Vol.14 - サル類の疾病と病理のための研究会


SPDP
Vol.
The Society of Primate Diseases and Pathology
<巻頭総説>
<会員の集まる喫茶店>
❖ 霊長類の細胞バンク
❖ Monkey-Tail Café
石田 貴文 東京大学大学院 理学系研究科
▽
14
Apr. 30, 2015
石上 紀明 <SPDP 1254>
小野薬品工業株式会社
<News & Topics>
❖ 医科学研究用カニクイザルをめぐる
▽
大古田 治 <SPDP 1279>
アストラゼネカ株式会社
日本と欧米諸国の違いについて
田畑 一樹 日本チャールス・リバー株式会社
編集/発行
サル類の疾病と病理のための研究会
記事および画像・写真の無断複製,使用,転用を禁止します。
SPDP LETTERDS Vol. 14, Apr. 30, 2015
<巻頭総説>
霊長類の細胞バンク
石田 貴文 <SPDP No. 1295>
東京大学大学院 理学系研究科
❖ はじめに
❖ ヒト細胞株化法の転用
霊長類の細胞を生かして保存してみようと思い
ヒトのB細胞の不死化にはEBVが常用されてい
立ったのには,いくつかの偶然が重なっている。
た。ウイルス学の教科書に「 E B V はヒト・類人
採血後に捨てられるシリンジの付け根に残る血
猿・新世界ザルのB細胞を不死化する」との記載
液が勿体なく思えた。オランウータンの採血を
があった。疑り深い筆者は,国内外の動物園,
したシリンジを貰い受け,細胞を回収しEpstein-
研究機関の協力を得,また,フィールドワークを
Barrウイルス (EBV) を混ぜ培養した。1ヶ月経っ
通し,各種霊長類の血液を収集し,E B V感受性
てやっと細胞塊が見え,その後,安定増殖に入っ
の有無を調べた。果たして,教科書通りにはなら
た。またある日,京大霊長類研を訪問すると,
ず,EBVは,まずアビシニアコロブス,次にルト
当研究会の重鎮である鈴木樹理さんが,カニクイ
ンの細胞を不死化した。「もしや旧世界ザルを2
ザルの尻尾の先を切除し捨てたところだった・・・
分するコロブス亜科にはE B V感受性があるので
勿体ない。貰って帰り,培養。「カニ尾」という
は?」との予想のもと,スリランカでラングール
線維芽細胞のチューブが今も液体窒素中に眠って
の調査をしたところ,皆E B Vの感染が確認され
いる。バンクは「勿体ない」からスタートした。
不死化細胞株が得られた。前述の予想は, 2 5 年
その後は,積極的に試料収集に努め,培養系に
かけて3属を除くコロブス亜科で確認された。一
移すこととした。その際,フィールドワークを念
頭に,試料採取方・保存法・培養法の改良を試
方,オナガザル亜科の状況は,ヒヒ族でEBV感受
みた。
性を示したものは皆無であったが,オナガザル族
ではパタスモンキーが感受性を示した。奇しく
1
SPDP LETTERDS Vol. 14, Apr. 30, 2015
❖ B細胞からT細胞へ
も京大霊長研にミドリザルとパタスモンキーの雑
種 (ミタス) がいた。パタスの血をひくミタスは
EBVを使う際の制限要因は感染種スペクトルが
EBV受容体 (CD21) を発現し,感受性を示すはず
狭いことであった。そこで,T細胞指向性レトロ
である。ミタスの末梢リンパ球にEBVをかけた。
ウイルス
1回目,細胞不死化は見られなかった。そこで,
(HTLV1/STLV1を総称しPTLV1と記す)
に注目した。一般にPTLV1キャリアから分離培養
E B V 受容体に対する単クローン抗体を用いミタ
して得られるウイルス陽性細胞はI L 2依存性を呈
スの末梢血細胞のFACS解析をした。弱いながら
す。試験管内では,混合培養によりドナーから受
も反応があった。2回目の感染実験では,EBV特
けての細胞へウイルスが感染し,受け手の細胞は
異抗原の発現をモニターした。するとE B V関連
IL2非依存性増殖する。PTLV1の感染スペクトル
核内抗原 (EBNA) の発現が見られ (図1参照),
は広く,霊長類はもとより,ラットやウサギの
EBVはミタスの末梢リンパ球に入っていることが
細胞も不死化できる。 8 0 年代初頭,各地の野生
確認されたが定常増殖には至らなかった。 E B V
ニホンザルの調査が精力的になされていた。筆者
はパタス由来の受容体を用い細胞内に入るが,
は波勝崎群の調査に参加し,STLV1陽性ニホンザ
ミドリザル由来の細胞内環境と相性が悪いのでは
ル細胞株 (H17) を樹立した。ここでも偶然がはた
と想像した。当時,筆者は京大霊長研に勤務して
らいていた。H17細胞は核型が崩れ,足場依存性
おり,ミタスへのアクセスが容易であったが,
も消失した癌細胞の性状を呈し,IL2に依存しな
1 9 9 0年に東大へ移ったので「ミタス」問題は一
い自立増殖が可能であった。PTLV1による細胞株
時中断となった。2 0 0 2年,雑種個体が息を引き
化に関する最初のランナーは村山裕一さんだっ
取る時,最後のチャンスと血液を頂き,E B V不
た。H17のHPRT欠損株 (H17+) を分離したのであ
死化のGod handと呼ばれた大学院生の西岡朋生君
る。H17 + と,樹立したい細胞をHAT培地で混合
に委ねた。みごと不死化が確認され,「相性」
培養すると,H 1 7 + は死滅,H 1 7 + からS T LV 1を
云々は妄想であった。
【図1】同定
2
SPDP LETTERDS Vol. 14, Apr. 30, 2015
【図2】混合培養
類人猿
感受性
Pan
◎
Gorilla
◎
Pongo
◎
Hylobates
Symphalangus
旧世界ザル
感受性
オナガザル亜科
Papio
×
◎
Theropithecus
×
◎
Cercocebus
×
Nomascus
新世界ザル
◎
Macaca
×
Cercopithcus
×
×
Chlorocebus
×
Callithrix
×
Erythrocebus
◎
Saguinus
×
Chlorocebus x Erythrocebus
◎
Saimiri
Aotes
×
Cebus
×
Colobus
◎
Ateles
×
Nasalis
◎
Presbytis
◎
コロブス亜科
原猿
Lemur
×
Pygathrix
◎
Galago
×
Trachypithecus
◎
Nycticebus
×
Semnopithecus
◎
【表1】霊長類における属別EBV感受性
3
SPDP LETTERDS Vol. 14, Apr. 30, 2015
貰った受け手の細胞は不死化するという絡繰り
有効利用し,付着系細胞も培養系に移してきた。
である。ここで視点を変え,IL2依存性を逆手に
殆どは線維芽細胞で,通常の培養法に従っている。
とると新たな細胞株化法が見えてくる。PTLV1陽
浮遊系・付着系を併せた現在のバンクの預金高を
性個体からIL2を用いウイルス陽性T細胞を培養し
表2に示す。培養法の細部については,近々に研
ておく。これと樹立したい細胞をIL2フリーの培
究室のホームページで公開したいと思っている。
地で混合培養すると,IL2依存性のドナー細胞は
❖ おわりに
次第に死滅するが,その間に受け手の細胞にウ
イルスが感染し自立増殖に繋がり株化細胞が得ら
ウイルスの研究をしているつもりが,「セルバ
れるという絡繰りである (図2)。我々は現在2系統
ンク」へと転生した。パタスでもコロブス亜科
でも,霊長類は奥が深く,まだまだ興味が尽き
のIL2依存HTLV1陽性細胞 (図2のU8312とCMC8)
ない。
を細胞株化に用いている。
これまで,サンプル収集に御協力下さった諸姉
❖ バンクとして
諸兄に感謝し,また本文を執筆する機会を下さっ
た板垣伊織先生に御礼申し上げます。
「カニ尾」以来,臓器摘出・実験殺・死亡例を
類人猿
Pan troglodytes
Pan paniscus
Gorilla gorilla
Pongo pygmaeus
Hylobates lar
Symphalangus syndactylus
Other gibbons
旧世界ザル
個体
39
3
1
10
43
19
17
Papio hamadryas
Macaca radiata
Macaca mulatta
Macaca silenus
Macaca fascicularis
Macaca fuscata
Chlorocebus aethiops
2
2
1
3
4
25
1
4
4
8
1
1
1
Cercopithecus mitis
Erythrocebus patas
(Patas x Green monkey)
Colobus polykomos
Nasalis larvatus
Semnopithecus entellus
Trachypithecus vetulus
1
2
1
6
4
7
5
1
3
1
Trachypithecus cristatus
Trachypithecus francoisi
Presbytis femoralis
Pygathrix nemaeus
3
4
1
4
新世界ザル
Saguinus oedipus
Saimiri sciurea
Aotes trivirgatus
Cebus apella
Leontopithecus rosalis
Ateles geoffroyi
原猿
Lemur catta
Galago crassicaudatus
Nycticebus coucang
個体
【表2】霊長類凍結銀行の仲間
4
SPDP LETTERDS Vol. 14, Apr. 30, 2015
<News & Topics>
医科学研究用カニクイザルをめぐる
日本と欧米諸国の違いについて
田畑 一樹 <SPDP No. 1215>
日本チャールス・リバー株式会社
マーケティング部
SPDP会員の皆様,この度News and topicsに寄稿
専門の先輩諸氏を前に少しばかり生意気なこと
する機会を頂きましたこと,心より感謝いたし
を記述させていただきたいと思います。一言でい
ます。
えば,「欧米,特に米国と日本では実験者また
は研究者のN H Pに対する福祉上の考え方が全く
まだ麻酔処置をしないとサルを保定できない私
異なっている」ということです。
ですが,板垣先生よりご依頼を受け,皆様にお
箇条書きでお示ししたいと思います。
伝えしたいこともあって,寄稿させていただくこ
とになりました。
●
実験中はペア,トリ,グループ飼育が標準,
理由が不明瞭な個別飼育は違法行為である
Charles River Laboratories (以下CRL) が世界的に
サルを販売する方針を出したことを契機に,4年
●
ほど前から日本でカニクイザルの販売を担当して
ペア,トリ,グループ飼育はN H Pにとって最
高のエンリッチメントである
います。これまでSPFのマウス・ラットの生産,
●
品質管理と販売しか経験が無く,サルは初めての
欧米向け輸出検疫は,ペア飼育で実施されて
いる
業務です。現在はサル = 社内では NHP (Non
●
Human Primatesと称していますので以後NHPと記
N H P とヒトの信頼が必要で,関係構築は重
要。ヒトに慣れているNHPが必要
させていただきます) を扱う業務が楽しくなって
きたところです。ただ,日本と米国を行き来し,
●
ヒトに慣れさせるためには,生産施設から輸
現場を比較すると,実験に供されるN H Pが保管
出前にヒトに慣れた (ヒトを恐れない) NHPを
されている飼育環境の違いが大きく,どうしても
生産しないと間に合わない
お伝えしたいことが出てまいりました。
ても遅い)
5
(輸出後に訓練し
SPDP LETTERDS Vol. 14, Apr. 30, 2015
●
CROなど各実験施設では,実験動物の福祉担
当職員の駐在が標準化されつつある
弊社の状況を実例として説明させていただきた
いと思います。
1. 中国の生産施設
●
弊社の関係施設はベトナムとの国境に近い南
ヒトが直接副食を与えます (中国)
寧市にあります。ここでは離乳するまで全て
グループ飼育を行い,離乳後は雌雄を分離後
出荷までグループ飼育されます。生産,飼育
方法は日本向け,欧米向けともに同じです。
●
全てのケージにエンリッチメントを考慮した
遊具が設置してあり,またヒトとの関係構築
のために,毎日飼育担当者がピーナッツや果
物類など副食を手渡しで与えます。
●
ケージ内のグループでは階層ができます。小
型の弱い N H P は副食を得ることができませ
ん。この辺りは自然界では当たり前なので特
に考慮しないとのことですこれは,米国内で
も同じです。
飼育ケージの中にはエンリッチメントを考えた遊具が
数多く設置されています (中国)
2. 中国出国前検疫
●
出国前検疫は,米国向けはペア飼育,日本向
はシングル飼育です。
●
検疫施設内は,シングル飼育のケージであっ
ても周りが見渡せるように鏡張りになってお
採
のエンリッチメント (中国)
6
SPDP LETTERDS Vol. 14, Apr. 30, 2015
●
り,ミラーを始め,複数のエンリッチメント
遊具が設置されています。
●
アでの飼育を開始します。
音楽や自然音を聞かせます。風の音を聞かせ
●
ると落ち着くようです。
●
米国C R Lでは,ここで出荷用のグループ,ペ
相性もありますので,様子を見ながらペアリ
ングを実施するのですが,ここでは,テキサ
ス大のNHP行動学専門家に指導を受け,社内
検疫期間中も飼育担当者は,毎日手渡しで副
の行動学マネージメント責任者が一般職員を
食を与え,関係構築を続けます。
指導し,ペアリングの可否を判断しています。
●
それでも日本向けのNHPは,シングル飼育に
カルテが作成され,出荷時にはそのカルテと
なったストレス等により脱毛個体が出現する
ともにペアリングまたはグループ毎出荷され
ことがあります。
ます。
●
3 歳未満であればほぼすべての動物でペア飼
育が可能です。
●
NHPは霊長類ですので,行動学マネージメン
トが重要になります。
●
研修目的でテキサスにあるCRLの施設を訪問
した際,次のことを教え込まれました。
➢ 採
,飼料の探索に時間をかけさせ,何
もしない暇な時間を作らないこと。
検疫期間中も副食を与えます (中国)
➢ 常同行動等の異常行動を見分けるために正
3. 輸入後検疫
●
常行動は何かをきちんと把握すること。
日本ではまだシングル飼育検疫ですが,米国
➢ 異常行動を呈したN H Pは発見次第管理者
では最近ペア飼育での検疫が可能になりまし
ならびに獣医師に報告すること。
た。米国CRLも徐々に変えています。
➢ 自傷行動等の異常行動を示す個体は,
●
農水省動物検疫所に確認し,日本でもペアで
AVMA Guideline on Euthanasiaに従った安
検疫してもよいとの返事は得ています。
楽死を含む処置方針を速やかに決めるこ
と。等です。
4. 出荷前の飼育管理
7
SPDP LETTERDS Vol. 14, Apr. 30, 2015
グループ飼育の例です (米国)
●
検疫終了後のペア飼育例です (日本)
5. 実験の現場
微生物学的な品質の維持は当たり前のこと
で,現在はいかにストレスが無い状態のNHP
●
CRLの受託飼育施設例を紹介します。
●
ネバダ州レノにあるGLP施設ですが,欧州向
をお客様に届けるかという点に主眼が置かれ
ていました。
けのケージ (シングルケージを4つ組み合わせ
た大きさにバルコニーを設置)
に3頭収容し
て,試験に供しています。現在 1 2 0 頭分しか
ケージが無く, 6 ヶ月以上先まで試験予定が
EU向けバルコニー付きのケージです。これが米国で
も一番人気だそうです。 (米国, 下図)
4連のケージです (米国)。
→の方向に移動が可能です。
8
SPDP LETTERDS Vol. 14, Apr. 30, 2015
埋まっているとのことです。
●
いろいろな理由があると思いますが,「Guide
for the Care and Use of Laboratory Animals 8th
そこで,シングル飼育用のケージを 4 ケージ
Edition」が出版され,欧米ではNHPのグループ飼
連結して,そこに 3 頭収容することで受託で
育またはペア飼育はすでに「当たり前」になって
きる試験本数を増やしているそうです。
●
います。動物福祉が後退することは考えにくく,
この施設には,行動学マネージメントの専門
日本の実験の場でも,グループ飼育やペア飼育は
職員が3名駐在し,彼女ら
求められていると思います。これらが早期に浸透
(全員女性でした)
し,当たり前になることを願っています。
の指導のもと,ペアやトリの組み合わせが決
定され,実験が開始されるとのことです。な
米国C Rや中国の生産施設の見学希望がござい
お,彼女らは N H P のみならず,ビーグルや
ましたら,ご案内させていただきます。ご連絡い
ラット・マウスの行動も管理しています。
●
ただけますようお願い申し上げます。
通常 3 頭収容する大きな欧州向けケージでど
7. 最後に
のようにNHPを保定 (補獲) するのかと聞いて
みたところ,欧州向けのケージには,中央部
に保定輸送用のケージ
現在, N H P の航空機輸送に大変苦労していま
(上図で取っ手が付い
す。動物実験反対派のP E TAのキャンペーンによ
が設定してあり,合図を送
り,航空会社各社が輸送を避けているためです。
るとここにNHPが入り込むように訓練されて
すでに,日本の航空会社は一部を除きN H Pを輸
いるので問題ないということでした。訓練に
送していません。今年3月に,某日本の航空会社
は数週間かかるそうで,そこで発生した経費
の担当者の訪問を受けました。ビーグルや他の実
は委託者から徴収するという話でした。
験動物に関し,輸送を停止した場合の影響につ
ている場所,←)
いての情報交換が目的ということでしたが,旅客
6. まとめ
輸送が主要収入源なので,突然輸送をストップ
サルの世界に入りまだわずかな経験しかないの
することもあり得るというお話でした。地上職
ですが,日本と米国の施設,実験手法には大き
員も対象にする可能性を示唆していましたが,ス
な差があるように感じています。
トップしないことを願うばかりです。
ご質問などございましたら下記までご連絡をお
実際に,米国CRLの責任者とともに国内の製薬
願い申し上げます。
企業や受託試験機関を訪問した時は,複数のお
客様 (特に研究者の方) より,ペア以上の飼育で
※◆※◇※◆※◇※◆※◇※◆※◇※◆※◇※
の毒性試験の方法に関する質問,疑問,困難さ
045-474-9336, [email protected]
に関するコメント等を数多く頂きました。
9
SPDP LETTERDS Vol. 14, Apr. 30, 2015
カラーアトラスにひかれて研究会参り!?
小野薬品工業株式会社
石上 紀明 <SPDP No. 1254>
入社して15年目となりましたが,私は医薬品開
ては特定の臓器の摘出のみに止まることもあり,
発における非臨床安全性試験の病理検査を専ら
会員の皆様方と比較するとまだまだ知識・経験
担当してきています。2年前に安全性研究部から
が乏しいのも事実です。その少ない経験の中でも
創薬研究部へ異動となりましたが,現在もげっ
印象的だったのは,寄生虫感染症例です。薬理試
歯類を主体としたスクリーニング試験を中心に,
験に使用したカニクイザル (17歳) の解剖時に,
さらに薬理試験に関しても病理学的な視点で評価
大網,肝臓の被膜及び小腸の漿膜に体をC字状に
を行っています。
曲げた舌虫の幼虫を多数観察した時は,以前に
当欄で三輪先生が述べておられたように一瞬ゾッ
弊社内ではサルを用いた安全性試験を実施して
としたと同時に,病理担当者の性としてワクワク
いないことから,サルを用いた試験は受託研究
したことも思い出されます。
機関に外注あるいはレンタルラボを利用して実施
することとなります。そのため,サルに関する背
近年では自家繁殖したサルを実験に用いること
景データの蓄積が社内にあまり無いことから,
が多いことから,肉眼的に分かりやすい感染症
それを穴埋めするための知識は書籍や症例報告
例に出会うことも無くなってきています。病理担
を含む文献情報に頼ってきていました。しかし,
当者としては病変がある方が勉強になるのですが,
それだけでは得られた試験データの評価を適切
感染症や毒性所見に出会う機会が乏しいことか
に評価できていないのではないか?との思いも
ら,私自身の勉強のみならず若手の教育にも苦
抱いていたところ, “サル類の疾病カラーアトラ
慮しているところです (病変が無いことは会社と
ス”が出版されるという情報を入手しました。し
しては喜ばしいことですが…)。幸いなことに“サ
かも編集はサル類の疾病と“病理”のための研究会
ル類の疾病カラーアトラス”には多数の感染症例
が行っているということ,会費が無料かつアトラ
が掲載されており,さらに毒性病理用語・診断基
スの購入は会員価格で購入できる!ということ
準国際統一化事業 (INHAND) においてサルの病
もあり,入会させていただきました。
理アトラスが出版される予定となっています。そ
のため,サルの病理に関する基礎的な知識は何
外注した毒性試験の解剖の見学や薬理試験後に
とかなるのかなと思っています。しかし病理の知
安楽殺予定のサルを用いて解剖/標本作製/鏡検
識だけでは適切な毒性評価は行えないことから,
を行うことにより,病理学を中心に知識・経験
その他の知識も広く勉強していこうと思っていま
を少しずつ蓄積してきていますが,サルの解剖は
す。経験豊富な皆様方のご指導ご
年に数回しか実施できていないこと,場合によっ
くお願い致します。
10
撻のほど宜し
SPDP LETTERDS Vol. 14, Apr. 30, 2015
ワークショップは貴重な財産
アストラゼネカ (株) 研究開発本部 クリニカルサイエンス統括部
サイエンスアクセス&トランスレーショナルサイエンス部
トランスレーショナルサイエンテイスト
大古田 治 <SPDP No. 1279>
S P D P会員各位,いつもお世話になっておりま
ります。マウスやラット,あるいはイヌ等の比較
す。自己紹介込みでサルとの関わりについての寄
的一般的な動物の一般状態,体重,臨床検査値,
稿依頼がありましたので,簡単ではありますが,
性周期,眼科学的所見,剖検所見,器官重量あ
以下に報告させて頂きます。
るいは病理組織学的所見などの一般情報は,特
殊なものでない限りその情報を入手することが
小生の卒論は,“ブタ卵母細胞の染色体”,修士
可能で,自身も経験があることから,ある程度
論文及び博士論文は“ウシ体外受精”に関するもの
具体的にイメージすることができ,結果の解釈
で,サルどころか,ラットやマウスもそれほど馴
及び考察は可能です。しかしながら,当初サルを
染みのある動物ではありませんでした。企業の安
用いた試験報告書を眼にした時は,数字や単語
全性研究所に勤務して初めてマウス,ラット,ウ
は頭に入るのですが,具体的なイメージとリンク
サギ,イヌ,ブタ,モルモット等を使い,薬効評
していないため,なかなか慣れるのに苦労致しま
価のためのモデル作成や,GLP準拠による安全性
した (思ったより体重は軽いなとか・・・。)。
評価試験を担当しておりました。この間,薬物性
これまでにサルを触ったことがない者にとって,
肝障害,肝臓の病理 (liver fibrosis) を始め色々研鑽
SPDPからの情報はとても貴重なものであり,サ
させて頂いたのですが,この十数年の中でもサル
ルをより一層勉強理解させて頂くために,本研
取り扱い経験には遭遇いたしませんでした。
究会に参加をさせて頂いております。S P D Pから
その後,Lab workを離れ,今の会社に移動し,
出版されている “ サル類の疾病から―アトラス ”
治験薬概要書,製造承認申請書の作成,academia
は,とても大変役に立っております。さらに,ワー
や治験医師,あるいはPMDAや厚生労働省との対
クショップで取り上げて頂いております皆さま
応等を業務として現在に至っております。ご承知
方からのご報告も貴重なデータの宝庫であり,
のように,この 1 0 数年間の抗体医薬品の開発は
病態の理解はもとより正常値の理解にも大変役
目覚ましく,いまやその多くはヒト化抗体(完
立っております。
全)であり,また,抗ウイルス剤の開発も進んで
本会のさらなるご発展を祈念しつつ,引き続き
きております。抗体医薬品あるいは抗ウイルス薬
ご指導頂ければ幸いです。
品の薬効を評価する上でも,その安全性を評価
する上でもサルは医薬品開発に不可欠となってお
11
SPDP LETTERDS Vol. 14, Apr. 30, 2015
<学術集会開催案内> update
第8回
アジア保全医学会 2015, Myanmar
19日(月)
SPDPの親交団体,Asian Society of Zoo and
Post-congress Workshop
(ヤンゴン国立公園)
Wildlife Medicine (ASZWM, アジア野性動物医学
会) は今年から
会場
Asian Society of Conservation Medicine (ASCM)
ヤンゴン動物園 自然歴史博物館
と名称を改めました。
(The Natural History Museum)
しかし今年もアジアの国でワークショップを開
年次集会内容
催するのはかわりません。主催団体から入手し
1. Wildlife Diseases Surveillance: Rabies in wild
animals
たてのアップデート情報をお届けします。
2. Reproduction and Diseases of Elephants
※◆※◇※◆※◇※◆※◇※◆※◇※◆※◇※
3. Asian bear Session
4. Wildlife Diseases and Parasitology (Diagnostic
network for wildlife diseases and parasites)
8th International conference of
Asian Conservation Medicine
Topics: Forensic pathology
(Asian Society for Zoo and Wildlife Medicine)
5. Primate Conservation Medicine (ASPCM)
at Yangon Zoo, Yangon, Myanmar 2015
6. Aquatic Medicine
※◆※◇※◆※◇※◆※◇※◆※◇※◆※◇※
7. Reptiles and Amphibians Workshop
8. Zoo Vet networking
開催地
9. Clinical Medicine etc. Raptor rescue
ミャンマー連邦共和国 ヤンゴン
10. Award of diploma, Asian College of Zoo and
Wildlife Medicine (ACCM)
開催日程 2015年10月
15日(木)
11. Others- Coming soon
Pre-congress "One Health" Educational
※◆※◇※◆※◇※◆※◇※◆※◇※◆※◇※
Workshop (主対象: ネピドーの学生)
16日(金)
詳しくは Asian Society of Conservation Medicine
受付 Welcome Party
(ASCM) のサイトをご参照下さい。
17∼18日(土・日)
<http://www.aszwm.corg>
ASCM年次集会
12
SPDP LETTERDS Vol. 14, Apr. 30, 2015
表紙のサル (アカゲザル,雌・年齢不明)
◆アカゲザル Macaca mulatta はアジア大陸の南部,中東からイ
ンド北部,中国の南部にかけて棲息しています。◆SPDP LETTERS
の表紙には二度目の登場ですが,覚えていらっしゃいますでしょ
うか。第3号のことですから,もうかれこれ3年ほど前のことで
す。◆前回はカトマンズ郊外にある寺院「スワヤンブナート」,
通称 “Monkey Temple” に出没する野性のグループの一頭,境内
で遊ぶ子ザルたちを凛々しく見守る若い雄の姿でした。写真を見
れば想像がつくかも知れませんが,今回も同じ日に撮ったその群
れのメンバーです。乳児を抱く母ザルと性成熟を迎える前のまだ
若い雌でしょうか。観光客や参拝客が行き交う参道で,雨期明け
の陽射しを楽しむようにのんびりと過ごしていました。少しエキ
セントリックな顔立ちと美しい毛並みを今でも覚えています。周りでは遊び盛りの子ザルが代わる代わる池に飛
び込んでいました。◆2015年4月25日,この国をとてつもない巨大地震が襲いました。スワヤンブナートにも甚
大な被害があったと聞きます。あれから2週間近く経ったいま,首都カトマンズですら被災者の全貌が掴めていま
せん。ましてやこの群れがいまどうしているのか,そんな情報は望むべくもありません。大きな災害の後には感
染症の蔓延がつきもので,ヒト社会の周辺で暮らすこのサルたちも無関係ではいられないはずです。◆このお寺の
山門をくぐると,すぐにお釈
様の像を中心に抱く丸い池があります。”World Peace Pond”。子ザルたちの遊び
場兼水飲み場でした。この国の人々と動物たちに一刻も早く平穏な日々が戻ってくるよう,いま祈らずにはいら
[2011年10月26日 カトマンズにて板垣 写す]
れない気持ちです。
SPDP LETTERS (季刊)
❖ SPDP LETTERS ではサル類に関する記事,ニュー
第14号 2015年4月30日発行
発行者
サル類の疾病と病理のための研究会
編集委員
宮嶌 宏彰, 板垣 伊織
ス,総説,論説,レポート,写真など,会員の皆
様からの投稿をお待ちしております。お問い合わ
せは編集委員連絡先まで。
[連絡先] [email protected] (板垣 伊織)
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