解剖・栄養生理学 - 女子栄養大学オープンコースウェア

解剖・栄養生理学
遺伝子の生理
参考書:
山本ら 第2章、第25章
藤田 pp279~296
Mader 第19~22章
この講義で身に付けること
• ゲノム、染色体、DNAの違いを理解する
• 細胞分裂の際に起きるDNAの複製メカニズムに
ついて理解する
• DNAの転写および翻訳におけるRNAの役割に
ついて理解する
• 遺伝子が疾患の発症に与える影響について学ぶ
• 遺伝子多型と栄養摂取量の関係を理解する
• 時計遺伝子が健康に与える影響を学ぶ
遺伝子情報(ゲノム)はDNA(核酸)に記録
•
細胞の核内にある染色体=DNAの密集体
– ヒトでは22対の常染色体+1対の性染色体の46本
•
細胞分裂の間期には染色体が解けた状態
クロマチン(染色質)
DNAの二重らせん構造
Francis Crick (1916-2004)
James Watson (1928-)
Rosalind Franklin (1920-1958) Maurice Wilkins (1916-2004)
ヌクレオチド
http://bloglbmg.files.wordpress.com/2010/03/rosalind_franklin2.jpg
http://www.atomin.go.jp/atomin/data/img/reference/radiation/22040306_03.jpg
http://nobelprize.org/nobel_prizes/medicine/laureates/1962/
遺伝情報
•
•
•
•
•
塩基+糖(リボースまたはデオキシリボース)=
ヌクレオシド
ヌクレオシド+リン酸=ヌクレオチド
- DNA・RNAを構成
DNAにはタンパク質合成のための情報が暗号
化(コード化)されている
- 体の構造、酵素、血漿タンパク質など
3つ塩基ごとに1つのアミノ酸を規定(トリプレット
コード)
DNAには遺伝子領域(エキソン)と非遺伝子領
域(イントロン)が存在する
セントラルドグマ
(分子生物学の中心原理)
•
セントラルドグマのコンセプト
「いったん情報がタンパク質まで流れてしまうと
後戻りはできない」*逆転写酵素の発見原理の修正
複製
DNA
RNA
DNAの塩基配列情報
はRNAの塩基配列情
報へ受け継がれる
ポリペプチド
RNAの塩基配列情報は
ポリペプチドに受け継がれる
D サダヴァら.カラー図解 アメリカ版 大学生物学の教科書 第2巻 分子遺伝学、2010より作成
DNAの複製(Replication)
•
•
1.
2.
細胞分裂の間期に行われるプロセス
ステップ
酵素(DNAヘリカーゼ)が水素結合を外す
核内に存在するヌクレオチドが親鎖のそれぞれ
所定の位置にはめ込まれる
3. DNAポリメラーゼの働きで結合する
4. 全く同じDNA分子のコピーが出来上がる
• 新しい二重らせんは複製される前のDNA(親鎖
parent strand)と複製によって新たに作られた
DNA(娘鎖 daughter strand)の合成(半保存的
複製)
DNAの複製(Replication)
5'末端から3'末端に向けて連続的に合成
ねじれを取る
よじれの解消
DNAポリメラーゼ
DNAヘリカーゼ
DNAプライマーゼ
リーディング鎖
岡崎フラグメント
DNAトポイソメラーゼ
親鎖
RNA
プライマー ラギング鎖
•
•
DNAポリメラーゼは親鎖と塩基対で会合しているオリ
ゴヌクレオチド鎖(又はポリヌクレオチド鎖)の3’末端で
でしか作業ができない各鎖で進行方向が逆になる
リーディング鎖は連続複製、ラギング鎖は不連続複製
http://www.nature.com/nature/journal/v421/n6921/images/nature01407-i1.0.jpg
体細胞分裂と減数分裂
•精子・卵子の形成
•染色体数を半分に
•染色体を多様に
生殖
細胞
減数分裂
体細胞
体細胞分裂
細胞
•同質の細胞の増加
•同数・種類の染色体
体細胞・有糸分裂(Meitosis)
•
•
親細胞と同じ数と種類
の染色体を持つ2つの
娘細胞を作る細胞分裂
細胞周期
– 間期
– 分裂期(前期・中期・後
期・終期)
•
•
染色体と細胞小器官は
倍化する
DNAの複製後に核分裂
間期
前期初期
前期後期
中期
後期
終期
娘細胞
http://img.tfd.com/dorland/thumbs/mitosis.jpg
減数分裂(Meiosis)
•
•
還元分裂ともいう生殖細胞の形成現象
2回の核分裂から4個の娘細胞をつくる
– 娘細胞の染色体の数は親細胞の半分
•
1回目の核分裂(第一減数分裂)の前に染色体は
倍化する(46本の染色体)
– 対合:同じ大きさ・形の染色体同士が並びくっつくこと
– 交叉:親細胞の染色体を組み替えて子孫の多様性を
高める現象(精子・卵子双方で行われる多様性↑)
– 第一減数分裂では染色分体が倍化した状態で分離
•
2回目の核分裂(第二減数分裂)で倍化した染色
分体がさらに分裂する
有糸分裂と減数分裂の違い
親細胞裂
交叉
減数分裂Ⅰ
前期Ⅰ
前期
染色体複製
染色体複製
中期
中期Ⅰ
後期
終期
後期Ⅰ
終期Ⅰ
娘細胞
(有糸分裂)
減数分裂Ⅱ
http://www.bio.miami.edu/~cmallery/150/mitosis/c13x8meiosis-comparison.jpg
RNAとタンパク質の
合成
•
•
•
1.
DNAを補助する
チミンの代わりにウラシル
3種類のRNA
リボソームRNA:リボソー
ムを構成するRNA
2. メッセンジャーRNA:DNA
の遺伝情報を転写してリ
ボソームに運ぶ
3. トランスファーRNA:アミノ
酸をリボソームに運ぶ
http://www.mun.ca/biology/desmid/brian/BIOL2060/BIOL2060-21/2101.jpg
転写
DNA
rRNA
tRNA
mRNA
アミノ酸
翻訳
リボソーム
ポリペプチド
タンパク質
転写(Transcription)
•
•
•
•
遺伝子を発現するために必要なステップ
必要な遺伝子情報があるDNAの二重らせん構
造の一部が解ける
mRNAが1本のDNA鎖のヌクレオチドと対をな
す形で産生される
RNAのG、U、AはDNAのC、A、Tとペアになる
RNAポリメラーゼが産生されたRNAを結合
DNAが持つアミノ酸のコード:トリプレットコード
mRNAが持つ同じアミノ酸を表すコード:コドン
RNAコドン表
コドンの組み合わせと
対応するアミノ酸
第二塩基
第
一
塩
基
http://kaonashi.blog.so-net.ne.jp/blog/_images/blog/_03f/kaonashi/4273265.gif
mRNAのプロセシング
代表的なプロセシング:スプライシングー転写されたままの
状態のRNAに挿入されているイントロンを除去する
イントロンA
エキソン3
転写
イントロンの切除
エキソンの結合
リボソームでの翻訳の
ため核内から細胞基質へ
http://www.cbs.dtu.dk/staff/dave/roanoke/pre-mrna.gif
翻訳(Translation)
細胞質
核
アミノ酸
遺伝子
tRNAがアミノ酸をリボソーム
に運搬(tRNA-アミノ酸複合体)
リボソームが
アミノ酸を
タンパク質に
mRNAが翻訳される
リボソーム
http://www.scq.ubc.ca/wp-content/translation_01.gif
•
•
tRNAはアンチコドンを持つ:コドンをアンチコド
ンで翻訳してアミノ酸が作られる
合成には1)開始、2)伸長、3)終止の段階
ヒトゲノムの解明:ヒトゲノムプロジェクト
脊椎動物の遺伝
子数は約2万と大
きく変わらない
•
•
ヒトゲノム=核ゲノム(染色体)とミトコンドリアゲノム
データベースが存在
–
–
http://www.lif.kyoto-u.ac.jp/genomemap/
http://www.zinbun.kyoto-u.ac.jp/~kato/atgenome/cont01/index.html
http://www.cdb.riken.jp/jp/millennium/fig/img/fig13_01.jpg
ヒトの起源は?
•
ミトコンドリアのDNA(ゲノム):
母から子供に伝えられる
• ヒトの多様性は世界拡散の過
程で生じた突然変異が原因
⇒ミトコンドリアDNAを使い変化の
系統と拡散の過程を辿れる
•
約15万年前のアフ
リカ人女性へ
(ミトコンドリア・イブ)
• アフリカ単一起源説
の提唱
http://athena.molbiol.saitama-u.ac.jp/molbiol/jikken/Image/408652aa_2.jpg
SNP(一塩基多型)は疾患と関連
•
•
SNP(一塩基多型)=個人間で一つのヌクレオチドが違
う(変異)部位が集団の1%以上で存在
SNPデータベース(http://snp.ims.u-tokyo.ac.jp/)
http://www.medpie.com/assets/images/Health-Stories-Images/fat%20mouse.JPG
http://2.bp.blogspot.com/_Qpk-NqSqEa4/R8NZ5UdDtKI/AAAAAAAAASQ/qC1Br4ZLuH0/s400/AlbinoAA.jpg http://kerzt.files.wordpress.com/2009/02/p59f11.jpg
巨人と小人
http://i263.photobucket.com/albums/ii157/jewelzjohnson/giantWadlow1.jpg
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/6a/Lavinia_Warren__Brady-Handy.jpg
遺伝子による脂肪分布への影響
* p< 0.05.
•
•
•
香川ら. 女子栄養大学栄養科学研究所年報. 2013
体脂肪率や内臓脂肪率に違いは無い
UCP1遺伝子のG/G型は上半身に脂肪がつく傾向
AGT遺伝子のT/T型は体幹に内臓脂肪としてつく傾向
セロトニン輸送体遺伝子(5-HTT)
Caspi et al. Science, 2003
•
•
Yamakawa et al. Biochem Biophys Res Commun, 2005
S/S、S/LとL/L多型
S/S多型は1)うつになりやすい、2)血糖値の反応が違う、
3)BMIが大きい者に多いなどの報告がある
⇒生活習慣病や精神疾患と関係?(環境因子との相互関係)
• 日本人は白人よりもS/S多型を持つ確率が高い(Sen et al.
2004)
栄養推奨量と現実の多型の必要量の矛盾
多型は正常人集団内の1%以上の頻度で存在
香川、四童子編「ゲノムビタミン学」建帛社(2008)
健康診断の基準範囲も同様
推奨量
2SD
97-98%の人の必
要を満たす摂取量
2SD
特に変異型ホモ
の必要量は多い。
野生型ホモ
ヘテロ
変異型ホモ
ビタミン
依存症
生活習慣病の診療の未来
発症前
食生活習慣の指導
一次予防
個人の様々な
個人の病気の本質の解明
遺伝因子情報
薬の効果・副作用の予測
極め細かい治療法の選択
発症後
厳重な個人
情報の保護
遺伝因子に基づいた新薬
(ゲノム創薬)
オ
ー
ダ
ー
メ
イ
ド
医
療
4種の疾患感受性遺伝子多型と
循環器障害予防法
女子栄養大学栄養クリニックの指導方針
アンジオテンシノーゲン(AGT)
235Thr型=TT型
脱共役蛋白質1(UCP1)
-3826G型=GA/GG型
メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素
(MTHFR) 677T型=TT型
AGT
b3アドレナリン受容体(b3AR)
64Arg型=TA/AA型
減圧
食塩6g/日
減
ー200kcal/日
ー100kcal/日
葉酸400μg/日
アディポ
ネクチン
血
管
内
皮
保
護
動脈保護
香川靖雄他 「遺伝子多型簡易測定法」バイオ・インダストリー25(9)94-103, 2008.
健康の維持には継続的な行動変容が
重要
心の準備に応じた段階的指導が
SS型には必要
http://www.iyakusoken.com/health_guidance/image_feature/image_03.jpg
がん・癌と肉腫
生殖
細胞
細胞
上皮
細胞
がん
癌
体細胞
非上皮
細胞
肉腫
骨肉腫、白血病
脳腫瘍、リンパ腫
がんの増加
肝がん、膵臓がんなど
「難治がん」も増えている
本田美奈子
(1967-2005)急性骨髄性白血病
田中好子
(1956-2011)乳がん
Steven Paul Jobs
(1955-2011)膵臓がん
http://mainichi.jp/select/wadai/graph/201110421/index1.jpg
http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/a/akashi4th/20060712/20060712171408.gif
http://3.bp.blogspot.com/-R3nm8nvebZg/TWS6OU1jTDI/AAAAAAAABEU/Kf0HAKdmDRc/s1600/steve-jobs_06.jpg
がんと正常細胞との違い
特徴
正常細胞
がん細胞
分化
核
腫瘍形成
接触阻害
成長因子
血管新生
転移
する
正常
しない
あり
必要
しない
しない
しない
異常
する
なし
不要
する
する
Mader, p442
テロメアは老化やがんと関連
•
•
染色体の末端部で末端を保護
約50回の細胞分裂(DNAの複製)の
度に短縮細胞増殖の停止(ヘイフ
リック限界・細胞老化)
テロメアとテロメアーゼの発見で2009
年ノーベル医学賞を受賞
•
–
–
–
Elizabeth H. Blackburn
Carol W. Glaider
Jack W. Szostak
http://openpit.files.wordpress.com/2009/10/telomere.jpg
http://nobelprize.org/nobel_prizes/medicine/laureates/2009/
不必要な組織損傷はテロメアの
短縮につながる
葉酸不足によるホモシステイン濃度の上昇⇒組織損傷
7.2
( kb )
p = 0.002
テ
ロ
メ
ア
長
(
補
正
後
)
7.15
7.1
7.05
7
6.95
6.9
高葉酸 低葉酸
高葉酸 低葉酸
高葉酸 低葉酸
低ホモシステイン群中ホモシステイン群 高ホモシステイン群
J.B.Richards et al. / Atherosclerosis 200(2008)271-277
副学長講義スライド
HeLa細胞
•
•
•
•
•
•
ヒト由来の最初の細胞株
Henrietta Lacks(1920-
1951)の子宮頸がん病理切
片
1951年にジョージ・オッ
トー・ゲイが分離・培養
高い増殖能
46以上の染色体数
がん細胞としての特性
– テロメラーゼが活性化
ヘイフリック限界・老化の回避
(不死化)
http://temple3.files.wordpress.com/2008/03/gey.jpg
http://www.microscopyu.com/galleries/dicphasecontrast/index.html
確立・ほぼ確立した生活習慣病関連発がん因子
要因
がんの部位(国際評価)*
がんの部位(日本人)†
喫煙
口腔・咽頭、食道、胃、大腸、喉頭、
肺、膵臓、肝臓、腎臓、尿路、膀胱、
子宮頚部、骨髄性白血病他、乳房
食道、胃、肺、膵臓、子宮頚
部、肝臓(大腸、乳房)
飲酒
口腔、咽頭、食道、大腸、喉頭、肝臓、 食道、大腸、肝臓
膵臓、乳房
運動不足
結腸、乳房(閉経後)、子宮体部
肥満
食道腺、大腸、乳房(閉経後)、子宮体 乳房(閉経後)、大腸、肝臓、
部、腎臓、膵臓、胆嚢
(子宮内膜)
野菜・果物
不足
野菜:口腔、咽頭・喉頭、食道、胃
野菜:食道、(胃)
果物:口腔、咽頭・喉頭、食道、胃、肺 果物:食道、(胃、肺)
塩分・塩蔵 胃
食高頻摂取
大腸
胃
*喫煙・飲酒:IARC monograph on the evaluation of carcinogenic risks to humans
その他:World cancer research fund/American Institute of Cancer Research. Food, Nutrition, Physical Activity,
and the Prevention of Cancer
†厚生労働科学研究費:第三次対がん総合戦略研究事業「生活習慣改善によるがん予防法の開発と評価」研究班
緑茶とがん
•
ポリフェノールには
テロメラーゼの活性
を抑える効果 (Naasani
et al. Cancer Res 2003)
•
緑茶の効果
– 卵巣がん患者の生
存率アップ(Zhang et al.
Int J Cancer, 2004)
Zhang et al. 2004
– 前立腺がんの予防
(Le et al. Int J Cancer,
2004)
体内イベントは特定の時間帯に起きる
日本栄養・食料学会.時間栄養学 p113
時計遺伝子の調節部位(Eボックス)
CLOCK BMAL1
Eボックス
PER
•
•
CRY
CLOCKとBMAL1(タンパク質の異種複合体)がEボック
スに結合PERやCRY(タンパク質)を合成
BMAL1遺伝子を除去時計遺伝子の概日リズムが変
化する
朝日と朝食が時計遺伝子を調節
ヒトの体内時
計は25時間
周期
中枢と末梢時
計遺伝子が同
じリズムで動
いていること
=「同調」
朝食欠食
同調が
適切に行
われない
日本栄養・食料学会.時間栄養学 p18
男女とも20代で朝食欠食率が高い
•
•
20代男性の
30%、20代
女性で25%
が欠食
20代男性を
除き全ての
年齢層で欠
食率が増加
している
平成20年国民健康・栄養調査
睡眠時間は学年が上がるにつれて減少する
Benesse 第2回子ども生活実態基本調査、2009
• 全体の睡眠時間が減少
• 就寝時間が遅くなる
⇒朝食欠食率が高くなる
朝食を食べないことによる影響
朝食をとらないことで次の生理変化が起きる
1. 代謝の低下
2. 集中力の低下(事故の増加・テストへの効果)
3. 糖新生による筋肉タンパク質の低下
4. 体力低下
5. 間食しやすくなる肥満になりやすくなる
6. 昼食・夕食量の増加と血糖値の増加
7. 時計遺伝子による防衛本能
- 飢餓状態の察知脂肪の蓄積
朝食欠食による肥満の頻度予測値
6
(
肥
満
の
オ
ッ
ズ
比
危
険
度
)
5
4
N=499
3
2
1
0
摂取
非補正値
欠食
摂取
欠食
性年齢を補正
Ma Y. et al. Am J.Epidemiol 158:85-92(2003)
国による
食育活動