スナネズミの研究(10) 誌名 畜産の研究 = Animal-husbandry ISSN 00093874 菅沼, 眞澄 著者 七戸, 和博 戸津川, 清 村田, 尚 木村, 直子 巻/号 63巻3号 掲載ページ p. 388-390 発行年月 2009年3月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波事務所 Tsukuba Office, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat 3 8 8 ス ナ ネ ズ ミ の 研 究 (10) 菅沼異澄キ・七戸和博*・戸津 μ I 1 青 ** ・ 村 田 9 . 被毛憶の変異と遺伝様式 尚キネ木村直子** て,ライラック,ダブ,ナツメグなど遺伝子配列に 基づいた厳密な呼称が決められている。 NGSでは野 G o l d e na g o u t i )と呼ん 生色をゴールデ、ン・アグーチ ( 1 )ス ナ ネ ズ ミ の 被 毛 色 実験動物として一般的に利用されているスナネ でいる。 M o n g o l i a ng e r b i l ;M e r i o n e su n g u i c u p a t u s )の ズミ ( スナネズミは,被毛色の色素としては黒色と黄色 被毛は,背部が茶色で腹部は白い,野生色あるいは の 2種しか産生しない動物である。全ての被毛色は アグーチと呼ばれる色である。背側面と腹側面の境 この 2種の配合あるいは欠落によって生じ,黒色の 界が明瞭であり,限は黒く,尾全体は背部と同じ色 色素がグレーや茶を呈したり,黄色の色素が赤毛を の被毛で覆われていて先端部は房状になっている 生んだりする。野生色個体の背部は一見すると茶色 (罰1) 1)。 に見えるが,被毛をかき分けてよく見ると本の スナネズミが被毛色の変異に寓んだ動物である 毛全体が均一な茶色ではなく,根本と先端は黒く, ことは,実験動物として利用している人々にはあま 中間が黄色であることがわかる。腹部も根本は黒で 9 7 3年イギリス り知られていない。野生色以外に, 1 あるが,中間から先端は色素が抜けていて白か灰血 で初めて学術誌にアルビノが報告されて以来 2) 多 であるため,腹部全体が白色に見える。 くの被毛色が発見されている。そのような被毛色の 2 )被 毛 色 を 決 定 す る 遺 伝 子 産 変異個体は「カラージャービル j や「ファンシー スナネズミの被毛色を決定する遺伝子鹿は以下 ジャービノレj などと表示されてベットとして珍重さ の 7つが知られている。(優性遺伝子は大文字,劣 れている。日本のベットショップでは,被毛色の名 性遺伝子は小文字で表記する。) 称が統一されていない上に遺伝学的表現型の呼称 ではなく通称、で呼ばれることが多いため,正確でな A-アグーチ遺伝子座腹部の白色と縞模様を支配 する。 a a )になると背部と捜部の境界がなく 劣勢ホモ ( く混同して用いられることもある。 a t i o n a lG e r b i lS o c i e t y (NGS),米 英国には TheN なり陪ーの毛色になる。単独ホモ{間体 (ααC切 - mericanG e r b i lS o c i e t y ( A G S )とし、うス 国には TheA E-G-Pう(ーは任意の遺伝子)は全身の被毛が黒色 ナネズミの愛好団体があり,毎年品評会も開催され (ブラック)になる 1, 3, 4 ) ( 図2 )。 ている。被毛色については約 40種類が知られてい 図 l アグーチ *東京医科歯科大学大学院 ( MasumiSuganuma,K a z u h i r oS h i c h i n o h e ) 料山形大学農学部 ( K i y o s h iT o t s u k a w a,NaokoK i m u r a ) 聞東北大学大学院農'判官T 究科 ( T a k a s h iM u r a t a ) 0 3 6 9 5 2 4 7 / 0 9 /干5 0 0 / 1論文/JCLS 3 8 9 管沼:スナネズミの研究(10 ) E-エクステンション遺伝子座:黒色と 黄色のバランスを決定する。 e 一被毛全体の黒色を減らし,黄色に変 A-CDe eG化させる。単独ホモ個体 ( p→はダーク・アイド・ハニーと呼ばれ, 野生色の背部の黒色が消失し暁るく淡 い茶 オレンジ色になる 6 ) 。 E ! 黒色が減り黄色に取って代わるが, 年齢と共に色が薄くなる。ホモ{匝体は 関 2 ブラック シュメールと呼ばれ全身がオレンジ色 になる。 G グレー遺伝子座 黒色と黄色の濃 さを支配する。 g-黄色色素がほとんどなくなり黒色 は薄められてグレーになる。ホモ個 ( A-C τD-E すg Pうは全体が灰色になり, グレー・アグーチ(チンチラ)と呼ばれ る 7 ) 。 P ピンク・アイド・ダイリューション 遺伝子座.眼と全身の毛色を薄くする 。 8 ) p-黒色がほとんど抜けて黄色も薄く なり隈の色は赤くなる。単独ホ 凶 3 ( A-C…D-E-G-p p )はアージェント・ゴー スボッテッド・ブラック ノレデ、ン(シナモン)と呼ばれ,背部は明 C-アルビノ遺伝子産・全身の色素産生量を決定す る 。 るいオレンジ色,腹部は白,眼は赤になる。 Sp ースポット遺伝子座:全ての毛邑(全身が白色の C c h m ーチンチラ・ミディアム遺伝子:毛色を薄くす (aC c h m るが,鼻・耳:・尾などに邑素が残る。ホモ個体 α c c i l l l l D E-Gヂーうはパーミーズと呼ばれ,全身が薄い 茶色で鼻・耳・剖肢は濃いセピア色,尾は窯く眼は 黒い針。 h cーヒマラヤン遺伝子:毛色と認を含む全身の色 素をほとんどなくすが,尾に色素が残る。ホモ個体 ものを除く)に白斑を生じさせる遺伝子である。白 斑個体でなければ通常は遺信子表記をしない。 Spは優│生遺伝子で, 1つ持つと頭部・頚部・腹部・ )。し 尾に白斑を生じ,全体の毛色も淡くなる(密 3 たがって白斑のない個体同士の交配からは白 体は生じない。この遺伝子はホモ致死であるため, / 4 白斑個体同士の交配では予定される産仔のうち 1 hc h D E-GPうはダーク・テイルド・ホワイト ( 一 一c は給内で死亡し,生存産仔の 2 / 3は あるいはとマラヤンと呼ばれ,全身が白色で尾端が 斑のない姐体となるし針。 黒く眼は薄いピンク色である。 3 )野 生 色 h c C h m C _ 上記 2つの遺伝子をヘテロで持つ個体 ( a a h C c i l l l l P )は中期の表現裂となり,全身がク CD-E-G、セピア急にな リーム甑に近い茶色で尾だけ り,眼は濃いルビー色で、ある 5 ) 。 D-ダイリューション遺伝子鹿:色の濃さを支配す る 。 d 色素頼粒の凝集によって元の色を変化させる。 1 / 3は白 上記全ての遺伝子座に優性遺伝子が少なくとも 1 つあれば,野生自(ゴールデン・アグーチ)となり, 遺伝子表記は A-C古 …E GPーとなる。したがって, AACCDDEEGGPP AaCCDDEEGGPp A αC CDDEEGgPpはし、ずれも野生色となる。 4 )ア ル ビ ノ ・ ホ ワ イ ト 民本で一般にアルビノあるいはホワイトと 3 9 0 畜 産 の 研 究 第 6 3巻 第 3号 れる白色の被毛色は,正確には以下の遺信子型に分 けられる 5 ) (2009年) ミの完全なアルビ、ノ個体の存在は確定できていない。 。 一c "c"D-E--p p:ピンク・アイド・ホワイト 文献 尾端を含む全身が白色で股が赤く,完全なアルビ ノに近い (pseudo-albino)。 一c " c " D E一 一 …p-:ダーク・テイルド・ホワイト(ヒ マラヤン) 全身が白色で尾端が黒く践は簿いピンク色にな る。年齢や飼育温度によって尾端の色素の濃度が変 化すると言われている。 aaC-D-Eg gpp:!レピー・アイド・ホワイト 全身が均一な白色で設が赤い。 c"De eggP-:ブラック・アイド・ホワイト でc l l I l I 上記 4 種の被毛色は厳密にはいずれも acromelanisticalbinoと呼ばれる不完全なアルピノで ある。完全なアルビノ(c c )は過去に一報だけ日本で 1 0 ) 司 ー 全身が均一な白色で眼が黒い。 報告されたことがあるが 1 )S h i m i z u, M., S h i c h i n o h e, K ., T s u k i d a t e, S .andF u j i t a, K .1 9 9 0 .B a s i c s t u d i e sont h eMongoliang e r b i la sas u s c e p t i b l eh o s tt of i l a r i a l ヒ c t i o n .C o m p a r a t i v es t u d i e song r o w t ha n dr e p r o d u c t i o namong i n f r o p c o a tc o l o rm u t a n t sa n dg e n e t i ca n a l y s i sofc o a tc o l o r s .JapanJT MedHyg ,1 8,3 0 1 1 0 . R .1 9 7 3 .A c r o m e l a n i ca l b i n i s mi nmammals.G e n e t i c a44, 2 )R o b i n s o n, 454-8 .H .,T o f t1 1,J .D . and Olsen,N.W. 1 9 7 4 .M a l i g n a n t 3 ) C r a m l e t,S melanomai nab l a c kg e r b i l( M e r i o n e su n g l l i c l Il a t l l s )I α bAnimS c i 24,545-7 A .D .andP o o l e, T .W.1 9 8 0 .G e n e t i ca n a l y s i soft h eb l a c k 4 )Waring, p i g m e n tm u t a t i o ni nt h eMongoliang e r b il .JHered7 1,4 2 8 9 . F ., vanVeen, K., M e t t l e r ,M.andBruckmann,V.2001 .A 5 )P e t r i j, s e c o n da c r o m e l a n i s t i ca l l e l o m o r p ha tt h ea l b i n ol o c u s oft h e M e r i o n e s間 ' g l l i c l Il a t l l s ) JHered92,74-8 Mongoliang e r b i l( .,M e t t l e r ,M.,B印 ckmann,V. and van Veen,K. 2007 6 ) P e t r i j,F M e r i o n e su n g l l i c l I l a t u s ) R e c e s s i v ey e l l o wi nt h eMongoliang e r b i l( JE : λp、AnimSc i43,319-27 ,B .D .andRobinso民 主 1 9 8 5 .Graym u t a n ti nt h eMongolian 7 )L e i p e r .JHered76,473 g e r b il 8 )Henley ,M. and Robinson,R .1 9 81 .Non-agouti and pink-eyed d i l u t i o ni nt h eMongoliang e r b il .JHered7 6,60-1 . 9)Waring, A .D ., P o o l e, T .W.andP e r p e r , T .1 9 7 8 .Whites p o t t i n gi n .JHered69, 3 4 7 9 . t h eMongoliang e r b il T ., Yasuda, Y .andNonaka, S .1 9 8 9 .Theg e n e t i c sofc o a t 1 0 )M a t s u z a k i, M e r i o n e sl In g l l i c l Il a t l l s ) .E : ψ Anim c o l o r si nt h eMongoliang e r b i l( 3 8, 337-41 . 続報がなく,ピンク・ アイド・ダイリューションを背景に持つ色だ、ったか, あるいは他の遺伝子の修飾を受けたものだ、った可 能性が否定できない。すなわち現段階ではスナネズ 農業畜産情報 胆 膏 豚 生 産 費 8%増 , 所 得 は 1%減 農水省・統計部がこのほど発表した平成 の肥育豚生産費によると 19年度 円となった。配合銅料価格は高騰したものの,枝肉 1頭当たりの全算入生産 相場の堅調推移で所得の減少は小幅なものにとど 費(資本利子,地代金額算入)は前年比 8.0%増の 3万 4, 021 円となった。生産費の増加は,配合飼料 高騰による飼料費の値上り(14.2%増)が要因。 l戸当たりの飼養月平均頭数は 684.0頭で前年よ 1 頭当たりの粗収益は,枝肉価格が高値(販売価格は 前年比 まった。 B~ 育豚 1 頭当たりの粗収益は平成 16 年以 降 4年連続で増加している。 7.5%上昇)で推移したため前年比 7.1%増 の 3万 4,886丹となり,所得は1.0 %減少して 4,813 り 0.5 頭増加したが,年間の B~ 育豚販売頭数は 1, 137頭で前年より 5.8%減少した。繁殖めす豚飼 養月平均頭数も 68.9頭で1.3 %減少している。 ム平成 19年度肥育豚生産費およびi l 文益性( 1望 見 当 た り ¥ 事 長' L :内,カッコ内前年比%) 平均 2ヂ頭耳王強脊 平均 2千頭以王街菅 29, 339 ( 109.9) 27, 708 ( 113.5) 粗収益 34, 886( 107.1 ) 34, 038 ( 1 0 7 . 5 ) 物財費 労働費 4, 384 ( 9 8 . 8 ) 2, 877 ( 9 2 . 2 ) 所得 4, 813 ( 9 9 . 0 ) 4, 871 ( 9 3 . 8 ) 費用合計 33, 723 ( 1 0 8 . 3 ) 30, 585 ( 1 11 . 1 ) 家族労働報酬 4, 015( 1 0 3 . 5 ) 4, 168 ( 91 .9) 全算入生産費 34, 021 ( 1 0 8 . 0 ) 31 , 170 (111 .5) 日E きたり労働報酬 12, 450( 9 9 . 5 ) 30, 591 ( 7 6 . 8 ) (設)販売月齢 6.4ヶ月,販売時全体重 112.2kg(前年 6. 4 ヶ 月 , 販売価格 34, 195円(前年比 107.5%) 112.2kg)
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