魚醤油造りによる漁協女性部活動育成支援指導

普及項目
漁業種類等
対象魚種
対象海域
担い手育成
女性部活動
太平洋東部
魚醤油造りによる漁協女性部活動育成支援指導
北海道十勝地区水産技術普及指導所(担当者:山元 直樹)
【背景・目的】
十勝管内の前浜では、10 月から 11 月にかけてししゃもこぎ網漁業が行われている。漁獲物は
シシャモの他にカジカ類、カレイ類、ヌイメガジ(ガンジ)
、ミゾエビジャコ(砂エビ)等が大量
に混獲される。混獲魚は、市場価格も廉価で、シシャモとの選別作業にも多大な労力を要するこ
とから、着業者からは厄介者扱いされている。
近年、魚類を素材とした短期間で製造できる魚醤油が試験研究機関で開発され、水産加工会社
等ではこの技術を使って企業化し魚醤油商品として市販している。これらのことから、広尾漁業
協同組合女性部は未利用の混獲物であるヌイメガジ、ミゾエビジャコ等に着目し、これらを原料
とした天然調味料「魚醤油」の製造を企画した。当水産指導所では製造技術を指導する北海道立
釧路水産試験場加工部(以下加工部と称す)と連携・協力し、漁家生活を支える女性部の意識の
向上と女性部活動を活性化するねらいで活動支援に取り組んだ。
【成果・普及の内容・特徴】
指導所は加工部との連絡調整を行うとともに、製造期間中の作業支援等を行なった。また加工
部による魚醤油製造技術指導は女性部を対象に平成 16 年度と 17 年度の2年間行われた。
1年目は秋サケ、スルメイカ、ヌイメガジ、ミゾエビジャコの4種類の原料を使った魚醤油を
製造した。2年目は3種類の製造方法で仕込みを行い、基本的なもの、低塩分化したもの、素材
の味を生かしたものを試作し、原料はヌイメガジ、ミゾエビジャコの単一原料と混合原料の3種
類を使用した。製造法別、原料別に出来上がった 21 個の仕込み樽は、発酵・熟成させる3ヶ月間、
女性部員が毎日交代で作業を行ない、約 77 リットルの魚醤油を製造した。原料の前処理から完成品の
容器詰めまでの作業に参加した女性部員は延べ 423 名で、部員間の協力・連帯意識が深まった。
【成果の活用】
完成した魚醤油は、女性部員、漁協職員、町職員、農協女性部、商工婦人部、町内旅館・ホテ
ル・飲食店等の関係者に試作品を提供し、アンケート調査を行った。
アンケートの結果では、一般関係者、女性部員ともに上位3位は基本型のヌイメガジ、基本型
のヌイメガジとミゾエビジャコとの混合したもの、素材を生かす型のヌイメガジとミゾエビジャ
コ混合のものと全く同じ結果であった。また飲食店関係者の 60%から使用したいとの回答があり、
市販化が十分可能な製品であることが伺えた。しかし、大量の魚醤油造りには、施設や器具の規
模、製造時期、衛生面、人的な課題が多く、女性部としての活動は中断することとなった。今後
の展開として個人または小グループでの少量製造販売等の可能性があると思われる。
【その他】
漁協女性部のような家庭や漁家仕事を担っている人々が集まる組織の問題点としては、活動の
主体が役員等の特定の人によって担われ、他の人は問題意識もなく従っているのが現状である。
指導機関の今後の対策としては、組織全体や全員での活動を支援協力するのではなく、組織内
の先駆的グループや個人を育成し、技術習得や販売、ブランド化を成功させることによって、組
織全体への波及効果を狙うことも手法の一つと思われる。
表1 魚醤油の製造工程
※釧路水産試験場資料を一部改変
原料
皮を剥ぎミートチョッパー等で粉砕する。
混合
原料7㎏に食塩1.7㎏、麹3㎏(麹:水=10㎏:10㎏)を加え、よく混合する(混合し
たものをモロミとする)。
熟成(30∼35℃、3ヶ月)
塩分が均一になるようはじめの1週間は1日2回、その後は1日1回攪拌する。
自然ろ過(首つりろ過)
モロミを日本酒搾り用濾過袋(PP酒袋1.5cc)に入れ、容器の上に吊す。
圧搾
自然ろ過したモロミを、日本酒搾り用濾過袋を入れたまま、すのこを敷いた容器の
中で重石をのせて圧力をかけ搾汁する。
火入れ
自然ろ過、圧搾によって得られた搾汁を湯せんで80℃、5分間加熱する。
ろ過
コーヒー用ネル等を利用してろ過する。
魚醤油
完成
表2 魚醤油製造内訳
仕込み法
原 料
樽数(個)
採取量(ml)
ヌイメガジ(7.0kg)
8
30,206
ガジ(3.5kg)+エビ(3.5kg)
6
20,190
エビジャコ(7.0kg)
1
2,092
低塩分型
(減塩:リンゴ酸)
ヌイメガジ(7.0kg)
2
5,432
ガジ(3.5kg)+エビ(3.5kg)
2
9,548
素材の味を生かす
(酵素)
ヌイメガジ(10.0kg)
1
3,776
ガジ(3.5kg)+エビ(3.0kg)
1
5,672
21
76,916
基本型
合 計
ア 基本的な仕込み方法:魚肉7.0kg+醤油麹3.0kg+食塩1.7kg
イ 低塩分化仕込み方法:魚肉7.0kg+醤油麹3.0kg+食塩1.3kg+リンゴ酸ソルト0.4kg
ウ 素材の味を生かした方法:魚肉10.0kg+酵素(麹に含まれている)+食塩1.7kg
表3 アンケート結果(美味しい順位)
※女性部は5種類のみ
種 類
基本型
低塩分型
(減塩:リンゴ酸)
素材型(酵素)
女性部員
一般関係者
総合順位
ガジ
79
1
75
1
1
ガジ+エビ
84
2
102
2
2
エビ
118
5
-
-
ガジ
141
6
131
4
ガジ+エビ
143
7
142
5
ガジ
107
4
-
-
ガジ+エビ
94
3
110
3
3