はしがき 法律の勉強はベールに包まれている、ように思う。 どんなノートを書いて勉強をしていたかを克明に教えてくれた人をわたし は知らないし、そのような本もみたことがない。勉強法については合格体験 記や書籍があるが、ノートの書き方となると、みなさん非公開(秘密)…な のである。 じっさいわたしもこれまで合格体験記や書籍を書いてきたが、受験時代に つくっていた膨大なノートの数々をすべてみせたことは、1度もない。なぜ みせなかったかといえば、ひとことでいえば恥ずかしかったからだ(幸い10 年以上前に作成したノートが、実家のダンボールにしまわれていた。本書を つくる際に久しぶりに開封をして見直したが、ぜんぶをみせる気にはやはり なれない) 。 法律の学習においては、勉強すべき情報量が膨大である。条文がある。難 関といわれる民法では、じつに1044条もの条文があるし、会社法も979条もの 条文がある。 これだけでも雲をつかむように感じるかもしれないが、さらにそれぞれの 科目には体系書があり、学説などが整理されている。学説はひとつの論点に ついてかなりの量がある。 これにとどまらず、裁判所が示した判例がある。最新判例まで追い始める と、日々新しい判例がでているため、無限大に近い情報量がある。さらに、 試験問題などの対策を始めると、おびただしい量の過去問が存在しているこ とに気づく。 はしがき ノート術_はし き、サイトマッ .indd 9 ix 12.2.22 5:00:17 PM 授業を聴いているだけでは、言葉が外国語のようでさっぱりわからない。 勉強する意欲があっても、どこからなにをやっていけばよいのかわからない。 体系書を読めば眠くなり、永遠に読み終える日はこないような、徒労感を 覚える。少しは勉強が進んだかと思い、問題を解いてみるとまったく太刀打 ちができない。論文式などになると、今度はなにをどのように書けばよいの か、アウトプットの勉強も必要であることを知る。自分は文章力がないので はないかと自信をなくすか、自分は法律に向いてないのではないか、あたま がわるいのではないかと茫然自失となる…かのどれかが、オチだ。 とくに法学部に入学した大学生や、ロースクールに入学した未修者、資格 試験の勉強を始めようと決意した学生や社会人の人たちは、こうした壁にぶ ちあたることと思う。 じっさいにわたしもそのような壁を何度も味わい、何度も法律の勉強など やめてしまおうと思ったことがあった。それでも、いまは弁護士になり、法 律実務にたずさわっている。ロースクール生に教える機会もいただいている。 こうして本を書くこともある。 どのように授業を聴けばよいかといった基本的なことに始まり、どのよう なノートをつくればよいか、勉強グッズとしてどのようなものをつくればよ いのか、情報の一元化を図るにはどうしたらよいか、試験問題で得点をとる ためにはどういう分析をしたらよいのかなど、さまざまな悩みをひとつひと つ克服してきた。こうした経験があるので、いま法律の勉強をしているもの の、伸び悩んでいる人の苦しみはよくわかる。 x ノート術_はし き、サイトマッ .indd 10 12.2.22 5:00:18 PM あなたが法律に向いているかどうかは、わからない。しかし少なくとも自 発的に興味をもって勉強をしているということは、その時点で向いている可 能性が高いと思う。なぜならふつうの人は、そもそも法律の勉強をしようと すら思わないからだ。 やり方さえマスターしてしまえば、法律の勉強はとても面白い、というこ とを、本書を通じてあなたに伝えたい。 本書では、これまで1冊の本のテーマとしてあつかわれることがなかった 「法律を勉強する人のためのノートのつくり方」に焦点をあてた。いろいろな ノートやカードがでてくるが、ぜんぶつくれということではない。気になっ たものがあったら試してみてほしい、という程度のものである。あくまで参 考にしていただければという「ノートづくり」の紹介本みたいなものである。 ちなみにわたしは、司法試験の受験時代にここで紹介したノートのほとん どを、自分でつくっていた。自分の思考過程を刻んだノートのほうが、復習 も効率的にできた。つくるのに時間はかかったが、つくったあとは非常に便 利な勉強グッズになった。自分のあたまで考え抜き、それを書き記したノー トがあると、あとで見返したときに、思考過程や知識について、すぐに記憶 喚起ができるからである。 ロースクール制度ができてからの司法試験では、合格率もだいぶ高くなっ た。そこまでやらなくても受かるかもしれない。授業も忙しいから、本書で 紹介するようなノートを、すべてつくる時間はないかもしれない。しかし合 格体験記などを読んでいると、合格者は自分にあったノートをなにかしらつ はしがき ノート術_はし き、サイトマッ .indd 11 xi 12.2.22 5:00:18 PM くっていることが多い。情報の一元化や、弱点を集約したノートができると、 効率よく勉強ができるようになるからであろう。 本書を読んで、法律の勉強が好きになる人が増えてくれれば、著者として これほど嬉しいことはない。さらには司法試験などの資格試験を突破される 人がどんどんでてくれれば、類書がないなかであえて本書を作成したかいが あったと思う。 最後に、本書の作成にあたりさまざまなアドバイスと多大な協力をしてく ださった弘文堂の北川陽子さん、ノート術の本を読むとしたらどんなことが 知りたいかなどを教えてくださったロースクール生や新司法試験の合格者の 方々に深く御礼申し上げる。 2012年2月 弁護士 木 山泰嗣 xii ノート術_はし き、サイトマッ .indd 12 12.2.22 5:00:18 PM
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