残業代ゼロ法制開始のゴング

SMGレポート 2701-1
【経営】有事のルール-:「残業代ゼロ法制開始のゴング」[迫りくる法改正の荒波-11]
●当局が有識者に委ね、構想されたはずの労働時間に関する「三位一体改革プ
ラン」は、2号車(長時間労働による心身不調者増や生産性低下防止策としての
月間残業上限80H規制)を切り離し、1号車(新しい時代状況に応じた新しい労働
時間制度=1075万年収基準による週40時間規制外し)と、かなり短めに改装し
た3号車(いわゆる124日規制=週休2日×52週+有給休暇20日=から有給
分を除いた104日基準)の2両連結に都合よく編成替えの上、慌しく見切り発車の
ベル(本年1月8日以降10日余りで、マスコミ発表された関連記事は少なくとも3
回以上)を鳴り響かせ始めている---●度重なるメディア報道により世間は、これ
ら一連の動きに対し、当局がなりふり構わず先を急ぎ、強引な見切り発車に踏み
切ったかのような印象を受けてしまいがちですが、実の処これは、財界が核とな
り、十数年の歳月を掛け用意周到に進めてきた「労働時間法制改定シナリオ」の
最終ステージ開始の合図であり、その底流には「パレートの法則=20:80の法
則」を墨守しようとする強固な意志が、脈々と受け継がれているのです。●判り易
い例で云えば、新規採用者100名中、幹部候補生は20名で専門職が30名、残
り50名の位置付けはいつでも取替えの効く流動的要員、と云うのがその変わらぬ
姿勢であり、当の法則を具体的に実現してゆく為の第一歩だった、とされる昭和6
0年成立の労働者派遣法に至っては、30年後の今次国会においても、更なる要
件緩和を議題として議論される予定となっている程なのです。この様な、驚くほど
息の長い戦略は、労働側にはないしぶとさの源泉であり、現政権が、彼らの言い
分を丸呑みにして実施しようとしているこの度の構造改革=週40時間労働規制
の適用除外措置=は正に、改正以来、既に18年目に突入した週40時間労働規
制に対する財界の、根強い改定願望の核心部分に他なりません。●「残業代ゼロ
法制」そのものと云って良い、この40時間規制外しは、未だ国会審議すらされて
いないにも拘わらず、新しい成果主義として「高度プロフェッショナル労働制」(厚
労省)という尤もらしい役人用語まで付され、恰も既成事実であるかの様に独り歩
きを始めており、これに便乗する御用学者や評論家も少なくないのが現状です。
処で、1075万円と云う中途半端な年収基準は、一体どこから出されて来たので
しょうか?●「期間契約」に関する定めが置かれている労働基準法第14条では、
医師等の国家資格を有する者を除き、SEなど高度の専門知識と一定の経験を持
つ者の場合、5年間の有期労働契約を可とする例外措置(第14条第1項第1号)
の適用を受けるには、一定の年収要件=1075万円=も満たす必要がある(厚労
省告示第356号)とされており、今回の件に付いても、これを援用する運びとなっ
た様です。因みに、金額自体の根拠は「民間技術系課長職上位25%の値」と云う
説明が付されていますが、厚労省告示第356号は、10年以上前の平成15年改定
時のものであり、それをそのまま使い回すのだとすれば、随分と杜撰な話ではあり
ます。この年収基準に加え、対象となる労働者の合意と、一定時間のインターバ
ル休憩か1ヶ月間の在社時間の上限設定、年104日休日の何れかとの抱き合わせ
要件を適用し、長時間労働抑制を担保する旨アナウンスされていますが、これら
は、何れも欧米の仕組みを丸写しにしたプランに過ぎません。●スポンサー=財
界=の突き上げと強面外資の迫力に圧され、前のめりに進められる一連の法整
備。そして、蚊帳の外に置き去りにされるのは、いつもながら「中小企業」と「非正
規社員」という定番の筋書き-。事柄の本質を見誤らない為には、この構図をしっ
かり記憶に留めて置く必要がありそうです。 -以下、次号-