第 67回 日本衛生動物学会 東日本支部大会 プログラム・口演要旨 2015 会期 会場 大 会 長 大会事務局 企画協力 運営協力 2015 年 10 月 23 日(金) TKP 田町カンファレンスセンター 元木 貢 アペックス産業株式会社 日本有害生物研究会 (公社)東京都ペストコントロール協会技術委員会 スケジュール 9:30 10:25 10:30 11:42 13:00 13:40 15:10 受付開始 開会 一般口演 幹事会・昼食 総会 一般口演 シンポジウム 17:10 17:30 閉会 懇親会 会場のご案内 JR 山手線・京浜東北線「田町駅」三田口(西口)徒歩 3 分 都営地下鉄浅草線・三田線「三田駅」A3 出口 徒歩 3 分 受付:2F 会場入り口 シンポジウム,一般口演,総会:2F ホール 2B 幹事会:B1F: カンファレンスルーム B1B 懇親会:B1F:カンファレンスルーム B1A 【参加者・口演者へのお願い】 【受付】 1.受付は2階会場の入り口にて9時 30 分から開始します. 2.名誉会員の先生方,および事前登録がお済みの方は「納入者受付」へ, それ以外の方は「当日受付」へお越しください.大会参加費は 2,000 円, 懇親会費は 5,000 円(10 月 10 日以降は 6,000 円). 懇親会参加者には名札をお渡しします. 【口演用スライド】 1.口演のファイルはパワーポイント(Windows)で作成し,電子メール ([email protected])に添付で,10 月 19 日までに送信くだ さい.事務局では 20MB 程度まで受信可能です.大容量の場合は CD-R でお送りください. 2.当日の差し替えは CD-R のみとし,ご自身の責任において行っていた だきます. 3.動画再生はウインドウズメディアプレーヤーによります.それ以外のソ フトを使用の場合はご自分のPCをお使いください. 4.口演中のスライド進行はご自身でお願いいたします. 5.送付いただいたCDは当日受付で返却いたします.お受け取りがない場 合は事務局で処分いたします. 6.パソコン上のファイルは事務局が責任を持って消去いたします. 【口演時間】 1.口演時間は 10 分(1 鈴 8 分,2鈴 10 分),討論 2 分の合計 12 分(3 鈴)です.時間厳守をお願いいたします. 2.次演者の方は早めに次演者席にお付きください. 【幹事会】 幹事会を 12 時 00 分より地下1階 B 1Bにて行います.幹事の皆さまに は昼食を準備しておりますので.一般口演終了後お集まりください. 【昼食】 田町駅周辺の飲食店をご利用ください.総会開始時刻(13:00)までには会場 にお戻りください. 1 プログラム 09:30 受付開始 10:25 開会 【一般口演】 座長 沢辺京子(感染研・昆虫医科学部) <10:30-10:42> 1. 東京都における平成 26 年度感染症媒介蚊サーベイランス結果について ○高橋 久美子,井口 智義,田部井 由紀子,辻 麻美,市川 めぐみ, 石上 武,楠 くみ子,武藤 千恵子,矢野 一成,灘岡 陽子,鈴木 俊也, 保坂 三継,栗田 雅行 (東京都健康安全研究センター) <10:42-10:54> 2. 石川県能登半島における疾病媒介蚊の発生状況調査,2013~14 年の成績 ○渡辺 護,沢辺 京子(感染研・昆虫医科学部) <10:54-11:06> 3. 千葉県千葉市の住宅街におけるヒトスジシマカの季節消長と効率的な モニタリング方法の検討 ○木村 悟朗,糸山 明日香,田中 和之, 谷川 力 (イカリ消毒㈱・技術研 究所) 座長 平林公男(信州大・学術研究院理工学域) <11:06-11:18> 4. 都市公園等における人おとり法による蚊生息調査, 第 2 報-2005 年と の比較- 中野 敬一 (東京都港区) <11:18-11:30> 5. 市街地におけるヒトスジシマカとオオクロヤブカ mark-release-recapture 実験 ○津田 良夫, 前川 芳秀, 糸川 健太郎, 小川 浩平 (感染研・昆虫医科 学部) 2 <11:30-11:42> 6. 環境快適化を目指した媒介蚊対策への取り組み ○沢辺 京子 1), 津田 良夫 1), 前川 芳秀 1), 葛西 真治 1), 皆川 恵子 2), 數間 享 2), 山内健生 3), 芦田 顕彦 4), 兼信 定夫 4) (1)国立感染症研究所, 2) 日本環境衛生センター, 3)兵庫県立大学自然・環境科学研究所, 4)岡山県 保健福祉部) 11:42~13:00 昼食,幹事会「B1F: カンファレンスルーム B1B」 13:00~13:35 総会 座長 木村 悟朗(イカリ消毒㈱) 【一般口演】 <13:40-13:52> 7. 大阪におけるシラミ媒介性細菌 Bartonella quintana の疫学研究 ○佐々木 年則 1),久保田 眞由美 2),澤邉 京子 1), 平山 幸雄 3), 鍬田 龍星 1),伊澤 晴彦 1),針原 重義 3), 柴山 恵吾 2), 小林 睦生 1) (1)感染研・昆虫医科学部, 2)感染研・細菌第 2 部,3)大阪社会医療センタ ー) <13:52-14:04> 8. 日本本土に定着したと考えられるチャオビゴキブリ Supella longipalpa (Fabricius) (Blattodea : Blattellidae), について ○小松 謙之 1),Hong-Kean Ooi2),内田 明彦 3)(1)㈱シー・アイ・シー・ 研究開発,2)麻布大・寄生虫,3)ヤマザキ学園大・寄生虫) <14:04-14:16> 9. モリチャバネゴキブリの分布北限の調査記録 ○富岡 康浩1), 佐竹 宏康2), 谷川 力1) (1)イカリ消毒㈱・技術研究 所,2)イカリ消毒㈱・事業開発部) 座長 田原雄一郎(㈱フジ環境サービス) <14:16-14:28> 10. 新潟県柏崎市鵜川流域におけるブユの生息実態調査 ○小俣 立史 1), 高橋 弘良 1),阿部 哲也 2), 上迫 正人 2), 平林 公男 3) (1)柏崎市・環境政策課,2)㈱NSS,3)信州大・学術研究院) 3 <14:28-14:40> 11. 千葉県で採集されたニクバエの新属新種 ○倉橋 弘 1),柿沼 進2)(1)感染研・昆虫医科学部,2)双翅研・山口分 室) <14:40-14:52> 【情報提供】 佐々学生誕百年記念事業に向けて ○上村 清(佐々学生誕百年記念事業実行委員会) <15:10-17:10> 【シンポジウム】 座長 元木 貢(アペックス産業㈱) 衛生動物防除の最前線 -PCO が抱える現下の問題点- S1.建築物衛生における IPM 技術の普及と問題点 谷川 力 S2.感染症対策をどう展開するか 小林 睦生 S3.PCO 技術者のレベルアップをどう計るか 田原 雄一郎 S4.PCO 業界と衛生動物学関連学会とその研究者達はどう連携するか ① 学会等の研究者側から 平林 公男 S5.PCO 業界と衛生動物学関連学会とその研究者達はどう連携するか ② PCO 側から 元木 貢 <17:30-19:30> 【懇親会】 4 第 67 回日本衛生動物学会東日本支部大会 シンポジウム 衛生動物防除の最前線 -PCO が抱える現下の問題点- Front line of vector and nuisance control -The recent problems pest control operators hold- 有害動物問題の適切かつ効果的な対策は,基礎研究によって明らかにされ た対象動物の生物学的特性を十分に理解することにより対策が可能になる. そして,有害動物防除の最前線,すなわち衛生動物が発生した現場において 害虫獣の防除を実践する技術者集団が PCO である. 1968 年の日本ペストコントロール協会の設立総会において,衛生動物学 会の創設者メンバーの佐々学先生は, 「PCO と害虫」という招待基調講演を 行い,PCO 業界にエールを送られた.それから 47 年の歳月が流れ,PCO 協会は公益社団法人となり,会員数も 914 社に増え,建築物害虫の防除に 加えて,日本各地で発生した高病原性鳥インフルエンザの消毒作業をはじめ, 東日本大震災に伴うハエ駆除作業,デング熱媒介蚊の駆除作業などの防疫活 動に貢献することで,わが国の公衆衛生行政の一翼を担う業界に成長しつつ ある.さらに,1986 年には, 「PCO のための科学的知見と技術体系の創生」 を目的として,また PCO 技術者と衛生動物学研究者を繋ぐ場として,日本 ペストロジー学会が誕生した. つい先ごろまでの PCO による衛生動物防除の実態は,定期的に殺虫剤を 散布することが主流だった.しかし,2008 年,建築物衛生法に防除理念と して IPM(総合的有害生物管理)が導入されたことにより,有害生物防除 現場においては,精度の高い調査・同定の技術,総合的な対策,維持管理水 準の設定,効果判定等が求められるようになった.その結果,PCO の防除 技術のレベルは,相応に向上しつつある.しかしながら,行政指導的に計ら れた IPM の導入,伝染病予防法の廃止と感染症法の制定に伴って,今,さ まざまな問題点が浮き彫りになってきた. 当シンポジウムでは, 「PCO が抱える現下の問題点」として 4 つの課題を 提示し,各課題に対して話題提供と意見交換をしていただく. 1.建築物衛生における IPM 技術の普及と問題点 2.感染症対策をどう展開するか 小林 睦生 5 谷川 力 3.PCO 技術者のレベルアップをどう計るか 田原 雄一郎 4.PCO 業界と衛生動物学関連学会とその研究者達はどう連携するか ① 学会等の研究者側から 平林 公男 ② PCO 側から 元木 貢 当シンポジウムの企画は,今回と過去 2 年間の衛生動物学会東日本支部 大会が,PCO 関係者によって運営された実績の経緯も踏まえて,PCO 活動 の問題にスポットをあてた.当シンポジウムを活発な意見交換の場として, これからの衛生動物防除の理念と技術の進展のために,有害動物の研究者に よる基礎研究と PCO による応用技術との連携のさらなる強化に資すること を期待したい. 6 建築物衛生における IPM 技術の普及と問題点. 谷川 力((公社)日本ペストコントロール協会,イカリ消毒㈱) The spread and problems of the IPM technique about the hygiene of the building. Tanikawa, T. S1. 1970 年に建築物衛生法(建築物における衛生的環境の確保に関する法律) が制定され, ねずみ・昆虫等の防除に関する維持管理要領や維持管理基準が 定められた.その後, 建築物の構造や設備, 利用状況などが変化したことか ら, 2002 年に建築物衛生法が改正された. 改正前は殺虫剤の乱用や不適切 な使用が認められたことから, ねずみ等の防除において, 生息状況調査や 薬剤使用上の注意など IPM の考え方が加えられた.同年, 日本ペストコン トロール協会は IPM 宣言を行った.現在では当たり前となった IPM はここ から急速に普及した. これまでの建築物衛生法におけるねずみ等は, ネズミ類, ゴキブリ類, ハエ類, カ類などが中心であったが, 現在は従来の媒介動物に加え, 有害 動物および不快動物も含まれている (たとえば, コバエ類など). 近年, IPM に関する解説書がいくつか出版され, PCO, 建築物の所有者, 管理者および利用者にも IPM の概念が普及している.20~30 年前に比べる と,衛生的環境は格段と良くなっていることは事実である.しかしなら, 殺 虫剤散布における告示, 維持管理水準の維持, 管理権原者の無関心, そし て予算不足など問題点も多い. 7 感染症対策をどう展開するか. 小林 睦生(国立感染症研究所). How to participate and construct the vector control system in the municipality of Japan. Kobayashi, M. S2. PCO が全国的に組織され,47 の各都道府県で各協会が独立した活動を行 っている.日本ペストコントロール協会が主催する独自のペストコントロー ル技能師の養成,1級技術者の更新時講習などが毎年全国で開催され,多彩 な講師陣が講習会の講義を担当しており,新たな技術や問題点の認識など 種々の知識の普及に貢献していると考えられる.今までに,京都府,茨城県, 埼玉県,宮崎県などにおける高病原性鳥インフルエンザの流行時の予防に関 する消毒業務,2010 年の宮崎県の口蹄疫流行時の消毒業務において,各県 協会が人員を割いて 24 時間体制で消毒を担当したことは,記憶に新しい. しかし,これらの貢献は,伝染病予防法の時代には,各自治体の感染症の衛 生班の構成員である防除吏員が担当する業務であり,自治体にこのような体 制が存在しない現在,PCO に業務を依頼せざるを得ない状況になっている. 2014 年に約 70 年ぶりにデング熱の国内感染症例が東京都を中心に発生 し,生活レベルが当時と比べて格段に改善されているにも関わらず日本で 162 名のデング熱患者が発生した.これは,媒介蚊の生息密度が高く,輸入 症例を含めて多数のデング熱感染者が流行国から旅行者として入国したこ と,夏季の平均気温が異常に高いことなどと関係すると考えられる. 全国の県協会からの情報では,今回のデング熱の発生に関係して,自治体 から種々の相談を受けているとの話を伺った.この場合,担当する自治体職 員に,デング熱,媒介蚊の生態,防除に関する知識がどれほどあるのか疑問 で,どのように防除対策を行うか明確な方向性が示されない可能性が考えら れる.このような状況下で,PCO の県協会が自治体からの依頼を受け身の 姿勢で待つよりは,協会として積極的に自治体側へアピールする必要性を強 く感じている.(公社)愛知県ペストコントロール協会は,愛知県下の雨水 マスの調査を行い,水が溜まっているマスの比率,幼虫が発生しているマス の比率などを地区ごとに調査し,結果をまとめて報告した.このような地道 な調査が,昨年突発したデング熱の流行における媒介蚊対策に何等かの貢献 をすると考えている.県協会を構成する正会員および賛助会員の各会社の担 当者は,感染症に関する基礎的な知識をより習得し,自治体職員と対等に対 策立案に関して議論できるようになることが強く望まれる. 8 S3. PCO 技術者のレベルアップをどう図るか. 田原 雄一郎(㈱フジ環境サービス). How to improve skill and knowledges as pest control specialists. Tabaru, Y. PCO 企業が求める「技術者」には即戦力を期待して,農学系大学で害虫 学を専攻した卒業生や生命科学を専攻した卒業生が歓迎されている.国内の 8 大学(国立 5,私立 3)のそれらの講座に質問表を配り卒業生の就職先を 調査した結果,PCO 企業を就職先に選んだことがあると答えた大学が 7 校 に見られた. 現在,高校卒業生の 60%以上が大学(短大)に進学することから大学卒 (学士)が選ばれた人ではなくなり,学力不足で卒業する人も看過できない. 学生や院生のほぼ半数が女性であるという.卒業生の入社後のデスク研修や OJT 研修は必修である.我々は新入社員教育, OJT 教育,短期集中教育な どを年間スケジュールに組み込んでいる.最近の若者はスマートフォンとイ ンターネットでの情報入手が主体で,新聞・雑誌・専門書などの活字離れが 著しい.技術系従業員はルーチンの業務に追われ研究に時間を割くことは難 しい.研究課題の発掘,実験計画,データー解析,学会発表さらに論文化な どは一部のベテラン社員が時間を見て指導しているのが現状である.彼ら若 い社員には日本ペストロジー学会での発表あるいは論文執筆は大きな刺激 となっている.しかし,自ら進んで学会員になる人は限られている.学会活 動は一部の PCO 企業に偏っているのが現状である.女性技術職では結婚, 妊娠,子育て退職が絶えない.一部にはパート職での復帰が叶い,子育てと 技術職の両立で健闘している. 9 PCO 業界と衛生動物学関連学会とその研究者達はどう連携するの か.学会等の研究者側から. 平林 公男(信州大学学術研究院理工学域).How should PCO act in cooperation with The Japanese Academic Society and researchers? From the side of the university education. Hirabayashi,K. S4. 我が国の産業社会は,今,急激な変化の最中にある.人口の減少,高齢化, グローバル化・・・.これからの PCO 業界を支える宝ともいえる「若手 PCO 人材」とは,どのような要件が求められていくのか.業界として今後, どのような人材を求めていけばよいのか,どのような人材を育てていけばよ いのか. 「産学人材育成パートナーシップ」の報告書などを元に,報告する. 経済のグローバル化に伴う欧米やアジア等との厳しい産業競争,急速な技術 進歩などにより,我が国の産業を支える人材には,より深い「専門知識」, その迅速な「応用能力」,国籍や文化など多様な人々の中で力を発揮するた めの「国際感覚」等,日々求められる能力は高度化している.こうした中で, 大学における人材育成に関わる役割も日に日に大きくなってきており,育成 の内容もここ数年,大きく変化してきている.PCO 業界に限らず,どんな 業界・分野でも共通して求められる人材の要素は,以下の 4 点にまとめら れそうである(「産学人材育成パートナーシップ」報告より).1.それぞれ の分野における基礎・専門的な知識をもっている人材,2.グローバルな感 覚をもっている人材,3.マネジメント力のある人材,4.社会人基礎力を しっかりともっている人材(具体的には,コミュニケーション能力や,課題 発見・解決力など).特に 4 番目の「社会人基礎力」としては,具体的に以 下の 3 点を挙げている.(1)前に踏み出す力(具体的には「主体性」, 「働きか け力」, 「実行力」など),(2)考え抜く力(具体的には「課題発見力」, 「計画 力」, 「想像力」など),(3)チームで働く力(具体的には「発信力」, 「傾聴力」, 「柔軟性」,「状況把握」,「規律性」,「ストレスコントロール力」など). 10 PCO 業界と衛生動物学関連学会とその研究者達はどう連携するか S5. (PCO 側から). 元木 貢(アペックス産業㈱). How to collaborate with pest control industry and medical entomologist: from pest control industry side. Motoki, M. 国の研究機関の一翼を担う日本環境衛生センターは,1971 年に防除技術 者試験を実施,1986 年にペストコントロール技術者養成講座に形を変え, 実習とレポート作成を含む 16 単元の通信教育制度となり,これまでに 1,609 人が修了した.3 年ごとの更新時講習のテキスト作成と講習も実施している. 日本環境衛生センターの田中生男理事(当時)には東京都ペストコントロ ール協会の技術顧問となっていただき,ゴキブリの捕獲指数と感じ方の調査 を行い,ゴキブリ防除指針に盛り込んだ.これが日本ペストコントロール協 会の IPM 宣言,厚生労働省の科学研究「建築物におけるねずみ・害虫等の 対策に関する研究」,建築物衛生法の施行規則の改正,建築物環境衛生維持 管理要領・マニュアルの通知に盛り込まれ,建築物 IPM の幕開けとなった. 日本ペストコントロール協会では,研究者の協力を得て,「従事者研修用 テキスト」,従事者研修会指導者講習会の開催,テキストやスライド作成, 「建築物におけるねずみ・昆虫等防除技術基準」 「建築物における IPM 仕様 書 ねずみ・害虫等の調査と防除基準」「PCO のための IPM~害虫別 施 設別 IPM マニュアル」 「PCO のためのダニ対策の手引き」 「殺虫剤安全使用 ガイドライン」「第 2 版 感染症対策マニュアル」「PCO のためのウェスト ナイル熱媒介蚊対策マニュアル」 「PCO のための高病原性鳥インフルエンザ マニュアル」など数々のマニュアルを取り纏めた. 協会の運営に関しては,社団法人の見直しにより理事の半数に外部理事を 導入することになり,衛生動物学会の先生方に理事や監事に就任していただ き,中立的な立場で貴重なご意見をいただいた.また,ペストコントロール 技術者の資格認証委員会やペストコントロール技能師において,委員長,委 員に就任していただき,合否判定,資格認証を行っていただいている. 研究面では,厚生労働省の科学研究「建築物におけるねずみ・害虫等の対 策に関する研究」において,PCO の現場においてゴキブリや飛翔昆虫のト ラップによる調査を行い,当該場所で使用している方に生息状況に関する感 じ方のアンケートを行い,維持管理水準(目標水準)設定の根拠とした.ダ ニ問題研究会,日産財団,各種ガイドラインでも現場の立場で協力してきた. 近年では,衛生動物関連の学部や大学院卒業生が PCO 業界に入社し学会 会員になり,学会発表や学会誌への投稿,研究者との共同研究が増え,PCO 技術者の伸長が目覚ましい. 11 今後は,これまでの連携に加えて,デング熱などの昆虫媒介性感染症の対 策において,研究者と実務実行部隊としての PCO との協働により,行政の 後押しをするとともに,協会活動にもご協力いただき,退職後も長く業界活 動を通じて,これまでの研究の成果を社会に還元していただくよう期待した い. 12 1. 東京都における平成 26 年度感染症媒介蚊サーベイランス結果について. ○高橋 久美子,井口 智義,田部井 由紀子,辻 麻美,市川 めぐみ, 石上 武,楠 くみ子,武藤 千恵子,矢野 一成,灘岡 陽子,鈴木 俊也, 保坂 三継,栗田 雅行 (東京都健康安全研究センター). The surveillance result of disease-transmitting mosquites in Tokyo (2014). ○Takahashi, K., Iguchi, T., Tabei, Y., Tsuji, A., Ichikawa, M., Ishikami, T., Kusunoki, K., Yano, K., Nadaoka, Y., Suzuki, T., Hosaka, M. and Kurita. M. 日本では,日本脳炎などの蚊が媒介する感染症の発生は少なくなっている が,海外ではこれら感染症の流行はいまだ継続している.一方,東京都には, 海外からの飛行機や船が利用する大型の空港や港があることから,人や物資 などを介し,蚊が媒介する感染症の侵入が懸念されている.実際,東京都が 実施している感染症発生動向調査において,毎年,海外からの帰国者より, デング熱やマラリアなどの感染例の届出がある.このような状況を踏まえ, 東京都では,平成 16 年度より,感染症媒介蚊サーベイランスを実施してい る.今回は,平成 26 年度の蚊の捕集状況について報告する. 東京都内にある都有施設 16 箇所において,6 月から 9 月までは月 2 回, 10 月は月 1 回,計 9 回の調査を実施した.1 施設に 2 台のライトトラップ(ド ライアイスを併用)を用い,午後 3 時から 4 時までの間に設置し,翌日の午 前 9 時から 10 時までの間に回収した. 平成 26 年度は,2,403 匹,12 種(アカイエカ群,ヒトスジシマカ,コガ タアカイエカ,ヤマトヤブカ,オオクロヤブカ,ハマダラナガスネカ,キン パラナガハシカ,カラツイエカ,コガタクロウスカ,シロカタヤブカ,フタ クロホシチビカ,トラフカクイカ)の蚊を捕集した(ただし,状態が悪く, シマカの一種までしか同定できなかった個体 35 匹と同定が不能な個体 6 匹 もあった.).また,これまでと同様にネッタイシマカは 26 年度も確認され なかった.捕集した蚊の 94.8%がヒトスジシマカ(75.9%)とアカイエカ群 (14.4%) で あ っ た . 捕 集 し た 蚊 の 性 別 は , 雄 が 18.4%(441 匹 ) , 雌 が 81.6%(1,962 匹)であり,補集した雄の大半がヒトスジシマカ(417 匹)であ った.捕集した 12 匹のアカイエカ群の雄について外部生殖器による同定を 行った結果,12 匹すべてアカイエカであり,チカイエカ,ネッタイイエカ は確認されなかった. 13 石川県能登半島における疾病媒介蚊の発生状況調査,2013~14 年 2. の成績. ○渡辺 護,沢辺 京子(感染研・昆虫医科学部). Survey on vector mosquitoes at Noto peninsula in Ishikawa prefecture in 2013 and 2014. ○Watanabe, M. and Sawabe, K. 能登半島は日本海に突き出て,渡り鳥や渡り蝶の中継地点になっている ことが知られるともに,迷鳥や迷昆虫が採集されている.この半島における 衛生動物の調査はマダニ類については及川ら(2014)によって比較的良く 調べられているが,蚊の調査は断片的な調査しか見当たらないと思われる. 演者らは能登半島における蚊の発生状況を明らかにすることを目的に調査 を開始した.とくに,長距離移動が考えられるコガタアカイエカの季節的消 長を把握することに重点を置いた. 調査地と調査方法:捕集は輪島市下山町・小池町の三蛇山北斜面の海岸絶壁 上の水田(標高約 30m)から標高約 300m の水田地帯を調査範囲とした. 捕集には豆電球を外した CDC トラップにドライアイス 1kg を誘引源として 用いた.2013 年は 5 月~9 月,2014 年は 5 月~10 月の毎月 20 日前後に, 12 台を水田付近の立ち木などに 15 時頃から翌朝 8 時頃まで吊るした.調査 結果:2 年間で 12 種類 809 個体の蚊が捕集された.最も多数が捕集された のはコガタアカイエカで全体の 60.2%,次いでトウゴウヤブカの 12%,シ ナハマダラカ 11%,ヒトスジシマカ 7.2%などであった.コガタアカイエカ は両年とも 5 月から捕集され,2013 年は 6 月に最も多く捕集されたが,2014 年は 8 月に最も多く捕集された. 14 千葉県千葉市の住宅街におけるヒトスジシマカの季節消長と効率 的なモニタリング方法の検討. ○木村 悟朗, 糸山 明日香, 田中 和之, 谷川 力(イカリ消毒株 式会社 技術研究所). Study on seasonal abundance of Aedes albopictus (Skuse) and an efficient method for population monitoring in residential district in Chiba City, Chiba Prefecture. ○Kimura, G., Itoyama, A., Tanaka, K. and Tanikawa, T. 3. 2014 年, デング熱の国内感染症例が相次いだ.現在, 平常時のヒトスジ シマカ対策として, 定期的な発生状況調査 (定点モニタリング) が重要と なっており, その調査方法は 8 分間人囮法が推奨されている. 我々は, 千 葉県千葉市の住宅街におけるヒトスジシマカの発生状況を明らかにするた めに 8 分間人囮法で調査し, 捕獲数・頻度と人囮時間の長さとの関係につ いて検討した. 調査は 2015 年 4 月 1 日から開始し, 雨天と土日祝日を除い た毎朝 9:00 に行っている. 捕虫網は 2 つ使用し, 開始から 5 分後に新しい ものと交換し, その後 8 分まで行った. 調査は現在も継続中であるが, 2015 年 9 月 11 日までの延べ調査日数 (以下, 調査日とする) は 90 日であ り, そのうち捕獲が認められた調査日は 42 日であった. この期間中のヒト スジシマカの総捕獲は 111 個体であった. ヒトスジシマカは 2015 年 5 月 15 日に初めて捕獲され, 2015 年 8 月 31 日に最大値 (9 個体/8 分) に達し た. 開始から 5 分までに捕獲されたヒトスジシマカの総個体数は 93 個体で あり, 総捕獲数の 83.8%を占めた. また, ヒトスジシマカが捕獲された調 査日 42 日間における開始から 5 分までと, 5 分から 8 分までの 1 分あたり の平均捕獲数は, それぞれ 0.42 個体/分と 0.14 個体/分であった. 開始から 5 分までに捕獲された調査日は 37 日であり, 開始から 5 分までのみと, 5 分から 8 分までのみに捕獲された調査日は, それぞれ 26 日と 5 日であった. 本試験の結果から, ヒトスジシマカは 5 分以内に多数飛来し, 5 分以内に飛 来しなければ 8 分以内に飛来する可能性も低いことが明らかとなった. 15 都市公園等における人おとり法による蚊生息調査.第 2 報-2005 年 との比較-. 中野 敬一 (東京都港区). Surveillance study of mosquitoes in urban garden, by human bait method second report comparison with 2005. Nakano, K. 4. 演者は,2005 年に東京都港区の 8 箇所の公園等で人おとり法による蚊の 生息調査を実施し,本学会第 57 回東日本支部大会で発表した.捕獲結果は 10 分間に 2~185 匹であり,100 匹を超える場所が 5 箇所あった.2014 年 の夏は,東京で 70 年ぶりにデング熱が発生して問題になった.港区も発症 者の行動範囲にあった公園等で調査が行われた.その時の捕獲結果は数匹の レベルであり,著しく捕獲数が減少している印象を受けた. 2015 年の 6~9 月に,2005 年に調査を行った公園等の内 7 箇所(3 公園, 2 緑地,2 霊園)で捕獲数を比較した.方法は前回の調査とほぼ同様である が,頻度を 6 月から毎月 2 回とした.調査時間は 10 分間である.長袖長ズ ボンを着用し,調査機材携帯用のデイパックを身近に置き,人に集まった蚊 成虫を捕虫網(直径 30cm,長さ 70cm,ナイロン製)で捕獲した.調査地 は樹木に覆われたやや日陰になっている場所である.調査は午後 0 時台か ら開始した. 7 箇所を一定の順番で巡回し 5 時台までに調査を終了したため, 場所によって時間帯は異なった.また,調査時の気温と湿度を測定した.捕 獲された種類はほとんどヒトスジシマカ Aedes albopictus であったが,捕 獲数が多くなると破損し種類や雌雄の識別ができない場合もあった.しかし, 2005 年と比較すると,時期により全く捕獲されない,捕獲数も 10 匹以下 の調査地は 5 箇所であり,100 匹を超える場所はなかった.この 10 年間に 環境が著しく改変された調査地もあるが,あまり変わっていない調査地にお いても樹木の伐採,剪定や除草,薬剤の施用などが実施されていると思われ た.また,今年の猛暑により発生源(墓石の水受けや水盆,雨水枡,樹洞な ど)の乾燥や水温の上昇による幼虫発生数の抑制が考えられた. 16 市街地におけるヒトスジシマカとオオクロヤブカの mark-release-recapture 実験. ○津田 良夫, 前川 芳秀, 糸川 健太郎, 小川 浩平 (感染研・昆 虫医科学部). Mark-release-recapture study of Aedes albopictus and Armigeres subalbatus in an urban area. ○Tsuda, Y., Maekawa, Y., 5. Itokawa, K. and Ogawa, K. ヤブカ類の行動生態の詳細を調査するために,個体識別マーキング法を検 討した結果,胸部背面に修正インクを使って複数のマークを付ける方法が有 効であることがわかった.そこでこの方法を用いて,市街地におけるヤブカ 類の分散行動の調査を行った.実験は石垣市の市街地で,2014 年 3 月 10 日から 18 日に実施した. 住宅街の中に商店,公共のビル,博物館,複数の緑地が含まれる約 300 m×250mの調査区画を設定し,胸部背面に異なる色素でマークした蚊を放 逐して,調査区画内における蚊の移動分散の様子を調査した.調査区内にあ る 5 つの茂みを採集場所として供試虫を 4 日間採集し,5 種類のマークを施 した.それぞれの場所からマークしたヒトスジシマカ 45~77(合計 301) 個体,オオクロヤブカ 56~80(合計 336)個体を放逐した.放逐後 4 日間 再捕獲を行い,ヒトスジシマカ 27.9%(84 個体),オオクロヤブカ 18.5% (62 個体)が再捕獲された.再捕獲されたヒトスジシマカ 84 個体のうち放 逐場所と異なる場所で捕獲されたのはわずかに 2 個体(2.4%)で,地図上 で求めた最長移動距離は 95mであった.これに対して,オオクロヤブカは 再捕獲された個体の 17.8%(13 個体)が放逐場所以外で捕獲され,最長移 動距離は 167mだった.実験期間中の日平均気温は低く,15.3~21.5℃を推 移し,期間全体の平均気温は 19.2℃とやや涼しい天候であった.調査期間 中の低温によって,蚊の移動分散活動が抑えられ,そのことが高い再捕獲率 や分散範囲の縮小の形で現れたと考えられる. 17 環境快適化を目指した媒介蚊対策への取り組み. ○沢辺 京子 1), 津田 良夫 1), 前川 芳秀 1), 葛西 真治 1), 6. 皆川 恵子 2), 數間 享 2), 山内健生 3), 芦田 顕彦 4), 兼信 定夫 4) (1)国立感染症研究所, 2)日本環境衛生センター, 3)兵庫県立大学自 然・環境科学研究所, 4)岡山県保健福祉部. Approach for creating a hygienic environment to the vector control. Sawabe, K., Tsuda, Y., Maekawa, Y., Kasai, S., Minagawa, K., Kazuma, T., Yamauchi, T., Ashida, A. and Kanenobu, S. 2014 年夏,約 70 年ぶりに国内でデング熱が流行した.感染地と推定され た都内の公園や,所在する自治体の多くが平常時から媒介蚊密度のモニタリ ングをしておらず,対策が困難であった場所も多かった.今後もデング熱が 国内で流行する可能性は高いとされており,平常時から媒介蚊の少ない衛生 的な環境作りを目指すことが必要となってきた.そこで本年度,岡山県と共 同で県下にモデル地域を設定し,デング熱媒介蚊対策を実施するための基礎 調査を計画・実施した. 調査地は,①岡山県総合グラウンド,②岡山県生涯学習センター,③街区 内の一般住宅,④小学校,⑤岡山空港,⑥岡山後楽園,⑦岡山県庁,⑧倉敷 美観地区の 8 地域である.蚊成虫および幼虫の密度調査は,2015 年 5 月か ら 10 月まで,毎月 1 回実施予定である.原則として,調査地はそれぞれ 25 m2 あるいは 50 m2 の区画に分け,その区画内の少なくとも 1 地点で 8 分間 人囮法により成虫を捕集した.また,同じ区画内で幼虫発生源の有無を確認 し,柄杓による幼虫採取を行った.各地域の調査は 3 時間程度で終了させ, 得られた蚊の種同定はできるだけ同日中に行うようにした. 本年度の調査結果についてはまだ解析途中であるため,本大会では上記① ~④の 4 地域での調査結果の一部を紹介し,岡山県下で実施している本プ ロジェクトの概要を解説する. 18 大阪におけるシラミ媒介性細菌 Bartonella quintana の疫学研究. 1) 2) 1) 3) ○佐々木 年則 , 久保田 眞由美 , 澤邉 京子 , 平山 幸雄 , 1) 1) 3) 2) 鍬田 龍星 , 伊澤 晴彦 , 針原 重義 , 柴山 恵吾 , 1) 小林 睦生 (1)国立感染症研究所昆虫医科学部, 2)国立感染症研究 所 細 菌 第 2 部 , 3) 大 阪社会医療センター ). Epidemiological study of louse-mediated bacteria, Bartonella quintana in Osaka. ○Sasaki, T., Kubota, M., Sawabe, K., Hirayama, Y., Kuwata, R., Isawa, H., Shinbara, S., Shibayama, K., and Kobayashi , M. 7. 日本における路上生活者の数は約 2 万人と言われ, 東京 23 区では 5 千人 前後と報告されている. 世界中の路上生活者の間で再興感染症として, グ ラム陰性桿菌である Bartonella quintana (B. quintana) による塹壕熱が報 告されている. 我々は, 東京都を中心に 1999 年から路上生活者由来コロモ ジラミや血液から B. quintana 遺伝子を検出し, 路上生活者の約 10%に B. quintana 遺伝子を保有するコロモジラミが寄生していることを明らかにし た. 今回, 大阪市西成区の簡易宿泊施設利用者から採取されたコロモジラミ から B. quintana 遺伝子を検出したところ, 東京より非常に高い遺伝子保 有率が得られた. 酵素結合免疫吸着法(ELISA)により B. quintana に対 する IgG, IgM 抗体価を測定した結果, 抗体価と遺伝子検出が関係する傾向 が認められた. また, 検出した B. quintana から薬剤耐性遺伝子が検出さ れた. 今回調べた簡易宿泊施設利用者は,密集して生活しているために, コ ロモジラミを介した B. quintana 感染率が高くなったと考えられる. また, 薬剤耐性遺伝子が検出された理由として, 結核対策で薬剤が使用され耐性 が生じた可能性が考えられる. 19 日本本 土に 定着 した と考え られ るチ ャオ ビゴキ ブリ Supella longipalpa (Fabricius) (Blattodea : Blattellidae) について. 1) 2) 3) ○小松 謙之 ,Hong-Kean Ooi ,内田 明彦 (1)株式会社シー・ア イ・シー・研究開発,2)麻布大学・寄生虫,3) ヤマザキ学園大・寄生虫). Invasion and colonization of the main islands of Japan by the Brown banded cockroach Supella longipalpa Fabricius) (Blattodea: Blattellidae). ○Komatsu, N., Ooi, H., Uchida, A. 8. チャオビゴキブリ Supella longipalpa (Fabricius)は,アフリカを原産と する害虫種で,1839 年にモーリシャスで記録された.その後分布を広め, 現在では世界の熱帯亜熱帯に広く分布する屋内性のゴキブリである.本種の 生息環境は,チャバネゴキブリ Blattella germanica (Linnaeus, 1767)が厨 房内を好むことに比べ,寝室や戸棚などを好み,採餌以外ではキッチンを訪 れることは少ないとされる.わが国では 1969 年に高橋が小笠原村父島の住 宅内よりはじめて発見し 1973 年に報告している.その後,楠井ら(2004), Komatsu et al (2013)も同島で本種の生息を確認し定着を示唆している.一 方,本土では楠井(1980)が,入港した航空機内で本種を発見し,わが国で の定着の可能性を指摘している.しかし,現在に至るまで,本土での生息は, 神奈川県横浜市で報告されたのみである. 筆者らは 2010 年に東京都内の集合住宅にてチャオビゴキブリの生息調査 をおこない,その後,チャオビゴキブリが小笠原諸島父島を除いてわが国に 定着しているかを,全国の各地域について調査を行った. その結果,東京,神奈川,福岡,長崎,沖縄の 1 都 4 県で生息を確認し た.捕獲場所は,2010 年の住宅の事例も含め,ホテルの客室,住宅,船舶 の厨房.捕獲総数は,32 個体(雄成虫 6 個体,雌成虫 12 個体,幼虫 24 個 体)であった. 20 モリチャバネゴキブリの分布北限の調査記録. ○富岡 康浩1), 佐竹 宏康2), 谷川 力1) (1)イカリ消毒株式会社・ 技術研究所, 2)イカリ消毒株式会社・事業開発部).Investigation records of Blattella nipponica of distribution northem limit. ○Tomioka. Y., Satake. H., and Tanikawa, T. 9. モリチャバネゴキブリは野外性のゴキブリであるが,屋内に侵入して不快 害虫になるほか,食品工場の敷地内で発生した場合には異物混入の原因にも なることから防除の対象になっている(春成ほか,2007).本種の分布北限 については,朝比奈(1991)までは「千葉県以西」とされていたが,その 後,茨城県牛久市(藤村ら,1991),同県東海村(東海村の自然調査会,1994) で記録された.富岡・柴山(1998)は,同県水戸市のほか,内陸部の栃木 県今市市で採集し,北限の記録として発表した.その後も茨城県内の分布記 録は追加されているが(勝間,2003;坂本,2010;井上,2011),現在の ところ沿岸部における北限は,今市市より南の常陸太田市(井上,2015) と思われる.それ以北では詳細な産地と確認データを明記した報告は見当た らない.そこで演者らは 2015 年に 3 回の分布北限調査を行った. 5 月 10 日の調査では,茨城県北茨城市関本町および福島県いわき市勿来 町に多産することを確認した.5 月 30 日の調査では,福島県いわき市(常 陸上湯長谷町,四倉町),双葉郡広野町上北迫,楢葉町大谷でも普通に見ら れた.しかし県北部の南相馬市鹿島区では発見できなかった.また内陸部の 田村市船引町,会津若松市大戸町でも見つからなかった.9 月 12 日の調査 では,楢葉町(上繁岡,井出),富岡町(上郡山,赤木)で確認できたが, より北の大熊町(大川原,坂田ダムなど)では発見できなかった.したがっ て本種の分布は沿岸部に沿って富岡町赤木まで確認され,内陸部での北限は より南になると考えられる.なお大熊町以北では,福島原発の除染作業によ り落葉が非常に少なく,調査に適する場所を探すのが困難であった.良い環 境があれば今後さらに北部でも見つかる可能性が高いと思われる. 21 新潟県柏崎市鵜川流域におけるブユの生息実態調査. 1) 1) 2) 2) ○小俣 立史 , 高橋 弘良 ,阿部 哲也 , 上迫 正人 , 10. 平林 公男 3) (1) 柏崎市・環境政策課, 2)株式会社 NSS, 3)信州大・ 学術研究院). The current status of inhabitation of black flies in Ukawa River Basin, Kashiwazaki City, Niigata Prefecture. ○Komata, T., Takahashi, H., Abe, T., Kamisako, M. and Hirabayashi, K. 新潟県柏崎市鵜川流域では,以前からブユによる住民への吸血被害が多く 発生し,ブユの生息実態を把握することが求められていた.このたび,柏崎 市では行政主体の調査を新潟県内では初めて実施した. 調査は成虫,幼虫ともに 2013 年 6 月から 10 月にかけて,毎月 1 回の頻 度で鵜川流域の 4 地区で実施した.成虫調査は,集会所や水田等で,朝お よび夕方に,吸虫管を用いた人囮法により 2 人の調査員で 10 分間実施した. 幼虫調査は,河川や水路等で,2 人の調査員で 5 分間,ピンセットを用いて 幼虫(蛹を含む)を採集し,個体数を計数した. 調査期間中に,成虫調査では計 2,195 個体を採集し,4 地区ともその全域 でブユ科成虫が確認された.地区別及び月別の総飛来個体数に顕著な傾向は 認められなかったものの,時間別では朝より夕方が 3 倍程度多い傾向が示 された.また,同定を行った結果,優占種はヒメアシマダラブユ(Simulium arakawae)であり,全体の 99%以上を占めていた.幼虫調査では計 12,805 個体を採集し,4 地区ともその全域でブユ科幼虫が確認された.同定を行っ た結果,9 種の幼虫が確認された.優占種はキアシツメトゲブユ (S. bidentatum)で全体の 35%を占めた.成虫調査で吸血被害を及ぼす種とし て優占したヒメアシマダラブユの幼虫は,別俣地区の用水路と旧ゴルフ場内 の小水路,ならびに,上条地区の支川と小川で採取した試料において確認さ れ,鵜川本川で採取した試料の中には確認されなかった.つまり,幼虫の優 占種と成虫の優占種が一致しておらず,今後,ヒメアシマダラブユ幼虫の生 息場所を明らかにする必要がある. 22 11. 千葉県で採集されたニクバエの新属新種. ○倉橋 弘 1),柿沼 進 2)(1) 感染研・昆虫医科学部,2)双翅研・山口分 室). A new genus and species of the sarcophagine flesh flies from Chiba Pref., Honshu, Japan (Diptera: Sarcophagidae). ○Kurahashi, H. and Kakinuma, S. 日本産ニクバエ科全種の検索表を作成するために,演者らのニクバエの標 本を再検討し,更に必要な標本を得るために 2014 年から各地で採集を試み ている.新たに得られた標本の中から本州(千葉県)より採集されたニクバ エが新属新種であることが判明したので報告する.ニクバエ亜科 Sarcophaginae, ニクバエ族 Sarcophagini に所属する体長 9.0~11.5 mm の 大形の,一見シリグロニクバエ Helicophagella melanura (Meigen, 1826) を思わせるニクバエである.このニクバエの外部形態は胸背の剛毛式 chaetotaxy に特徴があり,横溝後背中剛毛 postsutural dc が 1~2 本である こと.横溝後正中剛毛 postsutural ac を欠く.前胸側板 propleuron は裸出 する.オス外部生殖器では尾葉 cercus には他のニクバエに見られない先端 の切れ込みがある.メスの外部生殖器では,第 6 背板 tergite 6 は中央部が くびれることなく,連続したド-ム状である.第 8 背板 tergite 8 と第 8 腹 板 sternite 8 が節片 sclerite として認められ,前者はド-ム状に,後者は中 央部がくびれて,産仔のしやすい構造になっている.受精嚢 spermatheca は口金部分が長目のランプ型である.このメスの後腹部の体節構造からこの ニクバエが胸背の剛毛式には特化した特徴を示しているが,原始的な種であ ることが推察される.また,これらの特徴から他のニクバエ族既知種から区 別される.和名をパペニクバエ属キサラズニクバエとして投稿中である. Key words: Sarcophagidae, flesh flies, new genus, new species, Japan 23 情報 提供 佐々学生誕百年に向けて. 石井 明,伊藤 靖忠,江下 優樹,大内 忠行,及川 陽三郎, 緒方 一喜,〇上村 清,川村 善冶,栗原 毅,小林 貞, 佐藤 英毅,島田 瑞穂,高木 美代子,高田 伸弘,田中 英文,中村 哲, 秦 和壽,松岡 裕之,松田 肇,水谷 澄,元木 貢,山内 健生(佐々 学生 誕100年記念事業実行委員会). On preparations for commemorate events of Dr. M. Sasa’s one hundred years birthday. Kamimura, K. et al. 衛生動物学者として世界に誇る業績を残された佐々 学先生は,1916年 3月14日,東京(神田)に生まれ,2006年富山(黒部)で没せられたが,来春 に生誕100年という記念すべき時を迎える.ここでは,まず佐々 学先生の 略歴と衛生動物に関する研究業績のあらましを紹介する.記念事業では, 佐々 学先生の誕生日である来年3月14日(月)午後,東大医科学研究所に 隣接した八芳園において,佐々 学生誕100年記念事業実行委員会,佐々 学 同門会,東大医科学研究所同窓会の主催,日本寄生虫学会,日本衛生動物 学会,日本ダニ学会,日本ユスリカ研究会,日本熱帯医学会の5学会共催 で「記念講演会」を行う.先立って,記念式典を14:00~14:45に持ち, 15:00~17:30に各学会代表による「佐々 学先生と○○学」の講演と先 生の足跡スライド映写とを行う.その後,記念祝賀会を18:00~20:00, 会費制(1万円)で行う.記念展示は,同所と医科研近代医科学記念館と で行う.医科研近代医科学記念館に佐々 学史料展示書棚を設け,当日に 限ってパネル展示を行う予定. また,「衛生動物学の進歩 第2集」を同日までに三重大学出版会から 発刊する.21編,300頁ほどの総説集で,予価5,000円.拠金者には配布 する.「佐々 学史料集」と随想集「佐々 学先生と私」はDVD2枚に収 録し,拠金者に配布する. 来年4月15~17日の日本衛生動物学会大会では,第3回実行委員会にて 本事業の総括を行い,「佐々 学生誕100年記念セミナー 明日の衛生動物 学に向けて」を設けていただく予定. 24
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