2015 年11 月臨時増刊号 さまざまな形で行われている“在宅看護”の実習は、受け入れる訪問看護師、学生を送 る教員、そして学生自身、それぞれにやりがいがある一方、さまざまな課題を抱えています。 しかし、最も重要なことは「学生が“在宅看護”実習で深い学びを得ることで、 “看護の本質” を感じとる」ことではないでしょうか? その視点があれば、病院においても“患者が退 院して“生活者”となること」を思った看護を提供することができ、それは地域包括ケア 時代に求められる看護の重要な役割であるはずです。 本臨時増刊号では、第 1 章[座談会]において実習指導者の経験もある訪問看護師 4 人 が自らの経験を振り返りながら教育機関に期待することを話し合い、続く第 2 章[“現場の 声”を聞いて]では 4 つの大学の“在宅看護”担当教員が実習を振り返った後に[座談会] 等で出された“現場の声”にコメントします。そして第 3 章[報告]では 8 つの大学の教 員から実習の概要、学生の感想が紹介された後、その大学の実習を受け入れている訪問看 護ステーションの管理者等が現場の立場で報告します。さらに第 4 章[展望]では“新た な実習形態”として期待される 5 つの取り組みが紹介され、最後に企画者である日本在宅 看護学会理事長の川村佐和子さんからメッセージをいただきます。 “在宅看護”実習の「スタンダードモデル」を確立するためのヒントがいっぱい詰まった 本臨時増刊号を十分活用していただければと思います。 日本看護協会出版会 巻頭カラー イラストで見る 第 1 章 “よい実習” はここが違う! [座談会]よりよい “在宅看護”実習にするために ── 訪問看護の現場から 第 2 章 001 荒木 和美/竹森 志穂/平野 智子/野口 忍/清水 準一 014 現場との密な連携をめざして [“現場の声”を聞いて] ── 教育機関の立場から 千葉大学看護学部 現場との連携を重視した在宅看護実習の展開 ──“新卒訪問看護師”の育成まで見据えて 能川 琴子 028 横浜市立大学医学部看護学科 “現場の声”であらためて思う“在宅看護”実習の 3 つの留意点 柏木 聖代 033 石川県立看護大学地域 ・ 在宅 ・ 精神看護学講座 “現場の声”を参考にしてよりよい“在宅看護”実習をめざす 林 一美 037 高知県立大学看護学部 実習指導者と教員の深いつながりが“在宅看護”実習を進化させる 森下 安子 042 第 3 章 さまざまな“在宅看護”実習の現場 [報告] 獨協医科大学看護学部 “多様な地域差”からさまざまな経験ができる実習を実践 種市 ひろみ 048 [協力実習施設] 訪問看護ステーションたんぽぽ・石橋/鮎澤 みどり 東京工科大学医療保健学部看護学科 比較的ゆとりの持てる臨地実習で看護計画の立案に重点を置く 大木 正隆・塩満 芳子 055 [協力実習施設] 河北訪問看護・リハビリステーション阿佐谷/船浪 紀子 新潟医療福祉大学健康科学部看護学科 さまざまな課題を抱える中、学生の“学びの多さ”が支えとなる 杉本 洋・稲垣 千文 062 [協力実習施設] 水明会佐潟荘/中村 明美・鈴木 晃 山梨県立大学看護学部 地域の看護を大切にしてきた環境でさらに深い“在宅看護”実習をめざす [協力実習施設] 甲州市訪問看護ステーション/松本 令子 佐藤 悦子 070 園田学園女子大学人間健康学部人間看護学科 事前の準備を十分にすることで成果を上げる“在宅看護”実習 新井 香奈子 077 [協力実習施設] 公益社団法人兵庫県看護協会 尼崎訪問看護ステーション/並河 直子 鳥取大学医学部保健学科地域・精神看護学講座 学生が“深い経験”を得られるようにロールプレイングを活用する 仁科 祐子 083 [協力実習施設] まごころ訪問看護ステーション/多口 美佐子 県立広島大学保健福祉学部看護学科 “状況関連図”と“家族のエコマップ”を用いたわかりやすい“在宅看護”実習に取り組む [協力実習施設] 賀茂台地訪問看護ステーション/加川 登喜子 岡田 麻里 090 長崎大学医学部保健学科 手作りの DVD を使った事前学習で臨地実習前に丁寧に準備する 大町 いづみ 097 [協力実習施設] 公益社団法人長崎県看護協会 訪問看護ステーション YOU /下屋敷 元子 [協力実習施設] 訪問看護ステーションさくら/山口 走野子 第 4 章 新たな実習形態へのチャレンジ [展望] 高崎健康福祉大学保健医療学部看護学科 大学が訪問看護ステーションを開設して“在宅看護”実習の学びを深める 棚橋 さつき 112 藤田保健衛生大学医療科学部看護学科 大学による地域包括ケアの展開と地域に根ざした学生実習 ──「藤田保健衛生大学訪問看護ステーション」 「ふじたまちかど保健室」を実習場として 北村 眞弓 116 滋賀医科大学医学部看護学科 新卒訪問看護師育成のための教育プログラムを開発 ──訪問看護師コース(選択制)を設置 輿水 めぐみ 122 公益財団法人日本訪問看護財団立 在宅ケアセンターひなたぼっこ 数少ない“療養通所介護”での実習で学生は訪問看護との連携を学ぶ 安藤 眞知子 127 看護小規模多機能型居宅介護 まいほーむ北千住 訪問看護にはない“線”や“面”の視点を“看護小規模多機能型居宅介護”で学ぶ 第 5 章 小菅 紀子 131 深い学びを得る“在宅看護”実習が 訪問看護師を増やす [メッセージ] Column ① Column ② 川村 佐和子 138 「在宅看護教育研究会」の取り組みと在宅看護・訪問看護の“学び” 新卒訪問看護師の就業と育成に取り組む「きらきら訪問ナースの会研究会」 2015 年11 月臨時増刊号 Vol.17 No.13 219 号 http://www.jnapc.co.jp ※本誌では薬品名などの ® 記号は省略しています。 本田 彰子 106 山田 雅子 134 [第 1 章] 《 座談会 》 よりよい“在宅看護”実習にするために ──訪問看護の現場から 【座談会出席者】 荒木 竹森 平野 野口 和美 ・ Araki Kazumi ・ あすか山訪問看護ステーション 副所長/教育担当 志穂 ・ Takemori Shiho ・ 聖路加国際大学大学院博士後期課程(訪問看護ステーションしろかね 元管理者)[地域看護専門看護師] 智子 ・ Hirano Satoko ・ 訪問看護ステーションコスモス[訪問看護認定看護師] 忍 ・ Noguchi Shinobu ・ 北摂総合病院訪問看護ステーション 前管理者[在宅看護専門看護師] 〈司会〉 清水 準一 ・ Shimizu Junichi ・ 首都大学東京大学院人間健康科学研究科看護科学域 准教授 〈オブザーバー〉 佐野 けさ美 ・ Sano Kesami ・ 公益社団法人日本看護協会 川村 佐和子 ・ Kawamura Sawako ・ 聖隷クリストファー大学大学院 教授 訪問看護ステーション管理者・実習担当者・経 学生のすべてが成長できる“在宅看護”実習の実 験者にお集まりいただき、訪問看護師・教員・学 現に向けて、訪問看護の現場から率直なご意見を 生すべてが成長できる、よりよい”在宅看護”実 お聞かせいただき、最後にオブザーバーのお 2 人 習のあり方についてご意見をいただきました。 に、座談会の感想をうかがいたいと思います。 また、座談会参加者がさまざまな訪問看護の現 まずお 1 人ずつ、自ステーションでの“在宅看 場で聞いたことのある、ちょっと辛口の“つぶや 護”実習がどのように行われているかをお聞かせ き”を編集部が構成してコラムで展開しました。 ください。その際、ご自身や施設についてもご紹 介ください。 大学によってさまざまな “在宅看護”実習の進め方 清水 司会を務める清水です。本日は、よりよい “在宅看護”実習を考えるために、実習を受け入 014 その前に自己紹介をいたします。私は現在、首 都大学東京で看護学科の准教授を務めています。 在宅看護論の講義・実習を担当していますので、 大学の教員として学生を“在宅看護”実習に送り 出す立場です。 れる立場から 4 人の訪問看護師の方々、そして訪 私自身は大学在学中から在宅ケアの現場に入り、 問看護師としてのご経験を持つオブザーバー 2 人 大学院進学後は訪問看護師として主に人工呼吸器 にお集まりいただきました。 を装着した ALS 患者への訪問をしていました。 地域包括ケアの時代における看護師の育成に当 大学院を修了した後に看護学科の講師となり、今 たり、基礎教育の中で「在宅看護論」の科目がで に至ります。 きましたが、その教育が十分に行われていないと それでは、竹森さんからお願いいたします。 の意見があります。そこで、訪問看護師・教員・ 竹森 病棟勤務を経験した後、訪問看護ステー Community Care 2015-11 臨時増刊号 ション勤務となりました。その後、大学院で地域 看護 CNS コースを修了し、認定看護師コースの 教員や病院の地域医療連携室を経てステーション の管理者を務めました。 で、現在は非常勤で在宅ケアに関連した業務を行 荒木 和美 国立病院医療センター附 属看護学校卒業後、国立 病院医療センターを経て、 2000 年介護支援専門員資 第 2014 年に大学院の博士後期課程に入学したの ● 格取得後、東京都内での 在宅介護支援センターで 相談員兼介護支援専門員 ステーションに勤めていたときは複数の大学や 同生活介護、居宅介護支援の複合施設の立ち上げ支援などを 1 経験し、06 年 12 月よりあすか山訪問看護ステーション勤務。 《 座 談 会 》 よ り よ い“ 在 宅 看 護 ”実 習 に す る た め に 専門学校から学生を受け入れており、実習期間は として勤務。04 年から訪問介護、通所介護、認知症対応型共 章 いながら研究に取り組んでいます。 13 年 5 月より副所長、14 年 1 月より赤羽サテライトへ異動。 1 週間あるいは 2 週間でした。ただ、1 週間とい スを見られるようにアレンジしていました。 カンファレンスがあるときには訪問は入れません。 一方、1 週間に 3、4 日ずつで 2 週間ある実習 ステーションの特徴として小児の利用者が多いの の場合は、看護過程が展開できるように、1 人の で、大学側からの希望で小児の訪問に同行しても 利用者の担当を持った上で、他の利用者にも訪問 らうこともあります。 できるようにしていました。 野口 2015 年 1 月までステーションの管理者を 荒木 ステーションで教育担当をしています。私 しておりました。私は看護学校卒業後に臨床を経 は看護学校を卒業し、臨床を経験した後に在宅介 験し、1998 年から訪問看護を始めました。2000 護支援センターで相談員兼介護支援専門員として 年に北摂総合病院訪問看護ステーションに入職し、 勤務しました。その後、複合施設の立ち上げ支援 2005 年に管理者になりました。一時、在宅看護 などを経験し、2006 年にあすか山訪問看護ステー 専門看護師をとるため大学院に進学していたとき ションに入職しました。2013 年に副所長となり、 は休職しましたが、修了後に復職。現在は病院の 現在は赤羽サテライト勤務です。 退院調整担当看護師長を務めています。 当ステーションは、サテライトを含め常勤換算 当院は地域医療支援病院、大阪府がん診療拠点 で看護師 18 人、利用者は 1 カ月約 250 人という 病院に認定された急性期病院です。法人内の介護 大型ステーションです。東京都から「東京都訪問 事業所としてケアプランセンター、訪問看護ス 看護教育ステーション事業」も委託されており、 テーションを置いています。これらと院内の多職 多くの看護師が訪問看護の体験・研修に訪れます。 種が連携し、地域の開業医・訪問看護師などの多 “在宅看護”実習では、7 大学から学生を受け 職種とも協働して地域包括ケアを提供しています。 入れており、実習期間はやはり、3、4 日から 2 ステーションでは大学と専門学校から学生を受 週間です。流れとしては、まず実習オリエンテー け入れています。そのため、実習時期がバッティ ションを行い、そこで「生活について考えてもら ングすることもあるのですが、学部生も専門学校 う」という宿題を出し、最終カンファレンス時に 生もそれぞれのよさがあるので、同じ利用者を受 発表してもらうことにしています。正解はありま け持ってもらって合同カンファレンスをするなど、 せんが、実習中に生活観を確立してもらえれば、 お互いに交流できる機会持っていました。 今後の看護に役立つと思います。 ケアプランセンターを併設しているので、ケア Vol. 17 No. 13 訪問看護の現場から 実習中の同行は基本的に午前午後 1 件ずつで、 ─ っても実質は 3、4 日ですので、さまざまなケー 015 【編集後記】 昨年 11 月に開催された「第 4 回日本在宅看護学会学術集会」の場で、理事長の川村 佐和子先生から「在宅看護の実習は、教員も悩んでいるし、受け入れ側の訪問看護師も大 変な状況。短い実習期間でも学生に深い“学び”を体験してほしいので、スタンダードと なる“在宅看護”実習について考えたいのです」と、本臨時増刊号の“企画の芽”をいた だきました。その後、同学会にご協力いただき、訪問看護師による“座談会”、全国の教 育機関・訪問看護ステーションからの実習報告などをまとめ、本号ができあがりました。 今回はまだ「 “在宅看護”実習のスタンダード」を明確に提示できたわけではありませ んが、大学や訪問看護ステーションの各執筆者からの報告からは“よりよい実習”にする ためのヒントがいっぱい詰まっているように思います。不足している訪問看護師を増やす ために、まず学校教育の段階で「看護の本質を体験できる“在宅看護”」の素晴らしさを 学生が知ることには大きな意義があるはず。本号を活用して、それぞれの教育機関、そし て訪問看護ステーションで、教員・学生・訪問看護師すべてが満足し、成長できる実習を 展開していただけることを願っています。 (編集担当:望月正敏) 清水準一/柏木聖代/川村佐和子 編 日本在宅看護学会 協力 2015 年 11月臨時増刊号 Vol.17 No.13 219 号 発 行 日 発 行 所 2015 年 11 月 15 日 (株)日本看護協会出版会 東京都渋谷区神宮前 5-8-2 日本看護協会ビル 4 階 Tel. 0436 - 23 - 3271(コールセンター:ご注文) 振替 00190 - 8 - 168557 東京都文京区関口 2 - 3 - 1 Tel. 03 - 5319 - 7939(編集直通) 発 行 人 井部俊子 編 集 望月正敏 表紙デザイン 新井田清輝 表紙イラスト 鈴木真実 本文イラスト 二本柳舞 印 刷 三報社印刷株式会社 定 価 本体 1,600 円 + 税
© Copyright 2024 ExpyDoc