無料公開版 Dr 高橋の 第109回国試 「公衆衛生」 解説集 2016 No.001 1 総 論 A わ が 国 の 公 衆 衛 生 上 の 問 題 点 わが国の人口統計の推移 109-G-1 わが国の高齢化率(%),婚姻率(人口千対),自殺死亡率(人口10万対),出生率(人口千対),新 生児死亡率(出生千対)の推移(グラフ①~⑤)を別に示す。 自殺死亡率はどれか。 a ① b ② c ③ d ④ e ⑤ 自殺者は年間3万人弱という数値は記憶していると思うが,設問は自殺死亡率で表現しているので,即答できなかった かもしれない。しかし,バブル崩壊(1990年)後に激増し,約10年前(2003年)にピークをつけ,現在も高止まりして いる曲線を探すと,⑤がヒットする。ちなみに,日本の人口を1億3,000万人とし,自殺者を3万人として3/13,000を計算 すると,自殺死亡率(人口10万人)=約23と計算されるので,それもヒントになる。 ×a 出生率である。挙げられた5つのうち,一貫して減少しているのは出生率と新生児死亡率しかないが,減少の程度 はもちろん出生率の方が少ない。仮に出生率が10年で半分になれば,新規に人口に参入する乳児の数も半減し,数 十年で国家は滅亡するであろう。 ×b 婚姻率である。婚姻率は第二次ベビーブーム世代(1970年代前半生まれ)が結婚適齢期だった2000年前後までは 横ばいを保ってきたが,その後はじわじわと減少している。 ×c 新生児死亡率である。挙げられた5つのうち,一貫して減少し,その程度が著しいものを選べばよい。 ×d 高齢化率である。挙げられた5つのうち,一貫して上昇しているのは高齢化率しかない。また,高齢化率(老年人 口割合)=25%という数値は記憶していると思うので,すぐに気づくであろう。 ○e 自殺死亡率である。 正解 e No.002 1 総 論 A わ が 国 の 公 衆 衛 生 上 の 問 題 点 最 近 5年 間 の 雇 用 状 況 109-B-29 平成20~24年の社会状況で正しいのはどれか。2つ選べ。 a 完全失業率は2%以下である。 b 非正規雇用の割合は増加している。 c 完全失業率は40~50歳が最も高い。 d 父母がいる児童の世帯の約80%で父母とも仕事をしている。 e 児童のいる世帯の母の仕事は正規雇用より非正規の割合が高い。 平成20年(2008年)~21年(2009年)は自民党末期政権(福田内閣と麻生内閣)の時代であり,「決められない政 治」と呼ばれた停滞時期である。平成21年9月に鳩山内閣率いる民主党政権が誕生したが,右往左往する言動と小沢対反 小沢の確執によって崩壊し,菅内閣,野田内閣と続いたが,行政システムの実働部隊である官僚を敵視したことなどか ら,自民党末期政権時代よりもさらに社会は停滞した。そして,衆議院選挙の民主党大敗を受けて,平成24年(2012 年)12月に自民党の第二次安倍内閣が発足し,現在に至る。設問はリーマンショック(2008年)や東日本大震災(2011 年)を経るなか,政治の昏迷により日本が停滞した時期の社会状況を尋ねている。 ×a 完全失業率が2%以下というのは完全雇用で,求人が困難な状態である(自発的失業や転職のための失業があるの で,完全失業率がゼロになることはあり得ない)。アベノミクスがある程度の効果を上げた平成26年(2014年)に おいても,完全失業率は3.6%である。ちなみに,平成12年(2000年)以降のピークは平成14年(2002年)の5.4% で,平成20~24年は4.0~4.3%となっている。 ○b 非正規雇用の割合は近年増加傾向が顕著である。昭和59年(1984年)の15.3%から,平成6年(1994年)の 20.3%,平成16年(2004年)の31.4%となり,平成20~24年は34.1~35.2%を示している。右下がりの経済が続く との想定下,企業は労働者を経営の安全弁と捉えがちになるので,今後も増加すると思われる。 ×c 年齢別にみると,完全失業率が最も高いのは15~24歳で,平成20~24年は7.2~8.1%となっている。なお,景気 回復の影響を受けて,平成26年は6.3%まで下がっている。労働基準法に守られた就業者には不況になっても直ちに 解雇されない既得権があるため,労働市場に新規参入する若年者がそのあおりを受けることになる。 ×d 二人親世帯での母親の就業率は61.2%(2011年)であり,両親の就業率はこの値よりも低くなる。 ○e 二人親世帯での母親の正規雇用は28.8%であり,非正規雇用の57.3%(パート48.3%,嘱託契約社員8.1%,派遣 社員1.4%の合計)よりも低い。ちなみに,母子家庭での母親の正規雇用は39.9%であるが,それでも非正規雇用の 53.1%より低い。 正解 b,e No.003 1 総 論 B 健 康 ・ 疾 病 ・ 障 害 の 概 念 と 社 会 環 境 WHOの 健 康 の 定 義 必修 109-H-20 WHO憲章前文に述べられている健康の定義を示す。 Health is a state of complete physical, mental and ( ) well-being and not merely the absence of disease or infirmity. ( )内に入るのはどれか。 a economical b philosophical c political d social e spiritual 健康は「身体的,精神的,社会的に良好な状態であり,単に病気や虚弱でないことではない」という有名なフレーズ を知っておく必要がある。 ×a 経済的に良好な状態は健康と直接関係ない ×b 哲学的に良好な状態という表現は意味不明である。 ×c 政治的に良好な状態という表現は存在しえないように思われる。 ○d 社会的に良好な状態であり,健康の1要素である。 ×e 1998年のWHO執行理事会で,健康の定義に「霊的に良好な状態」という4つめの要素を追加する議案が総会に提出 されたが,緊急性が低いとの理由で,現在も総会で審議されないままになっている。 正解 d No.004 1 総 論 B 健 康 ・ 疾 病 ・ 障 害 の 概 念 と 社 会 環 境 国際生活機能分類 109-B-1 対麻痺患者の参加制約にあたるのはどれか。 a 抑うつ気分になる。 b 仙骨部に褥瘡がある。 c 1日4回自己導尿している。 d 移動には電動車椅子が必要である。 e 3段の段差のあるカフェで会食できない。 参加制約は機能障害および活動制限があるために,普通ならば社会と交わることができるのに,それができないこと を意味する。ただし,「会食に参加できない」という日常会話を思いつけば,それだけで解けてしまう平易な問題であ る。 ×a 対麻痺になってからしばらくの間は抑うつ気分に陥ることも多いと思われるが,「両下肢が動かない」という対 麻痺の障害とは無関係である。 ×b 対麻痺患者は仙骨部に褥瘡ができやすいが,「両下肢が動かない」という対麻痺の障害とは無関係である。 ×c 対麻痺患者は神経因性膀胱によって自己導尿が必要になるケースが多いが,「両下肢が動かない」という対麻痺 の障害とは無関係である。 ×d 歩行で移動できないのは対麻痺患者の「活動制限」であるが,車椅子を用いればこれを「活動」に転じることが できる。 ○e 電動車椅子を用いても3段の段差は克服できないので,このカフェの食卓に着くのは困難であろう。したがって, 社会と交わることのできない「参加制約」に該当する。ちなみに,この段差をスロープに変えれば,「参加制約」 は「参加」に転じる。 正解 e No.005 1 総 論 B 健 康 ・ 疾 病 ・ 障 害 の 概 念 と 社 会 環 境 リハビリテーションを行える施設 109-B-3 リハビリテーションに重点が置かれているのはどれか。 a グループホーム b 有料老人ホーム c 介護老人保健施設 d 介護老人福祉施設 e 軽費老人ホーム〈ケアハウス〉 リハビリテーションは診療の一部であり,「ホーム」と名がつく「生活の場所」では実施できない。なお,簡単な機 能訓練(カラオケを利用した呼吸訓練や盆踊りを利用した身体運動など)はしばしば通所介護施設(デイサービス)や 「ホーム」でも実施されているが,リハビリテーションに「重点」が置かれているわけではない。 ×a 介護保険の地域密着型サービスとして提供され,認知症性老人が共同生活する場所である。入所者は専属の世話 人による食事,入浴,排せつ介助などの日常生活上の世話を受けることができる。 ×b 民間事業者が経営し,入居者またはその家族と契約し,所定の報酬を得て,住居と食事等のサービスを提供する ものである(生活の場所である)。自立した高齢者を受け入れる「健康型」または「住居型」,介護スタッフを配 置して介護保険の居宅サービスを利用しながら受け入れる「介護付き」がある。 ○c 介護保険の施設サービスとして提供され,要介護者に対し,看護,医学的管理の下における介護およびリハビリ テーションその他必要な医療ならびに日常生活上の世話を行う。すなわち,入院レベルに至らない医療を提供する 施設(医療施設)である。 ×d 介護保険の施設サービスとして提供され,身体上または精神上著しい障害があるために常時の介護を必要とする 高齢者が生活する場所である。 ×e 軽費老人ホームは老人福祉法の施設で,従来3種類あったが,ケアハウスに統合されることになっている。ケアハ ウスは環境上または経済的な理由から自宅で生活できない60歳以上の者が生活する場所である。入所者は自立して いなければならないが,自炊困難など,独立して生活するのに不安があるケースが対象である。 正解 c No.006 1 総 論 C 予 防 医 学 と 健 康 増 進 2 健 康 増 進 健康増進法 109-B-30 健康増進法に規定されているのはどれか。2つ選べ。 a 健康診査の実施 b 母子健康手帳の交付 c 市町村保健センターの設置 d 国民健康・栄養調査の実施 e 認知症の予防に関する調査研究 健康増進法は全国民の健康増進を策定した健康日本21の根拠法であるが,それだけではなく,2008年に廃止された老 人保健法の健康診査事業を引き継いでいる。 ○a 健康増進法第19条の2に基づく健康増進事業として,市町村はがん検診,歯周疾患検診,骨粗鬆検診,肝炎ウイル ス検診を実施している。「検診」は一定の確率でリスクを有する集団において有病者を早期に発見する行為(二次 予防)であり,理論的には「健康増進事業」ではないが,老人保健法廃止の受け皿となっている。 ×b 母子保健は全国民の問題ではないので,母子健康手帳の交付は母子保健法で規定されている。 ×c 市町村保健センターの設置は市町村に義務を課す法律に委ねるべきであり,地域保健法が規定している。 ○d 食生活を通じた健康増進を図るには,国民の身体状況,栄養摂取量,生活習慣の現状を把握する必要がある。こ のため,健康増進法第10条は国(厚生労働大臣)に対し,国民健康・栄養調査の実施を求めている。 ×e 選択肢は全国民の問題ではない。他方,介護保険法は要介護者に対する介護給付や要支援者に対する介護予防給 付だけでなく,介護予防にも重点を置いている。このため,同法第5条の2は「認知症の予防,診断及び治療並びに 認知症である者の心身の特性に応じた介護方法に関する調査研究の推進」を求めている。 正解 a,d No.007 1 総 論 C 予 防 医 学 と 健 康 増 進 2 健 康 増 進 こころの健康 必修 109-C-15 こころの健康について正しいのはどれか。 a 睡眠時間は長いほど良い。 b ストレス対策として飲酒を勧める。 c 自殺は50~60歳代の死因の1位を占める。 d 健康日本21にその対策が位置付けられている。 e 職場のメンタルヘルス不調の気付きは産業医に任せる。 ×a 長時間睡眠はナルコレプシーや過眠症の疑いがある。これらの疑いがなくても,体質的なロングスリーパー(長 眠者)は十分な睡眠時間を確保できないと,翌日に異常な眠気,倦怠感,思考力低下などを来し,決して社会的に 有利とはいえない。 ×b 中国に「借酒消愁,愁更愁」という諺がある。酒で愁いを晴らそうとしても,愁いはますます募るという意味で ある。酩酊状態ではストレスを忘れるかもしれないが,酔いが覚めればストレスが復活するので,何の解決にもな らない。 ×c この年齢の第1位の死因は悪性新生物である(例年,自殺が第1位となるのは39歳または44歳までである)。 ○d 健康日本21は5つの基本的な方向を規定しているが,その1つが「社会生活を営むために必要な機能の維持・向 上」であり,その中でも特に「こころの健康」に力点が置かれている。具体的な目標としては,「自殺者の減少, 気分障害・不安障害に相当する心理的苦痛を感じている者の割合の減少,メンタルヘルスに関する措置を受けられ る職場の割合の増加,小児人口10万人当たりの小児科医・児童精神科医師の割合の増加」を掲げている。 ×e 月に1回しか来ない産業医に気づけというのは無理がある。職場内に相談対応窓口を設置したり,管理監督者およ び従業員に対する教育研修・情報提供を行ったりして,職場において気づくようにしなければならない。 正解 d No.008 1 総 論 C 予 防 医 学 と 健 康 増 進 2 健 康 増 進 喫煙全般 必修 109-H-19 わが国における喫煙について正しいのはどれか。 a 喫煙率は50%を超える。 b 禁煙の薬物治療に医療保険が適用される。 c 喫煙指数は1日の喫煙本数×年齢である。 d 受動喫煙によって肺癌の発生は変化しない。 e ニコチンはたばこに含有される発癌物質である。 ×a 国民健康・栄養調査によれば,平成25年の喫煙率は男性で32.2%,女性で8.2%であり,50%を大きく下回る。ち なみに,男性喫煙率は平成10年(1998年)までは50%を超えていた。 ○b 依存性と禁煙の決意があれば,医療保険を利用した薬物療法(ニコチン製剤またはバレニクリン)で禁煙治療が できる。 ×c 喫煙指数はブリンクマン指数とも呼ばれ,1日の喫煙本数×喫煙年数で求められる。 ×d 受動喫煙によって吸入される副流煙は主流煙よりも単位容積当たり多くの有害物質を含み,喫煙者と一緒に生活 する非喫煙者の肺癌罹患率は非喫煙者と一緒に生活する喫煙者よりも有意に高い。 ×e ニコチンは脳内の報酬系回路に作用し,依存を引き起こす。しかし,ヒトにおける発癌性は証明されておらず, 動物実験では否定されている(ちなみに,タールは明らかな発癌物質である)。そのため,禁煙の薬物療法でニコ チン製剤の使用が許容されるのである。 正解 b No.009 1 総 論 C 予 防 医 学 と 健 康 増 進 2 健 康 増 進 飲酒全般 109-I-32 飲酒について正しいのはどれか。 a わが国のアルコール消費量は近年,増加傾向を示している。 b 適度な飲酒の量は純アルコールで1日平均40gとされている。 c 飲酒開始年齢とアルコール依存症の発症リスクとは関係がない。 d 女性は男性と比較してアルコールによる臓器障害を起こしやすい。 e 1日平均飲酒量が増えるとともに虚血性心疾患の罹患率は直線的に上昇する。 ×a アルコール消費量(販売ベース)は平成8年度の966万klをピークに減少し,平成20年以降は850klで横ばいになっ ている。飲酒の主体である成人人口が減少していること,飲酒以外の余暇の使い方が増えていることなどが原因と して指摘されている。 ×b 適度な飲酒は純アルコールで1日平均20gであり(ビール中瓶1本,日本酒1合相当),40gは過剰である。ちなみ に,150gを超えると,大量飲酒者と呼ばれるようになる。 ×c 飲酒開始年齢が早いと(特に未成年の飲酒),依存症になりやすいという疫学データがある。ただし,依存症に なりやすい特性をもった個体が法律を侵して未成年から飲酒するというバイアスが存在するかもしれない ○d エタノールはアルコール脱水素酵素(ADH)によってアセトアルデヒドになり,これがアルデヒド脱水素酵素 (ALDH)によって酢酸に分解される。エストロゲンがADH活性を上昇させるため,女性は男性とALDH活性が同じで も,血中アルデヒド濃度が高くなりやすい。このため,女性は男性と比較してアルコールによる臓器障害を起こし やすいといわれるが,異論もある。 ×e 飲酒量と高血圧,高TG血症の罹患率は直線的に上昇する。しかし,虚血性心疾患については,適度な飲酒者の罹 患率は非飲酒者よりも低い(古来より「酒は百薬の長」と呼ばれる所以である)。ただし,適度な飲酒量を超える と,非飲酒者よりも罹患率は高くなり,大量飲酒のレベルに達すると直線的に上昇する(JカーブまたはUカーブと 呼ばれる)。 正解 d No.010 1 総 論 D 生 活 習 慣 病 と リ ス ク 癌の発症リスクの軽減 必修 109-F-15 習慣的な運動によって発症リスクが低下するのはどれか。 a 胃 癌 b 肺 癌 c 食道癌 d 結腸癌 e 膀胱癌 疫学的に運動不足ががんのリスク要因になることは古くから知られていたが,2014年にアメリカ国立がん研究所は, 運動習慣が結腸癌のリスクを40~50%低下させると報告した。また,複数の疫学研究によれば,侵襲性乳癌も運動に よって20~30%減少する。 ×a 運動習慣との関連性は指摘されていない。 ×b 運動習慣との関連性は指摘されていない。 ×c 運動習慣との関連性は指摘されていない。 ○d 詳細は不明であるが,運動によって大腸内容物の通過が促進され,発癌物質が大腸粘膜に与える影響が減少する と考えられる。 ×e 運動習慣との関連性は指摘されていない。 正解 d No.011 2 疫 学 B 記 述 疫 学 因果関係の設定基準 109-E-1 要因Aが疾患Bのリスクファクターとなる条件として不可欠なのはどれか。 a 要因Aが疾患Bの発症に先行する。 b 要因Aを疾患Bの多くが有している。 c 要因Aが存在しないと疾患Bは発症しない。 d 要因Aが疾患Bに対して量-反応関係がある。 e 要因Aによって疾患Bが発症することを動物実験で再現できる。 リスク要因定立の5条件は,関連の一致性,関連の強固性,関連の特異性,関連の時間性,関連の整合性である。ただ し,この中には1つでも矛盾したデータがあると,それだけで因果関係が否定されてしまうものがある。 語尾に「〜とは限らない」という文言を追加し,成り立たないものを選べばよい。 ○a 関連の時間性である。例えば,肺癌(疾病B)が発症してから喫煙するようになった(要因Aが生じた)とすれ ば,喫煙(要因A)は肺癌(疾病B)のリスク要因になりえない。つまり,この条件を満たさないと,リスク要因で あることが否定される。 ×b 関連の特異性は「要因Aあるところに疾病Bあり。疾病Bあるところに要因Aあり」という意味であるが,選択肢は その後半部分(肺癌患者の多くは喫煙者)である。確かに喫煙(要因A)が肺癌(疾病B)のリスク要因である確率 は高い。しかし,疾病B(アルツハイマー病)の一部のみが要因A(アポ蛋白E受容体遺伝子ε3のホモ接合)を持っ ていたとしても,要因Aが疾病Bのリスク要因でないとはいえない。 ×c 関連の特異性の前半部分を逆から表現した選択肢であり(喫煙しないと肺癌は発症しない),確かにリスク要因 である確率は高い。しかし,喫煙しなくても肺癌が生じたからといって,喫煙が発癌のリスク要因でないとはいえ ない。 ×d 量-反応関係dose-response relationshipはある要因を生体に与えたときに,要因の大きさに比例して生体に反応 (薬効や有害作用など)が認められる関係で,関連の強固性とも呼ばれる。しかし,放射線障害の確定的影響のよ うに(閾値以下の被爆では白内障は発症しない),量-反応関係がないからといって,要因Aが疾病Bのリスク要因で ないとはいえない。 ×e 関連の整合性は「既知の医学的知見と矛盾しない」という意味であるが,動物実験で再現できるのであれば,そ の条件は満たされる。しかし,動物はヒトと異なる種であり,動物で再現できなかったからといって,要因Aが疾病 Bのリスク要因でないとはいえない。 正解 a No.012 2 疫 学 B 記 述 疫 学 標準化死亡比 109-G-43 ある工場の作業者において,過去5年間に16名の肝癌による死亡が確認された。死亡数が全国と比較して 多いかどうかを知るために標準化死亡比を求めることとなった。 算出に必要な情報の組合せはどれか。 a ① b ② c ③ d ④ e ⑤ 2012年に大阪のオフセット校正印刷会社の工場労働者に胆管癌が多発し,社会問題となったが,それを題材にした出 題と思われる。胆管癌などの悪性腫瘍は高齢者に多いはずであるが,この工場で発症した5人は25~45歳と若く,標準化 死亡比は600倍に達した。これが強く因果関係を疑わせるきっかけになったことはいうまでもない。 標準化死亡比(SMR)は間接法の概念であり,観察集団の各年齢層の人口が標準集団の対応する各年齢層と同じ確率で 死亡した場合,何人死亡するか(期待値)を算出し,これと観察集団の死亡数を比較することによって求められる。ち なみに,設問では標準集団を「全国」に設定している。また,工場労働者は就業開始時期も就業継続年数も各自異なる ので,単純な人数ではなく,観察期間を踏まえた人年法を採用している。 ×a 必要なのは観察集団の年齢階級別死亡率ではなく,年齢階級別人口(人年)である。 ○b 標準集団の年齢階級別死亡率と観察集団の年齢階級別観察人年数を掛けあわせれば,期待値を計算できる。 ×c 必要なのは観察集団の年齢階級別死亡率ではなく,年齢階級別人口(人年)である。 ×d 必要なのは標準集団の年齢階級別死亡数ではなく,年齢階級別死亡率である。 ×e 必要なのは観察集団の年齢階級別死亡率ではなく,年齢階級別人口(人年)である。 正解 b No.013 2 疫 学 D 介 入 研 究 ( 臨 床 試 験 ) 1 概 念 お よ び 無 作 為 化 と 盲 検 法 偶然誤差 109-G-5 臨床試験において偶然誤差に関連するのはどれか。 a 症例数 b プラセボ c 二重盲検法 d 無作為割付 e intention to treat〈ITT〉 偶然誤差は標本調査に際して不可避的に生じる。母集団から標本Aを抽出した研究と標本Bを抽出した研究は必ず結果 が不一致になるからである。しかし,抽出する標本を増やせば増やすほど,標本Aと標本Bの間に重なりが生じ,偶然誤 差は少なくなる。 ○a 症例数すなわち抽出する標本数を増やせば,偶然誤差は少なくなる。 ×b 偽薬という意味であり,偶然誤差とは無関係である。 ×c 介入研究において被験者だけでなく,治験実施者も介入群と対照群を識別できなくする方法であり,バイアス排 除に貢献するが,偶然誤差とは無関係である。 ×d 介入研究において介入群と対照群を割り付ける際,乱数表などを用いて作為が入らないようにする方法であり, バイアス排除に貢献するが,偶然誤差とは無関係である。 ×e 日本語訳は「割付け重視の分析」である。介入研究において,介入群,対照群とも脱落例を含めて介入効果を分 析する方法である。従来は脱落例を排除して介入効果を分析するプロトコール重視の分析(PC分析protocol compatible analysis)が行われてきたが,脱落例排除時に作為が入ることから,無作為化を徹底するITT分析が注 目されている。 正解 a No.014 2 疫 学 F 臨 床 疫 学 1 概 念 と ス ク リ ー ニ ン グ 検 査 確定診断 必修 109-H-10 診断の確定に有用なのはどれか。 a 感度が高い検査が陽性のとき b 感度が高い検査が陰性のとき c 特異度が高い検査が陽性のとき d 特異度が高い検査が陰性のとき e (1−感度)/特異度が0.1より低いとき ×a 感度が高いと,大多数の患者が陽性と判定される。しかし,他の疾患でも陽性となるので,確定診断には向かな い。 ×b 感度が高い検査で陰性を示した場合,患者でない可能性が高くなる。したがって,除外診断に有用である。 ○c 特異度が高いと,他の疾患では陽性になりにくいので(陰性となりやすいので),確定診断に有効である。 ×d 特異度が高い検査で陰性を示した場合,当該疾患と診断できなくなる。ちなみに,特異度が高くても,他の疾患 (および健常者)が陰性を示すだけであり,当該疾患を除外する理由にはならない。 ×e 選択肢は陰性尤度比であり,これが低ければ,患者は健常者に比べて陰性を示す見込みが少ないことを意味す る。 正解 c No.015 2 疫 学 F 臨 床 疫 学 1 概 念 と ス ク リ ー ニ ン グ 検 査 検査後確率の計算 必修 ✍ 109-F-29 68歳の男性。発熱と全身倦怠感とを主訴に来院した。 現病歴:昨日から38℃台の発熱,頭痛,全身倦怠感および筋肉痛を認め,食欲も低下したため朝になっ て受診した。 既往歴:30年前から高血圧症の治療を受けている。 生活歴:妻,長男夫婦,小学生の孫1人と同居している。喫煙歴はない。飲酒は日本酒1合/日を30年間。 家族歴:10日前に孫が,5日前に長男がそれぞれ高熱を出して学校や仕事を休んでいた。 現 症:意識は清明。体温38.4℃。脈拍96/分,整。血圧138/76mmHg。呼吸数20/分。SpO2 97%(room air)。咽頭に軽度発赤を認める。甲状腺腫と頸部リンパ節とを触知しない。項部硬直を認めない。心音と 呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,圧痛を認めない。肋骨脊柱角に叩打痛を認めない。四肢 に浮腫を認めない。 この患者の診断のため鼻咽頭ぬぐい液を綿棒で採取し,外来で迅速検査を行った。 検査の結果は陰性であった。 患者がこの疾患に罹患している検査前確率を75%としたときの検査後確率に最も近いのはどれか。 ただし,この検査の感度は60%,特異度は96%とする。 a 4% b 18% c 40% d 44% e 56% 〈その1〉 同じような患者が100人来院したと仮定する。すると,「この疾患に罹患している検査前確率」は「有病率」のことで あり,これが75%なので,病気ありの者の合計は75人,病気なしの者の合計は25人になる。感度=60%なので,75人は 陽性の45人と陰性の30人に分かれる。他方,特異度=96%なので,25人は陽性の1人と陰性の24人に分かれる。これを四 分表にすると,以下のようになる。 設問は「検査が陰性でも,なお疾患に罹患している確率」を尋ねるので,30/54=0.555になる。 〈その2〉 検査後オッズ=尤度比×検査前オッズの公式を用いる。検査前確率=75%(3/4)なので,検査前オッズは 3:1(=3)である。検査は陰性だったので,ここでは陰性尤度比を求めなければならない。陰性尤度比=偽陰性率/特 異度=(1−0.6)/0.96=5/12である。したがって,検査後オッズ=(5/12)×3=1.25である。 解答するには,検査後オッズを確率に直さなければならない。確率=オッズ/(1+オッズ)なので,1.25/2.25=0.555 となる。 ×a 正しくない。 ×b 正しくない。 ×c 正しくない。 ×d 正しくない。 ○e 正しい(「考え方」を参照)。 正解 e No.016 2 疫 学 F 臨 床 疫 学 1 概 念 と ス ク リ ー ニ ン グ 検 査 尤度比と検査後確率 必修 109-F-10 事前確率が20%のときに尤度比4の所見があれば事後確率はどれか。 a 5% b 16% c 24% d 50% e 80% 事後オッズ=尤度比×事前オッズの公式を用いる。事前確率が20%(=1/5)であれば,事前オッズは1:4=1/4であ る。したがって,事後オッズは4×1/4=1となる。そして,事後オッズが1(1:1)であれば,事後確率は1/2となる。 ×a 正しくない。 ×b 正しくない。 ×c 正しくない。 ○d 確率をPとしたときに,オッズ=P/(1−P)である。したがって,P=オッズ/(1+オッズ)となり,オッズに1を 代入すると,P=0.5となる。ただし,このような複雑な計算をしなくても,事後オッズが1であれば(例えば,受か る見込みと受からない見込みが等しければ),その確率は50%と直観できるだろう。 ×e 正しくない。 正解 d No.017 2 疫 学 F 臨 床 疫 学 2 Evidence Based Medicine 研究方法の種類 必修 109-C-9 研究を行う本人が患者や対象者の集団に働きかけて直接データを収集しないのはどれか。 a コホート研究 b 症例対照研究 c ランダム化比較試験 d ケースシリーズ研究 e メタ分析〈メタアナリシス〉 ○a 要因への曝露がある集団と曝露がない集団の罹患率等を追跡する研究である。 ○b 症例(患者)集団と対照集団について,要因と考えられるものの過去の曝露歴を調査する研究である。 ○c 対象者を介入群と非介入群(対照群)に分け,それぞれに生じる特定の事象を追跡する研究である。 ○d ケースシリーズ研究は症例研究の一種であり,集中して特定の患者が集まる地域や施設などにおいて,要因と考 えられるものの曝露状況や治療状況から仮説を立てる記述疫学である。 ×e 特定のテーマについてのこれまでの論文を系統的に集め,それらを評価し直して結論を導く研究である。した がって,患者や対象者などの生身の人間に接することはない。 正解 e No.018 3 保 健 医 療 論 B 保 健 と 福 祉 の 組 織 児童相談所の業務 109-B-6 児童相談所の業務はどれか。 a 乳児健康診査の実施 b 就学時健康診断の通知 c 保護者に定期予防接種を通知 d 被虐待児に対し家庭からの一時保護 e 小児慢性特定疾患に関する医療費助成 児童相談所は児童を対象とした福祉機関であり,保健healthや保険insuranceの業務を取り扱わない。 ×a 保健の業務であり,母子保健法に基づき市町村が実施する(実施場所は市町村の委託を受けた個別医療機関であ る)。 ×b 未就学児を対象に,普通学級に進むか,特別支援学級に進むかの判別のために実施される健康診断であり,学校 保健安全法に基づき市町村教育委員会が各家庭に通知して実施する。 ×c 保健の業務であり,予防接種法に基づき市町村が各家庭に通知,実施する(実施場所は市町村の委託を受けた個 別医療機関である)。 ○d 児童を対象とし,その福祉を図る行為であり,児童相談所長の権限である。 ×e 保健の業務であり,児童福祉法に基づき都道府県,政令市,中核市が医療費の自己負担の全部または一部を助成 する。ちなみに,児童福祉法改正によって,平成27年1月1日に対象が704疾患に拡大された(それ以前は514疾 患)。 正解 d No.019 3 保 健 医 療 論 D 在 宅 ケ ア 在宅ケア全般 109-B-2 在宅ケアについて正しいのはどれか。 a 人工呼吸療法は在宅で可能である。 b ケアプランは介護福祉士が作成する。 c 訪問介護には医師の指示書が必要である。 d 往診は計画的・定期的に行う在宅医療である。 e 通所リハビリテーションには医療保険が適用される。 ○a 在宅人工呼吸療法home mechanical ventilation(HMV)は筋萎縮性側索硬化症(ALS),筋ジストロフィーの一 部,睡眠時無呼吸症候群などに不可欠な治療であり,すでに保険診療として実施されている。 ×b 介護ケアプランを作成するのは本人または介護支援専門員(ケアマネージャー)である。 ×c 訪問介護で提供されるサービスは医療ではないので,医師の指示書は不要である。ちなみに,訪問看護では診療 補助行為が行われるので,診療行為の主体である医師の指示書が必要である。 ×d 選択肢の主語は訪問診療である。往診は臨時の出張診察である。 ×e 通所リハビリテーション(デイケア)には介護保険が適用される。ただし,精神科デイケアに限っては診療の側 面が強いので,医療保険の適用である。 正解 a No.020 3 保 健 医 療 論 F 地 域 保 健 と 地 域 医 療 1 医 療 計 画 医療計画の内容 109-B-18 医療計画に含まれないのはどれか。 a 監察医の確保 b 救急医療の確保 c 基準病床数の設定 d 二次医療圏の設定 e 地域医療支援病院の整備 医療計画は「包括的,継続的,合理的な医療供給体制の確立」を目指して都道府県が策定するものであり,それと無 縁な選択肢を選べばよい。 ×a 監察医は行政解剖の専門職であり,監察医を確保しても地域の医療供給体制の確立に貢献しない。 ○b 地域に必要十分な救急医療機関があれば,医療供給体制の確立に貢献する。 ○c 基準病床数を設定し,これを超える病床数が存在する地域では新規参入を抑制し,これを下回る病床数しか存在 しない地域には新規参入を認容すれば,無駄を省いた合理的な医療供給体制を確立できる。 ○d 通常の保健医療を充足できる圏域としての二次医療圏,都道府県単位での三次医療圏を設定し,各圏域内で必要 とされる医療供給体制を整備するのは,医療計画実現にふさわしい手段である。 ○e 地域医療支援病院は地域医療を担う医療機関を支援する病院であり,地域に必要十分な数だけ存在すれば,医療 供給体制は充実するはずである。 正解 a No.021 3 保 健 医 療 論 F 地 域 保 健 と 地 域 医 療 3 災 害 医 療 大規模災害時の初期対応 109-G-4 大規模地震発生後48時間以内の対応として優先度が高いのはどれか。 a 予防接種 b メンタルケア c 不明者の捜索と救助 d 仮設住宅建設地の確保 e 避難所の一般廃棄物調査 大地震発生後にがれきの下などから救助された生存者は時間の経過とともに低下し,24時間以内であれば80%である が,48時間を経過すると25%,72時間を経過すると20%以下になる。48時間または72時間は「ゴールデンタイム」と呼 ばれ,一刻も早く,できるだけ多数の生存者を救出しなければならない。 ×a 創傷のある被災者に対して,速やかに破傷風の追加予防接種(トキソイド接種)を行うことがあるが,優先度は 捜索・救助に比べてはるかに低い。 ×b 災害後1月半~6か月の潜伏期を経て,被災者の約20%に外傷後ストレス障害(PTSD)を来すことがある。早期介 入でPTSDを予防できるとの報告もあるが,明確なエビデンスはないし,48時間以降でも十分に間に合う。 ○c ゴールデンタイムに全力で取り組むのは生存者の捜索と救助である。 ×d とりあえず避難所で生活していた被災者が当分の間自宅に戻れず,住居が必要になった時点で確保できれば足り る。 ×e 避難所での生活が数日続き,恒常的に廃棄物が出るようになった時点で調査すれば足りる。 正解 c No.022 3 保 健 医 療 論 F 地 域 保 健 と 地 域 医 療 4 へ き 地 医 療 へきち医療全般 109-E-5 へき地医療について正しいのはどれか。 a へき地診療所は一次医療圏ごとに設置されている。 b へき地保健医療計画は地域医療支援病院が策定する。 c へき地医療拠点病院は代診医派遣の役割を担っている。 d へき地巡回診療車は地域の救命救急センターから派遣される。 e へき地医療支援機構はへき地を有する市町村に設置されている。 へき地医療における「へき地」は,無医地区またはへき地診療所が設置されているなどのへき地保健医療対策が行わ れる地域を意味する。なお,無医地区は「医療機関のない地域で,おおむね半径4kmの区域内に人口50人以上が居住し, 診療所の設置場所から最寄りの医療機関まで通常の交通機関を利用して30分以上要する地区」であり,全国で705か所 (平成21年)存在する。 ×a 一次医療圏はかかりつけ医レベル(身近な医療の提供レベル)であり,おおむね市町村に該当する。へき地の市 町村ごとに診療所を設ける余裕はなく,現在は無医地区ごとに設置し,無医地区の解消を目指している段階であ る。 ×b へき地保健医療計画は医療法の医療計画の一部であり,都道府県が策定する。なお,地域医療支援病院はかかり つけ医を支援する病院である。 ○c へき地医療拠点病院は,無医地区などを対象に,へき地住民の医療を確保する目的で設置される医療機関であ り,都道府県が指定する。他方,へきち診療所は多くは町村立で,地域住民に恒常的に医療を提供する。しかし, その医療には人的,物的限界があるので,拠点病院は医師派遣や巡回診療などでサポートする。 ×d へき地医療と救急医療は無関係である。へき地巡回診療車は巡回診療を行うへき地医療拠点病院から派遣され る。 ×e へき地医療支援機構は,広域的なへき地医療支援事業の企画・調整を行い,各種事業を円滑かつ効率的に実施す ることを目的とする事務組織で,医療計画策定の主体である都道府県単位に設置される。 正解 c No.023 3 保 健 医 療 論 G 保 健 ・ 医 療 ・ 福 祉 の 資 源 2 保 健 ・ 医 療 ・ 福 祉 の 従 事 者 診療補助行為 109-E-4 医師の指示の下に行う診療補助行為として適切なのはどれか。 a 救急救命士による動脈血採血 b 臨床工学技士による気管挿管 c 臨床検査技師による静脈血採血 d 看護師による胸部エックス線撮影 e 診療放射線技師による造影剤投与のための静脈路確保 ×a 救急救命士は「重度傷病者が病院又は診療所に搬送される間」に「症状の著しい悪化を防止し,又はその生命の 危険を回避するために緊急に必要」な医療行為を行うことができる(救急救命士法第2条1項)。その具体例は厚生 労働省の通知によって定められているが(33項目,うち5項目は医師の具体的な指示を要する特定行為),採血は含 まれていない(設問が搬送中の静脈採血だとしても誤りである)。救急救命士は診療行為の独占を確保したい日本 医師会の反対を押し切って設けた制度であり,認められる行為は非常に限定されている。 ×b 臨床工学技士は「医師の指示の下に,生命維持管理装置の操作及び保守点検を行う」職種であり(臨床工学技士 法第2条),気管挿管はこの定義から外れる。 ○c 臨床検査技師は「医師の指示の下に,微生物学的検査,血清学的検査,血液学的検査」などを行う職種であり, そのための採血は適法な診療補助行為である。 ×d 看護師は原則として全般にわたる診療補助行為を行うことができるが,放射線照射は違法である。診療放射線技 師法第24条が「医師,歯科医師又は診療放射線技師でなければ」,放射線照射をしてはならないと規定しているか らである。 ×e 診療放射線技師は「医師又は歯科医師の指示の下に,放射線を人体に対して照射する」職種であるが(診療放射 線技師法第2条),造影剤投与およびそのための静脈路確保は放射線照射ではない。 正解 c No.024 3 保 健 医 療 論 G 保 健 ・ 医 療 ・ 福 祉 の 資 源 2 保 健 ・ 医 療 ・ 福 祉 の 従 事 者 保健・医療・福祉の従事者とその業務 必修 109-H-30 78歳の男性。脳梗塞で入院中である。急性期リハビリテーションを終えて片麻痺が残っている。前立腺 肥大による排尿障害があり尿道カテーテルを留置中である。同居している息子夫婦は共働きで日中は独居 となる。自宅への退院を予定しており多職種での退院カンファレンスを行った。 退院後の医療と介護の計画で適切なのはどれか。 a 薬剤師が訪問して内服薬を処方する。 b 介護福祉士が尿道カテーテルの交換を行う。 c 医療ソーシャルワーカーがケアプランを作成する。 d 介護支援専門員〈ケアマネジャー〉が昼食を介助する。 e 作業療法士が患者の自宅でリハビリテーションを実施する。 自宅へ戻っても,排尿障害と片麻痺が残るので,その対応を検討しなければならない。その主体となるのは家族であ るが,いくつかの医療職のサポートが不可欠である。 ×a 薬剤師が訪問して服薬を指導するのであれば正しい。しかし,処方は薬剤師ではなく,医師の職務である。 ×b 介護福祉士は介護の専門職である。尿道カテーテルの交換は医療行為であり,医師の職務である(看護師の診療 補助行為として実施している医療機関もあるが,取り外しはともかく,挿入は医師が行うべきであろう)。 ×c 介護保険の利用は不可欠であるが,ケアプランを作成するのは介護支援専門員である。 ×d 介護支援専門員は要介護者から相談を受け,ケアプランを作成するデスクワークの職種である。昼食の介助など の身体介護は介護福祉士または訪問介護員(ホームヘルパー)が行う。 ○e リハビリテーションの継続は不可欠であり,可能であればリハビリテーション機器が設置された施設へ自ら出か ける通所リハビリテーション(デイケア)を行いたい。しかし,送迎が身体的・社会的に困難であれば,作業療法 士または理学療法士が患者の自宅に出向く訪問リハビリテーションを実施する。 正解 e No.025 3 保 健 医 療 論 G 保 健 ・ 医 療 ・ 福 祉 の 資 源 2 保 健 ・ 医 療 ・ 福 祉 の 従 事 者 介護支援専門員 109-G-3 介護支援専門員〈ケアマネジャー〉について正しいのはどれか。 a 資格試験はない。 b 入浴介助を行う。 c 関係機関との連絡調整を行う。 d 医師の指示でケアプランを作成する。 e 週1回,利用者を訪問する必要がある。 介護支援専門員は「要介護者などからの相談に応じ,適切な介護サービスが利用できるように市町村や事業者などと 調整を行う職種」であり,各家庭で実際に介護する資格ではない。 ×a 都道府県知事の実施する資格試験に合格しなければならない。その後に実務者研修を修了すると,5年間有効な資 格が与えられる。 ×b 介護支援専門員は介護現場の実働部隊ではない(基本的にデスクワークを行う)。実働部隊は介護福祉士と訪問 介護員(ホームヘルパー)である。 ○c 担当の被保険者(要介護者)が利用できる介護サービスについて,保険者である市町村,居宅サービスを提供す る事業者,施設サービスを提供する各施設と連絡調整を行う。 ×d 介護ケアプランを作成するのは正しいが,医師の指示ではなく,本人または家族の依頼に基づいて行う。 ×e 法律の規定はないが,介護保険報酬を請求するためには,少なくとも毎月1回担当の被保険者宅を訪問し,被保険 者に面談し,必要な介護サービスが提供されているかをモニタリングすることが求められる。 正解 c No.026 3 保 健 医 療 論 H 社 会 保 障 制 度 と 医 療 経 済 社会保障制度全般 109-E-2 社会保障制度について正しいのはどれか。 a 国民医療費はこの10年間で3倍に増加した。 b 診療録の保存義務期間は終診時から2年間である。 c 国民健康保険組合の被保険者数は6千万人より多い。 d 介護保険第1号被保険者数は第2号被保険者数より多い。 e 結核患者の医療費の公費負担は感染症法に規定されている。 ×a 国民医療費は平成12年の30.1兆円から平成22年の37.4兆円まで7.3兆円増えているが,1.24倍にとどまる(直近 データは平成24年の39.2兆円)。国民医療費は「何も対策を採らないと毎年1兆円ずつ増える」と記憶しておくとよ い。 ×b 診療録の保存義務期間は最終診察日から5年間である。 ×c 国民健康保険組合の被保険者数は3,768万人(平成24年度末)である。ちなみに,被用者保険の被保険者数は 7,361万人である。細かい数値を知らなくても,被保険者数は被用者保険>国民健康保険,国民皆保険で保険者総 数=12,700万人(保険者総数の半分=6,350万人)であることを考えれば,6,000万人を超えるはずはないと気づく。 ×d 第1号被保険者は65歳以上,第2号被保険者は40~64歳である。老年人口割合(65歳以上)は約25%であり,生産 年齢人口割合(15~64歳)は約62%である。40~64歳が生産年齢人口の半分と計算しても31%であり(少子高齢化 の影響を受けて,実際には半分以上である),老年人口割合を超える。したがって,第1号被保険者数<第2号被保 険者数となる。ちなみに,第1号被保険者数=3,202万人(平成25年度末),第2号被保険者数=4,299万人(平成23 年度末)である。 ○e 感染症法第37条の2は「結核の適正な医療を普及するため」に外来患者の自己負担が5%になるように公費を投入 する旨規定している。また,同法37条は結核(1類感染症,結核以外の2類感染症および新型インフルエンザ等感染 症も同じ)に罹患しているとして入院勧告または強制入院となった場合の医療費について,患者が申請した場合に は患者の自己負担と規定している(患者が申請しなければ,公費が投入されるが,このような回りくどい規定にし たのは,公権力の発動によって生じた負担は原則として公権力が賄うべきであるとの発想があるからである)。 正解 e No.027 3 保 健 医 療 論 H 社 会 保 障 制 度 と 医 療 経 済 1 医 療 保 険 公的医療保険の給付対象 109-G-2 公的医療保険の給付対象となるのはどれか。 a 正常分娩 b 入院中の食事 c 職場の健康診断 d 地域住民への健康教育 e インフルエンザの予防接種 公的医療保険の対象となるのは傷病の治療に要した費用であり,健康診断,予防接種,正常妊娠・分娩,介護関係費 用は含まれない。 ×a わが国は正常妊娠・分娩を疾病とは捉えていないので,医療保険の適用はない。ちなみに,分娩後に医療保険者 より出産育児一時金が給付されるので,実際には保険給付の後払い(金銭給付)のシステムとなっている。 ○b 医療保険から入院食事療養費が現物給付される。なお,この金額は厚生労働大臣の算出基準による食事療養費 (入院中にかかる療養を含めた食事代=通常の入院で一食640円)から平均的な家計の食費と比較した標準負担額 (家庭にいたときにかかる食事代=一般家庭で一食260円)を控除して求められる。つまり,入院中に余分にかかる 療養を含めた食事代が保険給付の対象ということになる。 ×c 健康診断は「傷病の治療に要した費用」でないので,対象外である。 ×d 健康教育は「傷病の治療に要した費用」でないので,対象外である。 ×e 予防接種は「傷病の治療に要した費用」でないので,対象外である。 正解 b No.028 3 保 健 医 療 論 H 社 会 保 障 制 度 と 医 療 経 済 1 医 療 保 険 医療資源・健康状態等の国際比較 必修 109-H-2 日本,アメリカ,ドイツおよびフランスの比較で,日本について正しいのはどれか。 a 高齢化率が最も低い。 b 平均在院日数が最も長い。 c 人口千人当たりの医師数が最も多い。 d 人口千人当たりの病床数が最も少ない。 e 国内総生産〈GDP〉に対する国民医療費の割合が最も高い。 ×a 高齢化率(一般的には65歳以上の人口割合)は日本が25.1%で,世界最高である。ちなみに,アメリカは 14.0%,ドイツは21.1%,フランスは17.9%である(World Bank 2013)。 ○b 日本は急性期医療と慢性期医療の峻別ができていないため,平均在院日数は17.2日と世界最長である。ちなみ に,アメリカは4.8日,ドイツは9.1日,フランスは5.6日である(OECD Health Statistics 2014)。 ×c 抵抗勢力である日本医師会が医師の新規参入を嫌ったため,日本の人口1,000人当たりの医師数はOECD諸国の下か ら5番目であり,2.3人しかいない。ちなみに,アメリカは2.6人,ドイツは4.1人,フランスは3.3人である(OECD Health Statistics 2014)。 ×d 抵抗勢力である日本医師会が収益源である病床数を確保しようとしたため,日本の人口1,000人当たりの病床数は ダントツに多く,7.9床もある。ちなみに,アメリカは2.5床,ドイツは5.3床,フランスは3.4床である(OECD Health Statistics 2014)。 ×e 日本のGDPに対する国民医療費の割合はOECD諸国のうち,中の上くらいに位置し,10.3%である。ちなみに,アメ リカは16.6%,ドイツは11.3%,フランスは11.6%である(OECD Health Statistics 2014)。 正解 b No.029 3 保 健 医 療 論 J 国 際 保 健 世界保健機関の業務 109-B-4 世界保健機関〈WHO〉について正しいのはどれか。 a 識字率を向上させる。 b 難民の帰還支援を行う。 c 食糧を安定的に供給する。 d 医薬品の安全性を向上させる。 e 労働者の作業環境を改善させる。 WHOはHealthに関する業務を行い,日本の厚生労働省を思い浮かべるとよい。なお,産業保健分野は国際労働機関 (ILO)が担当する。 ×a Healthとは無関係であり,国際連合教育科学文化機関(UNESCO)の業務である。 ×b Healthとは無関係であり,国際連合難民高等弁務官事務所(UNHCR)の業務である。 ×c Healthとは無関係である。農業の発展や農村の開発によって食糧供給を確保するのであれば国際連合食糧農業機 関(FAO),食糧が欠乏する後進開発途上国に食糧を供給し,飢餓を防ぐのであれば国際連合世界食糧計画(WFP) の業務である。 ○d Healthそのものであり,WHOの業務である。 ×e 産業保健の一分野であるが,国際労働機関(ILO)の業務である。 正解 d No.030 3 保 健 医 療 論 K 診 療 録 と 諸 証 明 書 1 診 療 録 患者情報の開示 必修 109-H-22 26歳の女性。睡眠導入薬の過量服薬による意識障害で搬送され緊急入院となった。入院2時間後,別の病 棟に勤務している看護師から担当医に「入院した患者は自分の親友で心配なので,現在の病状について教 えてほしい」と電話があった。担当医は「この電話で患者の容態について教えることはできない」と看護 師に伝えた。 理由として適切なのはどれか。 a 診療での患者情報の利用目的から外れるため。 b 情報提供には複数の医師の承認が必要であるため。 c 精神疾患を持つ患者では情報提供が制限されるため。 d 看護師は自分自身で患者情報を閲覧可能であるため。 e 看護師が本当に患者の親友であるか確認する必要があるため。 若年者の睡眠導入薬過剰服用は自殺企図を窺わせる。当該患者の容体は個人情報であり,親友といえども第三者であ る。この親友が搬送先の病院の別の病棟に勤務する医療従事者であっても,条件は変わらない。なお,当該患者を診療 する医療チームの一員であれば,個人情報の保護主体として(親友としてではなく),個人情報を知ることになる。 ○a 患者が当該病院に提供した個人情報はあくまで自己の診察目的である。親友と称する人物の不安を緩和するため にこの情報を用いるのは目的外利用であり,個人情報保護法第16条に違反する。 ×b たとえ複数の医師が承認したとしても,目的外利用の制限を解除する理由にはならない。 ×c 精神疾患を持とうと,持つまいと,一個人は自己の情報をコントロールする権利を有するのであり,一定の除外 事由がない限り,第三者提供はこの権利を侵害する。 ×d 看護師は受け持ち患者の看護に必要であれば,当該患者の個人情報を閲覧できる。しかし,設問は受け持ち患者 に関する情報ではなく,別病棟に救急搬送された親友の情報に過ぎない。 ×e 親友という理由で第三者提供を合法化することはできない。親友にも知られたくない個人情報は多数あるし,親 友と称する得体のしれない知人はいくらでもいる。 正解 a No.031 3 保 健 医 療 論 K 診 療 録 と 諸 証 明 書 2 死 亡 診 断 書 ・ 死 体 検 案 書 諸証明書全般 必修 109-C-3 正しいのはどれか。 a 死産証書には父の氏名を記載する。 b 死亡診断書は死因統計の資料となる。 c 出生証明書は双生児の場合一枚に記載する。 d 死体検案書は診療継続中の患者に対して交付する。 e 診断書は自ら診察しないで交付することができる。 ×a 死産は出産(分娩)の一種であり,このイベントの主体を特定する死産証書の記載は母の氏名だけで足りる(出 生証明書の記載も同様である)。ちなみに,市町村長に提出する死産届には父の氏名も記載するが,未婚の場合に は戸籍法上の父ではないので,空欄とする(出生届も同様である)。 ○b 死因が記載されているので,当然死因統計の資料として活用される。 ×c 出生というイベントはそれぞれの児に生じているし,出生時刻も異なるので,当然に児の数だけ必要である。 ×d 正しい主語は「死亡診断書」である。死体検案書は診療継続中でなかった者の死亡について証明する文書であ る。 ×e 診断書は自ら診断した場合に限って交付することができる。診察しなければ,診断したことにならない。 正解 b No.032 3 保 健 医 療 論 K 診 療 録 と 諸 証 明 書 2 死 亡 診 断 書 ・ 死 体 検 案 書 死亡診断書全般 109-G-18 死亡診断書について正しいのはどれか。 a 病院が届け出る。 b 剖検所見は記載しない。 c 署名と押印とが必要である。 d 主治医以外は記載できない。 e 死因として老衰と記載できる。 ×a 病院が「どこに」届け出るのか不明であり,言葉足らずの出題と思われる。死亡診断書は死亡届と一体になった A3サイズの用紙であり,医師が死亡診断書,遺族が死亡届を記入し,遺族が市町村に届け出る。A3の用紙を破って 病院が死亡診断書の部分だけを記入して市町村に届け出るのではないので,誤りである。 ×b 解剖を実施した場合には,その所見を記載する。その方が死因は正確だからである。 ×c 署名があれば押印は不要である。署名は筆跡から作成者がわかるからである。他方,記名(名前が印刷してある 場合や名前の印鑑が押捺されている場合)であれば,押印が必要である。 ×d 主治医ではなく,死亡を診断した医師が記載しなければならない。仮に主治医が患者を看取ったとしても,死亡 診断書は主治医ではなく,死亡を診断した医師の権限で記載する。 ○e 老衰は加齢に伴って心身の能力が低下し,生命維持が困難になることである。わが国の死因統計で第5位を占める 立派な死因である。 正解 e No.033 3 保 健 医 療 論 K 診 療 録 と 諸 証 明 書 3 異 状 死 体 と 法 医 解 剖 監察医が行う行政解剖 109-E-21 監察医が行う行政解剖の目的として適切なのはどれか。 a 治療の適否 b 病巣部位の確認 c 生前の診断の正否 d 犯罪捜査上の鑑定 e 犯罪に関係なく,死因が明確でない場合の死因等の究明 ×a これから治療を行う生存中の患者を解剖するのは犯罪である。過去の治療が有効であったか否かを死後に評価す るという意味であれば,病理解剖の目的である。 ×b 病理解剖の目的である。 ×c 病理解剖の目的である。 ×d 司法解剖の目的である。 ○e 行政解剖の目的は「その地域内における伝染病,中毒又は災害により死亡した疑のある死体その他死因の明らか でない死体について,その死因を明らかにする」ことであり(死体解剖保存法第8条),その目的を達するために都 道府県知事が設置したのが監察医制度である。 正解 e No.034 4 人 口 ・ 保 健 統 計 C 疾 病 統 計 精神医療統計 109-G-6 最近5年間における精神障害者の医療の実態について正しいのはどれか。 a 精神病床の平均在院日数は約90日である。 b 精神病床数は人口千人当たり約1床である。 c 精神病床入院患者は65歳以上が約半数を占める。 d 精神病床入院患者は統合失調症より認知症が多い。 e 精神科外来患者は気分障害より統合失調症が多い。 わが国の精神医療の特徴は過度の入院偏重という点にある。このため,平均在院日数は欧米諸国に比べて著しく長 く,それを賄うためにベッド数も多い。ただし,過度の入院偏重は徐々に改善されている。また,高齢化の影響はこの 分野にも顕著で,入院患者が高齢者にシフトしつつある。 ×a 厚生労働省の病院報告によると,直近の平成25年の精神病床平均在院日数は285日である。平成5年は471日,平成 15年は349日であったことを考えると,着実に短縮しているが,まだまだ長い。欧米諸国の平均値が約20日なので, わが国のデータは異質である。 ×b 人口10万人当たりの精神病床数は267床(平成25年)であり,1,000人当たり2.7床となる。ちなみに,平成5年が 290床,平成14年が279床であることを考えると,減り方は緩徐である。わが国の精神病床の90%以上が民間病院に 属しており,削減が容易でないためである。なお,欧米諸国も1975年ころまでは日本と同じレベルであったが,監 禁・収容的精神医療への反省から病床数の削減を進め,現在はほとんどが10万人当たり50~200床である。 ○c 平成23年患者調査によると,65歳以上の割合は50.0%である。ちなみに,平成8年は29%,平成14年は38%であ り,着実に高齢化の波は及びつつある。 ×d 平成23年患者調査によると,統合失調症の入院受療率(人口10万人対)は139,アルツハイマー病のそれは33であ り,統合失調症の方がはるかに多い。 ×e 平成23年患者調査によると,統合失調症の外来受療率(人口10万人対)は48,気分障害のそれは59であり,気分 障害の方が多い。 正解 c No.035 5 母 子 保 健 B わ が 国 の 母 子 保 健 の 特 徴 母子保健統計 109-E-8 わが国の合計特殊出生率,妊産婦死亡率,新生児死亡率,乳児死亡率,死産率の推移を別に示す。それ ぞれ2010年における数値を1としたときの1950年からの変化である。 妊産婦死亡率はどれか。 a ① b ② c ③ d ④ e ⑤ 合計特殊出生率,妊産婦死亡率,新生児死亡率,乳児死亡率,死産率はこの60年間でいずれも減少したが,その程度 から該当するグラフを選択する。特に減少が著しいのは妊産婦死亡率,新生児死亡率,乳児死亡率である。新生児死亡 率と乳児死亡率は主に胎児側,妊産婦死亡率は主に母体側の影響を強く受ける。妊婦は基本的に健康であり,本来的に 脆弱な胎児よりも医療の進歩の恩恵が届きやすいので,より大きく減少する。 ○a 妊産婦死亡率であり,1950年の161.2(出産10万対)から2010年の4.1まで劇的に(40分の1まで)減少した。1950 年ころは分娩の半数が自宅で行われたこと,医療機関へのアクセスが悪かったことから,妊婦にとって分娩は命が けの行為であった。 ×b 新生児死亡率であり,1950年の27.4(出生1,000対)から2010年の1.1まで25分の1に低下した。 ×c 乳児死亡率であり,1950年の60.1(出生1,000対)から2010年の2.3まで26分の1に低下した。 ×d 死産率であり,1950年の84.9(出産1,000対)から2010年の24.2まで3.5分の1に低下した。死産の一部である人工 死産の動向は社会的要因に左右されるので,医療水準が向上しても,死産率は妊産婦死亡率,新生児死亡率,乳児 死亡率ほど低下しない。 ×e 合計特殊出生率であり,1950年の3.65から2010年の1.39まで2.6分の1に低下した。合計特殊出生率は5人子供を産 んでいたのを2人しても2.5分の1にしかならないので,妊産婦死亡率,新生児死亡率,乳児死亡率ほど低下するはず はない(30~50人産んでいたのを1人にすることはできない)。 正解 a No.036 5 母 子 保 健 C 母 子 保 健 の ポ イ ン ト 母子保健全般 109-E-3 わが国の母子保健制度について正しいのはどれか。 a 母子健康手帳は妊娠の届出の際に交付される。 b 乳幼児の健康診査の根拠法は健康増進法である。 c 母子保健法で定める事業の主体は都道府県である。 d 妊産婦の健康診査の実施時期は法律で定められている。 e 社会保険事務所は未熟児に対する養育医療の給付を行う。 ○a 妊娠中の公的サービスを受けるために届出をしたのだから,サービスの要領が記載された母子健康手帳は届出時 に交付すべきである(母子保健法第16条1項)。 ×b 「母性並びに乳児及び幼児の健康の保持及び増進を図る」方策の1つなので,母子保健法(第12条)に規定されて いる。 ×c 住民に身近な市町村にサービスさせないと,絵に描いた餅になってしまう。したがって,すべての行政サービス の事業責任者は市町村長である。 ×d 法律でサービス実施時期を規定する趣旨は,所定の時期を外れると公費負担しないという点にある(例えば,1歳 を過ぎてBCG接種を行う場合の費用は全額自己負担である)。しかし,妊産婦健康診査は体調によって受けにくい時 期があるし,期間は40週しかないので,多少ずれたからといって公費を投入しないのは過剰な制裁である。した がって,実施時期は母子保健法に規定されていない(ちなみに,厚生労働省は「妊産婦健康診査の望ましい時期」 を策定・公表しているが,かなりおおざっぱである)。 ×e 未熟児養育医療給付はサービスの一環として市町村長が行う。 正解 a No.037 6 成 人 保 健 B 主 要 な 死 因 と そ の 動 向 年齢階級別死亡率の推移 109-E-7 わが国におけるある疾患の人口10万人当たりの死亡率の推移を年齢階級別に示す。 この疾患はどれか。 a 女性の胃癌 b 男性の肝癌 c 女性の乳癌 d 女性の食道癌 e 男性の前立腺癌 50歳代から70歳代にかけて同頻度に死亡する悪性腫瘍で,死亡率(粗死亡率)が経年的に増加している疾患を選ぶ。 ×a 胃癌の粗死亡率は早期発見の増加と治療法の進歩によって減少しており,グラフに示された近年の増加と矛盾す る。 ×b 肝癌のほとんどは肝炎ウイルスのキャリアから生じているが,早期発見の増加と治療法の進歩によって粗死亡率 は横ばいである。また,高齢化に起因する癌ではないので,80歳以上の後期高齢者で死亡率が急増することと矛盾 する。 ○c 食生活の欧米化などの影響で,乳癌の粗死亡率は増加傾向にある(年齢調整死亡率が増加しているのだから,粗 死亡率は当然増加する)。また,乳癌の60~70%はホルモン依存性であり,50歳代に入ると死亡率は急増する。グ ラフをみると,50歳代の死亡率が60~70歳代の年齢層と大差がないことから,乳癌と考えられる。 ×d 食道癌の粗死亡率は早期発見の増加と治療法の進歩によって横ばいである。また,加齢とともに増加するので, グラフに示された50歳代の死亡率が60~70歳代のそれと大差ないのは矛盾する。 ×e 前立腺癌の粗死亡率は増加傾向にある。ただし,患者のほとんどは高齢者であり,30歳代,40歳代が70歳代の半 分弱,80歳代の1/4も死亡するのは矛盾する。 正解 c No.038 6 成 人 保 健 B 主 要 な 死 因 と そ の 動 向 自殺 109-A-14 過去5年(平成20~24年)の自殺の動向で正しいのはどれか。 a 総数は増加し続けている。 b 40歳代女性の死因の第1位である。 c 男性の自殺数は女性の5倍を超える。 d 自殺率は40歳以降,年齢とともに単調に増加する。 e 判明した自殺者の動機で最も多いのは健康問題である。 ×a 自殺者数は平成9年に急増し,平成15年に32,109人のピークを示したのち,その後は30,000人前後で推移してい た。しかし,平成23年は28,896人,平成24年は26,433人,平成25年は26,063人と,ここ数年は微減傾向にある。そ れでも平成8年以前と比べれば,高止まりの状態である。 ×b 例年女性で自殺が第1位になるのは15~34歳で,それを超えると悪性新生物が第1位になる。ちなみに,男性は 15~39歳または44歳で自殺が第1位を示している。 ×c 男性は女性よりも生物学的に自殺しやすいが,2倍強程度にとどまる。ちなみに,平成25年の自殺者数は男性が 18,158人,女性が7,905人である。 ×d 女性の自殺者数は40歳代から80歳以上までほぼ横ばいである。他方,男性の自殺者数は50歳代でピークを形成 し,その後は減少傾向を示す(なお,平成25年統計では40歳代と50歳代がピークを形成している)。 ○e 健康問題は自殺全体の2/3を占め,最も多い動機である。 正解 e No.039 6 成 人 保 健 B 主 要 な 死 因 と そ の 動 向 不慮の事故死 109-B-5 不慮の事故のうち,「交通事故」,「転倒・転落」,「溺死及び溺水」,「窒息」,「中毒」の5種類に おける死亡数の年次推移を図に示す。 ①の予防になるのはどれか。 a 高温での長湯を避ける。 b 容器のラベルをよく読む。 c 階段では手すりにつかまる。 d シートベルト装着を遵守する。 e 食べ物は小さく切ってよくかんで食べる。 ①の特徴はかつて最多の不慮の事故であったが,一貫して減少し,死亡数が20年弱で半減した点である。不慮の事故 の半数以上(62.5%)を高齢者が占め,その内容は窒息であることから,現在の不慮の事故の第1位は窒息になっている (これも高齢化の影響である)。したがって,①は窒息ではない。「転倒・転落」,「溺死及び溺水」,「中毒」は第1 位になるほど多いとは考えられず,自ずと①は「交通事故」であると気づくだろう。 ×a 高齢者の「溺死・溺水」の予防法であり,③が該当する。わが国の「溺死・溺水」は入浴中の事故が多く,幼児 では水を張った浴槽への転落,高齢者では意識障害が主因である。後者は入浴後の温熱作用によって末梢血管が拡 張し,脳血流が減少するために生じる。なお,溺水submergenceは気道内に液体が入り,気道が閉塞したために窒息 すること,溺死drowningはその結果死亡したことを意味する。ただし,事故から24時間以上生存し,急性腎不全や 低酸素脳症で死亡した場合には死因を「溺死」ではなく,「溺水」と記載する。 ×b 中毒の予防法であり,⑤が該当する。 ×c 高齢者の「転倒・転落」の予防法であり,②が該当する。 ○d 「交通事故」の予防法であり,①が該当する。交通事故死の減少にはシートベルト着用の徹底,運転マナーの向 上,信号機の整備,飲酒運転の厳罰化などが寄与している。 ×e 「窒息」の予防法であり,④が該当する。餅は毎年数十人(大半は高齢者)が窒息死する世界一危険な食べ物と されるが,規制する動きは全くない。ちなみに,平成22年には「こんにゃくゼリー」で窒息死する幼児の報告が相 次いだため,製造業者に対する商品形態の変更や消費者への注意喚起などの行政指導が行われた。 正解 d No.040 6 成 人 保 健 C 生 活 習 慣 病 と 保 健 対 策 特定保健指導 必修 109-F-2 特定保健指導について正しいのはどれか。 a 実施主体は国である。 b 健康増進法に規定されている。 c 20歳から64歳までの被保険者が対象である。 d ポピュレーションストラテジーが根底にある。 e リスクの高い生活習慣を有する者が対象である。 ×a 実施主体は健康保険および国民健康保険の各保険者である。 ×b 高齢者医療確保法で規定されている。 ×c 対象は40歳以上の健康保険および国民健康保険の被保険者である。ちなみに,75歳になると,高齢者医療確保法 の被保険者になるので,特定保健診査および特定保健指導の対象は40~74歳である。 ×d ストラテジーは戦略という意味であり,選択肢はポピュレーションアプローチと同義である。特定保健指導はリ スクの高い対象者に集中的に医療資源を投入するので,ハイリスクストラテジーに該当する。 ○e 「メタボ指導」と呼ばれるように,生活習慣病のリスクの高い者を対象に生活指導等を行う。 正解 e No.041 6 成 人 保 健 C 生 活 習 慣 病 と 保 健 対 策 生活習慣病の指標 109-B-41 60歳の男性。1か月前から続く咳嗽を主訴に来院した。身長165cm,体重70kg。血圧120/82mmHg。喫煙は 20本/日を40年間。飲酒は日本酒1合/日を30年間。運動は通勤時に1日平均5,000歩。胸部エックス線写真と 喀痰細胞診とに異常を認めない。 咳嗽の治療とともに指導すべきなのはどれか。 a 「塩分制限が必要です」 b 「お酒はビールに変えましょう」 c 「体重を15kg減らしましょう」 d 「2万歩を目指して頑張りましょう」 e 「60歳からでも禁煙は遅くありません」 咳嗽を主訴とする患者が来院したが,検査所見に異常を認めない。ただし,改善すべき生活習慣はいくつかあるの で,この機会に行動変容を促したいところである。 ×a 食生活の内容は記載されていないが,血圧が正常範囲内なので,特に塩分制限の必要はない。 ×b 日本酒1合は適正飲酒であり,患者の嗜好を無視してビールに変える理由は全くない。 ×c BMI=25.7なので減量が必要である。しかし,標準体重(BMI=22)は60.0kgであり,15kgの減量は過剰である。中 高年はBMIがやや多めの方が長寿との報告もあり,標準体重まで落とす必要もない(目指すのはBMI=25の68kgで十 分である)。 ×d 1日歩数は5,000歩であり,健康日本21の目標とする9,000歩に届かないので,その増加が望まれる。しかし,2万 歩は約15kmの距離に相当し,還暦を迎えた者にとっては至難の業であろう。 ○e 喫煙は主訴である咳嗽の増悪要因なので,少なくともしばらくの間禁煙は必要である。また,中高年でも禁煙の 生命予後延長効果は認められるので,これを契機に永遠に喫煙を絶つように指導するべきである。 正解 e No.042 7 高 齢 者 福 祉 と 高 齢 者 保 健 A 現 状 高齢者総合機能評価 109-E-31 高齢者総合機能評価〈CGA〉に含まれない内容はどれか。 a 意 欲 b 認知機能 c 手段的日常生活動作〈IADL〉 d バイタルサイン e 日常生活動作〈ADL〉 f 情緒と気分 高齢者総合機能評価 comprehensive geriatric assessment(CGA)は高齢者の状態を医学的に評価するだけでなく, 生活機能,精神機能,社会・環境の3方面から総合的に捉えて問題を整理・評価する手法で,その目的はQOLの向上であ る。 ○a 意欲は精神機能の1つであり,その低下はうつ病を疑わせる。 ○b 認知は精神機能の1つであり,その低下は認知症を疑わせる。 ○c 日常生活動作(ADL)では捉えられない電話の使用,買物,家事,食事の支度,洗濯,外出時の交通機関の利用, 服薬管理,金銭管理といった高次の生活機能である。 ×d バイタルサインvital signは生命徴候と訳され,具体的には脈拍,呼吸,体温,血圧などである。これは医学的 評価そのものであり,高齢者の状態の総合評価ではない。 ○e 食事,歩行,入浴,トイレ,更衣,移動などの毎日反復される一連の身体動作群であり,IADLと並んで生活機能 を構成する。 ○f 情緒・気分は精神機能の1つであり,その異常はうつ病,認知症を疑わせる。 正解 d No.043 8 精 神 保 健 C そ の 他 の ポ イ ン ト 自殺企図者への対応 109-G-45 66歳の男性。町工場経営。左手首の切創の治療を希望し,かかりつけの診療所に1人で受診した。受傷の 状況を尋ねると「気付いたら自分でナイフで切っていた」と言葉少なに答える。表情は陰うつである。傷 は浅く出血は止まっている。 切創の処置を終えたあと,まず行うべきなのはどれか。 a 家族を呼ぶ。 b 精神科受診を勧める。 c 工場の経営状態を尋ねる。 d 向精神薬の服用を勧める。 e 抑うつ症状について尋ねる。 思考回路が単純な出題委員のことだから,設問は自殺企図と判断してよいであろう。ただし,傷は浅く,出血は止 まっているのだから,「1人で」(=自発的に)診療所を受診するという行動パターンは自殺企図にしては不自然であ る。無意識の自傷行為は疾病利得を狙った解離性障害(いわゆるヒステリー)を思わせるが,患者が66歳の男性である ことを考えると,むしろ借金取りに追い詰められ,それを逃れるためのパフォーマンスの可能性が高い。いずれにして も,医療介入だけでの解決は困難であり,不用意な発言と行動を控え,患者の動静に注意を払いながら,切創ができた 背景を探るべきである。背景の内容によっては,社会福祉事務所,民生委員,警察,弁護士などへの相談が求められ る。 ×a 患者が落ち着いて,家族の話題が出るようになってからの対応である。 ×b 精神科受診の必要性が判断できるようになってからの対応である。 ×c 自殺企図と深い関連がありそうなので,患者の様子を見ながら慎重に切り出すべきである。 ×d 服薬の必要性が判断できるようになってからの対応である。 ○e 患者がうつ病という前提であれば,正しい選択肢である。しかし,パフォーマンスであれば,抑うつ症状につい ての質問は自殺企図を見せかけた患者の意図に沿い,ますます増幅するだろう(診察医としてはこれに騙されない ように注意が必要である)。むしろ,遠回しな会話を通じて切創ができた背景を探り,心理状態,精神状態を評価 すべきである。 正解 e No.044 9 感 染 症 対 策 B 感 染 症 対 策 1 感 染 症 法 ・ 検 疫 法 全数把握感染症 109-B-7 わが国の感染症対策において発生数の全数把握を行っているのはどれか。 a 結 核 b 手足口病 c 突発性発疹 d インフルエンザ e ヘルパンギーナ 感染症法5類疾患には全数把握と定点把握があるが,1~4類および新型インフルエンザ等感染症はすべて全数把握であ る。なお,選択肢には5類感染症以外が1つ含まれるので,それを選べばよい(5類感染症のうち,どれが全数把握でどれ が定点把握かを記憶するには及ばない)。 ○a 2類感染症である。 ×b 5類感染症の定点把握である。 ×c 5類感染症の定点把握である。 ×d 5類感染症の定点把握である。ただし,鳥インフルエンザH5N1およびH7N9は2類感染症,それ以外の鳥インフルエ ンザは4類感染症として全数把握になる。なお,現在存在しないが,新型インフルエンザ等感染症も全数把握であ る。 ×e 5類感染症の定点把握である。 正解 a No.045 9 感 染 症 対 策 B 感 染 症 対 策 1 感 染 症 法 ・ 検 疫 法 医師の届出感染症 109-G-30 診断したら直ちに保健所長を経由して都道府県知事に届け出なければならないのはどれか。2つ選べ。 a 結 核 b 麻 疹 c コレラ d アメーバ赤痢 e クリプトスポリジウム症 感染症法の1~4類感染症および新型インフルエンザ等感染症は診断後直ちに保健所長経由で知事に届け出なければな らない。他方,5類感染症は全数把握であれば,診断後7日以内に保健所長経由に届け出る。定点把握であれば,定点と して指定された医療機関の管理者が厚生労働省令で定める期間内に知事に届け出る(法令の規定はないが,保健所長経 由で運用されている)。 ○a 2類感染症である。 ×b 5類感染症(全数把握)である。なお,平成27年5月21日から5類感染症(全数把握)のうち,麻疹および侵襲性髄 膜炎については,直ちに届出が必要となっている。 ○c 3類感染症である。 ×d 5類感染症(全数把握)である。 ×e 5類感染症(全数把握)である。 正解 a,c No.046 9 感 染 症 対 策 B 感 染 症 対 策 1 感 染 症 法 ・ 検 疫 法 感染症の流行ピーク 109-E-9 ある感染症を発症した患者数をその発症日ごとに図に示す。 この感染症の発生状況の要因として最も考えられるのはどれか。 a 潜伏期 b 風土病 c 栄養状態 d 患者年齢 e 集団免疫 グラフをみると,2月28日~3月3日にかけて第一の流行ピーク,3月10日~14日にかけて第二の流行ピーク,3月19 日~25日にかけて第三の流行ピークがあり,1週間程度の間隔をおいて流行しているのがわかる。 ○a 間隔を置いて流行するのは,前の流行時に感染し,1週間程度の潜伏期があるからである。 ×b 風土病であれば,1年を通して万遍なく,または主因が季節性であればその季節を通じて万遍なく発生するはずで ある。 ×c 栄養状態であれば,長期間万遍なく発生するはずである。 ×d 例えば社会の高齢化が進めば,悪性腫瘍,脳血管障害,心疾患が発生しやすくなる。しかし,この変化は数十年 間をかけて生じ,週単位で変動するはずはない。 ×e 集団免疫があれば流行しない。免疫をもたない者が散発的に発症するだけである。 正解 a No.047 9 感 染 症 対 策 B 感 染 症 対 策 2 予 防 接 種 乳児の予防接種時期 109-E-42 生後2か月の乳児。ワクチン接種の相談のため母親に連れられて来院した。成長と発達とに異常を認めな い。母親の話では,近隣の市から引っ越してきたばかりで,これまで予防接種を受けたことがない。 まず受けるように勧める予防接種の対象疾患はどれか。 a 水 痘 b 日本脳炎 c Hib感染症 d 麻疹と風疹 e 流行性耳下腺炎 生後2月で受けるべき予防接種を尋ねる問題であるが,乳児期に生じやすい重篤な疾患を選べばよい。なお,生後3月 になると,ジフテリア,百日咳,破傷風の初回接種時期となる(接種期間は3~90月,標準接種期間は3~12月)。他 方,胎児感染が重篤な後遺症につながる麻疹,風疹,水痘などは乳児期早期の接種を控えることになっている。 ちなみに,現在のBCG接種期間は1歳未満,標準接種期間は5~8月である。平成25年3月末日まで標準接種期間は3~6月 であったが,乳児期前半に接種する予防接種が追加されたこと,生後3月でBCG接種をした児に原因不明の骨炎が生じた ことから,現在はやや遅らせて実施している。 ×a 接種期間は生後12~36月であるが,標準的な初回接種は12~15月に行う。 ×b 初回接種は生後6~90月(標準的には3~4歳)に行う。 ○c 接種期間は生後2~60月であるが,標準的な初回接種は2~7月に行うので,すでにその時期が到来している。生後 半年を経過すると,Hib菌と肺炎球菌による髄膜炎が増えてくる。この時期の細菌性髄膜炎は致命率も高く,生存し ても重篤な後遺症を残すので,肺炎球菌とともに乳児期前半の接種が望まれる。 ×d 第1期の接種期間は生後12~24月である。 ×e 現時点では任意接種であり,1歳以降に実施する。 正解 c No.048 9 感 染 症 対 策 C 院 内 感 染 対 策 針刺し事故後の対応 必修 109-C-17 25歳の男性。臨床研修医。患者の採血を行った後,採血管に分注しようとして誤って自分の指に針を刺 した。患者は鼠径ヘルニアの手術目的で入院した59歳の男性で,7日前に施行した術前検査ではB型肝炎ウ イルス,C型肝炎ウイルスおよびHIVの感染は指摘されていない。直ちに汚染部位を絞り出し,流水で洗浄 を行った。 この研修医に対して洗浄の後に行う対応として適切なのはどれか。 a 検査や処置を行わず経過を観察する。 b HBs抗原,HBs抗体,HCV抗体および抗HIV抗体の血液検査を行う。 c 抗HIV薬を投与する。 d HBワクチンを接種する。 e HBs抗体含有免疫グロブリン製剤を投与する。 針刺し事故があったが,患者はHBV,HCVおよびHIV感染を指摘されていない。事故後の応急処置は適切であった。その 後は経過観察でよいか,それとも被事故者(設問の研修医)の抗体をチェックすべきかという問題である。 ×a 確かに患者からの感染のリスクは低いが,抗体が陽性になる前のwindow期の患者であったり,ウイルスの変異に よって偽陰性になったりする可能性も否定できない。また,被事故者が後日「事故で感染した」として労災給付を 受ける際に,事故前に感染していなかったこと,肝機能異常がなかったことなどを証明する必要がある。したがっ て,何も検査をしないのは適切な対応ではない。 ○b 被事故者が事故以前にHBV,HCV,HIVに感染していなかったことを示すとともに,中和抗体であるHBV抗体から感 染リスクを評価する必要がある(過去に予防接種を受けても,中和抗体が形成されなかったり,消失していたりす ることもある)。なお,肝機能異常がなかったことを示すために,血清AST値,ALT値,LDH値,ALP値,γ-GTP値な ども測定することが望ましい。 ×c 患者がHIV感染者であれば,被事故者に抗HIV薬を予防投与すべきであるが,設問はこのような状況ではない。 ×d 患者がHBV感染者かつ被事故者のHBs抗体が陰性であれば,被事故者にHBVワクチンを接種すべきであるが,設問の 患者はHBV感染者でない。 ×e 患者がHBV感染者かつ被事故者のHBs抗体が陰性であれば,被事故者にHBs抗体含有免疫グロブリン製剤を投与すべ きであるが,設問の患者はHBV感染者でない。 正解 b No.049 9 感 染 症 対 策 C 院 内 感 染 対 策 MRSA保 菌 者 へ の 対 応 必修 109-F-17 74歳の男性。脳梗塞で入院中である。1か月前,四肢麻痺にて緊急入院し,脳幹梗塞と診断された。入院 中に肺炎を発症し,抗菌薬にて治療後に回復期リハビリテーション病棟に転棟した。転棟時,意識は清 明。不全四肢麻痺のため車椅子への移乗と食事とに介助を要する。体温36.4℃。血液所見:赤血球421 万,Hb 13.4g/dl,Ht 42%,白血球6,400,血小板21万。胸部エックス線写真に異常を認めない。転棟前に 実施した喀痰培養でメチシリン耐性黄色ブドウ球菌〈MRSA〉陽性が判明した。リハビリテーションは訓練 室で実施している。 この患者への対応で誤っているのはどれか。 a 院内で情報を共有する。 b リハビリテーションは継続する。 c バンコマイシン点滴静注を開始する。 d 食事介助の際にマスクとガウンを着用する。 e 使用したティッシュペーパーは感染性廃棄物とする。 脳梗塞で入院した患者が肺炎を発症し,肺炎は治癒したものの,脳梗塞のリハビリテーションが必要なので,回復期 リハビリテーション病棟に移った。しかし,転棟前の喀痰培養検査でMRSAが検出されたというケースである(喀痰培養 検査は結果が出るまでに数日かかる)。MRSAは鼻咽頭,皮膚,消化管の常在菌でもあり,肺炎治療に用いられた抗菌薬 によって菌交代現象として検出されたのかもしれない。いずれにしても現在肺炎に罹患していないので,この患者の MRSAは感染症ではなく,単なる保菌である。 ○a この患者にとってのMRSAは保菌であるが,医療従事者の手指を介して他の患者に伝播すれば,院内感染となり得 るので,情報の共有は重要である。 ○b MRSA肺炎で発熱,咳嗽,喀痰等を呈すれば,リハビリテーションは中止すべきである。しかし,保菌だけで中止 する必要はない。ちなみに,医療従事者の約5%はMRSA保菌者と推定されるので,この選択肢が誤りであれば,医療 従事者は通勤できなくなってしまう。 ×c バンコマイシンはMRSA感染症の治療薬であり,感染症でない設問患者への投与は有害無益である。 ○d 脳幹梗塞後の患者は嚥下機能低下を伴いやすく,食事に際してむせることが多いと予想される。したがって,患 者の鼻咽頭や気道のMRSAが介助者に伝播しないように,マスクやガウンを着用した方が良い。 ○e 感染性廃棄物は「医療関係機関等から生じ,人が感染し,若しくは感染するおそれがある病原体が含まれ,若し くは付着している廃棄物又はこれらのおそれのある廃棄物」と定義される。MRSAをおそれのあるティッシュペー パーは紛れもなく感染性廃棄物である(ティッシュペーパーは一般廃棄物なので,感染性一般廃棄物となる)。 正解 c No.050 10 食 生 活 A 食 事 摂 取 基 準 高血圧の男性の摂取エネルギーと食塩摂取量 必修 ✍ 109-C-14 身長180cm,体重90kgで,高血圧のある事務職の男性に勧めるべき摂取エネルギーと食塩量の組合せで適 切なのはどれか。 a ① b ② c ③ d ④ e ⑤ 身長180cm,体重90kgはBMI=27.8の肥満体である。BMI22の標準体重=71.3kgまで体重を落としたいので,摂取エネル ギー=71.3×25=1,782kcal前後が望ましい。食事摂取基準(2015年版)では男性の食塩摂取目標量<8gであるが,高血 圧があるので,減塩に努めるべきである。 ×a 摂取エネルギーが少なすぎ,空腹に耐えられないだろう。 ×b 摂取エネルギーが少なすぎるうえ,食塩摂取量が多すぎる。 ○c 最も望ましい。 ×d 食塩摂取量が多すぎる。 ×e 摂取エネルギーも食塩摂取量も多すぎる。 正解 c No.051 10 食 生 活 D 食 中 毒 1 食 中 毒 各 論 集団食中毒への対応 109-A-58 介護老人福祉施設において多数の入所者が嘔吐と下痢とを発症した。複数の患者の糞便試料からPCR法に よって原因ウイルスが同定された。 感染の拡大を抑えるために適切なのはどれか。2つ選べ。 a 入所者への予防接種 b エタノールによる消毒 c 塩素系薬剤による消毒 d マニュアルに沿った吐物の処理 e 入所者への抗ウイルス薬の予防投与 介護老人福祉施設は寝たきりや重度の認知症性老人が生活する場所であり,不適切なし尿処理によってノロウイルス 感染が生じやすい。ちなみに,彼らが生ガキを食べる機会はまれなので,ノロウイルスの流行が食中毒である可能性は 極めて低い。 ×a ノロウイルスに有効な予防接種は存在しない。 ×b ノロウイルスはエンベロープをもたないため,エタノールの有効性は低い。 ○c ノロウイルスに汚染された物品の消毒には次亜塩素酸ナトリウムが有効である。 ○d 厚生労働省はノロウイルス対策標準マニュアルを公表しているが,その骨子は手洗い,使い捨てマスク,手袋お よびエプロンを用いた排泄物・吐物の処理,次亜塩素酸ナトリウムを用いた消毒である。 ×e ノロウイルス感染予防に有効な薬剤は存在しない。 正解 c,d No.052 10 食 生 活 D 食 中 毒 1 食 中 毒 各 論 食中毒の原因 109-I-31 食中毒の原因となるのはどれか。 a たらの芽 b 青いトマト c 芽キャベツ d 発芽した大豆 e ジャガイモの新芽 ×a ウコギ科のタラノキの新芽で,てんぷらなどに調理される山菜である。 ×b グリーントマトは未成熟のトマトで,ピクルスやサラダなどに利用できるほか,日に当てると熟して赤いトマト になる。 ×c キャベツの変種で,ビタミンCを豊富に含み,さまざまな食材として利用される。 ×d 大豆の新芽はもやしとして食材になるし(市販のもやしは大豆よりも緑豆を利用することが多い),市販されて いる良質の大豆も水に浸せば発芽する。 ○e ジャガイモの新芽や光に当たって緑色に変色した部分はαソラニンを豊富に含む。αソラニンは抗コリンエステ ラーゼ作用を有し,副交感神経末端にアセチルコリンが蓄積し,嘔吐,腹痛,下痢,徐脈などのムスカリン作用や 頭痛を引き起こす(チャコニンという物質も含まれ,αソラニンと同じ作用をもたらす)。αソラニンおよびチャ コニンは耐熱性毒素であり,加熱処理は無効である。 正解 e No.053 11 学 校 保 健 A 学 校 保 健 安 全 法 1 学 校 医 の 職 務 学校医の職務 109-B-31 学校医の職務はどれか。2つ選べ。 a 健康相談 b 児童養護 c 処方箋交付 d 学級閉鎖指示 e 学校保健計画の立案に参加 学校医は学校における児童生徒等および職員の健康の保持増進を図るため,学校保健安全法に基づいて設置される職 種である。 ○a 児童生徒の健康保持増進に必要な職務である。 ×b 児童養護は虐待や死別などによって家庭による養育が困難な幼児・少年を保護・援助することであり,知事の職 務である(実際の職務は児童相談所長などに委ねられる)。 ×c 臨床医の職務である。仮に学校医が近隣の診療所の開設管理医師(院長)であり,自身が担当する学校の児童が 患者として来院したケースでも,処方箋発行は学校医ではなく,診療所医師としての職務である。 ×d 学校設置者の権限である。学校医はほとんどが非常勤であり,運営に関する重大事項の決定を委ねるわけにはい かない。 ○e 学校保健計画は毎月または毎学期の保健目標(「体を清潔にしよう」,「寒さに負けない体を作ろう」,「換気 に注意しよう」など)を立て,その実現に必要な工程を示したものである。立案責任者は学校設置者であるが,保 健に関する事項である以上,学校医の参加が求められる。 正解 a,e No.054 11 学 校 保 健 A 学 校 保 健 安 全 法 3 学 校 感 染 症 出席停止期間 109-G-7 疾患と学校保健安全法による出席停止期間の基準の組合せで正しいのはどれか。 a 水 痘 ―― 解熱した後2日を経過するまで b 風 疹 ―― 解熱するまで c 麻 疹 ―― 解熱した後3日を経過するまで d 百日咳 ―― 出席停止の必要なし e 鳥インフルエンザ(H5N1) ―― 特有の咳が消失するまで ×a 水痘の出席停止期間はすべての発疹が痂皮化するまでである。 ×b 風疹の出席停止期間はすべての発疹が消失するまでである。 ○c 麻疹は全身疾患であり,そのバロメーターである発熱で感染性を評価する。第一次と第二次ウイルス血症を起こ し,二峰性の発熱をするので,出席停止期間も解熱後3日経過するまでと長めに設定されている。 ×d 百日咳の出席停止期間は特有の咳が消失するまでであったが,特有の咳がないケースもあることから,平成24年4 月1日以降は従来の基準以外に,5日間の適切な抗菌薬治療が終了するまででも良いことになった。 ×e 鳥インフルエンザH5N1は感染症法の2類感染症であり,自動的に学校感染症第1種に該当し,治癒するまで登校で きない。 正解 c No.055 12 産 業 保 健 A 労 働 衛 生 過重労働対策 109-E-10 過重労働対策で正しいのはどれか。 a 被曝管理 b がん検診の活用 c 作業環境の測定 d 衛生委員会での審議 e 在宅での時間外勤務の奨励 過重労働は時間外勤務が健康に影響を及ぼすほどのレベルになることを意味し,一般的に月間労働時間>45時間で健 康障害のリスクが徐々に高まり,100時間を超えると著しく高くなる。このため,事業者は時間外勤務時間の削減に努め るとともに,100時間を超える労働者に疲労の蓄積が認められ,労働者が申し出たときは医師による面接指導を実施しな ければならない。 ×a 過重労働で被曝量が増えるという関係はない。 ×b 過重労働で発癌しやすくなるという関係はない。 ×c 作業環境が悪化すると過重労働が生じるという関係にはない。 ○d 衛生委員会は常時50人以上を雇用する事業所ごとに設置され,衛生に関する事項を毎月1回以上調査審議し,事業 者に意見を述べる。衛生に関する事項とは労働者の健康障害防止対策,健康保持増進対策などであり,過重労働も その対象の1つである。ちなみに,産業医も衛生委員会のメンバーの1人である。 ×e 事業所から帰宅後に在宅で時間外勤務をすれば,ますます過重労働になる。 正解 d No.056 12 産 業 保 健 A 労 働 衛 生 妊婦の就業制限 109-G-44 21歳の女性。美容師。妊娠の疑いと易疲労感とを訴えて来院した。妊娠には気付いていたが,これまで 医療機関を受診しなかった。立ち仕事が多く疲れやすくなったため受診した。月経周期は不整。最終月経 は記憶していない。体温37.1℃。脈拍64/分,整。血圧100/76mmHg。子宮底は臍下2cmで軟らかく触知す る。内診で子宮口は閉鎖しており硬である。帯下に異常を認めない。経腹超音波検査で子宮内に胎児とそ の心拍動とを認め,児の推定体重は妊娠22週相当である。経腟超音波検査で子宮頸管長は35mmである。切 迫流早産はないと判断し,勤務を軽減する措置を講じるよう雇用者に伝えることにした。 医師が作成する書類はどれか。 a 妊娠届出書 b 母子健康手帳 c 在宅療養計画書 d 診療情報提供書 e 母性健康管理指導事項連絡カード 妊娠に気づいていたが,21歳と若年であること,妊娠22週まで医療機関を受診しなかったことから,望まれない妊娠 の可能性は十分あるが,すでに人工妊娠中絶が認められる時期は過ぎている。幸か不幸か胎児は順調に発育しており, 母体にも特段の異常を認めない(子宮底の位置も子宮頸管長も22週相当である)。しかし,美容師という職業柄,立ち 仕事が多く,母体の負担は無視できなくなっている。労働基準法に基づき,産前休業を事業者に請求できるまで12週あ るが(34−22=12),それまでの対策が問われている。 ×a 本人が作成し,市町村長に届け出る。 ×b 市町村長が作成し,妊娠届を受けて本人に交付する。 ×c 医師が作成するが,在宅患者の訪問診療をする際に本人および家族に交付し,その内容を説明するための文書で ある。 ×d 医師が作成するが,当該患者が他の医療機関を受診する際に,患者のこれまでの診療経過等の情報を受診先の医 療機関宛に提供する文書である。 ○e 医師が作成し,患者(=女性労働者)に必要とされる妊娠中の指導事項を事業主に伝える文書である。男女雇用 機会均等法に基づき,事業者は当該指導事項に配慮して雇用しなければならない。設問のケースでは,就業時間の 短縮や休憩回数の増加などが考えられる。 正解 e No.057 12 産 業 保 健 B 産 業 医 職場の保健指導 109-E-6 職場の一般健康診断後の保健指導における産業医の役割でないのはどれか。 a 生活習慣の改善指導 b 保健指導の対象者の選出 c 指導を実施する保健師への助言 d 生活習慣と検査結果の関連の評価 e 業績評価のための人事部への情報提供 産業医と関係なく,「保健」と無関係な選択肢を選べば足りる。 ○a 健康診断の結果を踏まえ,当該事業所全体またはリスクの高い特定の個人に対し,保健師や栄養士と協力して生 活習慣の改善指導を行う。 ○b リスクの高い特定の個人の選出は前述の改善指導の前提となる。 ○c 前述の改善指導を実際に担当するのは保健師や栄養士であり,彼らに対する助言は改善指導の効果を向上させ る。 ○d 前述の改善指導の前提として,健康診断の結果から是正すべき生活習慣を選び出さなければならない。 ×e 業績評価は事業者(経営者)の業務であり,産業医が介入すべき事項ではない。なお,健康診断は事業者が実施 し,人事部が担当部署であることが多いため,人事部はその結果を目にすることになる。しかし,この結果は職業 病の予防と職場における健康増進のために労働者が提供したものであり,これを業績評価に用いるのは個人情報の 目的外利用に該当し,違法である。 正解 e No.058 12 産 業 保 健 C 労 働 安 全 衛 生 管 理 1 作 業 管 理 の 方 法 作業環境管理 109-A-55 48歳の男性。工場で吹きつけ作業を担当している。特殊健康診断で尿中馬尿酸が2.8g/l(分布1は1g/l以 下,分布2は1g/l超2.5g/l以下,分布3は2.5g/l超)であった。自覚症状は特にない。喫煙は10本/日を25年 間。飲酒はビール1,000ml/日を25年間。 産業医がまずとるべき措置はどれか。 a 作業状況の確認 b 自宅療養の指示 c 職場内禁煙の確認 d 貧血の有無の確認 e ストレスの有無の確認 馬尿酸hip uric acidはトルエンの代謝産物であり,トルエンを用いた吹付け作業に従事しているはずである(なお, 安息香酸benzoic acidはトルエンが馬尿酸に分解される際の中間代謝産物である)。その測定結果は分布3であり,「職 業性曝露が認められる」レベルである(分布1は「曝露なし」,分布2は「曝露はあるが,健康被害を生じるほどではな い」というレベルである)。なお,喫煙歴は長く,飲酒も適正範囲を超えており,職場における健康増進をモットーと する産業医が放置して良いわけではないが,設問は「まずとるべき措置」を尋ねている。 ちなみに,清涼飲料水には保存料として微量の安息香酸を含むため,検査前に摂取すると,それが馬尿酸に代謝され て,測定値を上昇させる。わが国で製造しているビールは安息香酸を含まないが,輸入ビールやビールテイスト飲料な どの摂取を確認した方がよい。 ○a 特殊健康診断で職業曝露があるという結果が出たのであれば,現状を把握し,それを踏まえて対策を事業者に進 言する責務がある。 ×b 就労不能であれば自宅療養の適用であるが,この労働者に自覚症状はない。なお,自宅療養を命じるのは事業者 であり,産業医ではない。 ×c 禁煙とトルエン職業性曝露とは無関係である。 ×d 鉛取扱業務であれば貧血の検査が必要であるが,そのような記載はない。 ×e ストレスとトルエン職業性曝露とは無関係である。 正解 a No.059 12 産 業 保 健 C 労 働 安 全 衛 生 管 理 3 保 健 指 導 行動変容のための対応 109-E-41 36歳の男性。プログラマー。職場の健康診断で異常を指摘されて来院した。仕事は不規則で,納期が近 づくと会社に泊まり込んで仕事をしなくては間に合わない。独身で一人暮らし。喫煙は20本/日を16年間。 既往歴に特記すべきことはない。身長168cm,体重82kg,腹囲101cm。血圧138/88mmHg。血液生化学所見: 空腹時血糖98mg/dl,HbA1c 6.2%(基準4.6~6.2),トリグリセリド178mg/dl,HDLコレステロール42mg /dl,LDLコレステロール178mg/dl。 現時点で,患者の行動変容のための対応として適切なのはどれか。 a 配置転換を勧める。 b 知人との同居を勧める。 c 服薬を開始する必要はないと説明する。 d 今の生活習慣に関する本人の考えを尋ねる。 e 糖尿病による壊疽で足を切断した患者の写真を見せる。 腹囲101cm,高トリグリセリド血症,正常高値血圧(≧130/85)からメタボリック症候群の基準を満たす。BMI=29.1 の肥満体,喫煙者で,まだ先の長い36歳というのであるから,ぜひとも行動変容を促したいところである。 ×a 仕事の不規則さが健康に影響している可能性は否定できないが,本人の行動変容に妨げとなるわけではないし, 勤務を続ける以上ある程度は職場の事情を考慮しなければならない。 ×b 独身であることが問題ではないし,似たような輩と同居して飲み食いを続ければ事態が悪化する懸念もある。 ×c 本日の診察時に薬剤を処方しないと思われるが,行動変容が成功しない場合に服薬が必要になるケースは十分に ある。 ○d 患者が問題点を自覚し,自らその解決を目指さない限り,行動変容は成功しない。患者の問題点の自覚を確認す ることは,行動変容の第一歩である。 ×e このまま放置した場合に糖尿病を発症する確率は低くないが,脅しても行動変容を期待できない(試験に落ちる ぞと脅かされて勉強を始めても,長続きしないのと同じである)。 正解 d No.060 12 産 業 保 健 C 労 働 安 全 衛 生 管 理 3 保 健 指 導 医師による保健指導 109-G-46 62歳の女性。事務職。特定健康診査で異常を指摘され来院した。自覚症状はない。既往歴に特記すべき ことはない。飲酒はビール350ml,2日に1回を30年間。身長155cm,体重52kg,腹囲63cm。血圧 144/92mmHg。尿所見:蛋白(−),糖(−)。24時間蓄尿から1日の塩分摂取量は11gと推定された。血液生 化学所見:AST 11IU/l,ALT 12IU/l,γ-GTP 14IU/l(基準8~50),トリグリセリド45mg/dl,LDLコレス テロール110mg/dl,HDLコレステロール89mg/dl,血糖91mg/dl。 現時点での指示として適切なのはどれか。 a 禁 酒 b 減 塩 c 緑茶の摂取 d 脂質摂取量の制限 e 糖質摂取量の制限 患者のBMIは21.6であり,ほぼ標準体重である。腹囲もメタボリック症候群の90cmを大きく下回り,体格に関しては問 題ない。血液生化学的所見も基準値の範囲内である。しかし,Ⅰ度高血圧であり,塩分摂取量は食事摂取基準2015年版 の7g/日未満を超えている。 ×a 適度な飲酒であり,継続して問題ない。 ○b Ⅰ度高血圧であり,食事摂取基準よりも厳格な6g/日未満を目標に減塩する。 ×c 緑茶が降圧に有効とのエビデンスはない。 ×d 肥満体でもないし,脂質検査は基準値の範囲内なので,制限は不要である。 ×e 肥満体ではないし,血糖値も基準値の範囲内なので,制限は不要である。 正解 b No.061 12 産 業 保 健 C 労 働 安 全 衛 生 管 理 3 保 健 指 導 うつ病が疑われる患者への対応 109-I-70 30歳の男性。大企業の営業職。気分が晴れず職場に行くことができないことを主訴に妻に付き添われて 来院した。3か月前に商品納入のトラブルで取引先の会社の担当者に罵倒され,その後,自責の念が強くな り,抑うつ気分,早朝覚醒および倦怠感が続き,3日前から会社に行けないと休むようになった。2週前の 会社の健康診断では異常を指摘されていない。身体所見,臨床検査および画像検査で異常を認めない。 抑うつへの治療とともにとるべき対応として適切なのはどれか。 a 労働災害の認定をする。 b 労働基準監督署に連絡する。 c 直ちに転職することを勧める。 d 産業医にも相談することを勧める。 e 取引先の産業医に状況を確認する。 抑うつ気分,早朝覚醒,倦怠感などからうつ病が疑われる。取引先の会社の担当者に罵倒されたのが発症につながっ ているようであるが,すでに3か月近くを経過していることから,誘因でないかもしれない。ちなみに,設問に「自責の 念」とあるので,これが事実ならば非定型うつ病(いわゆる「新型うつ病」)の可能性は低いが,大企業の営業職の若 手従業員という立場からはやはり「非定型うつ病」の疑いを捨てきれない。 非定型うつ病は責任ある仕事を回避しつつ,問題が生じると相手のせいにし,退社後には抑うつ気分が消失するとい う特徴がある。患者は概してプライドが高く,「自分は営業職を担当するような人間ではなく,管理部門に配属される べき」であるのに,「会社が営業職をやらせるからうつ病になるのだ」と考えることが多い(うつ病であることを公言 するとともに,うつ病に至った責任を会社に押し付ける)。 ×a 労働災害の中でうつ病は業務上疾病に該当するが,設問からは業務との関連性は認められず,申請しても却下さ れるだろう。ちなみに,認定するのは労働基準監督署長であり,医師ではない。 ×b 労災保険の給付を受けるためには,労働者が労働基準監督署長に労働災害の認定を申請しなければならないが, 労働災害と思われるエピソードはないし,そもそも申請するのは医師ではない。また,事業者に労働災害の発生を 労働基準監督署長に連絡・報告する義務はない。 ×c 抑うつ症状のあるときに転職などの人生の重大事項を決定すると,決定したことを後で後悔し,さらに抑うつ症 状が悪化することが多いので,避けるべきである。 ○d 患者の職場の状況を知らない臨床医にとって,職場でのトラブルを背景とした抑うつ症状の患者の対応は難しい と思われる。したがって,産業医に回すのは賢い方法であるが,産業医としても慎重に対応しなければならない。 定型的なうつ病であれば,うつ病の自覚と休息が必要であるが,非定型うつ病の場合に休息を勧めると,限度いっ ぱい休職し,数日出勤してまた休職するというパターンに陥ることもある。むしろ,病気を克服しようと励ましな がら(非定型うつ病患者を励ますのは禁忌でない),少しずつ責任のある仕事にチャレンジしていく行動療法が望 まれる。また,同僚からみれば,プライドが高く,職場で抑うつ気分,退社すると絶好調という態度は不愉快きわ まりないが,病気と思って冷静に付き合うように配慮しなければならない。 ×e 取引先の産業医は取引先の職業病の防止と職場における健康増進を担っており,当該患者の対応は全くの職務外 (お門違い)である。 正解 d No.062 12 産 業 保 健 D 労 働 災 害 労働者災害補償保険の給付対象 109-G-8 労働者災害補償保険法による保険給付の対象とならないのはどれか。 a 通常の業務としての夜警中に転倒し負傷した。 b 勤務時間内の事業場の火事で避難中に階段を踏み外し負傷した。 c 職場に届け出た経路で出勤する途中に交通事故にあって負傷した。 d 昼の休憩中に,公園で同僚が投げた野球のボールによって打撲した。 e 休日に上司から呼び出されて出勤し,勤務中に事故にあって負傷した。 労災保険給付の対象は業務災害と通勤災害の2つである。業務災害として認定されるための要件は,業務遂行性(労働 者が事業者の支配下にある状態)である。通勤災害であるためには,労働者が就業に関して合理的な経路および方法に よって行われなければならない。 ○a 事業者の支配下で業務に従事している最中の事故であり,業務遂行性が認められるので,給付の対象となる。 ○b 業務に従事していないが,事業者の支配下にある最中の事故なので,業務遂行性が認められ,給付の対象とな る。 ○c 通勤災害として給付の対象となる。 ×d 業務に従事していないし,事業者の支配下にもないので,業務遂行性は認められない。 ○e 休日とはいえ,事業者を代理する上司の命令で出勤した時点で業務遂行性を獲得し,しかも業務に従事している 最中の事故なので,給付の対象となる。 正解 d No.063 12 産 業 保 健 H 物 理 的 原 因 に よ る 疾 患 熱中症が疑われる患者の状況確認 必修 109-C-25 52歳の男性。意識障害のため搬入された。勤務していた工場で作業中に倒れ,同僚が119番と110番に通 報し救急搬送された。搬入時,意識レベルはJCSⅢ-300。体温41.0℃。脈拍120/分,整。血圧80/50mmHg。 呼吸数28/分。搬入時には家族に連絡がとれず既往歴や生活歴が分からなかった。同僚から患者は不眠症で 複数の医療機関から薬を処方されていたようだとの話があった。熱中症を疑い,状況を確認するため連絡 した問い合わせ先と,その返答とを表に示す。 正しいのはどれか。 a ① b ② c ③ d ④ e ⑤ 40℃を超える体温,頻脈,低血圧,呼吸促迫状態で,JCSⅢ-300(痛み刺激に無反応)というのであるから,重度の熱 中症である(悪性症候群の可能性も否定できないが,ほとんどが定型抗精神病薬服用中の患者に生じ,睡眠導入薬過剰 投与による発生は極めてまれである)。救急担当医は直ちに冷却と輸液を行うが,集中治療室で呼吸循環管理が必要と 判断される。患者は不眠症で複数の医療機関から薬剤を処方されていたとのことであるが,ベンゾジアゼピン誘導体の 確率が高い。ベンゾジアゼピン誘導体には中枢神経抑制作用や呼吸抑制作用があるので,フルマゼニルなどのベンゾジ アゼピン受容体拮抗薬の静注が必要となるかもしれない。 ×a 救急隊員は熱中症発生現場に駆けつけており,その状況を把握しているので,医師からの質問があれば,知って いる範囲で回答するのは職務の1つである。ただし,医師が救急隊員に患者の服薬状況を尋ねるのであれば,愚か者 の誹りを免れないだろう。 ×b 警察官は個人の生命,身体および財産の保護,犯罪の予防,公安の維持などを職務とし,所属警察署の管轄外で も対応しなければ目的を達しない。ただし,警察官は医療を通じて「個人の生命,身体」を保護するのではなく, 医師が警察官の協力を仰ぐのでは「お門違い」の誹りを免れないである。ちなみに,設問のケースは労働災害と推 定され,後日工場を所轄する労働基準監督署が調査に乗り出すであろう。 ×c 職場巡視によって職場環境を含む作業状態を把握するのは産業医の職務の1つである。暑熱環境下での作業を見て 見ぬふりをしていたとすれば,産業医は職務違反の誹りを免れないであろう。ただし,産業医に患者の服薬状況を 尋ねても,適切な回答は期待できない。 ×d 患者は「複数の医療機関」から薬剤を処方されており,かかりつけ医にだけ服薬状況を尋ねてもすべてを網羅で きない。ちなみに,睡眠導入薬が体温を上昇させないという趣旨であれば,かかりつけ医の発言は正しいが,熱中 症に限らず,意識障害を増悪させる点を失念している。 ○e 患者は「複数の医療機関」から受け取った処方箋を「かかりつけ薬局」に持参し,そこで調剤されているので, かかりつけ薬局の薬剤師に尋ねれば,患者の服薬状況をすべて把握できる。個人情報保護法第23条は個人情報の第 三者への提供を禁止しているが,例外として「人の生命,身体又は財産の保護のために必要がある場合であって, 本人の同意を得ることが困難であるとき」は提供を認めている。 正解 e No.064 12 産 業 保 健 H 物 理 的 原 因 に よ る 疾 患 高齢者の熱中症 109-D-16 高齢者の熱中症について誤っているのはどれか。 a 水分補給には糖質の多いものを勧める。 b 気温が急激に高くなると発症しやすい。 c 口渇感がなくとも水分摂取を勧める。 d 腎機能障害をきたすことが多い。 e 室内温度の調節に注意を促す。 ×a 患者は脱水状態にあり,軽症では電解質を含んだ水分の経口摂取,中等症以上では生理食塩水の経口輸液が必要 である。糖質の多い水分(ジュースなど)を摂取すれば,浸透圧利尿によってかえって口渇が強まるだろう。 ○b 高温環境に順応していないと,発症しやすい。 ○c 枯れぎみの高齢者は脱水状態でも口渇を訴えないことがあるので,熱中症のリスクが高ければ,口渇がなくとも 水分摂取を勧めるべきである。 ○d 脱水から腎前性腎不全を起こすことが多い。 ○e 高齢者は「冷房は身体によくない」と思い込んだり,節約を心がけたりして,高温環境に耐えようとするので, 本人および家族に熱中症のリスクが高まることを周知するべきである。 正解 a No.065 12 産 業 保 健 H 物 理 的 原 因 に よ る 疾 患 放射線防護・管理 109-G-25 放射線の防護・管理について正しいのはどれか。 a 臨床検査技師は医師の指示により人体に放射線を照射することができる。 b 妊娠している診療放射線技師は放射線業務に就くことができない。 c 放射線診療で患者が受ける被曝にも線量限度が定められている。 d 放射線診療における行為の正当化は診療放射線技師が判断する。 e 公衆被曝の線量限度は職業被曝の線量限度より低い。 ×a 正しい主語は臨床放射線技師であり,臨床検査技師ではない。 ×b 放射線従事者としての就業は制限されないが,全妊娠期間中の内部被曝の実効線量限度は1mSV,腹部表面の等価 線量限度は2mSVに制限される(医療法施行規則第30条の27)。 ×c 放射線照射が利益となる医療被曝に線量限度は既定されていないが,患者を不要な危険に曝さないためにも,利 益を最大にする範囲での被曝でなければならない。 ×d 放射線照射は診療行為であり,その責任主体である医師(歯科診療所にあっては歯科医師)が判断する。 ○e 公衆被曝の実行線量限度=1mSV/年であり(IRCP勧告),職業被曝の実行線量限度=100mSV/年(緊急作業時)ま たは50mSV/年(それ以外)(医療法施行規則第30条の27および電離放射線障害規則第6条)よりも低い。 正解 e No.066 12 産 業 保 健 J 酸 素 欠 乏 症 と 硫 化 水 素 中 毒 有毒ガスによる自殺の疑い 109-D-53 当直中に病院職員から電話があった。「帰宅したら,自宅の浴室に目張りがされており,浴室から卵が 腐ったような臭いが漏れ出している。浴室では弟が倒れているようである。119番には通報している」とい う。 適切な指示はどれか。 a すぐ現場を離れる。 b 浴室の換気扇を回す。 c 弟の心肺蘇生を始める。 d 弟を浴室から連れ出す。 e 臭いの発生源を確認する。 有毒ガスを用いた自殺企図であり,「卵の腐ったにおい」からそのガスは硫化水素と推定される。硫化水素の毒性は 低濃度では粘膜刺激作用にとどまるが,中濃度では肺水腫,高濃度ではチトクロムオキシダーゼ阻害によって組織内呼 吸を障害する。2008年に硫黄含有入浴剤と塩素系トイレ洗浄剤を混ぜると,容易に硫化水素を発生できることがイン ターネット上で紹介され,自殺者が続発した。しかし,この設問が示すように,近隣住民にとっては迷惑千万な行為で ある。なお,自殺企図者が搬送された病院では,患者の呼気や着衣からの硫化水素曝露を避ける配慮が必要である。 ○a 高濃度の硫化水素に曝露されれば呼吸が停止して,自殺者の道連れになってしまう。すでに消防署に連絡してい るのであれば,とにかく逃げることである。逃げる方向は風上でなければならない。 ×b 浴室の換気扇を回す前に呼吸停止を来すであろう。ちなみに,換気扇を回せば,汚染を周囲に広げることにな る。 ×c 心肺蘇生を行う前に呼吸停止を来すであろう。 ×d 連れ出す前に呼吸停止を来すであろう。 ×e 確認するために浴室に入った瞬間に呼吸停止を来すであろう。 正解 a No.067 12 産 業 保 健 K 職 業 癌 ヒトへの発癌性評価 109-E-19 ある化学物質について,ヒトの発癌性を調べた疫学研究では発癌性の十分な証拠が得られたが,動物実 験では発癌性が認められなかった。 ヒトへの発癌性評価について正しいのはどれか。 a 発癌性の判定は保留する。 b 新たに細胞実験を行って判定する。 c 動物の種を変えて動物実験を行う。 d ヒトの疫学研究に基づいて判定する。 e 化学物質の生体内代謝に基づいて判定する。 疫学調査でヒトの発癌性の十分な証拠があれば,それだけで国際がん研究機関(IARC)分類のグループ1に該当する。 動物実験での発癌性の有無はグループ2のAとBを分ける基準なので,ここでも問題にならない。ちなみに,グループ1に 該当する物質は116あり(2014年末時点),アスベスト,ベンジジン,クロロメチルエーテルなど労働安全衛生法で製 造・譲渡・使用が禁止された物質が含まれている。 ×a ヒトの発癌性の十分な証拠があるにもかかわらず,判定を保留すれば,国民の健康被害が拡大しかねない。当該 物質を製造する業界の圧力が発覚すれば,保留した学者は世論の厳しい批判にさらされるだろう。 ×b ヒトの発癌性の十分な証拠があれば,改めてin vitroの検査を行う意義は少ない。 ×c ヒトの発癌性の十分な証拠があれば(グループ1であれば),動物実験の結果は問題にならない。 ○d 疫学研究(科学的で信頼できるデザインであることが前提)の結果で発癌性の十分な証拠があれば,その採用を 躊躇する理由はない。 ×e 生体内代謝で生じる物質を列挙し,それらの発癌性を調べても,代謝時に生じる細胞環境の変化が発癌性につな がっている可能性もあり,疫学研究の結果を覆す根拠にはならない。 正解 d No.068 12 産 業 保 健 L 複 合 問 題 海外転勤者への感染予防 109-G-42 30歳の男性。独身。半年後にA国への転勤が決まったため,渡航についての助言を求めて来院した。既往 歴と家族歴とに特記すべきことはない。A国は,平均寿命は男性58歳,女性60歳。乳児死亡率(出生千 対)52。主な死因はHIV感染症,肺炎,下痢性疾患およびマラリアである。公衆衛生上の脅威となるような 感染症の流行情報はない。 助言の内容として適切なのはどれか。 a 渡航を中止する。 b HIV抗体検査を受ける。 c 予防接種の計画を立てる。 d 渡航について保健所に届ける。 e 抗マラリア薬の服用を開始する。 A国は平均寿命が60歳前後,乳児死亡率が52(日本の20倍),主たる死因が感染症(HIV感染症が特記されている)な ので,典型的な熱帯地域の後発開発途上国である。 ×a 会社との労働契約で労働者が海外転勤を受け入れているのであれば,渡航延期勧告地域であるなどの特段の事情 のない限り,労働者に拒否する権利はない。 ×b 転勤先でHIVに感染した際に,労働者は転勤前にHIVに感染していなかったことを証明する責任がある。ちなみ に,労働者に6か月以上の海外派遣を命じる場合,労働安全衛生規則に基づき,事業者は派遣前の健康診断を行わな ければならないが,労働者が転勤先でHIV感染リスクのある行為に及ぼうと企てていることが明白であるなどの特段 の事情のない限り,検査は不要である(このような特段の事情があれば,派遣しないであろう)。 ○c 黄熱,A型肝炎などの流行地域であるか否かを確認し,適切な予防接種を事前に実施すべきである。黄熱は生ワク チン,A型肝炎は不活性化ワクチンであり,次の予防接種まで前者は27日間,後者は6日間空けなければならない。 ×d この者の海外渡航がわが国の保健に悪影響を与えるわけではないので,そのような届出は既定されていない。 ×e 抗マラリア薬の予防投与については,必ずしも有効とのエビデンスは得られていないし,それなりの副作用もあ る。受診者にその旨説明し,それでも処方を希望する場合には投与するが,現時点では派遣まで6か月もあり,時期 尚早である(数週間前からの服用で十分である)。 正解 c No.069 12 産 業 保 健 L 複 合 問 題 有毒ガス 109-I-18 粘膜刺激症状を呈する有毒ガスはどれか。 a サリン b ブタン c 亜硫酸ガス d 一酸化炭素 e シアン化水素 ×a サリンは無色無臭のガスであり,散布されてもその瞬間には気づかず,経気道的だけでなく,経皮吸収される。 数分経つと,流涙,視界が暗くなる(縮瞳),鼻汁過多,くしゃみなどの自覚症状を訴えるが,吸収量が多ければ 痙攣を起こして死亡する。このような特徴から最も兵器として利用されやすい化学物質である。 ×b ブタンの構造式はCH3-CH2-CH2-CH3であり,硫黄も塩素も含まないので,無色無臭の気体である。毒性はほとんど ないが,可燃性物質であり,燃料として用いられる。 ○c 亜硫酸ガスは二酸化硫黄SO2の別名で,腐敗した卵のような臭気を放つ。水に溶けて亜硫酸になるため,粘膜刺激 作用をもち,鼻腔や咽喉頭の違和感から咳を生じたり,結膜を刺激して流涙を引き起こしたりする。刺激が継続す ると,気管支喘息や気管支炎をもたらすこともある(四日市ぜんそくは石油コンビナートから排出された亜硫酸ガ スが主因である)。 ×d COは硫黄も塩素も含まないので,無色無臭の気体である。ヘモグロビンとの親和性が酸素の250倍もあるので,末 梢で赤血球が酸素を放出できず,組織は酸素欠乏によって壊死する。 ×e 無色であるが,アーモンド臭をもった気体である。ミトコンドリアのチトクローム酸化酵素複合体のFe3+と結合 し,酵素活性を阻害してATP産生を妨げる(組織内呼吸を阻害する)。この結果,酸素があっても有効利用できない 状態になり,組織は壊死する。 正解 c No.070 13 環 境 保 全 A 地 球 環 境 の 変 化 と 健 康 影 響 再生可能エネルギー 109-E-38 再生可能なエネルギー源はどれか。3つ選べ。 a 風 力 b 火 力 c 地 熱 d 原子力 e バイオマス 再生可能エネルギー renewable energyは一度利用しても比較的短期間で再生でき,資源が枯渇しないエネルギーであ る。 ○a 風はまた吹いてくるし,枯渇するはずがないので,再生可能エネルギーである。 ×b 化石燃料を燃焼させてエネルギーを得る方法であるが,当然燃料は消費されてしまう。また,化石燃料は有限な ので,再生可能エネルギーではない。 ○c 地熱地帯(火山,温泉,天然の噴気孔など)の地下数km程度に存在するマグマ溜りに雨水などが浸み込み,加熱 されて蒸気となるが,これを取り出してタービンを回す方法である。この蒸気はまた生じるし,無限に存在するの で,再生可能エネルギーである。 ×d ウランなどの放射性物質を核分裂させ,生じた熱エネルギーを利用する方法である。分裂したウランは再利用で きないし,地球上に存在するウランは有限なので,再生可能エネルギーではない。ちなみに,プルサーマル計画が 成功すれば,核分裂せずに残っていたウランとその崩壊産物であるプルトニウムを取り出して利用できるが,これ は再生ではなく,リサイクルである。 ○e バイオマスbiomassは生物資源の量であるが,この分野では木屑,建設発生木材,燃えるごみ,家畜の糞尿,わ ら,もみ殻などを意味し,これらを燃焼させてエネルギーを獲得する。ヒトが生活し,消費する限りバイオマスは 比較的短時間で作られるので,再生可能エネルギーである。 正解 a,c,e No.071 13 環 境 保 全 B 公 害 環境汚染物質の集団曝露の疑いと初期対応 109-B-42 6歳の女児。発達の遅れを心配した母親に連れられて来院した。乳幼児期から言葉や歩行の発達が遅れ, 知的障害を伴っていた。遺伝性の疾患が心配で受診が遅れたが,地域に同じような症状を訴える人がいる ことがわかり心配になって受診した。妹も同じ症状がある。感染症を示唆する所見はない。医師が相談し た保健所のその後の調査により,言語障害,歩行障害および知的障害のいずれかを認める多数の患者の存 在が次第に明らかになった。患者が居住する人口約10万人の湾岸地域における環境汚染物質による曝露が 疑われるが,原因は特定できていない。 このような状況で,患者集団に対する初期の対応として適切なのはどれか。 a 地域住民の集団移転 b 裁判による患者認定 c 患者の生体試料の収集 d 患者と家族の遺伝子検査 e 行政による被害認定のための審査 水俣病をモチーフにした架空の設例と思われる。水俣病は1956年にその発生が確認され,半年後には熊本大学がチッ ソ水俣工場の排水中の有機水銀による汚染が原因と指摘したが,政府はこの見解に否定的な態度を取り続けた。しか し,1965年に新潟水俣病が確認され,ちょうど高度成長に伴う環境破壊に社会的関心が高まっていた時期でもあったた め,国会でも審議され,1968年になってやっと政府は有機水銀説を受け入れた。この対応の遅れが被害拡大につながっ たことはいうまでもない。設問はその反省に立って出題されたのであろう。 ×a 福島第一原子力発電所事故の被災地域をみてもわかるように,住民にとって長年住み慣れた地域を離れるのは苦 痛であるし,そもそもこの地域を誰も住めない土地にしてよいのかという問題がある。また,環境汚染物質と当該 疾病との因果関係は確定していないので,集団移転する場所と費用,その後の生活保障は誰が負担するのだろう か。 ×b 環境汚染物質と当該疾病との因果関係は確定していないので,汚染者を提訴しても勝訴の公算は低いだろう。し かも,訴訟による解決は時間を要し,少なくとも原因が特定できない段階の「初期の対応」ではない。 ○c 初期の対応は被害の拡大の防止であり,そのために必要なのは原因究明である。患者の生体資料から高濃度の環 境汚染物質が検出されれば,原因が特定され,行政庁による汚染源の排除といった手段も採れるだろう。ちなみ に,毛髪中の水銀濃度は短期間で低下するので,水俣病の認定基準には含まれていない。 ×d 「地域に同じような症状を訴える人がいる」というのであるから,この疾病は遺伝性疾患ではなく,環境要因に 起因すると推測される。 ×e 行政庁が被害を認定するには,認定基準を確定する必要がある。しかも,水俣病のように,財源の制約を考慮し てやたらに厳しい認定基準を設定し,不満をもった患者らが集団提訴し,決着までに50年以上を要することもあり うる。いずれにしても,原因が特定できない段階の「初期の対応」ではない。 正解 c No.072 13 環 境 保 全 C 大 気 汚 染 と 水 質 汚 濁 水質基準 109-B-8 水道法に基づく水質基準で検出されないことと規定されているのはどれか。 a 塩素酸 b 大腸菌 c カルシウム d マグネシウム e 総トリハロメタン 水道法は飲料水の基準であり,ゼロを要求するのは大腸菌だけである。 ×a 塩素類は屎尿関連物質であるが,ゼロは要求されていない。ゼロを要求すると,海岸の近くで水道水を供給でき なくなる。 ○b 屎尿汚染の直接証拠であり,1匹でも検出されれば飲み水として提供できない。ちなみに,病原性であるか否かを 問わない。 ×c カルシウムとマグネシウムは水の硬度を規定する因子であり(硬度hardnessはカルシウムとマグネシウムの量を これに対応するCaCO3のmg/lに換算した数値である),水道水は硬度≦300mg/lを求めている。硬度が高すぎると胃 腸障害を引き起こすので,あくまで規制は「以下」である。 ×d カルシウムとマグネシウムは水の硬度を規定する因子であり(硬度hardnessはカルシウムとマグネシウムの量を これに対応するCaCO3のmg/lに換算した数値である),水道水は硬度≦300mg/lを求めている。硬度が高すぎると胃 腸障害を引き起こすので,あくまで規制は「以下」である。 ×e 総トリハロメタンは原水中の有機物質(フミン質など)が消毒用に注入された塩素と反応して生じた物質であ り,塩素消毒を実施する限り,ゼロにならない。ちなみに,国際がん研究機関(IARC)はトリハロメタンをGroup 2Bの発癌性物質(発癌性があるかもしれない物質)に分類している(コーヒーやアジア野菜の漬物と同ランクであ り,危険と決めつけられるほどではない)。 正解 b No.073 13 環 境 保 全 E 廃 棄 物 の 処 理 及 び 清 掃 に 関 す る 法 律 ( 廃 清 法 ) 特別管理廃棄物の標識 必修 109-H-3 容器に付された標示を別に示す。 正しいのはどれか。 a 劇 薬 b 爆発物 c 有毒ガス d 感染性廃棄物 e 放射性廃棄物 ×a 白地に赤字で「劇」と記載し,赤枠で囲む。ちなみに,毒薬は黒地に白字で「毒」と記載し,白枠で囲む。 ×b 円形の物体が破裂し,破片が飛び散る様子を描いて表示する。 ×c 防毒マスクを装着した人物を描いて標示する。 ○d バイオハザードマークと呼ばれ,感染性廃棄物の標示である。設問は赤色で印刷されているが,これは血液など の液状物質を意味する。ちなみに,黄色で印刷されると注射針やメスなどの鋭利な物,オレンジ色で印刷されると 血液付着ガーゼなどの固体を意味する。 ×e 扇風機をイメージした3枚の羽根とそこから放射状に広がる波線を描く。そして,その下にドクロマークと逃げろ マークを描いて標示する。 正解 d No.074 15 医 の 倫 理 A 医 の 倫 理 の 具 体 化 臨床試験と医の倫理 必修 109-C-2 新たな治療法の臨床試験への参加を打診する場合の医師の発言として適切でないのはどれか。 a 「ご家族と相談されても結構です」 b 「参加されるかされないかは自由意思です」 c 「参加後は途中でやめることはできません」 d 「十分理解し,納得されてから参加してください」 e 「参加されなくても不利益が生じることはありません」 厚生労働省の「臨床研究に関する倫理指針」(平成20年改訂版)は「被験者からインフォームド・コンセントを受け る手続」について詳細に規定しているが,その骨子は被験者の自由意思の尊重である。 ○a 被験者の自由意思を決定するのに役立つので,家族を含めた第三者に相談する機会を奪うべきではない。 ○b 被験者の自由意思決定そのものである。 ×c 自己決定権の撤回は自由であり,同倫理指針も「いつでも不利益を受けることなく撤回する権利を有する」と規 定している。 ○d 被験者が慎重に自由意思を決定する機会を奪うべきではない。 ○e 「参加しないと不利益をもたらす」というのは事実上参加の強制であり,自由意思を否定することになる。 正解 c No.075 15 医 の 倫 理 B 医 師 ・ 患 者 関 係 1 自 己 決 定 権 自己決定権とパターナリズム 必修 109-C-1 治療方針の検討段階における医師のパターナリズムに該当するのはどれか。 a 患者の治療に対する価値観や感情を尊重する。 b 患者の家庭・社会生活に関する背景を尊重する。 c 患者の状態に対する医学的な適切性を優先する。 d 治療が患者に与える影響を患者とともに検討する。 e 治療に対する患者の希望や解釈モデルを尊重する。 パターナリズム(父権主義)paternalismは自己決定権の対立概念で,医師などの強い立場の者が患者などの弱い立場 の者(本人)に父親のような態度で接し,本人の意思にかかわりなく,本人の利益になるように代わって意思決定する ことを意味する。 ×a 自己決定権の趣旨に適合する。 ×b 自己決定権の趣旨に適合する。 ○c 医学に習熟した医師が患者の状態にとって最も望ましい治療を考案するのであるから,パターナリズムに該当す る。その具体例は,エホバの証人輸血拒否事件で,輸血を拒否する患者に知らせずに輸血した医師らの行為であ る。 ×d 自己決定権の趣旨に適合する。 ×e 自己決定権の趣旨に適合する。 正解 c No.076 15 医 の 倫 理 B 医 師 ・ 患 者 関 係 1 自 己 決 定 権 服薬アドヒアランス 必修 109-C-13 服薬アドヒアランスに及ぼす影響が最も小さいのはどれか。 a 薬剤の費用 b 薬剤の形状 c 薬剤の色調 d 薬剤に関する医師の説明 e 薬剤に対する患者の認識 アドヒアランスは患者が自分の意志で服薬治療に参加することである。従来は医師の服薬指示に従うことを意味する コンプライアンスという概念が用いられてきたが,近年は患者を主体に考えるアドヒアランスという概念に置き換えら れている。 ×a 例えばHER2過剰発現の乳癌に用いられるトラスツズマブの薬価は1バイアル(150mg)で約56,000円,慢性骨髄性 白血病に用いられるイマチニブの1日薬価(400mg)は約11,000円である。薬価以外にも治療費はかかるので,これ だけ高ければ,1割負担の高齢者でも躊躇しかねない。 ×b 嚥下機能が低下した高齢者にとって,カプセル錠の服用は困難である。嚥下機能に問題がなくても,棘のある錠 剤やおにぎり並みの大きさの錠剤の服用は拒否するだろう。 ○c 赤い錠剤はのみたくないとか,金色の錠剤なら服用するという患者はいないだろう。 ×d 高血圧や脂質異常症などは自覚症状がない半面,長期にわたる服薬が求められる。したがって,医師が薬剤に関 する情報を提供し,その必要性を説明しなければ,服薬継続の動機は生まれないだろう。 ×e 医師が説明しても,患者が理解しなければ,服薬継続の動機は生まれないだろう。 正解 c No.077 15 医 の 倫 理 B 医 師 ・ 患 者 関 係 1 自 己 決 定 権 がん患者の権利 必修 109-H-1 がん患者の権利として妥当なのはどれか。 a 診療録の消去 b 緩和ケアの選択 c 入院中の無断外泊 d 未承認の麻薬の使用 e 常に優先される外来診察 ×a 診療録は個人情報の記録であるだけでなく,それに基づいて診断書が作成されたり,医療行為の適正性を評価し たりするなど,社会的にも存在意義がある。したがって,医師法は5年間の保存義務を定めており,患者が消去を求 めても,これに応じることはできない。 ○b 緩和ケアは治療法の1つであり,その選択は自己決定権に属する。 ×c 医療機関の信頼を裏切る行為であるし,一般的に入院時に外泊には医療機関の許可を必要とする旨の契約を締結 しているので,この契約にも違反する。 ×d 未承認薬は「海外で使用されているが,日本では承認されていない薬剤」である。がん患者は自己決定権に基づ き,治療を選択できるが,未承認薬が治療に役立つのであれば,それを使用する権利がある。しかし,権利とはい え,薬剤を入手できなければ行使できない。入手方法は医師または患者の個人輸入しかない。麻薬及び向精神薬取 締法第13条は「本邦に入国する者が,厚生労働大臣の許可を受けて,自己の疾病の治療の目的で携帯して輸入す る」ことを認めているが,許可に際しては麻薬の品名および数量を申告しなければならない。未承認麻薬ではこの 許可を受けられないので,事実上入手不可能である。唯一考えられるのは,製薬会社が開発した新たな麻薬の臨床 試験に参加する方法くらいである。 ×e がんに罹患しているというだけで優先的に診察を受ける権利を認めれば,外来診察室は混乱するであろう。 正解 b No.078 15 医 の 倫 理 B 医 師 ・ 患 者 関 係 1 自 己 決 定 権 自己決定権行使とその対応 必修 109-H-21 34歳の女性。月経が遅れ妊娠の可能性があるため,慢性糸球体腎炎で長く通院中の主治医の外来を受診 した。28歳から慢性糸球体腎炎に罹患しており,妊娠・出産により透析になる可能性があるため避妊を指 導されていた。妊娠反応は陽性であった。夫とともに面談を繰り返したが,本人の「透析になってもよい から子供を産みたい」という強い希望は変わらない。 対応として正しいのはどれか。 a 弁護士に連絡する。 b 産科医を含めたチームで対応する。 c 指示に従わないことを理由に診療しない。 d 透析になったら医療保険の適用にならないと説明する。 e 夫に人工妊娠中絶のための内服薬の入手方法を紹介する。 医学的には人工妊娠中絶が望ましいが,患者は分娩するという自己決定権を行使している。なお,夫の意向は問題文 では不明である。このような状況で医師の採るべき対応について尋ねる問題である。 ×a 弁護士は法律の専門家であるが,法律で解決できる問題ではない。 ○b 1人の医師だけで解決できる問題ではないので,腎臓の専門医,保健師,看護師,臨床心理士,社会福祉士などを 交えてチームで対応することが望ましい。 ×c 最終的に医師の価値判断と患者の価値判断が異なった場合,当該医療機関以外にも医療機関が存在する地域であ れば,診療を拒否しても医師法の「正当理由」がある。しかし,設問の時点でいきなり診療拒否するのは責任回避 に過ぎない。 ×d 故意に生じさせた傷病(特段の事情のない自殺など)であれば保険給付の適用はないが,設例で慢性腎炎になっ てもそのようなケースに該当しないので,医療保険は適用される。 ×e 本人に秘匿して,本人の意思に反する人工妊娠中絶を行えば,刑法の不同意堕胎罪,傷害罪で処罰されることに なる。 正解 b No.079 15 医 の 倫 理 B 医 師 ・ 患 者 関 係 1 自 己 決 定 権 患者への病状説明 必修 109-H-23 51歳の男性。血痰の精査のため入院中である。精査の結果,病期Ⅳの肺腺癌と診断され余命は数か月で あると考えられた。病状と今後の治療計画について改めて患者に説明することになった。これまで患者本 人以外の家族や関係者と面談したことはない。患者は現職の市長で2か月後の市長選挙への出馬に強い意欲 を持っており,後援会長がその準備にあたっている。市長が入院したことは報道機関も含め地元で話題と なっている。 この時点での対応として適切なのはどれか。 a 早期肺癌であると患者本人に説明する。 b 市長は肺炎であると記者会見で発表する。 c 市長選への出馬は困難であると後援会長に伝える。 d 病期Ⅳの肺癌であると患者の家族から本人に伝えてもらう。 e 悪い知らせを詳しく聞く意思があるかを患者本人に確認する。 現職で若手の現職市長が選挙告示直前に肺癌に侵され,しかも終末期であることが明らかになった。市長の入院は地 元でも広く知られており,後援会長は選挙の準備を進めている。このように特異なケースであるが,医師の対応は一般 人のケースと変わらないし,変えてはならない。 ×a 実際は末期癌であり,虚偽の情報を伝えれば後に大混乱を巻き起こす。 ×b 本人の同意なしに個人情報を開示するのは,刑法の守秘義務違反かつ個人情報保護法違反である。しかも,事実 と異なり,医師は後に報道機関から糾弾されるであろう。 ×c 後援会長は必ず理由を尋ねるであろう。そこで回答すれば,守秘義務違反かつ個人情報保護法違反である。「理 由は教えられない」と言えば,後援会長は市長に事情を尋ね,そこから市長は異常事態と気づくことになる。これ は患者の受容能力を引き出す前の告知になり,不適切である。 ×d 診察の結果を告知するのは医師の職務である。その作業を家族に押し付けるのは責任回避に過ぎない。 ○e 終末期などの悪い知らせの告知には,「大事な話がありますので,よく聞いてください」などと切り出し,患者 の受容能力を引き出さなければならない。市長は自分の身体だけでなく,来るべき選挙で頭がいっぱいである。そ こへ,いきなり「あなたの余命はあと数か月」などと突然告知すれば,市長は大きく動揺するだろう。市長として 再選を目指すほどの人物なのだから,医師から「大事な話」,「悪い知らせ」という単語を聞いただけで,状況を すべて理解するだろう。任期中にやり残した懸案がもう少しで解決するというのであれば,市長は任期中の死亡を 覚悟で再選に臨むという自己決定権を行使するかもしれない。そうでなければ,後援会や後継市長の迷惑,選挙実 施に使われる高額の税金などを考慮して,立候補を見送るという自己決定権を行使するだろう。なお,「悪い知ら せ聞く意思があるか」と尋ね,「意思はない」と回答されたら医師は窮地に陥るので,「悪い知らせがあります が,今お時間よろしいですか」とか,「悪い知らせがあるので,聞く準備はよろしいですか」などという質問の方 が望ましい。 正解 e No.080 15 医 の 倫 理 B 医 師 ・ 患 者 関 係 2 イ ン フ ォ ー ム ド ・ コ ン セ ン ト 複数の病院を受診している患者 必修 109-C-18 35歳の女性。3か月以上続く頭重感を主訴に総合内科を受診した。症状は午後から夜に増悪するが日常生 活に支障はない。これまで複数の病院を受診して頭部CTと頭部MRIとを施行されており異常はないと言われ ていたが,頭部MRIをもう一度行ってほしいと患者は強く希望している。 この患者にまず医師がかける言葉として適切なのはどれか。 a 「私に任せなさい」 b 「医療費の無駄遣いです」 c 「頭部MRIの予約をします」 d 「脳神経外科を受診しなさい」 e 「頭の重いのが続くのが心配なのですね」 客観的に何らかの疾病を疑う状態ではないが,患者の疾病に対する不安は強い。このようなケースは適切な医療面接 で解決することも多い。 ×a 医師の「任せろ」の一言で患者の不安が解消するはずはない。 ×b 正しいようにも思えるが,患者は別な医療機関を受診するので,医療費はかえって増加する。 ×c 医師は患者の召使いではない。MRI検査の必要性があれば,検査予約は妥当であるが,新たな異常が見つかるとは 思えない。この医者こそ「医療費の無駄遣い」をしている。 ×d そもそも脳神経外科学的手技を必要とする患者ではない。他科を紹介することによって面倒な仕事を避ければ, 地域の医療機関の信頼を失うだろう。 ○e 共感的態度であり,良好な医師患者関係の確立に貢献する。ただし,患者の「はい,そうなのです」という答え を継ぐ言葉の方がさらに重要である。 正解 e No.081 15 医 の 倫 理 B 医 師 ・ 患 者 関 係 2 イ ン フ ォ ー ム ド ・ コ ン セ ン ト 患者の心理状態とその対応 必修 109-F-16 56歳の男性。褥瘡の治療のため入院中である。38歳時に交通事故で脊髄を損傷し完全対麻痺となり,車 椅子の生活である。自分で車を運転し営業職に就いている。3か月前から褥瘡に対し外来治療を継続してい たが,悪化したため手術目的で入院した。術前に,手術の概要と術後1週はベッド上安静が必要であること を説明したところ,ベッド上安静になると筋力が低下し車に乗れなくなるので困るといって術後の安静を 拒否した。 患者の心理的状態に配慮した対応はどれか。 a 強制退院とする。 b 車の運転は可能であると保証する。 c 車の運転をあきらめるよう説得する。 d 現在の生活状況について詳しく話を聞く。 e 褥瘡感染から敗血症になった事例を説明する。 手術と術後1週間の安静加療が必要な患者が,生活のために自動車の運転を続けたいと希望しているケースである。た だし,生活のために必要なのは自動車の運転ではなく,退院後に顧客を失わずに,営業職を続けられることである。 ×a 患者と医師では保持する情報量が全く異なり,患者の考えに耳を傾け,誤解があればそれを説明し,理解を求め る努力が必要である。この程度で強制退院させていたら,入院患者は激減し,病院経営は傾くだろう。 ×b 実際には不可能である可能性が高い。患者はとりあえず納得して医師に感謝するかもしれないが,後日運転でき ない事実が判明すると,医師への不信感や怒りが生じ,その収拾に苦慮することになるだろう。 ×c 患者は生活がかかっているので,説得が奏功する可能性は低いし,患者医師関係はこじれるだろう。 ○d 医師が患者とともに,入院による損失をカバーする方法を検討することで,患者医師関係は再構築される。例え ば,自動車の運転ができる家族がいるのならば,1週間に限って携帯電話やインターネットで注文をとり,家族が商 品を届けるなどの対応が可能かもしれない。緊急手術ではないようなので,患者の休みに合わせて手術日をずらす などの対応も有効であろう。 ×e 患者に対する脅しであり,その場は引き下がっても,後日脅されたことに気づき,医師への不信感が生じるだろ う。 正解 d No.082 15 医 の 倫 理 B 医 師 ・ 患 者 関 係 3 終 末 期 ケ ア と チ ー ム 医 療 緩和医療 109-B-37 がんの緩和医療について正しいのはどれか。2つ選べ。 a 遺族へのグリーフケアを含む。 b 医療用麻薬は在宅医療では用いない。 c 精神的苦痛は全人的苦痛の一つである。 d 緩和ケアはがん終末期に限定された医療である。 e WHO方式では睡眠時の鎮痛を最終目標としている。 ○a グリーフケアは近親者との死別などによって悲嘆griefに打ちひしがれている人々に対するサポートを意味し,家 族も対象とする緩和医療の守備範囲である。 ×b 在宅で最期を遂げる患者にとって医療用麻薬は不可欠であり,これを禁止する理由は全くない(すでに保険医療 として提供されている)。 ○c 身体的苦痛,社会的苦痛,霊的苦痛とともに全人的苦痛を構成する。 ×d がん終末期に限らず,当該疾患の治癒は望めず,近い将来当該疾患で死亡する確率の高い患者も対象である(終 末期医療⊂緩和医療という包含関係になる)。 ×e 覚醒時は疼痛に苦しんでもかまわないという非常識な選択肢である。そもそも覚醒時に疼痛があれば,睡眠導入 は困難である。 正解 a,c No.083 15 医 の 倫 理 B 医 師 ・ 患 者 関 係 3 終 末 期 ケ ア と チ ー ム 医 療 癌性疼痛緩和 109-G-29 癌性疼痛緩和における医療用麻薬の投与について正しいのはどれか。 a 静注薬から開始する。 b 時刻を決めて投与する。 c 強オピオイドから開始する。 d 原発巣を確定する前には開始しない。 e オピオイドと他の鎮痛薬との併用は避ける。 ×a 在宅でも管理できるように,経口薬から開始する。 ○b 医療用麻薬は定時に投与し,「痛くなったら服用する」などの頓用指示はしない。頓用指示をすると,薬効が現 れるまで疼痛に苦しむし,いったん苦しむと次回から早めに服用するようになって量が増えるからである。 ×c 効果の弱い薬剤(非オピオイド鎮痛薬)から開始し,効果が不十分であれば弱オピオイドを追加または変更し, それでも不十分であれば強オピオイドを追加または変更する。 ×d 純然たる対処療法であり,原発巣確定前であろうとなかろうと,非オピオイド鎮痛薬でコントロールできなけれ ば,医療用麻薬(オピオイド鎮痛薬)を用いることに何の問題もない。 ×e 純然たる対処療法であり,疼痛が軽減されるのであれば,併用に問題はない。なお,以前は他の鎮痛薬と併用す ると,医療用麻薬の投与量をコントロールしづらくなるとの理由で併用を避けていたが,医療用麻薬の取扱いが普 及したため,現在はそのような制限を設けていない。 正解 b No.084 15 医 の 倫 理 B 医 師 ・ 患 者 関 係 3 終 末 期 ケ ア と チ ー ム 医 療 在宅ケア 109-B-40 84歳の女性。全身倦怠感と食欲不振とを主訴に来院した。6か月前に肺転移を伴う高度進行胃癌の診断を 受けた。抗癌化学療法などの積極的治療を拒否し自宅で療養していたが,2週前から倦怠感が出現し,徐々 に食欲の減退を自覚するようになったため受診した。現在は薬剤の内服と1日600kcal程度の軟らかい食事 の摂取は可能である。がんによる悪液質が進行しており余命は1か月程度と考えられる。長男夫婦と3人暮 らしで患者本人と家族はともに延命治療を望まず,このまま自然に任せることを希望している。 今後の方針として適切なのはどれか。 a 在宅での看取り b 外来での末梢静脈栄養 c 在宅での経鼻経管栄養 d 在宅での中心静脈栄養 e 入院での経皮的内視鏡下胃瘻造設 終末期状態の高齢者であり,本人は延命治療を望んでいない。担当医は本人のこの自己決定権を尊重しなければなら ない。また,家族もそれに同意しており,担当医が家庭内の困難な問題に巻き込まれる恐れもない。 ○a 本人の自己決定権に沿う方針である。 ×b 末梢静脈栄養法peripheral parenteral nutrition(四肢の末梢静脈にカテーテルを挿入し,比較的浸透圧の低い 栄養輸液を投与する方法)では800kcalを供給できるので,悪液質の改善には役立つが,「自然に任せる」という患 者の意思に反する。 ×c 経口摂取可能なので,わざわざ苦痛を伴う経鼻経管栄養を行う理由はない。 ×d ある程度の熱量を供給できるので,悪液質の改善には役立つが,中心静脈にカテーテルを留置しなければなら ず,「自然に任せる」という患者の意思に反する。 ×e ある程度の熱量を供給でき,胃瘻も外来の局所麻酔下に2時間程度で作成できるが,「自然に任せる」という患者 の意思に反する。 正解 a No.085 15 医 の 倫 理 B 医 師 ・ 患 者 関 係 3 終 末 期 ケ ア と チ ー ム 医 療 腰椎転移を伴う肺癌患者の終末期在宅ケア 必修 ✍ 109-H-33 72歳の男性。腰背部痛を主訴に来院した。 現病歴:3か月前から荷物の運搬時に腰背部痛を自覚するようになった。その後,安静時にも常に痛みを 感じるようになり,日常生活にも支障をきたすようになったため受診した。 既往歴:30歳時に十二指腸潰瘍で投薬されていた。 生活歴:喫煙は20本/日を52年間。これまでに禁煙したことはない。妻と長男夫婦との4人暮らし。10年 前から自営の販売業を長男に引き継いで店に時々顔を出している。 家族歴:父親が前立腺癌で死亡。 現 症:意識は清明。体温37.2℃。脈拍80/分,整。血圧154/88mmHg。呼吸数16/分。背部に発赤はなく 腫瘤を認めない。下部胸椎と腰椎との棘突起上に叩打痛を認める。 検査所見:胸部エックス線写真で両肺に多発する腫瘤影を認め,気管支内視鏡による肺生検で扁平上皮 癌と診断された。胸腰椎MRIで腰椎への多発転移を認めた。 予測される予後と治療方法との選択肢について担当医が患者に説明を行ったところ,患者は「俺も十分 生きたし未練はない。息子もあとを任せられるまで育った。ただ痛いことや苦しいことは何とかしてほし いし,最後まで店には出ていたい」と述べた。妻と長男も十分納得し,余命の延長より患者のQOLを支援す るケアをできるだけ自宅で目指すことで合意した。 この患者に対するケアの具体的な目標設定として適切でないのはどれか。 a 禁煙が達成されていること b 安静時の呼吸困難がないこと c 仕事を可能な限り続けること d 残りの時間を家族とともに暮らすこと e 痛みが生活に支障のない程度であること 肺内および腰椎への転移を伴う肺癌であり,もはや根治は期待できない。医師がその旨説明したところ,患者は余命 の延長ではなく,できるだけQOLを維持しながら自宅で過ごすという自己決定権を行使した。医療従事者はこの決定を尊 重しながら,終末期ケアを行わなければならない。 ×a 喫煙は健康に有害であるが,QOLの維持とは無関係である。しかも,いまさら禁煙しても,存命中の患者にとって 何も良いことはない。したがって,患者が禁煙を希望しない限り,受動喫煙を避けるという前提で喫煙を禁止すべ きでない。 ○b 「苦しいことは何とかしてほしい」という患者の希望に沿う。 ○c 「最後まで店には出ていたい」という患者の希望に沿う。 ○d 「できるだけ自宅で目指す」という患者の希望に沿う。 ○e 「痛いことは・・・何とかしてほしい」という患者の希望に沿う。 正解 a No.086 15 医 の 倫 理 B 医 師 ・ 患 者 関 係 3 終 末 期 ケ ア と チ ー ム 医 療 腰椎転移を伴う肺癌患者の終末期在宅ケア 必修 ✍ 109-H-34 72歳の男性。腰背部痛を主訴に来院した。 現病歴:3か月前から荷物の運搬時に腰背部痛を自覚するようになった。その後,安静時にも常に痛みを 感じるようになり,日常生活にも支障をきたすようになったため受診した。 既往歴:30歳時に十二指腸潰瘍で投薬されていた。 生活歴:喫煙は20本/日を52年間。これまでに禁煙したことはない。妻と長男夫婦との4人暮らし。10年 前から自営の販売業を長男に引き継いで店に時々顔を出している。 家族歴:父親が前立腺癌で死亡。 現 症:意識は清明。体温37.2℃。脈拍80/分,整。血圧154/88mmHg。呼吸数16/分。背部に発赤はなく 腫瘤を認めない。下部胸椎と腰椎との棘突起上に叩打痛を認める。 検査所見:胸部エックス線写真で両肺に多発する腫瘤影を認め,気管支内視鏡による肺生検で扁平上皮 癌と診断された。胸腰椎MRIで腰椎への多発転移を認めた。 予測される予後と治療方法との選択肢について担当医が患者に説明を行ったところ,患者は「俺も十分 生きたし未練はない。息子もあとを任せられるまで育った。ただ痛いことや苦しいことは何とかしてほし いし,最後まで店には出ていたい」と述べた。妻と長男も十分納得し,余命の延長より患者のQOLを支援す るケアをできるだけ自宅で目指すことで合意した。 その後,患者の全身状態は徐々に悪化し,2か月後には日中の半分以上を自宅のベッドで臥床するように なった。在宅でかかりつけ医が訪問診療している。食事摂取は特に固形物の咀嚼が難しくなってきてい る。また,水分でむせたり誤嚥したりすることも多くなっている。経口摂取できるのは200kcal/日程度で ある。肺癌の終末期で2週程度の余命と見込まれている。患者は会話が可能で「痩せてしまって情けない。 せめてもう少し食べたい」と家族に伝えた。 この後の栄養管理で適切なのはどれか。 a 食事形態を工夫する。 b 経鼻経管栄養を開始する。 c 中心静脈栄養を開始する。 d 誤嚥予防のために気管切開を行う。 e 胃瘻を造設して経腸栄養を開始する。 固形物の咀嚼困難,水分の誤嚥が患者のQOLを損なっている。患者は「もう少し食べたい」というので,この希望に 沿って終末期ケアを行う。ただし,余命の延長ではなく,QOLの維持を重視する自己決定権の範囲内でなければならな い。 ○a 患者は咀嚼嚥下困難なので,食材をペースト状またはゼリー状にした咀嚼嚥下困難者用の特別用途食品を試す価 値はあるだろう。 ×b 経鼻経管栄養は体重の回復には有効であるが,「食べたい」という患者の希望に沿わない。 ×c 中心静脈栄養は体重の回復には有効であるが,「食べたい」という患者の希望に沿わない。しかも,患者は延命 行為と捉えるだろうし,多少の苦痛やQOL悪化を覚悟しなければならない。 ×d 気管切開は誤嚥の回避に役立つが,「食べたい」という患者の希望に沿わない。しかも,患者は延命行為と捉え るだろうし,多少の苦痛やQOL悪化を覚悟しなければならない。 ×e 胃瘻を増設して経腸栄養を開始すれば,体重は回復するし,誤嚥も回避できるだろう。しかも,経皮内視鏡的胃 瘻造設術(PEG)は侵襲が少なく,患者の苦痛も少ない。加えて,胃瘻カテーテルを通じた栄養供給だけでなく,経 口摂取もできるので,患者の「食べたい」という希望に沿う。したがって,医師としてはPEGという方法があること を説明し,患者に実施するか否かの選択を委ねるべきであろう。ただし,設問の患者は身近に迫った死を覚悟して おり,「そこまでして生きたいとは思わない」という回答が予測される。また,咀嚼嚥下困難者用の特別用途食品 を試してからでも遅くはない。 正解 a No.087 15 医 の 倫 理 B 医 師 ・ 患 者 関 係 3 終 末 期 ケ ア と チ ー ム 医 療 患者の家族への対応 必修 109-F-24 70歳の男性。痩せと全身倦怠感とを主訴に家族に付き添われて来院した。5年前に大腸癌の手術をした。 3年前に肝臓と肺の多発転移が判明し,1年前から自宅近くの診療所で緩和ケアを受けていた。徐々に食欲 不振と痩せとが進行し,1か月前からほとんど食事をとらず寝たきりとなっていた。本人と妻は宗教心があ つく毎日のお祈りを欠かさない。妻と長男夫婦が付き添っているが,身近に迫る患者の死を前にして強い 不安がうかがわれる。 家族に対する対応として適切なのはどれか。 a 奇跡を祈るよう促す。 b 感情の表出を支援する。 c 毎日のお祈りをやめさせる。 d 取り乱さないよう指導する。 e 不安を感じてはいけないと諭す。 3年前に多発転移が判明した時点で治癒は不可能であり,1年前から在宅で緩和ケアを受けていた。緩和ケア開始時ま たはそれ以前に,患者および家族は医師から今後の見通しを聞かされており,それを踏まえて自宅で過ごすという選択 をしたものと思われる。しかし,1か月前からついに終末期の状態となり,身近に迫った死亡に特に家族が動揺してい る。 ×a 宗教熱心な本人と妻はすでに奇跡が実現するように毎日祈っているはずであり,いまさら異教徒または無神論者 である医師が励ます必要はない。 ○b 家族に心情を吐露してもらったうえで,「つらいですね」などとと声をかけ,医師が患者と家族の苦痛を理解し ていることを伝えれば(支持的精神療法),家族の不安を軽減することができるだろう。 ×c 祈りをやめると動揺が治まるわけでもなく,異教徒または無神論者による不当な干渉である。 ×d 「取り乱すな」と言葉で伝えたところで,不安が解消されるわけではない。 ×e 不安は「外的対象のない漠然と漂うような未分化の恐れの感情」であり,,ただ単に「不安になるな」と言われ て解決できるような問題ではない。むしろ,家族の死という良からぬことが現実化する確率は極めて高く,不安を 感じるのは正常の心理反応である 正解 b No.088 15 医 の 倫 理 B 医 師 ・ 患 者 関 係 4 尊 厳 死 と リ ビ ン グ ウ ィ ル 安楽死 必修 109-H-17 わが国における安楽死について正しいのはどれか。 a 家族の許諾に基づいて実施できる。 b 安楽死の条件を定めた法律はない。 c リビングウィルに基づいて実施できる。 d 未成年者が対象であれば認められている。 e 実施に関するプロセス・ガイドラインがある。 安楽死は苦痛から免れるため,第三者が積極的に患者を殺すことを意味し,殺人罪または自殺ほう助・嘱託殺人罪に 該当する犯罪である。 ×a 犯罪である以上,家族に許諾権限はない。 ○b 安楽死が非合法である以上,法律で安楽死の条件を定義する意味はない。ちなみに,東海大学医学部付属病院安 楽死事件(1991年)で,横浜地裁は安楽死が許容される条件として,①耐え難い身体的苦痛,②死が不可避である こと,③身体的苦痛を緩和する代替手段がないこと,④患者の明示的意思表示を挙げたが,これを満たして無罪と なった事件は現在のところ皆無である。 ×c リビングウィルは尊厳死の意思表示文書である。 ×d 犯罪である以上,被害者が未成年であることをもって許容することは論外である。 ×e 犯罪である以上,ガイドラインなど存在するはずがない。 正解 b No.089 15 医 の 倫 理 C そ の 他 の ポ イ ン ト 医師にかかわる利益相反 必修 109-F-1 医師に関わる利益相反について正しいのはどれか。 a 少額の寄付金では発生しない。 b 罰則規定が医師法に記載されている。 c 関連する情報は原則として公開しない。 d 患者と家族の対立した利益を調整することである。 e 医師の私的利益と社会的役割が衝突することである。 利益相反Conflict of Interest(COI)は,ある行為が一方の利益になると同時に,他方の不利益になることを意味す る。医師でCOIが問題となるほとんどの局面は臨床研究である。臨床研究では被験者の人権を守らなければならないが, 製薬会社や医療機器メーカーからの資金提供を受けることが多いからである。近年は産学連携が推奨され,資金提供の 機会が増加していることから,COIはますます重要になっている。このため,2006年に文部科学省が「臨床研究の利益相 反ポリシー策定に関するガイドライン」を公表し,それを受けて,各医療機関,教育機関,学会等では臨床研究計画書 提出,論文提出,学会発表などに際して「利益相反自己申告書」の提出を義務づけている。 ×a 少額も積もれば大金となるし,何が少額かを定義するのは不可能である。 ×b 医師法は医業に関する規定をおき,その一部に罰則規定を設けている(例えば,無診察治療は50万円以下の罰金 に処せられる)。しかし,利益相反は医業とは関係ないので,それを罰する規定は置かれていない。ちなみに,弁 護士は依頼者の代理人として相手方と争うので,弁護士法は利益相反の1形態である相手方からの便益供与について 罰則規定(3年以下の懲役)を置いている。 ×c 臨床研究計画書提出,論文提出,学会発表時に関連情報を自己申告しなければならない。 ×d 患者と家族の対立は原則として家庭内で解決すべきである。ここで問題となるのは,患者(被験者)と資金提供 者の利益相反である。 ○e 医師の私的利益が資金提供を受けられる,研究成果を通じて社会的地位が高まるという意味,社会的役割が患者 の生命・身体の保護,新たな治療法の開発という意味であれば,正しい。 正解 e 第109回掲載問題内容一覧 No. 問題番号 ページ 主内容 備考 1 109-G-1 2 わが国の人口統計の推移 2 109-B-29 5 最近5年間の雇用状況 3 109-H-20 6 WHOの健康の定義 4 109-B-1 7 国際生活機能分類 5 109-B-3 8 リハビリテーションを行える施設 6 109-B-30 9 健康増進法 7 109-C-15 10 こころの健康 必修問題 8 109-H-19 11 喫煙全般 必修問題 9 109-I-32 12 飲酒全般 必修問題 10 109-F-15 13 癌の発症リスクの軽減 必修問題 11 109-E-1 14 因果関係の設定基準 12 109-G-43 15 標準化死亡比 13 109-G-5 16 偶然誤差 14 109-H-10 17 確定診断 必修問題 15 109-F-29 18 検査後確率の計算 必修問題 16 109-F-10 20 尤度比と検査後確率 必修問題 17 109-C-9 21 研究方法の種類 必修問題 18 109-B-6 22 児童相談所の業務 19 109-B-2 23 在宅ケア全般 20 109-B-18 24 医療計画の内容 21 109-G-4 25 大規模災害時の初期対応 22 109-E-5 26 へきち医療全般 23 109-E-4 27 診療補助行為 24 109-H-30 28 保健・医療・福祉の従事者とその業務 25 109-G-3 29 介護支援専門員 26 109-E-2 30 社会保障制度全般 27 109-G-2 31 公的医療保険の給付対象 28 109-H-2 32 医療資源・健康状態等の国際比較 29 109-B-4 33 世界保健機関の業務 30 109-H-22 34 患者情報の開示 必修問題 31 109-C-3 35 諸証明書全般 必修問題 32 109-G-18 36 死亡診断書全般 33 109-E-21 37 監察医が行う行政解剖 34 109-G-6 38 精神医療統計 35 109-E-8 39 母子保健統計 36 109-E-3 41 母子保健全般 37 109-E-7 42 年齢階級別死亡率の推移 必修問題 必修問題 第109回掲載問題内容一覧 No. 問題番号 ページ 主内容 備考 38 109-A-14 44 自殺 39 109-B-5 45 不慮の事故死 40 109-F-2 47 特定保健指導 41 109-B-41 48 生活習慣病の指標 42 109-E-31 49 高齢者総合機能評価 43 109-G-45 50 自殺企図者への対応 44 109-B-7 51 全数把握感染症 45 109-G-30 52 医師の届出感染症 46 109-E-9 53 感染症の流行ピーク 47 109-E-42 54 乳児の予防接種時期 48 109-C-17 55 針刺し事故後の対応 必修問題 49 109-F-17 56 MRSA保菌者への対応 必修問題 50 109-C-14 57 高血圧の男性の摂取エネルギーと食塩摂取量 必修問題 51 109-A-58 58 集団食中毒への対応 52 109-I-31 59 食中毒の原因 53 109-B-31 60 学校医の職務 54 109-G-7 61 出席停止期間 55 109-E-10 62 過重労働対策 56 109-G-44 63 妊婦の就業制限 57 109-E-6 64 職場の保健指導 58 109-A-55 65 作業環境管理 59 109-E-41 66 行動変容のための対応 60 109-G-46 67 医師による保健指導 61 109-I-70 68 うつ病が疑われる患者への対応 62 109-G-8 69 労働者災害補償保険の給付対象 63 109-C-25 70 熱中症が疑われる患者の状況確認 64 109-D-16 72 高齢者の熱中症 65 109-G-25 73 放射線防護・管理 66 109-D-53 74 有毒ガスによる自殺の疑い 67 109-E-19 75 ヒトへの発癌性評価 68 109-G-42 76 海外転勤者への感染予防 69 109-I-18 77 有毒ガス 70 109-E-38 78 再生可能エネルギー 71 109-B-42 79 環境汚染物質集団曝露の疑いと初期対応 72 109-B-8 80 水質基準 73 109-H-3 81 特別管理廃棄物の標識 必修問題 74 109-C-2 82 臨床試験と医の倫理 必修問題 必修問題 必修問題 第109回掲載問題内容一覧 No. 問題番号 ページ 主内容 備考 75 109-C-1 83 自己決定権とパターナリズム 必修問題 76 109-C-13 84 服薬アドヒアランス 必修問題 77 109-H-1 85 がん患者の権利 必修問題 78 109-H-21 86 自己決定権行使とその対応 必修問題 79 109-H-23 87 患者への病状説明 必修問題 80 109-C-18 88 複数の病院を受診している患者 必修問題 81 109-F-16 89 患者の心理状態とその対応 必修問題 82 109-B-37 90 緩和医療 83 109-G-29 91 癌性疼痛緩和 84 109-B-40 92 在宅ケア 85 109-H-33 93 腰椎転移を伴う肺癌患者の終末期在宅ケア 必修問題 86 109-H-34 94 腰椎転移を伴う肺癌患者の終末期在宅ケア 必修問題 87 109-F-24 96 患者の家族への対応 必修問題 88 109-H-17 97 安楽死 必修問題 89 109-F-1 98 医師にかかわる利益相反 必修問題 無料公開版 Dr高橋の第109回国試「公衆衛生」解説集2016 2015 年 10 月 30 日発行 著 者 高橋茂樹 発 行 株式会社 海馬書房 発行者 石坂 巧 〒101-0051 東京都千代田区神田神保町 23 英光ビル TEL. 0362611377 URL. http://www.kaibashobo.co.jp/ 本書の内容の一部あるいは全部を,無断で(複写機 等いかなる方法によっても)複写複製・転載すると, 著作権および出版権侵害となることがありますので ご注意下さい。 空き時間に follow up ! アプリで「公衆衛生」を極める 2016 10月下旬 配信開始 ■販売価格1,200円 ■iOS6.0∼9.0に対応(iOS9に対応済み) ■Android2.1以上,4.0以上(Android3.Xは非対応) 2016 ●第109回までの「国試既出問題」に「オリジナル問題」を加えた計747題の 厳選された問題を収載。 ●最新の統計データ,法制度等に基づいて,Dr高橋が懇切丁寧に解説。 ●項目別,回数別,種類別など,目的に応じて問題にチャレンジできる。 ●苦手な分野や間違えた問題をピックアップでき,弱点を補強する機能付き
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