スンクスにおける低温不耐性のメカニズム

スンクスにける低温不耐性のメカニズム
城ヶ原貴通(岡山理科大学)・鈴木大輔((株)オリエンタルバイオサービス)
食虫目トガリネズミ科は,哺乳類の中でも比較的多くの種を含む科であり,進化や種分
化,比較生態を研究するのに適した分類群の一つとされている.トガリネズミ科は,トガ
リネズミ亜科が主に寒帯・亜寒帯地域に,ジネズミ亜科が主に熱帯・亜熱帯地域に生息し
ており,亜科間で耐寒性に差がある.ジネズミ亜科に属するスンクスは,8℃以下の低温環
境で半数以上の個体が不動化・死亡し,低温に耐性を示さないが,トガリネズミ亜科に属
するパルバ(標準和名:ヒメコミミトガリネズミ,学名:Cryptotis parva)は,4℃の低温
環境に耐性を示すとされている.トガリネズミ科内における耐寒性の違いを調べることは,
低温への適応性や動物の種分化を考える上で非常に興味深いとされている.本研究では、
スンクスとパルバにおける低温暴露試験を行い、これら 2 種の耐寒性の差と低温馴化によ
る耐寒性への影響を明らかにすることを目的とした.
低温暴露試験の結果、マウスは全個体が生存したが、スンクスでは 67.3%の個体が脱落
した。特に、低温暴露初期に脱落した個体は、体重、EWAT ならびに IBAT に著しい減少
が認められた。一方、スンクス生存個体の EWAT ならびに IBAT は顕著に増加していた。
一方、順化を設けた低温暴露試験では、8℃では低温耐性が向上したが、一般的な低温暴露
試験で行われる 4℃環境では 1/3 の個体が脱落し、耐寒性を示さないことが示唆された。
スンクスは、不可避の日内休眠を持つが、脱落個体は日内休眠後に著しく体温が減少して
いた。これらのことより、スンクスは低温不耐性であり、それは日内休眠と深く関わって
いると推察された。
一方、パルバにおいては、順化期間を設けた低温暴露試験では 83%の個体が、非順化低
温暴露試験では 78%の個体が生存した。これらから,パルバは,4℃の環境でも低温群の
全個体が生存するマウスやラットと比べると耐寒性が低いが,スンクスよりも耐寒性が高
いことが明らかとなった.また,IBAT 重量において,本研究のパルバの低温群生存個体
は,常温群と同程度あることから,パルバは低温環境下において十分な熱産生を行うだけ
の IBAT 重量を持つ可能性が示唆された.
パルバの代謝-行動の特性は,ジネズミ亜科とトガリネズミ亜科の中間であるとの報告が
ある.本研究からパルバは,耐寒性においてもトガリネズミ亜科よりもジネズミ亜科に近
い可能性が示唆された.一方,スンクスは,4℃の環境に耐性を示さないが,ラットと同様
に低温馴化による耐寒性の向上が推察された.そして,本研究により低温馴化の有無に関
わらずパルバとスンクスの間に耐寒性の差があることが明らかとなった.