Raspberry Pi を利用した小型モバイル視線計測システムの開発 Small

Raspberry Pi を利用した小型モバイル視線計測システムの開発
Small Mobile Eye Tracking on the Raspberry Pi Development Platform
ヒューマンインタフェース学講座 0312011029 落合貴之
指導教員:Prima Oky Dicky A. 伊藤久祥
1. はじめに
視線計測システムは,視線情報の分析を行う心理学
やマーケティングなどの分野で広く利用されており,
当該システムの開発も活発に行われている.ヒューマ
ンインタフェース学講座では,一般に市販された視線
計測システムと同等な計測精度を持つ低価格なシステ
ムの開発に成功している.しかしながら,パソコンを
利用することから,
全体的なコストは依然として高く,
例えば歩行しながら視線計測を行うといった用途には
適さない.そこで本研究では,低価格かつ可搬性の高
い小型モバイル視線計測システムを開発し,その性能
を評価する. 表 1 システムの構成要素 要素 備考 計算機
Raspberry Pi (950MHz ARM6)
OS
Raspbian(September 2014 版)
画像処理 lib.
OpenCV 2.3.1
アイカメラ
Pi Noir
ビューカメラ
Microsoft LifeCam HD-3000
ビューレンズ
KSW-1 画角 120 度
ディスプレイ
Pi TFT(2.8 インチ)
赤外線 LED
5 mm 赤外線 LED
2. 既存の装置
モバイル視線計測システムの先行事例として,Tobii
グラス 2(トビー・テクノロジー社)1)やアイマークレ
コーダ EMR-9(ナックイメージテクノロジー社)2)が
ある.しかしながら,これらのシステムはともに約 200
万円と非常に高価で,個人での導入が難しい.また,
Tobii グラス 2 は当該装置と別に計測用のパソコンが
必要になるため,利用する場面に制約を受け,モバイ
ル用途には適さない.
図 2 提案の小型モバイル視線計測システム 着脱可能であり,レンズを外した場合,64 度の狭い視
野での詳細な視線計測を行える.また,操作画面や計
3. 提案の小型モバイル視線計測システム 測結果の出力装置にはオンボードで接続可能な
本研究では,小型モバイル視線計測システムを実現
Raspberry Pi 専用のタッチスクリーンを使用する.図 2
するために,ノートパソコンを用いた従来の視線計測
システム 3)の画像処理を小型のシングルボードコンピ
ュータである Raspberry Pi に実装し,瞳孔の撮影装置
に Raspberry Pi 専用のカメラを利用する. 3.1 ハードウェアの構成 表 1 に,提案の小型モバイル視線計測システムを構
成する要素の一覧を示す.現時点において,これらの
機器は合計 2 万円以内で入手可能である.システムを
装着した利用者の眼球を撮影するためのカメラ(アイ
カメラ; eye camera)として,Raspberry Pi 専用赤外線カ
メラモジュール(Pi Noir)を使用し,測定する眼球に赤
外光を照射するために LED を用いる.利用者の視界を
撮影するカメラ(ビューカメラ; view camera)は,人
間の有効視野角の 120 度と同等とするため,広角レン
ズを装着した Web カメラを使用する.なお,レンズは
に,表 1 の部品を元に組み立てた視線計測システムを
示す.計算機の寸法は,横幅 10cm,縦幅 6.5cm,高さ
3.5cm である.
3.2 視線計測アルゴリズム 図 3 に,本研究で用いた視線計測アルゴリズムを示
す.まず,眼球の映像に対してガウシアンマスクを適
用し,瞼領域を除去する.次に,オープニング処理・
二値化処理・blob 処理を順に行い,瞳孔の領域を抽出
し,瞳孔の中心座標を取得する.最後に 5 点によるキ
ャリブレーション処理で得たパラメータを用い,瞳孔
の中心座標を視野映像の座標に変換し,視線情報を出
力する. 以下に,キャリブレーションの手順を示す. 【手順1】 ビューカメラ映像上に描画された基準点と
重なるように Raspberry Pi 本体を配置し,3
(a) 被験者の様子
(b) 視線情報の表示
図 4 検証の様子 表 2 検証結果 場面
図 3 本研究の視線計測アルゴリズム 秒間注視する. 【手順2】 3 秒間に取得できた瞳孔の中心座標群から
フレームレート
両カメラの映像のみを取得
14.8 fps
瞳孔を検出
5.96 fps
キャリブレーション
5.87 fps
視線情報の算出
5.82 fps
標準正規分布を計算し,有意水準 95%の範
囲から外れた座標を除外する. 【手順3】 【手順 1】
【手順 2】を左上,右上,中央,
カード検知以外の視線計測には,十分に利用可能な水
準に達していると考えられる. 左下,右下の 5 点の基準点の順に行い,そ
5. おわりに れぞれの瞳孔の中心座標を取得する. 【手順4】 上記の処理を経た瞳孔の中心座標群とそれ
に該当する視野映像の各基準点の座標をホ
モグラフィ式に代入し,その変換行列
(transformation matrix)を取得する.以下に,
瞳孔の中心座標 𝑥, 𝑦 と視野映像上の注視
点の座標 𝑥′, 𝑦′ との関係を示す. ℎ!!
ℎ!"
ℎ!"
ℎ!"
ℎ!!
ℎ!"
ℎ!"
ℎ!"
1
𝑥
𝑥′
𝑦 = 𝑠 𝑦′
1
1
𝑠 = ℎ!" 𝑥 + ℎ!" 𝑦 + 1
本研究では,安価な小型モバイル視線計測システム
を開発・実装し,その性能を検証した.その結果,本
システムは高速な視線変化の分析を求めない分野にお
いて十分に利用できる水準に達していることが分かっ
た.現時点において,すでに Raspberry Pi と同程度の
価格で,より高速な演算処理能力をもつ小型 Linux 計
(1)
(2)
ここで,h11〜h32 はホモグラフィパラメータ,s はス
算機が多数市販されており,Raspberry Pi をこれらの計
算機に置き換えるだけで,本システムの性能を大幅に
向上させることが可能である.近い将来,2 万円以下
の小型モバイル視線計測システムは,十分に実現でき
ると考えられる.
ケールである. 参考文献
4. 動作検証 開発した小型モバイル視線計測システムを装着し,
視線情報を取得した際のフレームレートを算出するこ
とで,本システムの有用性について検証した.図 4(a)
に,
被験者が本システムを着用したときの様子を示す.
ここで,視線計測アルゴリズムは先行研究 3)を採用し
たため,視線計測の精度についての検証は行わない.
図 4(b)に,ディスプレイに描画された視野映像と視線
情報(丸)を示す.表 2 に,Raspberry Pi をオーバーク
ロックし,クロック周波数 950MHz で視線計測を行っ
た際の各場面におけるフレームレートを示す. 検証結果から,映像の取得は 14.8 fps で行えるが,
視線情報の算出を含むと 5.82 fps に低下することが分
かる.サッカード(saccade)の検知には,15 fps 以上の視
線追尾速度が必要であることから,本システムはサッ
1) トビー・テクノロジー社 Tobii グラス 2
<http://www.tobii.com/ja-JP/eye-tracking-research/japa
n/products/hardware/tobii-glasses-eye-tracker/>(2014/1
2/2 アクセス)
2) ナックイメージテクノロジー社 モバイル型アイ
マークレコーダ EMR-9
<http://www.eyemark.jp/product/emr_9/index.html>(2
014/12/10 アクセス)
3) 堀江友祐:ヘッドマウント型視線計測システムに
おける頭部動き補償キャリブレーション,岩手県
立大学卒業論文集,p.10-11,2014.