生命保険論集第 190 号 保険業法逐条解説(XXXXI) 関西保険業法研究会 目次 第1条~第5条(125号) 第6条~第16条(126号) 第17条~第25条(第2条第5項を含む)(127号) 第26条~第33条(128号) 第34条~第41条(129号) 第42条~第50条(130号) 第51条~第53条(131号) 第54条~第59条(132号) 第60条~第67条(133号) 第68条~第76条(134号) 第77条~第84条(135号) 第85条~第89条(136号) 第90条~第96条(137号) 第97条~第100条(138号) 第101条~第105条(139号) 第106条~第119条(140号) 第120条~第127条(142号) 第128条~第134条(143号) 第135条~第143条(144号) ―149― 保険業法逐条解説(XXXXI) 第144条~第158条(145号) 第159条~第173条(146号) 第174条~第184条(147号) 第185条~第218条(148号) 第275条(172号) 第276条~第278条(173号) 第279条・第280条(174号) 第281条・第282条(175号) 第283条~第285条(176号) 第286条~第289条(177号) 第290条~第293条(178号) 第294条~第296条(179号) 第297条~第299条(180号) 第299条の2(181号) 第300条第1項第1号(182号) 第300条第1項第2号・第3号(183号) 第300条第1項第4号(184号) 第300条第1項第5号(185号) 第300条第1項第6号(186号) 第300条第1項第7号・施行規則第234条第1項第2号・第3号(187号) 第300条第1項第8号・第300条第2項(188号) 施行規則第234条第1項第1号 村田 敏一(立命館大学教授) 施行規則第234条第1項第4号 洲崎 博史(京都大学教授) 施行規則第234条第1項第5号 〃 施行規則第234条第1項第6号 〃 保険業法施行規則第234条第1項第1号 ―150― 生命保険論集第 190 号 保険業法第300条第1項第9号 「九 前各号に定めるもののほか、保険契約者等の保護に欠けるおそ れがあるものとして内閣府令で定める行為」 保険業法施行規則第234条第1項第1号 「法第三百条第一項第九号に規定する内閣府令で定める行為は、次に 掲げる行為とする。 一 何らの名義によってするかを問わず、法第三百条第一項第五号 に規定する行為の同項の規定による禁止を免れる行為 二 ・・・」 (参考条文:保険業法第300条第1項第5号) 「五 保険契約者又は被保険者に対して、保険料の割引、割戻しその 他特別の利益の提供を約し、又は提供する行為」 Ⅰ.趣旨 本号の趣旨は、 「何らの名義によってするかを問わず」の解釈いかん により大きくその理解を異にすることとなる。 すなわち、 「何らの名義」 につき、①利益提供行為の主体(禁止行為の名宛人)である保険募集 人等(保険業法300条1項柱書)と解するか、あるいは、②利益提供行 為の客体(受利益者)である保険契約者又は被保険者(以下、契約者 等)と解するかによる相違である(可能性としては、③その両者とい う解釈もありえることとなる) 。この点については、Ⅲ.解釈の項目で 詳細検討するが、 「よってする」との文言につき行為の主体をさすもの と解するのが自然であることから、 「何らの名義」 については、 前者 (①) のように解するべきである。その場合、保険会社や保険募集人等が、 直接的には募集行為を行っていない者の名義を使用して行う特別の利 ―151― 保険業法逐条解説(XXXXI) 益の提供行為を禁止することにより、特別の利益の提供行為の潜脱を 防ぐことが本号の規定趣旨となる。なお、本号の趣旨に関連して、特 別の利益の提供が、保険契約者等に対してではなく、これらの者と密 接な関係を有する者に対して行われる場合も、この規制の禁止の対象 となりうるものとする理解が見られるが1)、妥当ではない。なぜなら ば、上記の①のように解する場合はもちろん、②や③のように解する 場合でも、本号はあくまで形式的な名義のいかんにかかわらず、その 出捐や利益の実質的帰属主体(客体)により‐いわば計算説的に‐特 別の利益の提供行為を判断するべきむねを規定するものであり、契約 者等に対して影響力を行使しうる密接な関係者(契約者等とは別の損 益の帰属主体)への利益提供までをその射程に収めるものではないか らである。 Ⅱ.沿革 本号に相当する規律は、 「保険募集の取締に関する法律」 (以下、旧 募取法と略す) には存在しなかった。 平成7年改正保険業法において、 旧募取法の規律内容については相当の修正が加えられつつ保険業法の 一部として吸収・一体化されたが、本号は、その際に新設された保険 業法300条1項9号 (保険契約の締結又は保険募集に関する禁止行為 につき、旧募取法下での法による限定列挙主義を改め、内閣府令への 委任を可能としたもの)に基づき、同条同項同号を根拠規定として、 新たに規定されたものである。なお、本号は、実質的には、法300条1 項5号(特別の利益の提供行為)に関連する施行規則として機能して いる。 1)安居孝啓『最新 保険業法の解説【改定版】』(大成出版社・2010年)992 頁。 ―152― 生命保険論集第 190 号 Ⅲ.解釈 本号の解釈は、「何らの名義によってするかを問わず」における何 らの名義の意味を、①保険募集人等の利益提供行為の主体(禁止行為 の名宛人)につき考える説2)と、②利益提供行為の客体(受利益者) である保険契約者又は被保険者につき考える説、③①と②の両者につ き考える説、さらに、④利益提供行為の客体(受利益者)につき保険 契約者又は被保険者に対してのみでなく、これらの者と密接な関係を 有する者に対して行われる場合も禁止行為の対象に含まれうると解す る説3)に分かれる。 まず、この中で、③については、一般的に、一つの文言で利益提供 行為の主体と客体の双方を包含させることは無理なものと考えられる ことから、妥当な解釈から除外されることとなる。 次に、④につき検討する。かりに、本号の趣旨が④説のようなもの であるとすれば、施行規則の文言は、 「保険契約者又は被保険者と密接 な関係を有する者に対して、法300条1項5号に規定する行為・・」と なるべきところ、本号の文言は、あくまでその名義と損益の帰属者が 乖離する場合においても、実質的な損益の帰属者で禁止行為を判断す るとの文意に止まっており、④説のように名義のみならず損益の帰属 者までもが異なる場合も禁止対象に含まれる意味とは解しがたい。こ の点に関して、本号に相当する規律のなかった旧募取法のもとで、特 別の利益の提供行為の相手方が保険契約者又は被保険者に限定される のでは規制の実効性に欠けるものとして、保険契約者又は被保険者と 密接な関係を有する第三者が行為の相手方となる場合(たとえば保険 契約者または被保険者と密接な関係にある会社への特別利益の提供 2)関西保険業法研究会「保険業法逐条解説 第300条1項5号」生命保険論集 185号(2013年)301頁〔村田敏一〕 。 3)安居・前掲注1)992頁。 ―153― 保険業法逐条解説(XXXXI) 等)も違法行為の相手方として施行規則で追加指定できるように改正 すべきとの立法論が唱えられていた4)。④説のような解釈は、このよ うな立法論の影響をうけている可能性もあるが、文言上、そのような 解釈は困難なものと考えられる。なお、本号に関連しては、監督指針 において、法人である生命保険募集人や保険仲立人が自己又は自己と 密接な関係を有する法人を保険契約者として募集を行う場合について、 手数料の支払等により実質的に保険料の割引、割戻し等の効果が生ず るものは、本号の規制の対象となることが明らかにされる(監督指針 Ⅱ-4-3-2(5)②)5)。具体的には、生命保険募集人等の議決 権の全部又は一部を保有する等生命保険募集人等と資本関係を有する 法人、生命保険募集人等との間で常勤役員や使用人の兼職、出向、転 籍等の人事交流がある法人、その他設立経緯や取引関係からみて当該 生命保険募集人等との間で財務や事業の方針に重要な影響を与えるこ とができる関係を有すると認められる法人が、 「密接な関係を有する法 人」に該当するむねが詳細に示されている(監督指針Ⅱ-4-3-2 (5)②) 。ここで、 「密接な関係を有する」との文言が使用されてい ることを根拠に、④説のような理解が前提とされていると考えること は早計である。なぜならば、監督指針が規定する(生命保険募集人等 の)密接関係者は、あくまで、特別な利益提供の最終的な相手方であ る契約者であり、決して、契約者の地位を完全に離れて影響力を行使 しうる別個の主体につき規定されているものではない。すなわち、法 人契約に限定して、特別な利益提供行為の態様が、密接な関係を有す る法人を介して間接的・実質的に契約者に対してなされているものと 理解することで足りる。もっとも、監督指針が規定する「密接な関係 4)鴻常夫監修『 『保険募集の取締に関する法律』コンメンタール』財団法人安 田火災記念財団(平成5年)239頁〔江頭憲治郎〕 5)損害保険代理店や仲立人による自己契約は、そもそも法律のレベルで禁止 されているため、ここでの問題とはならない。 ―154― 生命保険論集第 190 号 を有する法人」の中には、たとえ間接的にであっても、当該契約者を 享受者とする特別の利益提供行為とは評価しがたい範囲の法人が含ま れていることも事実であり、そうだとすれば、そのような範囲の法人 に対する特別の利益提供行為を禁止する趣旨の監督指針を、本号に関 連して位置づけること自体が、どだい無理なものと評価される。むし ろ、‐契約者に影響力を行使しうる密接な関係を有する法人への特別 の利益提供行為を禁止する立法政策自体には合理性が認められること を前提として‐それに適合した規定振りの施行規則を、保険業法300 条1項9号のもとに正面から書き起こすことが‐解釈の混乱を避ける 観点から‐望まれよう。 ②説については、‐文言解釈上は①説におとるものの‐そのように 文言を理解することも必ずしも完全には否定できないことから、十分 に成り立ちうる考え方である。すでに検討した自己契約等に関する監 督指針についても、密接な関係を有する法人に対する特別の利益の提 供行為を禁止する趣旨であることから、②説と整合的であるようにも 考えられる。仮に、立案者が、本号につきそのような趣旨として理解 するのであれば、それにより適合した文言に改正することが検討され よう。 最後に、①説は、本号の文言に最も適合した解釈であるものと評価 される。その一方で、前述のように、現行の関連監督指針の内容とは 最も不整合な解釈となる。①説のように理解すると、本号の趣旨は、 保険業法300条1項が規制の名宛人として明示的に定める者が、 その出 捐のもとに、規制の名宛人以外の者の名義を使用して行う態様の特別 の利益の提供行為を禁止することを明らかにしたものと理解される。 (村田 敏一) ―155―
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