卸売業 景気予測お天気マーク 貴金属製品卸売業 310 シ グ ナ ル 5596 このシグナルは、現状から今後 6ヵ月間の見通しを短評。 平成 25 年度末は消費増税直前でジュエリー類の売上が空前の活況を呈したが、増税直後は、比較的安価なジュエリーを中心に売上 は一時大幅に減少した。しかし高価格帯の商品の売れ行きは底堅く、また円安による訪日外国人客の急増とその旺盛な購買意欲から、 平成 26 年秋口より売上は回復基調となっている。購買層の二分化が進み、富裕層における客単価の上昇が顕著であり、この傾向は しばらく続くとみられる。(平成 27 年 11 月改訂/中小企業診断士・加藤敦子 [email protected]) 業界動向 平成 14 年 平成 19 年 平成 24 年 平成 26 年 年間商品販売額 1,010,809 百万円 842,922 百万円 676,888 百万円 705,874 百万円 事業所数 2,482 2,030 1,611 1,748 従業員数 21,292 人 19,096 人 10,125 人 11,629 人 資料:経済産業省『商業統計表』平成 20 年 11 月公表・平成 27 年 6 月公表速報(ジュエリ ー製品卸売業)、平成 24 年は総務省『経済センサス−活動調査』平成 25 年 11 月公表 (ジュエリー製品卸売業) ※複数の出典からなる上記指標について、各調査項目の定義、調査時点の相違などから、厳 密には両指標の数値と連結しない部分がある。数値の解釈に当たっては留意されたい。 1.宝飾品小売市場は、一時期はバブル期の 3 分の 1 近くに まで落ち込んだものの、平成 25 年度は景気回復と消費増 税前の駆け込みで貴金属を買い求めた消費者が多く、卸売 側も純度の高い地金を用いた商品を増やすなどし、上位企 業の売上高は前年度比でいずれも大幅に伸びた。消費増税 直後は売上の落ち込みが見られたが、東京五輪開催決定や 円安の影響で訪日外国人客が増加しており、国内富裕層と ともに高額な宝飾品の売上を下支えしている。 2.近年、低価格の輸入品が増え、その一方で海外ブランドの 高額品が好まれるなど、海外製品の二極化が目立つ。希少 価値の高い高額品が品薄となって高騰しており、富裕層を 中心とした高額ジュエリーの需要は安定している。その一 方で、ブライダル市場では婚姻数の減少に伴い販売が伸び 悩んでいることから、ブライダルジュエリーブランド間で 競争が激化しており、今後のリスク要因となりうる。 3. 『経済センサス−活動調査』(平成 24 年)をみると、年間 商品販売額 676,888 百万円のうち、従業者規模 2 人以 下 が 41,334 百 万 円(6.1 %)、3 ∼ 4 人 が 90,271 百万円(13.3%)、5∼9 人が 150,808 百万円(22.3%) 、 10∼19 人が 179,888 百万円(26.6%)となっている。 業態研究 ■ 市場動向 平成 24 年末以降、景気回復と並行して進んだ急速な円安の 影響で、地金や色石、ダイヤモンドの価格は高騰し、数量も地 金とダイヤモンドは大幅な伸びを見せている。真珠においても、 一時期は需要減に伴う価格の下落が顕著となっていたが、直近 では価格が上昇傾向にある。その一方で販売数量は伸びていな い。 ■ 企業特性 リーマンショック後の消費低迷と競争激化から企業の選別傾 向が見られる。市場の停滞感を打破しようと独自性の高い商品 を確保し、他社との差別化を図る動きが盛んになっている。ま 2 た、景気回復と同時に富裕層を中心に需要が戻り、高品質の色 石や大粒のダイヤモンドなど、高額品の取扱いを増やす動きが 顕著となっている。 近年は展示会に力を入れる業者が多く、景気回復の波ととも に集客力が強まり、特に百貨店の外商における催事販売などが 好調となっている。 ■ 流通形態 宝石と貴金属の形態は多少の違いが見られるものの、大きな 違いはない。最近の傾向としてメーカーの川下進出への製造卸 売業型の動きが目立つ。 知名度が高くない海外ブランドを発掘して、自社の取扱商品 に組み込む傾向も強く、輸入卸の在庫が増えている。 ■ 営業形態 宝飾業界の古い体質を色濃く残す卸売業が倒産、廃業に追い 込まれている。特に地方問屋といわれる二次問屋にその傾向が 強い。商品力、企画力のある卸売業だけが生き残れる時代にな った。 ■ 資金の流れ 一般的には約束手形が多く、サイトは 90∼120 日程度で ある。(一社)日本ジュエリー協会は、商慣行改善を目指し、 取引基本契約による支払方法を明確にした合意内容を契約書と して書面化する習慣を根づかせる推進を図っている。 流通・資金経路図 営業推進のポイント 2.商品在庫投資に対する運転資金の確保が経営の大きな課題。 3.得意先の売掛金回収が定期的に実施されているか。 ■ 売上の見方 4.委託商品に対する定期的な商品管理ができているか。 1.帝国データバンク『第 57 版全国企業財務諸表分析統計』 5.自社の在庫管理が徹底されており、鮮度管理ができている 平成 25 年度・平成 26 年 11 月発行(貴金属製品卸売 ■ 採算の見方 前掲『第 57 版全国企業財務諸表分析統計』によれば、採算 に関する主な指標は次のとおりである。 総資本経常利益率 1.34% 売上高総利益率 31.95% 売上高営業利益率 1.06% 売上高損益分岐点倍率 1.02 倍 ■ 取引深耕のためのチェックリスト 1.取引先との信頼関係はどうか。お互い困ったときに無理の きく関係をつくっているか。 2.自社独自のオリジナル商品の開発を推進しているか。 3.著名デザイナーとの良好な関係を持っているか。 4.セールスマンの教育、人材育成が図られているか。 5.得意先に新しい商品情報、販売方法を提供しているか。 6.得意先とは一体感を持った姿勢で営業をしているか。 か。 ■ 設備資金 1.商品管理、得意先管理に対するコンピュータ等のメンテナ ンス費が発生する。 2.防災、盗難などのセキュリティシステムの設備費の充実が 必要になる。 ■ 返済原資 収益償還となり、 〔返済原資=税引後利益+減価償却費−(既 往借入返済+既往設備支払) 〕により算定する。 ■〈制度融資ガイド〉 セーフティネット保証 各都道府県・設備近代化資金貸付 自治体の制度融資(中小企業向け) 主な経営指標 項目 調査年 総資本経常利益率 売上高総利益率(粗利益率) 売上高経常利益率 売上高金利負担率 総資本回転率 売上債権回転期間 棚卸資産回転期間 買入債務回転期間 自己資本比率 流動比率 固定長期適合率 売上高増加率 経常利益増加率 1人当たり売上高 集計企業数 平成 23 年度 0.47% 33.55% ▲ 0.58% 1.25% 1.37 回 2.04 月 3.86 月 1.17 月 24.58% 317.16% 39.52% 0.69% ▲ 54.78% 57,117 千円 101 社 平成 24 年度 2.01% 30.79% 0.89% 1.09% 1.42 回 2.01 月 3.48 月 1.17 月 25.06% 280.19% 37.65% 5.10% 148.32% 60,353 千円 101 社 平成 25 年度 1.34% 31.95% 0.26% 1.10% 1.55 回 2.00 月 3.51 月 1.22 月 18.43% 336.99% 35.47% 5.13% 8.42% 66,866 千円 104 社 資料:帝国データバンク『全国企業財務諸表分析統計(第 55∼57 版(平成 24∼26 年発行) ) 』 (貴金属製品卸売業(宝石を含む) ) ■ その他の着眼点 前掲『第 57 版全国企業財務諸表分析統計』によれば、効率 性・安定性に関する主な指標は次のとおりである。 総資本回転期間 12.52 月 固定資産回転期間 3.09 月 自己資本比率 18.43% 流動比率 336.99% 融資判断のポイント ■〈審査のポイント〉 卸売業を取り巻く状況は厳しくなっており、同業者間の競争 も激化する。メーカー主導の系列化が進んでいくことが予想さ れ、 卸売業自体も系列に組み込まれる可能性が高い。海外市場・ 為替相場の把握、存在感発揮のために商品企画力を強化するな ど、小売店に対し影響力を持っているか、宝石の価値を見極め る能力を持った人材を抱えているか。商品在庫の増加による資 金負担が重荷になっていないかのチェックが重要。 ■ 運転資金 1.相場的な要素の強いダイヤモンドや地金商品は、現金決済 が通常であり、運転資金が必要になる。 業界団体 →全国宝石卸商協同組合 東京都千代田区神田佐久間町 4-4 東京美宝会館 4 階 電話 03-5823-1193 http://zho.or.jp/ 3 卸 売 業 業(宝石を含む))によれば、売上に関する主な指標は次 のとおりである。 1 人当たり売上高 66,866 千円 売上高増加率 5.13% 2.店頭での売上比率が弱まり、催事、展示会の売上比率が高 まっている企業が多い。 3.宝飾品の大きな需要といわれた春先の卒業、入学シーズン と年末、X マスシーズンのウエイトが低くなり平準化傾向 にある。 4.消費市場の中心が若者層から中高年層へと変化しており、 大人のマーケットの強化が求められている。 5.ギフト需要も若者中心の恋愛ギフトでなく、キャリア層の 自分への“ごほうび型”が多くなっている。
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