パークベンチ位

特集
他施設ではどうしてる? 気になる体位固定の工夫と実践
パークベンチ位
渦原晋子
手術看護認定看護師
独立行政法人 労働者健康福祉機構
関西ろうさい病院 手術室
病床数:642床 手術室数:13室(BCR2室,内視鏡室2室含む)
診療科:36科
年間手術件数:8,284件(2014年度)
1991年看護師免許取得。西宮市立中央
病院での経験を経て,2008年に独立行
政法人労働者健康福祉機構関西ろうさ
い病院に就職し,2012年に手術看護認定看護師資格取得。
パークベンチ位は脳神経外科手術特有の体
た症例を経験した。
位で,受圧面積が狭く,局所に圧迫が加わり
真田1)は「DTIは筋肉や皮下組織など深部
やすいことで褥瘡など手術体位による合併症
の血管の閉塞による褥瘡で,その予防策は,
が多く報告されている(写真1)。
ずれを防ぎ,体圧を分散させることが必要」
今回,深部組織損傷(deep tissue Injury:
と述べている。そこでまず圧力を可能な限り
以後,DTI)が疑われる事例を経験し,その
下げることが必要と考え,手術室看護師と脳
要因と改善策を検討した。本稿では,改善に
神経外科医師とが協力して,より体圧が低く
向けて取り組んだ内容を交えながら,当院で
なる体圧分散器具の選定や安楽な体位につい
の体位固定について紹介する。
て検討した。
パークベンチ位の特徴
従来,頭蓋内圧をコントロールし,術野展
パークベンチ位は,側臥位と比較し,体幹
ていた。また,深部静脈血栓予防と身体のず
を前傾,頭部を回旋させることで手術操作に
れを防止するため,下肢を約15°
挙上していた。
肩が影響せず(図1),下側の上肢を下垂す
そこで,実際に看護師が体位シミュレーショ
ることで,長時間手術での腋窩神経損傷を予
ンを行い体圧を測定してみたところ,短時間
防することができるという特徴がある。公園
で大転子部や側胸部に痛みを感じる非生理的
のベンチで休んでいる様子に似ていることか
な体位を患者に強いていることが判明した。
ら,この名称で呼ばれている(写真1)
。
また,大転子部や側胸部の体圧は60∼70㎜
元来,松果体腫瘍摘出術で用いられる体位
Hgと異常に高かった。下肢をポジショニン
であったが,現在は皮膚切開線が耳後部の側
グする場合,角度だけでなく,体格によって
方後頭下や後頭蓋窩開頭で行われる脳外科手
受圧個所が変化するため,患者ごとに体圧を
術で広く用いられている。
測定する必要があることが分かった。
当院独自のパークベンチ位
確立までの経緯
頭部の30°挙上に加え,体位固定時に大転
10時間以上のパークベンチ位での聴神経
とした。その結果,体位固定に掛かる時間が
腫瘍摘出術において,術後臀筋にDTIを来し
短縮し,微調整を繰り返して起こるずれ(応
当院の概要 (2014年実績)
1日平均入院患者数:534.5人 1日平均外来患者数:1,280.5人
平均在院日数:12.6日
地域医療支援病院,地域がん診療連携拠点病院
入院基本料:7対1
■手術室
スタッフ数:看護師47人,看護補助者3人
勤務体制:2交代制勤務(平日準深夜勤者3人,土日祝勤務者1人,
および待機1人)
開を容易にするため,頭部を30°以上拳上し
子部と側胸部の体圧を測定することを標準化
し,32㎜Hg以下になるように調整すること
力)の低下につながった。
褥瘡発生件数の比較
体位固定方法改善前後における褥瘡発生件
数の比較を図2に示す。
手術看護エキスパート ̶̶ Vol.9 no.4
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写真1 パークベンチ位
図1
頭側から見た体幹と頭部の位置関係
図2
改善前後における
褥瘡発生件数の比較
パークベンチ位における体圧分散図
体位固定のポイント
術前のアセスメント(DTI予防)に
必要な情報
①疾患名・術式・予定手術時間
5
褥瘡件数
■
(件)
6
5
4
3
3
3
2
聴神経腫瘍手術では顔面神経刺激装置
1
(NIMモニター)を使用するため,筋弛緩薬
0
1
改善前(2012)
1
0
改善後(2014)
■Ⅰ ■Ⅱ ■DTI疑い
投与制限の有無を確認する。疾患や術式から
体位固定方法,体圧分散方法を検討する。
②年齢・性別・身長・体重
の深部体温が37.0℃以上になった場合,四
DTIは,筋膜が発達している青年から壮年期
肢の固定状況と同時に,皮膚の湿潤状態を確
の男性に多い。筋膜が発達していると,圧迫に
認する。タイミングを見計らい,術者に患者
よる筋挫滅部位からの血液,もしくは滲出液
身体に触れることの了承を得てから,体位を
が漏出せず,浮腫を来しやすいため注意する。
確認する。
■
体位固定・体圧分散の手順と工夫
当院の体位固定手順の根拠とポイントを資
頭部30°以上を挙上することで,空気塞栓
料1に示す。また,当院で使用している体位
の危険性が増す。陰圧になった頭蓋内の静脈
固定具・除圧に関する物品を写真2(P.15)
(洞)が損傷されると,空気が静脈内に吸い
に示す。
■
術中の留意点
皮膚障害を防ぐために術中に観察すべき事
込まれ,肺塞栓の要因となるため,体位固定
時には注意する。
⑦脳神経外科医師と麻酔科医師が連携を図
項は次のとおりである。
り,筋弛緩薬中断時間が最小限になるよう
①四肢の固定状況(1時間ごと,もしくはロー
に努める。
テーション時)
②舌の突出の有無,気管チューブによる圧迫
の有無,また舌を噛んでいないか
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⑥SpO2の低下,血圧低下,頻脈の有無
■
術後のケア・観察点
DTIの早期発見に必要な,観察点を次に示す。
(1)皮膚の状態,疼痛の有無の観察
③点滴の滴下状況,ルート屈曲・牽引の有無
下側側胸部から大転子部,下肢の外側,固
④ベッドシーツの皺
定具使用部位の発赤,水疱,もしくは疼痛・
⑤皮膚湿潤の有無と体温
腫脹・皮下出血斑などを認めた時は,DTIを
顕微鏡操作時に体位を確認する時は,手術
疑う。
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資料1
体位固定方法
手順
根拠とポイント
入室前
①ベッド上に滑り止めマットを
敷く。
滑り止めマットは,体
位変換やローテーショ
ンによるテンピュールⓇ
マットのずれ防止とし
て使用する。
②テンピュールⓇマットを設置
する。
ベッドには低反発マッ
トが標準装備されてい
るが, 褥 瘡 予 防のた
め, 体 圧 が32㎜Hgに
なるように半身用テン
ピュール Ⓡ マット( 特
注)を設置する。
麻酔導入時
③ピジョン薬用固形パウダーⓇ
を下側側胸部から下側下腿
まで塗布する。
塗布前
塗布後
(図は前腕をモデルにパウダー
の塗布範囲を示した)
パウダーを塗布するこ
とでベッドと皮膚表面
とのずれを軽減する。
筋弛緩により,舌が口
腔外へ突出し,歯牙で
損傷する可能性がある
ため。
④気管挿管後,麻酔科医師と共に上下の歯牙にガーゼをかませる。
⑤麻酔科医師の準備が整ったら,体位変換のために必要な人員(最低医師3人, 体位固定を安全・円滑
看護師3人)を確保する。
に行うため。
体位変換
⑥患者の腋窩がベッドの端に
くるまで,患者の身体を引
きずらないように,軽く持
ち上げて身体を頭側へ移動
させる。
➡続きは本誌をご覧ください
①挿入されているルー
ト類を誤って抜去し
ないように声出し確
認をする。
②ベッドシーツに皺が
できないように,1
人は足側からシーツ
を引っ張っておく。
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