C07 CC

C07
Research Abstracts on Spatial Information Science
CSIS DAYS 2015
CC
犯罪減少期における犯罪の地理的分布の年次変動:
2002~2014 年における東京都の 14 罪種手口の分析
雨宮 護
筑波大学システム情報系
Email: <[email protected]> Web: <https://sites.google.com/site/mamoruamemiya/home>
(1) 背景: 我が国の刑法犯認知件数は,近年大幅に
減少している.犯罪に関しては一般に,地理的な
集中地点(ホットスポット:HS)が確認されること,そ
れを考慮した警察活動(HS ポリシング)は効果的で
あることが知られてきた.しかし,以下の理由から,
犯罪の減少は,こうした知見の有効性を失わせる
可能性がある.①ある地域全体における犯罪が少
なくなると,当然その地域を構成する個々の地区の
犯罪も少なくなる.犯罪の数はゼロ未満にはならな
いので,結果的に全地区の犯罪がゼロに近い値に
なる分散型の地理的分布になり,HS が消失する,
②各地区での犯罪の数が少なくなった結果,誤差
の影響を受けやすくなることから,犯罪の地理的分
布の時間的な安定性が損なわれる.過年次の HS
を考慮した警察活動は,当該年次の HS に対して
必ずしも効果的とは言えなくなる.犯罪減少期にあ
る我が国にこうした傾向が生じていないか検討する
必要がある.
(2) 方法: 筆者が構築した東京都の町丁目別・罪種手
口別・年次別刑法犯認知件数のデータのうち,
2002~2014 年の期間における境界変更のない地
区(町丁目・大字)のデータ(14 の罪種手口)を用い,
罪種手口ごとに以下の検討を行う.まず,犯罪の地
理的集中の年次変化を明らかにするため,Global
Moran’s I を算出し,年次ごとの有意性と変化を見る
(分析 1).次に,HS の地理的安定性を明らかにす
るため,Local Moran’s I を元に,当該・周辺地区の
いずれもが有意に犯罪が多い地区(HH 地区)を HS
として検出し,その数と分布の年次変化を見る(分
析 2).なお,従属変数の等質性と分布の正規性を
確保するため,各地区の認知件数は,あらかじめ各
地区の面積で割ったうえで,年次ごとに,全体に 1
を足した後に自然対数変換する処理を行っている.
(3) 結果: 分析 1 から,以下が明らかとなった.
・罪種手口ごとに集中の度合いが大きく異なるが,
基本的に認知件数の多い罪種手口で集中の度
合いも高い.
・認知件数の減少は地理的分布の分散を伴うが,
両者の関係は罪種手口により異なる.同じ減少
率でも,より分散が顕著になった罪種手口とそう
でない罪種手口が存在する.
・すべての罪種手口で年次とともに分散化する傾
向が見られるものの,すべての罪種手口で依然
として有意な集中が確認される(p<.05).
分析 2 から,以下が明らかとなった.
・HH 地区の数は罪種手口によって異なるが,犯
罪の総数によらず常に一定数が存在する.
・ある年次における HH 地区が翌年も HH 地区と
なる割合は,罪種手口によって異なるが,基本
的に当該罪種手口の認知件数の減少とともに
減少する.ただし,すべての罪種手口において,
依然として前年次当年次間での HH 地区の結
びつきは有意に高い(p<.05).
これらより,①東京都では犯罪の減少とともに
HS が消失しつつある一方で,現時点では,依然と
して有意な HS が存在する,②同じく,HS の地理
的分布は年次経過と共に次第に不安定化しつつ
ある一方で,現時点では,過年次の実績から当該
年次の HS を予測することの有効性は失われてい
ない,の 2 点が考えられる.これらより,HS ポリシン
グの適用は依然として有効であることが示唆される.
しかし,犯罪の減少とともに犯罪の地理的分布が
分散化し,現れる HS は,過年次の実績から予測し
づらくなっている点は重要である.過年次実績とは
無関係に,一見不規則に現れる HS をいかにして
検知するかが今後の課題となると考えられる.
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2014 年
認知件数 = 3,585 件
Global Moran’s I = 0.244 (p=0.000)
2002 年
認知件数 = 23,264 件
Global Moran’s I = 0.492 (p=0.000)
図 1: 2002,2014 年の犯罪(変数変換後)の地理的分布と件数,Global Moran’s I(住宅対象侵入窃盗の例)
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