貸出需要の変化の情報が含まれており、その結果、貸出
需要要因と貸出供給要因を識別できるとしている。また、Kashyap, Stein and Wilcox(1993)は、金
融引締政策の後、銀行貸出の減少とともに、コマーシャル・ペーパーによる資金調達が増加するこ
とを示している。
しかしながら、Oliner and Rudebusch(1993)は、「mix」による識別が可能であるためには、金融
政策ショックが、資金調達をする企業において、銀行借入需要に与える影響とコマーシャル・ペー
パーの発行需要に与える影響が、均一であるとの仮定が必要であることを指摘している。これに関
し、Friedman and Kuttner(1993)は、コマーシャル・ペーパーの発行需要の変化は、銀行借入需要
よりも早く、かつ、大きく変化するため、銀行借入需要に与える影響とコマーシャル・ペーパーの
発行需要に与える影響が均一であるという仮定は非現実的であると指摘している。
こうしたマクロデータにおける識別問題に対し、近年では、ミクロデータを用いた分析が行なわ
れるようになってきている。
ミクロデータを用いる利点に関し、細野(2010)は、「ミクロデータを用いることで、貸出供給
を貸出需要から識別することができる。例えば、金融引き締め政策は金利の上昇や為替レートの増
価を通じて企業の設備投資を抑制し、銀行貸出に対する需要を減少させる。このような、政策に
よって誘発された貸出需要の変化は、マクロショックだとみなすことができる。他方、貸出の変化
が銀行間で異なっていれば、このミクロレベルの違いは、銀行貸出の供給曲線のシフトの違いだと
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みなして差支えないだろう。識別の問題を克服できることは、ミクロデータの分析の利点である。」
と述べている。
Ehrmann, et al.(2003)は、ミクロデータを用い、ユーロ圏における銀行貸出チャンネルの有効
性について実証分析を行なっている。Ehrmann, et al.(2003)では、銀行の貸出供給に影響する財務
変数として、すなわち、貸手と借手の間の情報の非対称性を代理する指標として、総資産規模、流
動性資産、自己資本比率を用いた分析を行なっている。
また、先述の細野(2010)は、Ehrmann, et al.(2003)と同様に、銀行の貸出供給に影響する財務
変数として、総資産規模、流動性資産、自己資本比率という三つの指標を使い、銀行ダミー変数と
年次ダミー変数を導入した 2 方向固定効果モデルを推定し、1977 年から 1999 年までの銀行貸出
チャンネルの有効性を実証分析した。
さらに、卓(2012a)は、同様な個別銀行の財務変数を用い、日本版金融ビッグバンの構造改革
が、銀行貸出チャンネルに影響を与えたか否かを、標本期間を 1980 年から 1996 年のビッグバン前
と 1997 年から 2007 年のビッグバン後に分割して実証分析した。また、日本版金融ビッグバンが銀
行部門の各業態に与えた影響に関しては、その差異が存在するか否かをパネルデータ回帰分析によ
り検討し、その差異により金融政策の各業態における波及効果が異なるか否かも検証した。
しかしながら、以上の分析では、金融政策変数としてコール・レートが用いられている。1999
年以降、多くの期間において、「ゼロ金利政策」が採用されていたことを考慮すれば、金融政策ス
タンスが必ずしも反映されていないと考えられる。また、銀行の貸出行動に影響を与えたと考えら
れる不良債権問題も、これらの分析では十分に考慮されていない。
これに関し、井上(2009)は、量的緩和政策期間における銀行貸出チャンネルの有効性について
実証分析を行なっている。ここでは、金融政策のスタンスを測るために、政策目標である日銀当座
預金残高を用い、また、銀行の貸出供給に影響する財務変数として、総資産規模、流動性資産、自
己資本比率という三つの指標の他、銀行の健全性を示す不良債権の比率を用いている。しかしなが
ら、これらの分析では、銀行・企業規模別の効果については分析されておらず、また、量的緩和政
策において想定されているポートフォリオ・リバランス効果を通じた経路も明示的に考慮されてい
ない。
国債購入増によるポートフォリオ・リバランス効果については、本多・黒木・立花(2010)は、
2001 年 3 月から 2006 年 2 月までの月次データを用い、構造 VAR モデルにより量的緩和政策の効
果を検証した。推定の結果、量的緩和政策期間、日銀当座預金残高の増大が資産価格チャンネルを
通じ強く機能していたことが示された。すなわち、量的緩和ショックが株価を引き上げた上、消費
や投資に影響を与え、経済活動を刺激したことが示された。その一方、本多・黒木・立花(2010)
では、生産高、物価、金融政策変数、銀行貸出からなる 4 変数 VAR モデルを用いた分析の結果、
量的緩和政策の銀行貸出チャンネルを通じた効果が見られなかったことが示された。また、本多・
立花(2011)は、推計期間を 1996 年 1 月から 2010 年 3 月までとし、本多・黒木・立花(2010)の
モデルを拡張した上、量的緩和政策の効果を検証した。本多・立花(2011)では、本多・黒木・立
花(2010)と同様な分析の結果、すなわち、量的緩和政策の株価経路を通じたポートフォリオ・リ
バランス効果が存在していたことが示された。但し、これらの分析では、マクロデータが用いられ
ており、銀行間の属性の差異や貸出先企業の規模を考慮したミクロレベルにおいて、ポートフォリ
オ・リバランス効果が存在しなかったことを意味するものではない。
以上の考察に基づき、本稿では、90 年代以降の金融緩和期における銀行貸出チャンネルの有効
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性を、ミクロデータに基づき分析する。その際、銀行、企業規模を考慮した分析を行なう。また、
ポートフォリオ・リバランス効果を考慮するため、銀行の貸出供給に影響する財務変数として用い
られる流動性資産をコール・ローンと国債に分割する。
3.データ
実証分析で用いる銀行(都市銀行、旧長期信用銀行、信託銀行、地方銀行、第二地方銀行)のバ
ランス・シートのデータはすべて「日経 NEEDS Financial QUEST」より入手した。標本期間は、
1991 年から 2006 年までとし、各年の 3 月末本決算と 9 月末中間決算のデータを用いた 3。また、90
年代以降の金融緩和期における金融政策の銀行貸出チャンネルを通じる効果を分析する際には、
1991 年から 1995 年を超低金利前、1996 年から 2000 年を超低金利期間、2001 年から 2006 年を量
的緩和期間と想定した 4。
さらに、銀行間の買収・合併に関しては、全国銀行協会の「銀行変遷史データベース」により、
買収・合併に関与した銀行の買収・合併に携わった決算期、および、その前後の決算期のデータは
標本から除外した。合併後新設された銀行は、合併前の銀行と異なる銀行として扱った。
銀行の規模については、総資産の対数値を代理変数として用いた。流動性資産比率については、
総資産に対するコール・ローンの比率、および、総資産に対する国債の比率を用いた。自己資本比
率については、総資産に対する自己資本の比率を用いた。
但し、量的緩和期間、総資産に対する自己資本の比率の他、国際統一基準、および、国内基準も
用い、追加の検証を行なった。これは、国際基準行と国内基準行に対する監督体制の違いが銀行の
貸出行動に影響する可能性を考慮したからである。本稿では、国際統一基準に基づき自己資本比率
を公表している銀行を国際基準行とし、その公表している自己資本比率を代理変数として用いた。
一方、1998 年の早期是正措置の導入に伴い、海外に拠点を有しない銀行には国内基準の適用を義
務付けることとなったため、国内基準に基づき自己資本比率を公表している銀行を国内基準行と
し、その公表している自己資本比率を代理変数として用いた。さらに、量的緩和期間、銀行の健全
性については、総与信残高に対する不良債権額の比率も用いた 5。
さらに、金融政策のスタンスを測るために、金融政策手段であるコール・レートの月次データを
平均し、年度半期データに直したデータを用いた。また、金融政策手段を表す日銀当座預金残高の
四半期データも年度半期データに直して用いた。
4.推定式
本稿では、Ehrmann, et al.(2003)、細野(2010)、および、卓(2012a)に従い、銀行ダミー変数
と年次ダミー変数を導入した 2 方向固定効果モデルを用い回帰分析し、90 年代以降の金融緩和期
における銀行貸出チャンネルの有効性を分析する。
3 本決算と中間決算では公表されていないデータについては、代理変数として前後の決算期のデータから線形
補間した値を用いた。
4 金融政策は、1991 年以降、緩和的なスタンスが採られ続けられる中、1995 年 9 月 8 日には公定歩合を 1% か
ら 0.5% に引下げたのを皮切りに、誘導目標となったコール・レートを順次引下げ、緩和スタンスがより顕著
なものになり、2001 年 3 月から量的緩和政策が導入された。したがって、本稿では、1996 年と 2001 年は緩和
スタンスの変化時点と仮定した。
5 総与信残高は、金融再生法に基づいて開示された正常債権、破産更正等債権、要管理債権および危険債権の
総計であり、不良債権額は、その中の破産更正等債権、要管理債権および危険債権の総計である。
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但し、t は時間、i は銀行を表す添え字であり、Loans は銀行貸出残高、Assets は銀行規模を表す
総資産額、CallLoan は流動性資産比率を表すコール・ローン比率、GovernmentBond は国債比率、
Equity は自己資本比率、mp は金融政策手段を表す変数、year は年次ダミー変数、f i は銀行に関す
る固定効果を表す定数項、ε i,t は撹乱項である。また、マクロ経済動向など銀行貸出に影響を与え
る他の要因が年次ダミー変数により捉えられるため、金融政策手段を表す変数の単体を推定式に加
える必要がないと考えられる。
銀行貸出チャンネルが存在しているか否かは、上記の推定式における銀行の貸出供給に影響する
財務変数(Assets, CallLoan, GovernmentBond, Equity)と、金融政策変数 mp との交差項の係数ベク
トルδ の有意性を検定することで分析できる。なぜならば、金融政策の変化に対する銀行間におけ
る貸出行動の差異は、銀行貸出の供給曲線のシフトの違いだとみなせるからである。したがって、
以下の分析では、δ に焦点を当て議論を行なう。
本稿では、1999 年以降国際基準行と国内基準行に対する監督体制の違い、および不良債権問題
の貸出供給への影響を考慮し、量的緩和期間について追加の検証を行なう。その際、全銀行を国際
基準行と国内基準行に分割し、それぞれ公表している自己資本比率を用い、また不良債権比率
(NPLs)も銀行の貸出供給に影響する財務変数として推定式に加えた。したがって、量的緩和期間
についての追加検証においては、
を推計する。
また、金融政策変数として、コール・レート(CallRate)と中央銀行当座預金残高(Reserves)
の対数値を同時に用いた。その際、全標本期間における政策変数の整合性を考慮し、中央銀行当座
預金残高の実現値の対数値を用いた。
予想される符号条件は以下の通りである。
まず、銀行の総資産規模に関しては、規模の大きい銀行はリスク分散をしやすい、または、より
高い名声を築けるので、情報の非対称性の問題を解消できる可能性がある。このため、金融引締政
策に対し、銀行貸出の減少は小さくなると考えられる。したがって、規模の大きい銀行ほど金融政
策ショックに対する反応は小さくなると考えられる。以上の考察より、予想される銀行規模単体の
係数はβ1 > 0、銀行規模とコール・レートの交差項の係数はδ11 > 0、銀行規模と中央銀行当座預金
の交差項の係数はδ21 < 0 となる。
次に、流動性資産比率に関しては、流動性資産を多く保有している銀行は、内部資金である流動
性資産をバッファー・ストックとして取り崩すことができる。このため、金融引締政策に対し、流
動性資産の少ない銀行に比べると、銀行貸出の減少は小さくなると考えられる。この結果、流動性
資産比率の高い銀行ほど、金融政策ショックに対する反応は小さくなると考えられる。その一方
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で、量的緩和政策が実施された期間、日本銀行は市中銀行から長期国債を大量に買入れた。この結
果、これまで長期国債の運用を行なっていた銀行が株式等のリスク資産への運用や貸出を増やして
いくというポートフォリオ・リバランス効果が生じるならば、国債を多く保有している銀行ほど、
量的緩和政策の下で、貸出の増加が大きくなる可能性が考えられる。したがって、金融政策手段と
して、中央銀行当座預金が用いられる場合、コール・ローン比率と国債比率の係数は異なる符号を
とる可能性が考えられる。以上の考察より、コール・ローン比率単体の係数はβ2 > 0、国債比率単
体の係数はβ3 > 0、コール・ローン比率とコール・レートの交差項の係数はδ12 > 0、国債比率と
コール・ローンの交差項の係数はδ13 > 0、コール・ローン比率と中央銀行当座預金残高の交差項
δ22 < 0 と予想される。国債比率と中央銀行当座預金残高の交差項の係数の符号は事前に予想でき
ないが、ポートフォリオ・リバランス効果が生じるならば、δ23 はプラス、ポートフォリオ・リバ
ランス効果が生じないであれば、δ23 はマイナスになる。
自己資本比率に関しては、自己資本を多く保有している銀行は、健全な経営を行なうインセン
ティブが強いと考えられるため、モラル・ハザードや逆選択などの問題を軽減できる。この結果、
自己資本の少ない銀行と比べると、金融政策ショックに対する反応は小さくなると考えられる。そ
の一方で、自己資本比率規制が課せられると、自己資本の少ない銀行は金融緩和政策のもとでも貸
出を増やすことができない。こうした状況下では、自己資本の多い銀行は、より貸出を増加させる
と考えられる。したがって、自己資本比率の高い銀行の金融政策ショックに対する反応の大きさ
は、上述の二つの効果の大小関係によって決まってくると考えられる。以上の考察より、自己資本
比率単体の係数はβ4 > 0 と予想され、自己資本比率と金融政策変数の交差項の係数の符号は事前に
予想できないが、自己資本の多い銀行ほど金融政策ショックに対する反応は小さくなるならば、自
己資本比率とコール・レートの交差項の係数はδ14 > 0、自己資本比率と中央銀行当座預金残高の交
差項の係数はδ24 < 0 となる。その一方、金融緩和政策のもとでも自己資本の少ない銀行ほど銀行
貸出を増やせないであれば、自己資本比率とコール・レートの交差項の係数はδ14 < 0、自己資本比
率と中央銀行当座預金残高の交差項の係数はδ24 > 0 となる。
最後に、不良債権比率に関しては、不良債権を多く抱えている銀行が、金融引締政策の下で、貸
出に慎重になり、「貸し剥がし」のように貸出を大きく減少させる一方、金融緩和政策の下で、「追
い貸し」のように貸出を大きく増加させるならば、金融政策ショックに対する反応が大きくなると
考えられる。その一方で、金融緩和政策の下で、バランス・シートをスリム化するために、「貸し
渋り」のように貸出の増加が小さくなるならば、金融政策ショックに対する反応は小さくなること
も考えられる。したがって、不良債権比率の高い銀行の金融政策ショックに対する反応の大きさ
は、上述の二つの効果の大小関係によって決まってくると考えられる。以上の考察より、不良債権
比率単体の係数はβ5 < 0 と予想され、不良債権比率と中央銀行当座預金残高の交差項の係数の符号
は事前に予想できないが、金融緩和政策の下で貸出を大きく増加させるならば、不良債権比率と
コール・レートの交差項の係数はδ15 < 0、不良債権比率と中央銀行当座預金残高の交差項の係数は
δ25 > 0 となる。その一方、金融緩和政策の下で貸出の増加が小さくなるならば、不良債権比率と
コール・レートの交差項の係数はδ15 > 0、不良債権比率と中央銀行当座預金残高の交差項の係数は
δ25 < 0 となる。
5.実証分析
細野(2010)でも指摘された通り、銀行の営業する地域における借入需要が銀行のバランス・
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シートに影響を与える可能性が考えられるため、最小二乗法を用いて推計する場合、銀行バラン
ス・シート変数の係数、および、その金融政策変数との交差項の係数を推計する場合、内生性バイ
アスが生じる可能性がある。それゆえ、本稿では、2 期前の説明変数を操作変数とする操作変数法
を用いて推計を行なった。
また、推計においては、流動性資産比率として、コール・ローン比率のみを用いた場合、国債比
率のみを用いた場合、両方用いた場合の 3 通りの推計を行なった。以下では、先述の通り、銀行の
貸出供給に影響する財務変数と、金融政策変数との交差項の係数ベクトルδの推計結果に焦点を絞
り議論を行なう。
表 1 は標本期間を 1991 年から 1995 年の超低金利前、1996 年から 2000 年の超低金利期間および
2001 年から 2006 年の量的緩和期間に分割して行なった推計結果である。表 1(a)は総貸出に対し
て行なった推計結果である。表 1(a)の第 2 列から第 4 列までは、超低金利前の緩和期について
の結果である。まず、流動性資産比率として国債比率のみを用いた場合、銀行規模とコール・レー
トの交差項δ11 が符号条件を満たし正で有意、自己資本比率とコール・レートの交差項δ14 が符号
は負で有意となった。次に、流動性資産比率として、コール・ローン比率のみを用いた場合、およ
び、国債比率とコール・ローン比率を同時に用いた場合、コール・ローン比率とコール・レートの
交差項δ12 が符号条件を満たし正で有意、自己資本比率とコール・レートの交差項δ14 が符号は負
で有意、コール・ローン比率と中央銀行当座預金の交差項δ22 が符号条件を満たし負で有意、自己
資本比率と中央銀行当座預金の交差項δ24 が符号は正で有意であった。以上の結果は、超低金利前
の緩和期において、コール・ローン比率の高い銀行ほど金融政策ショックに対する反応は小さくな
ること、および、自己資本の少ない銀行ほど金融緩和政策のもとでも銀行貸出を増やせないことを
意味していると考えられる。
表 1(a)の第 5 列から第 7 列までは、超低金利期間についての結果である。まず、流動性資産
比率として国債比率のみを用いた場合、銀行規模と中央銀行当座預金の交差項δ21 のみが符号条件
を満たし正で有意となった。次に、流動性資産比率として、コール・ローン比率のみを用いた場
合、および、国債比率とコール・ローン比率を同時に用いた場合、コール・ローン比率とコール・
レートの交差項δ12 が符号条件を満たし正で有意、銀行規模と中央銀行当座預金の交差項δ21 が符
号条件を満たし負で有意、コール・ローン比率と中央銀行当座預金の交差項δ22 が符号条件を満た
さず正で有意となった。以上の結果は、超低金利期間において、規模の大きい銀行ほど金融政策
ショックに対する反応は小さくなることを意味していると考えられる。また、コール・ローン比率
と中央銀行当座預金の交差項の係数δ22 は、コール・ローン比率とコール・レートの交差項の係数
δ12 より大きいことから、超低金利期間、コール・ローン比率の高い銀行ほど、中央銀行当座預金
の増加ショックに対する反応は大きくなる可能性を示していると解釈できる。
表 1(a)の第 8 列から第 10 列までは、量的緩和期間についての結果である。まず、流動性資産
比率として国債比率のみを用いた場合、国債比率とコール・レートの交差項δ13 が符号条件を満た
さず負で有意、自己資本比率とコール・レートの交差項δ14 が符号は負で有意、自己資本比率と中
央銀行当座預金の交差項δ24 が符号は負で有意であった。次に、流動性資産比率としてコール・
ローン比率のみを用いた場合、自己資本比率とコール・レートの交差項δ14 が符号は負で有意、
コール・ローン比率と中央銀行当座預金の交差項δ22 が符号条件を満たし負で有意、自己資本比率
と中央銀行当座預金の交差項δ24 が符号は負で有意となった。最後に、国債比率とコール・ローン
比率を同時に用いた場合、国債比率とコール・レートの交差項δ13 が符号条件を満たさず負で有意、
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自己資本比率とコール・レートの交差項δ14 が符号は負で有意、国債比率と中央銀行当座預金の交
差項δ23 が符号条件を満たし負で有意、自己資本比率と中央銀行当座預金の交差項δ24 が符号は負
で有意であった。以上の結果は、量的緩和期間において、国債比率の高い銀行ほど金融政策ショッ
クに対する反応は大きくなることを意味し、日本銀行による国債購入増は、短期金利の先行き予想
を低下させることで、長期金利を低めに誘導し、貸出の増加を促すという効果が存在していた可能
性を示していると解釈できる。また、自己資本比率とコール・レートの交差項の係数δ14 は、自己
資本比率と中央銀行当座預金の交差項の係数δ24 より大きいことから、金融緩和政策のもとでも自
己資本の少ない銀行ほど銀行貸出を増やせないことを意味していると考えられる。
同様に、表 1(b)は、対中小企業貸出の推計結果である。表 1(b)の第 2 列から第 4 列までは、
超低金利前の緩和期についての結果である。流動性資産比率として、国債比率のみを用いた場合、
コール・ローン比率のみを用いた場合、および両方用いた場合、個別銀行の財務変数と金融政策変
数の交差項で有意となったものはなかった。
表 1(b)の第 5 列から第 7 列までは、超低金利期間についての結果である。まず、流動性資産
比率として国債比率のみを用いた場合、国債比率とコール・レートの交差項δ13 が符号条件を満た
し正で有意、銀行規模と中央銀行当座預金の交差項δ21 が符号条件を満たし負で有意、自己資本比
率と中央銀行当座預金の交差項δ24 が符号は負で有意であった。次に、流動性資産比率としてコー
ル・ローン比率のみを用いた場合、コール・ローン比率と中央銀行当座預金の交差項δ22 が符号条
件を満たさず正で有意、自己資本比率と中央銀行当座預金の交差項δ24 が符号は負で有意となった。
最後に、国債比率とコール・ローン比率を同時に用いた場合、国債比率とコール・レートの交差項
δ13 が符号条件を満たし正で有意、コール・ローン比率と中央銀行当座預金の交差項δ22 が符号条
件を満たさず正で有意であった。以上の結果は、超低金利期間、中小企業向けの貸出において、国
債比率の高い銀行ほど金融政策ショックに対する反応は小さくなること、および、自己資本の多い
銀行ほど金融政策ショックに対する反応は小さくなることを意味していると考えられる。
表 1(b)の第 8 列から第 10 列までは、量的緩和期間についての結果である。流動性資産比率と
して、国債比率のみを用いた場合、コール・ローン比率のみを用いた場合、および両方用いた場
合、個別銀行の財務変数と金融政策変数の交差項で有意となったものはなかった。
表 2 は、標本期間を 2001 年から 2006 年までとした場合(いわゆる量的緩和期間)の推計結果で
ある。表 2(a)は総貸出に対して行なった推計結果である。表 2(a)の第 2 列から第 4 列までは、
全銀行に対して行なった推計結果である。まず、流動性資産比率として国債比率のみを用いた場
合、不良債権比率とコール・レートの交差項δ15 が符号は正で有意、不良債権比率と中央銀行当座
預金の交差項δ25 が符号は正で有意となった。次に、流動性資産比率としてコール・ローン比率の
みを用いた場合、不良債権比率とコール・レートの交差項δ15 が符号は正で有意、コール・ローン
比率と中央銀行当座預金の交差項δ22 が符号条件を満たし負で有意、不良債権比率と中央銀行当座
預金の交差項δ25 が符号は正で有意であった。最後に、国債比率とコール・ローン比率を同時に用
いた場合、不良債権比率とコール・レートの交差項δ15 が符号は正で有意、不良債権比率と中央銀
行当座預金の交差項δ25 が符号は正で有意となった。不良債権比率とコール・レートの交差項の係
数δ15 は、不良債権比率と中央銀行当座預金の交差項の係数δ25 より大きいことから、量的緩和期
間、不良債権を多く抱えている銀行が金融緩和政策のもとで「貸し渋り」のように貸出の増加が小
さくなり、金融政策ショックに対する反応は小さくなることを意味していると考えられる。
表 2(a)の第 5 列から第 10 列までは、銀行別に行なった推計結果である。国際基準行について
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は、流動性資産比率として、国債比率のみを用いた場合、コール・ローン比率のみを用いた場合、
および両方用いた場合、個別銀行の財務変数と金融政策変数の交差項で有意となったものはなかっ
た。
国内基準行については、まず、流動性資産比率として国債比率のみを用いた場合とコール・ロー
ン比率のみを用いた場合、不良債権比率とコール・レートの交差項δ15 が符号は正で有意、不良債
権比率と中央銀行当座預金の交差項δ25 が符号は正で有意となった。次に、国債比率とコール・
ローン比率を同時に用いた場合、不良債権比率とコール・レートの交差項δ15 が符号は負で有意、
銀行規模と中央銀行当座預金の交差項δ21 が符号条件を満たし負で有意、コール・ローン比率と中
央銀行当座預金の交差項δ22 が符号条件を満たし負で有意であった。これは、量的緩和期間、規模
の大きい国内基準行ほど金融政策ショックに対する反応は小さくなること、および、コール・ロー
ン比率の高い国内基準行ほど金融政策ショックに対する反応は小さくなることを意味していると考
えられる。
表 2(b)は、対中小企業貸出の推計結果である。表 2(b)の第 2 列から第 4 列までは、全銀行
に対して行なった推計結果である。流動性資産比率として、国債比率のみを用いた場合、コール・
ローン比率のみを用いた場合、および両方用いた場合、個別銀行の財務変数と金融政策変数の交差
項で有意となったものはなかった。
表 2(b)の第 5 列から第 10 列までは、銀行別に行なった推計結果である。国際基準行について
は、流動性資産比率として、国債比率のみを用いた場合、コール・ローン比率のみを用いた場合、
および両方用いた場合、個別銀行の財務変数と金融政策変数の交差項で有意となったものはなかっ
た。
国内基準行については、まず、流動性資産比率として国債比率のみを用いた場合とコール・ロー
ン比率のみを用いた場合、個別銀行の財務変数と金融政策変数の交差項で有意となったものはな
かった。次に、国債比率とコール・ローン比率を同時に用いた場合、不良債権比率とコール・レー
トの交差項δ15 が符号は負で有意、不良債権比率と中央銀行当座預金の交差項δ25 が符号は負で有
意となった。不良債権比率とコール・レートの交差項の係数δ15 は、不良債権比率と中央銀行当座
預金の交差項の係数δ25 より大きいことから、量的緩和期間、不良債権を多く抱えている国内基準
行が金融緩和政策のもとで中小企業に対し「追い貸し」を行なっており、不良債権の多い銀行ほ
ど、金融政策ショックに対する反応が大きいことを意味していると考えられる。
以上の結果より、超低金利前の金融緩和期においては、金融政策が、コール・ローン比率(δ12、
δ22)と自己資本比率(δ14 、δ24)を通じ、全銀行の与信行動に影響を与えていた可能性が示され
た(表 1(a)の第 2、3、4 列)。但し、中小企業向けの貸出においては、コール・レートまたは中
央銀行当座預金を通じた効果が見られなかった(表 1(b)の第 2、3、4 列)。
超低金利期間においては、中央銀行当座預金の増額が、銀行規模δ21 とコール・ローン比率δ22
を通じ、全銀行の与信行動に影響を与えていたことが示された(表 1(a)の第 5、6、7 列)。また、
中小企業向けの貸出においては、コール・レートの変化が国債比率δ13 を通じて影響を与えていた
こと、および、中央銀行当座預金の増額が自己資本比率δ24 を通じて影響を与えていた可能性も示
された(表 1(b)の第 5、6、7 列)。
量的緩和期間においては、金融政策が、国債比率δ13、自己資本比率δ14、不良債権比率δ15 およ
びコール・ローン比率δ22 を通じ、全銀行の与信行動に影響を与えていたことが示された(表 1(a)
の第 8、9、10 列と表 2(a)第 2、3、4 列)。但し、中小企業向けの貸出においては、コール・レー
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表1 標本期間分割の推計結果
(a) 総貸出
1991-1995
1996-2000
-0.123
(0.085)
-0.220
(0.158)
-0.177
(0.167)
率( β 2 )
-
21.740***
(5.488)
国債比率( β 3 )
2.683
(5.069)
0.348
(13.020)
2001-2006
0.079
(0.089)
0.097
(0.097)
0.079
(0.111)
-19.738**
(9.971)
-
6.129
(3.963)
3.388
(4.852)
32.444
(22.728)
-7.738
(8.825)
30.466
(23.295)
4.763
(2.968)
15.532**
(6.394)
13.193**
(6.160)
6.499*
(3.751)
13.628**
(6.749)
-0.002
(0.005)
-0.007
(0.007)
-0.006
(0.007)
0.031
(0.063)
-0.001
(0.072)
0.055
(0.087)
0.067***
(0.025)
-
0.749**
(0.328)
0.637*
(0.330)
-
-1.270
(4.888)
2.436
(6.228)
-
0.030
(0.035)
0.345
(0.346)
-
0.670
(0.524)
-6.221*
(3.242)
-
-6.947*
(3.834)
-0.132*
(0.079)
-0.265**
(0.104)
-0.272***
(0.105)
-0.550
(0.774)
-1.666
(1.141)
-1.944
(1.189)
-16.683**
(6.747)
-13.246**
(6.443)
-15.634**
(7.407)
0.004
(0.005)
0.011
(0.010)
0.008
(0.010)
-0.015**
(0.006)
-0.021**
(0.010)
-0.022**
(0.010)
4.140E-04
(4.013E-03)
-0.003
(0.004)
-2.040E-04
(4.808E-03)
-
-1.486***
(0.373)
-1.428***
(0.373)
-
1.420**
(0.694)
1.307**
(0.664)
-
-0.391*
(0.235)
-0.244
(0.284)
-0.167
(0.345)
-
-0.320
(0.397)
0.132
(0.380)
-
0.511
(0.567)
-0.281
(0.172)
-
-0.386*
(0.218)
0.022
(0.882)
2.507*
(1.375)
2.528*
(1.378)
0.100
(0.966)
-1.724
(1.432)
-1.587
(1.468)
-0.805**
(0.361)
-0.651*
(0.350)
-0.690*
(0.384)
0.786***
(0.025)
0.773***
(0.028)
0.773***
(0.029)
0.907***
(0.079)
0.790***
(0.118)
0.817***
(0.119)
0.776***
(0.046)
0.824***
(0.055)
0.790***
(0.064)
自由度修正済みR²
0.999
0.999
0.999
0.999
0.999
0.999
0.999
0.999
0.999
観測値数
1444
1419
1419
1294
1261
1261
1341
1155
1153
0.348**
(0.148)
0.469***
(0.145)
0.468***
(0.156)
3.943
(7.375)
3.843
(7.881)
総資産(対数値)
(β 1 )
コール・ローン比
自己資本比率( β 4 )
総資産(対数値)
×コールレート
(δ 11 )
0.240*
(0.127)
0.452**
(0.199)
0.441**
(0.201)
20.884***
(5.477)
-
-21.564**
(10.419)
-37.067*
(20.522)
4.703
(5.850)
-37.272*
(20.548)
-1.945
(5.932)
1.275
(14.978)
1.387E-03***
(4.650E-04)
0.001
(0.001)
1.123E-03
(8.410E-04)
-
0.071***
(0.025)
0.009
(0.031)
コール・ローン比
率×コールレート
( δ 12 )
国債比率×コール
レート( δ 13 )
自己資本比率×
コールレート
( δ 14 )
総資産(対数値)
×当座預金(対数
値)( δ 21 )
コール・ローン比
率×当座預金(対数
値)( δ 22 )
国債比率×当座預
金(対数値)( δ 23 )
自己資本比率×当
座預金(対数値)
( δ 24 )
総貸出(対数値)
(t-1)( κ )
-
-
-
(b) 対中小企業貸出
1991-1995
1996-2000
0.871***
(0.274)
1.179**
(0.504)
0.988*
(0.536)
率( β 2 )
-
12.772
(18.442)
国債比率( β 3 )
-16.009
(17.216)
56.905
(43.905)
2001-2006
0.351**
(0.150)
0.335*
(0.192)
0.344*
(0.191)
16.575
(18.526)
-
-27.843**
(11.825)
-23.900**
(11.421)
-
26.442
(68.744)
-19.525
(19.758)
27.631
(69.307)
-13.602
(8.632)
48.114**
(24.063)
55.064*
(28.768)
-14.444
(10.523)
50.400*
(29.047)
-2.024
(5.683)
13.718
(12.237)
9.266
(11.128)
-0.073
(5.821)
9.122
(11.114)
0.001
(0.002)
0.002
(0.003)
0.001
(0.003)
-0.007
(0.007)
-0.012
(0.009)
-0.010
(0.009)
-0.082
(0.118)
-0.099
(0.130)
-0.092
(0.138)
-
2.260E-04
(0.084)
0.012
(0.084)
-
0.571
(0.415)
0.366
(0.413)
-
-1.104
(9.092)
-0.588
(10.223)
-0.143
(0.106)
-
-0.123
(0.119)
0.986*
(0.515)
-
1.076*
(0.634)
2.160
(6.280)
-
-0.926
(6.083)
0.327
(0.263)
0.199
(0.345)
0.231
(0.350)
-1.522
(1.166)
-1.658
(1.400)
-2.161
(1.442)
-14.902
(12.430)
-11.203
(11.192)
-11.426
(11.377)
-0.026
(0.017)
-0.046
(0.032)
-0.033
(0.034)
-0.019*
(0.010)
-0.017
(0.012)
-0.020
(0.013)
-0.004
(0.008)
-3.940E-04
(7.788E-03)
3.080E-04
(7.913E-03)
-
-0.870
(1.255)
-1.130
(1.261)
-
1.871**
(0.784)
1.623**
(0.757)
-
-0.218
(0.439)
-0.217
(0.464)
1.098
(1.171)
-
1.308
(1.341)
0.878
(0.554)
-
0.953
(0.676)
0.109
(0.329)
-
-0.006
(0.338)
-3.821
(2.971)
-1.804
(4.606)
-1.910
(4.648)
-2.709*
(1.528)
-3.053*
(1.812)
-2.738
(1.832)
-0.640
(0.691)
-0.335
(0.629)
-0.338
(0.629)
0.015
(0.054)
-0.014
(0.056)
-0.015
(0.057)
0.857***
(0.040)
0.849***
(0.048)
0.879***
(0.049)
0.587***
(0.039)
0.316***
(0.054)
0.311***
(0.054)
自由度修正済みR²
0.997
0.997
0.997
0.998
0.997
0.997
0.997
0.997
0.997
観測値数
1443
1419
1419
1284
1252
1252
1288
1104
1104
総資産(対数値)
(β 1 )
コール・ローン比
自己資本比率( β 4 )
総資産(対数値)
×コールレート
(δ 11 )
コール・ローン比
率×コールレート
( δ 12 )
国債比率×コール
レート( δ 13 )
自己資本比率×
コールレート
( δ 14 )
総資産(対数値)
×当座預金(対数
値)( δ 21 )
コール・ローン比
率×当座預金(対数
値)( δ 22 )
国債比率×当座預
金(対数値)( δ 23 )
自己資本比率×当
座預金(対数値)
( δ 24 )
総貸出(対数値)
(t-1)( κ )
-
-
-
(注1)説明変数は、1期ラグ値である。
(注2)( )内は、不均一分散一致標準誤差である。
(注3)***、**、*はそれぞれ有意水準1%、5%、10%で有意であることを示す。
26
生活経済研究vol41.indb
26
15/3/18
13:55:31
生活経済学研究 Vol.41(2015.3)
表2 量的緩和期間についての推計結果
(a) 総貸出
全銀行
国際基準行
0.005
(0.098)
0.017
(0.103)
-0.005
(0.115)
率( β 2 )
-
7.884*
(4.203)
国債比率( β 3 )
4.380
(3.187)
8.318
(6.821)
-7.384**
(3.744)
総資産(対数値)
(β 1 )
コール・ローン比
自己資本比率( β 4 )
不良債権比率( β 5 )
総資産(対数値)
×コールレート
( δ 11 )
コール・ローン比
率×コールレート
( δ 12 )
国債比率×コール
レート( δ 13 )
自己資本比率×
コールレート( δ
14 )
不良債権比率×
コールレート( δ
15 )
総資産(対数値)
×当座預金(対数
値)( δ 21 )
コール・ローン比
率×当座預金(対数
値)( δ 22 )
国債比率×当座預
金(対数値)( δ 23 )
自己資本比率×当
座預金(対数値)
( δ 24 )
不良債権比率×当
座預金(対数値)
国内基準行
-0.347
(0.466)
-0.091
(0.384)
-3.565
(40.358)
5.148
(4.911)
-
23.124
(15.068)
3.397
(6.698)
-8.382***
(2.938)
5.832
(3.742)
5.424
(7.085)
-6.606**
(3.181)
21.481
(17.452)
-35.367
(32.856)
-18.070
(19.944)
0.078
(0.073)
0.034
(0.080)
0.081
(0.092)
-
-
0.133
(0.148)
0.087
(0.156)
0.088
(0.145)
38.631
(294.879)
-
6.702
(5.478)
11.978**
(5.585)
-30.166
(27.553)
1.293
(15.250)
-188.712
(2313.829)
268.025
(3286.348)
222.342
(2605.464)
1.918
(4.012)
0.834
(6.469)
-9.980**
(3.988)
-4.621
(6.803)
-11.735***
(3.921)
-2.805
(2.617)
8.548
(7.918)
5.677*
(3.339)
0.257
(0.237)
0.114
(0.269)
2.445
(27.043)
-0.136
(0.172)
-0.074
(0.189)
-0.660
(0.766)
-
-
-3.121
(5.094)
0.531
(6.231)
-
-18.602
(29.980)
248.635
(2856.105)
-
0.633
(7.811)
-25.374
(33.736)
-5.730
(3.506)
-
-6.178
(3.921)
-29.359
(18.502)
-
103.256
(1444.862)
-4.099
(5.955)
-
29.523
(20.097)
-5.280
(7.732)
-0.096
(6.996)
-3.760
(7.813)
32.932
(38.563)
15.009
(27.839)
-190.502
(2355.092)
6.709
(10.234)
6.505
(12.153)
-79.694
(50.052)
7.919**
(3.685)
7.987***
(2.881)
6.177**
(3.103)
30.389
(23.851)
-0.974
(16.196)
-123.161
(1571.394)
14.418***
(4.729)
12.234***
(4.301)
-53.831***
(16.965)
0.004
(0.005)
1.610E-04
(4.670E-03)
0.003
(0.005)
0.022
(0.021)
0.005
(0.018)
0.047
(0.599)
-0.003
(0.007)
-0.009
(0.008)
-0.011*
(0.007)
-
-0.497**
(0.249)
-0.347
(0.288)
-
-1.342
(0.905)
-1.202
(10.011)
-
-0.446
(0.325)
-0.747**
(0.330)
-0.259
(0.184)
-
-0.346
(0.217)
-1.247
(0.996)
-
11.291
(137.901)
-0.121
(0.233)
-
0.154
(0.152)
-0.400
(0.386)
-0.120
(0.378)
-0.240
(0.400)
2.196
(1.951)
1.840
(1.604)
-15.697
(193.893)
-0.028
(0.388)
0.303
(0.394)
-0.453
(0.448)
0.435*
(0.224)
0.503***
(0.176)
0.398**
(0.190)
1.067
(1.171)
-0.083
(0.887)
-12.717
(149.217)
0.579**
(0.239)
0.698***
(0.235)
-0.326
(0.199)
0.795***
(0.050)
0.872***
(0.057)
0.841***
(0.063)
0.596**
(0.246)
0.611***
(0.219)
2.140
(17.952)
0.833***
(0.066)
0.996***
(0.086)
0.948***
(0.095)
自由度修正済みR²
0.999
0.999
0.999
0.998
0.999
0.831
0.999
0.998
0.999
観測値数
1332
1146
1144
247
246
246
1104
927
789
( δ 25 )
総貸出(対数値)
(t-1)( κ)
(b) 対中小企業貸出
全銀行
国際基準行
国内基準行
0.363**
(0.161)
0.484***
(0.156)
0.472***
(0.168)
0.336
(0.942)
0.273
(0.683)
-0.177
(2.533)
0.376
(0.245)
0.545**
(0.233)
0.459*
(0.246)
率( β 2 )
-
3.303
(7.485)
2.897
(8.084)
-
2.615
(28.401)
2.963
(46.192)
-
-0.636
(9.225)
3.953
(10.792)
国債比率( β 3 )
-1.947
(5.812)
11.674
(12.321)
-1.863
(6.025)
8.073
(11.579)
0.451
(4.495)
0.843
(5.915)
8.091
(11.607)
0.468
(4.526)
24.727
(30.030)
-33.383
(53.401)
-30.368
(38.062)
-28.875
(44.286)
-8.315
(25.413)
-21.307
(116.764)
29.525
(157.795)
21.504
(134.971)
-5.150
(6.582)
5.141
(11.156)
-2.916
(5.614)
0.916
(11.297)
0.027
(5.212)
2.549
(4.989)
-9.933
(15.678)
18.049***
(6.482)
-0.076
(0.133)
-0.084
(0.139)
-0.074
(0.149)
0.004
(0.370)
0.017
(0.641)
0.692
(2.263)
0.036
(0.300)
-0.161
(0.292)
0.860
(1.535)
-
-1.525
(9.103)
-0.609
(10.313)
-
-10.815
(65.831)
57.739
(161.230)
-
2.503
(13.007)
-27.350
(65.553)
1.998
(6.390)
-
-1.441
(6.208)
-34.014
(30.562)
-
-9.559
(58.502)
9.565
(9.380)
-
-6.095
(38.413)
-12.520
(13.199)
-7.099
(11.572)
-7.869
(11.833)
57.887
(61.399)
42.984
(42.602)
7.144
(136.361)
-15.086
(18.055)
-3.367
(19.636)
11.333
(97.830)
0.858
(6.107)
3.209
(4.566)
2.755
(4.507)
48.660
(42.396)
11.589
(25.403)
12.823
(78.610)
1.990
(7.157)
6.123
(6.014)
-78.539**
(33.599)
-0.003
(0.008)
4.590E-04
(8.431E-03)
0.001
(0.009)
0.010
(0.039)
0.018
(0.032)
0.027
(0.094)
-0.005
(0.012)
-0.006
(0.013)
0.011
(0.014)
-
-0.181
(0.445)
-0.163
(0.476)
-
-0.157
(1.756)
0.061
(2.531)
-
0.049
(0.545)
-0.181
(0.637)
0.104
(0.336)
-
-0.059
(0.343)
-1.392
(1.707)
-
1.346
(6.933)
0.283
(0.383)
-
-0.158
(0.290)
-0.542
(0.698)
-0.316
(0.653)
-0.321
(0.654)
1.901
(3.185)
1.610
(2.543)
-1.778
(9.361)
-0.229
(0.651)
-0.002
(0.652)
0.642
(0.885)
0.113
(0.359)
-0.034
(0.269)
-0.034
(0.270)
1.753
(2.220)
0.473
(1.464)
-1.162
(7.616)
0.173
(0.333)
-0.024
(0.312)
-1.067***
(0.381)
総資産(対数値)
(β 1 )
コール・ローン比
自己資本比率( β 4 )
不良債権比率( β 5 )
総資産(対数値)
×コールレート
( δ 11 )
コール・ローン比
率×コールレート
( δ 12 )
国債比率×コール
レート( δ 13 )
自己資本比率×
コールレート( δ
14 )
不良債権比率×
コールレート( δ
15 )
総資産(対数値)
×当座預金(対数
値)( δ 21 )
コール・ローン比
率×当座預金(対数
値)( δ 22 )
国債比率×当座預
金(対数値)( δ 23 )
自己資本比率×当
座預金(対数値)
( δ 24 )
不良債権比率×当
座預金(対数値)
( δ 25 )
-
-
-
0.581***
(0.039)
0.307***
(0.053)
0.304***
(0.053)
0.352
(0.500)
0.352
(0.580)
0.018
(1.206)
0.589***
(0.044)
0.315***
(0.069)
0.029
(0.066)
自由度修正済みR²
0.997
0.997
0.997
0.995
0.997
0.987
0.994
0.995
0.995
観測値数
1282
1098
1098
235
234
234
1066
891
758
総貸出(対数値)
(t-1)(κ )
(注1)説明変数は、1期ラグ値である。
(注2)( )内は、不均一分散一致標準誤差である。
(注3)***、**、*はそれぞれ有意水準1%、5%、10%で有意であることを示す。
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トの変化または中央銀行当座預金の増額を通じた効果が見られなかった(表 1(b)の第 8、9、10
列と表 2(b)第 2、3、4 列)。
また、銀行別からみた場合、量的緩和期間、金融政策の国際基準行を通じた効果が見られなかっ
たことに対し、金融政策が、不良債権比率(δ15 、δ25)、銀行規模δ21 およびコール・ローン比率
δ22 を通じ、国内基準行の与信行動に影響を与えていた可能性が示された(表 2(a)(b)の第 5 列
から第 10 列まで)。この結果は、国際基準行を通じる銀行貸出チャンネルが機能していなかったこ
とを意味し、また、国内基準行を通じる銀行貸出チャンネルの働きが比較的強かったことも意味し
ていると考えられる。
6.おわりに
本稿では、90 年代以降の金融緩和期における銀行貸出チャンネルの有効性を銀行別、および、
企業規模別に実証分析した。実証分析においては、貸出需要と貸出供給を識別するため、ミクロ
データを用い分析を行ない、また、銀行の貸出供給に影響する財務変数として、銀行規模、コー
ル・ローン比率、国債比率、自己資本比率、および、不良債権比率を用いた。さらに、金融政策手
段を表す変数として、コール・レートと中央銀行当座預金残高を同時に用いた。
分析の結果、90 年代以降の金融緩和期において銀行貸出チャンネルが存在していたことが示さ
れた。但し、中小企業向けの貸出に関しては、1996 年から 2000 年の超低金利期間においては、金
融政策が、国債比率、コール・ローン比率および自己資本比率を通じ、影響を与えていたことに対
し、1996 年以前の金融緩和期および 2001 年以降の量的緩和期間においては、金融政策の効果が見
られなかった。また、量的緩和政策において、想定されているポートフォリオ・リバランス効果が
表れていなかった可能性が示された。さらに、銀行別からみた場合、量的緩和期間、国際基準行を
通じる銀行貸出チャンネルが機能していなかったことが示される一方、国内基準行を通じる銀行貸
出チャンネルの働きが比較的強かった可能性が示された。
2013 年 4 月以降、日本銀行は、「量的・質的金融緩和政策」を行なっており、その効果の波及経
路の一つに、日本銀行によるリスク資産の買い入れを通じたポートフォリオ・リバランス効果を想
定している。本稿の分析結果は、近年の日本銀行の金融政策の効果を議論する上でも、一定のイン
プリケーションを与えると期待される。
しかしながら、本稿の分析には、いくつかの課題が残されている。例えば、本稿では、銀行貸出
チャンネルの不良債権比率を通じる効果に関しては、金融政策ショックに対する反応の大きさが、
金融引締期と緩和期とで対称的であることを想定し分析を行なったが、銀行のリスク回避度が変化
する場合には、反応が非対称的となる可能性もある。したがって、この点に関しては更なる検証が
必要となろう。また、本稿では、操作変数法を用いて推計を行なったが、GMM 推定を用い、本稿
の推計結果の頑健性を示す必要がある。
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〔論 文〕
大学生の内定獲得とインターンシップ経験のシグナリング効果*
Getting a Job Offer and the Signaling Effect of Internship Experience of
Undergraduate Students
平野 大昌**
Abstract
This paper analyses whether internship experiences of undergraduate students influence the chance of
getting a job offer. First, by theoretical consideration, we made the hypothesis that internship experiences of
students serve as a signal of their ability and, therefore, have the signaling effect on the probability of getting
a job offer. Second, we verified the hypothesis by empirical analysis using a questionnaire survey about
internship experiences of undergraduate students. In particular, using the information whether or not students
with internship experience conveyed their internship experience to firms during their job-hunting process, we
examined whether conveying internship experience has any impact on the probability of getting a job offer.
The results from probit analysis reveal that conveying internship experience to firms has a statistically
significant positive impact on the probability of getting a job offer. This suggests that internship experience of
students has the signaling effect on the chance of getting a job offer.
key words:Internship(インターンシップ)、Getting a Job Offer(内定獲得)、
Signaling effect(シグナリング効果)
1.はじめに
近年、在学期間中の学生を対象に就業体験の機会を与えるインターンシップ制を導入している企
業が多く存在する。日本経済団体連合会の『新卒者採用に関するアンケート調査』によれば、イン
ターンシップを受け入れている企業の割合は 2003 年度において、調査企業中 38.5%であったが、
2005 年度には、44.4%に増加している。さらに、調査対象企業の変更が行われたが、2006 年度は
53.6%、2007 年度では 60.6%へと増加し、2008 年度で 58.9%と若干減少したものの、調査企業の
半数以上がインターンシップ制度を導入している 1。
* 本稿は、著者の博士学位論文の一部を大幅に加筆・修正したものである。日本労務学会第 40 回全国大会で
報告の際、鈴木宏昌氏(早稲田大学名誉教授)および参加者から多くの有益なコメントをいただいた。また、
行本雅氏(京都大学)および本誌匿名レフェリーの方々からも有益なコメントをいただいた。さらに、本稿の
分析に当り、東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センター SSJ データアーカイブか
ら「インターンシップの実態に関するアンケート(寄託者 : 佐藤博樹)」の個票データの提供を受けた。記して
感謝したい。もちろん、本稿における誤りは全て筆者の責任である。
** Hirano, Daisuke、京都大学経済研究所附属先端政策分析研究センター研究員、Researcher of the Research
Center for Advanced Policy Studies, Institute of Economic Research, Kyoto University(Yoshida Honmachi, Sakyo-ku,
Kyoto 606-8501), Email:[email protected]
1 2009 年度および 2010 年度の数値に関しては、調査または公表されていないため不明。2011 年度に関しては、
48.3%と大きく減少している。このような減少の要因の一つとしては、東日本大震災の影響が考えられる。また、
2012 年度に関しては、58.5%であり、2008 年度と近い割合である。
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また、学生のインターンシップ参加を支援する大学も増加しており、インターンシップへの参加
が授業科目として単位認定されるケースが多くなっている。実際に、文部科学省が実施した『大学
等におけるインターンシップ実施状況調査』によると、大学における単位認定科目としてのイン
ターシップ実施率は年々増加している 2。具体的には、2003 年度以降では、50%を超えて推移して
おり、2007 年度に至っては、67.7%に達している 3。このように、企業と大学双方においてインター
ンシップが浸透してきている。
以上のようなインターンシップ実施の増加が見られる中、就職活動に生かす目的で、インターン
シップへ参加する学生が存在する。インターンシップ推進のための調査研究委員会が 2004 年に実
施した『インターンシップの実態に関するアンケート』によれば、インターンシップへの参加目的
として「就職活動全般に役立ちそうなので体験したい」と回答した学生は調査大学生の内 67.2%に
上る 4。これは、インターンシップの参加目的の中で、「働くことがどういうものかを体験したい」
(80.3%)に次いで多い。また、「インターンシップ参加先企業からの内定獲得に役立ちそうなので
体験したい」という、インターンシップ先企業の内定獲得に的を絞った目的の学生が 13.9%となっ
ている。このことから、実際にインターンシップを行う学生は、就職に対するインターンシップ経
験の影響を少なからず期待していると考えられる。つまり、学生にとって、インターンシップへの
参加は内定獲得に対して効果を持つものとして行われていることが窺える。
それでは、インターンシップへの参加経験は、採用活動に内定獲得の観点からどのような効果を
持つのであろうか。そして、学生が期待するような内定獲得に影響を及ぼすのであろうか。このよ
うな疑問が生じる一方で、これまでインターンシップ経験が内定獲得に対して、どのような影響を
及ぼすのかについて、直接的に検証されてこなかったように思われる。そこで、本稿では、就職活
動における、学生のインターンシップ経験と内定獲得との関係を分析することによって、この疑問
に対する一つの答えを導き出したい。具体的には、まずインターンシップが内定獲得に与える影響
が経済学理論を基にどのような解釈ができるのかを考察する。次に、そこから得られた仮説を基
に、実証分析を行うことによって、インターンシップの効果の有無を考察する。
一方、1997 年の文部省、通商産業省、労働省の三省合意による共同声明では、インターンシッ
プを「学生が在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行うこと」と定義してい
る。この声明によると、インターンシップは就業体験を通して、将来的な職業や仕事に対する認識
を深めるためのものである。したがって、本来の定義に立ち返れば、インターンシップは就業体験
を通した職業・職種に対する適性の見極めや就業意識の向上であり、その目的は企業からの内定を
得るためだけではない。しかし、学生は少しでも内定獲得に役立つと考えれば、インターンシップ
の参加を行うであろう。つまり、内定獲得とインターンシップの関係は、切り離せない問題であ
り、検証すべきトピックであると考えられる。また、今後、学生の就職の観点から、望ましいイン
ターンシップのあり方について考える際の一つの判断材料になると考えられる。そこで、本稿で
2 この文部科学省の調査におけるインターンシップは、
「学生が在学中に、企業等において自らの専攻や将来の
キャリアに関連した就業体験を行うことをいう。」と定義されている。また、この調査において、インターンシッ
プは大学(大学院を含む)において単位認定を行う授業科目として実施されているものを指している。さらに、
教育実習・医療実習・看護実習等特定の資格取得を目的として実施されているものは除外されている。
3 2008 年度から 2010 年度の状況に関しては公表されていない。また、
2011 年度では同定義によるインターンシッ
プ実施率は 70.5%に上昇している。
4 詳しくは、東京大学社会科学研究所人材ビジネス研究寄付研究部門ホームページに掲載の『
「インターンシッ
プの実態に関するアンケート」単純集計結果』を参照。また、当該質問項目は、複数選択可能である。
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は、インターンシップ経験が内定獲得の確率を高めるのかどうかに焦点を当て、その効果の有無を
検討したい。
なお、教育実習・医療実習・看護実習等特定の資格取得を目的として実施されているものは、就
業体験といった意味でのインターンシップとは異なるため、本稿ではそれらのインターンシップは
除外して考える。また、大学の講義として実施されているインターンシップだけではなく、企業が
大学を介さずに実施しているインターンシップ等を含むより広い範囲のインターンシップを対象と
して分析を進める。
2.理論的検討
インターンシップ経験がどのようにして、学生の就職に影響を及ぼすと考えられるであろうか。
本節では、インターンシップと内定獲得に対する関係を経済学理論の視点から検討する。
2.1 人的資本論
人的資本論では、大学進学等の教育投資や職業訓練などの人的資本投資により、人的資本蓄積が
なされ、個人の生産性が上昇すると考える。その結果として、生産性の上昇が個人の賃金格差等を
生み出すというものである 5。
人的資本の観点から、インターンシップ経験が就職活動に与える効果を検討すると、インターン
シップは学生に対する教育の一つである。つまり、学生自身の教育投資の一つだと考えることがで
きる。他方、就業体験という特性上、事前の職業訓練の一種とも捉えることができる。どちらの捉
え方にせよ、インターンシップは人的資本投資の一つだと考えることができる。よって、インター
ンシップを通して得られた知識やスキルは、人的資本の蓄積となり、学生の生産性が向上すると考
えられる。その結果、インターンシップによる就業体験は、他の学生との間に生産性の差をもたら
すと考えられる。そうであるならば、企業は生産性のより高い学生を雇おうと考えるので、イン
ターンシップを経験した学生はそうでない学生に比べて、優先的に雇われる可能性がある。した
がって、インターンシップを経験した学生の就業機会が増え、結果的にインターンシップへの参加
は内定獲得確率を上昇させる効果を持つであろう。
2.2 シグナリング理論
人的資本の考え方と同じく、教育と生産性に関する理論として、Spence(1973)に代表されるシ
グナリング理論がある。シグナリング理論では、教育水準は個人の生産性の高さを表すシグナルと
して機能する。この時、教育水準は直接的に生産性の向上をもたらすというより、個人が本来持っ
ている能力に関する情報を伝達するものであると仮定する。また、シグナリング理論では、次のよ
うな状況を想定している。応募者の能力および生産性の差は企業にとって知ることはできない。言
い換えると、採用するかの否かの判断において、企業は応募者である学生のスキルといった生産性
に関する真の情報を知ることができない 6。つまり、企業と学生との間に情報の非対称性が存在する。
5 教育投資に関する人的資本論および後述のシグナリング理論のより詳しい解説や両理論のこれまでの先行研
究のサーベイについては、荒井(1995)を参照。
6 採用時に生産性を調べることも可能であると考えられるが、シグナリング理論では採用コストが高くなって
しまうため、そのような行動は行われないと仮定されている。また、現実を考えた時、企業が応募者一人一人に、
より多くの採用コストをかけることは、非効率であり、かつ困難であると考えられる。
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表1 単位認定を行う授業科目として実施されたインターンシップを体験した大学生の推移
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2011
年度
インターンシップ体験者数(人)
30222
34125
39010
42454
50430
49726
62561
総大学生数(人)
2786032
2803980
2809295
2865051
2859212
2828708
2893489
1.08
1.22
1.39
1.48
1.76
1.76
2.16
インターンシップ体験者割合(%)
出所:文部科学省実施の『大学等におけるインターンシップ実施状況調査について』および『学校基本調査』から筆者が作成。
注1:文部科学省の調査によるインターンシップは、単位認定を行う授業科目として実施されているインターンシップである。
また、教育実習・医療実習・看護実習等特定の資格取得を目的として実施するものは調査においては除外されている。そのた
め、その他の経路でインターンシップを体験した大学生の数は含まれない。
注 2:2008年度から2010年度まではインターンシップに関して調査が公表されていないためデータ無し。
注 3:
(インターンシップ体験者割合)
=
(インターンシップ体験者数)
/
(総大学生数)
注 4:インターンシップ体験者数および総大学生数には、大学院生を含む。
注 5:括弧内は単位。
そこで、情報を持つ個人は企業に自らの能力をアピールするために高い教育水準を獲得しようとす
る。そして、情報を持たない企業は学歴などを生産性の高さを示すシグナルとして捉え、それに基
づいて応募者に対する評価および選別を行う。これは、企業が学歴と個人の能力との間に何らかの
正の相関があると考えるからである 7。
それでは、シグナリング理論において、インターンシップはどのように解釈することができるだ
ろうか。ここで、授業科目としてインターンシップに参加した経験がある大学生と総大学生数の推
移を示した表 1 を見ると、2002 年から 2011 年にかけて、授業科目としてインターンシップ体験者
の割合が漸次増加しているが、その割合は 2011 年度で約 2.2%であり、授業科目としてインターン
シップに参加した学生は非常に少ない。一方、上述のように『大学等におけるインターンシップ実
施調査』において、約 7 割の大学がインターンにシップを授業科目として導入している。このよう
に、大学単位でのインターンシップ導入が進んでいるが、学生単位で見ると、それほど普及してい
ない。他方、『就職白書 2013 ~インターンシップ編~』(リクルートキャリア)から、インターン
シップが授業科目に限定されていない調査結果を見ると、民間企業を対象に就職活動を行った全国
の大学 4 年生・大学院 2 年生における 1 月時点のインターンシップ参加状況は、2012 年卒は
22.5%、2013 年卒では 17.4%と、参加率は 3 割にも満たない。これらからわかることは、インター
ンシップが普及しているとは言え、インターンシップに参加する学生は一部に限られているという
ことである。このような状況が生まれる一つの大きな理由は、インターンシップへの参加が学生の
意思によって決定することである。つまり、インターンシップは、必修の授業科目等で強制されな
い限りは、参加するか否かの判断は学生の自主性に委ねられることになる。したがって、義務では
ないインターンシップに自ら進んで参加する学生は、他の学生と比べて物事に対する積極性や行動
力が高い可能性がある。また、インターンシップを通して、就業体験をしてみたいと思う学生は、
もともと就業意識が高いとも考えられる。行動力や積極性、就業意識といった事項が採用において
企業の判断基準となっているのならば、インターンシップ経験は学生のそのような精神面を表す一
つのシグナルとなり得るだろう 8。前出の『インターンシップの実態に関するアンケート』の企業調
7 教育が持つシグナリング機能については、
「スクリーニング仮説」と呼ばれることもある。スクリーニングと
いう言葉は、かつてシグナリングと同様の意味でつかわれることがあったが、Stiglitz and Weiss(1990)で整理
されているように、現在では理論的に区別されており、本稿では用語としての混同を避けるために、スクリー
ニングという言葉は用いない。なお、スクリーニング理論では、学生の自己選抜(self-selection)を促すために、
企業が何らかの方法でインターンシップ経験を応募(または採用)条件として提示する状況を想定することに
なるが、他社のインターンシップ経験まで応募条件とするとは考え難いため、本稿ではスクリーニング理論に
基づいた検討は行わない。
8 厳密なシグナリング理論の仮定については省略したが、Spence が提示したシグナリング理論において、生産
性の高い労働者は低い労働者に比べ、教育投資のコストが低いため、より多くの教育投資を行うと仮定する。
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査では、「貴社では、新規学卒者の募集・採用の際にインターンシップ参加経験(貴社以外も含む)
の有無を確認していますか」という設問に対して、8.1%の企業が「確認している」と回答してい
るが、その割合は少ないと言える。また、「ケースバイケースである」と回答した企業は 21.9% で
ある。両回答をあわせたとしても 30% である。しかし、その企業の内、「インターンシップ参加経
験(貴社以外も含む)がある学生は、ない学生に比べて就業意識が高い場合が多いですか」という
設問に対して、「多いと思う」と答えた企業は 56.5% に及び、インターンシップ参加経験を確認し
た企業の半数以上が、インターンシップ参加経験を持つ学生の就業意識が高いと考えている。した
がって、この調査におけるおよそ 15%の企業はインターンシップ経験を持つ学生は就業意識が高
いと評価しているということである。企業によってこのような評価がなされるならば、インターン
シップ経験を持つ学生を採用する可能性が高くなると考えられる。
2.3 仮説の検討
ここまで、人的資本論とシグナリング理論の観点から、インターンシップ経験が内定獲得に与え
る影響を考察したが、内定獲得へのインターンシップの効果を考えるうえで、どちらがより説得力
を持つだろうか。企業が自ら実施したインターンシップに参加した学生を採用する場合、実習内容
に対する学生の対応力といった能力を実際に知ることができる。一方、他社のインターンシップに
参加した学生に対しては、そのような情報を得ることはできない。つまり、企業はインターンシッ
プを経験したことの情報を得られたとしても、その詳しい内容や、学生自身の達成度といった情報
は正確に捉えることはできない。このような状況では、インターンシップ経験が内定獲得与える影
響としては、シグナリング効果の方が強いのではないだろうか。
また、以下のような点から、人的資本蓄積による効果の存在には、疑問の余地が残る。まず、イ
ンターンシップで行われる実習内容は、実務的な業務実習や企業の説明や見学といったものにとど
まる実習など、様々なタイプが存在している点である。インターンシップにおいて実務的な業務を
行う場合は、就業体験を通して、人的資本蓄積が行われると考えることができるが、単なる企業説
明会として行われる場合、そのような人的資本蓄積がなされるとは考え難い。したがって、イン
ターンシップが生産性の向上に寄与し、内定獲得確率を上昇させるとは必ずしも言えない。次に、
大学生が体験するインターンシップの実習期間は一般的に短い点である。前出の『大学等における
インターンシップ実施状況調査』の平成 19 年度調査によれば、大学でのインターンシップにおい
て、最も多い実施期間は、「1 週間~ 2 週間未満」であり、体験学生の構成比は 50.7%にも及ぶ。
次いで、「2 週間~ 3 週間未満」が 25.5%、「1 週間未満」が 12.4%となっている。このことからも
わかるように、大学生のインターンシップ体験期間は 1 ヶ月にも満たない。このような状況から、
インターンシップを通して、短期間の間に、労働生産性の向上に寄与するようなスキルを得ること
には疑問が残る。さらには、生産性の向上がなされる場合でも、情報の非対称性が発生する限り、
少なくとも採用段階において、それを知ることは困難であると思われる。
これらの理由から、内定獲得に与えるインターンシップの効果について、シグナリング理論の考
え方はより自然であると思われる。そこで、本稿では内定獲得に対してインターンシップ経験はシ
この仮定に照らし合わせると、学生の積極性や就業意識の高さは、インターンシップに参加することへの精神
的なコストが低いことを表すと考えられる。つまり、積極性等を学生の能力とすると、生産性の高い学生ほど、
インターンシップに参加しやすいと考えることができる。このような捉え方をすれば、精神的なコストの面か
ら見て、インターンシップ参加経験は個人の能力のシグナルになり得る。
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グナリング効果を持つという仮説を立て、その検証を行う 9。
3.先行研究
本節では、計量分析を行う前に、先行研究を概観することにより、インターンシップ経験がシグ
ナリング効果を持つ可能性を検討し、かつ本研究の位置づけを検討する。
既存の研究では、インターンシップへの参加による職業意識や就業意識等の心理的変化に着目し
た分析は比較的多くなされてきた。例えば、浅海(2007)では、インターンシップにおいて OJT
型の実習を体験した学生は働くことのイメージが得られたり、適性や興味が明確になったりするも
のが多いと述べている。また、松山・飛田(2008)では、職業意識を高めるためには、実際に仕事
を体験する実務型のインターンシップが効果的であることを明らかにしている。このように、過去
の研究において、実務的なインターンシップを経験することによって、学生の就業・職業に対する
意識が高まることが明らかになっている。前節において、インターンシップ経験が就業意識の高さ
を表すシグナルとなり得る可能性について言及したが、実際にインターンシップを経験した学生は
就業意識が高い可能性が示唆される 10。また、そのようなことを企業が認識していれば、インター
ンシップ経験を就業意識の高さを表すシグナルと見なすかもしれない。ただし、これらの研究で
は、インターンシップ経験が心理面に与える効果を検証するにとどまっており、就職活動への効果
を直接分析したものではない。
それでは、先行研究においてインターンシップと学生の就職活動や企業の採用活動について、ど
のようなことが明らかになってきたのだろうか。まず、佐藤 ・ 堀 ・ 堀田(2006)では、本稿と同様
のデータを用いて、インターンシップに関する包括的な分析を行っている 11。その中から、本稿と
関連する箇所を見ると、インターンシップ経験が就職活動に及ぼした影響を学生に多重回答で尋ね
た結果、インターンシップ先以外の企業で有利になったと思うという回答が 40%ほどあることが
示されている。この結果は、インターンシップ経験が就職活動に役立つことを示唆している。ただ
し、これは学生自身の感想であり、インターンシップと内定獲得の関係を直接検証しているわけで
はない。一方、本稿では学生が内定を獲得したかという情報を基に分析を行うことにより、その関
係を直接的に検証する。
次に、小杉(2007)では、採用時に最も多くの企業が評価するのは、「 行動力・前に踏み出す力
のある 」「協調性やバランス感覚のある、チームで働く力のある」人材であるとしている。また、
インターンシップや企業実習を実施する大学に内定獲得者が多く、内定獲得者の特徴として、大学
の成績がよいこと、アルバイトおよびインターンシップに熱心なことをあげている。そして、それ
らの活動に熱心であることが内定獲得に結びつくのは、「人柄や個性」と表現される企業の採用用
件に対応した能力獲得の過程が含まれていることが示唆されると考察している。この研究を踏まえ
9 本稿ではシグナリング効果に焦点を当て分析を進めるが、必ずしもインターンシップによって人的資本蓄積
がなされないと主張しているわけではない。あくまでも採用までの過程では、インターンシップによる人的資
本蓄積を評価するのは困難であるということであって、採用後は採用者の働きぶりを観察できるので、人的資
本蓄積を評価することは可能であり、その結果賃金等が上昇する可能性は否定できない。
10 一方で、実務的な実習による就業・職業に対する意識の高まりは、人的資本蓄積の一つとも捉えることもで
きる。このような影響も考慮し、次節では実習内容をコントロールした分析を行っている。
11 佐藤 ・ 堀 ・ 堀田(2006)では、主に学生のキャリア教育またはインターンシップを実施する企業の社員教育
として、望ましいインターンシップはどのようのものであるかを分析している。主要な結果として、参加した
学生の満足度が高いインターンシップの仕組みと、企業やその指導担当者がインターンシップ制度にメリット
があると評価するインターンシップの仕組みには、共通する部分が多いことを明らかにしている。
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ると、インターンシップは学生が自主的に参加の有無を決定するので、インターンシップを経験し
ているということは、企業にとってその学生の行動力を示すシグナルとして評価される可能性があ
る。また、企業にとって、インターンシップ経験が学生の「人柄や個性」を表すものであるなら
ば、インターンシップ経験に一定の評価を与える可能性がある。
最後に、海外の研究に目を移すと、Knouse et al.(1999)の分析では、インターンシップに参加
した学生は、卒業後早い段階で、職を見つけることができることを示している。また、Sagen et al.
(2000)においても、インターンシップ経験によって、卒業後 2 ヶ月以内に学士号に見合った職を
確保する確率が高くなることが示されている。さらに、Gault et al.(2000)において、インターン
シップを経験した学生は未経験者に比べて、卒業後早期に初職を見つけることができることが示さ
れている 12。ただし、これらの研究は、シグナリング効果を検証したものではない。また、インター
ンシップの実施体制や労働市場は、海外と日本とでは異なっているため、日本においても先行研究
に見られたような影響が必ずしもあるとは限らない。
以上のように先行研究の知見を考察した結果からもインターンシップ経験がシグナリング効果を
持つ可能性はあると考えられる。また、これまで日本の既存研究では、インターンシップ経験と内
定獲得が必ずしも直接的に分析されていない。そのため、包括的なインターンシップの効果を検討
するために、インターンシップ経験が内定獲得に与える影響をシグナリングの視点から分析するこ
とは重要である。そこで、インターンシップ経験がシグナリング効果を持ち内定獲得確率を上昇さ
せるのかを次節で計量的に分析する。
4.データおよび推定について
本稿で使用するデータは、インターンシップ推進のための調査委員会において 2004 年 10 月に実
施された、『インターンシップの実態に関するアンケート』である。この調査では、大学調査、学
生調査、企業調査、当該企業における指導担当者調査の 4 つの調査が行われている。本稿では、そ
の中の学生調査を使用する。
学生に対する調査は、郵送調査と Web 調査によって行われている。まず、郵送調査に関しては、
大学調査の調査対象 50 校の学部生 1500 人を対象としており、その調査対象大学が、インターン
シップに参加した学部生 30 名を選び、調査書を配布している。また、その対象になる学生は、「過
去 1 年間に(インターンシップ)参加経験があること」、「4 年生を中心に」、「男女のバランスはな
るべく平等に」、「様々なプログラムの参加者を対象に」という優先順位で選ばれている。一方、
Web 調査に関しては、インターンシップ支援情報サイトが、インターンシップ参加経験者に、イ
ンターネット上の調査票で回答させている。
調査の回収数に関しては、郵送調査に関しては、1500 人中 594 で、回収率 39.6%となっている。
一方、Web 調査に関しては、回収数は 308 である。2 つの調査をあわせると、サンプル数は 902 で
ある。ここで、留意すべき点は、サンプリングの前提上サンプル学生の全てがインターンシップ参
加経験を持っているということである 13。したがって、全てのサンプルがインターンシップ経験者
であり、インターンシップ経験がないサンプルとの比較を行うことはできない。しかし、本稿の目
12 しかし、分析の対象がビジネス系専攻の学生のみであるため、必ずしも全分野の学生について言えることで
はない。
13 サンプル 902 人中 30 人がインターンシップ参加経験を持たないが、それらのサンプルは就職活動に関する
質問がなされていないので、分析の際、使用することができなかった。
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的であるインターンシップ経験のシグナリング効果を検証するために必要な情報が得られる稀有な
データであるため、このデータを使用する。さらに、後述のように、そのようなデータの制約が
あっても、データの特性上、シグナリング効果を推定する際に大きな問題とはならず、むしろシグ
ナリング効果をより適切に推定することができるという利点がある。また、学生が参加したイン
ターンシップは大学の授業科目として実施されたもの以外のインターンシップも含むため、全般的
なインターンシップのシグナリング効果を検証することになる。
なお、内定獲得に関する分析は、就職活動期である 4 年生の学生でかつ就職活動を行ったサンプ
ルに限定して分析を行う。本データにおいて、就業活動の有無がわかる 4 年生の 309 サンプルの
内、265 サンプル 14 が、就職活動を行っている。
次に、具体的に使用する変数を説明する。まず、被説明変数に関して、調査時期(10 月 15 日~
11 月 15 日)までに内定を獲得しているかどうかを表すダミー変数を用いる。設問では、就職活動
を行った学生に対して、「インターンシップ先の企業から内定を得た」、「インターンシップ先以外
の企業から内定を得た」、「内定は得られなかった」の 3 つの選択肢から一つを選択するようになっ
ている。したがって、「インターンシップ先の企業から内定を得た」を選択したサンプルに関して
は、インターンシップ先以外の企業から内定を得ているかどうかは判断することはできない。ま
た、インターンシップ先で内定を獲得したサンプルに関して、インターンシップ先の企業は学生が
インターンシップに参加したことを既に知っているため、学生がインターンシップ経験に関する情
報を提示しない可能性や、インターンシップ先で内定を得やすい可能性があるため、インターン
シップ先で内定を獲得したサンプルを除いた分析も行い結果に変化がないか確認する。
説明変数に関しては、「あなたはインターンシップの経験を就職活動にアピールしましたか」と
いう設問に対して、
「積極的にアピールした」、
「特にアピールしていないが、聞かれたから答えた」、
「敢えてアピールしなかった」の選択肢の中から該当するどれか一つを答えることになっている。
この設問を利用してインターンシップのアピールに関する変数を作成した。具体的には、「積極的
にアピールした」または「特にアピールしていないが、聞かれたから答えた」のどちらかに該当す
る場合 1、それ以外を 0 とするダミー変数を「インターンシップ経験アピール」とした。また、
「積
極的にアピールした」に該当する場合 1、該当しない場合 0 をとるダミー変数を「積極的アピール」
とし、「特にアピールしていないが、聞かれたから答えた」に該当する場合 1、該当しない場合 0
をとるダミー変数を「消極的アピール」とした。これらの変数を用いて、インターンシップ経験が
内定獲得に影響を与えるのかを分析する。
設問からわかるように、本稿で使用するデータは全学生がインターンシップの経験を持つ一方
で、全ての学生が就職活動時に、インターンシップ経験をアピールしているわけではない。した
がって、これらの変数は、インターンシップ経験を持った学生が、その経験を企業に対してアピー
ルしたか否かを表していることになる。そのため、インターンシップの経験を持つことによる効果
ではなく、アピールによってインターンシップ経験に関する情報を企業に伝えたかどうかを表す変
数となっている。つまり、本稿で使用する変数の係数からは、インターンシップ経験そのものでな
く、その情報を企業側に伝えたことによって、内定獲得にどのような効果をもたらすのかを見るこ
14 残りの 44 サンプルの内、8 サンプルは無回答。また、就職活動をしなかったと回答した 36 サンプルにつ
いて、卒業後の進路に関する設問を見ると、その半数以上が「進学・留学する」(55%)である。ただし、「イ
ンターンシップ先に就職する」や「インターンシップ先以外に就職する」と答えているサンプルも存在するが
(それぞれサンプル数が 1 と 5)、どのような状況を表しているかは不明であり、かつ内定に関する情報は得ら
れないため分析では使用しない。
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表2 記述統計量
全サンプル
変数名
サンプル数 平均
内定獲得
232
0.836
インターンシップ経験アピール
232
0.884
積極的アピール
232
0.478
消極的アピール
232
0.405
実習内容
基幹的業務
232
0.457
補助的業務
232
0.560
アルバイト・パート業務
232
0.220
一定の課題
232
0.358
社員の業務に同行
232
0.582
業務の見学
232
0.461
インターンシップ参加日数(単位:日)
232
11.72
大学の設置区分
国公立(基準)
232
0.142
私立
232
0.858
大学の創立年
1950年以前
232
0.866
1950年以降(基準)
232
0.134
学部
文学・社会科学系(基準)
232
0.772
理系
232
0.228
女性
232
0.586
インターンシップ先企業への
内定者を除く
標準偏差 サンプル数 平均 標準偏差
0.371
220
0.827
0.379
0.321
220
0.877
0.329
0.501
220
0.482
0.501
0.492
220
0.395
0.490
0.499
0.497
0.415
0.480
0.494
0.500
4.87
220
220
220
220
220
220
220
0.473
0.568
0.232
0.350
0.586
0.459
11.65
0.500
0.496
0.423
0.478
0.494
0.499
4.76
0.350
0.350
220
220
0.150
0.850
0.358
0.358
0.341
0.341
220
220
0.864
0.136
0.344
0.344
0.421
0.421
0.494
220
220
220
0.782
0.218
0.595
0.414
0.414
0.492
注1: 変数は「インターンシップ参加日数」を除き全てダミー変数。
注2:「インターンシップ参加日数」の最小値は1、最大値は30。
とができる。現実的にも、インターンシップ経験は学生が入社試験におけるエントリーシートや面
接等でアピールする、または企業側からそのことを何らかの形で尋ねられない限り、インターン
シップ経験のシグナリング効果は顕在化しないであろう。また、インターンシップ経験が所与と
なっているため、インターンシップに参加する学生ほど、内定を獲得しやすいといった内生性の問
題は生じない。さらに、インターンシップ参加による人的資本蓄積がなされていたとしても、イン
ターンシップ経験が所与であるため、その効果はある程度コントロールされる。このように、本稿
で使用するデータでは、インターンシップ経験の効果がアピールによって企業側に伝えるかのみに
依存しているため、インターンシップ経験のシグナリング効果を適切に推定することが可能であ
る 15。
他方、インターンシップの実習内容に関する変数を用いて、どのような内容のインターンシップ
経験が内定獲得に影響を与えるのかを見る。本稿の計量分析では、インターンシップのシグナリン
グ効果の検証を目的としているが、もしインターンシップによって、人的資本の蓄積が行われるの
であれば、実務的な実習内容を経験した学生の方がその蓄積度は高い可能性はある。この可能性を
考慮するために、実習内容に関する変数を追加する。そのような違いがあるならば、実習内容をコ
15 その他に、後述の単純なプロビット・モデルによる推定では、次のような内生性の存在も懸念される。それは、
インターンシップ経験をアピールすることと、観測することができない能力の間に相関があり、インターンシッ
プ経験をアピールすることによる効果にバイアスがかかる可能性である。例えば、インターンシップ経験をア
ピールするか否かではなく、自己アピール力を表している可能性がある。つまり、自己アピール力が高い学生
がインターンシップ経験をアピールする傾向があり、結果としてインターンシップ経験のアピールが学生のア
ピール力の代理変数になっている可能性がある。しかし、少なくとも消極的アピールの場合、企業側から聞か
れてから情報を提示しているため、アピールの決定は自分の意志と関係なく外生的であると考えられる。
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ントロールすることによって、インターンシップ経験のシグナリング効果をより正確に推定できる
と考えられる。使用する変数に関しては、「(インターンシップ参加企業先での)実習内容はどのよ
うなものでしたか」という設問において、「社員の基幹的な業務の一部を体験した」(以下、基幹的
業務)、
「社員の補助的な業務の一部を体験した」(以下、補助的業務)、「アルバイトやパートが従
事している業務の一部を体験した」(以下、アルバイト・パート業務)、「通常の業務とは別に与え
られた一定の課題に取り組んだ」(以下、一定の課題)、「仕事をしている社員の業務に同席・同行
した」(以下、社員の業務に同行)、「職場や工場の業務を見学した」(以下、業務の見学)という 6
つの選択肢(複数選択可能)の中でそれぞれ該当すれば 1 をとるダミー変数とした。
さらに、インターンシップの参加日数も推定式に含める。前述のように、日本におけるインター
ンシップの実施期間は短く、人的資本の蓄積がなされるとは考え難い。しかし、実習期間が長い場
合、人的資本蓄積がなされる可能性がある。そのため、参加日数を推定式に加えることによって、
その可能性を考慮する。表 2 の記述統計量を 見てわかるように、本稿のデータによる参加日数も
平均的に 2 週間程度である。ただし、ここで留意すべき点は、本稿で使用するデータにおいて、参
加日数が 30 日を超えたサンプルについては、全て内定を獲得していることである。したがって、
それらのサンプルを推定に含めると、推定結果にバイアスが生じる可能性がある。その可能性を排
除するために、それらのサンプルを推定から除外している。そのため、ここでの参加日数は 30 日
以内に制限されている 16, 17。
なお、実習内容と参加日数に関しては、インターンシップに参加した企業の中で、最も印象的な
1 社のものであることを留意しなければならない。しかし、就職活動を行った学生の平均参加企業
数は 1.2 社であり、ほとんどの学生がインターンシップに参加した企業は 1 社である 18。
その他、個人属性に関するコントロール変数として、大学の設置区分(国公立、私立)、大学の
創立年(1950 年以前、1950 年以降)、学部(人文科学・社会科学の文系、理学・工学系などの理
系)、性別(女性)、それぞれに関するダミー変数を用いる。
最後に、推定方法に関しては、被説明変数がダミー変数であるため、プロビット・モデルを用い
た回帰分析を行う。また、推定には上述の変数が全て利用可能なサンプルのみを使用した。使用し
た変数の記述統計量は表 2 でまとめられている。
16 就職活動を行った全サンプルの平均も 14.5 日であり、2 週間程度である。また、参加日数が 31 日以上のサ
ンプルを含めて、平均参加日数の 14 日よりも長いか否かを表すダミー変数を加えた推定も行った。しかし、統
計的に有意な結果とはならなかった。加えて、参加日数を 7 日以内(基準)、8 ~ 14 日、15 日以上に分けた変
数を用いて、推定を行ったが、15 日以上が一部有意となる場合もあったが、頑健な結果は得られなかった。なお、
サンプルを 30 日以内に限定した場合、有意な結果は得られなかった。
17 その他のインターンシップに関する要因として、内定をもらった企業における職種と学生のインターンシッ
プ先での職種が一致していたため、内定を獲得しやすいかった可能性が考えられる。このような可能性を考慮
するために、職種に関するダミー変数を加えて推定を行った。アンケートでは、「研究開発」や「営業」等、ど
この部署でインターンシップ体験をしたかが複数回答で質問されている。この設問から、職種に関するダミー
変数を作成し、推定を行ったが、ほとんどの結果で、どの職種も統計的に有意な影響は見られなかった。また、
一部の結果では有意な結果になる職種があったが、推定によっては有意ではなくなり、頑健な結果は得られな
かった。さらに、それらの変数を加えても「インターンシップ経験アピール」の効果に対して大きな変化は見
られなかった。本稿では推定結果の煩雑さを避けるため、それらの変数を加えた結果は割愛している。
18 なお、説明変数の一つとして参加企業数を加えて推定を行ったが、統計的に有意な結果は得られなかった。
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5.推定結果
内定獲得とインターンシップ経験のアピールに関するプロビット ・ モデルを用いた推定結果は、
表 3 で示している。まず、(1-1)式より、インターンシップ経験のアピールが積極的か消極的かを
考慮しない場合の結果を見ると、インターンシップ経験のアピールに関しては、係数がプラスの統
計的に有意な値をとっている。したがって、就職活動期にインターンシップ経験をアピールするこ
とは、内定獲得確率を上昇させる効果を持っていることになる。さらに、
(1-2)式より、インター
ンシップ経験のアピールを積極的と消極的に分けた場合の結果を見ると、どちらのアピールも、有
意なプラスの値をとっていることがわかる。よって、自ら積極的にインターンシップ経験をアピー
ルした場合だけでなく、企業側から聞かれた場合でも、インターンシップ経験のアピールが内定獲
得に効果を持つ 19。また、インターンシップ先で内定を獲得したサンプルを除いた場合も同様の結
果となっている((2-1)式および(2-2)式参照)。これらの結果から、インターンシップ経験が企
業側に伝わることにより、内定獲得確率が上昇すると考えられる。
次に、内定獲得とインターンシップ参加時の実習内容との関係に関する推定結果を(1-3)式で
見ると、内定獲得に対して、「アルバイト・パート業務」を除く全ての実習内容が有意な値をとっ
ていないことがわかる。「アルバイト・パート業務」は有意な値をとっているものの、その係数は
マイナスであり、内定獲得確率を下げる結果となっている。しかし、Wald 統計量より、全ての係
数が 0 であるという帰無仮説を棄却することができず、明確な影響は確認できない。また、(2-3)
式でも同様の結果となっており、インターンシップ先で内定を獲得したサンプルを除いた場合も、
影響は確認できなかった。
さらに、(1-4)より、インターンシップ経験のアピールと実習内容を同時に推定式に加えた推定
結果を見る。それぞれの推定式における、有意性と係数の符号は、インターンシップ経験のアピー
ルと実習内容を別々に入れた推定式の結果と変化がないことがわかる。つまり、実習内容を考慮し
ても、インターンシップ経験のアピールは内定獲得にプラスの効果を持っている。また、(1-5)式
において、積極的か消極的かを分けた場合においても、有意な結果となっている。ただし、(2-4)、
(2-5)式では、Wald 統計量から、全ての係数が 0 であるという帰無仮説を棄却することができな
かった。
最後に、インターンシップ参加日数は全ての推定において、有意な結果とはなっておらず、内定
獲得率に影響を与えていない。また、他の変数に関して見ると、全ての推定式を通して、大学の創
立が 1950 年以前の場合、有意なプラスの値をとっている。創立が 1950 年以前の大学は、いわゆる
旧帝国大学や、その他私立名門校であると考えられるため、そのような名門大学の出身者は、内定
獲得確率が上昇すると考えられる 20。
以上の推定結果より、インターンシップ経験をアピールすることは、内定獲得確率を上昇させる
効果を持つことが示唆される。さらに、自ら積極的にアピールする、聞かれたので答えるという消
極的なアピールのどちらの場合でもインターンシップ経験をアピールすることによって、内定獲得
確率が上昇することがわかった。一方、インターンシップの実習内容は、内定獲得に少なくともプ
19 どちらのアピールでも内定確率にプラスの影響を持つが、積極的アピールに比べ消極的アピールの方が見か
け上は限界効果の値が大きい(表 3 の[ ]内の値を参照)。そこで、両変数の限界効果に差があるのかを検定
したが、統計的に有意な差は見られなかった。
20 なお、
「大学創立年 1950 年以前」を除いた推定を行っても、インターンシップ経験アピールに関する変数の
符号や有意性には大きな変化は見られなかった。
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表3 内定獲得に関する推定結果(プロビット・モデル)
インターンシップ経験アピール
(1-1)
0.645**
(0.279)
[0.186]
(1-2)
全サンプル
(1-3)
(1-4)
0.585**
(0.290)
[0.163]
(1-5)
インターンシップ先企業への内定者を除く
(2-1)
(2-2)
(2-3)
(2-4)
(2-5)
0.610**
0.560*
(0.279)
(0.289)
[0.180]
[0.160]
積極的アピール
0.590**
(0.294)
[0.174]
0.520*
(0.312)
[0.149]
0.558*
(0.295)
[0.167]
0.493
(0.312)
[0.145]
消極的アピール
0.708**
(0.311)
[0.199]
0.657**
(0.315)
[0.177]
0.672**
(0.312)
[0.193]
0.634**
(0.316)
[0.175]
実習内容
基幹的業務
-0.109
(0.207)
[-0.025]
-0.115
(0.209)
[-0.026]
-0.108
(0.210)
[-0.024]
-0.071
(0.207)
[-0.017]
-0.080
(0.209)
[-0.019]
-0.072
(0.210)
[-0.017]
補助的業務
0.030
(0.202)
[0.007]
-0.015
(0.204)
[-0.003]
-0.019
(0.203)
[-0.004]
0.033
(0.204)
[0.008]
-0.013
(0.207)
[-0.003]
-0.019
(0.206)
[-0.005]
アルバイト・パート業務
-0.467**
(0.238)
[-0.122]
-0.409*
(0.244)
[-0.104]
-0.420*
(0.246)
[-0.107]
-0.428*
(0.238)
[-0.114]
-0.375
(0.243)
[-0.098]
-0.387
(0.245)
[-0.101]
一定の課題
0.056
(0.223)
[0.013]
-0.013
(0.223)
[-0.003]
-0.019
(0.222)
[-0.004]
0.033
(0.223)
[0.008]
-0.030
(0.224)
[-0.007]
-0.036
(0.223)
[-0.009]
社員の業務に同行
0.063
(0.252)
[0.015]
0.024
(0.254)
[0.005]
0.035
(0.255)
[0.008]
0.095
(0.257)
[0.023]
0.058
(0.259)
[0.014]
0.072
(0.261)
[0.017]
業務の見学
-0.186
(0.248)
[-0.043]
-0.171
(0.253)
[-0.039]
-0.168
(0.252)
[-0.038]
-0.213
(0.257)
[-0.052]
-0.199
(0.262)
[-0.048]
-0.200
(0.262)
[-0.048]
インターンシップ参加日数
0.015
(0.024)
[0.004]
0.016
(0.025)
[0.004]
0.030
(0.023)
[0.007]
0.025
(0.023)
[0.006]
0.025
(0.024)
[0.006]
0.015
(0.025)
[0.004]
0.015
(0.026)
[0.004]
0.028
(0.024)
[0.007]
0.023
(0.024)
[0.005]
0.023
(0.024)
[0.005]
私立大学
0.209
(0.279)
[0.052]
0.201
(0.278)
[0.050]
0.172
(0.272)
[0.042]
0.189
(0.279)
[0.046]
0.181
(0.277)
[0.044]
0.169
(0.279)
[0.043]
0.162
(0.278)
[0.041]
0.138
(0.273)
[0.035]
0.155
(0.280)
[0.039]
0.147
(0.278)
[0.037]
大学創立年1950年以前
0.713***
(0.266)
[0.208]
0.717***
(0.265)
[0.209]
0.715***
(0.263)
[0.207]
0.722***
(0.267)
[0.207]
0.728***
(0.266)
[0.209]
0.703***
(0.269)
[0.210]
0.710***
(0.269)
[0.213]
0.703***
(0.267)
[0.210]
0.714***
(0.271)
[0.211]
0.724***
(0.271)
[0.215]
理系
-0.098
(0.252)
[-0.023]
-0.109
(0.254)
[-0.026]
-0.101
(0.265)
[-0.024]
-0.117
(0.264)
[-0.027]
-0.130
(0.264)
[-0.030]
-0.139
(0.258)
[-0.035]
-0.147
(0.259)
[-0.037]
-0.138
(0.269)
[-0.034]
-0.151
(0.268)
[-0.037]
-0.162
(0.267)
[-0.040]
女性
-0.261
(0.211)
[-0.059]
-0.261
(0.211)
[-0.059]
-0.273
(0.213)
[-0.061]
-0.275
(0.220)
[-0.061]
-0.277
(0.222)
[-0.061]
-0.251
(0.214)
[-0.059]
-0.250
(0.214)
[-0.059]
-0.275
(0.219)
[-0.064]
-0.276
(0.225)
[-0.064]
-0.277
(0.227)
[-0.064]
定数項
-0.327
(0.522)
-0.325
(0.522)
0.280
(0.566)
-0.117
(0.598)
-0.118
(0.598)
-0.278
(0.522)
-0.280
(0.521)
0.297
(0.567)
-0.083
(0.598)
-0.086
(0.598)
対数尤度
Wald統計量
疑似決定係数
サンプル数
-95.4
15.45**
0.078
232
-95.26
15.52**
0.079
232
-95.67
15.99
0.075
232
-93.72
20.50*
0.094
232
-93.54
20.34*
0.096
232
-93.83
14.36**
0.073
220
-93.71
14.46**
0.074
220
-94.20
14.12
0.070
220
-92.41
18.28
0.087
220
-92.22
18.18
0.089
220
注1:( )内は頑健な標準誤差を、[ ]内は(サンプル平均で評価した)限界効果を表している。
注 2:***は1%水準、**は5%水準、*は10%水準で有意であることを示している。
注3:推定式(2-1)から(2-5)は、サンプルにインターンシップ先企業で内定を獲得したサンプルを含まない。
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ラスの影響は見られなかった。また、限定的ではあるが、参加日数も内定獲得には影響を与えてい
ない 21。これらの結果からは、インターンシップ経験があるということを企業に伝えることによっ
て、その効果が顕在化すると考えられる。したがって、インターンシップ経験の内定獲得に対する
シグナリング効果の存在が示唆される。
6.おわりに
本稿では、インターンシップが学生の内定獲得に対して与える影響を理論的に考察し、その確率
を高める効果を持つのかについて実証分析を試みた。インターンシップ経験がシグナリング効果を
持つと仮定し実証分析を行ったところ、就職活動時に、インターンシップ経験をアピールすること
は有意に内定獲得確率を上昇させることがわかった。さらに、インターンシップ経験を聞かれたの
で答えた場合も内定獲得確率を上昇させることがわかった。言い換えると、自ら情報を伝えないと
いう消極的な側面が内定に悪い影響を与える可能性があるにもかかわらず、内定獲得確率を上げて
いる。したがって、インターンシップ経験が何らかの形で、企業に伝われば、内定獲得の確率が上
がると思われる。このような結果から、インターンシップ経験は、大学生の内定獲得に対してシグ
ナリング効果を持つことが示唆される 22。
以上のように、本稿の分析結果からは、インターンシップ経験がシグナルとして学生の内定獲得
確率を上昇させる効果を持つことがわかった。学生にとって、インターンシップの目的は、就業意
識の向上や適正の見極めなどの要素もあり、必ずしも内定を獲得するための目的だけではないが、
大学によるインターンシップの提供は就職支援策として効果をもたらすと思われる。しかしなが
ら、本稿で仮定したようにインターンシップ経験が学生の行動力や就業意識の高さのシグナルとな
るとするならば、大学が就職に有利になる可能性があると言うだけで、学生の意思とは関係なくイ
ンターシップを提供することはシグナルとしての機能を低下させる可能性がある。さらには、やる
気や就業意識の低い学生がインターンシップに参加し、そのような学生の態度が実習を通して企業
に伝われば、企業にとってインターンシップ経験が学生のやる気等のシグナルとして捉えなくなる
可能性もある。したがって、今後このような状況になるならば、単に就職に有利であるといった理
由だけでインターンシップに参加しても、学生はそのような恩恵はあまり受けられなくなる可能性
がある 23。また、仮に大学もそのような理由だけで、就職支援策としてインターンシップの斡旋等
を行ったとしても、その意義は薄れていくと考えられる。しかし、このことはインターンシップを
行うことの意義が失われることを意味していない。従来言われている企業とのマッチングを促すこ
とや、先行研究で明らかにされてきたように就業意識等の向上に寄与するならば、学生が就業体験
としてインターンシップに参加することは望ましいと考えられる。したがって、目的を明確にした
インターンシップへの取り組みがよりいっそう不可欠になると考えられる。
21 本稿の分析では、実習内容や参加日数の影響は内定獲得確率に対する影響はほとんど見られないが、この結
果をもって、インターンシップの人的資本蓄積の効果が無いということを意味しているわけではない。上述の
通り、サンプルはインターンシップを経験した学生のみであるため、人的資本蓄積の検証を正確に行うのであ
れば、インターンシップに参加経験が無いサンプルも必要であると考えられる。
22 ただし、本稿での計量分析では、シグナリング効果があるか否かを検証することが目的であるため、人的
資本蓄積の効果を直接検証したものではない。そのため、シグナリング効果があるという本稿の結果は、人的
資本蓄積の効果を否定するものではないことに留意が必要である。
23 もしほとんどの学生がインターンシップに参加するような状況になれば、インターンシップ経験が無いこ
とが逆に、積極性や行動力に関する負のシグナルになる可能性がある。
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【参考文献】
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Gault, J., Redington, J. and Schlager, T.(2000)
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〔研究ノート〕
「人生設計ゲーム」を用いた金融経済教育
Practice of Financial Education Using“Life Planning Game”
大藪 千穂* 奥田 真之**
Abstract
This paper focuses on the relation between information-related activities and realistic understanding of
future. We applied this theory to 730 students from elementary school to university students through the
financial education which include six perspectives using“Life Planning Game”. Students are classified into
three groups according to their information-related activities and analysed by the level of realistic
understanding of future.
As a result, students with high abilities of“collecting information”and“utilizing information”show the
high level of realistic understanding of future. Both abilities of“collecting information”and“utilizing
information”are related to realistic understanding of future at elementary school students, junior high school
students and university students.“Collecting information”ability is closely related to realistic understanding
of future at high school students.
It is important to provide more methods of“collecting”and“utilizing”information to elementary school,
junior high school and university students, and“collecting”methods of information to high school students
to improve the level of realistic understanding of future.
key words:financial education(金融経済教育)、Life Planning Game(人生設計ゲーム)、
information-related activity(情報活動)、realistic understanding of future(現実把握)
1. はじめに
近年、金融経済教育の重要性が謳われている。2008 年のリーマン・ショックは、金融経済教育
で先行してきた米国や英国において、国民の金融リテラシー不足を認識させ、教育体制の見直しを
迫るに至った(福原,2008)。一方、わが国の金融経済教育は、これまで行政が主導的な役割を
担ってきた(大藪・奥田,2014)。2013 年には消費者教育推進のための体系的プログラム研究会が
「消費者教育体系イメージマップ」の中で金融経済教育を位置づけ(消費者庁,2013)、2014 年に
は金融経済教育推進会議が、学校教育や社会人、高齢者における金融経済教育に関する初の統一的
なガイドライン「金融リテラシー・マップ」を公表した(金融経済教育推進会議,2014)。また、
* Chiho Oyabu(岐阜大学教育学部教授)Professor, Faculty of Education, Gifu University,
E-mail: [email protected]
** Masayuki Okuda(十六総合研究所主席研究員)Senior Economist, Juroku Research Institute Company Limited,
E-mail: [email protected]
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民間では一般社団法人全国銀行協会や日本証券業協会、NPO 法人等も教材作成、講師派遣を行い、
金融経済教育を推進している。このように行政だけでなく、民間も独自に教材等を作成することに
よって、金融経済教育の内容の幅が広がるという利点はあるが、学習指導要領やカリキュラムでの
位置づけが分かりにくいという問題点も挙げられる。一方、学校教育においては、学習指導要領の
主に家庭科と社会科で金融経済教育がとりあげられている。このように、わが国における金融経済
教育は、その主体や内容、方法が統一されておらず、その時点での問題を解決する、いわば対症療
法的な知識提供に重点が置かれがちとなっている(奥田,2014)。そのため筆者らは、情報活動を
基盤とした人間発達を促す新しい視点を金融経済教育の内容と方法に加え、教材や授業方法を工夫
することによって、学校教育終了後も将来にわたって、時々刻々と変化する金融経済教育の変化に
適切に対応できる能力を養うことができると考え、その理論を基に金融経済教育を実践してきた
(大藪・奥田,2014)。その結果、情報の収集活動が積極的なグループの人間発達プロセスが進むこ
とがわかり、情報活動と人間発達には関係があることが明らかとなった。また校種ごとにみると、
小学生は収集と活用、中学生は収集が積極的なグループで、高次の人間発達プロセスである「自己
創造」にまで至る児童・生徒が多かった。高校生では、情報活動と人間発達の関係は見られなかっ
た。これより、小学生には収集方法と活用方法を、中学生には収集方法を提供することで、金融リ
テラシーの獲得だけでなく、人間発達の促進が期待できることが明らかとなった。
本論文では、対象を小学生から大学生まで広げ、また内容をお金のみではなく、自分の人生とお
金を生活設計の視点で考えることができる「人生設計ゲーム」を開発・作成し、現実把握度という
新たな指標を用いて情報活動との関係を明らかにする。
2. 方法
2.1 授業案の基盤となる6つの視点
本論文では、授業の基盤として、これまでと同様、6 つの視点を盛り込んでいる(大藪・奥田,
2013,2014)。第一の視点は「人間発達」である。人間発達をそのプロセスに応じて「現状把握」、
「価値の内面化」、
「自己創造」の 3 つに再構築した(坂野・大藪・杉原,2003, 2004)。第二の視点
は「情報活動」である。情報活動を、収集・蓄積・活用・発信の 4 つに分類し、12 項目からなる
「情報活動に関するアンケート」を作成した(表 2)。これら基盤となる 2 つの視点に加えて、以下
の 4 つの視点を授業案に組み込んだ。第三と第四の視点は、生活を考える時の指標となる視点であ
る(坂野・大藪・杉原,2003)。一つ目が「生活システムの規模」の視点である。生活システムに
は、個人・家族などの「小規模システム」、企業・学校・地域社会などの「中規模システム」、国
家・自然などの「大規模システム」が存在する(大藪・杉原・坂野,2005)。人生を考える時に、
どのシステムで物事を考えるかが重要となる。二つ目は「モノ・サービスのライフサイクル」の視
点である(大藪,2014)。モノやサービスを、ライフサイクルの視点で考えると、「インプット(購
入)」、
「プロセス(使用)」、
「アウトプット(廃棄 1)」という流れで見ることができる。授業実践を
する際に、ライフサイクルのどの場面を対象とするかを明らかにしておく必要がある。最後の 2 つ
は教育の視点である。一つ目は「学習指導要領の領域」である。金融経済教育を扱う内容として
は、小 ・ 中・高校の家庭科(文部科学省,2009a,2009b,2011c)と社会科(文部科学省,2009b,
1 家庭でのアウトプット(出力)には、人間が価値あるものと考えるポジティブアウトプットと、通常あまり
注目されず、やっかいなものとされるネガティブアウトプットがある(杉原,2001)。ここでは、動力や製品、
廃物、廃水、廃熱などを想定している。
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2011b)と公民(文部科学省,2011d)がある。本授業は主に家庭科を対象として、小・中学校家庭
科の「身近な消費生活の環境」の領域の内容とした(文部科学省,2009a,2011a)。また高校の家
庭科では、「生涯教育の視点を重視して、ライフステージを意識した計画や責任の持ちように関
わって消費者として自己決定を行う姿勢を身に付けさせる」ことを位置づけているので(文部科学
省,2011c)、それぞれのライフステージを考えられる内容とした。大学では、筆者らが担当してい
る「生活の経済と法律」や「金融システム論」等の経済系の講義中に実践した。二つ目は授業をす
る時に重要となる「3F」の要素である(杉原,2001)。3F とは、Freedom(自由)、Fun(楽しみ)、
Freshness(新鮮さ)である。多様性のある生活を対象とした自由度のある教材や、楽しめる教材、
そして新しい情報の取得が可能な教材を指す。これら 6 つの視点を盛り込んだ授業案をそれぞれの
校種別に作成した。
2.2 「人生設計ゲーム」の構成
「人生設計ゲーム」は他人とゲーム終了時の残金を比べるのではなく、自分の人生を自分で考え
て生活設計する事を目的に開発したものである。「人生設計ゲーム」(大藪・杉原,2008)の基本構
想を基に、修正を加え 100 セット作成した 2。本ゲームはすごろく形式ではなく一人用で、10 年間
ごとに自分の人生を平均寿命まで、じっくり考えられるように設定したボードゲームである。意思
決定を促すために、「年収表」、「生活費表」、「保険表」、「選択可能なライフイベント」(結婚、出
産、車や住宅の購入、投資や保険等)と 「 選択不可能なライフイベント 」(病気や災害、金銭トラ
ブル、遺産等)を用意し、年収と生活費、「選択可能なライフイベント」は自分で選択し、「選択不
可能なライフイベント」は、10 年ごとに 1 回、20 枚あるパネルの中から無作為に 1 枚のパネルを
引くようにした。ゲームを行うにあたって、口頭で 10 分程度ルールの説明をしたが、マニュアル
も配布した。またルールを黒板に提示し、いつでも確認できるようにし、教師用のルールブックも
作成し配布した。
2.3 「人生設計ゲーム」を用いた授業案と分析方法
授業は基本的に授業時間の 1 時間(小学生 45 分、中学生と高校生 50 分、大学生 90 分)で実施
するが、小学校と中学校では 2 時間続きで実施したところもある。内容は表 1 に示す授業案に準ず
る。授業実践は、2013 年 11 月から 2014 年 2 月の間に、小学生 91 人(2 校)、中学生 284 人(3
校)、高校生 234 人(4 校)、大学生 121 人(4 校)の合計 730 人を対象に行った。授業は、事前に
「情報に関するアンケート」と「授業前アンケート」を記入、その後「人生設計ゲーム」を実践し、
ゲーム終了後に「授業後アンケート」に記入する構成とした。
授業前に実施する「情報に関するアンケート」は、表 2 に示す 12 項目である。これら 12 項目の
データに対する児童・生徒・学生の反応パターンを数量化Ⅲ類によって分類し、次にクラスター分
析を用いて、情報グループに分類する。
「授業前アンケート」では、どのような人生を送りたいかを記入する(自由記述)。本論文では、
人生設計をするにあたって、いかに現実的に物事を捉えられているかを明らかにするために、分析
に「現実把握度」の視点で分析することとした。現実把握度は、自由記述の内容を読み込み、「漠
2 これまでも同様のゲームとして、第一生命保険株式会社の「ライフサイクルゲーム」や「ライフサイクルゲー
ムⅡ~生涯設計のススメ~」、全国銀行協会の「生活設計・マネープランゲーム」等があるが、いずれも数名で
行うゲームでサイコロなど偶然性によって進むものである。
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然としている」、「少し現実味がある」、「かなり現実的である」の 3 つに分類して現実の把握度を捉
える。例えば「漠然としている」には、
「楽しい人生」、「幸せな人生」など、具体的ではない記述
が該当する。「少し現実味がある」と「かなり現実的である」の差は、年代ごとに、詳しく人生設
計ができているかどうかの差である。「少し現実味がある」は、「結婚、出産後、また働きたい」
や、「子どもは 2 人産んで、老後は 2 人で楽しみたい」などが該当する。「かなり現実的である」
は、「高校卒業後、大学で教員の資格をとって、教師として就職をしてから結婚、出産する。共働
きを続け、30 代に家を購入する。退職するまで働き、老後は年金生活をしながら、趣味を楽しみ
たい」のように、具体的な人生設計を記述しているものが該当する。
「授業後アンケート」では、「ゲームを通して気づいた点と、どのような人生設計をしたいか」を
自由記述し、「授業前アンケート」と同様、記述内容を読み込み、その内容から、現実把握度とし
て、「漠然としている」、「少し現実味がある」、「かなり現実的である」の 3 つに分類し、授業前後
の変化を分析する。
表1 「人生設計ゲーム」を用いた金融経済教育の授業案(中学生用)
活動 累積 時間
時間
授業 事前 5分
活動
導入 8分
5分
3分
学習活動
留意点/見方、感じ方、考え方
「情報に関するアンケート」と「授業前アンケート」の実施(事前に依頼して
もよい)
1. 人生設計ゲーム実施前の説明
自分の情報活動とライフイベントについての
考え方を見直す
説明を理解し、考えることができる
情報
活動
3F
システム
の規模
蓄積
現状把握
新鮮
小
収集
価値の内面化
新鮮
小・中
人生には様々なお金が必要。どのような時に必要?
人生にはいろいろとお金がかかる事に気づく
蓄積
現状把握
新鮮
小・中
結婚、出産、教育費、住宅、老後・・・・
どんなライフイベントがあるかを発言できる
発信
現状把握
新鮮・
自由
小・中・大
収入はいくら必要?
様々なライフイベントを経験するにはお金が
必要であることに気づく。どのぐらい必要か、
現実をどれほど知っているか
ルールをしっかり理解できるか
発信
現状把握・価
値の内面化
新鮮・
楽しみ
小・中・大
収集
現状把握
新鮮・
楽しみ
小・中・大
展開1 18分 10分 ルール説明
①年収と生活費の記載(小・中学生はマニュアルを参照して生き方を決定 自分で人生を決定することができるか
する)
②選択可能なライフイベントの結婚、出産、車(10年で乗換)、住宅(10年に 収入と生活費の差額で、結婚等のライフイベ
1回リフォーム)、子どもの教育費、投資、娯楽を、収入から生活費を引いた ントをやりくりできるか
金額内で決め、支出額を記載する。
③保険に加入する場合は、10年に1回加入する。保険に加入していると、
選択不可能なライフイベントでマイナスを引いた場合、200万円までカバー
される。
④10年に1回選択不可能なライフイベントを見ずに引き、ボードに貼る。投
資をしていないのに株関連が出たら引きなおす。マイナスのものは、保険
に加入していれば、200万円までカバーされる。
⑤10年間の残金や借金を計算してボードに記載する。
収集
収集・
活用
保険のメリットとデメリットを考えて、意思決定 収集・
できるか
活用
選択不可能なライフイベントに対処できるか
活用
計算がしっかりできるか
活用・
蓄積
展開2 38分 30分 2. 人生設計ゲームの開始
自分の力で、あらゆる情報を考えながら、人
生設計をすることができるか
収集・
活用
まとめ 46分
自分を客観的に評価できるか
蓄積・
発信
50分
人間発達
8分 「授業後アンケート」を記載。
4分 残金の確認と、何にお金がかかったかを確認。現在働けない児童は何が ゲームを通じて、人生のシミュレーションの反 蓄積・
できるかを考え、発表する。
省と評価ができるか。親に感謝し、手伝いや 発信
勉強をするなど、自分ができる内容を考えら
れるか
価値の内面化 楽しみ・
小・中
自由
現状把握・価 新鮮・ 小・中・大
値の内面化・ 楽しみ・
自己創造
自由
現状把握・価
値の内面化
現状把握
現状把握
新鮮・
自由
小・中
楽しみ 小・中・大
新鮮
小・中・大
現状把握・価 新鮮・ 小・中・大
値の内面化・ 楽しみ・
自由自
自己創造
由
現状把握・価
新鮮
小
値の内面化
現状把握・価
値の内面化・
自己創造
新鮮・
自由
小・中・大
授業の分析方法の手順を以下に示す。①「授業前アンケート」と「授業後アンケート」の自由記
述の内容を読み込み、現実把握度の視点(「漠然としている」、「少し現実味がある」、「かなり現実
的である」)で分析する。②「情報活動に関するアンケート」を用いて、児童・生徒・学生を数量
化Ⅲ類とクラスター分析によって、情報活動別のグループに分類する。③情報グループの校種(小
学校,中学校,高校,大学)別に「授業前アンケート」と「授業後アンケート」の自由記述を現実
把握度の視点で分析する。④以上の結果より、「人生設計ゲーム」を用いた情報を基盤とする金融
経済教育の効果を現実把握度の視点から明らかにする。なお自由記述内容の分類は、筆者ら二人で
行い、分類基準がぶれないようにした。
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3. 結果及び考察
3.1 「情報活動に関するアンケート」の結果
「情報活動に関するアンケート」を集計した結果(表 2)、全体では、「活用」が平均 60.2% と最も
多く、次いで「収集」が 54.4%、「蓄積」34.4%、「発信」17.0% となった。これより、対象者は、
情報の「活用」と「収集」が活発であることが分かる。特に小学生は、「活用」(72.1%)、「収集」
(59.1%)、「発信」(25.3%)が他の情報活動と比較すると活発である。大学生は「蓄積」(42.2%)
で最も高くなったが、他の情報活動に関しては、全て最も低くなった。
表2 「情報活動に関するアンケート」結果
割合(%)
項目
収集
蓄積
活用
発信
テレビのニュースを一日一回は見る
毎月買ってくる雑誌がある
インターネットやタウン誌で情報をよくチェックする
買うものがなくてもお店に行っていろいろなものを見る
新しいことを知る時は、人から聞くことが多い
平均
利用したサービスや買ってきたものに問題があった時、どこに言えばよいか知っ
ている
消費生活センターを知っている
平均
お菓子や文房具を買う時に、「賞味期限」やマークを確かめて買う
電気製品などの取り扱い説明書や薬のラベルはしまってあり、すぐに見ることが
できるようになっている
電気製品などの使い方が分からない時は、説明書を読んでもらったり、自分で読
んだりする
平均
自分で買った商品や利用したサービスに不満があった時は、店の人にすぐ言う
商品を買った時などについてくるアンケートはよく出すほうだ
平均
全児童・生
徒・学生
81.0
23.7
40.4
67.1
59.9
54.4
検定1)
小学生
中学生
高校生
大学生
85.7
33.0
40.7
74.7
61.5
59.1
83.8
18.7
41.2
61.3
67.3
54.5
79.1
26.5
36.8
74.8
54.3
54.3
74.4
23.1
45.5
60.3
52.1
51.1
38.8
46.2
38.0
37.2
38.0
29.9
34.4
61.4
12.1
29.2
82.4
25.7
31.9
65.5
33.3
35.3
52.6
46.3
42.2
52.9
***
40.8
53.8
44.0
36.8
31.4
**
78.5
80.2
77.8
77.4
81.0
60.2
23.7
10.3
17.0
72.1
31.9
18.7
25.3
62.4
23.9
10.6
17.3
55.6
21.4
9.8
15.6
55.1
21.5
4.1
12.8
*
***
**
***
**
注) 複数回答である。割合は、全体の何%が選択したかを示している。
2
1) χ 検定, ***: p<0.001, **:p<0.01,*:p<0.05
3.2 「情報活動に関するアンケート」による情報グループとその属性
授業実践は、小学校 2 校(91 人)、中学校 3 校(284 人)、高等学校 4 校(234 人)、大学 2 校
(121 人)の合計 730 人を対象に実施した。性別は、男子 308 人(42.2%)、女子 422 人(57.8%)で
ある。授業前に実施した「情報活動に関するアンケート」に基づいて、児童・生徒・学生を情報活
動グループに分類した。分類には、数量化Ⅲ類とクラスター分析を用いた。「情報活動に関するア
ンケート」の質問項目に対する児童・生徒・学生の反応パターンを数量化Ⅲ類によって分析した結
果、固有値が高く解釈可能な 2 軸が析出された(累積寄与率 45.2%)。用いた質問項目は 7 つであ
る。第 1 軸は「活用」(+ が消極的)、第 2 軸は「収集」(+ が積極的)を表す軸と解釈できる。ま
た、これら 2 軸に対する児童・生徒・学生の個人得点をもとにクラスター分析を行った。その結
果、図 1 に示すような 3 つの情報活動グループに分けられた。それぞれのグループの 2 つの軸に対
するケース得点の偏りから、A グループ「収集積極・活用積極型」(328 人)、B グループ「収集消
極・活用消極型」(97 人)、C グループ「収集積極・活用消極型」(305 人)と名付けることができ
る。
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図1 3つの情報グループの散布図
1軸
サンプルスコア点グラフ
1 軸: 活用
2.5
2.0
B グループ:収集消極・活用消極型
C グループ:収集積極・活用消極型
1.5
1.0
0.5
0.0
-0.5
-1.0
-1.5
A グループ:収集積極・活用積極型
-1.0
-0.5
0.0
0.5
1.0
1.5
2 軸: 収集
2軸
情報グループの属性を見ると(表 3)
、全体では、A グループ「収集積極・活用積極型」と C グ
ループ「収集積極・活用消極型」が約 4 割ずつを占め、B グループ「収集消極・活用消極型」
(13.3%)が最も少ない。男子の中の割合を見ると、A グループ「収集積極・活用積極型」と C グ
ループ「収集積極・活用消極型」に 4 割ずつ含まれており、B グループ「収集消極・活用消極型」
(14.0%)には少ない。女子も同様に、A グループ「収集積極・活用積極型」と C グループ「収集
積極・収集消極型」に 4 割と多く、B グループ「収集消極・活用消極型」
(12.8%)が少なくなった。
表3 情報グループ別の属性
情報グループ
人数
男
該当数(%)
女
Aグループ収集積極・活用積極型
328(44.9)
141(45.8)
187(44.3)
Bグループ収集消極・活用消極型
97(13.3)
43(14.0)
54(12.8)
Cグループ収集積極・活用消極型
305(41.8)
124(40.3)
181(42.9)
3.3 「授業前アンケート」と「授業後アンケート」の自由記述からみた現実把握度の変化
「授業前アンケート」の自由記述を読み込み、現実把握度をその内容から「漠然としている」、
「少し現実味がある」、「かなり現実的である」の 3 つに分類し、情報グループとの関連を明らかに
した(表 4)。この結果、「漠然としている」割合がどのグループも高い。A グループ「収集積極・
活用積極型」は、「少し現実味がある」と「かなり現実的である」割合が、他の情報グループに比
べると高くなった。
ゲーム終了後、「授業後アンケート」の自由記述を、同様に現実把握度の視点からグループ別に
分析した(表 4)。「授業前アンケート」と「授業後アンケート」の変化を見ると、授業前は「漠然
としている」割合がどの情報グループでも高いが、授業後にはその割合は低くなった。一方、授業
前、「少し現実味がある」や「かなり現実的である」割合はどのグループでも低いが、授業後は約
4 割と高くなった。特に A グループ「収集積極・活用積極型」の「かなり現実的である」割合は、
50% 近くとなった。このことより、「人生設計ゲーム」の実践は、現実把握度を高める効果がある
ことが分かった。
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表4 「授業前アンケート」と「授業後アンケート」の記述内容からみた現実把握度の変化
該当数(%)
漠然としている
少し現実味がある
かなり現実的である
情報グループ
授業前
授業後
授業前
授業後
授業前
授業後
Aグループ収集積極・活用積極型
173(52.7)
38(11.6)
112(34.1)
128(39.0)
43(13.1)
162(49.4)
Bグループ収集消極・活用消極型
58(59.8)
17(17.5)
28(28.9)
40(41.2)
11(11.3)
40(41.2)
Cグループ収集積極・活用消極型
187(61.3)
54(17.7)
80(26.2)
123(40.3)
39(12.5)
128(42.0)
3.4 情報グループと校種との関係
情報グループと校種との関係を分析した(表 5)。この結果、どの校種においても B グループ
「収集消極・活用消極型」が最も少なくなり、その他のグループに 3 ~ 5 割が含まれていた。中で
も小学生は A グループ「収集積極・活用積極型」が半数以上を占めており、最も情報活動が積極
的であることが分かる。B グループ「収集消極・活用消極型」は、小学生が最も少なく(6.6%)、
以下、少ない順に中学生(9.5%)、高校生(17.1%)、大学生(19.8%)である。
男女別に見ると、B グループ「収集消極・活用消極型」では、中学生と大学生の男子、高校生の
女子が多く、A グループ「収集積極・活用積極型」には、大学生の女子と中学生と高校生の男子が
多い。校種別に見ると、小学生では男女とも A グループ「収集積極・活用積極型」が半分以上を
占め、中学生と高校生では A グループ「収集積極・活用積極型」に男子が多く、女子は C グルー
プ「収集積極・活用消極型」に多くなった。大学生の男子は C グループ「収集積極・活用消極型」、
女子は A グループ「収集積極・活用積極型」に多い。
表5 校種別の属性
3.5 校種別・「授業前アンケート」と「授業後アンケート」の自由記述からみた現実把握度の変化
情報グループの校種別に、「授業前アンケート」と「授業後アンケート」の自由記述を現実把握
度の視点で分析した。この結果(表 6)、「漠然としている」割合は「授業前アンケート」で、どの
グループも、小学生の B グループ「収集消極・活用消極型」を除いて、どの校種においても高い
が、
「授業後アンケート」では低くなった。また、「授業後アンケート」では、小学生は A グルー
プ「収集積極・活用積極型」と C グループ「収集積極・活用消極型」の収集活動が積極的なグルー
プで「かなり現実的である」割合が高くなった。中学生の現実把握度を見ると、授業前は「漠然と
している」割合が高かったが、授業後は低くなり、A グループ「収集積極・活用積極型」で「かな
り現実的である」割合が高くなった。ただし上昇幅で見ると B グループ「収集消極・活用消極型」
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が最も高い。高校生は、C グループ「収集積極・活用消極型」と A グループ「収集積極・活用積
極型」に含まれる割合が高い。C グループ「収集積極・活用消極型」で「かなり現実的である」割
合が高くなり、大学生は、A グループ「収集積極・活用積極型」で「かなり現実的である」割合が
高くなった。 これより、校種や上昇幅には差はあるが、全ての校種で、収集が積極的であると現
実把握度が高くなることが明らかとなった。
表6 「授業前アンケートと「授業後アンケート」の自由記述からみた現実把握度の変化
該当数(%)
情報活動グループ
漠然としている
全体 小学生 中学生 高校生 大学生 検定
全体
173(52.1) 21(40.4) 85(63.0) 41(44.6) 26(53.1) ** 112(34.1)
58(59.8) 1(16.7) 21(77.8) 20(50.0) 16(66.7) *
28(28.9)
187(61.3) 15(45.5) 88(72.1) 51(50.0) 33(68.8) *** 80(26.2)
授
業
前
Aグループ収集積極・活用積極型
授
業
後
Aグループ収集積極・活用積極型
38(11.6)
Bグループ収集消極・活用消極型
17(17.5)
Cグループ収集積極・活用消極型
54(17.7)
Bグループ収集消極・活用消極型
Cグループ収集積極・活用消極型
4(7.7) 15(11.1) 12(13.0)
1(16.7)
2(7.4)
8(20.0)
7(14.3)
6(25.0)
2(6.1) 24(19.7) 18(17.6) 10(20.8)
現実把握度
少し現実味がある
小学生 中学生 高校生 大学生 検定
22(42.3) 36(26.7) 40(43.5) 14(28.6) *
3(50.0) 5(18.5) 15(37.5) 5(20.8)
12(36.4) 23(18.9) 38(37.3) 7(14.6) *
128(39.0) 19(36.5) 51(37.8) 44(47.8) 14(28.6)
40(41.2)
2(33.3) 12(44.4) 17(42.5)
9(37.5)
123(40.3) 12(36.4) 57(46.7) 30(29.4) 24(50.0) *
全体
43(13.1)
11(11.3)
38(12.5)
かなり現実的である
小学生 中学生 高校生
9(17.3) 14(10.4) 11(12.0)
2(33.3) 1(3.7) 5(12.5)
6(18.2) 11(9.0) 13(12.7)
大学生 検定
9(18.4)
3(12.5)
8(16.7)
162(49.4) 29(55.8) 69(51.1) 36(39.1) 28(57.1)
40(41.2)
3(50.0) 13(48.1) 15(37.5)
9(37.5)
128(42.0) 19(57.6) 41(33.6) 54(52.9) 14(29.2)
*
χ2検定 * :p<0.05 , ** :p<0.01 , *** :p<0.001
4. 結論
本論文では、「人生設計ゲーム」を開発・作成し、小学生 91 人、中学生 284 人、高校生 234 人、
大学生 121 人の合計 730 人に対して、6 つの視点を含んだ「人生設計ゲーム」を用いた金融経済教
育の授業実践を行い、ゲーム対象者を情報グループに分類し、現実把握度を用いて変化を見た。全
体では、収集と活用が現実把握度に影響し、校種別では、小学生、中学生および大学生は収集と活
用の両者が、高校生は収集のみが現実把握度に影響することが分かった。
本論文では、校種によって差は生じたが、情報の収集と活用の両者が現実把握に極めて重要な意
味を持つことが明らかとなった。筆者らはこれまでの研究で、収集が人間発達に最も影響し、次い
で活用であることを明らかにしてきた(大藪・奥田(2013)、大藪(2014)、大藪・奥田(2014))。
またそれは年代によって異なることを明らかにした(大藪・奥田,2014)。本論文では、対象を広
げ、生活設計の視点を組み込み、現実把握度の視点で分析した。この結果を踏まえて、今後の金融
経済教育のあり方について考えたい。
小学生と中学生は、情報の収集と活用が現実把握度に大きく影響している。この年代は、自分か
ら収集する力がまだ育っておらず、授業も受身になりがちである。授業実践により、収集力を徐々
につけながら、活用力を活かすことが、現実把握度によい影響をもたらすことが明らかとなった。
高校生は情報の収集が現実把握度に影響する。高校生は自分の力で様々な媒体を通じて情報収集で
きるようになるので、収集力の差によって、現実把握度に差が生じると考えられる。大学生になる
と、収集と活用の両者が現実把握度に影響することが明らかとなった。小学生・中学生で収集、活
用力の基礎がつき、高校生で収集力を高め、大学生でさらに活用力をつけることによって、現実把
握度を促すと考えられる。
【参考文献】
大藪千穂・杉原利治・坂野美恵(2005)
「小学校における生活指標を用いた消費者教育の実践―子
供の自己評価と情報活動との関係―」『消費者教育』,第25冊,pp.33-40
大藪千穂・杉原利治(2008)「人間発達プロセスを基盤とした『人生設計ゲーム』開発の試み」『消
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費者教育』,第28号,pp.95-105
大藪千穂・奥田真之(2013)「情報活動を基盤とした消費者教育の実践―環境金銭教育(1)理論と
授業実践―」『中部消費者教育論集』,第9号,pp.35-48
大藪千穂(2014)「情報活動を基盤とした消費者教育の実践―契約とクーリング・オフ制度―」『消
費者教育』,第34冊,pp.175-183
大藪千穂・奥田真之(2014)「情報活動を基盤とした新しい視点による金融経済教育の開発と実践」
『生活経済学研究』,第40巻,pp.1-13
奥田真之・大藪千穂(2013)「情報活動を基盤とした消費者教育の実践―地域金融機関による金融
経済教育―」『中部消費者教育論集』,第9号,pp.49-61
奥田真之(2014)「金融経済教育の動向と実践に向けた課題」『中部消費者教育論集』,第10号,
pp.1-18
金融経済教育推進会議(2014)「金融リテラシー・マップ『最低限身に付けるべき金融リテラシー
( お 金 の 知 識・ 判 断 力 )』 の 項 目 別・ 年 齢 層 別 ス タ ン ダ ー ド 」http://www.shiruporuto.jp/teach/
consumer/literacy/pdf/map.pd(参照2014-8-16)
消費者庁(2013)www.caa.go.jp/information/pdf/130122imagemap_4.pdf(参照2014-8-16)
杉原利治(2001)『21世紀の情報とライフスタイル』,論創社
坂野美恵・大藪千穂・杉原利治(2003)「人間発達を基盤とした消費者教育の構築と生活指標の開
発」『消費者教育』,第23冊,pp.67-74
坂野美恵・大藪千穂・杉原利治(2004)「小学校における新しい生活指標を用いた消費者教育の実
践―個人・家族を対象とした「消費・貯蓄」分野の生活指標分析―」『消費者教育』,第24冊,
pp.167-176
福原敏恭(2008)「金融イノベーションの進展と米国における金融教育の動向-サブプライム問題
発生後の状況-」,金融広報中央委員会,www.shiruporuto.jp(参照2014-8-16)
文部科学省(2009a)『小学校学習指導要領解説家庭編』,
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2009/06/16/
1234931_009.pdf(参照 2014-8-16)
文部科学省(2009b)『小学校学習指導要領解説社会編』,
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2009/06/16/
1234931_003.pdf(参照 2014-8-16)
文部科学省(2011a)『中学校学習指導要領解説技術・家庭編』,
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2011/01/05/
1234912_011_1.pdf(参照 2014-8-16)
文部科学省(2011b)『中学校学習指導要領解説社会編』,
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2011/01/05/
1234912_003.pdf(参照 2014-8-16)
文部科学省(2011c)『高等学校学習指導要領解説家庭科編』,
http://www.shizuoka.ac.jp/kyouyou/License_renewal_25/text/0820_3_3.pdf(参照 2014-8-16)
文部科学省(2011d)『高等学校学習指導要領公民編』,
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2011/07/22/
1282000_4.pdf(参照 2014-8-16)
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〔研究ノート〕
学級規模と学力
-47都道府県のパネルデータ分析-*
Class Size and Scholastic Aptitude: Panel Data Analysis of 47 Prefectures
山本 信一**
井上 麻央
Abstract
Much research has analyzed the relationship between class size and scholastic aptitude. Specifically,
studies have focused on whether or not reducing class size contributes to improving children’s scholastic
aptitude. Not all research shows such an impact, with some studies showing no positive effect. These
inconsistent results suggest that other factors besides class size have a major influence on scholastic aptitude.
This paper not only focuses on class size but also examines the multicollinearity of select factors considered
economically relevant. Data on the percentage of correct answers(by third grade public middle school
students, from 2007 to 2010)by prefecture obtained from the National Survey of Scholastic Aptitude and
Learning Environment were used as the dependent variable. Results of all panel data models used in the paper
showed that students in smaller classes tended to answer a higher percentage of answers correctly as
compared to their counterparts in larger classes. Moreover, the results clearly suggested that this effect was
more pronounced for applied basic knowledge skills in mathematics. The coefficient for the household
learning rate used as an explanatory variable was found to be negative, indicating that prefectures with lower
levels of scholastic aptitude among public middle schools tend to have more education-oriented households
that invest in education outside of school.
key words:Class size(学級規模)、percentage of correct answers on the National Survey of Scholastic
Aptitude and Learning Environment(全国学力・学習状況調査正答率)、panel data analysis(パネルデータ分析)
1. はじめに
日本の義務教育をめぐる環境については、学力や規範意識の著しい低下が懸念され、児童・生徒
の個性や能力に応じた義務教育内容を実現させるために、さまざまな試みが実施されてきた。少人
数学級に関しては、2001 年度より「第7次公立義務教育諸学校教職員定数改善計画」(文部科学省)
に基づき、少人数指導を実現するため教職員定数の改善が行われている。2011 年には、小学校一
年生の学級規模を 40 人から 35 人へ引き下げるよう法律が改正され、少人数学級教育推進への国民
* 本稿は 2014 年度生活経済学会研究大会(於長崎大学)で報告した論文を改訂したものである。討論者の福
重元嗣教授からの有益なコメントに謝辞を述べたい。
** Yamamoto,Shinichi、Inoue,Mao、Ritsumeikan University(立命館大学 経済学部)
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の期待が高まっている。例えば秋田県は、少人数学級をいちはやく導入し、全国学力・学習状況調
査で上位の成績を修めていることで有名だが、その両者に因果関係があるのかは立証されていな
い。この背景には、なにかしらの直接目には見えない第三の要因が大きく影響していることが示唆
されている。そこで本稿では、まずその要因を特定するため、考えられ得る要因データで単回帰分
析を行い、有意であった変数を用いて重回帰分析を行い、多重共線性に配慮しながらパネルデータ
分析に発展させるという方法を用いた。具体的に、どのような要因が学力に大きく影響を及ぼして
いるのかを検証し、その結果を踏まえ学級規模と学力の関係を考え、少人数学級の有用性を探って
いきたい。
2. 先行研究
学級規模が学力に与える効果に関しては一貫した結論は出ていない。Krueger(1999)は、学級
規模が学力に与える影響について、幼稚園から小学校三年生に至るまで追跡実験を行っている。こ
の論文の強みは、既存研究と異なり特定の児童を 4 年間に渡り追跡調査し、パネルデータを用いた
分析を行っている点である。アメリカのテネシー州で行われた Project STAR3 のデータを用い分析
を行った。被説明変数に SAT(Stanford Achievement Test)の平均得点率を用い、説明変数に各学級
に割り当てられた児童の割合、児童と教師の属性ベクトルを用いた。この実験の結果から、少人数
学級を施行した 1 年目で、平均的にテストの成績は少人数学級を施行していない学級に比べ、4%
上昇することが明らかとなっている。さらに、少人数学級は、施行された最初の年の末頃により高
い効果が得られている。Project STAR のデータを使用し分析を行っている論文は多い。Word et al
(1990)、Finn and Achilles(1990)、Folger and Breda(1989)は、共に STAR のデータを用い、少人
数学級は通常学級に比べ児童の学力に有用に作用するとの結果を得ているが、クロスセクションの
グループ間の差異を分析したものであり、特定の児童を追跡調査はしていない。Eric Hanushek
(1986)は教師と生徒の割合を学級規模として使用し、学力との関係を分析している。112 個の学
級規模による効果を推定した研究のうち、統計的に有意であったものは 23 個で、そのうち積極的
な効果がみられた学級は 9 つのみであったことを示し、学級あたりの教師と生徒の割合が学力に及
ぼす効果の証拠にはならないと述べている。
井上ゆり絵(2012)は、TIMSS2007 データを用い、被説明変数を数学スコア、説明変数を女子
割合・本の所持・コンピュータ所持・教師の不足・少人数学級ダミー・習熟度授業ダミー×少人数
学級ダミー等として、習熟度別授業と少人数学級の交差ダミーに、正の効果を見出している。清水
(2002)は小学 5 年生と中学 1 年生を対象に算数・数学の学力テスト結果を用いて分析を行い、被
説明変数を正答率、説明変数を学級規模としたが、統計的に有意な結果を見出していない。二木
(2012)は TIMSS2003 の数学・理科の個票データを使用し、被説明変数をテストスコア、説明変数
を学級規模・女子ダミー・教育経験年・女性教員ダミーとして、学級規模縮小は数学・理科ともに
学力に影響を及ぼさないという結論を得ている。これは、2003 年のクロスセクションデータのみ
を用いていることが影響しているのかもしれない。赤林・中村(2011)では、被説明変数に横浜市
の独自テストと全国学力・学習状況調査の横浜市の学校別結果(2008、2009)を用い、説明変数に
平均学級規模・在籍児童生徒数・女子生徒比率などを用いたモデルを多数検証し、「小学生におい
ては少人数学級の効果はみられるが、中学生においては有用な成果は得られない」と述べている。
これは、2 年分のデータしか使用していないため、少人数学級の教育効果が表れにくいとも考えら
れる。上野・三孝・小塩・佐野(2007)では、被説明変数に学力調査の正答率、説明変数に塾通い
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ダミー・満足度ダミー・積極性ダミー・勉強時間などを用いたところ、少人数学級の効果を得るに
は、2~3年の時間がかかるとしている。また、内閣府の平成 23 年度版食育白書によると、朝食
摂取率と学力調査の平均正答率に相関があることが示されていることから、学力の決定要因にはさ
まざまな要素が考えられ得ると言える。
3. 仮説設定
本稿では先行研究から、仮説を以下のように設定する。
「少人数学級は、他の要因を一定にコントロールできれば学力に有用な効果を及ぼす」
説明変数を多重共線性に配慮しつつなるべく増やすことにより、他の条件をできるだけ一定にす
る中で検証する。現在、日本の 1 学級あたりの生徒数の平均は小学校 28.1 人、中学校 33.0 人と
なっており、OECD 加盟国の平均である小学校 21.4 人、中学校 23.4 人と比べて多いことが分かる。
この現状を踏まえて、文部科学省は生徒一人ひとりの理解度や興味関心に応じた、きめ細かな教育
を実現するため、少人数学級の実施を推進している。実際に一クラスあたりの生徒数が、どのよう
に正答率と結びついているのかを明確にするため、上記の仮説を検定していく。
4. 推定方法
4.1
推定モデル
次に、本稿で用いた推定方法について説明する。パネルデータ分析で用いるモデルを説明するた
め、ひとまず、説明変数を一つとする。
yit= β0 +β1 xit + uit (i=1.2.…. n;t =1.2.….T)
(1) yit は被説明変数であり、本稿では全国学力学習状況調査の正答率がこれにあたる。β0 は定数項、
β1 は説明変数の係数、xit は説明変数を表し、i が 47 都道府県、t が年度を表す。また、誤差項 uit
は、
(αi:都道府県別の効果)
uit= αi +νit (2) と表すことができ、都道府県別の効果αi と、その他のデータでは観測されないνit によって構成
されている。都道府県別の効果は時間を通じて不変であると仮定する。都道府県別の効果があたえ
る影響を考慮して分析するためには、どの推定方法が最適なのかを検証する必要がある。
もし都道府県別の効果αi がない、つまり
αi =0
(3) ならば、Pooled OLS のモデルが最適である。
もし、都道府県の効果αi が説明変数 xit と相関していない、つまり
Cov(αi,xit)=0
(4) ならば、変量効果モデルが最適である。
もし、都道府県別の効果αi が説明変数 xit と相関している、つまり
Cov(αi,xit)≠0
(5) ならば、固定効果モデルが最適である。
固定効果モデルか変量効果モデルのどちらが適切かを検証するために、ハウスマン検定を行った
ところ、帰無仮説「個別効果がモデル内の説明変数と無関係である」は、P 値が 0.000 であり棄却
され、固定効果モデルが採択された。また、Pooled OLS か固定効果モデルのどちらが適切かを検
証するため、F 検定を行ったところ、都道府県別の個別効果が無いという帰無仮説は、P 値が 0.000
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であり強く棄却され固定効果モデルが採択された。しかし固定効果モデルでは、説明変数の効果が
県別効果に吸収されてしまうため、本稿では敢えて、Pooled OLS と固定効果モデルの両方で推定
を行った。
本稿の推定モデルは以下の通りである。
logGAit =β0 + β1logKIit + β2logBKit + β3logGDPit + β4logBRit + log β5 logHWit
+ β6logDBit +uit
(6) 但し、GA は全国学習・学力状況調査の科目ごとに偏差値に置き換えたもの、KI は学級規模(各
都道府県が発表している県別生徒数を学級数で割ったもの)、BK は朝食摂取率(%)、GDP は一人
当たり実質県民所得(千円)、BR は兄弟姉妹数、HW は自宅学習率(学力学習状況調査で、「家庭
で決まった時間に勉強をしている」と回答した生徒の割合[%])、DB は離婚率(人口 1000 人当
たり人数[‰])とする。また、t=1, ~ 4(2007 ~ 2010 年度)i = 1,2,..,47(47 都道府県)である。
それぞれの説明変数の予想される符号条件は次の通りである。KI については、一クラス当たり
の生徒数が少ないほどテストの点数は上昇すると考えられるため、符号はマイナスであると考えら
れる。BK については、朝食摂取率が高いほど授業中の集中力も上がり、点数は上昇すると考えら
れるため、符号がプラスであると考えられる。GDP については、県民所得が高いほど、子どもの
教育にあてる金額も高くなり、点数は上昇すると考えられるため、符号条件はプラスである。BR
については、兄弟姉妹数が少ないほど一人にかける教育費用が多くなり、得点は上昇すると考えら
れるため、符号条件はマイナスである。HW については、自宅で学習をしている生徒が多いほど得
点は上昇すると考えられるため、符号条件はプラスである。DB については離婚率が高くなると家
庭の状況が悪くなり、正答率は下降すると考えられるため、符号条件はマイナスである。
4.2
分析データ
本研究では、被説明変数に全国学力・学習状況調査(2007 ~ 2010 年度)の県別正答率データ
(公立中学三年生)を科目ごとに偏差値に置き換えたものを使用する。基礎知識力を問う A 科目と、
知識応用力を問うB科目それぞれの国語と数学の偏差値を用いて実証する。説明変数は取得可能な
もののうち、単回帰で有意な結果を得られたものから、説明変数間の相関が強くないものを選ん
だ。具体的には、47 都道府県統計局の一クラスあたり生徒数、離婚率(人口 1000 人当たり)と教
育費(生徒一人当たり)。内閣府県民経済計算から、一人当たり県民所得(GDP デフレータを用い
実質に換算)。全国学力・学習状況調査の結果から、朝食摂取率、通塾率、自宅学習率。厚生労働
省の国民生活基礎調査から兄弟姉妹数(一世帯あたりの 18 歳未満の子供の数)を使用した。デー
タの分析に際して注意しておきたいことがある。今回説明変数として使用する一クラスあたり生徒
数のデータは、各都道府県が発表している生徒数を学級数で割ったものを使用している。そのた
め、その県の全学校がその学級規模で指導を行っているわけではなく、結果に多少の誤差が生じる
可能性も否定できない。また、今回の場合複式学級と単式学級 1 を区別していない。しかし、平成
22 年度の文部科学省の調査では、全国の公立中学校の学級数は 273659 であり、そのうち複式学級
は 200 と、複式学級が全体に占める割合は1%に満たない。そのため、複式学級が計算結果に与え
1 単式学級…通常の同一学年の子どもで編制された学級。複式学級…二つ以上の異なる学年を一つにして編成
した学級。
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る影響は微々たるものであると考える。「表 1」は、本稿で用いるデータの記述統計である。
表1 記述統計
平均
標準偏差
77.4
3.6
50.0
10.0
68.8
6.1
50.0
10.0
68.8
5.1
50.0
10.0
53.2
7.5
50.0
10.0
1.9
0.2
2842.4
489.5
28.8
2.8
93.2
2.0
37.3
4.4
1.7
0.1
58.3
11.4
国語A 正答率
国語A 偏差値
国語B 正答率
国語B 偏差値
数学A 正答率
数学A 偏差値
数学B 正答率
数学B 偏差値
離婚率(人口千人当たり・人)
実質県民所得(一人あたり・千円)
学級規模(人)
朝食摂取率(%)
家庭学習率(%)
兄弟姉妹数(人)
通塾率(%)
最大値
85.7
73.0
81.8
71.3
80.3
77.6
69.4
71.6
2.7
5251.3
45.0
97.4
50.0
1.9
76.7
最小値
67.7
23.0
54.0
25.8
49.6
17.5
30.0
19.0
1.4
2052.1
20.5
86.4
28.6
1.6
29.0
(注)2007年~ 2010年のデータを使用(全国学力・学習状況調査、内閣府の県民経済計算、国民生活基礎
調査)
5. 結果と考察
5.1 国語の正答率要因分析
「表 2」は、国語 A・B 係数の推定結果である。
表2 国語の係数推定結果
学級規模
離婚率
実質県民所得
朝食摂取率
自宅学習率
兄弟姉妹数
サンプル数
F統計量
Prob(F統計量)
Adjusted-R²
推定モデル
国語A
2007-2010年度 2007-2010年度
-0.741***
-2.529***
[0.161]
[0.319]
-0.031
0.039
[0.069]
[0.606]
0.303***
0.782**
[0.108]
[0.308]
4.032***
-2.846
[0.754]
[2.183]
-0.763***
-1.120***
[0.128]
[0.211]
-1.356***
-0.310
[0.477]
[1.243]
188
188
11.328
4.450
0.000
0.000
0.249
0.500
Pooled OLS
固定効果モデル
国語B
2007-2010年度 2007-2010年度
-0.485***
-2.928***
[0.179]
[0.403]
-0.139*
-0.132
[0.076]
[0.094]
0.106
-1.046
[0.121]
[0.388]
2.409***
-5.009
[0.839]
[2.752]
-0.149
-0.607**
[0.142]
[0.229]
-0.998*
-0.625
[0.531]
[1.567]
188
188
4.628
2.009
0.000
0.000
0.105
0.436
Pooled OLS
固定効果モデル
(注)括弧内([ ])は標準誤差である。***、**、* はそれぞれ1%水準、5%水準、10%水準で有意で
あることを示している。
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まず、国語 A とは、基礎的知識力を問う A 科目の偏差値を被説明変数とした研究で、国語 B と
は、知識応用力を問う B 科目の偏差値を被説明変数とした研究である。国語 A、B ともに学級規
模の符号はマイナスで、非常に有意な結果となった。Pooled OLS の結果からは、県別の固定効果
をみていないということもあり、兄弟姉妹数や、朝食摂取率でも想定通りの有意な結果を得られて
いる。一方固定効果モデルでは、県別の固定効果を反映することによって自由度調整済決定係数は
上昇するが、学級規模以外の説明変数は県がもたらす個別要因に吸収され、有意でないという結果
になっている。Pooled OLS においても固定効果モデルにおいても、学級規模が一貫して 1%水準で
有意であり続けたという結果から、少人数学級の有用性は頑健であることが分かる。
符号条件が予想と一致しなかった説明変数について記述する。国語 A の Pooled OLS と固定効果
モデル、国語 B の固定効果モデルにおいて自宅学習率がマイナスの符号条件で有意となっている。
これは、公立学校教育レベルの低い県ほど家庭が熱心に教育にとりくみ、塾や家庭教師などの学校
外教育に投資する傾向にあるのかもしれないと考えることができる。全国学力・学習状況調査の都
道府県別集計では、国立・私立中学校を対象外としていることの影響も一因であろう。
5.2 数学の正答率要因分析
次に、数学 A・B についての結果をみていく。数学A・Bの係数推定結果が「表 3」である。
表3 数学の係数推定結果
学級規模
離婚率
実質県民所得
朝食摂取率
自宅学習率
兄弟姉妹数
サンプル数
F統計量
Prob(F統計量)
Adjusted-R²
推定モデル
数学A
2007-2010年度 2007-2010年度
-0.714***
-1.357***
[0.171]
[0.276]
-0.136*
-0.018
[0.073]
[0.064]
0.494***
1.971***
[0.115]
[0.265]
2.726***
-2.064
[0.799]
[1.884]
-0.669***
-0.725***
[0.136]
[0.182]
-1.226**
-0.642
[0.505]
[1.073]
188
188
10.806
7.871
0.000
0.000
0.241
0.656
Pooled OLS
固定効果モデル
数学B
2007-2010年度 2007-2010年度
-0.238
-1.672***
[0.166]
[0.330]
-0.164**
-0.104
[0.071]
[0.077]
-0.029
-1.166
[0.112]
[0.317]
1.891**
-6.431
[0.779]
[2.253]
-1.046***
-1.519***
[0.132]
[0.218]
-1.166**
-0.063
[0.493]
[1.283]
188
188
11.65
4.512
0.000
0.000
0.278
0.499
Pooled OLS
固定効果モデル
(注)括弧内([ ])は標準誤差である。***、**、* はそれぞれ1%水準、5%水準、10%水準で有意で
あることを示している。
数学 A とは、基礎的知識力を問う A 科目の偏差値を被説明変数とした研究で、数学 B とは、知
識応用力を問う B 科目の偏差値を被説明変数とした研究である。数学でも国語と同様に、数学 A・
B ともに学級規模の符号条件はマイナスで、非常に有意な結果となった。Pooled OLS の結果から
は、県別の固定効果をみていないということから、兄弟姉妹数や離婚率、朝食摂取率でも有意な結
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果を得られている。数学 A と数学 B を比較したところ、数学 A では Pooled OLS と固定効果モデ
ル共に、学級規模は 1%水準で有意となっているのに対し、数学Bでは固定効果モデルのみ 1%水
準で有意となっている。さらに後述する追加モデルの結果からも、数学 A では 6 モデルの内 4 つ
のモデルが 1%水準で有意であったのに対して、数学 B では、6 モデルのうち 2 つのモデルが 1%
水準で有意と、数学 A に対して約半数の結果になっていることがわかる。このことから、数学に
関しては応用的思考力を問う B 科目よりも基礎知識力を問う A 科目の内容習得において、少人数
学級がより有意に作用すると言える。
国語と数学を比較すると、学級規模に関する有意性が高いのは、国語 A・B と数学 A である。
国語は A・B ともにほぼすべてのモデルで学級規模の縮小によるプラス効果が1%水準で有意なの
に対し、数学 B では 1%水準で有意なのは半分に満たない。このことから数学の応用力は、学級規
模の縮小による効果よりも、ひらめきといった個人的な能力によるところが大きいのではないかと
考える。
5.3 推定結果の頑健性
我々の分析は、既存研究と比較した場合、4年間の時系列、全国 47 都道府県のクロスセク
ションからなるパネルデータを用いて、国語と数学を合わせて、上記 8 モデルに加え、下記 24 モ
デルを合わせて 32 モデルで、少人数学級の係数が有意に安定して負となることを示したことから、
少人数学級が正答率アップに寄与していることを明確にできたと考える。
なお、今回の分析で用いた固定効果モデルや Pooled OLS では、推計値が負になったり、100 を
超えたり、誤差項が正規分布しないために、偏りのある推定結果になってしまう可能性がある。そ
こで、プロビットモデルやロジットモデルのように潜在変数という概念を用いて、推定結果が異な
らないか検証を行った。上限を log100 下限を 0 と設定し、パネルトービットモデル(途中打ち切
り回帰モデル)で分析を行ったところ、Pooled OLS と全く同様の結果を得た。これは、被説明変
数として県別の正答率を使用しているため、被説明変数の推定結果が、負になったり 100 を上回っ
たりすることが無かったからだと推定できる。このことからも、我々の分析結果は頑健であると言
える。
また、今回の分析は中学三年生を対象としたものであり、中学三年生時点までのさまざまな要因
で学力格差が生じているとも考えられる。しかし本稿では、単にその時の学級規模のみを考慮した
わけではなく、その他の変数として 8 変数を考慮しており、自由度修正済み決定係数(固定効果モ
デル)で 41.1%から 72.9%を捉えているとともに、全 32 モデル中 24 モデルで学級規模が小さいほ
ど有意水準1%で偏差値が上昇しており、極めて有意である。さらにこの分析はパネル分析である
ので、クロスセクションのみならず、時系列でも学級規模の縮小が偏差値上昇につながると判断さ
れる。
上記で結論のみ記述した推定結果の頑健性を示すために、その他のモデルについても記述する。
「表 4」を参照すると、国語に関して学級規模のマイナスという符号要件は 12 モデルのうち全ての
モデルで満たされており、全てのモデルにおいて有意であり、そのうち 11 モデルは1%水準で有
意である。このことから、少人数学級は国語の得点率に関して大変有用に作用することが分かる。
また「表 5」から、数学に関しても学級規模の符号要件は全てのモデルで満たされており、12 モデ
ルのうち 6 モデルにおいて 1%水準で有意という結果を得た。
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表4 国語の正答率要因分析2(追記)
国語A
朝食摂取率
model1
-1.021***
[0.109]
0.017
[0.164]
3.051***
[0.001]
-
自宅学習率
-
兄弟姉妹数
-
就職率
通塾率
0.538***
[0.043]
-
教育費
-
0.022
[0.042]
-0.081
[0,002]
-
サンプル数
Adjusted-R²
推定モデル
188
0.588
固定効果モデル
188
0.193
Pooled OLS
model1
-6.53***
[0.258]
-0.182**
[0.342]
0.191*
[0.002]
-
model2
-2.971***
[0.378]
-0.140
[0.112]
-1.792***
[0.004]
-
0.034
[0.114]
-
-0.467*
[0.185]
-1.053
[27.008]
0.740***
-
学級規模
離婚率
実質県民所得
学級規模
離婚率
実質県民所得
朝食摂取率
自宅学習率
兄弟姉妹数
就職率
通塾率
教育費
サンプル数
Adjusted-R²
推定モデル
-0.042
[0.111]
-0.256***
[0.070]
-0.410
[4.660]
188
0.314
Pooled OLS
model2
-0.431***
[0.101]
-0.171**
[0.172]
0.383***
[0.001]
0.452
[0.162]
-0.525***
[0.064]
-
model3
-1.502***
[0.165]
-0.019
[0.158]
2.491***
[0.002]
1.864
[0.397]
-0.630***
[0.097]
0.115
[0.043]
-
model4
-0.082*
[0.086]
-
model5
-0.560***
[0.138]
-
model6
-1.508***
[0.166]
-
2.241***
[0.001]
-
0.333***
[0.002]
2.021**
[0.321]
-0.642***
[0.084]
-1.416***
[0.068]
-
2.533***
[0.002]
-
-1.971***
[0.026]
-
188
188
0.729
0.702
固定効果モデル 固定効果モデル
国語B
model3
model4
-2.961***
-1.569***
[0.214]
-0.135
[0.320]
-1.825***
[0.001}
-2.276
[0.326]
-0.361
[0.112]
-1.237
[1.242]
0.686***
[0.084]
-1.532***
-
-
-
188
0.500
固定効果モデル
188
0.502
固定効果モデル
188
0.411
固定効果モデル
-0.034
[3.416]
188
0.212
Pooled OLS
model5
-0.640***
[0.256]
-0.133*
[0.344]
0.114
[0.002]
2.055***
[0.430]
-0.083
[0.158]
-0.036
[0.118]
-0.268*
[4.690]
188
0.217
Pooled OLS
-0.704***
[0.098]
0.166
[0.040]
188
0.727
固定効果モデル
model6
-2.337***
[0.379]
-0.087
[0.341]
-2.489***
[0.004]
-3.333
[0.881]
-0.462
[0.231]
-0.754***
[0.187]
-1.794***
[0.231]
188
0.604
固定効果モデル
(注)括弧内([ ])は標準誤差である。***、**、* はそれぞれ1%水準、5%水準、10%水準で有意である
ことを示している。
2 就職率:中学三年生の中で高校に進学せず、就職する人の割合(各都道府県統計局[%]
) 通塾率:塾にかよっ
ている、または家庭教師を雇っている人の割合(全国学力・学習状況調査[%]) 教育費:生徒一人あたりの
県別教育費(各都道府県統計局[千円])
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表5 数学の正答率要因分析(追記)
数学A
朝食摂取率
model1
-1.021***
[0.173]
0.017
[0.191]
3.051***
[0.002]
-
家庭学習率
-
兄弟姉妹数
-
就職率
通塾率
0.538***
[0.173]
-
教育費
-
0.022
[0.064]
-0.081
[0.042]
-
サンプル数
Adjusted-R²
推定モデル
188
0.588
固定効果モデル
188
0.193
Pooled OLS
model1
-0.280***
[0.207]
-
model2
-1.704***
[0.360]
-1.619***
[0.200]
-
就職率
0.061
[0.001]
2.378***
[0.289]
-1.046***
[0.125]
-0.978**
[10.003]
-
通塾率
-
-1.216**
[0.175]
-0.551
[25.732]
0.997***
[0.186]
-
教育費
-
-
サンプル数
Adjusted-R²
推定モデル
188
0.259
Pooled OLS
188
0.711
固定効果モデル
学級規模
離婚率
実質県民所得
学級規模
離婚率
実質県民所得
朝食摂取率
家庭学習率
兄弟姉妹数
model2
-0.431**
[0.137]
-0.171**
[0.184]
0.383***
[0.001]
0.452
[0.230]
-0.525***
[0.057]
-
model3
-1.502***
[0.194]
-0.019
[0.185]
2.491***
[0.002]
-1.864
[0.466]
-0.630***
[0.114]
0.115
[0.101]
-
model4
-0.082*
[0.169]
-
model5
-0.560***
[0.168]
-
model6
-1.508***
[0.193]
-
2.241***
[0.169]
-
0.333***
[0.001]
2.021**
[0.240]
-0.642***
[0.091]
-1.416***
[7.270]
-
2.533***
[0.761]
-
-1.971***
[0.038]
-
188
188
0.729
0.702
固定効果モデル 固定効果モデル
数学B
model3
model4
-0.220*
-0.522*
[0.236]
[0.352]
6.690
[0.366]
0.229**
[0.001]
-1.387
-15.96***
[0.130]
[10.383]
-0.397
[8.383]
-0.292***
[0.061]
-0.399**
[4.500]
188
0.371
Pooled OLS
-0.034
[0.043]
188
0.212
Pooled OLS
model5
-0.467*
[0.261]
-1.603***
[0.001]
-
-
-
-0.896
[0.061]
-
-
-
1.580***
-1.729***
-
188
0.487
固定効果モデル
188
0.719
固定効果モデル
-0.704***
[0.094]
0.166
[0.099]
188
0.727
固定効果モデル
model6
-0.180*
[0.356]
-0.189***
[0.338]
0.079
[0.004]
0.222
[0.864]
-0.854***
[0.210]
-1.241***
[25.689]
0.158***
[0.185]
188
0.314
Pooled OLS
(注)括弧内([ ])は標準誤差である。***、**、* はそれぞれ1%水準、5%水準、10%水準で有意である
ことを示している。
6. まとめ
本稿では、少人数学級の有用性を確かめるべく、さまざまな説明変数を加えて、4 年の時系列・
47 都道府県のクロスセクションで、正答率の要因分析を行った。その結果、国語・数学ともに少
人数学級は得点率に大変有効に作用するということが明らかとなった。さらに、数学は応用的思考
力よりも基礎知識力の習得において、少人数学級が有意に作用することが結果から考察できる。ま
た、調査を経る中で、通塾率や自宅学習率はマイナスの符号条件で有意となる結果を得た。このこ
とから、公立中学の学力レベルの低い県ほど、家庭が子どもを塾に通わせ、家庭学習の時間を確保
する等、熱心に学校外教育に投資する傾向にあると考察できる。
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7. 将来課題
将来課題として、本稿では中学 3 年生について分析を行ったが、今後小学校 6 年生についても同
様の分析を行い、中学校 3 年生より低年齢の時期についても少人数学級の効果を分析したい。それ
により赤松・中村(2011)の「学級規模の縮小はより低い学年で効果を発揮しやすいことが示唆さ
れる」という研究を発展させることにもなると考える。また、今回入手不可能であった説明変数
(例えば、私立中学校進学率など)を増やし、より有用な研究に発展させたい。さらに、学級規模
は少なければ少ないほど良いのかという観点から、最適規模の問題についても研究していく必要が
あると考える。
【参考文献】
赤林英夫・中村亮介(2011)「学級規模縮小が力に与えた効果の分析-横浜市公開データにもとづ
く実証-」KEIO/KYOTO GLOBAL COE DISCUSSION PAPER SERIES
井上 ゆり絵・小林 聖政・中谷 圭祐・宮崎 拓磨・野城 弓美子・吉村 友里・米山 英謙(2012)「習
熟度別授業、少人数学級は 本当に学力を高めるか ~ TIMSS2007を用いた実証分析~」
WEST 論
文研究発表会 2012
上野有子・三孝一郎・小塩隆士・佐野晋平(2007)「学力調査結果から見た学校選択制、少人数指
導習熟度別指導の効果に関する実証分析」経済財政ディスカッション・ペーパー
厚生労働省「国民生活基礎調査」(2007 / 2010)
清水克彦(2002)「算数 •数学の学力調査結果」『国立教育 政策研究所紀要』第131 号,pp.62-70
内閣府(2011)「平成23年版食育白書」
二木美苗(2012)「学級規模が学力と学習参加に与える影響」内閣府経済社会総合研究所『経済分
析』186号pp.30-49
文部科学省「全国学力・学習状況調査」(2007 ~ 2010)
47都道府県各統計局「県民経済計算」(2007 ~ 2010)
Eric A. Hanushek“The Economics of Schooling: Production and Efficiency in Public School”Journal of
Economic Literature, Volume 24, Issue 3(Sep., 1986),pp. 1141-1177
Finn, Jeremy D., and Charles M. Achilles,“Answer and Question about Class size: A Statewide Experiment”
American Educational Research Journal XXV Ⅲ(1990)pp. 557-577
Forger, John, and Carolyn Breda“Evidence from Project STAR about class size and Student Achievement”
Peabody Journal of Education, LXVⅡ (1989)pp. 17-33
Krueger, Alan B.(1999)
“Experimental Estimates of Education Production Functions”The Quarterly
Journal of Economics. vol.114 no.2 pp.497-532
Word, Elizabeth, J. Johnston, Helen Bain, et al.,“The state of Tennessee’s Student/Teacher Achievement
Ratio(STAR)Project: Technical Report 1985-1990”
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〔研究ノート〕
高齢化の進行と地方自治体の経常的経費
A Relationship Between the Current Expenditure
of Local Governments and Aging Progresses
中川 暁敬*
Abstract
Aging progresses, in Japanese local governments, the cost of welfare has been pressure on the budget. The
reason is that, the demand of residents and system of the country has increased the cost of welfare. In this
paper, we assumed that budget of the local governments are determined by the demand of residents. We
examined the relationship between the current expenditure of local governments and aging by median voter
hypothesis. At this time, we assumed that median voter is median age of 20 years of age or older. For the
analysis of public demand function, we used the data of the local governments that have less than 100,000
and more than 50,000 populations. We were confirmed that median voter hypothesis is applied in these small
and medium cities. From the results of this analysis, we were confirmed that budget of these governments are
increased by median age of 20 years of age or older, average salary of civil servants and population. On the
other hand, these are decreased by local tax rate and population density.
key words:aging(高齢化)、median voter hypothesis(中位投票者仮説)、
small and medium cities(中小都市)
1.はじめに
我が国人口の高齢化が進行する中、基礎自治体である市町村の過去 10 年程度の決算データによ
ると 1、住民一人当たりの経常的経費 2 は増加の一途をたどっている。こうした市町村における住民
一人当たり経常的経費の増加は、法律や国の各種制度設計が、高齢化の進行に伴い自動的に経常的
経費を増加させる仕組みになっていることが原因であると捉えることもできる。
例えば本田(1999)は、岐阜県大垣市を対象として、主要な歳出項目を人口構成の変化に影響を
受ける部分と固定的な部分とに分け、前者については過去の動向から単価を求めそれに将来の老齢
人口や年少人口を乗じるという方法で推計を行い、また後者については、外生的に GDP 成長率
(1%)を乗じ将来の歳出を推計するという方法を採用し、同市における高齢化の進行が歳出に及ぼ
す影響を推計している。しかし、経常的経費水準の決定に当たっては、国の法令に定められた制度
的要因のみならず、地域住民の公共サービスに対する需要の規模や内容によるところも大きいと考
* Nakagawa, Akinori 名古屋市立大学大学院経済学研究科博士後期課程、Nagoya City Univercity,(Graduate
School)
, Doctoral Program in Economics
1 平成 14 年度から平成 24 年度の間における市町村の経常的経費決算額全国計と、同期間における全国の高齢
化率の相関係数は 0.93。
2 本稿では人件費、物件費、維持補修費、扶助費、補助費等、公債費の合計額をいう。
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えられる。具体的には、市町村が国の定めた公共サービスに対して「上乗せ」「横出し」といった
追加的支出を行うことや、独自に行う医療サービス給付の実施等である。
そこで本稿では、地方自治体における歳出決定は、地域住民の公共サービスに対する需要を反映
して行われるとの認識に立つとともに、その代表的なモデルである「中位投票者仮説」を採用し、
その実証的検証を通じて、高齢化の進行と地方自治体の経常的経費との関係を考察する。具体的に
はまず、地方自治体の首長選挙及び地方議会議員選挙の選挙権 3 を持つ 20 歳以上の住民の中位年齢
に当たる住民(以下「中位年齢者」という。)を中位投票者とみなして、中位投票者仮説に基づく
経常的経費の決定式を構築する。続いて、人口 5 万人以上 10 万人未満の全国 272 市町村 4 のクロス
セクションデータを用いて、この決定式の有効性について実証的検証を行うこととしたい。その上
で、特定の自治体を抽出し、高齢化の進行が経常的経費の増加にどの程度影響を与えているか、当
該決定式を活用し検証する。
なお、本稿の以下の構成は、次のとおりである。まず 2 節では中位投票者仮説が成立するための
前提について検討し、それらの前提条件をよりよく充たす中位投票者の具体的な特徴づけとして、
通常用いられる「所得」よりも「年齢」がより適切と考えられること、また、中位投票者仮説の実
証的検証を行う際のサンプルとしては、人口 5 万人~ 10 万人程度の中小都市が適当と考えられる
ことを指摘する。続いて 3 節では、公共サービスに対する需要が、所得や公共サービスに関する単
位費用負担額(公共財価格)のみならず、住民の公共サービスと私的財間の選好パラメータを通じ
て、住民の年齢にも直接依存することを前提として、中位年齢者の公共財需要関数を設定し、これ
をもとに、経常的経費の決定式を導出する。それを受けて 4 節では、人口 5 万人以上 10 万人未満
の全国 272 市町村 5 のクロスセクションデータを用いて、3 節で導出した経常的経費の決定式を推
計し、導出した推計式の説明力や係数の有意性の検証を通じて、中位投票者仮説の有効性を検証す
る。
最後の 5 節では、高齢化の進行がどの程度市町村の経常的経費に影響を与えているかについて、
当該全国 272 市町村の中で最も高齢化率の低い愛知県長久手市と長久手市に隣接し、長久手市に比
べ 7%ほど高齢化の進行した尾張旭市を例にとり、4 節で導出した経常的経費の決定式を用いて検
証する。
2. 中位投票者仮説の前提条件と中位投票者の特徴づけ
この節では、地方自治体における歳出決定において、中位投票者仮説が有効なメカニズムとなっ
ていることについて分析する。
中位投票者仮説については、土居(2000)や長峯(1998)によると、「選択対象が 1 つ(1 次元)
で、すべての投票者の選好が単峰型(選択対象に大小関係がつけられ、個人にとって効用最大化点
から離れるほど効用が低下するという選好)であり、どの投票者も 2 つの選択肢について自由に投
票できるならば、多数決投票によって中位投票者の効用最大化点が安定的、支配的な社会的決定と
して選択される」と説明されている。以下では地方自治体の歳出決定において重要なプロセスとな
3 各自治体で執行される選挙の選挙権は、地方自治法第 18 条において「引き続き 3 カ月以上市町村区域内に住
所を有する者」との規定があるが、本稿においては当該居住要件を加味しないものとする。
4 人口規模は、平成 22 年国勢調査の結果による。
5 平成 22 年国勢調査によるため、平成 23 年 10 月 11 日に埼玉県川口市と合併した埼玉県鳩ヶ谷市についても
1 つの自治体としてカウントしている。
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る首長選挙に焦点を当て、中位投票者仮説が成立する各種前提が満たされているか検証することと
したい。
第 1 に、上記選挙の争点が「選択対象が 1 次元の連続した変数」で表わされているかの判断であ
るが、これは選挙の争点が自治体の経常的経費の規模であると考えられる場合には満たされるもの
と考えて差し支えないだろう。
このとき、安全保障や産業政策など国全体の政策課題や中央の政局等に争点が向かいがちな都道
府県や主要都市の首長選挙については、各自治体の経常的経費の歳出規模に有権者の関心が向いて
いるとは考えにくい。また、地方の町村規模の自治体の場合は、国や都道府県からの補助(歳入)
を目的とした事業の推進が選挙の争点となるケースも散見される。その一方で、中小都市の首長選
挙においては、住民の生活に直結する市の歳出規模をどの程度にするかが選挙の争点となっている
ケースが多いものと考えられ、本稿が研究対象としている人口 5 万人以上 10 万人未満の中小都市
においては、「選択対象が 1 次元の連続した変数」でなければならないという条件を満たしている
と考えられる。
第 2 に「すべての投票者の選好が単峰型」との前提であるが、これについては、図 1 が示すとお
り、公共支出(ないしは公共サービス)と私的消費(の合成)財に関して、通常右下がりで原点に
対して凸であり、かつ右上に位置するほど高い効用水準に対応する無差別曲線で表わされる選好を
各有権者が抱いていると仮定することで充たされるだろう。
図1 個人(有権者)の地方公共財に対する選好
私的財消費量
′
無差別曲線
A
O
効用水準
′
∗
公共財消費量
∗
′
B
∗
′
O
′
*
公共財消費量
(出所)長峯(1998)
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第 3 に「どの投票者も 2 つの選択肢について自由に投票できる」との前提であるが、これは市長
選挙における候補者は二人に絞られることが多く 6、かつ選挙のたびに有権者のニーズ(歳出規模)
により近い提案を行った候補者が当選することを考えると、前提を充たしていると判断できよう。
かくして、中小都市における首長選挙を通じた経常的経費の決定過程を想定すると、中位投票者仮
説が前提としている諸条件が充たされていると想定でき、本稿において人口 5 万人以上 10 万人未
満の中小都市のデータを用いて中位投票者仮説の検証を行うことの根拠は、ここに求められる。
次に実証的検証を行うため、中位投票者を具体的に特徴づける必要があるが、長峯(1998)や土
居(2000)といったこれまでの先行研究では、中位投票者を「中位所得者」とする研究が多かっ
た。これは、有権者の所得が高いほど公共支出に関する効用最大化点が所得の単調増加関数となっ
ているという想定に基づいている。
しかしながら、図 2(a)が示すとおり個人の所得が増加し、それに伴い予算制約線が右上にシ
フトしていく場合、A 点から B 点への移動に表わされるように、所得の増加と共に公共財の最適
消費点も右上に移動すると考えられる一方で、所得水準がある程度高くなると、B 点から C 点へ
の移動のように、公共財の最適消費点を左上に移動させてしまう可能性も考えられる。このよう
に、公共財の効用最大化点が所得の単調増加関数であり、それに伴い中位投票者を中位所得者に
よって特徴づけることができるという想定は極めて実証的な問題であり、自明の理であるとは言い
切れない。
図2(a) 図2(b)
私的財消費量(所得)
私的財消費量(所得)
若年者の無差別曲線
C
0
A
B
Y
公共サービスの消費量
または公共支出
0
中高年者の無差別曲線
O
公共サービスの消費量
または公共支出
そこで、本稿では中位投票者を「中位所得者」ではなく「中位年齢者」として特徴づけることと
する。その根拠としては、公共財の効用最大化点が異なるのは、所得水準の違いのみによるもので
はなく、効用関数における選好パラメータの相違(無差別曲線の形状の相違)によっても生じ、こ
の選好パラメータが有権者の年齢に(単調増加的に)依存していると想定することにより、公共財
の効用最大化点は、年齢の単調増加関数になると考えられるからである。
図 2(b)は、このような年齢の違いによる選好パラメータの相違を反映したグラフであるが、
公共財の効用最大化点が有権者の年齢の単調増加関数であるという想定も先験的に保証されるもの
6 総務省が発表した平成 23 年 4 月執行の第 17 回地方選挙結果調によると、当該市長選挙の競争率は改選定数
88 に対し候補者数 203 の 2.3 倍。
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ではなく、実証的に検証する必要がある。
そこでここでは、後段で中位投票者仮説の妥当性の検証に用いる人口 5 万人以上 10 万人未満の
中小都市の「住民一人当たり経常的経費」を当該自治体住民の公共財の効用最大化点とみなし、当
該中小都市の「納税者一人当たり所得」と「20 歳以上平均年齢」のいずれが「住民一人当たり経
常的経費」の単調増加関数となっているかを検証することにより、中位投票者を「中位所得者」と
「中位年齢者」のいずれに設定することがより適切であるかを判断していくこととしたい。
まず、「住民一人当たり経常的経費」と「納税者一人当たり所得」との関係性であるが、図 3 は
人口 5 万人以上 10 万人未満の全国 272 都市のデータをプロットした散布図である。
図3 住民一人当たり経常的経費と納税者一人当たり所得の関係
400
一
人
当
た
り
経
常
的
経
費
千
円
n=272、相関係数-0.517
350
y=484.4-0.073x
300
250
200
150
2000
2500
3000
3500
4000
4500
納税者一人当たり所得(千円)
(出所)平成 22 年度市町村別決算状況調、平成 22 年国勢調査、平成 25 年度市町村税課税状況等の調より筆者作成
図 3 を見ると、272 都市の「納税者一人当たり所得」の水準は 225 万円~ 425 万円余まで広がっ
ており、これと「住民一人当たり経常的経費」の間には負の相関関係が観察された。
図4 住民一人当たり経常的経費と20歳以上平均年齢の関係
400
一
人
当
た
り
経
常
的
経
費
千
円
350
300
250
n=272、相関係数 0.706
200
150
y=-535.3+15.13x
45.0
50.0
55.0
60.0
20歳以上平均年齢(歳)
(出所)平成 22 年度市町村別決算状況調、平成 22 年国勢調査より筆者作成
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次に、「住民一人当たり経常的経費」と「20 歳以上平均年齢」との関係性の検証についてである
が、図 4 は、人口 5 万人以上 10 万人未満の全国 272 都市のデータをプロットした散布図である。
図 4 をみると、272 都市の「20 歳以上平均年齢」はおよそ 47.5 歳~ 60.0 歳の間に分布しており、
「住民一人当たり経常的経費」との相関を見ると正の相関を示している。また、その相関係数は
0.706 と図 3 の「納税者一人当たり所得」の相関係数- 0.517 を上回っていることがわかる。以上
の検証結果から、少なくとも本稿で分析の対象としている人口 5 万人以上 10 万人未満の中小都市
においては、有権者の効用最大化点は所得の増加関数とみなすよりも、むしろ有権者(20 歳以上
人口)の平均年齢の増加に伴って単調増加すると想定したほうが、より妥当性が高いといえる。
そこで本稿では、中位投票者を「中位所得者」ではなく「中位年齢者」に位置する住民と位置付
け、中位投票者仮説の検証を行い、高齢化と経常的経費との関係を明らかにする。
3. 中位投票者仮説検証のためのモデルの構築
本節では、2 節において住民一人当たりの公共財需要量(経常的支出)が住民の年齢と正の相関
を持つことが実証的に検証されたことと、1 節に示したとおり市町村の過去 10 年程度の住民一人
当たりの経常的経費が高齢化の進化と共に増加の一途をたどっていることから、公共サービス全般
に対する需要は(選好パラメータを通じて)有権者の年齢に直接依存していると想定し、「中位投
票者」を「中位年齢者」とする中位投票者モデルを構築することにより地方自治体の経常的経費の
決定式を導出する。
まず個人の i 効用関数と予算制約式を(1)式及び(2)式のとおり想定する。ここで xi は個人 i
の私的財消費量、qi は公共財消費量、ai は年齢、yi は所得水準、ti は地方税率(公共財の単位税率)、
c は公共財の単位生産コスト、Q は地域全体に供給される公共財の量とする。
(1) Ui = U(x
i
i , qi ; ai)
(2) yi = xi + ti cQ
次に個人の公共財消費量(qi)と当該自治体全体に供給される公共財の量(Q)との関係を(3)
式のように表現する。このとき、δ は公共財の競合性パラメータであり、δ = 0 のとき個人の公共
財消費量は qi = Q となり、この財が完全に非競合的な性質を持つことが示され、また δ = 1 のと
き qi = Q/n となり、完全に競合的な性質を表わす。
(3) qi = n-δQ すなわち Q = qi nδ
また、(2)式の予算制約式は、(3)式を代入することにより次のように表わすことができる。
(4) yi = xi + ti cnδqi
(4)式は、ti cnδ が有権者にとって公共財の価格(pi)に相当することを示しているため、(4)式
の予算制約式において pi = ti cnδ とし、この制約の下で(1)の効用関数を最大化することにより、
一般的に次のように公共財需要関数を導出することができる。なお、ここにおいて ai は選好パラ
メータを用いて公共財の需要量に影響を及ぼす変数として与えている。
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(5) qi = q(y
i
i, pi ; ai)
本稿では、公共財に対する有権者の需要に基づいて公共支出の決定に関する実証的検証を行うこ
とを意識して、(5)式の公共財需要関数を以下のように特定化する。
(6) qi = byiα piβ aiγ
ここで、α は公共財需要の所得弾力性、β は価格弾力性、γ は年齢に関する弾力性を表わし、
b>0 とする。
次に、(6)式から経常的経費(cQ)に関する決定式を導くために、(6)式の左辺(qi)に(3)
式を代入し、pi = ti cnδ であることを考慮した上で両辺を n-δ で除し、さらに両辺に公共財単位当た
りコスト(c)を乗じることにより、次の(7)式を得る。
(7) E = cQ = byiα aiγ tiβ c(1+β)n(1+β)δ
ここで、(7)式の両辺の対数をとることにより、公共支出の決定に関する次のような対数線形式
を導くことができる。
δ 1 + β)lnn
(8) lnE = lnb + αlnyi + γlnai + βlnti +(1 + β)lnc + (
本稿では、公共支出を経常的経費に限定し、その水準は中位年齢者の公共サービス需要によって
決定されるという中位投票者仮説を想定しているため、(8)式における yi、ai、ti は当該自治体に
おける中位年齢者の所得 ym、年齢 am、単位地方税率 tm であるとみなすことができる。ただし、(8)
式については、右辺に公共財の生産コスト(c)と中位年齢者の地方税率(tm)が説明変数として
含まれており、これらの統計データを実際に収集することは困難であることから、新たに 2 つの説
明式を想定しこれらを(8)式の c および tm に代入することにより、c と tm に関するデータ収集の
必要性を回避することとする。
まず、中位年齢者の地方税率(tm)については次のように考える。
(2)式のように表現された予算制約式から、tm cQ は中位年齢者(世帯)の負担する当該自治体
の地方税額と解釈することができるが、これは納税者 1 人当たりの平均地方税額に等しいものと想
定する。すなわち、当該自治体の地方税収総額を T とし納税者数の代理指標として当該自治体の
世帯数 nh をとるとき、
(9) tm cQ = T/nh
と想定できる。このとき、中位年齢者の地方税率は、
(10) tm = T/nh cQ = 1/nh(cQ/T)
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と表わされるが、本稿では、cQを経常的経費としているため、cQ/Tは、経常収支比率7(r)で近
似できる。それゆえ(9)式の想定の下では、
(11) tm = 1/rnh
と表すことができる。
次に、公共財の単位コスト(c)については、長峯(1998)にならって当該自治体の公務員平均
給与(WP)と人口密度(DN)によって説明されうると想定し、以下の式を導出している。
(12) lnc = lnb' +θlnWP +χlnDN
(12)
以上より、
(8)式の公共財の単位コスト(c)及び中位年齢者の地方税率(tm)に(11)式、
式を代入し整理することにより、最終的に以下の経常的経費決定式を得る。
(1/rnh)
(13) lnE = lnb +(1 + β)lnb' + αlnym + γlnam + βln
χlnDN + (
δ 1 + β)lnn
+(1 + β)θlnWP +(1 + β)
4. 中位投票者仮説の妥当性の検証
本節では、前節で導出した経常的経費の決定式を推計し、中位年齢者を中位投票者とした場合の
中位投票者仮説の妥当性を実証的に検証する。
ここで推計に使用するデータは、前出の人口 5 万人以上 10 万人未満の全国 272 市町村における
クロスセクションデータであるが、各説明変数のデータ抽出元は巻末に記載したとおりである。ま
た、被説明変数となる各市町村の歳出データ(E)については、「性質別歳出」のうち経常的経費
を構成する「人件費、物件費、維持補修費、扶助費、補助費等、公債費」の合計額を使用する。
次に、各説明変数に関する係数の符号について理論的予想を述べておこう。
まず中位年齢者所得(ym)の対数項の係数 α については、公共財が正常財であれば正となること
が予想されるが、2 節で指摘したように、中位年齢者所得が比較的高い水準にあれば、公共財は劣
等財となる可能性も考えられるため、α の符号については、先験的予想を与えることは難しいが、
マイナスとなる可能性も否定できない。
次に中位年齢(am)の対数項の係数 γ については、2 節において「20 歳以上平均年齢」と「住民
一人当たり経常的経費」との相関を見た結果から、プラスの符号を持つものと予想される。
次に中位年齢者の地方税率(tm = 1/rnh)の対数項の係数 β については、公共財需要の(自己)価
格弾力性を表していることから、通常は、負となるものと予想される。問題は β <- 1 となる可能
性があるか否かという点であるが、(1 + β)は、公共財の競合性パラメータ(δ)との積の形で人
口(n)の対数項の係数を構成しており、δ は 0 と 1 の間の値と考えられることから、β <- 1 であ
ると人口の増加は経常的経費総額を減少させるという奇妙な結果をもたらすこととなる。以上のこ
とから- 1 < β < 0 と予想される。
次に公務員平均給与水準(WP)の対数項に関する係数(1 + β)θ については、公共財の生産が労
7 地方公共団体の財政の硬直度を表す指標で、毎年経常的に収入される使途の制限のない一般財源が、人件費
や扶助費、公債費など毎年固定的に支出される経常的歳出にどの程度充当されているかを示す比率のこと。
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働集約的であり、公務員の給与水準の高さが公共財の生産コストの増加をもたらすと考えられるこ
とから、θ は正であり、また上述のように(1 + β)> 0 と予想されるため、
(1 + β)θ は正の値をと
るものと予想される。
最後に人口密度(DN)の対数項に関する係数(1 + β)χ については、人口規模が同一であれば、
市域が狭く人口密度の高い自治体の方が効率的に公共財の生産を行えると考えられることから、χ
は負であると予想され、また上述のように(1 + β)> 0 と考えられることから、(1 + β)χ は負の符
号を持つと考えられる。
以上の考察を踏まえて(13)式の経常的経費の決定式の各説明変数の対数項の係数を構成するパ
ラメータの符号や値に関する理論的予想を要約すると、次のように表わされる。
(14) α:不明(負の可能性あり)、- 1<β <0 、γ>0 、0 ≦ δ≦1 、θ>0 、χ<0
以下では、人口 5 万人以上 10 万人未満の 272 市町村のデータを用いて、(13)式の経常的経費決
定式を OLS により推計した結果を示す。
※※
※※
※※
※※
(15) lnE = 2.974-0.181lnym + 0.543lnam-0.363ln(1/rnh)
8
(2.464) (- 2.914) (3.343) (- 4.483)
※※
※※
※※
9
+ 0.323lnWP-0.088lnDN + 0.652lnn (R2 = 0.779)
(2.800) (- 8.388) (7.294) (15)式に示された推計結果をみてみると、自由度修正済決定係数は 0.779 とミクロのクロスセ
クションデータを用いた推計としてはかなり高く、また各説明変数の係数推定値もすべて 5%以上
の有意水準で有意となっている。さらに係数推定値の符号や値は、公共財の競合性パラメータ δ を
除き、すべての(14)の理論的予想と合致している。
また、(15)式の推計結果から δ の推定値を計算すると δ = 1.02 となり、理論的想定の範囲を超
えているものの、推定値は極めて 1 に近く、公共財がほぼ完全な競合性を持っていることを示して
いる。これは、本稿で検証の対象としている公共財が経常的経費の公共サービスであり、その多く
は対個人サービスにより構成されていることに起因しているためと考えられる。
以上のように、(15)式の推計結果は推計の統計的精度からみても推計式のもととなった理論モ
デルとの整合性からみても、極めて有効性の高い結果であると考えられ、少なくとも経常的経費を
対象とした中小都市における公共支出決定を考える限り、中位年齢者を中位投票者とする中位投票
者仮説の妥当性は、実証的に確認されたとみなすことができる。
5. 住民の高齢化が自治体歳出に与える影響の検証
本節では、高齢化の進行が経常的経費の増加にどの程度影響を与えているか、4 節で導出した経
常的経費の決定式の推計結果を用いて、第 1 節で紹介した愛知県長久手市と隣接する尾張旭市 10 を
8 定係数推定値の下の( )内の値は t 値を示している。また定係数推定値に付された※※は、
当該推定値が 5%
水準で有意であることを示している。
9 R2 は自由度修正済決定係数を示している。
10 尾張旭市は長久手市の北側に隣接し、いずれも名古屋のベッドタウンであるという性格から、就業構造およ
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例にとり検証する。検証の方法は、以下のとおりである。
① 長久手市および尾張旭市における平成 17 年及び平成 12 年 11 の中位年齢(am)データを抽出
し、当該データを平成 22 年賃金構造基本統計調査の賃金データにあてはめることで、平成 17
年及び平成 12 年の中位年齢者所得(ym)を導出する。
② (15)式に長久手市および尾張旭市における平成 22 年度の各説明変数データを代入し、両市
における平成 22 年度の経常的経費推計値を導出する。
③ ②で代入した各説明変数データのうち中位年齢に関するデータ以外のデータを固定し、中位
年齢(am)及び中位年齢者所得(ym)についてのみ①で導出した平成 17 年、平成 12 年のデー
タを代入する。これにより平成 17 年、平成 12 年当時から年齢構成が変化しなかった場合を想
定した両市の平成 22 年度の経常的経費推計値を導出する。
④ ②で導出した平成 22 年度経常的経費推計値と③で導出した年齢構成に関する条件付きの平
成 22 年度経常的経費推計値を比較することにより、高齢化の進行が経常的経費の増加にどの
程度影響を与えたか検証する。
以上の手順により導出したデータを年代順に並べたものが図 6 である。いずれの市でも 20 歳以
上中位年齢の高齢化に伴い、他の条件に変化がなくても、高齢化の進行のみによって経常的経費の
増加が生じることが示された。
また、長久手市と尾張旭市における経常的経費と中位年齢の弾性値を比べてみると、高齢化がそ
れほど進んでいない長久手市がほぼ 0.36 であるのに対し、高齢化の進行した尾張旭市においては
ほぼ 0.50 と高くなっていることから、高齢化が経常的経費の増加をもたらす度合いは、高齢化の
状況にかかわらず一定ではなく、より高齢化の進んでいる自治体の方がその度合いは大きいと考え
られる。このことは、1 節で述べたように、経常的経費の増加は高齢者人口の増加に伴って自動的
に増加する国の法制度によるところのみでなく、地方自治体における政治的プロセスを通じて地方
の支出政策が左右されている証左ともいえよう。
び税収が類似している都市である。区画整理事業が長久手市よりも早期に実施されていることから、長久手市
に比して人口の高齢化が進展している。
11 中位年齢の計算には 1 歳毎の人口データが必要であるため、平成 22 年から直近 2 回の国勢調査実施年であ
る平成 17 年および平成 12 年を採用した。
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図6(a) 高齢化が自治体の経常的経費に与える影響(長久手市)
46.0
11,000
10,800
経
常
的
経
費
総
額
10,600
百
万
円
9,600
10,400
10,650
10,505
10,289
42.8
10,200
10,000
41.2
9,800
弾性値 0.36
38.9
9,400
44.0
42.0
40.0
中
位
年
齢
38.0
歳
36.0
9,200
弾性値 0.35
9,000
平成12年データ
平成17年データ
34.0
平成22年データ
図6(b) 高齢化が自治体の経常的経費に与える影響(尾張旭市)
18,000
経
常
的
経
費
総
額
百
万
円
52.0
17,289
17,500
17,000
16,814
17,081
50.0
50.0
16,500
16,000
15,500
15,000
48.8
51.0
弾性値 0.50
49.0
48.0
47.0
47.3
弾性値 0.49
14,500
14,000
中
位
年
齢
歳
46.0
45.0
44.0
平成12年データ
平成17年データ
平成22年データ
6. 終わりに
本稿では、地方自治体における歳出決定は、地域住民の公共サービスに対する需要を反映して行
われるとの認識に立ち、当該自治体の有権者の「中位年齢者」を中位投票者とする「中位投票者仮
説」を採用することで、実証的検証を通じて高齢化の進行と地方自治体の経常的経費との関係性を
考察した。また、高齢化が経常的経費の増加をもたらす度合いについては、高齢化の状況にかかわ
らず一定ではなく、より高齢化の進んでいる自治体の方がその度合いは大きいとの結果を得た。
我が国の高齢化は今後更に進行していき、それに伴う更なる経常的経費の増大が確実視されてい
るが、それ対応する万全な手法については確立してはいない。今後は自治体歳出や歳入の将来推計
を行うことで、各自治体に合った自治体財政の健全化を如何に図っていくかが地方財政研究に求め
られることとなろう。以上の点を今後の研究の課題としたい。
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【参考文献】
長峯純一(1998)「公共財への需要と集合的選択、公共財の集合的選択と配分効率性、集合的選択
と公共財需要関数(Ⅰ)『公共選択と地方分権』第 2 章~第 4 章(P30 ~ P93)」勁草書房
土居丈朗(2000)「地方歳出における中位投票者仮説の検証『地方財政の政治経済学』第5章P135
~ P173」東洋経済新報社
本田 豊(1999)「少子高齢化が地方財政に与える長期効果に関する分析」 『立命館経済学』第48
巻第4号
【4節 決定式の推計に用いた各説明変数データの抽出元】
(1)人口(n:人)平成22年国勢調査(総務省)
(2)人口密度(DN:人/km2)平成22年国勢調査(総務省)
(3)20歳以上中位年齢(am:歳)平成22年国勢調査(総務省)
(4)世帯数(nh:世帯)平成22年国勢調査(総務省)
(5)公務員平均給与水準12(WP:千円)平成22年度市町村決算状況調(総務省)
(6)経常収支比率(r)平成22年度市町村決算状況調(総務省)
(7)中位年齢者所得13(ym:千円)平成22年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)
12 性質別歳出内訳にある「職員給」の数値を「職員総数」で除して算出。
13 各市町村の所属する県別の賃金データにおける「きまって支給する現金給与額(産業計、男女計、企業規模
10 人以上)」を 12 倍し、
「年間賞与その他特別給与額」を加えたものを年間所得額とする。次に、当該県別賃金デー
タの中位年齢を挟む上下の年齢とそれに対応する年間所得額から、年齢による比例配分を年間所得額に適用し
て中位年齢者所得(ym)を求める。
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〔研究ノート〕
若年正社員の先の見通しと就業継続意欲
-若年者のキャリア意識に着目して-*
Young Full-Time Employees’Future Prospects of Work and their Willingness to
Work at the Same Company
菅原 佑香** Abstract
While Japanese firms hire and train new graduates as long-term employees, approximately 30% of the newly
hired graduates quit jobs within the first three years. However, after which they are often unable to obtain the
opportunity of a better job change. Therefore, the anxiety and stress experienced by young full-time employees
has increased. In addition, in recent years, as the recruitment procedure of companies have been becoming strict,
youth employment consciousness has been increasing.
This study examines factors affecting young employees’prospects and factors promoting job commitment by
applying a probit model and ordinary least squares
(OLS)
to the 2003 data on full-time employees under 35, and
shows the following:
1)
women and men view job stability differently; 2)
commitment to firms suffers due to lack of
communication, inappropriate job placement, and feelings of inadequacy. It also reduces their willingness to
continue working in the same company; 3)
men report more work problems but are more committed to jobs than
women. This study has suggested that it is important to focus on the problems of young employees, and how to
tackle work and to educate young employees in each workplace unit.
key words:Young Full-Time Employees(若年正社員)、Willingness to Job Continuity(就業継続意
欲)、Prospect(先の見通し)、Career Consciousness(キャリア意識)
1.はじめに
若者の高い離職率が問題となっている。この問題は、1990 年代から、中卒の 7 割、高卒の 5 割、
大卒の 3 割が入社後 3 年以内に離職する「七、五、三問題」として取り上げられてきた。新規学卒
者(大卒者に限る)の離職は、2007 年以降、やや減少しているが(「平成 25 年労働市場分析レポー
ト」)、これは景気の悪化により、より良い就職先が見つからなかった結果とも考えられるだろう。
実際に正社員として就職した者のうち、約 20%は現在正社員以外の職に就いており(「平成 21 年
* 本研究にあたり、東京大学社会科学研究所 附属社会調査・データアーカイブ研究センター SSJ データアー
カイブから『若年者のキャリア形成に関する実態調査、2003 年(三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング(寄託
時 UFJ 総合研究所)』の個票データの提供を受けた。また、永瀬伸子教授(お茶の水女子大学)、斎藤悦子准教
授(お茶の水女子大学)、島貫智行准教授(一橋大学)、松浦司准教授(中央大学)、水落正明准教授(南山大学)
からコメントをいただいた。記して謝意を表したい。残る誤りは、筆者に帰するものである。
** Yuka Sugawara,(お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科 博士後期課程)
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若年者雇用実態調査」)、転職により正社員の地位から転がり落ちる可能性がある。これらの先行き
不安から、実際に転職に至らないまでも、若年正社員の不安感やストレスは高まっている可能性が
ある。
近年、企業の採用が厳しくなる中、就職までのプロセスにおいて、若者は企業への志望理由を考
え、仕事に対する高い意識を持つことを求められるようになっている。また学校側でのキャリア教
育という言葉を頻繁に耳にするようになった。その結果、仕事に対して「仕事の面白さ」や「専門
能力」などを求める傾向が高まっている(日本生産性本部、2010 )。しかし、そういった就業意識
の高さに関係なく、入職後に与えられる仕事内容は、若者の希望から大きく乖離している可能性が
ある。近年の若者は、こういった就職活動のプロセスを経ることによって、就業意識がより研ぎ澄
まされ、現実とのギャップをより大きく感じてしまうのではないだろうか。
若年者の離職の理由は、「平成 15 年若年者キャリア支援研究会報告書」によると、離職までの就
業期間によって異なる傾向が見られる。退職までの就業期間が1年以内では「仕事が自分に合わな
い、つまらない」が 39.1%、「賃金や労働時間などの労働条件がよくない」が 32.6%、「人間関係が
よくない」が 28.3%である。就業期間が 3 年を超える者については、「会社に将来性がない」
36.7%、
「賃金や労働時間などの労働条件がよくない」32.7%、「キャリア形成の見込みがない」
31.6%が多い。若年正社員が離職を意識する構造が、入職段階では職業ミスマッチだったものが、
勤続 3 年を経過すると将来のキャリア形成への不安へと変化していることが伺える。
久木元(2011)は若者の過半数が将来の先行きを暗いと見ていることを報告している。雇用が不
安定な今日において、正社員就業をしている若者は一見恵まれた層であるとも言えよう。しかしそ
うした彼らも漠然とした先行きの不安感を持っているのではないか。本稿は 2000 年版就職四季報
収録会社を対象とした企業に勤務する正社員に対するアンケート調査から、「3 年後の職業生活の
見通し」を暗いと感じることを、先の見通せない不安感と定義し、そうした不安感を持つ人はどの
様な人なのか、またそれを緩和する要因は何か、それらの不安感は同一企業内での就業継続意欲と
どのように関わっているのかという視点から分析をおこなう。若年正社員の仕事への不安感に注目
し、職場レベルでの改善が出来ないかという視点からこの問題を検討する。
2.先行研究
近年の若年雇用に関する研究は、ニートやフリーターといった非正規雇用就業の研究が多く、意
外なことに、若年正社員の不安感や定着率に焦点を当てた研究はそれほど多くない。
黒澤、玄田(2001)は、1997 年の「若年者就業実態調査」を用いて、学卒後正社員となったと
き、その会社を転職する要因について、就業ミスマッチの観点から分析している。その結果、学卒
時の失業率の上昇は、正社員として初めて就職した会社からの離職を促進しており、男女共にその
影響は見られるが、男性の方がその影響は強い結果となっている。つまり、若年正社員雇用者の高
い離職率の背景には、学卒時点での就業ミスマッチの影響があることや失業といった構造的な問題
を示唆している。太田(1999)や太田(2000)は、離職率と有効求人倍率の関係などを分析してい
る。
日本生産性本部が調査した平成 22 年「働くことの意識」調査によれば、就職先の企業を選ぶ基
準では、「自分の能力、個性が生かせるから」が全体の 34.8%であった。以下「仕事がおもしろい
から」(24.8%)、「技術が覚えられるから」(9.0%)など、個人の能力、技能ないし興味に関連する
項目が上位を占めていた。調査開始当初(昭和 46 年~ 48 年)に、1 位だった「会社の将来性」は
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8.3%にまで減少している。現代の新入社員たちは、専門技能への関心を示しており、個人の専門
技能をよりどころにしていきたいとする意向がうかがえる。
入社後の従業員に着目し、どのような育成を行うべきか焦点を当てた研究としては、玄田・堀田
(2010)がある。入社してから 3 年の間に適職経験を積ませることは、職業能力に対する自己評価
を高めると同時に、就業継続を促進し、さらに稼得水準も向上させるとしている。
黒澤(2010)では、単に社員に「必死で働く」ことを求めるのではなく、上司や同僚と一対一で
「相談」などのコミュニケーションが豊富にある状態を整える必要があると述べている。
若者の不安感については、いくつかの研究がある。久木元(2011)は、25 歳から 39 歳の広い意
味での「若者」に対する調査の結果、彼らが将来に対して不安を感じることが多く、自分の将来の
見通しは暗いと思う若者が、全体の過半数を占めるほど多く存在していることを確認している 。
また、玄田(2005)は、そういった若者の姿を「明日が見えない」や「未来のみえない感覚」と
いった表現で表している。永瀬・山谷(2011)は、未婚の大卒正社員女性への聞き取りから、総合
職女性は、その長時間労働から、結婚や出産を考える頃になると、先の見通しがもちにくくなり、
先行きに対する不安感を、一般職女性以上に持つようになると指摘している。
また、海外の離職に関する研究に目を向けてみると、能力開発等の人的資源への投資が従業員の
キャリア発達を促進すると考えられており、職務満足と離職意思との関連性については多くの研究
がなされてきた。Chen, G.et al.(2011)によれば、職務満足の水準よりも職務満足の変化が離職意
向に影響していることを示している。 Ke-da Gao(2013)や James M. Vardaman et al.(2008)では、
Prospect 理論に基づいて従業員の離職行動についての分析をおこなっている。
このように先行研究では、就業ミスマッチの観点での離職に関する分析が多く、日本の若年正社
員の就業意欲に関する実証的な研究は未だ少ない。また玄田・堀田(2010)、黒澤(2010)によっ
て、若年者のキャリアの知覚や認識を通じて就業継続が高まることが指摘されている。こういった
若年層の「先の見通せない不安感」が何によって規定されるのか、職場の要因や彼らのキャリア意
識に着目してより深く追究していく必要がある。
3.使用するデータと分析方法
3.1 データの概要
東京大学社会科学研究所 附属社会調査・データアーカイブ研究センター SSJ データアーカイブ
から『若年者のキャリア形成に関する実態調査、2003 年(三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング
(寄託時 UFJ 総合研究所)』の個票データを使用する。本稿では、正社員調査票を用いて分析をお
こなう。調査時点は、2003 年 2 月、調査方法は、郵送による配布・回収である。調査対象は、
2000 年版就職四季報収録会社のうち、過去 3 年間に新卒採用を行っている企業の 35 歳以下の正社
員男女 23485 人に配布している。有効回収数は、2246 人で回収率は 9.6% となっている。
本稿では、分析対象を、18 歳以上で 35 歳未満の正社員の男女とする。若年層の年齢の定義につ
いては、各調査や文献によって異なる。厚生労働省では、「若年無業者」とは、「15 ~ 34 歳の非労
働力人口のうち、通学、家事を行っていない者」としており、玄田(2005)においても 15 ~ 35 歳
未満を「若者」と定義している。使用する変数の記述統計量は、以下に示す通りである。
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表1 従業員の個人属性および労働条件(%表示)
年齢(n=2205) 18~20歳未満
20~25歳未満
25~30歳未満
30~35歳以下
学歴(n=1573)
高校卒
専修・高専卒
短大卒
個人属性
大学・大学院卒
世帯状況(n=2203)
未婚
既婚
勤続年数(n=2171)
0~2年
3~5年
6~9年
10年以上
週あたりの労働時間(n=2172)
30時間未満
30~40時間未満
40~50時間未満
50~60時間未満
60~70時間未満
70時間以上
年収(n=2077)
200万円未満
200~300万円未満
300~400万円未満
400~500万円未満
労働条件
500~600万円未満
600~700万円未満
700~800万円未満
800万円以上
年収(n=2191)
専門的・技術的・管理的な仕事
事務の仕事
販売の仕事
サービス・保安の仕事
運輸・通信の仕事
技能工・採掘・製造・建設・労務の仕事
その他の仕事
男性(n=1289)
女性(n=916)
1.9
17.2
44.1
36.8
男性(n=909)
2.6
32.0
46.9
18.5
女性(n=664)
10.3
7.2
0.7
81.9
男性(n=1288)
17.0
5.4
24.4
53.2
女性(n=915)
64.3
35.7
男性(n=1262)
86.5
13.6
女性(n=902)
35.3
27.1
25.8
11.8
男性(n=1275)
41.7
29.7
17.4
11.2
女性(n=897)
1.5
5.3
43.8
30.1
14.8
4.5
男性(n=1223)
2.1
13.4
65.2
14.8
3.6
0.9
女性(n=844)
3.5
13.4
30.2
29.9
13.9
5.9
2.0
1.4
男性(n=1284)
10.2
32.7
39.0
12.1
3.9
1.5
0.4
0.2
女性(n=907)
32.55
37.38
11.37
3.12
1.87
6
7.71
12.79
75.85
3.31
1.76
0.33
1.76
4.19
3.2 若年者の就業意識に関する記述統計
本稿で使用する「3 年後の職業生活の見通し 1」と「同一企業での就業継続意欲 2」の記述統計量を
示す。表 2 によれば、男女共に、3 年後の職業生活の見通しを「明るい」「やや明るい」と回答し
ている者の割合は、2 割程度でしかないことが分かる。逆に、「暗い」「やや暗い」と回答する女性
は、約 26%であるのに対し、男性の方は約 34%となっている。また、男女ともに、「どちらでもな
い」との回答が半数程度を占める。女性はその 50% がその回答をしており、男性も、約 41% と多
い。これは男女という性別による意識の違いというよりは、将来のキャリアの違いによる影響と見
ることもできるだろう。また、男性に比較し、女性の同一企業での就業継続意欲が低い。男性で
は、同一企業での就業継続意欲がある割合が、約 75% いることに対し、女性では、約 50% と差が
あることがわかった。
1 質問紙で、
「3 年後の職業生活の見通し」についての問いとして、「暗い」「やや暗い」「どちらでもない」「や
や明るい」「明るい」の 5 件法での回答を使用している。
2 質問紙で、
「3 年後、どのような働き方をしていたいですか」との問いに対して「現在の会社で正社員」の回
答を 1 とし、それ以外の全ての回答である「他の会社(同業種)(異業種)で正社員、パート・アルバイト、派
遣・請負労働、契約・嘱託社員、フリーランス、独立・開業、その他、働かない(専業主婦など)」を 0 とした、
ダミー変数を作成した。つまり、「就業継続意欲あり」の記述は、現在の会社で正社員として働く意向があるこ
とを示している。
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表2 男女別の3年後の職業生活の見通しと就業継続意欲の有無
3年後の職業生活上の見通し
明るい
やや明るい
女性
どちらでもない
やや暗い
暗い
明るい
やや明るい
男性
どちらでもない
やや暗い
暗い
就業継続意欲の有無
就業継続意欲なし
女性
就業継続意欲あり
就業継続意欲なし
男性
就業継続意欲あり
度数
割合(%)
32
3.5
175
19.13
463
50.6
205
22.4
40
4.37
68
5.28
253
19.63
531
41.19
331
25.68
106
8.22
度数
割合(%)
449
49.83
452
50.17
316
24.67
965
75.33
表 3 によれば、3 年後の職業生活の見通しが明るいと思っている人の方が、男女共に同一企業で
の就業継続意欲は高い。つまり、職業生活の見通しと就業継続意欲には関連性があることが伺え
る。
表3 3年後の職業生活の見通しと同一企業での就業継続意欲について
明るい
就業継続意欲なし(n=448)
女性
就業継続意欲ありn=452)
就業継続意欲なし(n=316)
男性
就業継続意欲あり(n=965)
2.9
4.2
4.11
5.7
やや明るい どちらでもない
15.18
49.55
23.23
51.33
9.81
29.11
22.9
44.97
やや暗い
26.12
19.03
36.39
22.38
暗い
6.25
2.21
20.57
4.04
カイ二乗検定
***
***
注 ) ***: p<0.001,**: p<0.01,*: p<0.05, †: p<0.1 で有 意 。
3.3 分析方法
3.3.1 3年後の職業生活の見通しの規定要因の推計
本項では、3 年後の職業生活の見通しの規定要因について分析をおこなう。被説明変数には、「3
年後の職業生活の見通し」の問いに対する回答をもとに作成した連続変数 Y を用い、分析方法は、
順序 probit モデルを想定する。
では使用する説明変数について解説をする。労働者のキャリアに関する悩みダミー(悩みがある
=1、悩みがない =0)を N、その他に、統制変数として、個人属性(年齢、性別、世帯状況)K、
人的資本(学歴、勤続年数)M、労働条件(労働時間、年収、職種を含む)W を加えた。それに
加えて、職場でのロールモデルの有無は、若年層の先の見通しに関連があると思われる為、職業生
活でモデルになる人ダミー(モデルになる人が上司・先輩である =1、それ以外 =0)の C を加えた。
推計式は以下の通りとなる。εi は誤差項となる。
1=
⎧ 明るい
⎜ やや明るい
2=
⎜
Y ⎨ 3= どちらでもない
⎜ やや暗い
4=
⎜
5=
⎩ 暗い
Yi = α0 + α1 Ni + α2 Ki + α3 Mi + α4 Wi + α5 Ci + εi
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3.3.2 同一企業内での就業継続意欲の推計
続いて、若年者の同一企業内での就業継続意欲 3 について分析をおこなう。被説明変数に、就業
継続意欲がある場合を Ri = 1、就業継続意欲がない場合を Ri = 0 としたダミー変数を用いる。ここ
で労働者 i の Ri に対する実現値を Ri* と仮定する。
Ri* = β0 + β1 Yi + β2 Si + β3 Mi + β4 Wi + β5 Ki + δi
Ri = 1 if Ri* > 0
Ri = 0 otherwise
使用する説明変数には、まず、前項で用いた 3 年後の職業生活の見通しの連続変数 Y、同一企業
での就業意識として関わりがあると考えられる個人のキャリア意識(正社員にこだわる、一つの企
業に長く勤め続ける)を S、人的資本の代理変数 M として、勤続年数および学歴を用いる。その
他に労働条件 W として職種、および個人属性 K を加えた。 δi は誤差項となる。それでは、以下で
推計結果について見ていく。
4.推計結果
4.1 3年後の職業生活の見通しを規定する要因
表 4 は、「3 年後の職業生活の見通し」を規定する要因についての推計結果である。
男性は、「自分の能力適性にあった仕事が分からない」「今後の仕事について相談する機会が不十
分である」「自分の希望が配置・昇進に反映されない」といった悩みがあることにより、先の見通
しがより暗くなっていることが示された。女性では、「自分の能力適性にあった仕事が分からない」
といった悩みがあることが先の見通しを暗くさせている。女性より男性の方が、職業生活上で具体
的な悩みを抱えていることとこの先の見通しとの関連があることが分かった。他方で、職業生活を
考える上でのモデルになる人が、職場の上司・先輩である場合、男性では有意に先の見通しを明る
くしていた。ただし女性では有意な効果は見られない。
また、1 週間あたりの労働時間が増えるほど男性の先の見通しを暗くさせている。年齢と勤続年
数の効果を見てみると、男性では、30-34 歳の年齢層の方が、25-29 歳の年齢層に比較して、係数
の値が高くなっていることから、年齢層が上がるに従い、先の見通しが暗くなっているということ
を示唆している。女性では、勤続年数が 6-9 年の層で有意に先の見通しが暗くなっているという結
果が見られた。また、年収の効果は、年収が高いほど、男女ともに先の見通しを明るくさせてい
る。つまり、若年層の先の見通しには、職場での悩みに加え、労働条件としての収入が大きい影響
を与えているということが伺える。
3 就業継続意欲の推計で用いる 3 年後の職業生活の見通しの説明変数は、就業継続意欲の内生変数である可能
性がある。そのため、
Durbin-Wu-Hausman 検定にて、説明変数と誤差項の間に相関があるかどうか確認をおこなっ
た。その結果、3 年後の職業生活の見通しの変数が、誤差項とは相関が認められず、外生変数であることから、
本分析では操作変数法を用いてはいない。
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表4 3年後の職業生活の見通しを規定する要因(順序probit)
性別ダミ ー(基準: 男性)
年齢ダミー(基準:18-19歳)
2 0-2 4歳
2 5-2 9歳
3 0-3 4歳
年収(対数)
1 週間あたりの労働時間
勤続年数(基準:0-2年)
3 -5年
6 -9年
1 0 年以上
学歴ダミー(基準=高校卒)
高専 ・ 各種学校卒
短大卒
大学 ・ 大学院卒
世帯状況ダミー(基準:未婚)
職業生活上の困っていることダミー
自分の能力適性にあった仕事が分からない
今後の仕事について相談する機会が不十分である
自分の希望が配置・ 昇進に反映されない
職業生活を考える上でモデルになる人ダミー
職場の上司・ 先輩
職種ダミー(基準:専門的・技術的・管理的な仕事)
事務の仕事
販売の仕事
サービス・ 保安の仕事
運輸 ・ 通信の仕事
技 能 工、 採 掘 ・ 製 造 ・ 建 設 ・ 労 務 の 仕 事
そ の他の仕 事
/ cut1
/ cut2
/cut3
/cut4
Nu mbe r of obs
LR c h i 2
Pse u do R2
Log like lih ood
全従業員
係数
-0.143 *
0.433
0.650
0.836
-0.542
0.011
女性従業員
Z値
-2.01
係数
男性従業員
Z値
*
**
**
***
***
2
2.81
3.25
-5.83
3.54
0 .1 9 8
0 .4 6 4
0 .4 8 8
- 0 .3 7 0 * *
0 .0 0 6
0 .6 3
1 .3 4
1 .2 4
- 2 .6 9
0 .9 5
0.349 ***
0.356 **
0.481 **
4.22
3.35
3.31
0 .2 1 2 †
0 .3 4 8 *
0 .5 1 9 *
1 .6 5
2 .0 1
2 .0 3
-2.42
-2.62
-3.39
-0.97
- 0 .2 4 9
- 0 .2 4 8
- 0 .2 9 1 †
- 0 .0 0 9
- 1 .0 8
- 1 .5 4
- 1 .8 2
- 0 .0 6
-0.361 *
-0.348 **
-0.373 **
-0.072
0.327 ***
0.315 ***
0.358 ***
4.9
4.59
3.92
-0.193 **
-0.156
-0.099
-0.516
-0.472
-0.279
-0.325
-1.492
-0.441
0.850
1.977
1 433
195.73
0.051
- 1 8 2 3 .5 7
- 3 .3
*
-2.05
-0.85
-2.68
-1.65
-1.88
-2.61
**
†
†
**
***
0.296 **
0.200 †
0 .2 6 7
- 0 .1 1 5
- 0 .1 6 8
0 .0 4 1
- 0 .0 2 2
0 .5 2 2
- 0 .2 7 4
- 0 .3 3 9
- 1 .7 9 8
- 0 .6 0 7
0 .8 2 5
2 .0 7 8
5 93
53.87
0 .0 3 7 * * *
-7 03.48
2.91
1.81
1 .6 2
- 1 .2 6
- 1 .1 5
0 .1 5
- 0 .0 6
0 .6 6
- 0 .7 8
- 1 .4 2
係数
0 .5 7 4
0 .7 6 1
1 .0 2 5
- 0 .6 7 5
0 .0 1 3
Z値
†
*
**
* **
* **
1 .8 4
2 .3 2
2 .8 5
- 5 .2
3 .6 5
0 .4 8 5 * * *
0 .4 0 1 * *
0 .5 4 8 * *
4 .3 6
2 .8 7
3
- 0 .4 7 8 *
- 0 .7 7 4
- 0 .4 6 4 * *
- 0 .0 9 3
0.349 ***
0.400 ***
0 .4 1 0 * * *
- 0 .2 3 3 * *
- 0 .1 1 3
- 0 .1 3 7
- 0 .7 3 1
- 0 .5 8 6
- 0 .2 9 7
- 0 .2 7 9
- 1 .3 2 8
- 0 .3 3 1
0 .8 7 3
1 .9 6 1
84 0
1 5 4 .9 2
0 .0 6 6
- 1 1 0 0 .5 7
**
†
†
†
- 2 .3 2
- 1 .5 5
- 2 .8 8
- 1 .0 2
3.89
4.49
3 .6 8
- 2 .9 9
- 1 .2 4
- 1 .0 6
- 3 .1 4
- 1 .8 9
- 1 .7 3
- 1 .8 8
* **
注 ) ***: p<0.001,**: p<0.01,*: p<0.05, †: p<0.1 で有 意 。
表 5 では、これらの職業生活上の悩みが、何によって規定されるのか分析をおこなう。被説明変
数には、労働者のキャリアに関する悩みのダミー変数を用いた。
まず、「能力適性が分からない」との悩みがある若年者は、職場の中で自分が「だいたい一人前」
「まだ一人前ではない」といったように自信がない状態であることを示唆している。年齢や勤続年
数の効果を見てみると、男性の場合は 20 歳 -24 歳や 3-5 年という入社後間もない層において、こ
のような悩みを抱いている一方で、何故か勤続が 10 年以上経過してもなお、能力適性が分からな
いと悩む者も男性には見られるようだ。
「自分の希望が配置・昇進に反映されない」については、男性で有意な変数の効果は見られない。
女性では、勤続 3-5 年、年齢で 30-34 歳であること、「一人前であり同僚や後輩の指導ができる」
や「幅広い業務経験がある」と認識しているほど、そういった悩みを抱いている。仕事の経験を積
み重ね一人前になったと思われる女性にこうした悩みが多いことから、女性には男性とは異なる
キャリアの壁があるのだろう。つまり、仕事経験を積み重ねても、男性のように昇進して配置転換
の対象にならないことが、女性の悩みなのではないだろうか。
「自分の仕事について相談する機会が不十分である」は、女性で勤続 6-9 年、10 年以上で、僅か
ながらに有意に正であることから、男性に比較し、女性の方が職業経験を積む中で、相談をする機
会の不足を感じるようになる可能性が高い。
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生活経済学研究 Vol.41(2015.3)
表5 職業生活上の悩みを規定する要因(probit分析)
自分の能力適性にあった仕事が分からない
女性従業員
男性従業員
限界効果 漸近的t値
係数 限界効果 漸近的t値
係数
年齢ダミー(基準:18-19歳)
20- 24 歳
25- 29 歳
30- 34 歳
勤続年数(基準:0-2年)
3-5 年
6-9 年
10年以上
学歴ダミー(基準=高校卒)
高専・ 各種学校卒
短大卒
大学・ 大学院卒
職務経験ダミー(基準:同じ分野の業務を経験)
互いに関連性のある業務を経験してきた
幅広い業務を経験してきた
職場での一人前度ダミー
(基準:一人前であり、同僚や後輩の指導ができる)
だいたい一人前である
まだ一人前でなく、見習い段階である
職種ダミー(基準:専門的・技術的・管理的な仕事)
事務の仕事
販売の仕事
サービス・ 保安の仕事
運輸・通信の仕事
技能工、採掘・製造・建設・労務の仕事
その他
定数項
Nu mber of obs
LR c hi2
Pseu do R2
Log likelih ood
今後の仕事について相談する機会が不十分である
女性従業員
男性従業員
限界効果 漸近的t値
係数 限界効果 漸近的t値
係数
-0.3 76
-0.5 95
-0.3 59
- 0.12 0
- 0.19 6
- 0.11 1
-0 .9
- 1.3 3
-0 .7
0 .90 5
0 .39 5
0 .19 1
0.3 12 *
0.1 19
0.0 57
2 - 0.54 7
0.8 4 - 0.64 5
0.3 7 - 1.14 4
-0.0 63
-0.1 97
-0.6 14
- 0 .02 1
- 0.06 3
- 0.17 2 †
- 0.3 9
- 0.8 5
- 1.8 4
0 .41 6
0 .37 5
0 .67 6
0.1 32 **
0.1 18 †
0.2 33 **
2.7 6
1.8 9
2.6 3
0.25 2
0.65 3
0.93 5
-0.1 23
0.0 50
-0.1 66
- 0.04 0
0.01 7
- 0.05 6
-0 .4 -0 .17 8
0.2 5 -0 .25 6
- 0.8 4 -0 .01 6
- 0 .0 4 9
- 0 .0 6 8
- 0 .0 0 5
- 0 .6 3
- 0 .3 5
- 0 .0 7
0.082
0.0 09
0.028
0.00 3
0.55 -0.185
0.0 6 -0 .30 6
-0.052
- 0 .0 8 5 *
0.8 85
0.881
0.30 4 * *
0.287 **
3.1 6
3
0.2 71
0.1 84
-0.4 01
0.08 6
0.06 4
- 0.11 7
0.526
0.196
0.1 72
0.06 0
-0.9 58
†
57 7
37 .5 **
0.0 54
-3 29.2 9
0 .57 8
0.999
-0 .14 3
-0 .18 1
-0 .22 8 *
0 .7 5 6
0 .8 5 2
0 .7 8 3
0.25 8
0.26 1
0.249
0 .07 5
0 .21 4 *
0 .32 7 *
1 . 4 3 - 0 .2 2 5
2 . 5 8 - 0 .2 0 6
2 . 5 6 - 0 .0 3 9
- 0 . 0 64
- 0.0 59
- 0.012
0.45 0
0.18 8
0.49 0
0 .14 8
0 .05 6
0 .13 6 *
1 .44
0 .84
2 .17
-1.39 -0.185
- 2 .3 8 - 0 . 3 0 6
-0.052
-0 .08 5 *
0.1 79 **
0.287 ***
2. 6 5
4.36
0.28 9
0.396
0 .08 4
0.112
1 . 4 5 - 0 . 0 4 8 - 0 .0 1 4
0.5 1 0 .00 9
0.0 03
- 0.6 7 -0 .00 2
0.0 00
- 0 . 2 0 9 - 0 .0 5 7
1.09 0.004
0.001
0 . 5 5 - 0 . 1 6 4 - 0 .0 4 6
- 1.9 1 -2 .02 1
***
8 26
70 .19 ** *
0 .07 7
- 419 .82
-0 .4
0.0 5
- 0 .0 1
- 0 .4 9
0.02
- 0 .7 9
- 4 .1 7
- 0.17 0
- 0.38 2
- 0.46 3
-0 .05 0
-0 .09 2
-0 .10 7
0.228
0.04 6
- 1.02 4
577
2 0.36
0.03 4
- 29 0.08
0.070
0 .01 3
-1 .18
- 1.3
-1 .98
0 .5 6 7
0 .4 3 2
0 .0 4 2
-1.39 0.100
-2 .38 -0.182
*
0.031
-0.052
0 .1 8 6
0.122
0. 056
0.036
- 0 . 9 2 - 0 .0 3 6
- 0 . 9 7 - 0 .0 6 1
- 0 . 7 6 - 0 .3 3 5
- 0 .4 0 7
0.48 -0.030
0 . 1 5 - 0 .0 1 2
- 2 . 0 2 - 1 .5 8 2
82 6
2 4 .2 3
0 .0 2 7
- 4 3 3 .3 5
- 0.0 11
- 0.0 18
- 0.0 88
- 0.1 03
-0.009
- 0.0 04
1.2
1.51
1.37 -0.986
1.52 -0.760
1.33 -1.845
-0.091 †
-0.088
-0.103 *
-1.78 -0.097
-1.26 0.095
-2.35 0.191
-0.019
0.020
0.041
-0.21
0.2
0.37
0.586
0.591
0.845
0.082 *
0.091 †
0.157
2.37 -0.069
1.73 -0.145
1.53 -0.040
-0.014
-0.029
-0.008
-0.42
-0.71
-0.15
-1 -0.117
-0.1
0.66 -0.029
-0.023
-0.37
-0.006
-0.12
0.020
0.076 *
0.7 -0.142
2.51 0.079
-0.028
0.017
-0.92
0.58
-0.081 **
-0.087 *
-3.05 -0.126
-2.58 -0.284
-0.025
-0.059
-0.7
-1.43
-1.55
-1.12
-0.17
0.196 *
0.14 8
0.012
係数
自分の希望が配置・昇進に反映されない
女性従業員
男性従業員
限界効果 漸近的t値
係数 限界効果 漸近的t値
2.13 -0.617
0.7 2 -0.031
0.19 0.202
0.8
-1.45
0.158
0.515
1.05 -0.784
0.64 -0.726
**
-0.046
-0.003
0.023
-0.3 0.229
0.024
-0.36 0.566
0.096
- 1.0 1
- 0.9 4
-0.13 0.620
0.110
- 0.06 -0.355 -0.032
- 2.8 5 -0 .65 2
5 69
4 5.35 ** *
0.13 8
- 14 1.93
0.79 -0.056 -0.011
1.3 -0.025 -0.005
0.1 83
0.04 2
0.6 70
0.18 9 †
1.07 0.180
0.041
-0.63 -0.061 -0.012
-1 .08 -0.950
*
82 1
15.1 1
0.0 24
-3 10.1 8
-0.4
-0.12
0.5 5
1.8 8
0.72
-0.26
-2.01
注 ) ***: p<0.001,**: p<0.01,*: p<0.05, †: p<0.1 で有 意 。
4.2 同一企業での就業継続意欲の推計
前項で分析をおこなった 3 年後の職業生活の見通しは、若年者の多くの悩みや労働条件によって
規定されていることが分かった。続いて、それらの先の見通しが就業継続意欲に影響を与えている
のかどうか、表 6 は、同一企業での就業継続意欲を被説明変数とした推計結果である。
表6 同一企業での就業継続意欲の推計(probit分析)
性別ダミー(基準:男性)
年齢ダミー(基準:18-19歳)
2 0 -2 4 歳
2 5 -2 9 歳
3 0 -3 4 歳
年収(対数)
1 週間あたりの労働時間
勤続年数(基準:0-2年)
3 - 5年
6 - 9年
1 0 年以上
学歴ダミー(基準=高校卒)
高専・ 各種学校卒
短大卒
大学・ 大学院卒
世帯状況ダミー(基準: 未婚)
3 年後の職業生活の見通し
個人のキャリア意識ダミー
正社員にこだわる
1つの企業に長く 勤め続ける
職種ダミー(基準:専門的・技術的・管理的な仕事)
事務の仕事
販売の仕事
サービス・ 保安の仕事
運輸・ 通信の仕事
技能工、採掘・製造・建設・労務の仕事
その 他
定数項
Nu m be r o f o bs
LR c h i 2
Pse u do R2
Lo g l i k e l i h o o d
全従業員
係数
限界効果 漸近的t値
- 0 .6 90
- 0 .24 5 ** *
- 7.43
係数
女性従業員
限界効果 漸近的t値
- 0 .0 56
- 0 .2 05
- 0 .1 42
0 .2 38
- 0 .0 11
- 0 .02 0
- 0 .07 2
- 0 .05 0
0 .08 4 †
- 0 .00 4 *
- 0.19
- 0.65
- 0.41
1.93
- 2.47
-0 .0 9 7
-0 .3 1 3
-0 .3 5 6
0 .2 3 4
-0 .0 1 3
-0 .0 3 9
-0 .1 2 4
-0 .1 4 1
0 .0 9 3
-0 .0 0 5
- 0 .2 4
- 0 .7 2
- 0 .7 2
1 .3 7
- 1 .6 4
0 .00 1
0 .04 5
0 .02 3
0 .17 3
- 0 .00 9
0.00 0
0.01 2
0.00 6
0.04 6
- 0.00 3 †
- 0 .1 02
- 0 .0 07
0 .2 01
- 0 .03 6
- 0 .00 2
0 .06 7
- 0.94
- 0.05
1
- 0 .16 4
-0 .2 2 7
0 .5 0 0
-0 .0 6 5
-0 .0 9 0
0 .1 9 3
- 1 .0 3
- 1 .0 7
1.6
- 0 .07 7
0 .20 1
0 .00 4
- 0.02 1
0.05 2
0.00 1
0 .2 62
0 .1 84
0 .1 42
0 .1 22
- 0 .3 50
0 .08 6
0 .06 2
0 .05 0
0 .04 2
- 0 .12 3 ** *
1.32
1.09
0.98
1.22
- 8.03
0 .1 7 6
0 .1 2 7
0 .0 1 6
0 .0 6 9
-0 .2 9 3
0 .0 7 0
0 .0 5 1
0 .0 0 6
0 .0 2 7
-0 .1 1 7 * **
0 .6 1
0 .6 5
0 .0 8
0 .4 1
- 4.2
0 .27 1
0 .18 9
- 0 .39 0
0.07 8
0.05 0
- 0 . 1 0 5 ***
1 .1 6
1 .4 3
-6.75
0 .3 73
0 .7 76
0 .13 4 ** *
0 .25 6 ** *
4.74
9.18
0 .4 8 8
0 .5 6 0
0 .1 9 3 * **
0 .2 2 0 * **
4 .3 2
4 .6 8
0 .24 1
1 .01 5
0.06 8 *
0.25 1 * * *
2 . 11
7 .97
- 0 .0 70
- 0 .02 4
0 .1 22
0 .04 1
- 0 .6 54
- 0 .25 2 *
- 0 .0 77
- 0 .02 8
0.199
0.066
- 0 .1 12
- 0 .04 0
1 .5 85
** *
1 4 45
36 6 .2 30
0 .1 96 * **
-7 5 0.10
- 0.68
0.75
- 2.58
-0 .2
0.94
- 0.68
4.25
-0 .2 1 1
-0 .0 8 4
-0 .2 2 1
-0 .0 8 8
-0 .9 1 8
-0 .3 2 4 †
0 .0 5 8
0 .0 2 3
-0.257
-0.102
0 .1 4 5
0 .0 5 8
1 .1 9 1
*
59 5
1 0 0.5 3
0 .1 21 9 * * *
- 36 2 .1 6
係数
- 1 .1 5
- 0 .6 7
- 1 .9 3
0 .0 6
-0.58
0 .4 9
2 .0 6
0 .45 3
男性従業員
限界効果 漸近的t値
0.10 0
- 0 .04 2
- 0.01 1
0 .22 5
0.05 6
- 0 .60 3
- 0.19 8 †
- 0 .06 7
- 0.01 9
0.437
0.098
- 0 .25 9
- 0.07 6
1 .37 1
**
845
19 1 .9 7
0 .2 0 5 ** *
- 3 72 .2 0
0
0 .0 9
0 .0 4
0 .9 2
-1 .7 8
- 0 .5
1
0 .0 2
1 .5 3
-0 .3 2
1 .1 6
- 1 .92
-0 .1 6
1.6 3
-1 .2 7
2 .6 4
注 ) ***: p<0.001,**: p<0.01,*: p<0.05, †: p<0.1 で有 意 。
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分析の結果、3 年後の職業生活の見通しの変数が、男女ともに有意に同一企業での就業継続意欲
を低下させていることが分かった。つまり、職業生活上の悩みを持っていることは、若年者の 3 年
後の職業生活の見通しを暗くさせ、更には、彼らの同一企業での就業継続意欲へ影響を与えている
ことが言えるであろう。
その他に、個人のキャリア意識の変数として、正社員にこだわりを持っていることや一つの企業
に長く勤め続ける意識があることにおいて、有意に正の効果が示された。つまり、非正規就業にな
りたくないと考えているほど、また同一企業での就業継続を望んでいるほど、離職意向は高くない
ということを意味している。しかし、表 2 の記述統計で示されているように、男女とも約 3 割が 3
年後の職業生活上の見通しが暗いと思っている。逆に、先の見通しが明るいと回答しているのは、
男女ともに約 2 割程度しかいなかった。つまり、先の見通しが暗いと思っているにも関わらず、勤
め続ける層が一定層存在するということが示された。先の見通しを暗くさせるような職場での悩み
は、特に男性で強い。そのことから、男性は、仮に現状の仕事に不満があり、より良い転職の機会
を得たいと思いつつも、長期雇用を前提とした働き方から抜け出せずにいる可能性もあるだろう。
5.考察
本稿では、就職四季報収録会社のうち、過去 3 年間に新卒採用を行っている企業に勤務する若年
正社員の感じている先の見通せない不安感が何によって規定されるのか、また、彼らにとって、先
の見通しが悪くなることが、同一企業での就業継続意欲へ与える影響について分析を行った。分析
結果から、主に以下の三点が明らかとなった。
第一に、「先が見通せない」意識を規定する要因は、男女では異なる傾向が見られた。女性の先
の見通しは、自分の能力適性に関する悩みを抱いていることと関連がある。ただし男性は、それに
加えて、今後の仕事について相談する機会の不十分さや配置・昇進に関する希望が反映されない等
の悩みがあることも要因である。
第二に、上記のような職業生活上での悩みを抱いていることは、先の見通しを悪化させるととも
に、同一企業での就業継続意欲を低下させていることが分かった。この結果は、高橋(1996)の、
過去の実績や現在の力関係よりも、未来へ期待して意思決定を行う(未来傾斜原理)によって、企
業内での将来への見通しが立てば、退職の意思決定を行わないとの結果を導き出している、この先
行研究結果とも一致する結果である。
第三に、女性より男性の方が、職業生活上で具体的な悩みを抱えていることとこの先の見通しと
の関連がある。それにも関わらず、男性の方が、同一企業に勤め続ける意志があるということが分
かった。女性は、家庭を中心にする選択肢があることや昇進が一定のラインまでしか見込めないと
いった雇用慣行の影響から、男性ほど仕事への悩みを深めないのかもしれない。
若年層が抱いている先の見通せない不安感は、職場に内在する労働条件や雇用慣行に加え、仕事
の仕組みや育成の仕方など様々な要因によって高まっているものなのではないかと推測される。
また、先の見通しが暗いと感じながらも働き続ける若者の悩みは深く、企業側は彼らの悩みに向
き合っていくことが必要なのではないだろうか。
男女ともに、能力適性が分からないと悩んでいる層は、自分の仕事にまだ自信がなく、見習い段
階ということであろう。しかし、男性の場合は、入社後間もない層に加え、勤続 10 年以上経過し
た層でもこうした悩みが有意に高い。これは何を意味しているのであろうか。
入社後、忙しさに追われ仕事の全体像がつかめないまま、先の見通しが持てず、かといって、よ
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り良い転職の機会も持てずに、勤め続けている悪循環があるのではないか。また転職という選択
が、長期雇用を前提とした日本では、非正規就業に陥る可能性を高めることから、不満があっても
企業内にとどまる意向を持っているのかもしれない。
彼らの不安感は、企業への帰属意識を低め、就業意欲を低下させている。企業も社員育成のため
の取組みを行っていないわけではないが、仕事に悩みを持ち続ける若年正社員が相当数いる。先の
見通しがつかぬまま、仮に長時間労働の生活を続けているならば、就業意欲の低下、更には、離職
の決断となってもおかしくない。それでは、こうした若者が将来の先の見通しが持てるようにする
ためには、どうしたら良いのだろうか。
賃金水準が高いことは男女を問わず、彼らの先の見通しを良くしている。加えて、仕事をするな
かで自分の適性を認識出来ることや、相談する機会があること、納得できる配置や昇進の機会を与
えることが重要だということが本研究からは示された。男性の場合は、こうなりたいと思う先輩や
上司の存在が、先の見通しを明るくする。また、業務を単に経験させるだけではなく、職場の中で
仕事の意義や背景をつかめるような仕事の与え方をおこなうこと、上司や先輩とのコミュニケー
ションがとれるような職場であることが必要である。彼らが自力で考えて行動することを求めるに
せよ、道標となるような入口を作り、相談できる窓口や機会を設けておく必要はあるだろう。
一方、女性に関しては、男性よりも仕事に悩みを持つ層が少なく、不満があっても続けようと思
う層も男性よりやや低い。これは女性の場合、家庭を中心とした生活を考えているせいなのか、男
性とは異なるキャリアの見通しを持っているからなのかもしれない。しかし、男性とは異なり勤続
を重ねるほど、相談する機会の不足や、配置や昇進に希望が反映されないという悩みが高まってい
る。このことから、企業において女性の長期的なキャリアは設定されておらず、職場で相談出来る
ような先輩社員の存在がないことに問題があることが分かるだろう。つまり、女性活用を推進し、
職場の中での女性比率を高め、女性のキャリア育成支援をより図っていくということは今後より一
層求められると考えられる。
具体的な、企業内の研修や相談機会の在り方については、よりミクロな視点で、検討を行う必要
があるが、本稿で使用するデータは、従業員調査票のみの分析である為、企業の取組みの効果の分
析には限界がある。企業規模や業種、研修方法等を含めた分析は、今後の研究課題としたい。
企業の成長見通しがやや鈍化し、他方で若者が仕事内容によりこだわるようになり、さらには若
者が非正規に陥りやすい今日において、若者の悩みに注目し有効な企業の取組みを検討し、彼らの
人的資本の拡充を探ることは今後、非常に重要な問題となるであろう。
【参考文献または引用文献】
太田聡一(1999)
「景気循環と転職行動―1965 ~ 94―」中村二朗・中村恵(編)『日本経済の構造
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太田聡一(2000)『若者の転職志向は高まっているのか』「エコノミックス」pp74-85.
久木元真吾(2011)「不安の中の若者と仕事」『日本労働研究雑誌』No. 612 pp16-28.
黒澤昌子・玄田有史(2001)「学校から職場へ―「七・五・三」転職の背景」『日本労働研究雑誌』
No.490 pp4-18.
黒澤昌子(2010)「能力開発の就業率・収入への効果」
『働くことと学ぶこと―能力開発と人材活用
―』ミネルヴァ書房.
玄田有史(2005)『働く過剰―大人のための若者読本』NTT出版.
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生活経済学研究 Vol.41(2015.3)
玄田有史・堀田聡子(2010)「『最初の三年』とは何故大切なのか」『働くことと学ぶこと―能力開
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http://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/09/h0919-5e.html#sanko 2014年 5 月 4 日取得.
厚生労働省(2009)
『平成21年若年者雇用実態調査』
http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/young/h21/ 2014年 5 月 4 日取得.
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http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/roudou_report/dl/20131029_03.pdf.
2014年 5 月 4 日取得.
高橋伸夫(1996)「見通しと組織均衡」『組織科学』Vol29 No3 pp57-68.
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http://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h23honpenpdf/index_pdf.html 2014年 5 月 4 日取得.
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日本生産性本部(2010)「平成22年働くことの意識」調査結果
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〔特別寄稿〕
生活経済学会初代会長 大石泰彦先生ご逝去を悼む
生活経済学会 会長 藤野 次雄(横浜市立大学 名誉教授)
生活経済学会初代会長、大石泰彦先生は 2014 年 1 月 16 日に 91 歳で逝去されました。大石先生
は、教育・研究、学内行政、社会貢献等の諸分野、特に生活経済学会にとっては、その創設とその
後の活動に多大なる貢献をされてきました。心より哀悼の意を捧げます。
大石先生については、改めてご紹介するまでもないと思われますが、1922 年 7 月に大分県中津
市で生まれ、東京大学名誉教授で、専門分野は近代経済学、とりわけ厚生経済学および応用経済政
策であり、学位として経済学博士を東京大学より 61 年に授与されました。
大石先生の学歴 ・ 職歴を当学会との関連で記述すると、1943 年東京帝国大学経済学部卒業、43
年から 48 年まで大学院特別研究生に就任され、この間 45 年に東京帝国大学大学院前期を修了され
ました。48 年東京大学経済学部助教授に就任、60 年から 83 年まで同学部教授を務められ、この間
69 年から 70 年まで経済学部長を務められました。83 年の定年退職時に東京大学名誉教授の称号を
授与されました。その後 83 年から立正大学経済学部教授、関東学園大学教授、東亜大大学院院長
などに就任されました。
学外活動では、76 年郵政省の郵便貯金に関する調査研究会座長、89 年から 93 年まで郵政省郵政
研究所所長につかれ、さらに郵政審議会委員等の多数の政府審議会・委員会委員にも就任されまし
た。
学会関連では、85 年以降、日本学術会議で第 13 ~ 15 期会員として、副会長、部長を務められ
ました。
主な業績として単行本単著で『現代経済学入門(増補改訂版)』(有斐閣、1973 年)、『経済原論』
(東洋経済新報社、1980 年)などがあり、その他多数の単行本、論文が存在します。
生活経済学会との関係では、大石先生は、85 年 4 月 27 日の設立総会によって発足した生活経済
学会の創設に加わられ、第 1 期から第 4 期の通算 8 年の長きにわたって会長を務められました。そ
の後も継続して学会活動に積極的に参加され、その多大な学会に対するご貢献に対し、2000 年に
は名誉会員、特別功績賞を贈らせていただいています。
当学会では、大石先生のリーダーシップで、85 年の設立時から 10 年余の 95 年前後に、総合的、
学際的な当学会ならではの課題、拠って立つ「生活者」の視点からの「生活の豊かさ」を追求する
「生活経済学」の体系化が試みられました。さらに、大石先生自身は、2002 年の生活経済学会の共
通論題で「21 世紀の生活経済学の課題と展望―現代生活経済学の体系と構想―」というタイトル
で基調講演を担当され、「生活経済学の理論体系の陳述」をなされ、生活経済学の確立に貢献され
ました 。
そこで、本 2015 年は設立から 30 年、前回の体系化から約 20 年が経ったことから、従来から指
摘されてきた少子 ・ 高齢化、IT 化 ・ グローバル化に加え、人口減少、地方経済の疲弊、格差の拡
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大等厳しい環境におかれている「生活者」のために、企画委員会を設置し、学会として一層の体系
化を目指すことにより、大石先生のご貢献に報いることを考えています。
最後に、大石先生への心よりのご冥福をお祈りするとともに、大石先生の学会への思いを多少長
くなりますが、『生活経済学会史』から、引用しておきます 。
大石泰彦「往事茫茫-偶感一束」(『生活経済学会史』(p199-207))より一部抜粋
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------「学会の annual meeting、それと連動する学会誌は非常に重大な意味を有している。それは同学の
仲間との唯一無二の、絶好のコミュニケーションの場である。学会の席上、paper reading に續く
discussant のコメント、そしてそれよりさらに suggestive, enlightening なのが floor discussion なのだ
が、これらほど paper の調琢に資すること大なるものはない。」
「付け加えるならばわが生活経済学会のように学際的色彩の濃い学会では更に一層こうした
annual meeting の意味効用が大きいと言うべきであろう。」
「学会の機関誌、われわれに即して言えば、『生活経済学会会報』、『生活経済学研究』、が学会に
とって極めて重要であることはことわるまでもあるまい。それは学会のいわば一枚看板である。そ
こに文字として定着された論文は著者の評価であるとともに即ち学会の評価である」
「生活経済学会創立 25 周年。個々の問題についての労作も無論非常に大切であり、尊重されねば
ならないが、生活経済学全体を統一的な原理でまとめ上げた論理のシステムとしての『生活経済学
原理』といったタイトルの仕事(それも複数)が出てもいい時期になっているのではないか。」
「家計を中心に据えた、家計の視座からの経済理論、それこそが生活経済学とわたくしは考える
のである。」
「生活経済学会会員諸賢の学運隆昌を祈って終わりとさせていただく。」
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〔特別寄稿〕
大石泰彦先生を偲ぶ-大石泰彦先生の生活経済学
生活経済学会 副会長 朝日 讓治(明海大学 教授)
生活経済学会の創立者、大石泰彦先生が、昨年 1 月 16 日に逝去された。
大石先生は、学会設立時の 1985 年度に初代会長に就任され、1992 年度まで 4 期にわたり会長職
を務められ、学会の礎を築かれた。大石先生の強いリーダーシップと、個人に焦点を当てた金融や
生活全般に対する確固とした信念によって、従来の消費者経済学とは異なる画期的な「生活経済
学」が誕生できたのである。
大石先生は、2002 年に開催された第 18 回生活経済学会研究大会で、「21 世紀の生活経済学の課
題と展望」と題し、基調講演された。その内容は翌年の学会誌に所収されている(『生活経済学研
究』第 18 巻 2002 年)。講演の口述記録を何度も推敲され、全体の語調は講演時の雰囲気を壊すこ
となくまとめられたため、読むたびに、先生の生の声、そして口調が甦ってくる。
この講演で、マーシャルの、「経済学は人間の研究の一部である」ということばによって、先生
は経済学研究に進まれたこと、ただ、「マーシャルの本領は産業をキイコンセプトとする生産の分
析」であったことを残念がられる。その上で、先生は、「経済的空間にあっては、企業、家計は全
く対等の経済主体」であること、そして、「できるだけ高い生活水準を求めて行動する―ここに
フォーカスをあてて理論構成をするのがほかならぬわれらの生活経済学なのであります。」と強調
されたのである。
先生はまた、これからの生活経済学が研究すべき分野をいくつかあげておられる。それらの中で
特に重要なのは、現代経済学で消費の裏側として定義される「貯蓄」の問題、労働の裏側として定
義される「余暇」の問題を、たんに、消費や労働の裏側と捉えるのではなく、生活経済学の視点か
ら積極的かつ主体的に研究すべき、とのご提言である。たしかに、貯蓄との関連で資産形成や生涯
生活設計、余暇との関連でツーリズムなどの理論的・実証的分析の必要性に改めて思いが至る。
大石先生のお話や著作から、先生の文学や哲学に対するご造詣の深さ、経済学のみならず広い分
野に亘る膨大な読書量がうかがえ、自在に引用される古今の文献の豊富さに圧倒されるのである。
先生はしばしば、広く社会問題に対して警世のことばを発してこられた。「20 世紀は貧困に対する
戦いの世紀、21 世紀は資源保全、環境汚染防止のための戦いの世紀」とのお言葉は、私に強い印
象を与え、何かの機会に引用させていただいたことがある。
先生は、会長時代、地方部会にも活発に出席され、熱心に報告を聴かれ、適切なコメントと、つ
ねに励ましのことばを述べられ、報告者に一層の研究意欲を引き出す魔術のような力を持っておら
れた。つねづね、研究大会や地方部会でのディスカッションの重要性を強調され、ともすればタコ
ツボに陥りがちな研究者に他者からの厳しい視点に身を晒す必要を説かれた。そして、引き続く懇
親会での一層の学問的刺激の醸成も大切にされ、ご自身も会員とのコミュニケーションをつねに心
掛けられていた。
生活経済学会の会員であられた那須正彦教授は、東大経済学部大石ゼミのごく初期のゼミ生であ
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り、卒業後も大石先生がお亡くなりになるまで、ずっと大石先生と交遊をもたれていた方である。
大石先生のお人柄の描写は、その那須先生のことばをお借りしよう。大石先生は、自ら「水戸っ
ぽ」を以って任じておられたが、「典型的な正義派」、「細心にして大胆、小事に拘泥しない明るく
豪放磊落」(東京大学経友会『経友』No.189 2014 年)であると、那須先生は見事に大石先生像を浮
かび上がらせておられる。
昨年秋、「大石泰彦先生を偲ぶ会」が、都内のホテルで開かれた。250 人を超える参会者が集わ
れ、その中には、東大の歴代のゼミ生、大石先生が主宰されていた各種研究会、大石先生が大きな
貢献をされた学会関係者が列席しておられた。根岸隆先生や浜田宏一先生もゼミ生として参加さ
れ、研究者を育てる大石先生の教育者としての側面も垣間見られる会場であった。このように、大
石先生には有為な人材が衛星のように取り巻いている。研究者のみならず、広く官界、政界、実業
界の人々が、それぞれの立場で先生から啓発を受け、勇気づけられてきたはずである。交流の濃淡
はあっても、大石先生に対する敬慕の重さに相違はない。これも大石先生の偉大な包容力の所以で
あろうと私は推察する。
私自身は、東大大学院で先生の授業を受け、先生のお人柄に大きな敬意を抱いていたが、その
後、貯蓄経済理論研究会という大石先生主宰の研究会に入れていただくことになった。当初は神谷
町の 40 森ビル、つぎに日赤本社を会場とし、毎月一回の研究会で先生とお会いできるという幸い
に恵まれた。毎回、報告者へのコメントあるいは活発な議論の中で示される先生の深い洞察力に、
いつも畏怖の念を抱いたものであった。
生活経済学会設立 25 周年を記念する『生活経済学会史』に大石先生は寄稿され、学会誌の重要
性を強調され、「レフェリーは……『匿名の共著者』、『無償の助っ人』であることをもって自足す
る」その覚悟を持つべきと諭された。
学会も設立以来、やがて 30 年を迎える。25 周年にあたり、大石先生は、生活経済学の論理のシ
ステムとしての『生活経済学原理』といったものが出てもいい時期にきている、といわれ、これは
ひとつでなくてよい、「いろいろの『生活経済学原理』が出ていい」と述べられた。後進のわれわ
れにとって、大きな目標を提示してくださったのである。学会員諸氏は、これまでも生活経済学の
体系化に格闘されてこられたが、いま、改めて大石先生の掲げられた目標に向かって、さらなる努
力が求められる。そして、各人各様に『生活経済学原理』を構築していったとき、大石先生への学
恩に報いたことになろう。
時代の変化とともに、生活経済学が対象とするテーマや問題意識は変化していく。そして変化し
ていくべきである。しかし、その根底にあるのは、われわれはつねに「よりよい人の暮らし」の研
究を目指すことに変わりはない。大石先生が引用されたアダム・スミスの一節で閉じたいと思う。
消費こそが、あらゆる生産活動の唯一無二の目標であり、目的である。そして生産者の利益
は、消費者の利益を増進させるのに必要な範囲でのみ、顧慮されてしかるべきものである。こ
の命題は完全に自明のことであって、これを証明しようとするほうがおかしいくらいである。
(Adam Smith. An Inquiry of the Nature and Causes of the Wealth of Nations. 1776 Book 4. Chapter 8 より)
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大石泰彦先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
生活経済学会の学会誌等に所収された大石泰彦先生の著作は次の通りである。
「発刊の辞」『生活経済学会会報』第1巻 1986
「勤倹貯蓄の精神構造」『生活経済学会会報』第1巻 1986
「環境問題の生活倫理的側面」『生活経済学会会報』第 6 巻 1990.
「悼畏友地主重美学兄」『生活経済学会研究』第 16 巻 2001.
「21 世紀の生活経済学の課題と展望」『生活経済学研究』第 18 巻 2003.
「往事茫茫―偶感一束」生活経済学会史編纂委員会編『生活経済学会史』2011.
(本リストは、『大石泰彦先生の人と学問』日本交通政策研究会 2014 より抜粋させていただいた)
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〔書 評〕
実積寿也著『ネットワーク中立性の経済学 通信品質を巡る分析』
(勁草書房 2013 年)
長崎大学 経済学部 教授 宍倉 学
本書は、インターネットが抱えるネットワーク中立性問題について、筆者がこれまで行ってきた
研究成果をもとに理論・政策・実証面から論を展開している。同書で論じられている問題は、内部
調整に軸をおく垂直統合型の供給体制と、市場による調整に軸をおく分離分割型の供給体制のいず
れがネットワーク構築及び発展に優れているのか、という根幹的論題に通じるものと考えられる。
本書の分析は多岐にわたるため、すべてを紹介することはできないが、以下エッセンスを紹介した
い。
本書は、インターネット市場の現状を示す第 1 章と総括と提言を示す第 10 章を除くと、大きく
2 つのパートから構成されている。第 2 章から第 4 章では、ネットワーク中立性問題の理論的背景
と、同問題に対する米国および日本の政策的議論が論じられている。一方、第 5 章から第 9 章で
は、実証分析によって、同問題を解決するために必要な条件が日本のインターネット市場で成立し
ているか検証を行っている。
第 1 章では、日本のブロードバンドサービスが直面する状況をデータで示すことで、ネットワー
ク中立性が問題となった背景を整理している。インターネット利用者数の増加が頭打ちとなる一方
で、サービスの高度化によりネットワークを流れるトラフィック量が急速に増大したことで、供給
制約が顕在化したことが同問題の背景にあることを示している。
第 2 章では、米国においてネットワーク中立性問題が議論されるに至った経緯と政策過程が示さ
れている。米国では、規制緩和のなかで通信事業者によるプロバイダの垂直統合が進展し、プロバ
イダ数が減少することになった。このような垂直統合による寡占化が、インターネットの発展を支
えてきた競争的な市場環境を阻害するのではとの懸念が、同問題の背景にあると指摘している。こ
のような懸念に対し、FCC は独占力が高いレイヤーの影響を制限し、競争的市場を確保しようと
したが、これは中立性確保のために事業範囲を限定する構造規制を設けることでもあり、競争維持
のために規制を設けるという逆説的な点を含んでいる。また、ネットワーク中立性を巡る政策的対
応は、市場構造や競争環境だけでなく、余剰の分配も左右することになるため、同問題への対応に
は意見の対立が生じたことを示している。
第 3 章では、ネットワーク中立性問題の背後にあるインターネット市場の構造的問題を整理して
いる。まず「ネットワーク中立性」が確保されている状況とは、インフラなどで独占力をもつ事業
者がその支配的地位をもって他のレイヤーに料金及び利用条件で差別的な取扱いが行われることを
禁止し、特定のアプリケーションを特別に取扱わないことで、アプリケーション間の公平な競争が
確保されている状況と定義したうえで、ネットワーク中立性を巡る問題が経済学的には「インター
ネット利用の急増に伴うネットワーク混雑」と「ネットワークを掌握する市場支配的事業者による
反競争的行為」の 2 つに集約できるとしている。この問題は、従来からネットワーク産業において
論じられてきた問題、例えば利用者料金や接続料金を巡る問題、もしくは接続規制やその前提とな
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る構造規制の問題と基本的に同じであることを指摘した上で、インターネット特有の性質として、
①インターネットが複数の独立したプロバイダの共同作業(相互接続)によって構築されているこ
と、②全体のトラフィック量に応じて個別の利用量が割り当てられる共有地型サービスであるこ
と、③利用者がサービスの品質を十分に認識できないことを挙げ、これらが問題の解決を複雑にし
ていると指摘している。
第 4 章では、「ネットワーク中立性に関する懇談会報告書」をもとに、日本での同問題に対する
政策的見解を整理している。日本のプロバイダ市場の状況を考慮すると、ネットワーク中立性問題
の解決を基本的に競争原理に基づく市場メカニズムと当事者間の協議にゆだねることが適当である
とする同報告書の見解は支持できるとしながらも、同報告に基づいて作成された恣意的な帯域制御
を回避するためのガイドラインが、拘束力を有しない自主的な努力目標に過ぎない点には問題があ
ると指摘している。
第 5 章から第 9 章では、ネットワーク中立性問題を解決するために必要な条件がインターネット
市場で成立しているか、実証分析をもとに検証している。第 5 章では、インターネット利用者の品
質保証型サービスに対する支払意思額を推計している。トラフィック増加に対する供給制約を解消
するには、プロバイダによる設備投資を加速させる必要があるが、適切な投資判断を行うために
は、現在のような定額料金を中心とした料金構造を変更していく必要がある。このような点を踏ま
えて、固定系ブロードバンドの品質改善(回線の実行速度)に対する支払意思額を計測している。
分析の結果、価格差別が可能である場合のプロバイダの 1 人当たりの収入と不可能である場合の収
入には大きな差が存在すること、高品質サービスに対する支払意思額にはバリエーションがあるこ
とを示している。また、推計結果から支払意思額の高い利用者に優先的に帯域を割り当てるプレミ
アムサービスを提供することから得られる追加収入を試算した結果、プレミアムサービスからの収
入で投資資金を確保できる期間は限られることを指摘している。
続く第 6 章では、固定系と移動系に対する利用者の支払意思額を推計し、固定系と移動系それぞ
れのブロードバンドサービスの品質改善に対する嗜好について検討を行っている。分析の結果、移
動系への支払意思額は固定系のそれと比べて低い値となっており、品質改善に対する利用者の支払
意思額が異なることを示している。また、このことから移動系と固定系では異なる品質目標を設定
するべきと指摘している。
第 7 章では、利用者のサービス品質に対する認識(リテラシー)の現状とその影響要因について
分析を行っている。まずアンケート調査の結果より、回答者が予測している速度(予測水準)は、
実行速度を大きく超過しており、利用者はインターネットのサービス品質について過大な評価をし
ていること、この傾向は実行速度が重要と認識していないグループほど強いこと、予測水準と実際
速度のギャップを理解することで、サービスの品質に対する利用者の不満が高まることを示してい
る。なお、実際の品質を知覚して現状に不満を抱くことが供給主体との契約変更につながり、品質
競争を通してネットワーク中立性問題の解決にもつながるため、実行速度に対する利用者の関心を
高めるよう環境整備を行う必要があると指摘している。
第 8 章と第 9 章では、利用者のプロバイダ選択を妨げる要因であるスイッチングコストについて
分析を行っている。まず、第 8 章では、モデルから導かれる理論式にデータを当てはめることで、
プロバイダ間のスイッチングコストを計算し、シェアが最小のプロバイダでスイッチングコストは
月額料金の 95%、シェアが大きいプロバイダで月額料金の 40%から 50%程度を占めることを示し
ている。
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ただし、この理論式ではプロバイダの品質の違いは考慮されておらず価格以外に加入者を獲得す
る方法がないということ、すべての利用者がプロバイダに加入済みで新規加入者は存在しないこと
を前提としているため、計算されたスイッチングコストにはバイアスがあるとしている。このため
第 9 章では、品質の違いを考慮に入れた上で、プロバイダ加入選択時のスイッチングコストを推計
している。この結果、プロバイダのスイッチングコストが各プロバイダの月額料金の水準とほぼ同
等かそれを超過する値となっていることを示している。なお、スイッチングコストは見方を変える
と、競合プロバイダから加入者を引き抜くために必要な値引き額を意味するが、スイッチングコス
トが月額料金を超過する以上、このような値引きをプロバイダ単独で行うことは困難であり、アク
セス網と垂直統合した事業者しか競争が出来ないことになる。故に、スイッチングコストが高いこ
とは、アクセス事業者と垂直統合したプロバイダしか加入者獲得競争に参加できないという意味
で、同市場の競争に非対称な影響を与えるとしている。また、スイッチングコストを考慮すれば、
事業者数や市場シェアをもって同市場を競争的と評価して、市場を通じてネットワーク中立性問題
が解決できると期待することは誤りであるとしている。
第 10 章は、総括と問題解決の提言を行っている。問題解決には、ブロードバンド市場で品質競
争が行われる必要があるが、これには利用者がサービスの品質(実行速度)を適切に認識している
こと、加入先を自由に選択変更できることが前提となる。しかし、利用者がサービス品質を完全に
認識することは難しく、また複数ネットワークが相互接続することでサービスが提供されるイン
ターネットでは、供給主体がサービス品質を単独でコントロールできるわけでもないところに同市
場の難しさがあるとしている。このような困難さを踏まえつつも、問題の解決策として、ブロード
バンドサービスの品質を評価する専門機関を構築するという方法を提言しており、この点では政府
介入の余地もあると述べている。
インターネットはネットワーク産業の研究者にとって壮大な社会実験的な意味を持っている。相
互接続、補完性、外部性など「市場の失敗」「協調の失敗」を引き起こす要因が存在するなかで、
自律分散と市場メカニズムによる調整に重きを置いた場合でもリソースの最適な資源配分を達成す
ることができるのか、という問いに一定の結論を示してくれるものと考えられる。その意味で、本
書で示される論点や提言はインターネットに限らず、ネットワーク産業全般の今後の在り方に重要
な示唆と視座を提供してくれるものと思われる。
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〔書 評〕
春日教測・宍倉学・鳥居昭夫共著『ネットワーク・メディアの経済学』
(慶應義塾大学出版会 2014 年)
城西大学 経済学部 非常勤講師 江良 亮
本書の意義
本書のタイトルにあるネットワークメディアとは、地上波放送(民間・公共放送)
・衛星放送・
ケーブルテレビ・番組コンテンツ制作市場といった放送分野、そしてこれらに関連する広告市場・
新聞・出版・コンテンツサービス・受信機端末市場等を対象としている。そしてこれらの市場で
は、基本的に情報財(知識財)が生産され、なんらかの媒体(メディア)を通じたサービス提供が
行われており、どれも伝送媒体として何らかのネットワークを通じて情報財が提供されており、同
時に公共財的な性質を持っているという点で共通している。このために、市場の失敗が生じる可能
性を否定できず、それを防ぐための諸施策が必要とされる。
情報財の提供という点では放送メディアの影響力は、インターネット普及後の現在でも極めて大
きく、我々の日常生活にとって欠くことの出来ないメディアであり続けている。しかしながら、放
送メディアに関する研究、とくに経済学の視点からのものは、我が国においてはこれまで研究事例
がいくつかの例外を除き限定的であったといえよう。そのような文脈において、最新の文献サーベ
イおよび事例・制度を対象にして理論的考察を加えたうえで、計量経済学的に実証分析まで試みて
いる本書の価値は極めて高い。その上、ハードとしての伝送媒体においても、関連するソフトウェ
ア等においても、技術進歩が目覚ましい分野が本書の分析対象に含まれていれる。こうした分野に
おいては、現状の実態や動向を確認することに終始してしまう研究も多々あるが、そうしたアプ
ローチでは急激な変化を丹念に追うが故に近視眼的な考察に止まりうる可能性を否定できない。し
かしながら、本書はネットワークメディアを俯瞰的に捉え、長期的に望ましい政策や競争環境整備
のあり方を捉えるフレームワークが提示されている。本書は実証経済分析という一貫した分析スタ
イルを用いているがゆえに、極めて技術進歩や市場環境の変化が速い当該分野の今後のあり方を考
察する上では特に有用であり、価値の高い希有な文献であるといえよう。
本書の内容
まず、第 1 章「ネットワーク・メディア産業の実態と特徴」において、本書を理解する上で前提
となるネットワークメディアの現状や理論的性質について網羅的な解説が行われている。第 1 節に
てメディア産業の現状を確認し、事業者数や市場規模の推移や歴史的経緯、そして放送法改正によ
る市場環境の変化について触れ、関連市場の動向について解説している。次に第 2 節にて、ネット
ワークメディアの経済学的特質であるネットワーク効果・価値財・経験財・市場の多様性・需要の
2 面性・互換性・規模および範囲の経済性・スイッチングコスト・即時消費性・非排除性と非競合
性・ソフトとハードインフラの補完性について解説し、IP 化や無線技術の進歩やオープン化といっ
た技術的変化の影響、このようなメディア変化が民主主義や倫理へのインパクトについて概観して
いる。第 1 章はメディア産業の市場構造や規制環境についての入門書としても極めて使いやすく、
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加えて直近の新技術の影響についても簡潔に学ぶことができる。
情報財は排除が可能な等量消費性をもつ一種のクラブ財とみなすことができるが、第 2 章「等量
消費性」ではこのようなクラブ財について、様々な条件下での理論的な分析をまず行い、私的供給
の最適条件について考察している。そこで問題となるのは最適条件が成立するための前提条件であ
り、価格差別が可能であるかが主要論点になる。しかし、価格差別を可能とするためには情報の非
対称性が無く、複製による譲渡を含めた転売がないことが不可避となる。しかし、情報財はそれら
について脆弱な性質を持ちうるため、私的供給では過小供給が生じうる。よって他の公共財同様に
強制加入と一律料金という供給形態が許容されうる。これが望ましいか否かは、強制加入による一
人当たりの費用負担の低減と公的供給による非効率性との相対的バランスにより個別に判断される
旨を指摘している。これは卓見であり、強制加入と一律料金という制度は一般的には議論される機
会が希有とも思われるが、これによる資源配分上の問題点についてミクロ経済学的根拠に基づき指
摘している。そして、ケーブルテレビと衛星放送は同一の情報財を複数の供給主体が提供している
といえるが、この競争関係を上記の意味でのバランスを検証するためのケースとして実証分析を試
みている。その結果、ネット接続とのセット販売と行政的支援はケーブルテレビ特有であり、同じ
有料放送であっても、対象期間においては衛星放送との差別化につながっているとし、ケーブルテ
レビにおいて市場支配力仮説の妥当性を指摘した。
情報財はこれと補完的なインフラやハードウェアとセットで提供されるが、第 3 章「補完性」で
は補完性の観点から情報財の供給構造を分析している。情報財が非競合的であっても、補完財であ
る受信端末や伝送インフラは競合性を持つことが多い。この相違に加え、補完性に起因する間接
ネットワーク効果の存在もネットワークメディアに欠かせない特質である。間接ネットワーク効果
は外部経済を発生しうるために市場の失敗の可能性が指摘される。そして、補完財は情報財提供者
が一貫して提供する結合供給(地上波放送)と別の主体によって行われる分離供給(衛星放送やイ
ンターネット)とがあるが、両者について社会的厚生を議論している。この問題は新技術の導入の
際に特に問題となりうるが、分離供給における補完財の連携事例として、地上波デジタル化におけ
る対応受信端末の買い換え問題を通して、地デジ対応テレビ購入選択でのハード要因・ソフト要
因・外生要因に対する消費者の選好をコンジョイント法を用いて分析している。結果、デジタル放
送受信テレビとコンテンツであるデジタル放送との間に間接ネットワーク効果の存在が認められた
としている。 情報財はコンテンツと広告の結合財として提供されることが多いが、コンテンツが最終財である
のに対して広告は中間財である。よって、事業者は消費者のコンテンツ需要とスポンサーの広告需
要の双方に直面している。こういった市場を 2 面市場もしくは多面市場と呼ぶという。第 4 章「市
場の多面性」ではこの特質を取り扱っている。この多面市場では情報財需要と広告需要間に相互関
係があり、プラットフォームとなる事業者はこの相互関係を調整しながらサービス提供を行ってい
る。また、産業によりコンテンツ提供から得られる収益と広告収入との割合は大きく異なり、地上
波のように広告のみから収益を得るものもあれば、新聞・雑誌のように双方から得るものもある。
本章ではこれらについてまずは理論的考察を行い、次に地上波民間放送局を対象にして営業利益の
要因についての実証分析している。そこでは、視聴率を用いた集中度指数と営業収益との間に相関
が見られず、地域の世帯当たり所得、自社制作比率といった環境要因やガバナンス要因が有意であ
ることが示された。この理由として、広告収入型メディアでは立地や人口規模といった要因が広告
市場におけるメディアの価値を決定する上でインパクトがあるとしている。加えて、広告収入型メ
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ディアと有料収入型との比較について理論的考察も行っている。
これまでは供給側に視点を当ててきたが、第 5 章「メディア需要者の行動」では利用側をフォー
カスしている。まずメディア利用の実態にふれ、テレビは他に比して接する時間がまだ多いものの
若年層を中心に視聴時間が落ちていることが示され、代替的メディアの成長からこの傾向が加速し
うることが示されている。そして、(1)新メディアの登場、メディア報道と(2)政治行動と(3)株式
市場との関係、(4)テレビ報道と利用者行動について最新文献を用いて検討している。
第 6 章「メディア市場の制度設計」では、今後の制度設計を考察していく上で必要な判断材料と
なる諸外国の制度について整理・考察している。具体的には EU 域内での過去 30 年間の制度変遷
と主要論点である。ここから規制当局と競争当局との関係のあり方を分析している。さらに第 7 章
「公共放送」では前章に引き続き、公共放送のあり方について、民間放送事業者の競争の場として
捉えた上で、事業効率性の視点から考察している。公共放送の「公共性」については倫理的・文化
論的な視点からの議論は多いが、本章のような“非営利事業の事業効率性を維持する”ことに起因
するとの視点はおそらく希有であり、客観性・一般性が担保された形で公共性が議論されている。
最後に
メディアは現在、変革期にあると思われるが、本書は、全体を通して一貫した分析スタイルで考
察を行っている。それは経済理論に基づいた精緻な理論分析を行い、さらにデータを用いて実証的
に検証し、推定結果をさらに深く汎用的な経済理論をツールとして用いて展開し結論を導いてい
る。それは専門性故に一般的な読者を想定していないものであり、メディアに関心のある学部学生
や実務関係者には難解なものも多く含まれている。しかしながら、本書の分析スタイルは今後のメ
ディア研究において、その客観性と結論の再現性という点で極めて発展性のあるものである。メ
ディアは概ね、多くの人にとって身近なものであり、ある意味でわかりやすい存在である。しか
し、それが故に、個人個人の生活実感から捉えようとすると、その身近さやわかりやすさが盲点と
なり、構造や特質がかえって見えづらくなりうるのではないだろうか。本書における主観性より客
観性に立脚した緻密な経済分析に基づいた考察を鑑みるに、メディア分析における経済学の有用性
を感じざるをえなかった。その意味で、今後のメディアのあり方を考察していく上でも本書の意義
は極めて高く、本書の刊行は当該分野の発展に帰するものである。
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〔書 評〕
矢口義教著『震災と企業の社会性・CSR -東日本大震災における企業活動とCSR-』
(創成社 2014 年)
気象大学校 非常勤講師 相澤 朋子
これまでの震災と企業の CSR(企業の社会的責任)に関する研究は、被災地域の外から被災地
域に対する支援を軸とした活動を調査・研究したものであった。本書の特徴は、被災地企業による
被災地域を支える活動や復旧・復興への貢献という「内から内へ」というアプローチで被災地企業
の CSR を考察する点にある。
本書の構成は以下の通りである。CSR の基本とこれまでの国際的な潮流、日本における CSR を
紹介する。続いて、非被災地企業から被災地に対する活動を調査した先行研究を紹介し、被災地企
業から被災地に対する活動について著者の調査と分析を示している。最後に、今後の被災に備えた
具体策を提示する。
以下では、各章の内容を紹介し、コメントを述べる。
第 1 章で著者は、企業と社会性の関係の捉え方を紹介している。一つは、企業を営利追求機関と
みなしてその社会性を切り離して考える企業観で、法人擬制説に基づく考え方である。例えば、ア
ングロ=サクソン諸国の企業経営において、企業の営利性に対して社会性を組み込んでいく過程や
取り組みが CSR となる。
もう1つは、社会性を内包した社会的存在として企業を捉える企業観で、法人実在説に基づく考
え方である。企業活動の規模が大きくなるにつれて、社会的な性格を帯び、社会的存在としての性
格が強くなるという考え方である。
また筆者は、東日本大震災発生からの復興プロセスを「緊急・救援期」、「復旧期」、「復旧と復興
の平行期」、「復興期(再生期)」の 4 つに分類した。沿岸部と内陸部は、震災発生直後から 2・3 ヵ
月程度の「緊急・救援期」を経て、
「復旧期」に移行した。仙台市中心部などの内陸部では、震災
後 1 年程度で「復興期」に向かった。しかし、南三陸町や女川町など沿岸部では、
「復興期」に
入ったとは言えず、現在は「復旧と復興の平行期」にあるとみなしている。
第 2 章で CSR の基本と新しい視点を説明している。CSR の定義は多様であるが、キャロル=
ブックホルツの CSR モデルは、企業は経済的・法律的責任という基礎的責任を果たした上で、倫
理的・社会貢献的責任を満たすというもので、世界的にも広く知られていると紹介している。
また、暗黙的 CSR とは、企業の社会的責任が、経営者の哲学、良心、使命などに深く組み込ま
れているもので、明示的 CSR とは、CSR が組織内部に制度化されて経営戦略に組み込まれている
状況と定義している。
受動的 CSR とは、価値を創出するための事業活動のプロセスが社会に与える悪影響を軽減する
こと、あるいはフィランソロピー(企業による寄付行為などを含む社会貢献活動全般)を指す。ま
た、戦略的 CSR とは、企業が価値を創出するための事業活動を社会に役立つものに変容させ、更
には経営資源を用いて社会と企業にとって重要な課題事項を改善することを指すと説明している。
ポーター=クラマーは、戦略的 CSR を具現化して実践するための概念として CSV(共通価値創
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造)を提示していると本書で紹介されている。CSV は、企業が位置する地域社会の経済的・社会
的状況をより良いものにする活動が同時に企業の競争力を強化する活動となることから、社会的価
値と経済的価値を創造する活動であると述べられている。
最終的に CSR とは、さまざまな社会課題を事業に組み込みながら、競争力の強化を図って、経
済・環境・社会がともに持続的な発展を遂げるような事業運営をする枠組みであると定義してい
る。
第 3 章では、CSR の国際的動向や国内の動向、CSR の背景と政策が紹介されている。国際的な
規格の作成を進めてきた ISO は、2010 年 11 月に CSR 規格の ISO26000SR、組織の社会的責任につ
いての国際的ガイドラインを作成したと紹介されている。
更に、各国・地域により CSR の位置づけや取組が異なることを紹介した。EU における CSR は、
環境や社会における課題を解決することで、経済的にも持続可能な発展を目指し、政府・行政機関
と民間機関との連携により進められている。アメリカの CSR は、成功を収めた企業家による地域
社会への慈善・寄付活動といった企業や NGO などの民間機関の自発的な取り組みとされている。
日本では、日本経団連が企業行動憲章を制定したり、日本経済新聞社が CSR を評価する指標を
作成したりしている。日本政府は、EU のように経済政策に CSR を盛り込まず、状況調査や提言、
日本企業の CSR を EU や国連などの国際基準に近づけていく活動をしている。
第 4 章で著者は、被災地企業と非被災地企業を区分する基準を提案している。著者は被災地企業
と非被災地企業を 2 段階・計 5 つに分類しているが、以下の 4 つの定義に集約できる。
被災地企業①:被災地域に本拠と事業所を構えて、同地域を主たる事業活動領域としている企業
で、津波被害を直接受けた企業を指す。例えば、阿部長商店、ヤマニシ、木の屋石巻水産などであ
る。本書における分類では[C]に該当する。
被災地企業②:上記と同様被災地域に本拠と事業所を構えて事業活動を行う企業で、津波被害を
直接受けなかった企業を指す。例えば、イシイ、高政、岩機ダイカスト、堀尾製作所などである。
本書における分類では[Ba]に該当する。
被災地企業③:本社が非被災地にあり、当該企業の中核的事業所の 1 つ以上が被災地域に存在
し、かつその事業所が大規模な被害を受けた企業を指す。例えば、日本製紙石巻工場、仙台市のキ
リンビール工場、ソニー多賀城事業所、JX 日鉱日石エネルギーの仙台製油所などである。本書に
おける分類では[Bb]に該当する。
非被災地企業④:本社が非被災地にあり、事業所が非被災地にあるか、あるいは事業所が被災地
にあったとしても小規模な被災で済んだ企業を指す。本書における分類では[A, Bc]に該当する。
第 5 章では、③④の企業の CSR 活動について考察する。第 5 章の前半は、先行研究や新聞、雑
誌から、主に④に該当する非被災地企業の金銭的支援、物資提供、ボランティア派遣といった本業
との関連性が低い被災地支援を紹介している。後半部分で、現在の復興支援活動は、事業との関連
性が高い被災地支援に重点が置かれるようになってきていることを③の企業の事例を用いて説明し
ている。
第 6 章が本書の主要な貢献部分であり、①②の被災地企業による震災時及び復旧期の地域社会に
対する行為が CSR の観点から考察されている。水産卸売業 1 社、人材派遣業 1 社、コンサルタン
ト業 1 社、医療機器商社 1 社、水産加工業 3 社、宿泊業 2 社、交通 1 社、部品製造業 2 社から業種
別の CSR をまとめた上で、ユニフォーム販売・レンタルで有名なイシイ株式会社、宮城県女川町
に本社及び本社工場を構える水産加工・食品製造業社の高政、国内トップクラスの農業商社として
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知られている舞台ファームを詳細に分析した。
その結果、第一に、被災地企業の震災時及びその後の地域社会に対する CSR 活動は、事業との
関連性が高かった。とりわけ、激甚災害地域にある企業では、事業を継続することが最も重要で
あった。事業継続により雇用責任や供給責任を果たし、地域住民の生活を支えることができたと書
かれている。
第二に、企業の存続と地域社会の存続が相互に不可分であり、雇用の維持・拡大、取引先との助
け合い、地域の交通手段の確保、被災地域の PR といった各企業の活動は、地域社会の維持・発展
につながる CSR 活動であったと述べている。
第三に、経営者が地域社会の維持・発展に対して強い使命感を持ち、事業を通じて地域社会に対
する社会的責任を果たす行為を無意識に行うという暗黙的 CSR が実行されていたと分析している。
第 7 章では、今後の震災に向けて、企業は以下のような行動を取るべきであると主張した。
第一に、大震災発生時には、企業は被災しながらも事業を継続し、供給責任を果たすべきであ
る。そのためには、BCP(事業継続計画)を準備しておく必要がある。また、日頃から地域の報道
機関との信頼関係を構築し、緊急・救援期に事業を継続していることを被災地域に伝える必要があ
る。更に、非被災地域に情報発信し、被災地域で必要としている物資・協力等を伝えることが必要
であると主張している。
第二に、その企業の本業が競争力を有し、財務的に健全である必要がある。そうでなければ、被
災時にステークホルダー(政府、自治体、従業員、取引先、投資家(株主・金融機関)、地域社会、
研究者、NGO などの利害関係者)からの信用を得ることができず、事業を継続できない。
第三に、大震災直後の緊急・救援期に、自治体や日本赤十字などの公共機関に支援物資が集中
し、義捐金や物資の被災地域への配付が遅れてしまった。そこで、震災時の緊急・救援期におい
て、金銭的支援や物資の受け入れ先を多様化しておく必要があると指摘している。被災現場で社会
的責任を果たす企業に物資が渡るようにして、その企業から物資を必要とする被災者や施設に物資
が届く仕組みを構築することを提案している。
最後にコメントを述べる。本書は、様々な業種の被災地企業にインタビューを行い、膨大な新
聞、雑誌等の公表資料を使い、被災地中小企業の被災地域に対する活動を定性的に評価し、計 15
社に対する著者の定性的な評価を本書で伝えている。しかし、非被災地で活動する家計・企業は、
ここで紹介されなかった数多くの中小企業が震災時に社会的責任を果たす行動をとるのかどうかを
判断することはできない。分かりやすい指標を提示して頂けると有難い。
また、中小企業やアンケート実施機関が開示する個票データは少なく、アンケート調査を行うに
は多額の資金が必要なので難しいとは思うが、被災地中小企業による被災地支援活動に対して定量
的・統計的アプローチを試みて頂くことを期待する。
本書の前半で、CSR の定義、国別・地域別の CSR を紹介し、CSR に関して偏りなく説明してい
る。後半で、震災と CSR に関する先行研究を紹介し、続いて被災地で営業する複数の業種にわた
る計 15 社に及ぶ中小企業が大震災時に被災地で社会的責任を果たした活動を定性的に分析してい
る。本書は、被災地中小企業の CSR を考察した先駆的な書籍である。
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生活経済学会の活動状況
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2014 年度生活経済学会部会開催状況
2014 年度の各部会は次のとおり開催された。
○ 北海道部会 《部会長 菅原 浩信 氏(北海学園大学)》
1
開催日
2014 年 12 月 13 日(土)
2
開催場所
北海学園大学(豊平キャンパス)7号館D 40 番教室
3
開催概要
⑴特別講演
テーマ 「産学連携と地域振興」
講演者
生活経済学会会長 藤野 次雄 氏(横浜市立大学)
⑵特別講演
テーマ 「ゆうちょの現状と今後の課題」
講演者
月原 健雄 氏(株式会社ゆうちょ銀行 北海道エリア本部 副本部長)
⑶研究報告
テーマ 「3.11 東日本大震災と水産加工食品の販売について」
報告者
江尻 行男 氏(東北福祉大学)
討論者
松本 懿 氏(酪農学園大学)
⑷研究報告
テーマ 「病院・薬局から見た医療品医薬品卸の機能
-情報提供サービスの実証を中心に-」
報告者
櫻井 秀彦 氏(北海道薬科大学)
(丹野 忠晋 氏(跡見学園女子大学)、恩田 光子 氏(大阪薬科大学)、
林 行成 氏(広島国際大学)、山田 玲良 氏(札幌大学)との共同研究)
討論者
伊藤 一 氏(小樽商科大学)
○ 東北部会 《部会長 江尻 行男 氏(東北福祉大学)》
1
開催日
2014 年 11 月 15 日(土)
2
開催場所
東北福祉大学ステーションキャンパス館 6F
3
開催概要
第 1 報告
テーマ 「家政系学生への災害食対応カリキュラムの検討
-被災時の食をどのように伝えていくか-」
報告者
乙木 隆子 氏(岩手県立大学盛岡短期大学部)
討論者
江尻 行男 氏(東北福祉大学)
第 2 報告
テーマ 「被災地における志の結集と資本の集積を同根にする『ココノワ』」
報告者
阿部 哲也 氏(明治大学研究員)
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討論者
鴨池 治 氏(東北福祉大学)
第 3 報告
テーマ 「滝沢市のそば店経営と地域再生の試み-利用客のアンケートを中心に-」
報告者
植中 浩子 氏(岩手県立大学)
討論者
金 政信 氏(東北福祉大学)
第 4 報告
テーマ 「地域発の事業創生とクラウドファンディング」
報告者
野呂 拓生 氏(青森公立大学)
討論者
工藤 健一 氏(東北福祉大学)
第 5 報告
テーマ 「商店街組織が運営する地域通貨の意義と課題」
報告者
菅原 浩信 氏(北海学園大学)
討論者
佐藤 康仁 氏(東北学院大学)
ワークショップ
テーマ 「東北コミュニティの危機」
討論者
遠藤 利光 氏(日本銀行仙台支店)
今野 佳浩 氏(宮城県)
都築 光一 氏(東北福祉大学)
コーディネーター 吉田 浩 氏(東北大学)
○ 関東部会 《部会長 宮村 健一郎 氏(東洋大学)》
1
開催日
2014 年 11 月 29 日(土)
2
開催場所
東京経済大学国分寺キャンパス 2 号館 1 階
3
開催概要
基調講演
テーマ 「今、生活経済学を考える」
講演者
村本 孜 氏(成城大学)
自由論題分科会 A 司会
竹澤 康子 氏(東洋大学) 天野 晴子 氏(日本女子大学)
1.「日本の公的年金制度の生成・発展とその研究の展開」
報告者
城戸 喜子 氏(前田園調布学園大学)
討論者
駒村 康平 氏(慶應義塾大学)
2.「子どもの有無が男女の昇進意欲に与える影響」
報告者
横山 真紀 氏(お茶の水女子大学大学院)
討論者
坂本 和靖 氏(群馬大学)
3.「震災後の幼児の屋外遊びの保障に関する福島県内各市町村の取り組みの現状と課題」
報告者
佐藤 海帆 氏(日本女子大学大学院)
討論者
赤塚 朋子 氏(宇都宮大学)
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自由論題分科会 B
司会
藤野 次雄 氏(横浜市立大学) 浅子 和美 氏(一橋大学)
1.「負債市場の不完全性が企業の資本構成、投資活動に及ぼす影響について
-日本が直面した 2008 年の世界金融危機の事例を元にして-」
報告者
岩木 宏道 氏(一橋大学大学院)
討論者
宮村 健一郎 氏(東洋大学)
2.「ベンチャーファイナンスの有効性- IPO 前企業のデータによる分析」
報告者
藤倉 孝行 氏(成城大学大学院)
討論者
石川 雅也 氏(東京経済大学)
3.「退職給付の雇用管理上のインセンティブ効果」
報告者
大久保 信一氏(名古屋市立大学大学院)
討論者
柳瀬 典由 氏(東京経済大学)
○ 中部部会 《部会長 伊藤 志のぶ 氏(名城大学)》
第 1 回研究大会
1
開催日
2014 年 11 月 8 日(土)
2
開催場所
名古屋大学経済学部 2 階第 1 会議室
3
開催概要
第Ⅰ部
座長 竹内 信仁 氏(愛知学院大学)
第 1 報告
テーマ 「ミュルダールの福祉国家観」
報告者
渡邊 幸良 氏(同朋大学)
討論者
鎌田 繁則 氏(名城大学)
第 2 報告 テーマ 「生活経済学体系化への視点」
報告者
内田 滋 氏(愛知学院大学)
討論者
釜江 廣志 氏(東京経済大学)
第Ⅱ部
座長 小林 毅 氏(中京大学)
第 3 報告
テーマ 「金融経済教育の歴史とその課題」
報告者
奥田 真之 氏(名古屋大学大学院)
討論者
家森 信善 氏(神戸大学)
第 4 報告
テーマ 「低金利政策、産業間資本移動と経済停滞」
報告者
近藤 智 氏(愛知学院大学)
討論者
柳原 光芳 氏(名古屋大学)
第 2 回研究大会(小研究会)
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開催日
2015 年 3 月 22 日(日)
2
開催場所
名城大学名駅サテライト(MSAT)
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開催概要
テーマ 「現代の貧困と社会保障の課題」
講 師
一圓 光彌 氏(関西大学名誉教授)
○ 関西部会 《部会長 松本 直樹 氏(追手門学院大学)》
第 1 回研究大会
1
開催日
2014 年 5 月 10 日(土)
2
開催場所
追手門学院大学 4 号館 4506 教室
3
開催概要 第 1 報告
テーマ “Dissatisfaction with Caregiving and Mental Health of Co-residential Caregivers”
報告者
熊谷 成将 氏(近畿大学)
第 2 報告
テーマ 「出生率内生化モデルにおける家族政策の考察」
報告者
村田 美希 氏(追手門学院大学)
第 3 報告
テーマ 「車依存社会の構造分析」
報告者
植野 和文 氏(兵庫県立大学)
第 2 回研究大会
1
開催日
2014 年 12 月 6 日(土)
2
開催場所
関西学院大学大阪梅田キャンパス 1004 教室
3
開催概要
全体テーマ「人口減少下の地域社会-雇用・財政・福祉」
第 1 報告
テーマ 「限界集落こそ時代の最先端-上勝町のこころみ-」
報告者
今堀 洋子 氏(追手門学院大学)
討論者
松本 直樹 氏(追手門学院大学)
第 2 報告
テーマ
「高度経済成長の裏面史としての過疎山村の形成と‘むら’づくり」
報告者
大川 健嗣 氏(東北文教大学) 討論者
今堀 洋子 氏(追手門学院大学)
第 3 報告
テーマ 「十津川村の復興と新たな集落づくりの取り組み」
報告者
室﨑 千重 氏(奈良女子大学)
討論者
所 道彦 氏(大阪市立大学)
総括ディスカッション
○ 中四国部会 《部会長 矢野 順治 氏(広島大学)》
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開催日
2014 年 11 月 29 日(土)
2
開催場所
山口大学吉田キャンパス(時間学研究所フォーラムスペース)
3
開催概要
第 1 報告
テーマ 「貯蓄率と消費関数」
報告者
兵藤 隆 氏(山口大学)
第 2 報告
テーマ 「調整交付金の財政調整効果に関する将来推計」
報告者
若松 泰之 氏(広島大学)
講 演
テーマ 「北米におけるリテール金融機関の現状と課題」
報告者
生活経済学会副会長 朝日 讓治 氏(明海大学)
○九州部会 《部会長 森保 洋 氏(長崎大学)》
1
開催日
2014 年 11 月 22 日(土)
2
開催場所
鹿児島大学法文学部 1 号館 2 階 202 号教室
3
開催概要 第 1 報告
テーマ
「預金市場の市場規律と追い貸し」
報告者
永田 邦和 氏(鹿児島大学) 第 2 報告
テーマ
「地方銀行の店舗展開 -北九州市におけるケーススタディ-」
報告者
森 祐司 氏(九州共立大学)
第 3 報告
テーマ “Analysis of Sovereign CDS and Government Bond Markets in the Euro Zone Crisis”
報告者
伊藤 隆康 氏(明治大学)
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書籍紹介
以下のリストは、会員の自薦・他薦により 2014 年 12 月までに事務局に寄せられた、会員が執筆
者となっている出版物です。会員による学術的な図書を紹介することによって、会員相互の交流を
図りたいと考えておりますので、所定の様式にご記入の上、「目次」と共に、事務局あてにお送り
ください。
なお、以下の書籍の書評を書いていただける会員がいらっしゃいましたら、編集委員長までご連
絡ください。
森
祐司 著 『地域銀行の経営行動 変革期の対応』 早稲田大学出版部 2014 年 12 月、A5 判、
320 頁
序 章 本書の目的と分析の枠組み 第 1 章 貸出行動についての分析
第 2 章 証券投資の決定要因
第 3 章 投資信託の窓口販売についての分析
第 4 章 非金利収入の拡大・経営多角化についての分析
第 5 章 株式所有構造から見たコーポレート・ガバナンス
第 6 章 役員構造から見たコーポレート・ガバナンス
終 章 地域銀行の課題と将来展望
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生活経済学会第 31 回(2015 年度)研究大会のご案内
次のとおり、研究大会の開催が計画されていますので、ご案内いたします。
〇 期 日
2015 年 6 月 27 日(土)~ 28 日(日)
〇 会 場
追手門学院大学
〒 567-8502 大阪府茨木市西安威 2-1-15
■阪急茨木市駅からスクールバス(約 20 分)
■JR茨木駅からスクールバス(約 20 分)
■詳細は http://www.otemon.ac.jp/guide/campus/access/ をご覧ください。
■ 6 月 27 日(土)は、両駅とも、13 時発(臨時)のスクールバスを運行します。
■ 6 月 28 日(日)は、両駅とも、9 時発(臨時)のスクールバスを運行します。
ただし、JR茨木駅のバス乗り場は、日曜日のみ変更になります。
■当日の交通事情により、バスが遅延することもありますので、ご留意ください。
〇 日 程
第 1 日目
6 月 27 日(土) 14 時 00 分~ 16 時 10 分
自由論題研究報告・分科会
16 時 20 分~ 17 時 20 分
会員総会・表彰式
17 時 30 分~ 19 時 30 分
会員懇親会
第 2 日目
6 月 28 日(日) 10 時 00 分~ 12 時 30 分
共通論題「アベノミクスと
私たちの暮らし」
〇 第 31 回研究大会プログラム委員会
〇 第 31 回研究大会実行委員会
(敬称略、五十音順)
(敬称略、五十音順)
氏 名
所 属
氏 名
所 属
委員長 松本 直樹
追手門学院大学
委員長 松本 直樹
追手門学院大学
委 員 今堀 洋子
追手門学院大学
委 員 畔上 秀人
京都学園大学
林原 正之
追手門学院大学
伊藤 志のぶ 名城大学
村田 美希
追手門学院大学
岩佐 代市
関西大学
植野 和文
兵庫県立大学
熊谷 成将
近畿大学
外島 健嗣
大阪国際大学
寺本 尚美
梅花女子大学
所 道彦
大阪市立大学
西村 智
関西学院大学
林 宏昭
関西大学
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学会賞の募集等のお知らせ
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2015 年度生活経済学会賞等の推薦募集要項
1 推薦募集の趣旨
生活経済学の分野において優れた研究業績を挙げた会員を表彰することによって本学会の振興
を図る。
2 対象となる賞の種類
(1) 生活経済学会賞
本学会に 3 年以上継続して在籍している会員による特に優れた研究業績に対して原則とし
て1件授与する。
(2) 生活経済学会推薦図書賞
本学会に 3 年以上継続して在籍している会員による優れた研究業績に対して若干件授与す
る。
(3) 生活経済学会奨励賞
本学会に 1 年以上継続して在籍し、今後一層の発展が期待される 45 歳以下の会員による
優秀な研究業績に対して原則として 2 件授与する。
(注)上記の在籍期間及び満年齢は 2015 年 9 月 30 日現在とする。
3 推薦方法
(1) 候補者を推薦しようとする会員は、推薦書(別添様式)に必要事項を記入し、対象となる
著書又は論文若しくはその写しを 5 部添付の上、2015 年 9 月 30 日 ( 必着 ) までに、学会事
務局(下記 6)あてに提出する。
なお、推薦書の様式は生活経済学会ホームページ(http://www.jsheweb.org/)のメニュー
「各種委員会活動」→「学会賞」→「推薦書様式」からダウンロードできる。
(2) 推薦は、自薦、他薦を問わない。
但し、自薦の場合は、当該研究業績の照会先として、1 名記入する。(照会先に推薦等の
承諾を得る必要はない)。
推薦の対象となる研究業績は、2015 年 9 月 30 日に至る、原則として過去 3 年間に公刊さ
れた著書又は論文(共同研究を含む)とする。
(注)対象となる著書又は論文若しくはその写しは、原則として返却しない。
4 選考方法及び決定通知
(1) 推薦された研究業績は、学会賞等選考委員会において審査される。
(2) 受賞者決定通知は、2016 年 3 月下旬に行う予定である。
(「採」「否」の理由に関する問い合わせには応じられない。)
5 学会賞等選考委員会
委員長 朝日 讓治 (明海大学)
委 員 滝川 好夫 (神戸大学)
宮村 健一郎 (東洋大学)
吉田 浩 (東北大学)
米山 高生 (一橋大学)
(注)2015 年度の委員については、決まり次第ホームページで発表する。
6 推薦先及び問い合わせ先
生活経済学会事務局
〒 101-0061 東京都千代田区三崎町 3 丁目 7 - 4
Tel:03-5275-1817 Fax:03-5275-1805
E-mail: he-offi[email protected]
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様 式
年 月 日
生 活 経 済 学 会
会 長 殿
推 薦 者 氏 名
「生活経済学会賞・生活経済学会推薦図書賞・生活経済学会奨励賞」の受賞候補者を
下記のとおり推薦いたします。
No.1
受賞候補者
生年月日 年 月 日
〒
電話( ) -
FAX( ) -
自宅住所
所属機関名及び
職 名
〒
電話( ) -
FAX( ) -
所属機関所在地
略 歴
対象となる著書
又は論文の名称
(1件)
関連著書等があれ
ば併せて記入して
ください。
推 薦 者
〒
電話( ) -
FAX( ) -
(自薦の場合は、「照会先」)
(所属機関名、職名及び連絡先)
注1:「生活経済学会賞・生活経済学会推薦図書賞・生活経済学会奨励賞」のいずれ
かに○を付けてください。
注2:共同研究の場合は、他の受賞候補者全員の「氏名」、「自宅住所」、「所属機関名
及び職名」、「所属機関所在地」及び「略歴」を、当「様式」を複写した用紙に
それぞれ記入し、添付してください。
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No.2
推薦の理由
研究分野におけ
る業績評価
生活経済学との
関わり
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会員編著等の書籍紹介の募集及び書評掲載についてのご案内
生活経済学会編集委員会では、会員の業績を紹介し、会員相互の研究活動の振興に資するため、
『生活経済学研究』において会員編著等の書籍紹介及び書評掲載を行っています。
つきましては、以下をご一読の上、ふるってご応募ください。
1 応募資格
生活経済学会の会員とします。
なお、共同編著、共同監修、共同訳の書籍の場合、共同編著者等の中に生活経済学会の会員
以外の方が含まれていても応募することができます。
2 第 42 巻の対象となる書籍
次号(42 巻:2015 年 9 月発行)において書籍紹介の対象となるのは、原則として 2012 年
10 月から 2015 年 6 月までの間に出版された会員編著等の書籍に限ります。
なお、会報、紀要、雑誌等は対象外とし、すでに『生活経済学研究』の書籍紹介において紹
介された書籍も除きます。
3 応募方法
別紙様式に所要の事項を記入の上、E-mail、郵送又は FAX に添付して、生活経済学会事務
局(下記 6)あてに送付してください。また、書評を希望される場合は、当該書籍を一冊事務
局あてにお送りください。事務局より、書評執筆者に送付いたします。
なお、様式は生活経済学会ホームページ(http://www.jsheweb.org/)のメニュー「学会誌」→
「書籍紹介」→「応募用紙」からダウンロードできます。
4 その他
編集委員会では、書籍紹介に掲載された会員編著等の書籍に対し、著者が希望する場合は、
可能なかぎり書評執筆者を見つけ、書評掲載に努めています。
なお、書籍紹介に掲載されていない書籍につきましても、本学会誌として書評を掲載すべき
価値のある書籍については、積極的に書評を掲載したいと考えております。自薦他薦を問わ
ず、事務局又は編集委員までご連絡ください。
5 第 42 巻に関する応募締切り
2015 年 6 月 30 日 ( 必着 )
6 送付先
生活経済学会事務局
〒 101-0061 東京都千代田区三崎町 3 丁目 7 - 4
Tel:03-5275-1817 Fax:03-5275-1805
E-mail: he-offi[email protected]
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年 月 日
生活経済学会事務局 御中
氏 名
住 所
所 属
E - Mail
TEL
FAX
『生活経済学研究』(第 42 巻)における書籍紹介・書評の応募
1 編著者名
編者名(編、共編、編著、共編著、監修、共同監修、訳、共同訳の別)
(全員を記入してください)
著者名(単著、共著、共編著、分担執筆の別)
2 編著書名
(共著、共編著、分担執筆の場合は必ず
記載してください)
編著書名
執筆部分の章名
(記入例) 第1章○○○ 執筆者名
第 2 章□□□
第 3 章□□□ 執筆者名
3 形式等
(1)形 式
(2)ページ数
(A5 判、B6 判等の区別)
4 出版社名
(原則として 2012 年 10 月から 2015 年 6 月までに出版された書籍に限ります。)
5 出版時期
6 書 評 を 希 望 し な い 方 は
チェックしてください。
□ 書評を希望しない。
7 その他(連絡事項)
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生
活
経
済
学
会
会
則
(名 称)
第 1 条 本会は、生活経済学会と称する。
(事 務 局)
第 2 条 本会は、事務局を東京都千代田区三崎町 3 - 7 - 4 に置く。
(目 的)
第 3 条 本会は、個人の金融面並びに生活保障面の問題をはじめ、個人(家計)の経済活動全般
の領域において、総合的、学際的に研究、討議し相互に意見を交換し、もって個人(家計)の経
済活動全般の改善、発展に貢献することを目的
(事業活動)
第 4 条 本会は前条の目的を達成するため、経済学、金融論、保険論、証券論、財政学、経営
学、会計学、社会保障論、社会学、家政学、生活科学、情報通信科学等の分野の研究者が学際的
に研究するものとし、次の事業を行う。
(1) 研究大会の開催
(2) 必要に応じての部会の開催
(3) 会報の発行
(4) 顕著な功績を挙げたものに対する顕彰
(5) その他本会の目的を達成するために必要な事業
(会 員)
第 5 条 本会の会員は、次のとおりとする。
(1) 正会員 本会の目的に賛同して入会した研究者
(新たに入会する又は準会員から正会員へ種別変更する場合には、正会員の推薦
を必要とする。)
(2) 学生会員 本会の目的に賛同して入会した大学院生及び研究生
(新たに入会する場合、正会員の推薦を必要とする。)
(3) 準会員 本会の目的に賛同して入会した一般個人
(4) 名誉会員 本会に功労のあった者で、担当理事会において推薦し、理事会・総会において
承認を得た者
(5) 賛助会員 本会の目的に賛同して入会した法人・団体
(入 会)
第 6 条 本会に入会しようとする者は、入会申込書を会長に提出し、担当理事会の承認を受ける
ものとする。
これを承認したとき、担当理事会は理事会に、理事会は総会にそれぞれ報告する。
(退会、休会及び除名)
第 7 条 本会における退会、休会及び除名は次のとおりとする。
(1) 会員は、退会届を会長に提出することにより退会することができる。
(2) 会長は、3 年以上会費を滞納した者及び 3 年以上居所が確認できない者を、担当理事会の
議決を得て、退会したものとみなすことができる。
(3) 病気、海外研修等で 1 年以上学会活動に参加できない者は、休会の理由とそれを裏付ける
書類写しを添えて会長に休会申込書を提出し、担当理事会の議を経て年度単位で休会するこ
とができる。
(4) 会員が生活経済学会の名誉を著しく損なう行為を行った場合、会長は担当理事会の議を経
て当該会員を除名することができる。この処分に関し、担当理事会は理事会に、理事会は総
会にそれぞれ報告する。
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(会 費)
第 8 条 会員は、次のとおり会費を納めなければならない。
(1) 正会員 1 人年額 8,000 円
(2) 学生会員 1 人年額 4,000 円
(新たに入会する場合又は毎年の会費納入時、在学証明書又は学生証の写しを提出するこ
と。)
(3) 準会員 1 人年額 3,000 円
(4) 賛助会員 1 口年額 20,000 円
2 会費の金額の変更は、総会の議決を経て行う。
3 会費は年度単位で納入し、既納の会費は返納しない。
4 名誉会員は、会費を納めることを要しない。
(役 員)
第 9 条 本会に次の役員を置く。
(1) 会 長 1 名
(2) 副会長 2 名(総務・企画委員会担当、財務・学会賞等選考委員会担当)
(3) 理 事 38 名以内
(4) 担当理事 15 名以内
なお、担当理事は、第 5 項に基づき担当する会務の内容によりそれぞれ総務担当理事
(11 名:各部会長 7 名、編集委員長、企画委員会委員、学会賞等選考委員を含む)、財務担
当理事(2 名)及び渉外担当理事(2 名:学術交流委員長、ホームページ委員長を含む)と
呼ぶ。
(5) 監 事 2 名以内
2 会長は本会を代表し、会務を統括する。
3 副会長は会長を補佐し、会長に事故あるとき又は欠けたとき、その職務を代行するとともに、総
務担当理事、財務担当理事及び渉外担当理事の執行する会務を総括する。
4 理事は理事会を組織し、重要な会務を執行する。
5 担当理事は、常務を処理するほか、次の会務を執行する。
(1) 総務担当理事は、原則として、部会および第 11 条に規定する編集委員会並びにその他の委
員会を統括する。
(2) 財務担当理事は、本会の財産及び予算の執行、管理を行う。
(3) 渉外担当理事は、日本学術会議、日本経済学会連合及び他学会等の渉外・折衝活動、及び学会
の広報活動を行う。
6 監事は会計を監査する。
7 役員の任期は、選挙の行われた年の研究大会終了の翌日から翌々年の研究大会終了日までの期
間とし、連続して 3 期を超える場合を除き再任を妨げないものとする。
(役員の選任)
第 1 0 条 理事及び監事は、役員選挙のある年の 3 月 31 日現在で年齢が満 70 歳未満の者の中か
ら、別に定めるところにより選任し、会長、副会長及び担当理事は、別に定めるところにより理
事の中から互選する。
(会 議)
第 1 1 条 本会の会議は、総会、理事会、担当理事会、企画委員会、編集委員会、ホームページ委
員会、学会賞等選考委員会、及びその他必要とする委員会とする。
2 総会は会員をもって構成し、理事会は理事をもって構成する。
3 担当理事会は、会長、副会長及び担当理事をもって構成する。
4 監事は、随時理事会及び担当理事会に参加できる。
5 企画委員会、編集委員会、ホームページ委員会、学会賞等選考委員会、及びその他必要とする委員
会の構成は別に定める。
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(総 会)
第 1 2 条 通常総会は毎年 1 回、臨時総会は必要に応じ理事会又は担当理事会の議決を経て、会長
が招集する。
2 会則の変更、役員の選任及び解任、予算及び決算その他本会の運営に関する重要な事項は、総会
の承認を得なければならない。
3 総会の議決は、出席した正会員の過半数による。
(理事会)
第 1 3 条 理事会は会長が必要と認めるとき及び役員 2 名以上の求めにより開催し、重要な会務の
執行に関する事項を審議する。
(担当理事会)
第 1 4 条 担当理事会は、会長が必要と認めるとき及び担当理事 2 名以上の求めにより開催し、会
務の執行に関する事項を審議する。
(企画委員会、編集委員会、ホームページ委員会及び学会賞等選考委員会)
第 1 5 条 本会会員の研究活動の促進を図るため、本会に次の委員会を設置する。
(1) 企画委員会
(2) 編集委員会
(3) ホームページ委員会
(4) 学会賞等選考委員会
2 各委員会の設置については、別に定める。
(部 会)
第 1 6 条 本会は、各地域における会員相互の交流と研究活動促進のため部会を設置する。
(1) 部会の設置、廃止、及び所轄地域は、担当理事会で決定し、総会の承認を得る。
(2) 会員は、原則としてその勤務地の部会に所属する。但し、会員の申し出でにより所属部会
を変更することができる。
(3) 部会の運営は、当該部会の部会長及び部会長が指名した部会運営委員(会)が行う。
(4) 部会運営委員(会)は、部会の運営のほか①部会を単位とする共同研究に対する研究助成
の審査、②部会報告論文の 「 生活経済学研究 」 投稿時の編集委員会への査読者の推薦等を行
う。
(研究大会)
第 1 7 条 会長は、全国大会開催予定地の部会長と協議し開催校を委嘱する。
部会長は、研究大会を開催運営するため開催校と協議し、大会準備委員会及びプログラム委員
会を組織し、会員の中からその委員を委嘱する。
(会 計)
第 1 8 条 本会の会計年度は、4 月 1 日から翌年 3 月 31 日までとする。
附 則
(施行期日)
1 この会則は、2013 年度の総会において承認された日をもって施行する。
ただし、既存の会員名称(会員種別)の変更・会費の改定は 2014 年度分から適用する。
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※ 2003 年 5 月 17 日 一部改正
※ 2006 年 6 月 10 日 一部改正
※ 2007 年 4 月 21 日 一部改正
※ 2008 年 6 月 7 日 一部改正
※ 2009 年 6 月 13 日 一部改正
※ 2010 年 6 月 19 日 一部改正
※ 2013 年 6 月 22 日 一部改正
※ 2014 年 6 月 21 日 一部改正
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○電子図書館サービスについて
『生活経済学研究』は国立情報学研究所の電子図書館に第18巻より収録されています
NII論文情報ナビゲータ(CiNii)を利用して、
『生活経済学研究』の論文タイトル検索並びに論文内容の表
示、印刷が無料で利用できます。
リンク先:http://ci.nii.ac.jp/vol_issue/nels/AN10495701_jp.html
○著作権について
『生活経済学研究』の掲載論文の著作権は生活経済学会に帰属します。
○「変更届」提出について
会員の皆さまにお知らせや資料を確実にお届けするため、所属先、住所等届出事項に変更が生じた場合は、
事務局あてにEメール・郵送またはFAXにて「変更届」を提出してください。
※「変更届フォーム」は生活経済学会ホームページ
(http://www.jsheweb.org/)
のメニュー「学会の入会案内
等」→「届出事項変更方法」からダウンロードできます。
〒101-0061 東京都千代田区三崎町3丁目7-4
生活経済学会事務局
TEL:
(03)5275-1817 FAX:
(03)
5275-1805 E-mail:[email protected]
『生活経済学研究』(第41巻)編集委員会
委員長
委 員
石田 成則
色川 卓男
小笠原浩一
坂本 信雄
城下 賢吾
高橋 豊治
松塚ゆかり
間々田孝夫
山本 克也
(山口大学)
(静岡大学)
(東北福祉大学)
(京都学園大学)
(山口大学)
(中央大学)
(一橋大学)
(立教大学)
(国立社会保障・人口問題研究所)
【編集後記】
第 41 巻には多くの投稿原稿が寄せられました。その中から慎重な査読審査を経て 3 篇の論文と4 篇の研究ノートを掲載しました。
掲載論文は、地域金融を中心とした銀行行動や労働市場の実証分析から、地方財政や教育問題まで多岐にわたっており、バラエティ
に富む内容になっています。その多くは地方創生と関わりがあり、時宜に適ったテーマにおいて有益な政策提言を行っています。同時
にこのたびは、藤野会長と朝日副会長より、学会発展の礎を築かれた大石泰彦先生の追悼論文をご寄稿いただきました。大石先生の
ご功績とご貢献を偲び、心よりご冥福をお祈りいたします。多数の投稿を丁寧に担当してくださり、編集を進めてくださった編集委員と
査読者の先生方、藤野先生と朝日先生そして事務局の方々に心よりお礼を申し上げます。
( 石田 成則)
生活経済学研究 第41巻
2015年3月31日 発行
編集発行者 生活経済学会 藤野 次雄
〒101-0061
東京都千代田区三崎町3丁目7-4
生活経済学会事務局
T E L:
(03)5275-1817
FAX:
(03)5275-1805
E-mail [email protected]
※生活経済学会ホームページをご覧ください。(URL:http://www.jsheweb.org/)
印刷者 ヨシダ印刷株式会社
生活経済学研究 表3 奥付.indd
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