沖縄県立教育センター 研修報告集録 第 28 集 211−216 2000 年9月 <地学> 地磁気素材の教材化 県立浦添高等学校教諭 Ⅰ カ テーマ設定の理由 比 嘉 裕 子 磁鉄鉱が磁石の性質を持っている鉱物で あることを知っていますか。 キ 地学現象は,地球と宇宙の極めて広い空間の中で 地球が電磁石であるというと,地球内部 でどのようなことが起こっているかイメー 起こっているため,実験室で再現しにくいものが多 ジできますか。 い。 ク テーマにある「地磁気」も地球規模の空間で起こ 電流が流れると磁界ができることを知っ ていますか。 っている現象の一つである。地学Ⅱにおいては,地 ケ 磁気が太陽風から地表を防御する働き,地磁気の成 磁界が変化すると電流が発生するという ことを知っていますか。 因,地磁気の変化,古地磁気等を扱う。地磁気は目 に見えず,実感をもってとらえにくいため,学 習の 100% 80% 定着の弱さを痛感していた。 本研究では,目に見えない磁力をとらえさせるこ 60% 40% とや残留磁気の測定を通して,地磁気を実感させる 1 透明球を用いた地磁気のモデル 2 人工オーロラ発生装置 3 残留磁気の簡易測定装置 55% 30% ア ③ 研究内容 地磁気の興味・関心と地磁気の基礎知識に関する 実態調査を行った。 調査対象 (2) エ オ カ キ ク ケ 地磁気に関する基礎知識 地磁気と関わる項目で興味があるもの ア 地磁気の三要素 ウ 地磁気と太陽風 エ 地磁気とオーロラ オ 地磁気の変化 カ 岩石の残留磁気 キ 地磁気の逆転 ク 海洋底拡大説 ケ プレートテクトニクス 80% 1年生2学級(80 人),3 年生 合計 145 人 イ 地磁気の原因 67% 40% 20% 調査項目と結果(一部掲載) ① ウ 60% 県立浦添高等学校 2学級(75 人) イ 図1 実態調査 (1) 10% 正答率 興味・関心を高め,学習の定着を図りたい。 1 30% 0% これらの教具を用いることによって,地磁気への Ⅱ 54% 37% 14% 20% 工夫に心がけ,以下の教具を製作した。 81% 72% 1% 5% 7% ア イ ウ 2% 3% 3% 3% 7% オ カ キ ク ケ 0% 地磁気に関する興味・関心 エ 有る 31%,無し 69% ② 地磁気の基礎知識に関する問いの正答率 図2 (3) 地磁気で興味のある項目 考察 ア 磁石につくもので共通する素材は何ですか。 イ 電気を通すもので共通する素材は何ですか。 調査項目①で,地磁気に関する興味・関心が有る ウ 棒磁石の周りに生じる磁力線を描きなさい。 と答えたのは 31 %と低かった。しかし,興味が無い エ 地球が磁石の性質をもっていることを知っ と答えた 69 %の中で,地磁気について何をやるかわ からなくて興味が持てないと答えた生徒が 51 %い ていますか。 オ 地磁気を利用して使われる器具は何ですか。 −211− た。 項目②は,磁石につくもので共通する素材を鉄と (2) 人工オーロラ発生装置の製作 回答できたのは 55 %と比較的高かったが,電気を通 オーロラは上空 100 ∼200km の空気の薄い場所で す素材を金属と回答できたのは 14 %と低かった。両 発生する。太陽風と呼ばれるプラズマ流(電子や陽 者の共通点と相違点を整理して,地磁気と地球内部 子の流れ)が地球の磁場に捕らえられ,バンアレン の組成を学習させる必要がある。また,電流が流れ 帯を形成する。地球磁場の乱れによってプラズマ流 ると磁界が発生することを知っていると答えたのは が磁場に沿って磁極付近に入射し,酸素や窒素を励 81%と高かったが,地球内部の仕組みに関連付ける 起させ,オーロラを発生させる。 点で,電磁石やモーターを説明する実験器具を用い 地球 た導入が必要であると感じた。 項目③で地磁気と関わる項目で興味のあるもので は,地磁気とオーロラに興味を示した生徒が 67 %占 バン・アレン帯 太陽風 めた。そのことからオーロラに関する取り組みは, 磁気圏テイル 地磁気への興味づけと学習の定着に有効であると考 える。 2 素材研究 (1) 透明球を用いた地磁気モデルの製作 地球は大きな磁石である。正しくは, 「地球は磁石 の性質を持っている。 」である。そこで,地磁気の発 図4 生および緯度による伏角の違いを説明するために, 太陽風と地磁気 (出典「太陽−その素顔と地球環境との関わり−」) 図3のような地磁気モデルを考えた。 オーロラ発生のメカニズムを理解させるために, 装置を製作する際には以下の工夫を行った。 < 太陽風の流れ> 剣山を負極に用い,数万ボルトの 高電圧をかけて多量の電子を放出させる。 ピアノ線 < 地球の磁場 > 地 球 に み た て た ア ル ミ 半 球 の 内 側 に強力な磁石を固定する。 < 上空の地球大気の状態(上空 100km 付近の気圧は 2.4×10−4mmHg)>真空ポンプで吸引する。 ①人工オーロラ発生の仕組み 100mm 剣山から放出される電子は,磁場に直角な方向に 力を受ける。そのため,磁石の磁極付近に電子が捕 図3 ① 地磁気のモデル 捉されやすくなり,その付近の空気(窒素)が励起 準備するもの され,発光現象がおこる。 透明地球儀 1 個,強力な棒磁石(アルニコ磁石) 1本,ピアノ線(直径 0.4mm×300mm)1本,塩 電子 化ビニル管 ② 製作の方法 透明地球儀を用いて,棒磁石の S 極が北極側にく るように設置する。また地理上の北極と地磁気の磁 北の違いも見せられるように以下の位置に固定した。 棒磁石のS極が北緯 79°西経 70° N極が南緯 79°東経 110° ③ 使用方法 5 ㎜に切ったピアノ線を北極付近の2ヶ所に立て, 伏角の違いを見せる。全体に見せる工夫は糸の先に つけたピアノ線を図3のように球から少し離して地 磁気の様子を見せる。 図5 −212− 人工オーロラ発生の仕組み ② 準備するもの 合する。 ゴム栓(16 号)1 個・180 ㎜長の全ネジ 1 個・ナット 4個・ワッシャー4個・直径 60 ㎜の剣山 1 個・直径 (イ ) 磁場は北極付近がS極)になるように取り付ける。 120 ㎜のアルミ製の半球 1 個・直径 50 ㎜×厚さ 10 ㎜のネオジウム磁石 1 個・高電圧用コード約3m・ アルミ半球の内側に,磁石のS極が上(地球 (ウ ) 磁石と排気盤の間に,発泡スチロールをはさ む。 真空鐘・排気盤・真空ポンプ・誘導コイル ウ 装置の組み立て (ア ) 排気盤に図8のアルミ半球を置く。このとき, 図9のように排気盤の排気用の穴に,アルミ半球に 高圧用コード 取り付けた導線をしっかり差し込む。 真空鐘 真空ポンプ アルミ半球 誘導コイル 排気盤の穴 図9 排気盤 (イ) 図6 ③ 人工オーロラ発生装置 (ウ ) 電子を放出させる剣山の部分 半球を置いた排気盤の上に,図7の剣山を 取り付けた真空鐘をのせる。 製作の手順 ア アルミ半球と排気盤 図6のように誘導コイルの負極とゴム栓か ら出た全ネジの先を高電圧用コードでつなぎ,誘導 ゴム栓 コイルの正極は排気盤の底部の金属部につなぐ。 ナット・ワッシャー 【注】高電圧が発 生するため放電する可能性がある ので,高電圧用コードは下に垂らさないようにする。 特に金属は遠ざけておく。 全ネジ ④ 真空鐘 操作の手順 真空ポンプを作動させ,空気が 14 ㎜ Hg より薄く 剣山 なったところで真空ポンプを止める。誘導コイルの 図7 (ア) 剣山の部分 スイッチを入れ,電圧と周期数を調整する。しばら 剣山の中心部に穴をあけ,全ネジを差込み ナットで固定する。 (イ) くするとアルミ半球の上に発光が見られる。これが 人工オーロラである。 全ネジの他端は,真空鐘の口のゴム栓に差 ⑤ 実験の結果 し込む。差し込んだ全ネジを,ナットとワッシャー で固定する。 イ 本実験装置を使って,図 10 のような人工オー ア ロラが発生した。 アルミ半球と磁石の部分 磁石 アルミ半球 高圧用コード 発泡 スチロール 図8 (ア ) アルミ半球と磁石の部分 地球の模型には,電気は通すが,磁化しな いアルミ半球を使う。半球の内側の下部に導線を接 −213− 図 10 アルミ半球上で発生した人工オーロラ イ 本実験装置の人工オーロラの発生と磁石との るためには,比較的磁力の強い磁石が必要であった。 今回用いた磁石は,直径 50 ㎜×厚さ 10 ㎜の円柱の 関係を調べるため,磁石を脱着して実験を行った。 ネオジウム磁石で,表面磁束密度 380 mT(3800 G), 吸着力 29.50kg であった。発生する磁力線の様子は, 鉄粉を用いて表した。 図 11 磁石あり 図 12 図 14 磁石なし どちらも放電し発光は起こるが,磁石を入れた場 (3) 本実験に用いた磁石の磁力線 残留磁気の簡易測定装置の製作 合の発光現象は、磁石付近で幅と高さの広がりをも 岩石には磁性鉱物が含まれているので,多くの岩 って起き,両者の違いは明瞭であった。磁場が作用 石は磁気を持っている。火成岩の場合はマグマが冷 してオーロラが発生する仕組みを実験によって確認 却して岩石になるとき,地球磁場 の作用で岩石に含 できた。 まれる鉄分が磁化される。また,堆積岩は磁性鉱物 ウ 気圧 を含む砂や粘土の粒子が堆積するとき,磁石になっ 空気を抜いていくと,真空鐘の水銀マノメーター の読みが 14 ㎜ Hg 以下で,オーロラの発光(紫∼赤 ている鉱物が地球磁場の方向に配列するため帯磁す る。 紫色)が見られた。ガイスラー管を使用した実験で 残留磁気の測定装置は,岩石の微弱な磁気を測定 は,同様の発光が現れる気圧は 10 ㎜ Hg であった。 従って, 14 ㎜ Hg から真空に近い状態をつくれたら, する。磁気の等しい 2 つの磁石を,互いに適当な距 離をへだて逆向きで平行に固定する。細い糸でつる 人工オーロラの発光現象が再現できるといえる。 と系の運動に地球磁場は無関係となる。岩石を図 15 また図 13 のように,約 16 ㎜ Hg より高くなると 火花放電が起こる。 ように一方の磁石に近づけて、このときの回転角を 光学系を用いて測定し,試料の磁気を決定する。 本研究では、残留磁気測定装置の原理を理解する ためのモデル実験に重点をおいた。磁化させた細い ピアノ線と発泡スチロール板を用いて擬似岩石を作 り,残留磁気の測定を試みる。その際,残留磁気の 水平成分のみ測定し,岩石ができた当時の磁北を求 める。 レーザー光源装置 図 13 エ 火花放電 マグネットシステム スケール 電圧 実験に用いた誘導コイルの最大出力は 10 万ボル トであるが,正確な電圧は未測定である。 オ 岩石(試料) 電流 電流は微弱で,2mA であった。 カ 磁北 磁石 人工オー ロラの発光の幅・高さに広がりをもたせ −214− 図 15 岩石の残留磁気測定装置の原理 ① 準備するもの ア 板状にカットする。棒磁石をはさむので発泡スチロ マグネットシステム ール板を2枚作る。 フェライト磁石(長さ約 30 ㎜)2 本・木製スタ (イ) はさむ棒磁石は磁力が弱いほうが良いので, ンド1本・アルミニウム管(直径2∼3 ㎜,長さ約 細いピアノ線を磁化させて使う。測定後,確認でき 300 ㎜)1 本・鏡(10 ㎜角)2個・絹糸・楊枝1本・ るように 2 つの発泡スチロールはビニルテープでか 釣り用のより戻し 1 個・マチ針 1 本・金属用接着剤 るくとめておく。採集地点の磁北を想定して,図 19 イ 擬似岩石 のように磁北の方向を記しておく。 発泡スチロール・ピアノ線(直径 0.4 ㎜)・磁化装 置 ウ 測定の手順 木製スタンドにつるしたマグネットシステムとビ ーカーを置く台,擬似岩石(以下,試料という)を 計測部分 スケール用 1 mものさし・木製スタンド゙ 2 本・ レーザー光源装置・岩石を置く試料台・ビーカー 1 個 ② ③ 置く試料台,スケール,レーザー光源装置は図 20 のように設置する。 製作の手順 ア マグネットシステム スケール S 30 より戻し マグネット N システム 240 鏡(10×10) 絹糸 N 楊枝 S レーザー光源装置 図 16 マグネットシステム 図 17 マグネットシステムをつるす部分 (ア) アルミニウム管を 240 ㎜と 30 ㎜の長さに切 図 20 り,切り口が平になるようにヤスリで削る。 (イ) ア 図 16 のように, 240 ㎜のアルミ管の両端に, 擬似岩石 試料台 残留磁気の簡易測定装置 マグネットシステムの静止する時間を短縮す るために,水の入ったビーカーを使用する。 磁石が逆向きで平行になるように接着する。その一 イ マグネットシステムが静止したら,レーザー 方の磁石には,30 ㎜アルミ管も一直線になるよう接 光をマグネットシステムの鏡に当てる。反射光がラ 着する。 ンプスケースに届くように高さを調整し,ゼロ点に (ウ) 合わせる。 (注:レーザー光が,直接目に入らないよ 240 ㎜のアルミ管の中央に,10 ㎜角の鏡を 両面に張りつける。 (エ) うに気をつける。 ) マグネットシステム上部のアルミ管に,図 17 の楊枝に差し込み,木製スタンドにマチ針でつる ウ ときレーザー光の移動する方向をプラスとする。 す。 イ エ 擬似岩石 ビニルテープ クリノメーターを試料台の下方に置く。その 試料を試料台にのせるとき,実験室の磁北に, 試料に記した磁北をあわせる。これが試料の北向き になる。 採集地点の磁北 オ 表1の測定デ ータの記録用紙にあるN,Eは、 試料の北向き,東向き成分を示す。 (ここでいう北向 きは磁北で良い。後で偏角補正する。 ) カ 試料を静かに北向きに置く(手順エ参照)。こ のときマグネットシステムが回転し,スケールに写 ったレーザー光が移動する。静止したら,ミリメー ピアノ線 図 18 擬似岩石内部 (ア) ビニルテープ トル単位で読み記録する。同様にして試料を水平方 図 19 擬似岩石上部 向に 90°回転させ東向きにしデータを記録する。 擬似岩石となる発泡スチロールは,適当な −215− キ 記録用紙のNの値がX成分に,Eの値がY成 分である。このX,Yに地磁気の偏角補正をしたも イ のが図 21 の岩石磁気のX,Yに相当する。 磁化方位D”の求め方 岩石磁気の偏角の方向はマグネットシステム 下部磁石の回転の方向から推定する。 N(真北) X成分 表1のデータより,偏角補正の仕方は図 22 に示す。 D(偏角) ・D=65°E ・沖縄の偏角 4.3°W W ・磁化方位 61.7°E E 水平成分 真北 S 4.3° Y成分 61.7 磁北 ° 岩石磁気 65° *岩石磁気の水平成分で考える 図 21 ク 岩石の磁化と座標の取り方 記録用紙の2段目で,Y/X(=tanD )か 磁南 ら試料の偏角を求める。図 22 のように地磁気の偏角 補正をおこない,真北を基準にした偏角になおす。 図 22 これがこの岩石ができた当時の地 磁気の磁北である。 ④ 結果 ア ウ 今回用いた擬似岩石の磁北は,現在の磁北 から 70°東よりのものを使用した。マグネットシス 偏角補正の仕方 測定結果 これまでの測定誤差の範囲は5°∼20°であっ た。課題点は,測定誤差を小さくすることである。 テムの下方の磁石は約 45 °東よりであった。下方に クリノメーターを置くと,システムは時計回りに回 Ⅲ 転し,スケールに写った像は右側に移動した。スケ ールの右側をプラスとする。測定したデータは表1 に示す。 まとめと今後の課題 興味を持ちにくい地磁気の教材化として,3 点の 教具を製作した。 表1 岩石磁気の測定データ記録用紙( 測定例記入 ) 試料番号 測定日 岩石の向き N 0 E 90 成果としては, 1 採集地 年 月 日 る実験器具を用いて,安定的に人工オーロラを発生 天気 データ 成分 −6.0 X −13.0 Y できた。 2 位 今後の課題として, 1 D 65° 採集地偏角 4.3°(W) D 65°(E) 偏角補正D’ 61.7° D” 61.7°E 偏角補正 磁化方位 残留磁気の測定装置は,擬似岩石を用いるこ とによって測定の手順を簡略化できた。 Y/X(=tanD) 13/6=2.2 試料の磁化方 人工オーロラ発生装置は,どこの学校にもあ 人工オーロラ発生に関わる電圧と気圧のデー タをとるために,安定化電源を探したい。 2 残留磁気の簡易測定装置については,精度の 高い装置への改良が必要である。 これからの教育実践で,これらの教具を用いて興 味・関心を高め,学習の定着を図りたい。 <主な参考文献> 原康夫 1999 『力学と電磁気学』 ケネス・R・ラング 1997 1992 地学団体研究会編 SLN.実験室 東京教学社 『太陽−その素顔と地球環境との関わり−』シュプリンガー・フェアラーク東京 『自然をしらべる地学シリーズ3 http://www.jsf.or.jp/sln/aurora/step2ha.html −216− 土と岩石』p171∼176 東海大学出版会
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