相続・資産税の世界 - 堀光博税理士事務所

相続・資産税の世界
No62(2015 .7)
相続対策の専門家
堀光博税理士事務所
死因贈与と遺贈
~死因贈与と遺贈の違いと、活用方法及び留意点~
はじめに
今や、
「相続から贈与の時代」とも言われ、国としても個人の金融資産が 1,700 兆
円以上もあり、その内の四分の三は高齢者が所有していると言われています。国としては
高齢者に滞留している金融資産を現役世代に移転させ、経済の活性化に繋げたいとしてい
ます。平成 27 年度の税制改正でも新しく「結婚・子育て資金の一括贈与非課税制度」を
制定・施行しました。また、昨年度で期限が切れた「住宅取得等資金贈与非課税措置」も
拡充されました。まさに贈与花盛りです。その他にも相続税の課税強化に反して贈与税の
緩和措置がいろいろと整備されています。
このコラムでも第 38 回から 42 回にかけて贈与をテーマにしました。今回のテーマは
生前の贈与ではなく贈与者の死後の贈与について取り上げてみました。生前の贈与に関し
ては過去のこのコラムをご参照ください。
Ⅰ
死因贈与、遺贈とは
一般の方には、「死因贈与」とか「遺贈」という言葉は少し聞きなれないところがおあ
りと思いますので初めに説明をしておきます。
1
死因贈与の意味
死因贈与とは、贈与者が生前に受贈者との間で、「贈与者が死亡した時点において契約
で指定した財産を贈与する。」ことを約束した契約です。したがって、契約者双方の意思
が合致した諾成契約で、贈与者が贈与の義務履行という片務契約といわれています。
すなわち、贈与者の死亡によって効力を発揮する契約で、始期付贈与とも言われています。
贈与契約は、口頭でも書類によっても可能です。ただし、口頭契約では効力を発揮する時
点では贈与者が死亡していますので、その契約の存在の立証が難しいことになります。ま
た口頭による贈与はいつでも撤回ができますので(負担付贈与で負担を実行している場合
を除きます。)、したがって書類による契約によるべきであり、確定日付のあるものが良く、
また一番安全なのは公正証書によるものがよろしいでしょう。なお、法的効果が類似して
いるところから、死因贈与にはその性質に反しない限り遺贈に関する規定が準用されてい
ます。(民法 554 条) 性質によっては準用されないケースもあり注意が必要です。
死んだら
やるね
1
2.遺贈の意味
遺言(書)によって他者に相続財産(遺産)を無償で与える(贈与する)行為のことをい
います。すなわち遺言によってする贈与と言えます。他者ですから、贈与と同様に相続人
だけでなく他人にも遺贈できます(共に、受遺者と言います。)。遺贈者が亡くなった時
点で贈与の効力が生じます。
遺贈は、遺言によりますので所定の厳しい様式を備えておかなければなりません。受遺者
は、遺言者が生前に遺言内容を開示しなければ、遺贈の事実を知ることはできません。そ
ういう意味では一方的意思表示になり、贈与契約での双方の意思の合致(諾成契約)とは
異なります。このように遺贈者の一方的な意思表示ですので、遺贈を受けるかどうかは受
遺者の意思によります。
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遺贈と相続の違い
相続人に遺産を取得させることは相続ですが、遺言では特定の遺産を特定の者に単独で
取得させるときは、「遺贈する。」と表現します。ところで、過去における不動産登録税
の税率の関係で、相続人に対する不動産の遺贈には「相続させる。」と表現されています
と、相続登記実務上は、その相続人が遺言執行者を経ないで単独で相続登記ができるとさ
れています。法律家の間では、「相続させる」旨の遺言と言われています。特定の遺産を
遺贈する時は、通常は「特定遺贈」と言います。
以上が、死因贈与と遺贈との意味の概要です。
Ⅱ
死因贈与と遺贈の問題点
Ⅰと重複するかもしれませんが、ここで双方の違いや、それぞれの特有の問題点をまと
めました。
1
死因贈与の問題点
死因贈与は、契約ですので登録税や不動産取得税が、たとえ取得した者が相続人であっ
ても、死因贈与契約に基づく登記ですので、登記原因が『贈与』となります。
これによって、たとえ相続人であっても贈与により取得したことになり不動産取得税が課
税されます。通常不動産取得税は登記が終わってすぐには納税通知が来ませんので、忘れ
た時期に突然多額の不動産取得税の通知が来て、「死因贈与契約の落とし穴」に気付くと
いうことになります。
このように多額の贈与があるケースでは、あとで不動産取得税が思わぬ負担となります。
多額の不動産の贈与の事例としては。次のようなケースがあります。
(1) 贈与税の配偶者控除
この制度は、婚姻期間通算 20 年以上の配偶者に対して居住用の不動産を贈与した場
合には、2,000 万円までは贈与税の控除額がある制度です。通常の贈与税の控除額 110
2
万円と併せて 2,110 万円までの居住用不動産を配偶者から贈与で取得しても贈与税が
課税されないという制度です。詳細は本コラムの第 42 号(2013・9)をご参照ください。
登録免許税は司法書士の報酬と一緒に支払いますので、手続き上の必要な支出と思って
いますのであまり問題にはされてはいないようです。贈与を受けた配偶者は、総て非課
税と思い込みがちですが、数か月後に 40~60 万円程度の不動産取得税の納税通知が
来て驚かされるはずです。この制度を勧める税理士は、よくよく不動産取得税の負担を
考慮しながら、そのことを説明しておく必要があります。なお、本特例では、居住用不
動産の取得のための資金の贈与であっても適用がありり、当然に不動産取得税は課税さ
れます。
(2) 相続時精算課税制度
この贈与税の制度も、累積して 2,500 万円までは非課税との勘違いがあります。
次のような事例がありました。
ある税務相談会で、子供が自分の子二人を親の孫養子にして、この制度を利用して 3
人合計で 1 億 5,000 万円の贈与を受け、贈与税合計 1,500 万円を申告・納税しまし
た(どうも、親の資金で納税した様子も感じられました。)。これで相続に関する問題は
総て終わったと感じていたようです。
相続税の試算を依頼されて試算したところ、納税した精算課税制度の贈与税を控除し
ても多額の相続税が出ました。1 億 5,00 もの贈与税を納税したのに、なぜ課税された
贈与財産に再度相続税が課税されるのかと食って掛かられました。どうも申告をした税
理士は、これで税金関係は終ったと説明していたか、あるいは相談者が勝手に勘違いし
ていたといったような感じでした。税理士が、この制度の正しい仕組みやメリット及び
デメリットを全く説明しなかったからでしょう。この制度の詳細は、本コラムの第 41
号(2013・8)をご参照ください。
(3)遺留分の問題
死因贈与も相続人に対する生前贈与は、期限の制限がなくすべて被相続人からの特別
受益額になります。死因贈与も遺贈と同様に特別受益額に含まれますので、他の遺留分
権者から遺留分の減殺請求もあり得ます。死因贈与も遺贈と同様に被相続人の財産債務
の棚卸をし、評価をして遺留分を侵していないかどうかの確認をすべきでしょう。
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遺贈に特有の問題
(1)遺贈と相続放棄
相続人が遺言で特定の遺産を遺贈で取得しますと、それは相続で取得したことにはな
りません。したがって相続放棄手続きをしたのちに、遺贈資産を取得する手続きをする
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こともできます(遺贈財産の取得手続きの後に相続放棄をすると、相続の単純承認となり
かねません。)。しかしながら、相続債権者との間には詐害行為などの問題が発生します。
相続人ではない者に対して特定の遺産を取得させる場合には、「遺贈する。」と表現し
ます。遺贈は、「○○不動産を遺贈する。」「△△社の株式を遺贈する。」というよう
に、特定の遺産を指定します。これを特定遺贈と言います。
相続人でない者に「遺産のすべてを遺贈する。」とか「遺産の二分の一を遺贈する。」
とあれば包括遺贈となり、遺贈割合の一部の放棄はできないなど別の民法上の問題もあ
ります。そして、「包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。」と規定されて
いますので、被相続人の債務を承継することもあります。
(2)
遺言内容が相続時の実情に合わなくなっていた場合
遺言作成当時は、問題がなかったとしても、その後の遺言のメンテナンスがなされて
いないと、時間の経過とともに遺言者の気持ちの変化や、相続人の環境の変化、あるい
は財産・債務が変動して遺言の内容が相続時の実情にそぐわなくなって、遺言の存在が
かえって相続争いの基にもなりかねません。そのような場合には、相続人等の全員が同
意をすれば、遺言者の一方的意思表示である遺言内容によらずに、新たに共同相続人の
全員の話し合いによる遺産分割協議をして実情に合った遺産分けをすることができま
す。(注)
ただし、相続人以外の者への遺贈を否定することはできませんし、遺産分割協議に相
続人以外の者を参加させると遺産分割協議そのものが無効となります。したがって、そ
のような場合には、遺産分割協議において、「相続人以外の者に対する遺贈は、共同相
続人全員がこれを承認する。」と言った文言を入れることにします。
(注)遺言と異なる遺産分割をする場合に問題となる点
① 遺言者が、遺言と異なる遺産分割を禁じた場合
② 遺言執行者がいる場合は、遺言執行者と矛盾していないこと、あるいは、
遺言執行者の同意が必要
③
すでに遺言に従って所有権移転を済ませていた場合、特に不動産登記を済
ませていた場合は、課税上は再分割として贈与課税問題が起きますので、慎
重に対応してください。
Ⅲ
死因贈与特有の問題と活用の仕方
遺贈は受ける側の意思とは無関係に、遺言という贈与者の一方的な意思によって行わ
れますが、死因贈与はあくまでも契約の一種ですので、受ける側が承諾している必要が
あります。死因贈与にするメリットは、不動産の場合に所有権移転の仮登記ができるこ
とと、相続人以外の者に財産を与えることもできるといえます。
遺言に遺言執行者が指定されていない場合は、遺言執行者の指定を家庭裁判所に求め
なければなりません。しかし、相続人全員の同意で行うこともできます。同様に死因贈
与の場合は、執行者の指定がない場合は相続人全員の同意が必要になります。このよう
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な場では、死因贈与や遺贈に快く思わない相続人がいますと、遺産取得手続きの場面で
揉めることがありますので、遺言執行者や死因贈与の執行者は必ず指定しておく必要が
あります。執行者の指定がないのは、自筆遺言や公正証書によらない死因贈与契約に多
いような気がします。
以下、いくつかの活用の仕方やデメリットなどを挙げてみました
1
死因贈与によるか遺贈によるかの選択基準
死因贈与によるか遺贈によるかの選択は。それぞれ次のようです。
① 遺贈は、遺言者が死ぬまでは誰に財産を相続させるかどうかを知られたくない時や、
相続人以外の者にも財産を譲りたい場合
② 死因贈与は、贈与者が負担付贈与ほどでなくても何かを期待したいとき、相続人以外
の者に財産をやりたいとき、
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死因贈与契約の活用事例
(1)
親から相続した不動産に相続人の兄弟が使用貸借で居住しているとき。
生前贈与をすれば多額の贈与税の負担がありますので、死因贈与契約であれば相続
税の世界になります。相続税の方がたとえ相続税の二割の加算があっても、多くの場
合、税負担は軽減されることになります。また死因贈与契約の仮登記が承認されてい
れば、確実に取得できるという安心感があります。仮登記をしておきますと、その後
に他の原因による所有権移転の申請があったとしても、優先順位が保証されています
ので、訴訟で争えば勝てる可能性が高くなってきます。ただし、贈与者が心変わりし
て、遺言などで他の者に遺贈していた場合には、遺言で取得した者は仮登記の抹消手
続きを主張しますが、訴訟ということになれば、仮登記抹消の勝訴を得るまでは取得
した不動産は事実上処分できない状態になります。そういう意味では仮登記は強い抑
止力になりますので、仮登記まで済ませた死因贈与契約を遺言で撤回するということ
はまずはありえないと思われます。
(2)
「家」の財産として代々承継してもらいたい財産
「家」の承継者に代々承継してもらいたい財産、通常は日本人の特性からその家の発
祥の地である不動産などがあります。遺言作成前にとりあえず家の承継者と死因贈与
契約をして、仮登記を済ませておこうということもあります
(3)撤回できない負担死因贈与
受贈者に贈与者との同居・扶養・介護看護等をすることを条件とした負担付贈与契
約をします。その後においてその負担を一部または全部を履行していた場合は、贈与
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者は贈与契約を撤回することはできません。たとえば、わが娘に養子を迎える際など
には効果的でしょう。
(4)公正証書遺言の一部を変更したいとき
自筆遺言書の書き換えは簡易ですが、公正証書遺言となるとそれなりの準備、費用
および時間を要します。そこで、直前の公正証書遺言の内容を一部変更したいときや、
一部追加したいときに、死因贈与契約を締結するということにも活用できます。但し、
遺言内容を相続人にもある程度開示されており、且つ内容を一部変更することにあま
り問題がないときには有効な手段です。
2
不動産取得税を軽減するには
死因贈与はあくまでも贈与ですので、不動産登記をする際の登記原因が、「贈与」
となります。たとえ受贈者が相続人であっても変わりはありません。
不動産取得税
死因贈与・・・1,000 分の 30
(3%)
相続人への死因贈与も課税されます。
相続人への遺贈・相続・・・課税されない
なお、不動産取得税は取得原因や、新築が既存建物か、居住用か非居住用かなど取
得条件によって軽減措置があります。税率の原則は 3%です。
ところで、登録免許税は登記をするときに司法書士への報酬とともに支払われ、そし
て登録者は当然に必要なものと感じています。しかしながら、不動産取得税は、取得
者がたとえ相続人といえども、登記原因が『贈与』とされますので、3%というかなり
高い税額の通知書が、都道府県税事務所から登記をした数か月後に来ます。評価額が
1億,円ですと、300万円という思わぬ不動産取得税の負担になります。
そこで、相続人に対する死因贈与は、仮登記をした後に、A4 判 1 枚に自筆の遺言
書で「相続させる」旨の遺言書を書いていただくと不動産取得税がかかりません。
相続の際の登記は、自筆遺言による相続を原因とする登記を先にして、次に仮登記の
抹消をします。(登記手続の手順の詳細は、司法書士にお尋ねください。)
過去の経験からみまして、高齢の方が自筆で遺言を書いていただくということは大変
です。A4 判 1 枚に大きな文字で見本を参考にされても、8 回も書き直されたという
ことでした。
次ページに本稿をまとめた比較表を掲げていますので、ご参照ください。
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