6 特集:中部ものづくり探訪 ~特色ある地域産業

地域の資源や技術を活かし、特色ある製品づくりを
行っている企業群を
「地域産業」
として紹介します。
その他
32%
花 き
シクラメン
(鉢)2%
カーネーション
3%
花き苗類 4%
2
愛知県
毎年東京のサンシャインシティで行われる、品質と商品性を競う
「関東東海花の展覧会」
で農林水産大臣賞をはじめ多くの賞を受賞しており、
愛知県の花きのブランド力につながっている ○
国内外の消費者に注目し、花きの可能性を広げる
50年以上にわたり産出額1位、
日本一の花き産地
1
温暖な気候と豊かな土壌、
技術革新が花き産業を育てた
切り花や鉢花など、観賞用として栽培される植
物の総称である
「花き」。愛知県は、花きの産出額
き栽培技術が進歩した。
また、東京・大阪という大
消費地の中間に位置する地理的条件に恵まれたこ
とも、愛知県花き産業の発展につながっている。
が全国の約 16%を占め、統計が始まった1962( 昭
愛 知 県の花き
和 37 )年から現在まで 52 年間連続で全国一の産
産出額は、1 9 9 8
出額を誇っている。
また品目別では、
キクやバラ、観
( 平 成 1 0 )年 に
葉植物、洋ランなどが首位となっている。
他地域を圧倒する産出額を誇る愛知県の花き産
763 億円とピーク
を迎える。
しかし、
(億円)
900
800
700
600
500
400
花き産出額の推移
愛知県(1位)
千葉県(2位)
300
200
100
業のルーツは諸説あるが、1700 年代に文化・芸術
嗜 好 品である花
が盛んであった尾張藩において、藩士が行う茶花
きは景 気に左 右
道で使用するための花を生産したことが始まりだっ
されやすく、
その後の産出額は右肩下がりで推移し
たと言われている。
その後も花き産業が発展し続け
ている。
リーマンショック時には、多くの企業がパー
た理由として挙げられるのは、平野が多く温暖な気
ティーを中止し、そこで使用される洋ランなどの高
候で1890 年代に明治用水、1960 年代に愛知用水、
級品が消費されなくなるなど、業務用消費の激減
豊川用水が整備され、花きを育てやすい環境が整
が花き業界に大きな打撃を与え、2011( 平成 23 )年
ったことにある。
そのような中で 1900 年頃にはハボ
には花き産出額は526 億円にまで減少した。花き生
タンの品種改良が積極的に行われたり、現在の豊
産 者もまた、最も多 かった 1 9 8 0( 昭 和 5 5 )年の
橋市の生産者が日本で初めてガラス室で栽培を始
5 , 721 戸から、現在は3 , 400 戸弱へと減少している。
中経連 2015.8
0
9
7
5
3
元
8
めるなど、先駆的な生産者によって愛知県全体の花
昭和
平成
37 40 42 44 46 48 50 52 54 56 58 60 62
11 13 15 17 19 21 23 25
(年)
出典:農林水産省 生産農業所得統計
※コールドチェーン:生産から輸送、消費まで一貫して低温を保った
ままで行う物流方式
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9
花きの品目別産出額構成比(2013年) 花きの品目別作付(収穫)面積(2013年)
その他
32%
キク
37%
愛知県
571億円
(ha)
1,500 1,295
用する新たな場の提案と
1,000
仏花のイメージの払拭に
カーネーション
3%
花き苗類 4%
洋ラン
(鉢)
11%
観葉植物(鉢)7%
バラ 4%
0
も力を入れている。一流
127
98
100
50
シクラメン
(鉢)2%
同連合では、マムを使
51
52
22
キク 洋ラン 観葉 バラ 花き カーネー シクラ
(鉢) 植物
苗類 ション メン
(鉢)
(鉢)
出典:農林水産省 生産農業所得統計
2
生産者自らのプロモーションで
マムの秘める可能性を開花
現在、生産者たちは産出額、農家数の減少に危
機感を覚え、消費者の花きへの関心を高め、消費を
デザイナーとタッグを組
み、花の斬新なディスプ
レイ方法やブライダルに
フラワードリームin東京ビッグサイト
2 0 1 4では、約 5 , 0 0 0 本のマムで
バーのディスプレイ装飾をした ◎
おけるマムの使用方 法を提 案 。また昨 年1年 間 、
(公財)日本水泳連盟のビクトリーブーケや会場装飾
にもマムが使用された。
このように、つねに新しい発
想を取り入れようと試みる姿勢は、愛知県の花き産
業の大きな強みだ。
増やすことで現場の活性化を図ろうと取り組みを始
めている。
その活動を主導するのが、品目別産出額
で全国1位を誇るキク
(マム)の生産者、愛知県花き
温室園芸組合連合会スプレーマム部会の千賀靖夫
氏だ。
「 今までは、直接取引をしている市場がお客様
という認識だったが、花の小売店や消費者が意識
すべきお客様であるということを改めて認識しない
といけない。マムに対して消費者からの声を集めた
(年)
3
仕入スタイルの変化に合わせ
市場としての役割を広げる
愛知県の花き産出額が毎年伸び、花きが大きく
った」
と千賀氏。その声を受け、千賀氏が所属する
盛り上がっていた1996( 平成8)年に、愛知豊明花
渥美スプレーマム出荷連合では生産者全戸数の管
き地方卸売市場が設立された。
コンセプトは「近代
理方法や水質調査を実施。
日持ちを短くする原因と
的な花きの拠点」。豊明ICに近く名鉄豊明駅前と
なる水中のバクテリアの数を減らすため、生産管理
いう交通の便に優れた場所に立地する。生産と流
の改善を行い、
より品質の高い切り花のマムを消費
通の連動を活かした「コールドチェーン」※の実現
者に提供できるようになった。今年3月にはこの功
を可能にし、花きの積み下ろしなど導線部分にまで
績が認められ、農林水産省から日持ち性向上に関す
配 慮された市 場は、鉢 物の取 扱 高 全 国1位を誇
る認証を全国に先駆けて取得した。
る、47 都道府県の花きの一大集積地になっている。
キク=仏花は、日本古来の文化ではなかった
からだと言われている。年間を通じて入手でき、価格も安
定している切花を求めていた葬儀社と、キクの電照栽培
が成功して消費の拡大を求めていた生産者のニーズが一
致し、葬儀にキクが飾られるようになったようだ。
これに
よりキクの安定した消費需要が生まれ、産業の成長に大
きな役割を果たしたが、その逆に縁起が悪いというイメ
花きの卸売市場は従来、メインユーザーのほと
んどが小売店であり、セリ会場に訪れ、一斉にセリ
を行うスタイルであった。
しかし現在は、
スーパーや
ホームセンターなどの量販店が増えており、仕入れ
のスタイルも変化した。多店舗展開している量販店
が希望する仕入れの方法に合わせて、今ではセリ
が約 25%、残りの75%は事前の商談・予約販売へ
ージが定着し、仏事以外での供給が難しくなってしまっ
と移行している。
キクではなく、
マムと言う名称での流通が始まっている。
※コールドチェーン:生産から輸送、消費まで一貫して低温を保った
ままで行う物流方式
た。最近では、
キク=仏花というイメージを払拭するため、
中経連 2015.8
愛知県の花きの作付面積の約90%
が施設生産である
ところ、一番に寄せられた要望は日持ちについてだ
キクが葬儀に使用されるようになったのは昭和に入って
8
花き品目別産出額の中でも37%の
シェアを占めるマム
中経連 2015.8
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このような時代においては、花きのプロフェッショ
店やバイヤーに向けて、生産者が花きを出品する、
ナルである市場側が、消費者のマーケットを分析
日本最大級の鉢物や資材の展示会『JFIトレード
し、 花きを売る仕掛け を考え、提示することが求
フェア』
を年4回開催して商談の場を設けている。
められている。市場を運営する豊明花き㈱代表取
締役社長の福永哲也氏は、
「 市場が中心となって、
消費者ニーズを踏まえた器などの資材や種苗を生
産者へ提案したり、母の日など花の需要が大きく
伸びる特別な期間に提供するギフト用加工商品の
開発も行ったりしている」
と話す。また全国の小売
年間7,000万鉢、25万アイテムが取 セリで取引される花きはサンプル画像が使用
引されており、
その半分は愛知県産が されることが多いが、愛知豊明花き地方卸売
市場では、実際に取引される花きが映される
占める
生産・卸・流通・行 政が一 体となり、成 長を加 速
4
県民の暮らしに花を取り入れ
「花の王国あいち」を確立
県内企業に対しても一貫して花に関わる機会の
創出を目指しており、花のPRの取り組みに賛同す
新たな時代に向けて多様な活動に取り組み始め
る
『花の王国あいちサポート企業』
を募集し愛知県
た生産者、卸売事業者、流通事業者を牽引、サポ
のホームページで紹介している。
「このような活動を
ートしている愛知県の体制も、
さらに成長を後押し
通して、愛知の花を家庭だけでなく、企業でも飾っ
する。愛知県は、1994(平成6)年に「愛知県花き
てもらい、
もっと花を身近に感じ、生活を楽しんでほ
生産振興指針」を策定し、花き生産者や農業団体
しい」
と愛知県農林水産部園芸農産課課長補佐
の支援を開始した。現在では生産者からエンドユ
の五十嵐文一氏は話す。
ーザーまでをつなぐように、関わる対象を拡大して
さらに今年は愛知万博 10 周年を記念して
『第 32
いる。2013( 平成 25 )年には愛知県の大村秀章知
回全国都市緑化あいちフェア』が開催され、県内外
事を名誉会長とし、行政関係、生産関係、流通・小
の企業や団体等からの、庭や花壇等の出展に加え
売 関 係 、消 費 関 係 、商 工 関 係の団 体が参 加する
「あいちの花 百花繚乱」をコンセプトに、あいちの
「花の王国あいち県民運動実行委員会」を設置。
花 100 %を用いた大きな花壇
花きを県外に販売するだけではなく、県民自身が
「花の棚田」が作られる。開催
愛知県の花きを暮らしの中に取り入れ、豊かな毎
当初の時期は気温が高く、花
日を過ごしてもらうことで、花きへの関心を高めても
き生産にとって厳しい時期で
らうための活動を展開している。
はあるものの、同フェアへの規
その中心となる
『花いっぱい県民運動』では、愛
知県で生産が盛んな花 36 品目(産出額1億円以
上の29 品目と県育成7品目)
を選定し、
3年間にわ
たって
『今月のあいちの花』を毎月PRし、花を持っ
てまちを歩く
『フラワーウォーク』
を実施。
また子ども
たちに花の魅力をもっと知ってもらい、優しさや美し
さを感じる心を育む『花育(はないく)』
として、小学
10
格・納期を満たした数量を安
『第32回全国都市緑化あい
ちフェア』モリゾー・キッコ
ロが同フェアの緑化特別大
使となっている □
定 供 給すべく、生 産 者をはじ
め関係者一丸となって取り組
んでいる。
5
日本の花きの魅力をアピールし、
国際競争力を強化
校の授業でフラワーアレンジメントや寄せ植え等を
花き産業に対する支援は、愛知県のみならず、全
行い、同時にその講師となる花育ティーチャーを育
国的な広がりをみせている。昨年6月には、
「 花きの
成することで、花に関わる人々の裾野を広げている。
振興に関する法律」が成立。花き生産者の経営の
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□
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安定と花きが国民の心豊かな生活の実現に大きな
海外では仏事のイメージを抱かれていないため、
よ
役割を担っている現状を踏まえて、産業と文化の
り様々な場面で楽しんでいただくためのプロモーシ
二面から花きの振興を図ることを目的としている。
ョンがかけやすいはず」
と海外輸出への期待を膨ら
2013( 平成 25 )年には景気の上向きと共に愛知
県の花き産出額は 571 億円に上昇し、ピーク時の
日本では生 産 者 、卸 売 事 業 者 、流 通 事 業 者が
75 %ほどではあるものの、
リーマンショック前の産
一体となり、花きのさらなる日持ちの改善や大輪の
出額を上回る回復をみせている。
その中でさらなる
キクなどのオリジナルブランド品種の育成に加え、
成長を目指し、産業振興の柱としているのが国際
それらの花が海外で受け入れられるよう花きの市
競争力の強化だ。
場調査・分析、販路開拓を実施している。
さらに今
現在、国内で流通している切り花の約 25 %が海
年6月から愛知県、豊明花き㈱、中部国際空港㈱、
外からの輸入品で、エチオピア、ケニア、
コロンビア、
中部国際空港利用促進協議会などが連携し、中部
ベトナム、マレーシア、中国雲南省といった熱帯高
国際空港を日本の花きの輸出拠点にしようとする
地で栽培を行っている国々からのものが急増してい
「日本産花き輸出拠点市場推進計画」に着手する
る。
1年を通して安定した気候で1日の寒暖の差が
など、花きの輸出拡大に向けた動きは加速を続け
大きい高地では、設備費・光熱費がかからず、
また
ている。今後、輸出先での調査、海外バイヤーの招
湿度が低いため、病害虫に対する心配も少ない。な
へいなどの活動も行われる予定だ。
により人件費の低さにより、安価な花きの大量生産
花は人と人をつなぐメッセンジャーだと豊明花き㈱
を可能にしている。
この実情に対して豊明花き㈱の
の福永氏は言う。
「 東日本大震災後の母の日には、
福永氏は、
「 確かに、
これらの国でつくられたものが
家族の絆を見直したいと花が売れた。人の思いを、
世界に多く流通している。
ただ、東南アジアなどでつ
メッセージを花が運ぶ。
これからもっともっと人々の
くられている花きは品種が少なく、色が強い大ぶり
生活シーンで花は使われるようになるだろう」
と。
な花弁の花が中心。一方で四季の移り変わりの中
それは日本だけでなく世界共通であろう。世界中が
で育てられた、優しい色合いや繊細な品種は国内
花で満たされる日を、関係者全員が夢見ている。
産が優れている。
日本の花きは、
その違いが世界で
も高い評価を受けている」
と言う。
この違いを、世界
の人々に理解してもらう活動を進めることが、国内
全体の花き産業の発展につながるだろう。
6
輸出の可能性を広げるべく、
海外ルートと拠点を整備
現在、
日本からの輸出は、花きの検疫が通りやす
い香港を経由して中国へ送るルートが中心となっ
ているが、
これに対してスプレーマム部会の千賀氏
愛知万博10周年を記念して行われる花と緑の祭典
第32回
全国都市緑化あいちフェア
2015年9月12日(土)∼11月8日(日)
58日間を会期に行われる「第32回全国都市緑化あいち
フェア」。 緑のある暮らしを明日をあいちから を統一主
題にメイン会場と全54のサテライト会場でフェアを開催
する。メイン会場である愛・地球博記念公園は、地球市民
のエリア・農のエリア・センターエリア・水辺のエリア・創
造のエリアの各5つのエ
リア ごと に 花 や 緑 を 展
日本の花き輸出拡大の を握っている。
ただ、巨大な
よみがえる、
「 緑 化 壁( 垂
私たちは、オランダやドイツを経由してロシアに輸
出するルートが主であるが、今後は日本とロシアを
直接結ぶルートを拡充していきたい。
それにマムは、
中経連 2015.8
取材協力・資料提供/豊明花き㈱、愛知県花き温室園芸組合連合会、愛知県
写真提供/◎愛知県花き温室園芸組合連合会、○愛知県、□第32回全国
都市緑化あいちフェア実行委員会
は、
「 花の消費の80%を輸入に頼っているロシアが、
ロシア市場を狙うのは世界中の国々も同じ。現在、
10
ませている。
示 。愛知万博の思い出が
直庭園)」
も展示される。
● メイン会場/
□
愛・地球博記念公園(モリコロパーク)愛知県長久手市
● 入場料/無料
● 問い合わせ先/第32回全国都市緑化あいちフェア実行委員会
TEL052-954-6635 http://www.aichi-fair2015.jp
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