四日市羽津医療センター 開業医のみなさまへ ☆生物製剤教育入院 ☆リウマチ連携ノート 四日市羽津医療センター リウマチケアチーム 2014.9作成 0 スタッフのご案内 医師:佐藤良子、小寺仁、水谷聡、松尾圭介 1 P.1 スタッフ紹介 P.3 関節リウマチとは P.5 関節リウマチの診断と検査 P.10 よくみられる合併症 P.12 関節リウマチの治療 P.21 生物学的製剤 P.27 食事療法 P.29 運動療法 P.31 高額療養費 P.33 リウマチ連携ノート P.35 リウマチ・膠原病内科外来表(H26 年) ※一部医療者向けの内容が含まれますが、基本的な内容は患者向けパンフレットと同様です 2 関節リウマチについて 関節リウマチは関節内の滑膜に炎症が起こり、関節の疼痛、腫 脹、変形を起こす疾患です。進行して滑膜の炎症が慢性化すると 滑膜が肥厚し、周囲の軟骨や骨の破壊が進行していきます。特に 発症後3年間くらいに最も急速に関節破壊が進行することがわ かっており、発症早期から適切な治療を行うことが極めて重要で す。 また、関節症状以外には、発熱、疲労感、倦怠感、臓器障害な どの全身症状を伴うことがあります。何らかの原因で免疫異常を 引き起こした結果、発症するのではないかと考えられていますが、 詳細については未だ不明です。 3 関節リウマチの代表的な症状である関節炎のもっとも多い部分 は、手指関節、続いて手、足の関節です。初期には1つから3つ ぐらいの少数の関節が痛み、やがて痛い関節が左右対称になって くることが特徴です。起床時に関節のこわばりを伴うことが多く、 進行すればリウマチ特有の変形がでてきます。 疾患活動性(DAS28)の評価に 用いる関節(ピンク色の関節) 4 関節リウマチ診断の流れ 1つ以上の関節腫脹を認める ほかの関節腫脹をきたす疾患(次頁)を除外 単純XPで典型的な あり RA RA骨びらん なし 6 点以上 スコアリングによる 新分類基準(右表) 5 点以下 RA でない スコア 腫脹関節 1 2~10 1~3 4~10 >10 大関節 大関節 小関節 0 1 2 小関節 大小問わず 3 4 血清検査 (RF または CCP 抗体) 陰性 陽性 (基準値の 3 倍未満) 強陽性(基準値の 3 倍以上) 0 2 3 急性炎症蛋白 (CRP または ESR) 正常 異常値 0 1 罹病期間 <6 週間 ≧6 週間 0 1 ACR/EULAR新分類(2010) 5 除外すべき関節腫脹をきたす疾患 ・ウイルス感染に伴う関節炎 難易度 ・全身性結合織病(SjS, SLE, MCTD, PMDM, SSc) (高) ・リウマチ性多発筋痛症 ・乾癬性関節炎 ・変形性関節炎 ・関節周囲の疾患 (腱鞘炎、腱付着部炎、肩関節周囲炎、滑液包炎) ・結晶誘発性関節炎 (痛風、偽痛風) ・血清反応陰性脊椎関節炎 (反応性関節炎、掌蹠膿疱症性関節炎、 難易度 強直性脊椎炎、炎症性腸疾患関連関節炎) (中) ・全身性結合織病 (ベーチェット、血管炎症候群、成人スチル病、結節性紅班) ・その他リウマチ疾患 (回帰リウマチ、サルコイドーシス、RS3PE) ・その他の疾患 (更年期障害、繊維筋痛症) ・感染に伴う関節炎 ・全身性結合織病 (細菌性関節炎、結晶性関節炎など) (リウマチ熱、再発性多発軟骨炎など) 難易度 ・悪性腫瘍 (腫瘍随伴症候群) (低) ・その他の疾患 (アミロイドーシス、感染性心内膜炎、複合性局所疼痛症候群) 日本リウマチ学会による新基準検証委員会報告書より引用、改編 6 診断と検査 関節リウマチの診断では問診、診察、検査を総合的に行う必要 があります。診断後も症状の経過や、治療薬の効果、副作用、合 併症の有無を調べるために定期的に検査が必要です。その結果や 症状に応じて、患者さんごとに最適な治療法を選択していきます。 検査項目 尿検査 血液検査 主な検査目的 尿蛋白、潜血、尿沈渣 副作用のチェック 赤沈(血沈・ESR) CRP(C 反応性蛋白質) 炎症の程度をみる リウマトイド因子(RF) 免疫異常の自己抗体 抗 CCP 抗体 関節リウマチのマーカー MMP-3 関節破壊のマーカー 肝機能検査 AST(GOT) ALT(GPT) ALP(アルカリドスファターゼ) 腎機能検査 尿素窒素(BUN) クレアチニン クレアチニン・クリアランス 関節液検査 リウマトイド因子(RF)、補体細 胞数(N/L 比)、結晶成分 画像診断 X 線検査 CT,MRI,エコーなど 副作用のチェック 他疾患の鑑別 診断と病期の把握 7 赤沈(ESR) 基準値(男性) 基準値(女性) 10mm/h 以下 15mm/h以下 血漿中の赤血球の沈降速度を測定する検査で、慢性的な炎症の程度を反映するため、関節リウマチの炎症の程度や疾患活動性 を確認するのに役立ちます。 およそ 1-3 ヶ月程度の炎症の活動性を反映するとされております。 関節リウマチ以外の自己免疫疾患、感染症、貧血などでも、高値になります。 30mm/h 以上が意味のある数値とされています。 CRP 基準値 0.4mg/dL 以下 CRPは、炎症によって肝臓で誘発される急性反応性蛋白で、炎症の程度に合わせて鋭敏に反応します。 関節リウマチでは疾患活動性の評価に用いられますが、感染症等にも鋭敏に反応するため、他疾患との鑑別が必要となります。 当院では 0.4mg/dL が正常となっていますが、実際は 0.1mg/dL 以下が正常です。 リウマトイド因子(RF) 基準値 15U/mL 以下 リウマトイド因子は、血液中にみられる自己抗体で、膠原病のスクリーニングとして用いられることが多いですが、関節 リウマチに限定されたものではありません。 関節リウマチ患者さんの 20%においては陰性になることもあります。 関節リウマチ以外ではシェーグレン症候群などの膠原病、慢性肝炎、肝硬変などでも陽性になることがあります。 抗CCP抗体 基準値 4.5U/mL 以下 関節リウマチの早期診断に役立つと、近年重視されるようになった検査です。 関節リウマチ以外の病気では陽性になることが少なく、陽性であれば自覚症状がなくとも将来的に 90%以上の方 が発症すると言われております。 関節リウマチ患者さんの 20%においては陰性になることもあります。 抗CCP抗体が 100U/ml 以上の高値の場合は骨破壊も進みやすいため、早期からの積極的な治療が必要と考え られています。 MMP-3 基準値(男性) 基準値(女性) 36.9~121 ng/mL 以下 17.3~59.7 ng/mL 以下 滑膜細胞の増殖により産生される酵素で、この数値によって関節破壊の程度を知ることができます。 この値が高い状態が続くと、将来関節が変形していくことが予想されるため、 適切な治療が必要です。 腎不全などの腎疾患やステロイド薬投与などでも高値になることがあります。 8 関節リウマチの免疫学的指標の比較 免疫学的指標 疾患・病態との関連 感度 特異度 リウマトイド因子 IgG に対する自己抗体 RA 患者の 80~90%で陽性となるが、 RA 以外の疾患や健常人でも陽性と 70% 80% 70% 90~95% 59~79% 80~84% (RF) 抗 CCP 抗体 抗ガラクトース欠損 IgG 抗体 (CA・RF) マトリックスメタロ プロテアーゼ-3 (MMP-3) なることがあり、RA に対する特異性は やや低い シトルリン化抗原に対する自己抗体 RA に特異的で高感度 早期 RA でも感度が高いとされている 早期 RA あるいは陰性の RA 患者の 診断に利用 関節破壊の指標として有用 活動性の評価に有用 膠原病で高値、腎障害で高値 ※ 9 あまりなし 医療機関によって、基準値は異なります。 よくみられる合併症 逆流性食道炎 間質性肺炎 ★4 骨粗鬆症 胃炎・胃潰瘍 ★1 ★3 貧血 感染症 ★2 シェーグレン症候群 慢性甲状腺炎など 10 ★1.骨粗鬆症 関節リウマチによる炎症、関節疼痛による運動量の減少、長期 ステロイドの使用等により、健常人よりも骨粗鬆症リスクが高い とされています。特に高リスク年齢の方には定期的な骨定量測定、 骨粗鬆症薬の継続投与が必要です。 ★2.貧血、★3.胃炎・胃潰瘍 関節リウマチによる慢性的な炎症により、Hb が低下しやすい です。また、MTX やステロイド、NSAIDs による消化管障害に より、出血性胃炎や胃潰瘍等を合併する可能性もあります。鉄剤 等で鉄分を補給し、副作用によるものであれば、原因薬剤の減量 や中止も考慮ください。 ★4.間質性肺炎 症状の増悪には無関係に発症、進行する事があります。長期の 咳嗽や倦怠感等が出現した場合は、SpO2 モニターでのチェック が必要です。抗リウマチ薬による副作用でも生じる可能性があり ます。最終判断は当院にて胸部 CT を施行致します。 11 関節リウマチ治療の流れ 2013 EULAR Recommendation:東京女子医大附属膠原病リウマチ痛風センター (http://www.twmu.ac.jp/IOR/diagnosis/ra/medication/diseases.html) 12 関節リウマチの内服薬について 関節リウマチに使用される薬剤は多数の種類があります。特に 内服薬での治療が多く、服用により関節の痛みや腫れが改善する 効果があります。しかし効果が現れるまでに時間がかかる(約1 ~3 ヶ月)薬剤もあります。新しい薬剤が開始となった場合は「効 果がないから」と患者側から訴えられたとしても、自己中断しな いようにお伝えください。 全ての薬剤が免疫力を低下させるため、服用中は風邪の予防が 重要になります。手洗い・うがい・歯磨き等のご指導をお願い致 します。また、多くの抗リウマチ薬は服用中に妊娠すると胎児に 影響を与える可能性があります。男性、女性ともに服用中は避妊 するようにお伝えください。 (※妊娠可能な薬剤もあります) 定期的な検査にて、副作用の発現にご注意ください。 次ページより、各薬剤の特徴について御説明します。 ① リウマトレックス®カプセル ⑥ アラバ®錠 ② アザルフィジン®EN 錠 ⑦ ブレディニン®錠 ③ プログラフ®カプセル ⑧ シオゾール®注射 ④ リマチル®錠 ⑨ プレドニン®錠 ⑤ ケアラム®錠 13 ④ メトトレキサート、略語:MTX (商品名:リウマトレックス®カプセル) (左)リウマトレックス®カプセル 2mg(先発医薬品) (右)メトトレキサート®錠 2mg「タナベ」(後発医薬品) 関節リウマチの治療で最も多く使われる薬剤です。 生物製剤(バイオ製剤)使用時に、リウマトレックス®カプセルやメトトレキサー ト®錠を併用することで,より治療効果が得られることがわかっています。 服用方法 1 週間に 1 日、または 2 日のみ服用します。毎日服用はさせないよう御注意下さい。 (服用の1例) 副作用について 容量依存性に肝障害や汎血球減少、非特異的に間質性肺炎を起こす事があります。 脱水や下痢等で一時的な血中濃度上昇を起し、副作用が生じやすくなる事がありますので、飲 水指導をお願い致します。服用中に上記症状出現時には薬剤の減量や中止をお願い致します。 副作用対策 リウマトレックス®カプセルを服用していると、ビタミンの一種である葉酸が不足してきます。 対策として葉酸を補う必要があります。リウマトレックス®カプセル服用後,1~2 日間間隔を空 けてフォリアミン®錠 5mg(葉酸のお薬)を 1 週間に 1 回だけ服薬させてください。 ただし葉酸を摂取し過ぎてしまうとリウマトレックス®カプセルの治療効果が減弱します。 お薬以外に栄養ドリンクやサプリメントにも葉酸は多量に含まれております。サプリメントを摂 取されている場合,医師または薬剤師に相談するようにお伝えください 14 ⑤ サラゾスルファピリジン、略語:SASP (商品名:アザルフィジン®EN 錠) 初期の関節リウマチの方に服用していただくことが多い薬剤です。 リウマトレックス®が副作用などで服用できない方に使用されることもあります。 服用開始後、約 1~2 ヶ月で効果が表れます。 飲み始めの3ヶ月の間に、発疹・発熱の症状あれば主治医に相談するようにお伝 えください。 1日2回、朝・夕食後に服用する薬剤です。 腸で吸収される薬剤のため、かんだり、砕いたりせずに服用させてください。 服用により爪及び尿・汗等の体液が黄色~黄赤色に着色することがありますが、 アザルフィジン®EN 錠の成分によるもので、副作用ではありません。また、ソフト コンタクトレンズ装着されている場合、レンズが着色することがありますので御注 意ください。 ④ タクロリムス、略語:TAC (商品名:プログラフ®カプセル) リウマトレックス®カプセルの効果がないときに使われることの多い薬剤です。 リウマトレックス®カプセルと併用して服用することもあります。 服用開始後、約 1~2 ヶ月で効果が表れます。 服用中、腎機能低下を来す事があり、浮腫などの症状があれば主治医に相談する ようにお伝えください。 1日1回夕食後に服用する薬剤です。 服用中にグレープフルーツジュースやグレープフルーツを摂取することでお薬 の副作用が現れやすくなることがあります。服用中はグレープフルーツジュース、 グレープフルーツの摂取は避けてください。 15 ⑤ ブシラミン、略語:BUC (商品名:リマチル®錠) 初期の関節リウマチの方に服用していただくことが多い薬剤です。 単独、もしくはリウマトレックス®など他剤と併用することもあります。 服用開始後、約 1~3 ヶ月で効果が表れます。 服用中、ネフローゼ症候群を合併する事があり、定期的な尿検査が必要となります 1日2回、朝・夕食後に服用する薬剤です。 ⑥ イグラチモド、略語:IGU (商品名:ケアラム®錠) 単独、もしくはリウマトレックス®など他の薬剤と併用して服用することが多い 薬剤です。 生物学的製剤(バイオ製剤)が使用できない方に使うこともあります。 服用開始後、約2ヶ月で効果が現れます。 飲み始めの4週間は1日1回朝食後、5週目以降は1日2回朝・夕食後に服用し ます。 服用方法が変わるため、飲み間違いに注意してください。 服用中、肝障害や血小板減少、胃粘膜障害といった合併症が起こる事があります。 ワーファリン®錠を飲まれている方は服用できない薬剤です。 他の病院でワーファリン®錠を服用されているかを必ずご確 認するようにお願い致します。 16 ⑦ レフルノミド、略語:LEF (商品名:アラバ®錠) 単独、もしくはリウマトレックス®など他の薬剤と併用して服用することが多 い薬剤です。 1日1回朝食後に服用します。 服用中にアルコール摂取により肝臓を悪くすることがありますので、アルコー ルを控えて頂くようにお伝えください。 間質性肺炎が既往にある方は、重篤な増悪症状を来すことがあります。 服用開始 8 週間以内に、咳や発熱が続いたり、発疹や皮膚のかゆみが現れたら 主治医に相談するようにお伝えください。 ⑧ ミゾリビン、略語:MZR (商品名:ブレディニン®錠) 他のリウマチのお薬で効果が得られないときに服用することの多い薬剤です。 1 日 1 回朝食後、週 1 回のみ服用します。MTX と同時に服用することが多い です。 服用により尿酸値が高くなることがあるため、痛風を起こすことがあります。 定期的に尿酸値を測定して頂き、必要に応じて高尿酸血症への対処をお願い致 します。 17 ⑨ 金チオリンゴ酸ナトリウム (商品名:シオゾール®注射) リウマチのお薬の中で、唯一の筋肉注射をする薬剤です。 毎週、もしくは 2 週間に 1 回、症状によっては月 1 回投与を行います 開始後2~3ヶ月で効果が現れます。 開始後咳や発熱が続いたり、発疹や皮膚のかゆみが現れたら主治医に相談する ようにしてください。 ⑩ プレドニゾロン、略語:PSL (商品名:プレドニン®錠) 副腎皮質ホルモン(ステロイド)になります。 1 日に 5~10mg(1~2錠)飲む薬剤になります。 発熱や腫れなどを抑える力が強く、効果は他のリウマチ薬より比較的早く現れ ます。 長期間服用することで骨粗鬆症や糖尿病になる可能性があるため、副作用を予 防するお薬を併用して使うことがあります。 またムーンフェイス(顔が丸くなる)や食欲が増す、という症状も起こること があります。症状によっては服用量を減量することにより治まることがあります ので、気になる症状があれば主治医に相談するようにして下さい。 18 目標達成までは、3〜6 ヵ月ごとに治療内容を 見直します 数値が思うように下がっていなければ、治療薬の変更を検討します。 ・SDAI=「圧痛関節の数」+「腫脹関節の数」 +「患者による病気の評価 (10 点満点)」 +「医療者による病気の評価 (10 点満点)」 +「CRP」 ・CDAI=「圧痛関節の数」+「腫脹関節の数」 +「患者による病気の評価 (10 点満点)」 +「医療者による病気の評価 (10 点満点)」 ※ 圧痛関節、腫脹関節の数は4ページの『疾患活動性(DAS28)の評 価に用いる関節(ピンク色の関節) 』の数です。 19 DAS28-ESR/CRP、SDAI・CDAI 現在の疾患活動性を評価 DAS28 -ESR- DAS28 -CRP- 5.1 SDAI 4.1 以下 3.2 26 以下 2.7 以下 2.6 以下 11 以下 2.3 以下 3.3 CDAI 疾患活動性 22 以下 高 中 10 以下 低 2.8 寛解 未満 未満 以下 以下 ・・・DAS28、SDAI・CDAI の求め方・・・ 関節の評価 血液検査 28 関節を触診して「圧痛関節数」、 「腫脹関節数」を調べます。 ESR(赤沈)またはCRPで炎症の 程度を調べます。 患者さん、医療者による 直線スケール(VAS)を使って 病気の評価(10 点満点) 疼痛や全身状態を評価します。 これらの評価を総合して算出します。 20 生物製剤使用にあたって 生物製剤はなぜ必要か? 疾患活動性が高く、急速な関節破壊が予想される方(抗 CCP 抗体陽性) 、MTX(メ トトレキサート®、リウマトレックス®)で効果があまり得られなかった方、肺・腎臓・ 肝臓に障害がみられ MTX が使えない方、挙児希望の方などには、高額な薬剤で すが、使用することにより痛みや炎症が軽快し、関節破壊の抑制につながります。 早期に使用すれば完全寛解となる方もいらっしゃいます。挙児希望の患者さんに は胎児に影響の少ないとされる薬剤があります。 逆に生物製剤が禁忌な方は、活動性のある感染症(肺結核、ウイルス性肝炎など) 、 重度の心不全を有する方です。 生物製剤用法の種類と使用方法 大まかに分けて皮下注射製剤と静脈注射製剤があります。皮下注製剤は原則患者 自身で自己注射して頂きます。静脈注射製剤は各病院外来にて点滴することとな ります。それぞれの製剤毎に使用回数、投与量、投与時間が異なります。 副作用について 一般的に副作用は、免疫抑制剤よりは出にくいとされておりますが、感染症(肺炎・ 結核や肝炎の再発など)には特に注意が必要です。感染予防対策のご指導をお願い いたします。 (ワクチン接種や手洗い、うがいなど) 生物製剤開始前には当院にて感染症チェックを行っております。 (胸部 CT、HBsAg・Ab、HBcAb、HCVAb、β-D グルカン、結核菌 INF-α) 21 効果について 個人差はありますが、統計的には各製剤ごとに 60~80%の方に効果が現れるとさ れております。薬剤によっては比較的効果が現れるのが早い薬剤(抗 TNF 抗体製 剤)、少し期間が必要な薬剤(アクテムラ®、オレンシア®)がありますが、基本的 には 1-3 ヶ月程度は経過をみていく必要があります。 生物製剤の継続期間 基本的には継続して使用していく薬剤です。 症状に応じて投与間隔を空けたり、症状が軽快したりすれば一旦中止することの出 来る薬もあります。 医療費について 薬剤によっては初めの1ヶ月に数回投与します。費用が8万以上となる為、高額医 療の適応となります。エンブレル®なども2ヶ月分処方されると高額医療の適応と なる場合があります。 高額医療の適応となるかどうかは、所得や障害の有無、特定疾患、個々の医療費等 によって決まります。医療助成の受け方について、詳しくは地域連携室『すずらん』 へお問い合わせください。 医療費用・定期受診等今までの内服薬だけとは異なる治療になりますので、患者 本人の同意はもちろんの事、ご家族とも十分に話し合って頂く様にお伝えください。 原則、高額医療適応とならない場合、3 割負担で 3~4 万/月程度かかります。 22 生物製剤使用上の注意点 注射 (自己注射含む) 点滴 エンブレル® ヒュミラ® シムジア® アクテムラ® オレンシア® シンポニー® (自己注射不可) レミケード® アクテムラ® オレンシア® 効果についての注意点 全ての製剤において 8~9 割程度の方に効果が見込めます。 万一効果がない場合、他の製剤に変更することで効果が得られる事があります。 副作用についての注意点 他の抗リウマチ薬と比べ、感染症以外の副作用はほとんど認めません。 ただし、強力な免疫抑制効果がありますので、感染症には特に注意する必要があります。 生物学的製剤を使用開始してから,長引く咳や 38℃以上の高熱等の風邪の症状がある時 は,すぐに受診するようにお伝えください。 自己注射製剤の保管方法 使用の直前までは冷蔵庫に保管して頂いてください。 使用する際に、冷蔵庫から取出し室温と同じぐらいの温度にしてから注射します。 冷たいまま注射すると痛みが起こる可能性があります。 一度室温に戻した製剤を再度冷蔵庫で保管はさせないでください。 中身が凍ってしまった薬剤に関しては使用せず、当院または調剤薬局にご相談ください。 薬剤を受け取ってからご自宅に帰るまで、各薬剤に保冷バッグが付属されます。 保冷バッグにいれて持ち帰り、自宅の冷蔵庫にて保管して頂いてください。 23 生物製剤一覧表 24 生物製剤外来・教育入院 平成 25 年 10 月より生物製剤外来を開始いたしました。生物製剤は関節リウマチ の治療にとっては今や特効薬と言ってもよいほどの重要な薬剤です。しかし、その 使い方や普段の生活など注意するべき点があります。そういった細かな内容や注意 点、関節リウマチに対する疑問などを患者さんにしっかり知って頂くために当院で は生物製剤導入患者さんに教育入院を行っております。 生物製剤 教育入院 日程表 *導入薬剤例* ≪皮下注・静注製剤≫ 自己注射導入 10:00~ ・入院 ・採血 午後 1日目 ・リウマチ オリエンテーション1日目(看護師) リウマチ問診票 自己注射DVD学習 生物製剤自己注射指導 *模擬皮膚・生理食塩水を使用して練習 1回目 リウマチ体操DVD学習 ・薬物療法について(薬剤師) 午前中 ・点滴 ・リウマチ オリエンテーション2日目(看護師) 生物製剤自己注射指導 *模擬皮膚・生理食塩水を使用して練習 2回目 ・自己注射実施(看護師同伴) 2日目 午後 ・食事療法について(管理栄養士) ・運動療法、自助具について(作業・理学療法士) 体操の個人相談 自助具の相談 午前中 ・採血 3日目 ・退院(基本的には午前中を予定しております) 2週間後 担当Dr 診察日 ・採血 ※スタッフの状況により時間は変更になることがあります 25 26 食事療法のポイント 基本は「バランスの良い食事」 関節リウマチは、消耗性の疾患です。体力の低下を防ぐために、たんぱく質やビタミン・ミネ ラルに富んだ、バランスの良い食事を心がける必要があります。 「バランスの良い食事」の目安は、「主食・主菜・副菜の 3 種類が揃っていること」です。 主食はご飯、パン、麺、餅など炭水化物の多いもの。主菜は肉、魚、卵、大豆製品などたんぱく 質の多いもの。副菜は野菜、海藻、きのこ、こんにゃくなどビタミン・ミネラルの多いものを指 します。 1 品料理でもかまわないので、毎食この 3 種類を揃えることを目標とします。 ※糖尿病などの慢性疾患を持っている場合は、感染症のリスクが上がります。慢性疾患の食事療 法も同時に行い、慢性疾患をコントロールすることが大切です。詳しくは当院担当医師、管理栄 養士等にご連絡ください。 積極的にとりたい栄養素 ステロイド等の副作用で骨粗鬆症のリスクが高いため、骨の形成・発達を進めるカルシウムを 積極的に摂取する事が望ましいです。 例:牛乳、チーズ、にぼし、豆腐、ごま、こんぶ、ひじきなど。 カルシウムの吸収を助けるビタミン D の摂取もお忘れなく。 例:鮭、さんま、うなぎなど。 カルシウムの吸収を抑えるリン(加工食品に多い)、砂糖、塩、シュウ酸(ほうれんそう、チョ コレート、たけのこなどに多い)の過剰摂取にもご注意ください。 また、慢性炎症による鉄分消費や薬の副作用で貧血がある場合は、鉄分を積極的に摂取して頂 く必要があります。1 日で吸収できる鉄分の量は決まっており、毎日の定期的な鉄分摂取がのご 指導をお願い致します。 鉄には吸収率の高いヘム鉄と吸収率の低い非ヘム鉄があります。 例:(ヘム鉄)動物性食品。レバー、豚・牛のヒレ肉、アサリ、マグロ、カツオなど。 (非ヘム鉄)植物性食品。ほうれんそう、ひじき、高野豆腐、ごまなど。 非ヘム鉄をとる時は、吸収を高めるビタミン C の同時摂取が効果的です。 例:生の果物や野菜。アセロラ飲料、柿、赤・黄ピーマン、菜の花、ブロッコリーなど。 27 指示カロリーは? 関節リウマチは、関節痛・関節破壊が原因の運動不足や、薬(ステロイド剤)の副作用で肥満 につながりやすい疾患です。 肥満は関節痛を増強させることが多いため、減量の指導を行う必要があります。 患者さんごとの 1 日の指示カロリーをご確認頂き、指導のご参考としてください。 控えるべき食品 アルコールは極力控えて頂く様にご指導ください。飲酒すると血管が拡張し、関節痛や腫脹がひ どくなりやすいためです。 また、一部の薬剤(リウマトレックス®、メトトレキサート®)を服用する日は、葉酸摂取を控え 頂く様にしてください。同じ日に葉酸をたくさんとると、薬剤効果が減弱する可能性があります。 例:菜の花、えだまめ、モロヘイヤ、芽キャベツ、ほうれんそう、ブロッコリーなど。 こんな時、どうする? (1)朝のこわばりがひどい →前日から、食べたい時につまめるものを用意しておくと良いと思われます。 例:サンドイッチ、おにぎりなど。 (2)顎関節にゆるみがある →咀嚼(噛む)・嚥下(飲み込む)しやすい食事へ工夫する。 例:やわらかく煮る、小さめにきざむ、サラサラの水分にはトロミを付けるなど。 (3)はし、スプーン、コップなどが持ちにくい →自助食器の使用を勧める。 例:ピンセット型のはし、持ち手が太いスプーン、角度を変えられるスプーン、大きな 持ち手のついたコップ、角に集めやすい皿など。 (4)調理が大変 →関節を保護し、不便を減らす工夫を。 例:台所にイスなど体を休めるものを置く、関節にサポーターを巻く、フードカッター やミキサーなどを使う、調理器具は握りやすいものを選び、できるだけ左右の手足を均 等に使うなど。 28 運動療法のポイント 関節リウマチにおける運動療法の目的は、関節痛を軽減させたり、関 節を動かしやすくしたり、生活動作として必要な筋力や体力を維持・増 進させて ADL(日常生活動作)を改善させることです。 <運動療法> 運動療法として等尺性収縮(アイソメトリック)があります。等尺性収縮とは、筋肉が運動を行 わず、筋の長さが変わらない運動を言います。以下に例を挙げます。 1 回の運動で 10 秒程度筋肉に力を入れ、同じ時間休憩をします。筋肉に力を入れる際はゆっ くり息を吐き、力を抜いている時はゆっくり息を吸うようにしてください。 ・壁に向かって立ち、両手を伸ばして壁を押す。 ・手の平を合わせて両手を押しあう。 ・仰向けに寝て、膝下にタオルを敷き膝で押す。 ・仰向けに寝て、膝と膝の間にタオルをはさみ込むようにして押す。 ・椅子に座り、膝を伸ばしたまま止める。 この動作を 5~10 回繰り返します。 <注意事項> ・痛みを我慢せず、できる所まで行ってください。 ・温かいお風呂の後など、関節を温めることで筋肉がほぐれ運動しやすくなり 効果的です。 ・運動は正しい姿勢で実施してください。 ・肩の力を抜いて姿勢を伸ばし実施してください。 ・運動の量は翌日に痛みを残さない程度で実施してください。 ・実施した翌日に痛みが出た場合は実施時間を調整してください。 ・毎日続ける事が大切です。無理をしない程度に続けてください。 ・体調がすぐれない時は実施しないでください。 29 自助具について 関節リウマチは関節変形により痛みや筋力の低下が起こります。日常生活において困難な事 も出てきます。これらの活動制限を補う物として自助具があります。自助具は容易にできるよう に工夫された道具であり、自立的な生活を送るためのものです。 折り曲げスプーン 形状記憶スプーン ビンあけ リーチャー らくらく箸 万能カフ 取っ手付き汁椀 ほのぼのマグカップ キッチンナイフ ユニバーサルカフ ストッキングエイド 台付爪切り ・これらは「高品質」や「購入される方が多い」ので自助具選びの参考にはなりますが、 大切なことはご自身に合った自助具を選ぶことです。本人の使いやすさが重要です。 ・一方で、初めて使用する自助具は使いにくさを感じることもあります。中には使いこなすまで に練習を要する物もあります。 ☆自助具購入先例☆ 酒井医療株式会社 中部支店 TEL:052-263-0623 ヤマシタコーポレーション 三重営業所 TEL:059-383-5039 30 高額療養費制度 高額療養費制度 医療費が高額で、1ヵ月あたりの自己負担 一般所得の場合(医療費:100万円) が一定の限度額を超えた場合に、超過分の 金額が補助される制度です。 2012 年 4 月より、事前申請(限度額適 用認定証)によって窓口での支払いが自己 30,0000 窓 口 で 支 払 う 額 後 日 払 い 戻 し 差 額 窓口の支払額が少額 で済みます 87,430 1ヵ月の 自己負担限度額 事前申請なし 負担限度額で済むようになっています。 事前申請あり 相談窓口 国民健康保険 協会けんぽ 船員保険 その他 市町村役場の国保窓口 全国健康保険協会の 健康保険の保険者 国保組合の窓口 各都道府県支部窓口 (各健康保険組合・共済組合の窓口) 高額療養費の付加給付制度がないか、確認しましょう 健康保険組合が独自に自己負担額の上限を定めている場合があります。 患者負担が軽減されることがありますので、上記の窓口にお問い合わせください。 31 高額療養費制度の自己負担限度額 年齢や所得によって、高額療養費制度の 自己負担限度額は変わってきます。 日本には、医療費を補助するさまざまな支援制度があります。 そのほとんどは、患者さん自身で手続きをする必要があり、 利用条件やサービス内容は、自治体によって異なります。 大きな企業や健康保険組合では独自の補助制度をもうけている ところもありますので、患者さん自身にご確認頂いてください。 32 『リウマチ連携ノート』運営開始について ご協力のお願い 『リウマチ連携ノート』の 運営 先生方には、普段より大変お世話になっております。 当科では地域連携の推進のために、地域開業医の先生方への逆紹介をこれまで以 上に進めさせて頂こうと考えております。 しかし、一方で患者さんとしましては当院との連携が希薄化するのではと思われ たり、地域連携に対する疑問を持たれたりする方が少なくありません。 そこで、先生方と当院とのつながりが密接にある事を意識して頂くために、 また、先生方からも当科への定期的な情報提供や治療方針などを簡便に行えるもの として、当科では『リウマチ連携ノート』を作成致しました。 至らぬ点もあると思われますが、今後の連携強化の一環として、ご協力の程を お願い致します。 『リウマチ連携ノート』の 活用方法 ① 1~2 ページ目は、患者さんの基本情報、主担当医、副作用出現時・急性増悪時 の症状、緊急連絡先を掲載しております。 先生方の連絡先等のご記入をお願い致します。 ② 『検査の記録』は、検査結果の貼付ページです。 患者さん用の検査結果を定期的に貼付してください。 ③ 『メモ』は、先生方と当院との掲示板としてお使いください。 病状でご不明な点、治療方針、お伝えして頂く事がございましたら、ご記入 ください。 ④ 当院受診時の記載カルテ、検査データ、処方内容も随時添付させて頂きます。 ※何かご不明な点がございましたら、当院へお気軽にご連絡ください。 33 ①患者さんの基本情報、主担当医、副作用出現時・ 急性増悪時の症状、緊急連絡先を掲載しております。 ③先生方と当院との掲示板と してお使いください。 病状でご不明な点、治療方針、 お伝えして頂く事がございま したら、ご記入ください。 ②検査結果の貼付ページです。 患 者 さ ん用 の検 査 結 果 を 定期的に貼付してください。 34 外来診療のご案内 *外来診療表* 月 火 水 木 金 佐藤 小寺 佐藤 佐藤 佐藤 (再診) (初・再診) (再診) (初・再診) (再診) 担当医 小寺 松尾 水谷 (再診) (14:00~) (生物製剤外来) 当院リウマチ・膠原病内科は、 完全予約制になっております。 必ず「地域連携室 すずらん」にて 予約をお願いします。 ※ 佐藤、小寺先生初診枠は 紹介状持参患者さんです。 ・・・ ご予約方法 ・・・ 教育入院・外来診療・栄養相談・看護外来等ご希望の方は、 四日市社羽津医療センター 地域連携室『すずらん』 (TEL:059-331-6003 )までお電話ください。 35 36
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