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長期投資仲間通信「インベストライフ」
2016 年の経済・市場を占う
対談: 馬渕 治好氏、岡本 和久
レポーター: 佐藤 安彦
馬渕 治好(まぶち はるよし)
ブーケ・ド・フルーレット代表。米国 CFA 協会認定証券アナリスト(Chartered Financial Analyst)。
1981 年東京大学理学部数学科卒、1988 年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT
Sloan School of Management)修士課程終了。(旧)日興證券グループで、主に調査部門を歴任。
2004 年8月~2008 年 12 月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009 年1月
に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、
債券、為替、主要な商品市場の分析を行なう。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初
心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等
への寄稿も多い。著作に、「株への投資力を鍛える」(東洋経済新報社)「ゼロからわかる 時事問
題とマーケットの深い関係」(金融財政事情研究会)などがある。
岡本:馬渕さんの「ゼロからわかる時事問題とマーケットの深い関係」を拝読しました。今回の本は、
読んでいるうちに考える機会を与えてくれるとても良い本になっていますね。本来、人の書い
たものを読むだけではなくて、自分の頭で考える事が勉強という事ですから。
馬渕:ありがとうございます。今回の主眼は、自分で考えましょうという事でした。相場はどうあれ、
自分で勉強しないとダメだと考えている人が増えてきている気がしています。ただし一方で、
セミナーでも簡単な結論を求める人もいて、「アメリカの利上げはいつか」とか「日銀の追加
緩和はあるか、ないか」とか「東京オリンピックまで景気は上がるか、終わったら下がるか」な
ど飛びつきやすい答え求めてしまう、これはあまり良くないなと思っています。
岡本:その単純な質問の答えだけを与えてくれる本はよく売れるのかもしれません。でも、書く側か
らするとそのニーズに応えてばかりでは本当に自分が知ってもらいたいことが伝わらない。
そこが、難しいですよね。私はアメリカの「敗者のゲーム」や「ウォール街のランダムウォーカ
ー」の様に考え方全体を書いた本を 2〜3 年に一度改定して出していくのが、書く側としての
理想だと思っています。そのような資産運用全体の体系を書いてみたいと思っています。
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馬渕:そうですね。実は今、東洋経済新聞社さんから依頼をいただいていて、よく言われている「50
のルール」について書いています。例えば「サマーラリー」や「大統領選の年は株価が上がる」
など、これらがホントかウソか、きちんとデータで検証して答えを出す事を自分でもやってみ
たくて書かせて頂きました。この本は、先ほど岡本さんが言われていたように、年々データが
増えていくので毎年出しましょうという話もあります。
岡本:毎年は大変そうですね。現在、それら以外に進んで
いる話はありますか。
馬渕:いいえ。今はありません。元々、書き溜めておくとい
うよりも、頭の中に書きたい事があるタイプで、今回
のきんざいさんの本に全て書いてしまったので、逆
に今、話が来ても何を書こうかという状態です。
岡本:今回の本で、第 2 章までとそれ以降で少し書きぶり
が違う気がしました。
馬渕:はい。第 2 章までは、自分が若い頃に勉強して、当時面白いと感じていた事を書きました。
例えば、「原油取引の際の円建てと外貨建ての違い」とか「原油の価格にはドバイと WTI が
ある」とか「バレルとは樽の事だ」とか細かいけれど、自分が感じた面白さを同じように感じて
貰えたら嬉しいなと思って書きました。第 3 章以降に書いた、例えばアメリカ経済などの用語
解説はあまり要らないので、若干雰囲気が違うのかと思います。
岡本:来年、経済の面ではどんな 1 年になると思っていますか。
馬渕:大きな波乱はなく、ぼちぼちの1年になるのではないかと思っています。日本においては、ま
ず消費税増税は 2017 年までは無い。だけど再来年にあるのが見えている、そんな1年。そ
れと実体経済からみると、雇用自体は持ち直しているが、時間外労働が減っている。つまり
人を増やした割には忙しくなっているわけでは無いと言える。でも一方で、ワーク・ライフ・バ
ランスの見直しや育児を支援するなど、企業が意図的に残業時間を減らしているのであれ
ば、景気とは関係が無い、構造的な動きなので、あまり心配する要素では無いかなと思って
います。実際にどちらなのか分からない部分はあるのですが、経済が凄く強い時期ではなく
改善してきている状況なのだと思っています。
岡本:中国経済を懸念する人が多いですね。
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馬渕:中国経済の悪化は続くと思っていますが、マーケットもそれを織り込んだ所ですし、アメリカ
経済も事前のコンセンサスでは前年比マイナス 4%だと思われていたのが、どうやらマイナ
ス1%位に留まりそうな感じになっている。もちろん減益なので良くはないが、思ったほど悪く
は無かった。アップルもマイクロソフトも悪いと思われていたけど開けてみたら悪くなくて、そ
れが続いている。事前のコンセンサスが良かった数字のケースを見てみても、足下で急に上
方修正している。つまり、ひどいと思っていたらそうでも無かった、そのような状況です。
岡本:アメリカ経済の話が出てきたので、少し話を続けたいのですが、先日あるアメリカ人と話をし
ていたら「これから 2 年間は、利上げはないと思う」と言っていました。あまり利上げの事ばか
り話題にしたくはないがどう思っていますか。
馬渕:2 回目の利上げという意味では、2 年間位は無いだろうと思います。
岡本:という事は、1回はやるだろうと思っている?
馬渕:そうです。連邦銀行や中央銀行の基本的な考え方は、タイトニングではなくノーマリゼーショ
ンなんですね。つまり、彼らは、ゼロ金利や量的緩和は非伝統的な政策だと言っています。
リーマンショック以降、経済が異常な状態に陥るリスクがあったので、対抗するために異常な
政策を取っているだけで、経済がすごく強い状態でなくとも、景気が平常状態に戻ったので
あれば金融政策も戻すということでしょう。実際に、量的緩和は 2014 年 10 月に止めました。
金利もゼロは異常だと、そういうロジックで考えていると思います。そうすると、0.25%もしくは
0.125%にするなど、ゼロでなくしておきたいと思っているはずで、そうすると年内、または年
明け早々には1回目の利上げをするのではと思っています。
岡本:なるほど。では、今のアメリカの景気は巡航速度くらいで進んでいると考えて良いのでしょう
か。
馬渕:今は巡航速度よりやや低めくらいだと思います。
岡本:では、今年の初めの方が良かった?
馬渕:今年度の初めは、実際の勢いは弱かったけど、そこから順調に回復していくだろうとの期待
が強かった。また、短期的トリックですが、今年 1〜3 月期の景気は一旦沈んでいました。こ
れは冬が厳しかったのと西海岸の港でストライキがあった影響で荷動きが止まっていた。こ
れが 2 月に妥結されて、そこから徐々に回復していった。そこからリバウウンドする形だった
ので、見かけ上強い感じがした。しかし、レベルでは今の方が内需系は強いです。
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岡本:体感として、悪い時から良くなりつつある時は期待があって、モーメンタムが持続するように
思いますね。
馬渕:それは 8 月に株価が高値を付けたことにも現れていますね。
岡本:そこから巡航速度に入ったとなると、減速感が出てしまう事がありますね。
馬渕:それが PER の調整として現れていて、8 月 25 日にアメリカのインデックスが年初来安値を
付けるなど調整が生じたのだと思います。ですが、実際には、住宅着工件数や小売売上金
額や自動車販売台数などの数字を前年比ではなく絶対値で見ると、4〜6 期より 7〜9 期は
内需系のレベルは上がっています。ですが、逆に輸出系の数字は下がっています。
岡本:それはドル高の影響ですか。
馬渕:そうです。鉱工業生産指数は下がってきています。ISM の景況感調査も、非製造業は良い
結果ですが、製造業からは悪い結果が出ています。輸出製造業が苦しくて、内需非製造業
は比較的堅調だというのが今の状況です。
岡本:日本の場合は為替の影響が大きく出るのだけど、アメリカの場合、今まであまり為替は関係
無いように感じていましたが、近頃はドル高の影響を言われています。これはアメリカ経済の
構造に変化などがあったからでしょうか。
馬渕:アメリカは、輸出依存になっていないが、盤石では無いのかも知れませんね。ドル高を警戒
しているのは民間のエコノミストだけではなく、アメリカ政府高官も言い始めています。米財
務省が、半期に一度の報告の中で「日本やドイツは金融緩和への依存が大きすぎる。外需
による景気回復を目指しているのではないか」と懸念を示しているので、対円・対ユーロに対
するドル高に政府としても警戒しているとの見方をしている人もいます。また連邦銀行からの
報告では「ドル高によって、一部の観光業が打撃を受けている」と書かれています。もちろん
観光業の影響でアメリカ経済がひっくり返る事はないが、そういう警戒感を政府や連邦銀行
が示している事が、それらを跳ね返して「アメリカは大丈夫だ」と言うだけの自信がないので
はないかと思っています。
岡本:なるほど。来年のアメリカ大統領選は経済にどのような影響を与えますか。結果的に、実際
にトランプさんになったら、混乱は大きくなるとは思いますが(笑)。
馬渕:大統領選挙の年は、過去の数字を見ると僅差ではありますが、経済的な数値は上がります。
実際には、選挙に向かってお金が使われる事や、何となく気分が高まるということがあるか
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らだと思います。今のところ、民主党が有利かなと思っているのですが、そうすると順当にヒ
ラリー・クリントンさんで決まりかと思います。マスコミではトランプさんが取り上げられていま
すが、シリアスにあの人が大統領になった方が良いと考えている人は少ないと思います。
岡本:そうですね。実際、一番困っているのは共和党のようですね。
馬渕:はい。共和党は分裂状態にあって、党執行部の言うことを聞かないグループもいて、それが
原因で下院議長が辞職してしまう異常事態が発生するなど、党内の混乱が起こっています。
岡本:なるほど。それにしてもトランプさんがそれなりに支持を集める背景には、どんな事がありま
すか。
馬渕:アメリカ社会の格差拡大や閉塞感にあると思います。一時期、中道派が支持されて民主党
も共和党も同じ様な事を言っていました。それに不満を持つ人達が「こういう事をするんだ!」
と、大きな声で発言すると、それに支持が集まるのではないかと思います。社会に対する不
満が燻っているのだと思います。
岡本:オバマさんの時も似たような雰囲気がありましたね。
馬渕:そうですね。でも中道派が勝ったとは思います。今回、ヒラリー・クリントンさんが「TPP 反対」
と言っていますが、本気で言っているというよりは、労働組合の方に寄った政策を言っている
のだと思っていて、彼らを取り込まないと票にならないと考えているのはでないでしょうか。
岡本:でもそれで票を貰い大統領になったら、ある程度、実行しないとなりませんね。
馬渕:うーん。そこはどうでしょうか。
岡本:ギリシャの大統領みたいな例もありますか (笑) 。
馬渕:国民投票までやっておいて・・・。
岡本:世界的に、政党に対する不満があるのでは無いでしょうか。政党間の争いばかりで、政争に
明け暮れていてね。歴史を見ると、そんな時に国民が求めるのは英雄で、日本では大正デ
モクラシーから昭和になって経済も社会も停滞していた時に青年貴族、近衛文磨が出てきて
一躍人気を得る。彼は、家庭に広まり始めたラジオで国民に語りかけたりして、ユーフォリア
的な動きになった。しかし、結局、「持たざる国」の悲劇で戦争に繋がっていってしまった。時
代背景としてそれに似ていると思っています。
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馬渕:悪い方向に考えると、ナチスみたいな極端な人が立ってしまって、戦争に走るリスクもある。
一方で、SEALDs みたいな動きも出ている。これをどう評価するか色々あると思いますが、政
治に関心を持つ若者が出てくるのは良い事で、これも自分で考えようという動きに繋がって
いくかどうかだと思います。いつでも政治が悪いという声はありますが、結局、有権者が選挙
で選んだ結果ですからね。
岡本:中国の政治や経済について、どう見ていますか
馬渕:一番極端なケースでは、現在の政治体制は崩壊するリスクもあると思っています。やはり色
んな形で曲がり角に来ていて、インターネットの発達によって、中国でも、制限はしているも
のの、海外の事をわかるようになっていますし、一部の人とはいえ、沢山の人が外国に観光
へ行って、そこで色んな物を見る訳です。中国の人は、政治は政治、経済は経済と割り切っ
ていて、政治がどうなっても生きていけると言っている人が多いのです。でも、実際は経済面
で構造転換しなくてはいけない点があります。今までは、重厚長大産業を安いコストでやって
いたけれど、賃金水準が上がってしまい、元を切り上げざるを得ないような状況で、実際に
賃金の優位性ではインドネシアやベトナムに負けています。そうすると、付加価値を高いも
のに移行するか内需でやっていくかのどちらかになっていきます。これがアメリカの場合だと、
そこで会社を立ち上げたり、従業員として有り余る若者がいて、さらにそこにお金を出すベン
チャーキャピタルやエンジェルがいて勝手に成長していったりするダイナミズムがありますが、
中国の場合、政府が国有企業を使ってやっていた。アメリカと同じ様な構造転換が、中国政
府主導でできるのか、逆に政府主導だからこそ大胆なやり方ができるとか様々な意見があり
ますが、なかなか人の知恵だけではできないものだと思います。
岡本:中国の場合、中国共産党を頂点にした三角形になっていますが、下からの民主化の圧力が
高まってきたらいずれは押さえ切れなくなるだろうと思います。だけどその前に、中国政府が
どれだけ賢明な選択を取るのか、大きなリスク要因ではありますね。
馬渕:先ほど、現在の中国の国家体制が崩れる可能性があると言いましたが、それは悲惨な結果
にはならないと思っています。かつて、ソ連邦が崩壊しても世界大恐慌にはならなかった。経
済規模が違うという見方もありますが、中国の場合は、地域格差が大きいので、崩壊したと
しても緩やかに、中国連邦みたいな形になるのではないかと思います。それであれば、別に
悲惨な結末になるとは思いません。
岡本:中国政府の経済に対する方針が、経済成長から社会安定化や内需主導に移った場合、外
国企業にとっては大きなビジネスチャンスになりますね。
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馬渕:そうですね。設備投資が大幅に下がるとか金融面で混乱するなど一時的な問題はあると思
いますが、中国人がいなくなる訳ではないので、内需面をターゲットにするビジネスは大きく
なるでしょう。
岡本:日本に旅行した人達は、中国に帰ってからネット通販で日本製品を買うケースが多いようで
すね。
馬渕:そのようですね。よく売れている日本製品は、日用品みたいですね。熱さまシートや、めぐり
ズム。目薬でも沁みないものやスッとするタイプなど種類が沢山あってきめ細やかなのが受
けている。他には、洗顔器などの美容家電。人体に使うものは、日本製が良いと思われてい
るようです。
岡本:インベストライフにも登場していただいたことのある中国事情に詳しい勝池さんがジャパン・
クールについて面白いことをおっしゃっていました。「西洋人は人間の五感のうち、視覚と聴
覚を重視する。日本は、嗅覚・味覚・触覚を重視する民族で、伝統的にそういった商品が開
発されてきた。それがクールジャパンの正体だ」と言っていたので、面白い意見だと思ってい
ました。
馬渕:最近、四国の池内タオルや、奈良の白雪ふきんだと
か、手触りの良さは日本の得意とする所ですね。
岡本:そういう少々高くても長持ちする物のほうが、安くても
すぐダメになる物より良いですからね。
馬渕:農機・建機でも、同じような事が言われています。東南
アジアではクボタが強くて、それはなぜかというと、アメ
リカのディアのように大規模農園向けに造られた物で
はなく、日本のように狭い土地で使える方が良いという
のもありますが、メンテナンスが必要ないとか、必要に
なった場合も、現地の営業マンがすぐに来てくれると
か、機械は高いけれど、長く使えば安くなるといった点
が受けているようです。
岡本:なるほど。次にヨーロッパの景気はどうですか。
馬渕:ヨーロッパも景気が底入れをした感じはあります。マイナス成長になっている事はなくて、ギ
リシャ危機で財政が厳しい状態ではありますが、一時のように、イタリアだ、スペインだとか
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言っていたのは、やり過ぎだと思っています。イタリアはプライマリーバランスが黒字ですし、
スペインは、プライマリーバランスは赤字ですが、借入金残高が経済規模よりも小さいです。
その意味では、両国ともそれほどの危機ではなかったのに、大変なのではないだろうかとの
見方が広がって国債の現物だけでなく先物をやられてしまった。そうなると、新規の国債に
応じる投資家がいなくなってしまったので、回転資金が調達できなくなって厳しくなった。そん
な状況の中、ドラギさんが対策として銀行に「必要であれば、いくらでも資金を注ぎ込む」と言
った。また、スペインに対しては「手を上げてくれれば、国債を買い取る」と言った。国債につ
いては、言っただけで状況が変わったので、スペインの為の金は使わなかったし、銀行に貸
し出した金も業績の良い銀行からは返済が始まっているなど、結局ほとんど見せ金で済ん
だ「ドラギマジック」で一旦収まっています。ただし、高成長のタネはないし、フォルクスワーゲ
ンの問題がどうやら一社だけではないぞと、いうことになった場合、国全体のブランドに傷が
つく様なことになると大変です。ヨーロッパはドイツ主体で引っ張っている状態なので、先が
見えないところはあります。また、ロシアとの関係が深いのも心配です。原油価格低迷が続く
とロシア経済が落ち込んで、ロシア国債が再びデフォルトするような可能性もある。ロシアの
実体経済に及んだ場合でも、ヨーロッパ全体の貿易へどれくらい圧力がかかるか心配です。
引き続き、先進諸国の中ではヨーロッパが一番低迷しているという見方になりますが、現時
点ではマイナス成長になっている訳ではない。そんな状況です。
岡本:では、日本はどうでしょう。新三本の矢について評価などあれば、聞かせてください。
馬渕:アメリカ系の友人は酷評していました。その理由として、具体的な話が何もない事。例えば、
GDP を 600 兆円にするという話は、何をどうするか言っていないので評価のしようもないよう
です。次に、海外の投資家から見ると、日本は小さな政府を目指すべきだと思っているようで
す。財政赤字は大きいし、介入もできないのだからというのがその理由です。政策について
は、保護的ではなく競争させるような政策が良いと思っているようです。一つ一つの企業の
力はあるのだから、競争させて高めるべきで、TPP や規制緩和、法人減税は良いと思われ
ている。新三本の矢をパッと見ると、子育て支援や介護の事が入っていて、もちろん大事な
ことではあるけれど、それでは国が保育所を沢山作るの?介護を手厚くするの?と考えてし
まうと、高福祉の大きな政府を目指しているように思えてしまって、どちらを向いているかが
分からない。
岡本:60 年代後半のアメリカの「偉大な社会の創造」みたいな話ですね。
馬渕:そうです。また、最初の三本の矢は終わっていないと思っているところに、新三本の矢が出
てしまったので、「前の三本の矢はやらないまま終わってしまった」との印象を与えてしまって
いる事も考えられます。
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岡本:最初の三本の矢は、政府として企業活動をしやすくなるような環境を作ると言っているだけ
で、実際にやるのは企業ですね。だから企業がやる気にならないとどうにもならない。
馬渕:おそらくその事は安倍政権も分かっていて、例えば GPIF が日本株への投資配分を高めると
発表したときに、塩崎厚労大臣が「GPIF はどの株でも買う訳ではない。それは良い会社の株
は買うが、悪い会社の株は買わないと言うことです。それによって新陳代謝を促すつもりで、
つまり、ダメな会社には出て行ってもらいたい。良い会社になるようみんなが努力して、結果
として全体が上がることを目指している。それが成長戦略だ」と言っています。一部の市場関
係者は、GPIF が全部の株を買ってくれないかなとか、黒田バズーカで全部の株価が上がら
ないかなと言っていますが、それとは随分ギャップがあります。
岡本: 2015 年から日経 400 の公表が始まって、それまであまり注目する人も少なかった ROE に
焦点が当たるようになった。また、スチュワードシップコードやコーポレートガバナンスコード
にも陽の目あたるようになって、運用機関の責任や、企業が株主に目を向けるようになるな
どのリンクが上手く行き始めたのを感じていて、それが上げ材料になった部分もありました。
しかし、最後に水を差したのは東芝事件ですね。これは、フォルクスワーゲン並の罪だと思
います。最近ではマンションの問題もありました。今年は、働いている人達や経営者のモラ
ル、それから市場に対する信認が失われる様な事件が多くて、それは大変、大きな問題だと
感じています。中国の景気が減速するとか、アメリカの利上げがあるとか、それはいつも起こ
る事であり、それによって株価が上下するのは喜ぶ事でも悲しむ事でも無くて、むしろ当たり
前の事だけど、信認が失われるのは致命的な問題だと思っています。経済には関係ないけ
ど、最近もサッカーや野球でも色々問題があって、それは本当に嫌な感じですね。
馬渕:日本ではかなり長い間、景気低迷が続いて、特に雇用に影響が出た。非正規雇用者が増え、
生活が安定しない場合も多い。ブラック企業である事が判っていてもそこしか働く所がなくて、
心身すり減らして不幸な場合には自殺にまでいってしまう事態もある。そうなると人間の心理
として「悪いのはこれで終わり。これからぼちぼち良くなります」と言われても心が切れてしま
っていて、犯罪に手を染めてしまう心の弱い人や、少しくらいなら分からないだろうという考え
になってしまう人が出てしまう。企業の中では下請けにしわ寄せを押し付ける事にもなります。
特にソフトウェア部門の価格は人月。つまり何人を何ヶ月投入したかで決まる事が多いので、
安くしろと言われると人月を削るようになる。そうするとどうしてもテストはいい加減に済ませ
てしまう。発注側は「安くしろとは言ったが、性能を下げろとは言っていない」と言うでしょうが
それは無理な話ですよね。マンションの場合、それが当てはまるか分かりませんが、上から
プレッシャーがあったのではないかと思ってしまいますね。
岡本:株主の責任、運用者の責任、企業の責任、消費者の責任と言われますが、同時に従業員
の責任ももっと問われるべきではないかと思いますね。自分の倫理観に合わない仕事には、
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少なくとも声はあげる。「部長、ちょっとそれは違うのでは無いですか」と言うべきだと思いま
す。
馬渕:最近は告発できるツールも段々と増えてきましたけど、まだ足りないですね。おかしいと思っ
て声をあげる人達の身を保護する部分が無いといけませんね。消費者の責任という話では、
雇用リストラや賃金カットがあった影響で、安いものが良いという考えに走りすぎたと思いま
すね。高くて質の良いものが売れなくなって、良心を欠いて適当に作った安いものが売れて
しまったのもありました。そこまで消費者に見破れるかは難しいとは思いますけど。
岡本:安いものは別に悪くはないんです。だけど悪いものは悪い。100 円ショップで買っても良いも
のは良い。だけど、どんな高いものを買ってもそれが悪いものなら悪い。つまりは消費者が
信頼できるものを提供するのが企業の役割だし、消費者はもう少しそれを見分ける眼力が
必要だと思います。マスコミの影響も多いと思います。今回のマンションの話では、会社が従
業員を守ろうとしますね。完全に罪が確定していないからかも知れませんが、明らかに悪い
事をしたのであれば氏名を公表して責めを負わせるべきです。何でもかんでも監獄にぶちこ
めというわけでは無いけれど、本当に悪い事をしていたなら監獄に入るのは仕方がない事だ
と思います。言うまでもなく、それは経営陣にも当てはまります。どうしても、都合の悪い事は
隠してしまおうとなりますが、消費者であれ、従業員であれ、資本の出し手であれ、社会を良
くして行くんだという考えが必要だと、強く感じています。
馬渕:徳川家の直系で現在、徳川財団の理事長をやられている方の話で「昔は法律というのは無
かったけど、世の中上手く回っていた。それはお天道様が見ているという考えがあったから。
法律を作っても、抜け穴を抜けようとする人がいるので法律で固めるのは無理がある。従っ
てお天道様が見ているといった倫理観を各自が持てるかが必要だ」という話があって、そう
だなと思ったのですが、現代ではお天道様と考える人が少なくなったのかも知れませんね。
岡本:私の娘がアメリカの学校で習ってきた歌の歌詞で「All day, all night, angels watching over you」
というのがありました。いつでも天使があなたの事を見ているという事で、お天道様と同じよ
うに倫理観や良心みたいな話ですね。
馬渕:そうですね。
岡本:最後になりますが、来年の相場見通しはいかがですか。
馬渕:相場見通しだけで言うと、前半は高くて後半は安いと思っています。今年中に 2 万円を取り
かえす事もあるかと思っていて、2016 年でそこから更に 10%伸びて、23,000 円くらいはある
かなと思っています。それでそこから 1 回下がる。下がるといっても深刻な下げではなく
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23,000 円まであったけど 20,000 円になるくらいのイメージですが、その理由としては、日本で
は 2016 年 7 月に参院選があります。選挙が終わって自民党が大勝することになれば、憲法
改正の話が始まる。また、2017 年の消費増税が見えて気になってくる。そう考えると後半は
勢いを失うのかなと思います。
岡本:勢いを失うっていうのは、長期にわたった上昇相場の終焉だということでしょうか。
馬渕:いえ、そこまでは考えていません。
岡本:なるほど。では、なだらかな上昇の中での調整局面だと考えて良いですね。
馬渕:そうです。アメリカも大統領選後がどうなるかを見に来ると思います。
岡本:世界的には、緩和政策の見直しなどで資金の流動性の縮小が始まっていく事が考えられま
すね。
馬渕:実はアメリカではもう始まっています。連邦銀行がバラまいているお金の量は減っていて、マ
ネタリーベースでは 2015 年 6 月から前年比マイナスになっていて、それが連続している状況
です。意図して引き締めている訳では無いと思いますが、保有した国債が償還になった分が、
新たな国債に回っていないのだと思っています。そういった傾向が今後じわじわと続いて行く
と思います。
岡本:なるほど。本日は色々と面白いお話をありがとうございました。
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コーポレートガバナンス・コードと
取締役会の受託責任/説明責任
講演: 一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会
代表理事 門多 丈氏
レポーター: 赤堀 薫里
門多 丈氏: 一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会、代表理事
1971 年 三菱商事株式会社入社。グローバルな視点からの様々な資金調達・運用業務に携わ
る。金融事業本部長として、未公開企業の株式を含むあらゆるタイプの金融プロダクツへの投資
業務、M&A などのアドバイザリー業務を統括。2007 年に同社を退職後、株式会社カドタ・アンド・カ
ンパニーを設立、代表取締役に就任。株式会社 FPG 社外取締役、株式会社八十二銀行など 2 社
の社外監査役。東京工業大学院(博士課程)元特任教授、米国カルパース等の有力公的年金で
組織する Pacific Pension Institute のアドバイザリー・カウンシル・メンバー。1971 年東京大学法学
部卒、1981 年 スタンフォード大経営大学院卒(MBA)。
日本では、コーポレートガバナンス・コードの議論はこれまであまりなかったのですが、現在、
OECD のガバナンス・コードを導入しようとしています。コードの議論はイギリスで始まり、ガバナン
ス・コードの中からスチュワードシップ・コードが出てきました。
実践コーポレートガバナンス研究会では最近、社外監査役
の人材の紹介を、かなり効果的にやっています。現状の問
題として、社長の知り合いの中から独立社外取締役を選択
することがあり、ある意味、株主投資家の目には、どういう基
準で選んだのか不透明です。私達の個人会員さんは現在
80 名。様々な分野で資質の高い人材が多いので、人材紹介
を強化していきたいところです。
また、人材育成もかなり進展があり、現在イオングループの監査役アカデミーを引き受けています。
イオンの中の事業子会社の監査役の人材育成で、経営に近い立場です。グループの中で親会社
の立場でどのように子会社をどう監視していくのか、一種の社外監査役的な立場で実践をする人
材を毎年 10 人ずつ育てています。今年は将来の候補生と今年監査役になった 20 人に 1 年間で
6 回にわたり行いました。
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発行人:岡本和久、発行:I-O ウェルス・アドバイザーズ株式会社
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コーポレートガバナンス・コードの現状につきお話します。今年の株主総会の 6 か月以内に、各社
がコーポレートガバナンス・コードを東京証券取引所に報告をする。今年 6 月の段階で、ジャスダッ
クも含め、3466 社上場会社がある中、3466 社のボードでコーポレートガバナンス・コードを議論し
て自分達のステートメントを出さなければならない(原則ジャスダック上場会社は若干緩和されて
いる)。この前提としてコーポレートガバナンス・コードの案を踏まえて行う。これは世界においてど
こにもない状況です。いいかどうかは別として、イギリス等はあくまでも自主的にガバナンス・コード
を決めていました。
東証と金融庁のラインでこういう議論をするということは、私は海外に対してはポジティブなメッセ
ージであるとして宣伝しています。現状は、コードを「自分の言葉で語ろう」と真剣に議論していると
ころと、単に取締役会から事務局に「コードを出せ」と言っているところの二極化が起きていますが、
ベストプラクティスでコードに対応していく動きがあることを、世界の機関投資家にも言っていきた
いです。大きな意味で形はかなり整ったが、実行を高めるにはどうすればいいのか。ガバナンス・
コードについては、今まで実践してきたことをコードに盛りこんできたので、このコードを読み込み、
実際にどうワークしていくのか議論していくことが大切でしょう。
東芝等のスキャンダルをガバナンス・コードの議論の中で考えると、「社外取締役を含めた内部統
制の強化、また企業風土を変えるべき。」という議論になるでしょう。どういう訳かこのところ、重要
企業の不祥事が最近賑やかになっています。ガバナンス・コードの関係では、東洋ゴムの場合、
連結ベースでの事業子会社の問題、ある意味では周辺ビジネスでの問題が不祥事の原因として
考えられます。東芝の場合、トップを含めた腐敗の問題だと思います。東洋ゴムと東芝双方に言え
ることは、社外取締役が入り、事業戦略、どういう形で自分達の会社が生きていくのかという議論
が本当に出来ているのか、これは社外取締役の大きな一つの貢献だと思います。企業不祥事は
我々にとって教訓になります。
この後、講演では平成 26 年改正会社法の説明や、コーポレートガバナンス・コードの 5 つの原則
の内容、コーポレートガバナンス・コードと株主受託責任、説明責任、取締役会の役割と構成、独
立社外取締役が機能するための条件、大きな課題となっている取締役・監査役のトレーニングの
必要性について、「取締役会の実効性」の確保、分析・評価の項目、株主との建設的な対話につ
いて、政策保有株に関する説明義務、そしてスチュワードシップ・コードとインベストメント・チェーン
について、最後にコーポレートガバナンス・コードの基本的な考えとして長期的な観点での社会の
サスティナビリティーが大前提であり、ESG もそういう意味で捉え、考え方を深めていきたいという
お話をいただきました。
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企業不祥事の背景を探る
座談会: 門多 丈氏、参加者のみなさま、岡本 和久
レポーター: 赤堀 薫里
岡本|2014 年 1 月から公表が始まった JPX 日経インデックス 400、その採用銘柄の一つの重要
な基準として ROE が入った。いい傾向だと思うが、まだ表明的な使い方でしかなく、ROE
の本当の意味が理解されていない節があります。しかし、ともかく、今まであまり焦点の当
たらなかった ROE が大事な要素であると判断されてきたことはいいことだと思う。2014 年
のもう一つの大きな進歩は、スチュワードシップ・コードの導入でした。某家具会社のお家
騒動も株主総会での結果が最後にひっくり返ったのは、かなりスチュワードシップ・コードの
影響があったのではないでしょうか。これも私はいいことだと思います。そして、今年はガバ
ナンス・コード制度が導入されました。ようやく形の上では、日本の企業も、株主に目を向け
る体制が整ってきたということが、実は日本のマーケットの中で、非常に大きな好材料だっ
たのではないかと思います。
門多| それは言えると思いますね。
岡本| それがここにきて、矢継ぎ早に問題が発生している。日本だけではなく、海外ではフォルク
スワーゲンの問題や、中国では下落を続ける株式市場の取引を止めてしまうとか。要する
に世界的に投資家の市場への信認が薄らいできていることが、最近のマーケットの大きな
問題だと思います。アメリカの利上げの問題や中国経済の減速は、それはそれで景気局
面の変化の中で当然起こってくることですが、もっとファンダメンタルな問題として市場に対
する信認、更に言えば、市場を構成している上場企業への信認が薄らいできているのでな
いかと思う。そういう意味で、今日、門多さんにフォーカスしてお話し頂いた内容は非常に
重要です。キーワードは取締役会。これが本来あるべき姿として機能をどう果たしていくの
か。その中で外部役員のしかるべき役割は何か。企業そのものの基本的なあり方が問わ
れていると思います。
参加者|最近のトピックスではフォルクスワーゲンが良い研究材料だと思います。あれをどうガバ
ナンスで考えたらいいのだろう。株主の中に州政府とポルシェがいる。州政府と民間企業
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は資本効率の考え方の基準が違うだろう。なおかつ、欧州の排ガス基準の算定法もおもし
ろい。あまり厳密にやったら欧州の自動車メーカーはぐちゃぐちゃになってしまいますよね。
利害関係が錯綜していて、必ずしもアメリカ側の言う基準とは違う気がする。あれをどう考
えたらいいのでしょうかね。何が問題点でしょうか。
岡本|一つはアメリカのディーゼルに対する抵抗感があり、基準を非常に高くして悪く言えば締め
出そうとしていたという部分もある程度、あったと思います。それとは別に、インチキをして
検査をパスして、あたかも正常のものであるかのように販売をしていたことは明らかにおか
しいですよね。基準が高すぎるのであれば、そのことを問題にすべきであり、ごまかしは弁
解のしようがないと思います。
門多|株主構成の問題は歴史的なものがあるの
でしょうが、監査役も含めて本当に普通の
株主の方を向いていない、消費者にも向い
ていない会社が多い。それがドイツの全て
の会社かわからないけれど。お家騒動みた
いなことばかりしていますよね。資本の影
響力も強い。ガバナンスの前提として、人に
モノを売るという会社の議論を監査役間で
ちゃんとやっていたのかなと思います。
参加者|ちょっと違う観点で、会社ということ以前に、「ディーゼル vs ガソリン」ということがありま
す。今 COP21 があるので、そこで CO2 削減に対する厳しいルールができる。問題になっ
ているのは、カーボンバジェット。気温の上昇を 2 度に抑える為には出せる CO2 の量が決
まっていて、逆算すると今ある化石燃料の埋蔵量の 2 割位しか使えない。残りの 8 割は不
良資産化しています。あるものが 2 割しか使えないのであれば、残りの 8 割は持っていて
もムダである。ロンドン取引所やブラジルの取引所等には、資源株が時価総額の 2~3 割
位あるので、それが大暴落するのではないかという議論が一方であります。それが世界的
な化石燃料利権と、それを覆したい人達との政治争いになるのかなと思います。利権系の
話で言うと、2008 年に BMW が水素自動車を開発しました。この水素自動車は、水素燃料
電池車ではなく、ガソリンの代わりに水素を直噴する。つまりガソリンの代わりに水素を入
れたら使えるものです。実際に試乗車を 100 台作り、それを拡販する委員会の委員に私が
なった為、乗せてもらいました。同じ車が、ボタン一つで水素とガソリンが切り替えられるの
で、どう考えてもこちらの方が水素燃料電池よりも簡単であり、今すぐ出来るのではないか
と思ったけれど、広がらずうやむやになってしまった。
岡本| どうしてでしょうか?
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参加者| その時参加していた先生によると、「BMW は純粋なるドイツ系である。当時、燃料電池車
にする為には、白金の触媒が絶対に必要であり、白金の触媒を持っているのは全部ユダ
ヤ系であった。ユダヤに頭を下げるのが嫌だから必死になって水素を開発した」というのが
先生の意見でした。でも結局、負けてしまったわけです。水素直噴型は無くなり、波及産業
がないのでそちらは見捨てられた等、様々な説があります。そういう流れを知った中で、フ
ォルクスワーゲンのことを考えてみます。もちろん現場のやったことは、とんでもない嘘つき
をやり、それをどう見逃したのかというガバナンスの問題もあるものの、アメリカ社会全体は
ディーゼルに対して非常にネガティブで、ヨーロッパは十何年前から絶対クリーンディーゼ
ルだと言っている。そういう複雑怪奇な流れの中から出て来ている話です。どうして、ドイツ
の会社なのにあのような決断ができたのか疑問ですよね。
岡本| そういう大きな枠組みで見てみると今回の事件も少し違った見え方がしてきますね。
参加者| 東洋ゴムの時から思っていましたが、今回の件も、旭化成も、マイナーな事業に対して冷
たくしているひずみが出ている。要するに日の当たらないつまらない仕事は、モチベーショ
ンも低く、誰も見ていないし、コストもかけない、大して稼ぎにもならない。でも昔の日本のモ
ノ作りは、「その基本こそ地味でつまらないけど、そこがきっちとしていなければ駄目だよ
ね。」という職人魂みたいなものがあったのに、「地味だ。適当にやっておけ」と、もっと華や
かな所に光が当たり、会社の理想像がそういう部分に行かなくなってしまったと思います。
私は、三菱マテリアルの CSR のアドバイザーをしています。社長から「何がリスクです
か?」と聞かれた時、「休廃止鉱山じゃないですか。」と答えました。昔から沢山持っていた
鉱山を、現在は廃止しています。廃止鉱山は、水質の検査等永久にチェックしていかなくて
はならない。一銭もお金を生まなくても、穴を開けた所の面倒を全部見ていかなくてはなら
ない。廃止鉱山は山中にあり、誰も見ていない。お金も生まないわけですからすごいモチベ
ーションが下がると思います。更に気候変動の影響で異常気象が起きている中、尋常じゃ
ない雨が振り、従来だったら漏れることのない水が溢れ、汚れた水が流れてしまうかもしれ
ない。「そこを緩くしておくととんでもないリスクが起きますよね。」と言ったら、やはりある鉱
山で違法な検査物が出てしまった。多分、モノ作りこそ日本のお家芸といいながらも、一番
末端の地味な部分を軽視して、お金にもならないし、意識も下がり、会社もお金をかけな
い、というようなひずみがある気がしますね。ガバナンスの話とは違いますが、その実態が
出てきたのかなと思います。
門多|おっしゃる通りです。かつて M&A でメルシャンの不祥事がおきました。キリンはメルシャン
のワインを買ったのに、ついでに魚のエサが付いてきた。そこで不祥事がおきた。大体不
祥事が起きるのは見落とすようなマイナーな所ですね。売上を伸びているようにしたいわけ
です。いびつになっていますね。東洋ゴムを考えると、ブリヂストンが東洋ゴムに「ブリヂス
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トンは立派な技術を持っている。お前達はどうして出来ないんだ」と追いつめたと言われて
いますが、部門の研究開発を責任もって出来るくらいの規模にしなくてはならない。日本は
統廃合が遅れている、業界の再編が遅れている。ある程度の規模を維持しないで残ってい
るというのもかなりの問題。社内取締役の役割は、この会社のこの事業だけで生き残れる
のかという議論が必要です。
参加者|ローリターン・ハイリスクということですよね。リターンがないから無視していたらすごいリ
スクになった。そういう観点が今までなかったと思います。放っておとくと、とんでもないこと
になるようなものが、多分どこの会社も気付かないところにあると思います。
岡本|本来、ローリターンということ自体がおかしいですよね。そこにモチベーションがわくような、
「君達がやっていることは、わが社にとってとても大事なことだ!」という社長からのメッセー
ジがきちんと伝わり、金銭面でもちゃんと報酬があればいい。リスクを甘く見ているわけで
すね。ローリスクだと思い、ローリターンしか払っていなかったけど、実は非常にハイリスク
だったということですよね。今日もありがとうございました。
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中国がわかるシリーズ 30
五代十国時代に入る (前)
ライフネット生命保険株式会社
代表取締役会長兼 CEO、出口 治明氏
907 年、開封を拠点とする朱全忠は、唐を滅ぼし、梁を建国しました。北方では、耶律阿保機
が、キタイの河汗に推戴されました。この後、960 年に宋が建国されるまでの約 50 年間、中原
には、節度使上がりの梁、唐、晋、漢、周の 5 王朝が(それぞれ、先行する王朝と識別するた
め、後梁、後唐、後晋、後漢、後周と呼ぶ)、地方には 10 国が相次いで建国されましたので、こ
の分裂時代を、一般に、5 代 10 国と呼びます(但し、最強の王朝であったキタイや南詔などは含
まれていない。5 代 10 国の数え方は、かなり恣意的であると思います。おそらく五行説の影響
でしょう)。
なお、後唐、後晋、後漢は沙陀族、すなわちトルコ民族の王朝です。沙陀族は軍事には長けて
いましたが、統治の才はありませんでした。宰相、馮道は、梁を除く 4 王朝に仕え、(変節漢とし
て)宋の司馬光に断罪されましたが、16 世紀後半の思想家、大明の李贄(卓吾)は、民衆の安
寧に尽くしたと高く評価しました(祖先がムスリム商人であった李贄は、合理性を重んじ、聖人を
庶民の側に引き寄せたことで知られています)。
唐の衰亡と軌を一にするように、南詔、新羅や渤海も衰えを見せ始めました。新羅では、780
年、武列王の王統が途絶えると、王位を巡る争いが激しくなり、国内は大いに乱れました。その
間隙を縫って、9 世紀前半には、張保皐のような軍閥大商人が現れ、唐・新羅・日本を股にかけ
た東シナ海の交易で巨富を築きました。892 年、農民出身の甄萱が、[後]百済を、904 年には、
新羅王族の弓裔(その武将に王建がいました)が、摩震を建て、韓半島は再び 3 国が争う形に
なりました(後三国時代~936)。南詔は、902 年に滅び、その後は、タイ系の大理(937~1254)
が継ぎました。
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ポートフォリオ理論の進化
~リターンとリスクの話を中心として~
講演: 岡本 和久
レポーター: 赤堀 薫里
1950 年代から、すばらしい学者たちが知恵を出しあってポートフォリオ理論を作り上げた過程をた
どってみるのはとても興味深いものがあります。マンスリーセミナーではその過程についてお話し
をしたのですが、その前提として算術平均や幾何平均、標準偏差などにつき少し押さえておきまし
ょう。
最初に重要なのは平均。リターンは平均値であり、平均には算術平均と幾何平均と 2 種類ありま
す。算術平均で 2003 年~2013 年の 10 年間の日経平均株価を見た場合、株価の毎年の変化率
平均は 6.8%。株価は 10,559 円が、14,300 円と 35%上昇しています。しかし、もし 6.8%が 10 年
間続いていたのであれば、1.9 倍になっているはずです。しかし実際には 35%しか上昇していな
い。つまりこれが算術平均の問題点です。算術平均は 1 年 1 年を見た場合、平均的な収益率が
6.8%だったということを示しているのです。もう一方の幾何平均の概念は、1が、1.35 まで上昇、つ
まり 35%上昇したことになる年率を計算するものです。実際に計算をすると 3.1%になります。
株価はいうまでもなく大幅に上がったり下がったりしています。これを、毎月毎月の前月と比べて
何%変化しているのかを、棒グラフで表してみると、なんとなく平均値がわかり、そこを中心に上下
で振れているというようなトレンドが見えてきま
す。
前月と比べた変化率を、一定の幅で区分して
いき、毎期ごとの変化率がどの区分に入るか
を積み上げていくと、大まかに見てベル(鐘)の
ような形になります。このような散らばり方を正
規分布といいます。山が一番高くなっていると
ころが平均です。そして山の一番高いところを
中心に左右に広がる面積が全体の三分の二
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になるような幅を標準偏差といいます。言いかえれば1標準偏差で大体面積の三分の二が入ると
いうことで、さらに 2 標準偏差を左右にとると面積の 95%が入ります。
ポートフォリオ理論ではベルの真ん中の平均値が平均リターンで、ブレ幅の標準偏差がリスクであ
ると考えます。つまり、ブレ幅が大きいということはリターンがどうなるかというわからなさが大きい
ということに他なりません。重要なことは高いリターンを取るには、ハイリスクを取らなければならな
いが、ハイリスクを取ったからといってハイリターンを得るとは限らないということです。
相関係数は、複数の系列のデータがどれだけ似たような動きをしているかを見る指標です。統計
的な処理をして、相関係数が1だと完全に相関、0 は関係性がなく、-1 は完全に反対の動きをし
ていることを示します。
A 銘柄、B 銘柄、C 銘柄と 3 つの銘柄があるとします。リターンが 5%の A 銘柄と、A 銘柄と同じ
方向で動くけど、振れ幅は大きく A 銘柄よりハイリスク、リターンも 10%の B 銘柄。A 銘柄と同じ
振れ幅、つまりリスクと平均値は同じだけと逆方向で動く C 銘柄です。
この 3 つの銘柄を、縦軸にリターン、横軸にリスクをとった表に現すと、A 銘柄と C 銘柄はリスク幅
が同じなので、実際の動きは逆でも同じ場所になる。この結果、A 銘柄と B 銘柄を半分ずつ持っ
たポートフォリオを作ると、リターンは A 銘柄が 5%、B 銘柄が 10%なので平均値の 7.5%。振れ
幅も同じ方向に振れている為ちょうど半分になる。
B 銘柄と C 銘柄を半分ずつ持った場合、リターンの平均値は、B 銘柄が 10 で C 銘柄が 5 なので
7.5%。ただ、B 銘柄と C 銘柄の方向性は逆の為、振れ幅の大きい B 銘柄の影響度は大きくなる
が、ポートフォリオの振れ幅は小さくなる。A 銘柄と B 銘柄を半分ずつ持ったポートフォリオと同じ
平均リターンでありながら、振れ幅は随分小さくなっている。つまりこれがリスクの削減効果です。
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その後講演では、マーコヴィッツ、トービン、シャープという 3 人の巨人が作り上げた大きな枠組み
とはどういうものなのか。また、その後、様々な人達が出てきて、更に理論を進化させたポートフォ
リオの変遷を説明して頂きました。資産運用において個別銘柄の値動きよりも、全体を見る目が
重要であり、その中でポートフォリオをどう構築していくのかが最も重要であることが理解できまし
た。
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連載 資産運用「茶飲み話」(20)
岡本 和久
生活の基本と投資の基本
毎月の給料のうち、自己啓発投資と退職後のための金融資産への投資
が大切であることはよくご存知でしょう。自己啓発は自分の価値を高め将
来のキャッシュフローを高めてくれます。そして金融資産への投資は経
済的自立を実現し、社会に貢献するために必要です。これらはとても大
切ですが、何と言っても、毎月の給料の使い道を考えると一番、大きい
のが生活費です。
その生活費がムダだらけだと、自己啓発や金融資産に回すおカネも限られてしまいます。とに
かく生活はシンプルで健全なのが一番です。本当に必要なものを必要なだけ使って生活をする
のです。「あれも、これも」と欲望に駆られておカネを使っているとキリがありません。結局は華
美なバブリーな生活になってしまい、本当に大切なことにおカネが回らなくなってしまいます。大
切なことは「足るを知る - 知足」という考え方です。おカネを使わなくても十分に幸福感を味
わえることを若いうちから身につけておくことはとても大切なことです。
例えば霜降りのステーキも美味しいけれど、新鮮な野菜だって負けずに美味しい。豪華なクル
ージングで世界一周するのも良いが、ハイキングにでかけ花の咲き乱れる野原で寝転がって、
流れる雲を眺めているのも素敵だ。ブランド物のバッグを買うのも結構ですが、フォスターペアレ
ントになって世界の貧しい子どもたちに援助の手を差し伸べるのも満足感を味わえるものです。
ゆたかさ、幸福感、満足感などと使うお金の額とはあまり関係がないのです。高額の出費が悪
いというつもりはありません。ただ、そのような支出が本当に自分にとって意味があるのかどう
かは良く考えてみる必要があるでしょう。
要は自分が何に幸福感を感じるかということです。それが生活の基本であり、そこに人それぞ
れの品性が発露するのだと思います。私の考えるシンプルな生活のための四か条をご紹介しま
しょう。
① 値段で買い物をしない - 「安いから買う」ことをやめる
② 自分の価値観で買う - 「みんなが買っているから買う」ことをやめる
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③ 世の中のためになる良い企業の製品を買う - これが最大の「応援」です
④ できるだけ借金で買い物をしない - 必要なものは貯めたお金で買う
面白いことに、この四か条、株式の銘柄を選択するときにもそのまま当てはまります。結局、株
式の選択も我々が日常、買い物をするときの常識となんら変わるところはないということだと思
います。
特化型運用と自己責任
長期投資で一番大切なことは、投資家自らが資産全体のコントロール・センターとなり、コアとサテ
ライトを適切な比率で分けること。コアの資産配分については自分の財産額や収入の額と安定性、
個人の性格などを配慮することが重要ですが、特に大切なのはライフ・ステージです。自分の諸事
情に合った資産配分を決め、資産クラスごとに十分に分散されたインデックス・ファンドなどの投資
対象を選ぶ。その上でプラス・アルファを狙うサテライト・ポートフォリオを構築することです。このプ
ロセスは今日、世界の年金運用で用いられているプロセスとほぼ同じです。しかし、その歴史はそ
れほど長いものではありません。
いまではちょっと信じられないですが、アメリカの代表的機関投資家である年金基金も 1970 年代
の後半まで、そして日本では 1990 年代の中ごろまで、基金自らがコントロール・センターになるこ
とはまれでした。どのような運用だったかというと「バランス型」と呼ばれる運用で、採用をしている
運用機関にまとまった資金を「よろしく頼むよ」と委託して、運用機関は「任しといてください」という
わけで運用を請け負っていたのです。
バランス型運用機関はそれぞれの相場観で株式を増やしたり、減らしたりします。また、それぞ
れが良いと思う個別銘柄を売ったり、買ったりします。年金基金はこのようなマネジャーをたくさ
ん採用していたわけですが、これだと、資産全体のアセット・アロケーション(資産配分)はすべ
てのマネジャーの相場観の集合体ということになってしまいます。つまり、年金基金としてのポリ
シーが全然、全体のポートフォリオに反映されないのです。この問題を解決するためにコア・サ
テライト方式が採用されるようになったのです。その過程で各運用機関はその運用哲学と運用
手法を明確にすることが必要になりました。
バランス型全盛時代は、「どのような相場環境にもフレキシブルに対応します」と言うことが良い
ことだとされていたのですが、徐々に年金基金の需要が特化してきて、自分にあった運用を求
めるようになりました。その結果、運用機関サイドは「当社はこれこれの手法に専門化していま
す」と表明することが必要になりました。いわば運用がデパート型から専門店型に移ったので
す。各運用機関は「当社は大型成長株に特化しています」とか、「外国株が専門です」とか、「戦
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術的アセット・アロケーションが得意です」というように「専門性」を明確にし始めました。同時に
年金基金の運用機関の選択もそれぞれの専門性を組み合わせる形で行われるようになってき
ました。
「当社は相場の状況に合わせてスタイルを変更しつつ継続的に収益をあげます」という手法は、
言い換えれば、どこにも専門性がないというのと同じです。だいたい、そんな手法で継続的に成
功するのは難しいということはパフォーマンス評価が浸透するにつれて明確になってきたので
す。
この変化は特にアクティブ運用機関に大きな変化をもたらしました。コアを構成するインデックス
運用のパフォーマンスと比べて見劣りする運用機関は解約され、その資金が同じ運用手法でも
良いパフォーマンスを示しているところに移されることが頻繁に起こり始めたのです。こうして運
用競争が激化し、その結果、運用技術の高度化も進んでいったのです。
これから、このような変化が個人の資産運用においても現れるだろうと思います。個人投資家に
とって投資信託の選択は年金基金が運用機関を選択するのと同じです。どこかの販売会社が
投資家の事情と関係なく、「この投信、面白そうですよ」と言って持ってきた商品を買うのではな
く、自分のアセット・アロケーションを設計図として、各資産クラスにあった部品として、ある運用
手法に特化した投資信託を採用するようになるのです。さらに、その選択した投資信託が揺る
がない投資哲学と運用手法を持っていることが必要です。「どんな環境でもうまくやります」とい
うのは、うまく行ったとしても偶然以外の何ものでもありません。
この変化は投資家の自己責任を明確にすることにもなります。つまり、特定の投資哲学と投資
手法を選ぶ責任は自分にあるということです。いつの時代でも運用を失敗したダメージは自分
にくるのです。その意味では、最初から運用パフォーマンスの責任は自分以外にはありません。
そのような気づきが浸透していくことで、個人投資家の質的な向上が起こり、それが投信そのも
のの改善につながっていくのだと思います。
「微妙玄通」は、リラックス投資の要諦
老子の「道徳経」には以下のような記述があります。
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優れた君主は「微妙玄通」で、七つの性格を持っている。
① 万事に慎重で、冬の川を渡るようだ。
② 消極的で強国に囲まれた弱国のようだ。
③ 落ち着いて控え目でありながら、油断のないさまは、招かれた賓客のようだ。
④ 物事に執着しないことは、氷の溶けてゆくようだ。
⑤ 飾り気がないことは、原木のようだ。
⑥ 心の広さは、すべてを受け入れる谷そのもののようだ。
⑦ とらえどころがないことは、濁った水のようだ。
(道徳経、第十五章)
これを読んでいて思うのはまさにこれは資産運用の
心得に通じるものだということです。
微妙という言葉は、緻密で趣深いことを指します。さ
らに、「玄通」もまた、奥深いさまを表した言葉です。
つまり、「微妙玄通」の者とはすべてに精通した体得
者のことなのです。
資産運用では、君主はもちろん「あなた」自身です。「自分の将来は自分で支える」ための君主
の心得は「微妙玄通」が大切であるということです。では、上記の 7 項目はどのように資産運用
に生かせるでしょうか。
① 注意深く運用し、人気銘柄や投信に飛びつかない。
② 高い収益を狙わず、守りを中心とする。
③ 慢心、自信過剰にならず、欲張らない。
④ 間違えたときは誤りを認め、直ちに行動を修正する。
⑤ ポートフォリオはシンプルなものにする。
⑥ 長期的な視点でマーケット全体に投資を行う。
⑦ 日々のマーケットは、バケツの中に泥と水を入れてかき混ぜたようなものです。濁った水も
じっと静かにしていれば澄んでくる。
悠々とリラックスしていれば、大きな力が発揮されるのです。
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三つの「ム」を省こう
製造業ではムリ、ムラ、ムダを省くことが大切であると言われています。長期の資産運用でもこ
れはとても大切です。まず、ムリというのは「無理」ですから、まさに理が無いということです。言
い換えれば理論的に正しくないことをするということです。証券市場を支配している大きな法則
に反することをしても、たまにはうまくいくことがあってもそれは偶然です。長期的に見ればやは
り、理論的に正しい投資をした方が成功の確率が高いのです。
次がムラです。ムラというのは不安定さです。投資で言えばコントロールされていないリスクであ
ると言えるでしょう。リターンはコントロールできませんが、リスクはコントロールできます。その
手法が分散投資です。これらによってリスク・コントロールすることがムラの削減につながりま
す。
最後がムダ。これは投資に伴うコストです。証券の売買をする度に、証券会社に売買委託手数
料を払わねばなりません。コストが掛かってもちゃんとリターンが上がっていれば良いのです
が、ただ、むやみに売り買いするのは証券会社が喜ぶだけです。さらに投資信託は関係者が多
いのでコストに要注意です。コストはバケツの穴です。ムダを取り除くことは長期投資成功の秘
訣でもあります。
これらの三つの「ム」を最小限に抑えることが長期投資で成功する上で非常に重要なのです。
製造業で大切であるとされるものが、資産形成でも重要であるというのは非常に興味深いもの
があります。
製造業では最初にどのような商品を作りたいかというコンセプトを明確にして、それに合わせて
設計図を描き、素材と部品を組み合わせて製品が完成します。資産形成でも、ライフプランを明
確にして、自分にあったアセット・アロケーションを策定して、それに合わせて、債券、株式、投資
信託などの素材や部品を組み合わせてポートフォリオを構築します。このプロセスは、製造業と
変わるところはありません。つまり、大きな目的からだんだん各論に降りてゆくということです。
現実の世界では、証券会社や銀行などに勧められたものを買うという、部品からスタートする投
資が多いのです。「もうかりそう」という理由で積み上げたポートフォリオは三つの「ム」で一杯で
す。それでは人生を支えてくれる資産運用はできません。長期投資家にとって大切なのは、「ム
リ」、「ムダ」、「ムラ」を出来る限り省くこと、そして、大きな目的から始める「トップダウン」のアプ
ローチなのです。
5
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<モデルポートフォリオ:2015年11月末の運用状況>
トータルリターン
1ヵ月
積極型
4資産型 成長型
安定型
積極型
2資産型 成長型
安定型
1年
1.27
0.80
0.33
1.10
0.70
0.30
6.87
4.28
1.53
1.33
0.45
-0.61
単位:%
1万円ずつ積み立てた場合の
投資額に対する騰落率
リスク
5年
10年
(年率)
(年率)
15.41
12.08
8.67
15.55
12.85
10.05
10年
(年率)
4.59
4.31
3.80
5.84
5.28
4.46
16.84
11.94
7.50
19.03
14.03
9.61
1年
5年
10年
12万円
60万円
120万円
2.88
1.92
0.85
0.85
0.51
0.07
57.22
41.44
27.13
54.66
42.75
31.58
65.48
50.00
35.17
69.03
54.85
40.86
2000年1月
~
191万円
81.65
66.74
51.00
93.31
78.31
61.90
* 投資にかかるコストは控除していない。積み立ては、税引き前分配金再投資。ポートフォリオは毎月リバランスをしたものとする。
積み立ては計算月数分を運用したものとする。例えば1年の場合は2014年11月末に1万円投資資金を 積み立て始め、
2015年10月末の投資資金までとする(2015年11月末積み立て分は運用期間がないため含めていない)。
出所:イボットソン・アソシエイツ・ジャパンがMorningstar Directにより作成。MorningstarDirectについてのお問い合わせは
「投信まとなび」のお問い合わせメール( https://www.matonavi.jp/inquiry )にてイボットソン・アソシエイツ・ジャパンまで。
ポートフォリオの資産配分比率(外貨建て資産は円換算ベース)
4資産型
2資産型
■
国内債券:
外国株式:
外国債券:
国内株式:
NOMURAMSCI
Citi WGBI
TOPIX
BPI
KOKUSAI
(除く日本)
(総合)
積極型
成長型
安定型
積極型
成長型
安定型
40%
25%
10%
40%
25%
10%
10%
25%
40%
世界株式:
MSCI ACWI
(含む日本)
世界債券:
Citi WGBI
(含む日本)
80%
50%
20%
20%
50%
80%
4資産
国内株式:
TOPIX
10%
25%
40%
積極型
ポートフォリオは「インベストライフ」が参考の
ために考案した資産配分に基づき、
イボットソン・アソシエイツ・ジャパンがデータ
を算出しています。
特定の資産配分による投資の推奨を
行うものではありません。
「長期投資仲間」通信『インベストライフ」の
その他の記事はこちらからご覧ください。
http://www.investlife.jp/
成長型
安定型
成長型
安定型
外国株式:
MSCI KOKUSAI
国内債券:
NOMURA-BPI
(総合)
外国債券:
Citi WGBI
(除く日本)
■
2資産型
積極型
世界株式:
MSCI ACWI
(含む日本)
世界債券:
Citi WGBI
(含む日本)
Copyright ©2015 Ibbotson Associates Japan, Inc.
当資料は「インベストライフ」のために、イボットソン・アソシエイツ・ジャパンがデータを
算出、作成しています。特定の投資信託による投資の推奨を行うものではありません。
※ファンド名をクリックすると「投信まとなび」でそのファンドを見ることができます。
「長期投資仲間」通信『インベストライフ」の
その他の記事はこちらからご覧ください。
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<直販ファンド:2015年11月末の運用状況>
トータルリターン
運用会社名
ファンド名
リスク
1万円ずつ積み立てた場合の
投資額に対する騰落率
1ヵ月
1年
5年
(年率)
10年
(年率)
10年
(年率)
1年
12万円
5年
10年
60万円 120万円
1万円ずつ積み立てた場合の
月末資産額
2000年1月~
191万円
1年
12万円
5年
10年
60万円 120万円
2000年1月~
191万円
2015年11月末
純資産
(億円)
基準価額
(円)
2015年
8月末
2015年
11月中
(前回掲載時) 推計資金
基準価額
純流入額
(円)
(億円)
さわかみ投信
さわかみファンド
2.45
10.05
13.04
2.74
20.19
2.78
56.80
56.67
83.83
12.33
94.08
188.01
334.57
3,040.7
22,172
21,102
-12.43
セゾン投信
セゾン・バンガード・
グローバルバランスファンド
0.30
0.51
12.01
―
―
0.18
41.60
―
―
12.02
84.96
―
―
1,085.7
13,556
13,224
15.11
セゾン投信
セゾン
資産形成の達人ファンド
2.18
8.80
19.91
―
―
3.84
78.14
―
―
12.46
106.88
―
―
303.5
17,191
16,381
6.82
レオス·
キャピタルワークス
ひふみ投信
5.84
23.17
24.45
―
―
10.78
93.95
―
―
13.29
116.37
―
―
280.3
34,059
32,551
7.29
鎌倉投信
結い 2101
3.04
8.84
11.87
―
―
3.73
36.27
―
―
12.45
81.76
―
―
210.9
16,617
16,122
3.80
ありがとう投信
ありがとうファンド
1.96
7.12
13.66
3.07
17.33
2.33
53.30
58.46
―
12.28
91.98
190.15
―
117.8
16,347
15,772
-0.55
コモンズ投信
コモンズ30ファンド
3.09
10.85
14.15
―
―
4.26
57.37
―
―
12.51
94.42
―
―
76.6
23,811
22,275
0.52
コモンズ投信
ザ・2020ビジョン
3.40
14.64
―
―
―
6.56
―
―
―
12.79
―
―
―
55.4
13,759
12,946
0.16
クローバー・アセット コドモ ファンド
3.56
15.07
―
―
―
6.60
―
―
―
12.79
―
―
―
44.6
14,199
13,535
0.13
ユニオン投信
0.67
-1.66
9.83
―
―
-1.33
36.45
―
―
11.84
81.87
―
―
38.1
21,368
20,818
0.17
クローバー・アセット 浪花おふくろファンド
3.88
11.66
13.37
―
―
4.93
56.09
―
―
12.59
93.65
―
―
9.8
16,944
16,175
0.03
クローバー・アセット らくちんファンド
3.00
9.91
12.02
―
―
3.54
49.70
―
―
12.42
89.82
―
―
7.9
14,789
14,158
0.00
クローバー・アセット かいたくファンド
2.66
7.91
14.19
―
―
3.65
55.94
―
―
12.44
93.56
―
―
6.2
17,280
16,443
0.03
ユニオンファンド
*積み立ては税引き前分配金再投資、計算月数分を運用したものとする。例えば1年の場合は2014年11月末に1万円で 積み立てを開始し、2015年10月末投資分までの11月末における運用成果とする(11月の積み立て額は入れない)。
出所:MorningstarDirectのデータを用いてイボットソン・アソシエイツ・ジャパンが作成。MorningstarDirectについてのお問い合わせは「投信まとなび」のお問い合わせメール( https://www.matonavi.jp/inquiry )にてお気軽にご送信ください。
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