訴 状 - 世界遺産・原爆ドームを守る会

訴
状
2015(平成27)年6月11日
広島地方裁判所
御中
原告ら訴訟代理人
当
事
弁護士
石
弁護士
和
弁護士
藤
口
田
俊
森
井
一
智
裕
者
別紙当事者目録のとおり
河川占用許可等取消請求事件
訴 訟 物の価額
金160万0000円(×19)=3040万円
EA
貼用印紙額
A
第1
EA
金
11万3000円
1
請求の趣旨
国土交通省中国地方整備局長が平成26年12月12日付で株式会社かな
わに対してなした河川占用許可及び工作物の新築等の許可処分を取り消す。
2
訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
第2
1
請求の原因
当事者
(1)1945(昭和20)年8月6日の原爆投下による惨禍は、その記憶が
風化してしまわないように、不断の努力によって語り継がれなければなら
1
ない。記憶は失われるものであるが、失ってはならない記憶は確実にある
のであって、原爆の恐ろしさ、戦争の悲惨さは、まさに失ってはならない
記憶である。なぜなら、原爆の恐ろしさや戦争の悲惨さを忘れれば、戦争
をすることや原爆をはじめとする核兵器の使用を躊躇う理由が無くなり、
再び取り返しのない惨禍を招くことになりかねないからである。
(2)原爆ドームが、核兵器による破壊と戦争の悲惨さを後世に伝える場所と
して世界遺産に登録されたのも、被爆者の慟哭と死者への鎮魂、被爆の実
相を世界の人々に伝える負の遺産として、歴史的な役割を持っているから
こそである。
そして、原爆ドームの世界遺産登録は、決して自然発生的になされたも
のではなく、広島市民一人一人の思いとそれに賛同した全国各地の市民の
努力が、国会・日本政府を動かし、世界に伝わったからである。
(3)原告らの中には、原爆ドームの世界遺産化を進める運動に当初から積極
的に関わった者がおり、その運動の結果、原爆ドームが世界遺産に登録さ
れた歴史からすれば、「鎮魂と平和への祈念の場」としての原爆ドームと
バッファゾーンを創りあげた多くの人々の一人である。
その世界遺産のバッファゾーン内の、後述の「かき船」の新設置場所で
酒食を提供する営業を許すことは、「鎮魂と平和への祈念の場」の意味を
失わせ、世界遺産の保護に反する行為であり、原爆ドームの世界遺産登録
に尽力し、それを保護しようとしている原告ら多くの人々を裏切ることで
ある。
このような原告らには、原爆ド-ムを世界遺産として保護する責務とと
もに、鎮魂と平和への祈念の場を失わせる行為を止める責務があるもので
ある。
(4)原告らの中には、現に8月6日に原爆の惨禍を体験した被爆者がいる。
原爆ドームとその周辺を「鎮魂と平和への祈念の場」として最も強く受け
2
止める者は、原爆による被曝の惨禍を体験した被爆者である。被爆者の鎮
魂と平和への祈りは、人間の尊厳に関わるものとして尊重されなければな
らないが、それは被爆者の人格的利益といってよいものである。
また、ある原告は、原爆によって、当時、現在の加古町にいた筈の父親
が行方不明となったまま帰らなかったが、もし父親が水を求め、火を避け
て川へ逃れていれば、まさに今の平和記念公園の側を流れる川の何処かに、
父親の遺骨が今もなお眠っているかもしれない。このように元安川をはじ
めバッファゾーン内が、原爆で亡くなった肉親が眠る場所である者にとっ
ては、そこで酒食が饗される施設の営業がなされることは、耐え難い苦痛
である。
このように、被爆者本人や肉親を亡くした者原告らが、「鎮魂と平和へ
の祈念の場」が壊されることに対して、それを止める権利があるのは当然
である。
(5)後述の「かき船」の新設置場所は、バッファゾーンの中でも、「原爆犠
牲ヒロシマの碑」の目と鼻の先であり、元安川の中に散らばった原爆瓦の
発掘現場である。
この「原爆犠牲ヒロシマの碑」は、高校生を中心にして、広く広島市民
が参加して進められた原爆瓦発掘運動の成果として、1982(昭和57)
年に建立されたものである。
原爆瓦発掘運動・「原爆犠牲ヒロシマの碑」建立運動に参加した若者た
ちはもちろん、「原爆犠牲ヒロシマの碑」の前に立つ現在の若者たちも、
火ぶくれ、泡だった原爆瓦を見て、原爆の惨禍を想像し、被爆死を遂げた
犠牲者の無念を思い、核廃絶を決意し、世界平和の実現を誓うのである。
このように、「原爆犠牲ヒロシマの碑」は、鎮魂・継承・学習の碑と位置
付けられ、原爆犠牲者の鎮魂と被爆体験の継承、平和学習の象徴となって
いる。
3
そして、原告らの中には、この原爆瓦発掘運動を開始し、高校生達をリ
ードし、「原爆犠牲ヒロシマの碑」建立に関わり、その後の碑の維持管理
や保全を担ってきた者がいる。
この「原爆犠牲ヒロシマの碑」の前に、河岸緑地の樹木を切り倒し、原
爆瓦がまだ川底に残る元安川の中に、料亭船の「かき船」が新設されるこ
とは、鎮魂・継承・学習の碑としての意味を全く失わせるに等しいもので
あり、原告らにはその行為を止める権利や責務がある。
(6)原爆ドームが世界遺産に登録された経緯や意味、バッファゾーンの持つ
意味を正確に理解していれば、河川敷地占用許可準則第22・5項に定め
る「地域の合意」を云々するまでもなく、最低限、広く広島市民を対象に
事前説明を行い、コンセンサスを得なければならないはずである。
ところが、実際は、後述の「かき船」の新設置場所の目の前であるマン
ションの住民や、中区大手町二丁目の住民、先の「原爆犠牲ヒロシマの碑」
の管理をしている人達に対してすら、事前説明は行われていなかった。
原告らの中には、「かき船」の新設置場所の目の前のマンションの住民
や、大手町二丁目の住民らがいるが、誰一人として「かき船」新設置につ
いて、事前の説明を受けた者はおらず、気が付いたときには本件各処分が
出ていたというのが実態である。
このような原告らは、河川敷地占用許可準則第22・5項に定める「地
域の合意」の対象となる者たちであり、合意のないままになされた本件各
処分について、その手続きが欠けていること、ひいては処分は違法である
ことを主張する利益を有している。
(7)また、「かき船」の新設置場所の目の前のマンションの住民や、大手町
二丁目の住民らにとっては、台風や集中豪雨の際に、護岸に繋留されてい
る「かき船」が濁流に揉まれ、護岸に激突して護岸を損傷させ、河川の濁
流の浸入を受ける危険性が予想される。
4
従って、このような原告らにとっては、後述の「かき船」の新設置は、
自分たちの生命や財産、幸福を追求する権利に対する重大で深刻な被害と
侵害をもたらす危険があるから、自分たちの権利を守るために「かき船」
の設置を認める処分の撤回を求め、取消を求める権利がある。
2
本件河川占用許可等の処分(以下、「本件各処分」という)について
(1)株式会社かなわ(以下、「かなわ」という)は、平成26年12月1日、
国土交通省中国地方整備局長に対し、以下の内容の河川法第24条、第2
6条第1項の許可を申請した(甲1)。
①
土地の占用
ⅰ
河川の名称
一級河川太田川水系元安川
ⅱ
占用の目的及び態様
かき船及び桟橋等
ⅲ
占用の場所
広島市中区大手町一丁目地先
ⅳ
占用の面積
303.33㎡
かき船:303.33㎡
ワイヤー:50.8m
ⅴ
②
占用期間
平成29年3月31日まで
工作物の新築、改築、除却
ⅰ
河川の名称
一級河川太田川水系元安川
ⅱ
目的
かき船及び桟橋等の設置
ⅲ
場所
広島市中区大手町一丁目地先
ⅳ
工作物の名称又は種類
かき船及び桟橋等
ⅴ
工作物の構造及び能力
別紙図面のとおり
下:鋼船
上:鉄骨構造
ⅵ
工事の実施方法
別紙図面のとおり
ⅶ
工期
許可の日から平成17年7月31日
5
ⅷ
占用面積
303.33㎡
ⅸ
占用の期間
平成29年3月31日まで
(2)訴外広島市内水面漁業協同組合、株式会社アクアネット広島、株式会社
アクアネットサ-ビスは、平成26年10月28日付け同意書により、「か
なわ」が広島市中区大手町一丁目地先の一部において、かき船繋留(桟橋
を含む)設置、操業に異議なく同意している。
(3)国土交通省中国地方整備局長は、「かなわ」に対し、平成26年12月
12日、以下の内容の河川法第24条、第26条第1項の許可をした(甲
2)。
ⅰ
河川の名称
太田川水系
ⅱ
目的
かき船及び桟橋等の設置
ⅲ
場所
広島市中区大手町一丁目地先
(左岸
元安川
2K300付近)
ⅳ
工作物の名称又は種類
かき船及び桟橋等
ⅴ
工作物の構造及び能力
申請書のとおり
ⅵ
工事の実施方法
申請書のとおり
ⅶ
工期
許可の日から平成17年7月31日
(ただし流水に影響する工事は平成2
7年6月10日までとする)
ⅷ
占用面積等
占用面積303.33㎡
かき船:水面235.391㎡
護岸67.938㎡
ワイヤ-チェ-ン:50.8m
ⅸ
3
占有の期間
許可の日から平成29年3月31日
本件処分までの経緯について
(1)「かなわ」は、1963(昭和38)年から、広島市中区の平和大橋下流
6
の元安川左岸(現在地)にかき船を設置して料亭を経営していたが、19
91(平成3)年9月頃、台風19号によりかき船が流され平和大橋に衝
突し損傷を与えたこと等から、国は、1997(平成9)年から2007
(平成19)年まで、「かなわ」に対して、かき船の撤去検討を文書で要請
していた。
(2)国は、2008(平成20)年9月頃、広島市に対して、かき船の位置
づけ(存続可否)について意見照会をしたが、広島市は「かき船は貴重な
観光資源の一つであり、存続が可能となるように協議を行いたい」旨を回
答した。
さらに、2012(平成24)年3月頃、広島市は、かき船を観光資源
として、市が治水対策を検討する旨を国に回答したので、国は先の場所で
の平成24年度の河川占用を許可した。
(3)広島市は、2013(平成25)年3月、かき船を存続させるための対
策(護岸を切り欠き、死水域を広げ、その範囲にかき船を収める)を検討
したが、護岸の切り欠き工事費用が金6億3030万円という試算結果や
市道・緑地の廃止範囲が広がること等から、市民生活への支障が大きくて
困難と判断して、護岸の切り欠きは断念した。
(4)国は、2013(平成25)年3月、「かなわ」に対し、平成25年度中
に対策を講じなければ、翌2014(平成26)年3月31日より後の河
川の占用許可は認めない旨を伝えて上で、平成25年度の河川占用を許可
した。
(5)2014(平成26)年3月、「かなわ」が国に対し、移転についての具
体的な行程表を提出し、広島県知事と広島市長が連名で国に要望したこと
を受け、国は、平成26年度における先の場所での河川占用を許可した。
(6)その後、広島市は、国と協議を重ね、また、国・広島県・広島市の行政
担当者や経済・観光関係団体担当者などにより構成される「水の都ひろし
7
ま推進協議会」(以下、
「協議会」という)などで検討を重ねていたが、「か
なわ」からも、2014(平成26)11月7日、広島市に対して、存続
に向けての要望書を提出した。
(7)広島市は、かき船を従来の位置から約400メートル上流の原爆ドーム
近くのレストハウス対岸である本件処分の対象となる区域(元安橋東詰南
側)に移し、そこに水面からの高さ約7メートルで幅約20メートルの2
階建て水上レストランのかき船を新設による「かなわ」の営業を継続させ
るため、同年11月26日、国に対し、上記区域(元安橋東詰南側)を、
都市・地域再生等利用区域等に指定するように要望した。
先の協議会は、同年11月27日、「かなわ」のかき船の繋留地を平和大
橋下流から本件処分の対象となる区域(元安橋東詰南側)に移転した上で
の営業活動が可能となるために必要な事項を承認した。
(8)国土交通省中国地方整備局長は、同年11月28日、本件処分の対象と
なる区域(元安橋東詰南側)を、都市・地域再生等利用区域に指定したの
で、これを受けて「かなわ」が前記の河川法第24条、第26条第1項の
許可を申請し、本件各処分が出された。
4
法令遵守に関わる問題
(1)河川法では、河川内に船舶繋留施設を設置する場合は、同法第1条によ
り「災害の発生が防止されるように」設置されること、工作物設置許可基
準(平成6年9月22日付け建設省河治72号建設省治水課長通知)第4
2、43条に基づくことが求められている。
本件各処分により、「かなわ」がかき船を設置する元安橋東詰南側は、広
島市や中国地方整備局長によれば、太田川デルタ内にある2箇所の「死水
域」であり、新たなかき船はその範囲に収まるので河川法に反することは
ないというものである。
なお、「死水域」とは、「河道内の水面部分で流れのない場所、あるいは、
8
流れがあっても渦状の場所で、流量の疎通に関係のない部分をいう」とさ
れているが、一般には「主に河道の急拡、急縮、湾曲、構造物の陰、樹木
の密生等により生じる」といわれる。
(2)また、従来、河川法では、河川敷地の占用主体は、公共性、公益性を有
する者等に限定されていたが、2011(平成23)年3月に「河川敷地
占用許可準則」が一部改正をされ(後述)、都市及び地域の再生等に資す
る目的で、国が「都市・地域再生等利用区域」を指定し、河川敷地の利用
調整等に関する協議会等において適切と認められた場合には、民間の事業
者等が営業活動のために占用できるようになった(甲3、4)。
なお、この区域を指定する場合は、地元の地方公共団体から要望を受け
て、国が指定する。
広島市や中国地方整備局長によれば、本件処分により、「かなわ」がかき
船を設置する元安橋東詰南側は、広島市の要望を受けて国が「都市・地域
再生等利用区域」に指定しており、協議会も「かなわ」を事業者として適
切と認めているから河川法に反するものではないとしている。
(3)また、広島市が要望して国が「都市・地域再生等利用区域」に指定した
ことに関しては、広島市は、新たな「かなわ」によるかき船の設置場所は、
「原爆ド-ム及び平和記念公園周辺建築物等美観形成要綱」(平成7年広
島市策定)の対象地域であるが、この要綱に基づく景観協議を行った上、
運用開始前である「広島市景観計画」(平成27年1月から運用開始)の
対象区域でもあるから、この計画の方針及び基準に基づき先取り指導をし
ているので、問題はないとしている。
(4)しかし、後述のように、世界遺産である原爆ドームのバッファゾーン内
での河川占用であることから、単に河川法上の可否、適否を判断するだけ
では不十分であることや、河川敷地占用許可準則の適用にも誤りがあり、
9
本件各処分の取消しは免れないものである。
5
本件処分の違法について(その1)-世界遺産条約の違反
(1)世界遺産の原爆ドーム
広島市は、世界で初めて原子爆弾が投下された都市であり、1949(昭
和24)年に制定された広島平和記念都市建設法に基づき、原爆ド-ムを
北の起点として、戦前の住居、繁華街であった地域を全面的な換地を行っ
て、1955(昭和30)年に広島平和記念公園が整備された。
その後、風化が激しくなった原爆ドームの取り壊しの議論も浮上したが、
広島市民による保存運動を受けて、1966(昭和41)年に広島市議会
が原爆ドームの永久保存を決議した。
1992年(平成4年)、広島市議会は、「原爆ドームを世界遺産リスト
に登録することを求める意見書」を採択し、広島市長が文化庁に要望書を
提出する中、これに賛同する多くの広島市民をはじめとする全国的な署名
活動が行われ、1994(平成6)には165万人を越える署名と添えて
国会請願が衆議院と参議院の両院本会議で採択された。これを受けて、国
は、1995(平成7)6月、原爆ドームを文化財保護法に基づく史跡に
指定したうえで世界遺産委員会に対して登録の推薦をした。
その結果、1996(平成8)12月、原爆ドームは、「人類史上初めて
使用された核兵器の惨禍を如実に伝え、時代を超えて核兵器の廃絶と世界
の恒久平和の大切さを訴え続ける人類共通の平和記念碑」として、ユネス
コの平和遺産一覧表に登録された。
(2)「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」
(以下、
「世界遺産条
約」という)は、条約の締結国に対して、
「文化遺産」の認定と区域を定め
(第3条)、当該「文化遺産」を保護し、保存し、整備活用し、来るべき世
代へ伝承することが自国に課せられた義務であることを確認し、自国の有
する全ての能力を用いて、取得しうる限りの国際的な援助及び協力、特に、
10
財政上、美術上、科学上及び技術上の援助及び協力を得て最善を尽くすこ
とを求めている(第4条)。
さらに、条約締結国は、当該「文化遺産」の保護や保存などを目的とし
て、総合計画、職員配置、遺産を脅かす危険への対処、法的、科学的、技
術的、行政的及び財政的措置をとることとされている(5条)。
(3)また、世界遺産条約の第11条5項において、世界遺産リストへの搭載
基準(オペレーショナル・ガイドライン)が決定され、文化遺産の適切な
保護のためにその周辺に適切な「バッファゾーン」を設けること、またそ
れに必要な保護が与えられなければならないとされている。
この「バッファゾーン(緩衝地帯)」とは、当該遺産の物理的状態及び遺
産を理解する方法に決定的な影響をもつ周辺地帯であり、当該遺産の利用
に課される法的または慣習的な制約のある周辺地帯である。
そして、「バッファゾ-ン」は、
「推薦された遺産の直接の背景(setting)、
重要な風景、遺産とその保護を支える重要な機能をもつ他の地域または付
属物(attributes)を含まなければならない」だけでなく、「世界遺産登録
後にバッファゾーンに加えた如何なる変更も世界遺産委員会の同意を得な
ければならない」とされている(オペレ-ション・ガイドライン2005
年版)。
(4)以上のような世界遺産条約に定めている国の責任、広島市の行政の責任
の重みを考えると、世界遺産である原爆ドーム及びバッファゾーンを含む
周辺地域については、
「人類史上初めて使用された核兵器の惨禍を如実に伝
え、時代を超えて核兵器の廃絶と世界の恒久平和の大切さを訴え続ける人
類共通の平和記念碑」を基本として、祈りの場、追悼の場としてふさわし
い環境を整えなければならない条約に基づく義務がある。
ところで、広島市が作成した「平和記念施設保存・整備方針」(平成18
年3月策定)によれば、別紙添付の図面のとおり、原爆ドーム、平和記念
11
公園、これらに接する相生橋や平和大通りの一部、元安川などの河川の一
部を「バッファゾーン」としている(広島市のコメントでも、「世界遺産で
ある原爆ド-ムの周囲に良好な環境を確保するための緩衝地帯」とされて
いる)。
また、前述の「広島市景観計画」においても、景観形成の方針で定めら
れた「A地区(平和記念公園地区)」は、上記バッファゾーンの中の一部で
あるが、「平和記念公園と平和大通り等の道路、橋りょう、河川、河岸緑地
を含む地区とし、平和記念公園の役割にふさわしい良好な景観の保全及び
形成を図ります」とされる地区である。
そして、上記の新たな「かなわ」のかき船設置場所は、世界遺産のバッ
ファゾーンの中にあり、またA地区(平和記念公園地区)の中にある。
(5)よって、被告は、世界遺産条約の締結国として、世界文化遺産である原
爆ド-ムの保護の観点から、上記の新たな「かなわ」のかき船を設置する
場所が、原爆ドームのバッファゾ-ン内にある河川の利用としてふさわし
いか否かについて検討しなければならない。被告が、その検討を行えば、
「かき船」という名の酒食を提供する河川内料亭を設置することは、「人類
史上初めて使用された核兵器の惨禍を如実に伝え、時代を超えて核兵器の
廃絶と世界の恒久平和の大切さを訴え続ける人類共通の平和記念碑」を基
本とした、祈りの場、追悼の場にはふさわしいものでないことは明らかで
あるから、設置を認めることは世界遺産条約に違反するものである。
また、仮に、かき船の設置をしようとする場合には、前述の通り、世界
遺産委員会の同意を得なければならないのに、被告はその同意も得ること
なく設置を認めたが、これもまた世界遺産条約に違反するものである。
(6)現に、本年1月29日、世界遺産委員会の諮問機関であるイコモス(国
際記念物遺跡会議)のうち日本国内のイコモス会員で組織される日本イコ
モス国内委員会から、広島市長に対して、原爆ドームのバッファゾーン内
12
におけるかき船移動設置についての懸念表明が出された(甲5)。
そこでは、原爆ドームが、人類の悲惨な歴史を語り継ぎ、恒久平和を祈
念する場として、アウシュビッツと同じく世界遺産に登録された特別の性
格を持つ人類共通の遺産であること、バッファゾーンは、単に遺産周辺の
景観を規制し整えるだけでなく、資産の持つ鎮魂と平和への祈念の意味と
の深い繋がりを持ったエリアとして認識されるべきであること、バッファ
ゾ-ンの中でも、かき船が原爆ド-ムの近づくこと、対岸とはいえ平和公
園の横に位置すること、左岸には多くの慰霊碑が設置されていること等を
鑑みると、強い懸念を抱かざるを得ないことなどを指摘したうえで、もっ
と多くの市民や被爆者の方々を交えての徹底的な議論が必要だと述べられ
ている。
6
本件各処分の違法について(その2)-河川敷地占有許可準則の違反①
(1)はじめに
河川は、国や地方自治体が管理する場所であり、散歩や遊泳は誰でも自
由にできるが、運動施設、公園、休憩所、便所、花壇、通路、ベンチ、船
着場などを設置するときは、河川法第24条による河川管理者の許可(河
川区域の土地の占用の許可)を受けなければならない。
前述の「河川敷地占有許可準則」は、河川敷地を占用する際やその他の
工事等を行うに必要な河川法上の許可の審査基準である。この審査基準は、
行政官庁が許可や認可といった行政処分を行うとき、その判断の基準とし
て策定・公表することが求められており(行政手続法5条)、行政官庁はこ
れに基づいて行政処分を行わなければならない。
審査基準に違反した行政処分は違法となるから、前述の「かなわ」に対
して行われた本件各許可処分は、審査基準であるこの準則に適合していな
ければならない。
(2)太田川水系の元安川は、国の管理する一級河川であり、
「かなわ」は、こ
13
れまで河川管理者の許可を得て平和大橋下流にかき船を係留して営業して
いるが、新たな場所で新しいかき船を係留して営業しようとするのであれ
ば、新たな河川占用の許可を受けなければならない。
ところで、河川占用の許可は、以前は公共性・公益性を有する者等に限
定されていたが、最近、国土交通省は方針を改め、「営業活動を行う事業者
等による河川敷地の利用を可能とするため、都市及び地域の再生等のため
に利用する施設」による河川占用を特例として認める方向を打ち出し、河
川敷地占用許可準則を改正した(平成23年3月8日国河政135号国交
省国土交通事務次官通達)。そして、この改正により、特例的に民間の事業
者による「船上食事施設」などの占用許可が可能となった。
(3)国土交通省の河川局長による1999(平成11)年8月の通達(現行
の通達である)は、準則改正の視点として、河川の「占用の許可に当たっ
ては、景観や自然環境との調和を図りつつ街づくりへの活用を図ること、
及び地域の意見を十分に反映することが重要である」としている。
また、前記準則の第1(目的)には、
「この準則は、河川が公共用物であ
ることにかんがみ、治水、利水及び環境に係る本来の機能が総合的かつ十
分に維持され、良好な環境の保全と適正な利用が図られるよう、河川敷地
の占用の許可に係る基準等を定め、地域の意向を踏まえつつ適正な河川管
理を推進することを目的とする」と定め、「(準則)第8から第11までの
占用の基準に該当し、かつ、河川敷地の適正な利用に資すると認められる
ときに許可することができるものとする」としている(準則の第5・1項)。
(4)まず、準則の第11・1項では、「河川敷地の占用は、河川及びその周辺
の土地利用の状況、景観その他自然的及び社会的環境を損なわず、かつ、
それらと調和したものでなければならない」としている。
本件かき船の新設場所が、前述のとおり、原爆ドームのバッファゾーン
内にある元安川であることを考えると、この準則第11・1項でいう「景
14
観その他自然的及び社会的環境」とは世界遺産である原爆ドームのバッフ
ァゾーンの「景観」であり、「社会的環境」である。
すなわち、原爆ドームのバッファゾーン内であり、原爆ドームに近接し
た場所である元安川に、新たにかき船を設置することは、酒食を提供する
料亭が作られて営業することであるから、
「鎮魂と平和の祈念の意味」をも
つ原爆ドームの「直接の背景、重要な風景、遺産とその保護を支える重要
な機能をもつ他の地域または付属物」に否定的な影響が生じさせ、景観や
社会的環境を損なうことは明らかである。
とすれば、前述のように、本件かき船の新設置を認めた本件各処分が、
世界遺産条約に基づく文化遺産の原爆ドームの保護に違反するものである
ことも併せ考えれば、準則第11・1項に違反するものであることは明ら
かであり、この点を全く審査せず、見過ごした本件各処分は違法である。
また、最近、かき船設置のための工事が開始されたが、この工事により
本件かき船が接岸する東部河岸緑地(広島市は「公園」として管理してい
ないようであるが、明らかに公共用行政財産であり、都市公園法の「公園」
として管理されるべきものである)の樹木などが伐採され、広島平和記念
公園に接続する東部河岸緑地の景観は著しく毀損されている。このような
景観・環境の破壊は容易に想定できたものであり、この点からも本件各処
分は準則第11・1項に違反し、違法である。
(5)次に、準則の第11・2項では、「河川敷地の占用は、景観法に基づく
景観行政団体が景観計画に法第24条の許可の基準を定めた場合には、当
該計画に定める基準に沿ったものでなければならない」としている。
これまた前述の通り、広島市が平成27年1月から実施する広島市景観
計画の中で、「原爆ドーム及び平和記念公園周辺地域」の景観形成方針とし
て、
「世界遺産である原爆ドーム及び平和記念公園においては……平和を祈
り、平和を考え、安らぎ、くつろぐことができる環境を整えていく必要が
15
あります」と述べている。
そして、本件かき船の新設場所は、「A地区(平和記念公園地区)」とし
た上で、
「平和記念公園の役割にふさわしい良好な景観の保全及び形成を図
ります」としている。
とすれば、前述のように、本件かき船の新設置を認めた本件各処分が、
世界遺産条約に基づく文化遺産の原爆ドームの保護に違反するものである
ことからすれば、当然に準則第11・2項にも違反するものであることは
明らかであるから、この点を全く審査せず、見過ごした本件各処分は違法
である。
(6)また、広島市の「原爆ドーム及び平和記念公園周辺建築物等美観形成要
綱」(平成7年策定)の対象地区の中に、本件かき船の新設場所があるこ
とから、広島市と「かなわ」との間で、新設する「かき船」の意匠、色彩、
素材、配置、修景について協議をした経緯はあるが、広島市景観条例(平
成18年制定)に基づいた景観の保護が図られていない。
前記景観条例では、先人達の努力の結晶である「平和記念公園、平和大
通り、河岸緑地などからなる広島特有の景観」を守り、創り、未来の世代
に引き継ぐこととし、良好な景観の形成に関する重要な事項については、
市長の諮問によって広島市景観審議会が調査、審議をして、市長に意見を
述べることができる(同条例第13条)が、本件では景観審議会での審議
は行われることはなかった。
これまで、広島市景観審議会は、広島市の景観形成基本計画案について
の審議を行うほか、原爆ドーム及び平和記念公園周辺地区景観計画案や、
平和記念公園のトイレのデザインや建て替え、広島マツダ大手町ビルの改
修などについて審議を行ってきた状況からして、公園のトイレよりは遙か
に景観に重要な本件かき船の移転新設に関して、全く審議がなされなかっ
たことは、準則の第11・2項に違反するものであり、この点でも本件各
16
処分は違法である。
(7)さらに、後述の通り、中国地方整備局によれば、太田川デルタには、実
際には20箇所の「死水域」とされるところがあり、国の管轄が13箇所、
広島県の管轄が7箇所あり、元安橋の下流とアステ-ルプラザの所だけで
はないのである。
従って、敢えて「かき船」を、世界遺産である原爆ドームのバッファゾ
ーンの中に移設する理由もなければ、必要もないものであり、そのような
代替性があるにもかかわらず、元安橋下流への移転を認めることは、本件
各処分の違法をより強めるものである。
7
本件各処分の違法について(その2)-河川敷地占有許可準則の違反②
(1)前述のように、2011(平成23)年3月の準則改正により「都市及
び地域の再生等のために」河川の占用が認められることになったが、この
場合、河川管理者は「都市・地域再生等利用区域」を指定しておかなけれ
ばならない(準則の第22・1項)。
(2)そして、この指定をしようとするときは、併せて「都市・地域再生等占
用方針」の策定および「都市・地域再生等占用主体」の指定をしなければ
ならない(同前・2項)。
さらに、これらの策定及び指定をしようとするときは、あらかじめ「河
川管理者、地方公共団体等で構成する河川敷地の利用調整に関する協議会
等の活用などにより地域の合意を図らなければならない」(同前・5項)と
されている。
(3)本件各処分に関する以上のような行政手続が、どのように履践されたか
をみてみると、
・2014(平成26)年11月26日
広島市長は、河川管理者に対し「都市・地域再生等利用区域等の
指定要望」を行う
17
・同年11月27日
「水の都ひろしま推進協議会」は、「かなわ」によるの「かき船」
の元安橋下流に新設する計画を承認
・同年11月28日
河川管理者の国交省中国整備局長は、元安川左岸・元安橋下流を
「都市・地域再生等利用区域」として指定し、同時に「都市・地
域再生等占用方針」を定め、同区域において「かき船」
(船舶係留
施設または船舶上下架施設など)が占用許可を受けることができ
るとした。
また、許可方針として、「船舶係留施設に係留して営業活動を行う
こと」「選定部分は、死水域内に納めること」、「良好な水辺空間を
確保するため清潔の保持に努めること」などを定めた。
営業事業者は、河川管理者や地方自治体などで構成する利用調整
の協議会等で適切であるとされたものとした。
・同年12月1日
「かなわ」が、河川管理者の中国地方整備局長に対して、本件各
許可を申請
・同年12月12日
中国地方整備局長による許可
という経緯である。
(4)以上の経緯からすれば、準則の第22・5項に定める「地域の合意」は、
上記の協議会の承認で行われたかのようであるが、それだけでは準則が求
める「地域の合意」が図られたとは認められない。
まず、最大の問題は、今回の「かなわ」による、原爆ド-ムに近い元安
川左岸・元安橋下流に「かき船」を新規に設置・営業するということにつ
いて、ほとんど広島市民に知らされていなかったことである。この問題を
18
マスコミが報道して一般に知られるようになったのは、2014(平成2
6)年11月であり、その頃までに前記協議会は「承認」という結論を出
していた。
また、
「かなわ」だけでなく、なぜか広島市の担当部局の職員が一緒にな
って、2014(平成26)10月末頃から、近隣の町内会長や被爆者団
体、慰霊碑管理団体などの「関係団体」へ出向いて事情の説明をしている
が、説明をしたというだけであって、明確な「同意」や「地域の合意」を
得られた事実はない(なお、この題が広島市議会の質疑で取り上げられた
のは、同年12月11日の本会議であり、それまでに市議会で議論や検討
をされた事実はない)。
実際、地元の「中区大手町2丁目町内会」は本年2月12日付けの広島
市長宛の書面で、「原爆ド-ム(世界遺産)ちかくへのかき船移動設置反対」
の意思を表明し、広島の両被爆者団体と日本被団協からも慎重な対応を求
める要望書が出され、直ぐ近くのマンション管理組合からも説明を求める
要望書が出されていることや、近くの河岸にある慰霊碑の管理団体も「同
意」などしていない事実が明らかになっている。
以上の通り、
「地域の合意」が図られたとは到底言えないものであり、本
件各処分は、準則の第22・5項に違反するものであり、違法であるとい
わなければならない。
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本件各処分の違法について(その2)-河川敷地占有許可準則の違反③
(1)河川法は、第1条で「河川について、洪水、津波、高潮等による災害の
発生が防止され、河川が適正に利用され、流水の正常な機能が維持され、
及び河川環境の整備と保全がされるようにこれを総合的に管理する」こと
を目的としている。
そして、河川内に船舶繋留施設を設置する場合は「災害の発生が防止さ
れるように」設置されること、工作物設置許可基準第42、43条に基づ
19
くことが求められることは前述のとおりであるところ、本件各処分による
かき船新設置場所は、太田川デルタ内にある2箇所の「死水域」であり、
その範囲に収まるので河川法に反することはないというものである。
準則の第22・6項で、「都市・地域再生等利用区域は、都市及び地域
の再生等のため利用する施設が当該河川敷地を占用することにより治水上
又は利水上の支障等を生じることがない区域でなければならない」とされ
ているのも同趣旨と考えられる。
(2)しかし、「死水域」は、主に「河道の急拡、急縮、湾曲、構造物の陰、樹
木の密生等により生じる」所である。
しかし、今回の「かき船」新設置場所は、少し上流に観光船の桟橋があ
るが、元安川の河道が急に拡がったり、急に縮まったり、湾曲したり、構
造物の陰、樹木の密生等があるという所ではないから、「死水域」だとの判
断自体が誤りである。
実際、大型台風や集中豪雨の時には、今回の「かき船」新設置場所も、
護岸の上部近くまで増水した濁流がそのまま流下する所であり、集中豪雨
等が満潮時と重なれば、まさに「流量の疎通に関係のある部分」であるか
ら、実質的な「死水域」ではない。
また、大型台風や集中豪雨の際には、「かき船」が濁流で押し流されて平
和大橋に激突して破損させるなど危険性があり、その場合には平和大橋を
徒歩で通行中の人々や車両に走行中の運転者らの生命を脅かすおそれがあ
る。それだけでなく、元安川の護岸に衝突することで護岸の損壊、濁流の
市街地への浸入という事態を引き起こし、地元に住む人々やその場に居合
わせた人々の生命を脅かし、中区大手町一丁目や二丁目にある住居、マン
ションや事務所等に浸水して多大な損害を生じさせるおそれがある。
本件の「かき船」は、鎖で護岸と繋がれ、流れ止めの杭が川底に打ち込
20
んであるが、船として自力で航行できるようにはなっていないから、後述
のようにロープや碇が容易に取り外しができるから、上流から流れてきた
流木等がぶつかったりして押し流されれば、「かき船」は濁流に流されるま
ま、護岸や下流の平和大橋に激突する危険性は否定できない。
そして、このようなおそれが現実的であることは、広島市が平成24年
度に検討したという、現在のかき船のある場所での「護岸の切り欠き」の
工事図面のように、今回の新設場所とは比較にならないほどの大幅な納ま
る場所を必要とし、大規模な護岸の切り欠きを予定していたことと比べれ
ば明らかである。
(なお、もし、「かき船」を単に船を繋留し、流れ止めをするというので
はなく、濁流で押し流されないように固定するというのであれば、そ
れは船ではなく建築物になりかねない問題であり、その点は後述する)
(3)また、前述のように、太田川デルタ内には、被告がいう「死水域」は2
箇所ではなくて、国の管轄で13箇所、広島県の管轄で7箇所の合計20
箇所の「死水域」が存在している。
この中には、仮に「かき船」が洪水時の濁流に押し流されても、橋を損
壊するなどの危険性はないところ、例えば中区吉島東入江のように下流に
は橋のないところ、がある。
従って、
「かき船」新設置については、本件各処分で許可された所ではな
い、もっと治水上安全である場所があることも併せ考えれば、本件各処分
は、河川法第1条と工作物設置許可基準第42、43条に違反すると共に、
準則の第22・6項にも違反する違法なものである。
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本件各処分の違法について(その2)-河川敷地占有許可準則の違反④
(1)本件の「かき船」は、準則の第22・3項・8号にある「船上食事施設」
として許可されている(甲3の15頁)。
21
そして、これに関して出された国土交通省河川局長通知(甲4の2枚目
の(3))によれば、この「船上食事施設」は、原則として船舶係留施設に
係留して営業活動を行うものであり、出水時等には等が河川敷地外に移動
される、又は出水時の流水の作用、塵芥の影響及び風等の影響により船舶
が転覆することなく、水位移動に対して確実に追従できる構造であること
など河川管理上支障のないものであることが求められている。
(2)そして、広島市都市整備局指導部建築指導課が、2015(平成27)
年3月3日付けで出した『かき船「かなわ」が建築基準法上の建築物に該
当しないことについて』と題する書面によれば、「かなわ」から提出された
計画内容では、①船体を安定させているロープと碇は、容易な取り外しが
可能、②船体に接続している給排水等のインフラ設備等は、容易に脱着可
能な構造とする、③随時かつ任意に移動可能な状態を確保するため、定期
的に離岸させる、というものであるから、建築基準法上による建築物には
該当しないと判断している。
そして、この判断に基づき、広島市は、「かき船」については、建築基準
法の定める建築確認等の審査を行っていない。
(3)ところが、住宅局建築指導課長の平成10年3月31日通知「海洋建築
物の取扱いについて」(甲6)によれば、「係留型の海洋建築物(水上、
水中に設けて建築物としての用に供する施設をいい、淡水系に設けるもの
も含む)が各地で計画されるようになってきた」が、「建築基準法では、
従来より推定に固着された水中展望塔などの他に、水上に浮かぶものにつ
いても、鎖や桟橋により水底に定着され建築物の用に供するものは建築基
準法の対象とされている」としている。
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従って、この通知に基づけば、本件の「かき船」もロープと桟橋で陸地
と繋がり、川底に定着されて料亭として利用されるのであるから、建築基
準法の審査の対象となるものである(前述のように、豪雨等による増水時
にも押し流されないように川底に固着させているというなら、なおさら建
築物として建築基準法の対象である)。
(4)よって、「かき船」は、準則の第22・3項・8号にある「船上食事施
設」として許可することができない建築物であり、この点で本件各処分は
準則に違反し違法なものである。
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本件各処分の違法について(その2)-河川敷地占有許可準則の違反⑤
(1)準則の第22・4項・2号において、「都市・地域再生等区域」におい
て、河川敷地の利用調整等に関する協議会等において適切と認められた場
合でなければ、民間の事業者等が営業活動のために河川の占用は認められ
ない。
(2)広島市は、2005(平成17)年2月頃、「水の都ひろしま推進協議
会」との間で、河川の活用に関する社会実験をするための委託契約を締結
し、2010(平成22)年頃から、「かき船」を活用する社会実験を行っ
てきたことを踏まえて、「かなわ」のかき船による営業活動のための河川占
用を認める方向で動き、同協議会は、2012(平成24)年3月頃に、
準則の第22・4項・2号による事業者と認定した。
(3)しかし、同協議会が、「適切」と認定した元の社会実験は、「かき船」
の利用者に対するアンケートを取ることが主であり、いわば船上食事施設
としての利用実態の一端を把握するだけのものであった。
本来、一級河川について、公共の目的ではなく民間の事業者にその占用
を許可するためには、都市及び地域の再生等のための利用という目的が必
23
要であるところ、特定の民間業者に対して、元安橋東詰南側だけを「都市
・地域再生等区域」に指定するには、それ相応の事実が必要である。
ただ、「かき船」を利用した観光客にアンケートを取れば、「美味しか
った」等々の回答があることは当たり前であり、そのようなアンケートは
市内のどこの店でやっても同様である。それだけで「かき船」を元安橋東
詰南側に移転させ営業させることが「適切」という理由にはなりようがな
く、また、アンケートを取った観光客が、祈りと鎮魂の場である原爆ドー
ム近くの元安橋東詰南側に移転した「かき船」での酒食を是とするか否か
は、全くの別問題である。
(4)以上から、本件各処分の前提となる、「都市・地域再生等区域」におい
て、前記協議会が、準則の第22・4項・2号による「適切な営業活動を
行う事業者」として「かなわ」を認めたことは誤りであり、本件各処分が
準則の第22・4項・2号に違反し違法であることは免れない。
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おわりに
広島市は、国際平和文化都市として、平和記念公園の整備や原爆ドームの
保存を行い、毎年8月6日には平和記念式典を開催し、広島市長が世界に向
けて「平和宣言」を発信し続けてきた。それゆえに、広島市は、原爆ドーム
の世界遺産の登録により、世界遺産条約により国に義務づけられた内容につ
いて、国以上に原爆ドームの世界遺産の保存及び保護する義務を負っている
ものである。
ところが、本件各処分に至る経緯においては、なぜか公平性の求められる
はずの広島市が、極めて積極的に「かなわ」のかき船の新設置の実現に向け
た関与が見られる。
そして、国土交通省中国地方整備局長は、広島市のお膳立てをそのまま唯
々諾々と受け入れるだけで、河川法や河川敷地占用準則に則って厳格な手続
24
きを行わなかったため、河川法・建築基準法・景観条例・世界遺産条約等に
違反する違法な本件各処分を出してしまった。
よって、被告は、自ら本件各処分の手続きを見直し、直ちに誤りを認めて、
本件各処分を撤回すべきであるが、それを被告がしない場合には、本件各処
分は直ちに取り消されるべきである。
証
拠
書
類
1
甲1号証
許可申請書(写し)
2
甲2号証
許可書(写し)
3
甲3号証
河川敷地占用許可準則新旧対照表(写し)
4
甲4号証
河川敷地占用許可準則の一部改正について(写し)
5
甲5号証
世界遺産原爆ド-ムバッファゾ-ン内における牡蛎船移動
設置への懸念表明(写し)
6
甲6号証
海洋建築物の取扱いについて(写し)
7
甲7号証
かき船「かなわ」が建築基準法上の建築物に該当しないこ
とについて(写し)
添
1
甲号証
各1通
2
委任状
19通
付
書
25
類