キャリアパス開発センターニュース (No.8 特別講義講師からの提言 3

キャリアパス開発センターニュース
(No.8 特別講義講師からの提言 3)
山口大学キャリアパス開発センター
センター長
堀
憲次
昨今製造業の例のない不振が就職活動に影を落としているようですが、皆様方の知恵と若さ
でこの困難を跳ね返されることと思います。
今回は、協和発酵バイオ(株)の日高寛真氏に、仕事をするうえでの心構えを、製造現場か
ら研究所までの経験をもとに語っていただきます。
若手研究者への提言
生産現場から研究所へ
日高
寛真
HIROMICHI HIDAKA
協和発酵バイオ㈱ 山口事業所生産技術研究所
主任研究員
職場の経験から
就職の選択肢として学校の先生、公務員あるいは民間等がありますが、その時、民間企業へ
就職する以外に迷いはありませんでした。そして、企業を選ぶ条件として、大学時代に関わっ
たバイオ研究が少しでも生かせること、大学院終了後は世の中に直接役立つことを、いわゆる
社会の生活と直結した職場で実現させるために、現在の会社(当時協和発酵株式会社)へ就職
しました。
最初の仕事は防府工場の工務部で、アルコール発酵のデンプン質を液化糖化する設備(バッ
チプロセスの連続化)に関する仕事で、良い上司にめぐまれ無事設備を立ち上げることができ
ました。
入社して 10 年ほどして製造部の係長に任命されましたが、これが自分の仕事のターニングポ
イントとなりました。それまでの製造部の係長は技術研究所の出身者から選ばれており、辞令
を受けたときはどうなることかと不安ばかりでしたが、選んだ方にも責任があると開き直り賢
明に勤めました。部下も一気に 34 名となり、3 交代制の厳しい突込み等、技量を試されてい る
なと感じるほどでした。また、現場では判断を待っているので、間違っていても、決めて前に
進む必要があります。なにもわからず、やっているうちに何とか対応できる自分に気付くこと
で、自分も少しは成長しているのかなと感じる日々でした。人と接するときは、相手の気持ち
を思い接していました。周囲の皆さんが協力的でしたので、何とか製造現場での仕事をこなす
ことができたのだと思います。この職場でグルタミン酸ソーダの製造に関わって、ものとして
大量にトラックに載って出て行くのをみると「ああ、自分の頑張りが人の役に立っているのだ
な」という気持ちに素直になれました。
平成 8 年にそれまで製造していたグルタミン酸ソーダを製造中止し、平成 11 年から、日本仕
様のグルタミン酸ソーダを海外工場で製造させる移転の仕事に携わりました。製造プロセスの
見直し、包材、40 種類以上の製品の整理、異物問題等、問題は山積でした。とても 1 人では解
決できず周囲の方のお知恵を借りながら、良い勉強をさせて頂きました。
平成 14 年に生産技術研究所主任研究員となり、現在は精製のプロセス工学グループのリーダ
ーとして、装置のスケールアップ、スケールダウンの仕事に従事、現在に至っています。工場
へ新しい生産様式、それに適応した新しい装置を導入するため、コンピューターシミュレーシ
ョンを駆使する等で、検討を行なっています。どこの職場にいても仕事への興味はつきません。
自分の構想が装置となって現実に稼動する時は、いつも本当に良かったと感じることができま
す。
何度もいうようですが、一人では何もできないこと、仕事の達成が自分を一歩成長させると
いうことです。
若手研究者への提言
これまでの仕事の経験をもとに、研究所で自分の思っていることをブログにしています。そ
こで、ポストドクター、DC 学生さんらのような若手研究者にその一部を紹介したいと思います。
[感情コントロール]
感情面のコントロールは世の中を生きていく上で大変重要な要素となります。怒り、恐れ、
悲しみ、焦りといった負の感情はあなたを確実に不幸せな気持ちへと向わせます。怒らず、恐
れず、悲しまず、焦らず。感謝すること、正直、親切に過ごすことができれば、機嫌良く過ご
せ、自ずと態度は立派になり、先が見えてきます。
負の感情を全て正の感情に置き換えることができれば素晴らしいことです。叱られても、そ
れは自分が見捨てられない証拠なのです。向かってくるものには、どんな面白い展開が待って
いるのか、前向きに興味をもって臨む姿勢があれば OK です。
[態度]
成果主義が入ってきて、精神的に弱い人がでてきているのも事実です。仕事内容あるいは研
究の目的を理解し、その中で自分の能力をどう生かすか。これが社会では一番重要なことです。
若い皆さんも自分の意思で、ある程度の適正を考え、取捨選択をして大学にいるわけです。得
意分野を大いに伸ばし、世の中の役に立つ、だれにもまねできない能力をもてば、社会では重
宝され、感謝されます。芸は身を助く。
[自分の価値観]
自分自身の持つ価値観はどうしてできあがったのでしょう。仕事(研究)は、先ずは自分の
評価系に照らし合わせて納得を得るところから出発します。
誰にでも自分の得意分野があり、それぞれの価値観をもっているのは事実です。主体的に仕
事や研究のできる人は、その価値観の幅が広い人です。どこに価値があるかを直感的に感じて
います。そうであるならば、その価値観(評価系)を磨く努力をすべきではないでしょうか。
ものには様々な見方があり、様々な物差しがあります。やらされ仕事をやっている人は、物事
を点でしか見ていません。点でしか支えられないので、一旦バランスを崩すと脆いものです。
柔軟性などなく、状態の変化に弱いのです。
ものごとをいくつかの角度から見る物差しを沢山もっている人は、物事を少なくとも 3 点以
上で支えています。これは安定です。見方は重要です。あなたの物差しはいくつありますか?
他人の物差しと見比べる目も必要です。本当にできる人の見方は、3 点以上で少々のことでは
倒れることはありません。
私が常日頃感じている事を羅列的に紹介しましたが、これが少しでも皆様の琴線に触れること
を願っています。