口腔腫瘍 - 島根大学医学部

チュートリアル講義 2015.7.24
口腔腫瘍
Oral Oncology
岡崎市民病院歯科口腔外科
長尾 徹
愛知県岡崎市
八丁味噌
経歴
愛知学院大学歯学部顎顔面外科
(-2005)
藤田保健衛生大学医学部衛生学講座
(2004- )
岡崎市民病院 (2005 - )
WHO 口腔がん/前がん病変研究協力センター
キングスカレッジ、ロンドン大学
客員研究員(1999- )
国際協力機構
(Japan International Cooperation Agency)
チームリーダー
スリランカ歯学教育プロジェクト (2001-2003)
講義内容
口腔腫瘍
• 分類
• 疫学
• 診断と治療
• 予防
口腔腫瘍
悪性腫瘍
良性腫瘍
• 歯原性腫瘍
エナメル上皮腫
歯牙腫
石灰化上皮性歯原性腫瘍
• 非歯原性腫瘍
口腔前癌病変
(上皮異形性)
• Oral precancer
(Oral potentiallymalignant disorders )
非上皮性
多形腺腫(唾液腺腫瘍)
リンパ(血管)腫
血管腫
神経線維腫
脂肪腫
その他軟部腫瘍
悪性黒色腫
• 非上皮性
肉腫
悪性唾液腺腫瘍
乳頭腫
線維腫
扁平上皮癌
悪性リンパ腫
上皮性
過成長
• 上皮性
増殖性疣贅型白板症
歯原性腫瘍
良性腫瘍(99%以上)
•純上皮性腫瘍 (エナメル器由来)
• エナメル上皮腫
• 石灰化上皮性歯原性腫瘍
•外胚葉性間葉組織の誘導を伴う上皮性腫瘍
• 歯牙腫
•間葉性腫瘍
• 歯原性線維腫
• 歯原性粘液腫、粘液性線維腫
• セメント芽細胞腫
悪性腫瘍(1%未満)
•歯原性癌腫
• 転移性エナメル上皮腫
• エナメル上皮癌
• 原発性骨内扁平上皮癌
• 明細胞性歯原性癌
•歯原性肉腫
• エナメル上皮線維肉腫
WHO分類 2005
1.「歯原性腫瘍は外からはまったくわからない」
エナメル上皮腫 Ameloblastoma
11歳 女児
開窓術後9ヶ月
2.「進行はきわめて遅く症状がない」
非歯原性良性腫瘍
乳頭腫
多形腺腫
3.「口腔内の環境に影響を受ける」
非歯原性良性腫瘍
過成長
義歯性線維腫
エプーリス
4.「口腔の手術は瘢痕をいかに少なくするか」
非歯原性腫瘍
軟部腫瘍(脂肪腫)
術前
再建後
口蓋島状弁
術後
5.「口腔癌の約半数は進行癌で発見される」
見過ごしてはいけない疾患
• 上皮性由来
扁平上皮癌
悪性黒色腫
• 非上皮性由来
肉腫
悪性リンパ腫
悪性唾液腺腫瘍
口腔がん Oral squamous cell carcinoma
「90%以上が扁平上皮癌」・・・可視化できる
たばこ
30%
アルコール
HPV
45%
喫煙と口腔病変の関連に関する調査研究 (n=4009)
慢性炎症
口腔がん
• 疫学
• 診断
• 治療
• 予防
6.「がんの浸潤は長い腫瘍化プロセスの
最終段階である」
10 年以上~
数ヶ月~
進行がん
変異
角化
上皮内がん
浸潤がん
上皮異型
浸潤
血管新生
転移
アポトーシス抑制
がんのリスク因子
がんの4割は9つの危険因子と関連
25歳男性 舌進行がん(T4N2bM0)
• 症状がない
• 医療側の見落とし
• 突然大きくなる
105歳女性 舌がん(T2N0M0)
7.「口腔がんの半数は前がん病変を経てがん化する」
白板症(前がん病変) Leukoplakia
61 歳, 男性
喫煙、飲酒習慣あり
検診時
3 年後
4.5 年後
口腔前がん病変
“Oral potentially- malignant disorders”
disorderの語源
• dis- 「反対の動作」、「分離」、「否定」
• order 「順序」、「調子」、「状態」
disorder = 乱れ→病的状態→「障害」、「疾患」
口腔前がん病変のがん化率
紅板症
白板症
扁平苔癬
がん化率(年間)
1.4%(95%CI:0.7-2.0) システマティックレビュー
Petti S. Oral Oncol. 2003;39:770-80
白板症臨床型(均一型)
Thin, flat, shallow cracks(浅い亀裂)
PMD 1. Leukoplakia
白板症(不均一型)
Speckled(小さな斑点状)
Nodular(結節状)
Verrucous (疣状)
Proliferative verrucous leukoplakia
白板症
Leukoplakiaの語源
• leuko接頭辞(ギリシャ語) 「白の」
• -plakia
ドイツ語 「額」、「(粘膜上の)斑」
Leuko-plakia =白板症
Englich Heritage
Blue plaque
Hairly leukoplakia
毛状白板症 前がん病変ではない
HIV陽性同性愛者
by Warnakurasuriya S
Diagnostic feature: bilateral tongue keratosis
Biopsy: specific histopathology with koilocytosis(空胞細胞症 ) EBV
demonstrable on ISH
口腔がんのリスク因子
リスクを高めるもの
喫煙 (I)
過度の飲酒 (I)
噛みたばこ (I)
HPV感染(ヒトパピローマウイルス) (I)
紫外線(口唇がん)(II)
年齢(40歳以上)
GVHD(移植片対宿主病)
遺伝性症候群
HIV感染
義歯等補綴物による慢性刺激
口腔衛生不良
リスクを下げるもの
緑黄色野菜/果物摂取の摂取(350g/日以上)(II)
禁煙(早いほどよい)
規則正しい口腔清掃
American Cancer Scietyより引用改変訳
I:確実(Group I)、II:ほぼ確実(Group II)
IARC: 国際がん研究機関
8.「世界人口の10人に1人に習慣あり」
ビーテル噛み習慣
Betel nut chewing
Areca nut chewing
発がん物質:アレコリン (IARC, Group1)
Source: S. Warnakulasuriya
タタ記念がんセンター
9.「インドの口腔がんの50%は無煙タバコが原因」
ムンバイ、イ
Boffetta P. Lancet Oncology, 2008
AM 11:00の受付
Tata Memorial Hosp.
新患がん患者 年間5万人
うち頭頸部がん 1,400人
AM 18:00の受付
無煙たばこと口腔・頭頸部がん発症リスク
(IARC, Group1)
10年以上の無煙たばこ使用で発がんリスク4.1倍
(1,046人の口腔・頭頸部がん患者)
Zhou J et al. Int J Cancer. 2012
JTのコメント
「SNUSを使用するかしないかは、SNUSがた
ばこ製品であることを認識し、健康への影響・
リスクに関する情報に基づいて、個々の成人
の方が決めるべきものです。」
10. 酒の強さと発がんは関連がある
アルコール代謝経路と発がん
活性酸素
*
酒で赤くなり翌日も酒臭い体質
がん
- 食道癌リスク (+喫煙で357倍)*
アルコール脱水素酵素
エタノール
アルデヒド脱水素酵素
アセトアルデヒド
酢酸
IARC Group I
IARC Group I
微生物
* シトクロムP450(CYP)2E1を介する側復路
* 久里浜医療センター(WHO協力センター)
Helmut K. Seitz and Peter Becker. A Key to Unlocking Alcohol’s Effects Volume 30 (1), 2007
口腔がん/前がん病変におけるアルコール関連
タンパク質付加体の局在・・・・・UK-Japan共同研究
AA(アセトアルデヒドー DNA付加体)
MDA(マロンジアルデヒド)
4-HNE( 4-ヒドロキシノネナール)
CYP2E1(シトクロム P450)
たんぱく質機能障害
脂質酸化物
脂質酸化物
エタノール代謝酵素
アルコール常習口腔がん/前がん病変患者のタンパク質付加体の局在
日本人>イギリス人
400X
アルコール常習口腔がんの組織中
アセトアルデヒドー DNA付加体の局在
Warnakulasuriya S, Parkkila S, Nagao T, et al. J Oral Pathol Med. 2008
Human
Cycle in
inthe
theSquamous
SquamousEpithelium.
Epithelium
HumanPapillomavirus
Papillomavirus Life
Life Cycle
粘膜上皮内のヒトパピローマウイルスのライフサイクル
宿主DNAに
HPV DNAが組
み込まれる
Kahn JA. N Engl J Med 2009;361:271-278.
エピソーム:細胞質内で宿主染色体とは独立に 増殖する自律的状態
と,宿主染色体中に挿入されてその一部として複製を行う組み込まれ
た状態を取りうる遺伝因子
HPV genome and viral proteins
Tumoursuppressor protein
p53
Tumour-suppressor
protein pRb
8つのウイルスタンパク
Tommasino M. The human papillomavirus family and its role
in carcinogenesis. Semin Cancer Biol. 2014 Jun;26:13-21.
咽頭がんの年齢調整罹患率 (HPV+ and HPV-)
The estimated age standardized incidence rate of HPV-positive and HPVnegative tonsillar cancer SCC cases per 100,000 person-years (Stockholm)
Näsman A et al. Incidence of human papillomavirus (HPV) positive tonsillar carcinoma in Stockholm,
Sweden: an epidemic of viral-induced carcinoma? Int J Cancer. 2009 Jul 15;125(2):362-6.
悪性を疑う口腔病変の診断
細胞診
切開(切除生検) Incisional biopsy
摘出生検 Excisional biopsy
• タイミング
• 最も適切な部位から採取
• 充分な量と深さ
• 最小の侵襲
Toluidine blue dye
トルイジンブルー染色
異型上皮、上皮の欠損部位や、壊死物質はトルイジンブルーで濃紺に染まる。
感度: 65.5%, 特異度:73.3%
Warnakulasuriya S et al. J Oral Patho Med 2011; 40: 300-304
Chemiluminescence(化学発光法 ) – Vizilite
What you see under normal light
What you see using ViziLite® Plus with TBlue®
ViziLite® Plus with TBlue®
From DenMat ®
感度: 77.3%, 特異度:27.8%
Awan KH et al. J Oral Patho Med 2011; 40: 541-544
口腔がんの治療
岡崎城
治療の流れ
First examination
診察
検査
問診、視診、触診
病理検査(細胞診、生検)
画像検査
血液検査
臨床病期決定
術前リハ
治療
手術
放射線治療
抗がん剤治療
リハビリ
Follow up 定期的診察、画像検査、血液検査
UICC TNM分類
UICC TNM Staging of Cancers
of the lip and oral cavity
T staging
UICC:
Union for International
Cancer Control
Shah JP et al Oral Cancer. Martin Dunitz. 2003
UICC TNM Staging of Cancers
of the lip and oral cavity
M Staging
Mx Distant metastasis cannot be assessed
M0 No distant metastasis
M1 Distant metastasis
Stage grouping
N staging
11.「腫瘍の深達度が予後を左右する」
Depth of invasion of primary tumor
Shah JP et al Oral Cancer. Martin Dunitz. 2003
The National Comprehensive Cancer Network
世界の25 の主要がんセンターで結成されたガイドライン策定組織(NPO)
口腔がんの治療
• 完全切除
• 機能保持
• 審美回復
12.「早期の治療は浸襲が少ない」
口唇癌
切除後
術前
局所粘膜弁
83yrs male SCC T1N0M0
Smoking+, drinking+
再建後
術後3ヶ月
上皮内癌
Carcinoma in situ
84 yrs female TisN0M0, cStage0
Smoking -, drinking -
ポリグリコール酸 PGA sheet
根治治療(拡大手術)
手術
(腫瘍切除、再建術)
化学療法
放射線療法
歯肉癌Gum carcinoma
63 yrs male
Smoking+(20pcsX40yrs)
Drinking -
T4aN2bM0, cStageⅣa
Moth-eaten mandible
Enhanced CT
Enhanced MRI
超音波診断 US
T2強調像
サイズ、形、辺縁形状、内部エコー
超音波ドプラ法
血管および血流状態の評価
腫瘍の鑑別診断
FDG-PET CT
positron emission tomography (陽電子放出断層撮影)
•
18F-FDG(フルオロデオ
キシグルコース)ブドウ
糖に微弱な放射能を出
す成分(ポジトロン核
種)を組み込んだもの
• 取り込まれたFDGはが
ん細胞内に長く留まる
• 見えにくいがん
1cm未満のがん
表在性がん
頸部郭清術 Neck dissection
口腔がん
Level I,II,III
Selective neck dissection levels I-III for N0 and N1 disease
that originates from cancers of the oral cavity
下顎区域切除術
再建術(遊離腓骨皮弁)
Mandibular Reconstruction with a Free Vascularized Fibula Flap
術後半年
軟組織再建術
T2N0M0
Lateral border of the tongue
全頸部郭清術
舌半側切除術
前腕皮弁再建術
T3N1M0
Inferior gum
全頸部郭清術
下顎区域切除術
腓骨再建術
Advanced case of tongue cancer in a young patient
25 yrs male
cT3 N1M0
First visit in Feb 2014
2 weeks later ….
13.「日本は最も高齢化が進んだ国」
Looking to 2060: Long-term
global growth prospects. OECD 2012
認知症患者の口腔がん症例
かかりつけ歯科医からはじめる口腔がん検診Step1・2・3 医歯薬出版
問題行動のため介護用ミトンを装着されている(左)。口腔内所見で左
舌縁から口腔底におよぶ進行がんを認める(右)。
14.「高齢者ではがんと共存」
低悪性度腫瘍
疣状性癌
93歳 女性
疣贅性癌は、高齢になってから発症し、増殖のスピードも遅いため、
命にかかわることはまれです。
15.「時に転移性腫瘍が口腔に発生する」
転移性腫瘍1
甲状腺がん
初診時
表面に壊死組織を有し硬結を伴う。
1週間後
壊死組織が脱落して潰瘍形成が現れる。
初診から2週間後に死亡。
• 転移性腫瘍が口腔に発生することは稀ではない。
• がん既往の患者では転移性がん、二次がんを考慮する必要があり、
問診は重要である。
転移性腫瘍2
81才 男 肺腺癌 肝、仙骨転移
1w後
初診
2W後
悪性リンパ腫
66才 男 歯肉の腫瘤を主訴に来院
生検にてDiffuse large B cell lymphoma
16.複数の口内炎を合併する場合はAIDSを疑う
口腔カンジダ症
ヘルペス性口内炎
63yrs M
呼吸器内科
カリニ肺炎
毛状白板症
CMV antigenemia陽性
CD4/CD8比 0.24
放射線治療
• External-beam radiation therapy(外部照射)
linear accelerator (LINAC)直線加速器
Intensity-modulated radiation therapy (IMRT)
(強度変調放射線治療)
• Particle therapy (粒子線治療)
Heavy ion radiotherapy(重粒子線治療)
Boron Neutron Capture Therapy (BNCT)
(ホウ素中性子捕捉療法)
Proton therapy(陽子線治療)
悪性黒色腫の重粒子線治療
Heavy ion radiotherapy for Melanoma
49 yrs male Smoking+, Drinking+
Preoperative
Post-radiation
2 years after treatment
Heavy ion RT + DAV therapy
(dacarbazine, nimustine
hydrochloride and vincristine )
化学療法
シスプラチン
5-FU
タキソテール
分子標的薬
Epidermal growth factor receptor (EGFR)
上皮成長因子受容体
セツキシマブ(アービタックス)
-口腔がんの一次予防 –
1.禁煙
2.口腔清掃
3.節酒
4.食事
16.「口腔がんの数は増えていく」
Male
年齢調整罹患率の年変動予測値
肺がん
口腔がん
咽頭がん
口腔がん罹患者数
(日本)
1975年2,100人
2005年6,900人
2015年7,800人
日本癌治療学会より
The net drfts and 95% CIs from age-period-cohort model
estimated annual percentage change of the
age-standardized incidence rate.
Chaturvedi A K et al. J clin Oncol 2013;31:4550-4559
目に見える禁煙効果
40歳男性, 20 本 ×20年間
禁煙前
口腔咽頭がん累積罹患率(男)
喫煙者: 3.3%(75歳)
非喫煙者:0.2%
禁煙後
50歳で禁煙すると・・ 1.4%↓
30歳で禁煙すると・・ 0.5%↓↓
Bosetti et al. Am J Epidemiol 2008
メタアナリシス
慢性炎症と口腔がん
写真1 義歯による慢性炎症や慢性
刺激の原因を疑う下顎歯肉がん症例
半年前から義歯をはめると痛みを
感じていたという。
写真2 う歯による慢性刺激を疑う舌がん
症例
下顎臼歯う蝕による慢性刺激が原因では
と疑わせる症例
不適合義歯の使用が口腔がんのリスクを高める
オッズ比: 3.90, 95%信頼区間:2.48-6.13
Manoharan S et al. Ill-fitting dentures and oral cancer:
A meta-analysis. Oral Oncol 2014.
デザイナーフーズ
ガン予防効果の可能
性があるといわれてい
る約40種類の食品
18.日本の禁煙支援は遅れている
「WHOたばこ規制枠組条約批准国」にもかかわらず・・
2015年 歯科系9学会共同多施設研究開始
口腔前がん病変
歯周病
インプラント
病院ココです。
広重『東海道五十三次・岡崎』
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